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職場で発達障害が理解されない原因は?「3つの壁」と対処法

職場で発達障害が理解されないのはなぜ?原因と誤解を減らすための対処法、心が楽になるマインドセットをADHD当事者の経験を交えて紹介します。

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  • #自閉スペクトラム症(ASD)
  • #注意欠如・多動症(ADHD)
「発達障害の特性について何度説明しても、分かってもらえない」「ちゃんとやっているのに、努力不足・怠けていると思われてしまう」 そんな悩みを抱えていませんか。 職場で「やる気がない」「変わった人」「仕事ができない人」と誤解され、孤独や生きづらさを感じている発達障害のある方は少なくありません。一生懸命に工夫し、努力しているにもかかわらず、その努力が見えず、評価にもつながらない。そんな状況が続けば、「どうせ分かってもらえない」と心を閉ざしてしまうのも無理はありません。 この記事では、発達障害がなぜこれほどまでに理解されにくいのか、その構造的な理由と、職場で誤解を減らすための具体的な対処法を、筆者の経験も交えてご紹介します。対処法を知ることで、今の職場や、これからの職場での就労をよりスムーズに続けていくためのヒントになれば幸いです。 執筆者紹介 小鳥遊(たかなし)さん 発達障害やタスク管理をテーマに、2021年まで会社員、2022年からフリーランスとして活動している。 発達障害(ADHD)当事者。主に発達障害や仕事術をテーマとするweb記事を執筆。2020年に共著「要領がよくないと思い込んでいる人のための仕事術図鑑」(サンクチュアリ出版)を執筆し発行部数は10万部を超える。 また、就労移行支援事業所でタスク管理等に関する定期プログラムやセミナー等を実施。企業や大学等での講演、個人/法人のタスク管理コンサルティングもおこなっている。 [toc] なぜこれほどまでに伝わらないのか?理解を阻む「3つの壁」 発達障害のある方が「理解されない」と感じる背景には、個人の説明力や努力の問題ではなく、構造的な「壁」が存在します。ここでは、そういった壁を3つに分けてお伝えします。 3つの壁について紹介する前に、発達障害の特性についておさらいしましょう。 発達障害(ASD・ADHD)とは 発達障害は、生まれつきの脳機能・神経系の特性と周囲の環境とのミスマッチが生じたときに、日常生活・社会生活に困難が生じる「社会性の障害」です。 近年では、「障害」ではなく「特性」≒「症」ととらえることが適切だと考えられており、「神経発達症」という呼び方に変わりつつあります。 ASD(自閉スペクトラム症):対人コミュニケーションやこだわりの強さ、曖昧な指示の理解の難しさなどが特徴とされており、環境によって困りごとが大きく変わります。 ADHD(注意欠如・多動症):不注意(抜け漏れ・忘れやすさ)や多動・衝動性の特性があるとされ、やる気とは関係なくミスが起きやすかったり、段取りが難しかったりするのが特徴です。 発達障害は「見えづらく・分かりづらい障害」と呼ばれています。これが「周囲からの理解」を得ることが難しい原因で、生きづらさや働きづらさを生み出す「壁」となるのです。 1.「見えづらさ」の壁(物理的不可視性) 発達障害は、外見からは分かりません。車椅子や白杖のような、誰の目にも分かる補助具があるわけではないため、そもそも「配慮が必要な障害がある」という認識を持ってもらいにくいという特性があります。 その結果、 困っていること自体に気づいてもらえない どこに困難があるのか想像されにくい 「普通にできているように見える」と判断されやすい といった状況が生まれます。 当事者からすれば、毎日必死にバランスを取りながら働いているのに、周囲からは「問題なくこなしている人」に見えてしまう。このギャップこそが、理解されない苦しさの第一歩です。 筆者も、自分がADHDであることを伝えると、「言われなければ分からなかった」「そう見えない」とほぼ毎回言われます。