大人の発達障害の当事者の方、ご家族など当事者をサポートする方々の中には「これから、どうやって生計を立てて行けば良いのか」という心配を感じられている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
- ・障害を抱えながら働くことはできるのか。
- ・生活を補助してくれるような支援は受けられないのか。
そのような疑問について調べるうちに、たどり着くのが障害者手帳に関する情報です。
手帳を取得すれば、障害への配慮を受けながら働くこと・公的な支援を受けることがしやすくなるメリットがあります。
ただ、大人になって診断を受けた方のなかには、名前は何となく聞いたことがあったとしても、「どういうものかよく分からない」という方が多いのではないかと思います。
- ・どうすれば取得できるのか。
- ・病院や役所での手続きに、手間がかかるのではないか。
- ・取得したら、どんなメリットやデメリットがあるのか。
- ・そもそも自分は対象となるのか。発達障害(ASD、ADHD、SLD)で手帳は取得できるのか。
調べれば調べるほどに、不安も募ります。そんな方に向けて、今回のコラムでは「30代半ばまで発達障害のことを知らずに生活してきた筆者が、診断を受けたあと手帳について調べたことや、実際に手帳を取得した体験談」をご紹介します。
障害者手帳とは一体どういうものか。取得・更新の手続きの方法から、メリット/デメリット、よくあるご質問まで、情報をまとめました。発達障害の診断を受けた方の不安を解消するために、本コラムがお役に立てましたら幸いです。
目次
1. 障害者手帳の基本情報
1-1. そもそも障害者手帳とはなにか?
障害者手帳とは「カラダやココロの機能に、一定の障害があることを認定するためのもの」であり、障害者の自立と社会参加を支援するための、国による制度です。
障害者手帳を取得することで、障害者総合支援法に基づく障害福祉サービスや、各自治体や民間事業者が提供する支援サービスを受けることが出来ます。
障害者手帳には以下の三種類があり、制度のもととなる法律がそれぞれ異なるため、申請や更新の方法に違いがあります。インターネット等で障害者手帳について調べていて、情報が混乱してしまう原因はこの違いにあります。
発達障害者が取得することができるのは(3)精神障害者福祉保健手帳ですので、自分で情報を調べるときには注意しましょう。
(1)身体障害者手帳 |
|
---|---|
(2)療育手帳 |
|
(3)精神障害者保健福祉手帳 |
|
1-2. 発達障害者が取得できる、精神障害者福祉保健手帳とは?
精神障害者保健福祉手帳は、「一定程度の精神障害の状態にあること」を認定するものです。何らかの精神障害により、長期にわたり日常生活や社会生活へ制約を受けてしまっている方が対象です。例えば以下のような、精神障害のすべてが対象です。
- ・統合失調症
- ・うつ病、そううつ病などの気分障害
- ・てんかん
- ・薬物依存症
- ・高次脳機能障害
- ・発達障害(ASD、ADHD、SLD)
現在(2021年6月時点)の日本の法律では、発達障害は「精神障害」に分類されるため、精神障害者福祉保健手帳の対象となっています。
1-3. 精神障害者保健福祉手帳の申請方法は?
申請を受け付ける窓口は、お住まいの自治体の役所(市区役所・町村役場)にあります。「障害福祉課(障がい福祉課)」や「障害支援課(障がい支援課)」などの名前で窓口が設置されていますので、役所のホームページで調べてみましょう。
あるいは、役所の総合受付で「障害者手帳について相談したい」とたずねれば、担当窓口を案内してもらえます。 自治体によって手続きの内容に若干の違いがありますが、相談すれば丁寧に教えてもらえるので、まずは担当窓口を訪ねてみるのが良いでしょう。
申請には以下の書類が必要です。
精神科医、または、発達障害の専門医によって「発達障害である」と診断された証明書です。
この診断書は初診から6か月以上がたってからのものでなければなりません。理由は、精神障害は他の障害(身体・知的)とは異なり、時間の経過によって状態が変化する(※)ことがあるためです。
障害者手帳の交付が必要な「継続的な困難さがあるか」を判断するには、ある程度の期間、状態を観察することが必要と考えられているのです。
(※発達障害は生まれもっての先天的な障害のため、他の精神障害とは異なり「時間が経過しても、症状や困りごとに変化があるわけではない」として、区別するよう求める議論もなされています。)
なお、病院で診断書を発行してもらう際、おおむね5,000円前後の作成料がかかります。自治体によっては、作成料を助成してくれる場合があるので、ホームページや窓口で確認してみると良いでしょう。
すでに障害年金を受給している場合は、(1)の診断書の代わりに申請書類として使うことができます。
マイナンバーカードや免許証を作るときと同じように、証明写真が必要です。多くの場合は手帳に写真が掲載されます。
自治体によっては、宗教上や医療上で特別な事情がある場合に、頭を布で覆うことを認めている場合があります。
また、障害者手帳に写真を掲載しないことを選べる自治体もありますが、「手帳に写真を掲載しない場合、本人確認の観点から、受けられるサービスが限定される」などの制限が加わる場合があります。
窓口で申請してから、手帳が交付されるまでの期間は、平均で2か月〜3か月です。窓口となる自治体により、審査の内容や手順が異なるため、もっと短い場合もあれば長い場合もあります。
1-4. 取得した精神障害者保健福祉手帳は、更新手続きが必要か?
更新手続きは2年ごとに必要で、有効期限の3か月前より更新手続きが行えます。
更新の際にも医師の診断書が必要なため、診断書を書いてもらうための通院など、余裕をもったスケジュールを立てておきましょう。
なお、自治体によっては、更新に関する案内が特に送られてこず、自分で期限を管理しなければならない場合があります。
期限が切れてしまった場合、障害者手帳を元に受ける支援やサービス(例えば、障害者雇用枠での雇用や、税金の控除、公共交通機関の運賃の割引など)が受けられなくなってしまうため、忘れないように注意が必要です。
次ページ:障害者手帳について悩んだとき、相談できるところはある?