ここまでご紹介した、発達障害に関する基本情報をまとめてみましょう。
1-5. 発達障害に関する、障害者手帳の基本情報のまとめ
- ・障害者手帳は三種類あり、そのうち、発達障害の方が取得できる手帳は精神障害者保健福祉手帳。
- ・申請は自治体(市区役所・町村役場)の窓口で行う。
- ・申請に必要な書類は、(1)医師の診断書、または(2)障害年金の受給証明書類と、(3)写真。(1)医師の診断書は、初診から6か月以上がたってからのものでなければならない。
- ・申請から交付まで、平均で2〜3か月かかる。
- ・2年ごとに更新手続きが必要で、手続きしないと手帳が失効してしまう。
障害者手帳について相談したい場合、下記のような窓口があります。「手帳の申請は初めて」という方がほとんどだと思いますので、分からないことや不安なことがある場合は、まず相談してみることをおすすめします。
(1)自治体の障害者手帳の申請窓口
「まだ病院を受診しておらず、どこにも相談したことがない」という場合には、お住まいの自治体の役所(市区役所、町村役場)にある「障害福祉課(障がい福祉課)」や「障害支援課(障がい支援課)」に相談してみることをおすすめします。
これらの窓口は、手帳の申請を受け付ける以外にも、障害に関する地域の総合的な相談窓口を担っています。
手帳の申請方法について教えてもらえるのはもちろんですが、「まだ診断を受けていない」「仕事や生活に不安がある」「どこに相談したら良いのか分からない」という場合にも丁寧に相談に乗ってもらえます。
自治体によっては、発達障害専門の相談機関や窓口がある場合があり、そういった場所を紹介してくれることもあります。
(2)ハローワークの障害者雇用担当窓口
各ハローワーク(職業安定所)には障害者雇用の担当窓口が置かれており、障害を持った求職者(働きたい人)と、障害者雇用を行う企業の両方を支援する役割を担っています。
管轄する地域内の自治体や、支援施設と連携を取っている場合も多く、障害を持ちながら働くためのサポートをしてくれます。
発達障害や、発達障害による二次障害が原因で休職・離職等をした場合、雇用保険に基づく傷病手当金を受けたり、失業給付を受けるための要件が緩和されたりする場合があります。
収入が減ったり職を失ったりしたときに金銭的な支援を受けられる制度ですので、利用ができそうな場合は相談してみましょう。
(3)就労移行支援事業所
「障害に配慮を受けた仕事への就職や転職をしたい」と具体的に考えている場合には、障害がある方の「働く」を支援する障害福祉サービス、就労移行支援事業所へ相談する方法もあります。
この施設は、都道府県の指定を受けた事業者により運営されている障害福祉サービスであり、障害のある方に向けた職業訓練や、就職・転職活動を支援するサービスを提供しています。
本記事の後半にて解説しますが、障害のある方が就職・転職を考える上で、障害者手帳を取得する/しないは重要な検討事項です。就労移行支援事業所は障害がある方の「働く」を支援する施設ですので、詳しく教えてもらうことができます。
また、周辺地域の行政や医療機関とつながりを持っていることも多く、「まだ病院にかかっていない」という場合に地域の専門医を紹介してくれたり、必要な役所での手続きを教えてもらえたりするほか、仕事についての悩みを相談することもできます。
就労移行支援事業所は民間企業や社会福祉法人などが運営しており、事業所によってサービスの内容に特色があります。インターネット検索で、例えば「○○市 就労移行支援」というように、住んでいる地域名と一緒に検索すると簡単に調べることができますので、近くにある施設がどのような支援を行っているのか、まずは検索してみましょう。
また、無料のセミナーや相談会を実施していることも多いので、「お役所の窓口は敷居が高い」「病院の先生に相談して良いことなのか分からない」と感じる場合に、まずはそういったイベントに参加してみても良いでしょう。
2. 障害者手帳を取得するメリットとデメリット
2-1. メリット:さまざまな支援やサービスを受けることができる
精神障害者保健福祉手帳を持っていると、以下のような支援やサービスが受けられます。
(1)障害者求人に応募できる
大人の発達障害がある方にとって、もっとも大きなメリットは、障害者雇用の求人に応募できるというものです。
障害者雇用は、障害を開示した上で企業等に採用されるため、障害への理解や配慮を得られやすい環境で働くことが可能です。障害者雇用についての詳しい解説は、下記のコラム記事もご参照ください。
(2)国や自治体から金銭面の支援を受けることができる
また、もう一つの大きなメリットとして、お金の面でさまざまな支援を受けられるというものがあります。
例えば、所得税や住民税、自動車税などの税金には、障害者手帳を提示して申請することで支払う税金の額が減ったり、免除されたりする制度があります。
また、無利子や低利子でお金を借りることができる「福祉貸付」や、公営施設の利用料や公共料金の割引を行っている自治体もあります。
精神障害者保健福祉手帳には、障害の程度に応じて1級〜3級まであり、等級に応じて受けられる支援の内容や金額が異なります。
また、自治体によっても受けられる支援が異なりますので、詳しくは手帳の申請窓口へ問い合わせてみましょう。
なお、障害のある方が利用できる公的な金銭支援として、障害年金や生活保護がありますが、これは障害者手帳とは別の制度のため、手帳を持っていることと直接は関係しません。
(3)民間のサービスを受けられる
上記の他にも、「公共交通機関(鉄道、バスなど)の運賃の割引」や「携帯電話料金の割引」など、民間の事業者からサービスを受けられる場合があります。サービスの内容は事業者により異なりますので、詳しくは各事業者のホームページなどをご覧ください。
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