明らかにオドオドしていたり、いつも物を落としたり、話しぶりが特徴的であったりしていれば「そうかもしれない」と腑に落ちるのかもしれません。 しかし、筆者は普通にしているぶんには、特徴的な仕草などもありません。頭の中では色々なことが錯綜していたりするのですが、それが周囲に分かるようになるには、何か問題が顕在化したときであることが多いのです。 いっそのこと、ウルトラマンのカラータイマーのように「混乱したら光る」といった周囲に分かりやすいサインがあれば、と思うこともよくあります。 2.「分かりづらさ」の壁(ギャップと多様性) 発達障害の特性の大きな特徴のひとつが、できること・できないことの差が極端に大きいことです。 たとえば、 メールやチャットでの文章は論理的で分かりやすいのに、口頭報告になると途端に言葉が詰まる 複雑な資料作成やデータ分析は得意なのに、電話対応や雑談が極端に苦手 集中できる作業では高い成果を出せるのに、単純作業や切り替えが必要な場面でミスが続く このような凹凸のある特性は、「やればできるのに、やっていない」「手を抜いているだけでは?」という誤解を生みやすくします。 さらに、同じ診断名であっても特性は十人十色です。「前にいたADHDの人はこうだった」「ASDならこういうはず」という思い込みがあると、個別の困難が理解されにくくなります。 筆者が以前勤務していた会社では、総務の重要な仕事の一つである「社用車の管理」を任されました。重要な仕事を任せてもらったことはとてもありがたいことでしたが、筆者は運転免許も持っていませんし、車にまったく興味がなかったのです。 発達障害の診断の際、筆者が医師から受けた説明に「興味関心に偏りがある」ということがありました。興味のあることは知識として定着しやすいが、興味がなければ右から左だということでした。そんな筆者が、全国に1,500台ある営業スタッフの車や、800台の現場作業員の車を管理するのは、困難を極めました。ある支店の事務員さんと社用車についての電話をしていたところ、うまく対応できずに「使えない」と言われて電話を切られたことは、今でも忘れられません。 一方で、法律の勉強を年単位でやっていたこともあってか、株主総会関連の業務には難なく取り組むことができました。各部署の部長を集めた株主総会に向けてのキックオフ説明会での司会・進行を行った際、参加していた部長の方々からも認められるほどの大成功を収め、めったに褒めない上司から「でかした!」と言われるほどでした。 このように、できること(株主総会説明会の司会)・できないこと(社用車の管理事務処理)の差がはっきりしすぎて、きっと上司は筆者を理解しかねたことと思います。 3.「程度の違い」の壁(定型発達の『私もそうだよ』問題) 発達障害による困難は、一見すると「誰にでもありそうなこと」に見えます。 忘れ物をする ケアレスミスが多い 音や匂いが苦手 集中が続かない そのため、周囲からはこんな言葉をかけられることがあります。 「私も忘れっぽいよ」「誰だってミスくらいするよ」「そのくらい我慢すればいいんじゃない?」 言っている側に悪気はありません。むしろ「共感しているつもり」「励ましているつもり」なのです。 しかし、当事者にとっての困難は、単なる不快や不便ではなく、生活や仕事が成り立たなくなるレベルの苦痛です。この「質と量の違い」が理解されないことで、「自分の我慢が足りないのかもしれない」と、自分を責めてしまう人も少なくありません。 筆者も、この周囲からの「共感」「励まし」が逆効果になってしまったことがあります。一番効いたのが、同じ部署の先輩に「きみ、最近社内で評判悪いんだけどさ」と言われ、「色々あるのは分かるけど、忘れたりケアレスミスしたりなんか自分だってあるし、そんなの挙げていったらきりがないよ。だから、頑張ろうよ」と話されたときです。 先輩にしては、「自分もよく忘れるしミスもする」「だから気にしないでいこう」と伝えて筆者を励まそうとしてくれていたのだと思います。しかし、そのときの心の動きは、 「社内で評判悪い」 → そうだったのか......