【聞こえているのに聞こえない】聴覚情報処理障害(APD)とは
こんにちは!ディーキャリア川崎オフィス 職業指導員の吉村です。
先日、川崎オフィスの利用者さんから「耳鼻科で聴力検査をしてきました。」と、ご報告をいただきました。
その方は、訓練中にもスタッフの説明が聞き取れず「え?」と、聞き返すことが多く、そのことをとても気にされていました。
あまりにも耳の聞こえが悪いので、自分は難聴なのではないかと疑ったそうです。
しかし、色々な検査をしてみて、聴力には何も問題がないことが分かりました。
むしろ同年代の平均よりも上で「良く聞こえている」部類に入るとの検査結果が出たのです。
実はこれ、耳から情報を取得することが苦手という、発達に凸凹がある方にとっては、よくある症状のひとつなのです。
単純に音声を聞き取る「聴力」とはまた別に、聞こえた音声を適切に処理して理解する能力のことを「聴覚情報処理」と言うのですが、発達障害の代表的な特性として、聴力は正常で音声として認識することはできても、言っている内容が理解できないという現象が起こることがあります。
これは「聴覚情報処理障害」と呼ばれ、聞こえているのに聞き取れないという、日常生活にも支障をきたす、とてもやっかいな障害であります。
皆さんにもこんな経験はありませんか?
・上司からの指示が頭に入ってこない
・長い話になると注意して聞き続けるのが難しい
・大勢の人の中での会話が聞き取りにくい
もし、このような症状が見られる場合は、「聴覚情報処理障害」の可能性があります。
■ 聴覚情報処理障害(APD)とは
聴力検査では正常と診断されても、日常生活において聞き取りにくさを訴える症状のことを言います。
Auditory Processing Disordersのそれぞれの頭文字をとってAPDと呼称されます。
欧米を中心に研究が進んでいますが、まだ明確な診断基準や原因は確立されていません。
どれくらいの割合でAPDが発症しているのかと言うと、最近の研究では人口の1%にも上ることが分かっています。
人口の1%と言うと、100人に1人が何らかの聴覚症状を持っていることになります。
日本だけでも約120万人の方がAPDを抱えている計算となり、これって決して少ない数とは言えないですよね。
そして、APDの症状を訴えた患者の半数以上が、ASD・ADHD・ADDなどの発達障害があることが分かっています。
そのため、APDは発達障害と深い関係がある症状と考えられています。
その他にも、統合失調症や双極性障害などの精神疾患、睡眠障害との関係があると言われています。
■ APDに見られる聴覚症状について
・聞き返しが多い
・聞き誤りが多い
・雑音など聴取環境が悪い状況下での聞き取りが難しい
・口頭で言われたことは忘れてしまったり、理解しにくい
・早口や小さな声などは聞き取りにくい
・目に比べて耳から学ぶことが困難である
・長い話になると注意して聞き続けるのが難しい
(「聴覚情報処理障害(auditory processing disorders, APD)の評価と支援」より引用)
APDに見られる聴覚症状について引き合いに出される例として、「カクテルパーティー効果」があります。
「カクテルパーティー効果」とは、たくさんの人がそれぞれに雑談しているなかでも、自分が興味のある人の会話、自分の名前などは、自然と聞き取ることができる現象のことを言います。
定型発達の方なら、きっと身に覚えがあるはずです。
爆音が鳴り響くアクション映画を見ている最中でも、隣の席の友人が自分に耳打ちをした瞬間、周りの音が一瞬途切れることを。
あるいは、ごった返した初詣の境内ではぐれてしまった家族に、自分の名前を呼ばれた瞬間、その声だけに意識が向かう感覚を。
しかし、APDのある方は雑音を遮断する機能が働きにくく、上記のような場面で、選択的に音を聞き取ることが難しいのです。
全ての音が同時に同じボリュームで耳に流れ込んでくるため、どの音声が自分にとって重要なのか、聞き取ることは非常に困難と言えます。
そのため、困難さを軽減する工夫と、周囲の配慮が必要不可欠となります。
■ 対策について
・環境を調整する
仕事などをする際は、雑音の少ない個室を使用したり、個室が難しい場合は、できるだけ雑音を防ぐ工夫をします。デスクをパーティションで区切ったり、音が出る機器はできるだけ一か所にまとめて設置するなど、雑音を遠ざける仕組み作りをします。
・FMシステムで補聴する
FMシステムとは、補聴器や人口内耳の聞こえを補助する補聴援助システムの一種です。
たとえ雑音のある状況下でも、FMシステムを利用することによって、症状が緩和することが確認されています。
しかし、このFMシステムを使用することによって、本人の障害感を強くしてしまうという弊害もあります。
見た目的に補聴器を嫌う方は少なくないので、慎重に使用したいものです。
・耳トレ
音を聞きながら聴覚を鍛えるトレーニングです。
音の数を数えたり、ふたつの音を聞き分けたりしながら「耳の聞こえ」に直接アプローチをして能力を上げていく方法で、効果が高いと言われています。
しかし、成人例では改善が難しいことも考えられるため、幼少期からのアプローチを検討する必要があると思われます。
・視覚的手段
仕事での指示を口頭だけではなく、メールやチャットなどの文章でもらうと良いでしょう。
音声アプリを使用して、口頭での指示を文章で画面上に表示させるなど、視覚的に情報を伝達することは非常に有効です。
川崎オフィスのワークスキル訓練でも、トレロというwebサービスを使って、視覚的に理解しやすいタスクの管理を実施しています。
これらの対処法は、現時点では比較的効果があると言われている方法です。
しかし、APDの原因がハッキリしていないことから、具体的な支援の方法や、効果に関する検証も引き続き行っていく必要があります。
APDの研究はまだ始まったばかりで、背景や原因など、まだまだ解明されていないことばかりです。
当事者の方の声に耳を傾け、より良い対処方法を一緒に探していきたいと思います。
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