やはり自分はちゃんと仕事をすることができないのか 「自分だってミスする」 → いや、自分はそんなレベルじゃない 「だから気にしないで」 → 他の人がミスしたところで自分のミスがなくなるわけじゃないし気になる といった具合で、余計に自分の至らないところを自分でえぐったような気分になってしまいました。 職場での壁を超えるための「伝え方」のコツ ここからは、職場において「理解してもらえない」状況を少しでも改善するための、実践的な伝え方を紹介します。大切なのは、感情を訴えることではなく、業務にどう影響していて、どうすれば改善できるのかを具体化することです。 事例1:「指示待ち・気が利かない」と言われる(ASD傾向) 曖昧な指示や暗黙の了解が多い職場では、ASD傾向のある方は「自分なりに考えたつもりでも、ズレてしまう」ことが起こりやすくなります。 NG例 「曖昧な指示が苦手です」 → これだけだと、「努力不足」「柔軟性がない」と受け取られがちです。 OK例 「認識のズレを防ぐため、期限と優先順位を数値で指示いただけると、ミスなく最速で動けます」 → 「困っている」ではなく、「こうすると成果が出る」と伝えることで、業務改善の提案として受け取ってもらいやすくなります。 ただ、曖昧さを具体化するのを相手にのみしてもらうことになるので、もう一歩「自分なりに具体化して相手に確認する」とできるとさらに良いです。 「了解しました。ということは、明日中までにA4一枚に構成と内容を自分なりに書いたものをたたき台としてお出しする、ということでよろしいでしょうか?」 ここまですると、「曖昧なことが理解しづらい」という傾向は、「指示を明確に理解して確認できる」という強みになります。 相手からすると「明確な指示を伝える」は手間に感じるかもしれませんが、適切な指示を繰り返していくことで、情報が蓄積され、ASDの特性がない人よりもアウトプットの質が高まる傾向があると言われています。 事例2:「ミスが多い・やる気がない」と言われる(ADHD傾向) ADHD傾向のある方は、「気をつける」「頑張る」だけではミスを防ぎきれません。 NG例 「次からもっと注意します」「より精査を徹底します」 → 精神論は、結局同じ指摘が繰り返される原因になります。 OK例 「目視確認だけだと抜け漏れが出やすいため、読み上げソフトを使った確認工程を入れさせていただけないでしょうか」 → 仕組みで解決する姿勢を見せることで、「やる気がない」という誤解を減らすことができます。 さらに、より説得力を持たせるための伝え方として、「自分の憶測や願望などの主観をできるだけ入れない」ことが大事です。自分の主観が入ってしまうと、説得力が弱くなってしまうのです。 「目視確認だけだと抜け漏れが出やすいため」「多分次回は大丈夫だとは思うのですが」 ← 憶測・願望「読み上げソフトを使った確認工程を」「念のため......これならきっとうまくいくんじゃないかと考えているので」 ← 憶測・願望「入れさせていただけないでしょうか」 このようについ主観を入れてしまいがちですが、話も冗長になりがちなので、できるだけ入れずに、シンプルに伝えるとより良いです。 事例3:「感覚過敏」が「わがまま・神経質」とされる 感覚過敏は、「好み」や「性格」の問題と誤解されやすい代表例です。 NG例 「この音が嫌いです」「この匂いが苦手です」 OK例 「聴覚過敏があり、周囲の音に過剰に反応してしまいます。イヤーマフを使用することで集中力を維持でき、業務効率が上がります」 → 機嫌や好みではなく、業務パフォーマンスの話に変換することがポイントです。 筆者も、たとえば企業様へ研修講師として登壇する際、必ず服装について確認を取るようにしています。スーツが体に触れる感覚が苦手なので、あらかじめカジュアルに寄せた服装にさせて欲しいとお願いしています。 その際、ただ「スーツが苦手なので、カジュアルな格好をさせて欲しい」とだけ伝えると、こちらの要望を一方的に伝えるだけになってしまいます。そこで、「スーツが体に触れる感覚が苦手なので、より集中してお話をするために、カジュアルな服装でお伺いしてもよろしいでしょうか?」と業務パフォーマンスの話としてご相談するようにしています。 それでも理解されない時のマインドセット どれだけ工夫して伝えても、すべての人に理解されるとは限りません。そんなときに、自分を守るための考え方も大切です。 業務遂行上のメリット/デメリットで判断してもらう 職場は「共感し合う場」ではなく、「業務を遂行する場」です。友達のような理解を求めなくても、必要な配慮が得られれば十分だと割り切ることも、ひとつの選択です。 心から共感してもらえなくても、「こういうときは、こう対応してもらう」というのは、業務を進めていくために必要なのであれば十分可能です。前述の研修登壇時の服装の相談も、 スーツを着用しなくていい → 違和感なく集中しやすい → 話のクオリティを保てるというメリット スーツを着用する → 感覚過敏で集中しにくい → 話のクオリティに影響が出かねないというデメリット という、あくまでメリット/デメリットという基準で判断をしてもらっています。感覚過敏についてご説明して共感してもらうのも良いのかもしれませんが、かなり言葉を尽くして理解してもらわないといけなくなるので、スピーディーに業務を進めるのは難しくなってしまいます。 「悪気のない人」とは戦わない 「私もそうだよ」「だから、そんなこと気にしないで頑張っていこう」などと言われたとき、否定したくなる気持ちは自然です。しかし、真っ向から受け止めてしまうと疲弊してしまいます。 「そうなんですね」「〇〇さんもなんですか!」と、まずは相手との共感ポイントを作って受容の姿勢を見せつつ、「私は診断を受けてやっと分かったんですが、なかなか気持ちだけではクリアできないところもありまして......」などと、診断の有無といった客観的な境界線を相手との間に引き、淡々と伝えることがおすすめです。 さらに、「相手が分かっていない・自分だけが我慢している」という気持ちにならないように、理解が不十分な相手とのやりとりをするときには「自分から歩み寄れてえらい!社会性があがった!」と自分をほめてあげることも大事です。気持ちがいくぶん楽になるはずです。 まとめ:まず自分から、「見えない困難」を認めてあげよう 周囲に見えなくても、私たちの困難は確かに存在しています。そして、私たちはその困難と毎日向き合いながら生きています。 他人に完全に理解してもらう前に、自分自身が自分の一番の理解者でいること。これが、長く働き続けるための土台になります。 「自分なりの工夫だけでは限界がある」「第三者の専門的なアドバイスを受けながら、自分に合った働き方を見つけたい」という方は、就労移行支援事業所などの障害福祉サービスに相談するのも一つの有効な手段です。 就労移行支援事業所ディーキャリアでは、働くことで悩みを抱えている発達障害のある方の支援をおこなっており、発達障害のある方が、自己理解を深められる実践的なプログラムを提供し、また規則正しい生活が送れるトレーニングを行なっています。 発達障害のある方の特性を理解したうえで、個別に最適なトレーニングを提供することが特徴です。 就労移行支援事業所とは、障害のある⽅が就職するための「訓練・就職活動」の⽀援をおこなう障害福祉サービスの一つです。(厚⽣労働省の許認可事業) 就職とは人生の目的を実現するための通過点です。自分の「なりたい」姿を見つけ、障害特性への対策と自分の能力を活かす「できる」ことを学び、社会人として長く働くために「やるべき」ことを身に付ける。 「なりたい」「できる」「やるべき」の 3 つが重なりあうところに仕事の「やりがい」が生まれると、私たちは考えています。 ご相談は無料です。フリーダイヤル、または、24 時間受付のお問い合わせフォームにて、お気軽にお問い合わせください(ご本人様からだけでなく、当事者のご家族の方や、支援をおこなっている方からのご相談も受け付けております)。 お電話(0120-802-146)はこちら▶ お問い合わせフォームはこちら▶ また、全国各地のディーキャリアでは、無料の相談会や体験会も実施しています。 全国オフィス一覧はこちら▶ 就労移行支援事業所ディーキャリアは、「やりがい」を感じながら活き活きと働き、豊かな人生を目指すあなたを全力でサポートします。お一人で悩まず、まずはお気軽にご相談ください。
「嫌われてる?」大人のASDが陥りやすい被害妄想と疑心暗鬼を和らげるコツ

「嫌われている?悪口を言われているかも」…その不安、ASDの特性によるものかもしれません。原因と対処法について発達障害当事者が解説。

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  • #自閉スペクトラム症(ASD)
「人から好かれていないように感じてしまう」「自分のことを話されているように思えて不安になる」 そんな悩みを抱えていませんか。 職場のちょっとした出来事に心がざわつき、「自分のせいでは?」と不安が広がってしまう。そんな経験が続くとつらくなるものです。 ASD(自閉スペクトラム症)がある方の中には、日常の出来事を少し不安な方向、つまり「被害妄想」っぽく受け取り、「疑心暗鬼」になってしまうときがあります。 筆者はADHDの診断を受けていますが、日頃こういった傾向に思い当たることが多いと感じています。事実、診断名とは異なる特性が併存していることも多くあります(例:ADHDの診断だが、ASDの特性「コミュニケーションや対人関係の困難」がみられる等)。 この記事では、そんな筆者の経験も織り交ぜつつ、ASDの特性と、不安が強まりやすい「受け取り方」の背景、そして今日からできる対処法について詳しくお伝えします。 なお、ここでいう「被害妄想」「疑心暗鬼」は、精神疾患としての妄想ではなく、ASDの特性や経験から生じる「不安な受け取り方」を指すものとご理解いただければと思います。働く場面でのストレスを軽減し、安心して日々を過ごすためのヒントになれば幸いです。 執筆者紹介 小鳥遊(たかなし)さん 発達障害やタスク管理をテーマに、2021年まで会社員、2022年からフリーランスとして活動している。 発達障害(ADHD)当事者。主に発達障害や仕事術をテーマとするweb記事を執筆。2020年に共著「要領がよくないと思い込んでいる人のための仕事術図鑑」(サンクチュアリ出版)を執筆し発行部数は10万部を超える。 また、就労移行支援事業所でタスク管理等に関する定期プログラムやセミナー等を実施。企業や大学等での講演、個人/法人のタスク管理コンサルティングもおこなっている。 [toc] ASDの特性と「被害妄想っぽい」受け取り方 ASDには、物事の受け取り方やコミュニケーションに独自の特徴があり、日常の出来事を少し敏感に、ともすれば「被害妄想っぽく」感じてしまうことがあります。こうした反応は特別なものではなく、多くの方に見られる自然なものです。ここでは、その背景を整理していきます。 ASDの特性が受け取り方に影響する ASDがある方は、コミュニケーションや情報の理解の仕方に特性が見られることがあります。たとえば、表情や声のニュアンスから相手の気持ちを推測することが難しかったり、言葉をそのまま受け取る傾向が強かったりします。 これらは場合によっては強みにもなります。しかし、職場などでは特に、安定した人間関係の構築のしづらさにつながることがあります。 ASDがある方に見られやすい「不安の芽」 また、「相手のちょっとした表情の変化を、自分への不満と解釈してしまう」「注意をされると、その部分だけではなく自分そのものを批判されたように感じてしまう」といった受け取り方もASDのある方によくあるとされています。実際には相手の考えとは違うものの、ASDの特性によって、誤った解釈や過剰な思い込みが自然に生じてしまうのです。 誰にでも起こりうるが、ASDの特性で「起こりやすくなる」 また、人は誰でも疲れやストレスがたまると、出来事を深刻に受け取りやすくなるものです。ASDがある方の場合、これに特性由来の不安を感じやすい傾向が加わるため、なお一層「疑心暗鬼」や「ネガティブ思考」が起こりやすいのです。 筆者はこのような「受け取り方」に大いに心当たりがあります。職場でのちょっとした注意にも過剰に反応してしまうのです。 例えば、経費精算の計算を間違えたとき、「小鳥遊さん、昨日出してもらった経費精算書類、金額の合計が間違っていたから、いったん差し戻しておきました。次からは気を付けてくださいね」と、上司からとても気を遣って丁寧に言ってもらいました。しかし、それにも関わらず、「しまった。上司に不要な手間をとらせてしまった。自分は仕事ができない人間だと思われたかもしれない。」と過度に落ち込んでしまいました。 同じASDのある方でも「疑心暗鬼」や「ネガティブ思考」の原因はさまざまですが、特性による「過去の失敗経験」や「過度な思い込み」があることで、不安な方向へ意識が向きやすくなる、つまり「被害妄想」っぽく考えてしまうことがあります。繰り返しますが、これは特性から自然に起こりうる反応であり、そう考えてしまう自分を責める必要はありません。 ASDの方に「疑心暗鬼・ネガティブ思考」が強まりやすい理由 ASDのある方が疑心暗鬼やネガティブ思考に陥りやすい背景には、その特性が強く影響している場合が多いです。ここでは、つい「相手の反応を悪い方向へ推測してしまう」特性についてお伝えします。 こだわりや思考の持続性が影響することがある ASDがある方は、興味のあることや気になることに集中し続ける力があります。この集中力は「ひとつのことを考え続けられる」という面では大きな強みですが、言い換えれば「こだわり」とも言えます。 ちょっとした表情の変化や短い言葉での注意が、頭の中で何度も再生されてしまうといったのも一種の「こだわり」と言えますが、それによって不安をどんどんふくらませていってしまうことがあります。 白黒はっきりさせたい気持ちが不安と結びつく ASDがある方は、ものごとを明確に理解したいという気持ちが強い場合があります。いわゆる「白黒思考」というものです。そのため、曖昧さのある表現を理解しにくいことが多いのです。周囲からの配慮によって、ネガティブな表現を避けた遠回しなフィードバックを受けたときも、「自分のどこがどう悪かったのか」をはっきりさせたくなることがあります。 この傾向が強まると、部分的な注意やちょっとした会話の変化が、「自分そのものの評価」に見えてしまい、不安につながる場合があります。 コミュニケーションの「読み取り負荷」が大きい 冗談、比喩、曖昧な表現などは、意図を推測する必要があります。ASDがある方の場合、この「明文化されていないことの読み取り作業」に負荷がかかりやすく、字面のみで理解する場合が多いとされています。 相手の言外の意図を汲み取りにくいと、コミュニケーションに自信が持てずに不安が強まることがあります。阿吽の呼吸のコミュニケーションや暗黙の了解事項が多い環境では、特にこうした負荷が蓄積しやすくなります。 比喩表現の理解しづらさは筆者も大いに感じます。具体的な話をしたいのに、比喩を駆使して目の前で話が繰り広げられると、それは筆者にとっては「別の話」となり、途端に理解しづらくなります。 たとえば、上司から「小鳥遊くん、この資料、良いんだけどもう少しスパイスがほしいね」と言われたことがありました。「スパイス」は、「刺激・面白み」を指し、ひねりを加えることを伝える表現であると、周囲は理解していましたが、筆者には理解できず「どの部分をどう直すのか」が分かりませんでした。 「スパイスを足す」という比喩が、実際にはどんな作業を指すのかが咄嗟には分かりづらい。つい、「スパイスって、具体的にはどういう意味ですか?」と聞かざるを得ません。その際に、「それぐらい分かって欲しい」といった表情の曇り具合から、不安や戸惑いにつながりやすいのです。 過去の経験が現在の解釈に影響する ASDがある方は、幼少期からの人間関係で「誤解されやすい」「意図が伝わりにくい」といった経験を積み重ねている場合があります。 そうした経験が心に残っていると、現在の出来事にも「また同じことが起きるのでは」と感じやすくなり、出来事を慎重に受け取るようになることがあります。 筆者も、「入社してすぐのとき、小鳥遊くんから『エクセルのここの使い方が分からないので教えてください』と言われて、正直『こんなことも分からないのか?』って思ったよ」と冗談めかして言われたことがあります。 相手の真意は「でも、今はこんなに成長した」だということはある程度想像がつくのですが、それでも過去のその一件にフォーカスしてしまい、「もしかしたら今も迷惑をかけているんじゃないか」と思って深刻に受け取ってしまいました。 感覚の繊細さが「気づきすぎ」につながることがある 光・音・視線などを強く感じる感覚過敏がある場合、環境から得る情報量が多くなり、心が疲れやすくなります。周囲の声が耳に入りやすかったり、人の動きが気になりやすく、ちょっとした大きな声でも「自分が責められている」と感じてしまったり、視界の片隅で話している人たちの様子を捉えて「もしかして自分のことを言っているのでは?」と不安に陥るきっかけになることがあります。 これらの要因が重なることで、相手の意図を悪い方向に推測しやすくなり、いわゆる「疑心暗鬼・ネガティブ思考」が生まれやすくなります。こうした傾向に気づくことが、対処の第一歩になります。 二次障害によるもの ASDがある方の中には、日々のストレスや対人場面での疲れが積み重なることで、うつ状態や不安症(不安障害)などの「二次障害」が生じることがあります。こうした状態は、ASDの特性の上に別の不調が重なって現れることから、「重ね着症候群」と呼ばれることもあります。 このように複数の要因が重なると、気持ちの余裕が減り、出来事を落ち着いて見直す力が弱まりやすくなります。その結果、相手の言葉や表情を必要以上に悪い方向へ解釈してしまい、「嫌われているのでは」「責められるのでは」といった疑心暗鬼やネガティブ思考に、より拍車がかかってしまう場合があります。 二次障害について詳しく知りたい方は、以下のコラムもあわせてお読みください。 今日から試せるASD由来の不安への対処 ASDがある方は、環境の変化や人との関わりで不安を感じやすくなることがありますが、日々の工夫で心が落ち着きやすくなる場合があります。ここでは、今日から取り入れやすい方法をいくつか挙げながら、不安との距離を少しずつ調整するためのヒントをまとめていきます。 認知行動療法を応用して「考え方」を変える 日常の中で不安を感じたとき、私たちは無意識のうちに「ひとつの考え」から離れられないことがあります。こうしたときに役に立つ考え方のひとつが、心理学の「認知行動療法(CBT)」という方法です。認知行動療法とは、物事の受け取り方を少しだけ別の角度から見直すための考え方です。「思考のクセ」に気づきやすくなるという特徴があります。 こうした視点を日常にも取り入れてみると、ASDがある方が抱えやすい不安に対して、別の見方を増やす助けになることがあります。 例えば、同僚の表情がいつもより冷たく見えたとき、最初に浮かんだ解釈にそのまま引きずられるのではなく、 「今日は疲れているのかもしれない」 「もともと表情が変わりにくいタイプかもしれない」 といったように、複数の可能性を並べてあげることが、不安をやわらげるきっかけになります。 筆者が仕事でお世話になっている方と会食をしたときのことです。会食後、ほどなくして御礼のメールをお送りしました。ところが、何時間経ってもその返信が来ません。そうなると、「会食中、失礼なことを言ってしまっていたのだろうか」「そもそも会食自体が嫌だったのかもしれない」と、ネガティブな考えでいっぱいになってしまいました。 その方は会社を経営していて、ご自分でも経営以外の仕事を抱えていることが分かっていたので、「きっと仕事が忙しいのだろう」「大事に返信したいと思ってくれているから、まとまった時間が取れるまで返信しないのかもしれない」と「別の可能性」を並べることができました。 実際、その方は体調を崩していて連絡ができず、2日ほど経ってから「連絡遅くなってすみません!」と返信をいただくことができました。 ストレス量を減らし、心の余裕を確保する 疲れやストレスが積み重なると、誰でも不安が大きくなりやすいものです。ASDがある方の場合、その影響がやや強まることがあるため、休息の質を高めることが重要です。睡眠を整える、予定を詰め込みすぎない、休憩時間を事前に確保するなど、環境と生活リズムの調整が効果的です。 刺激を減らす工夫で感覚の負担を軽くする イヤーマフ、耳栓、席のレイアウト調整、パーテーションの設置など、環境を工夫するだけで刺激が減り、心が落ち着きやすくなります。特に視線や音に敏感な方は、環境調整の効果が大きいと言われています。 筆者も、人と話しているときに、すぐ脇で会話がされると、その会話の方に気持ちが引っ張られがちです。そこで、自分が話している相手の口の動きをよく見るようにしたところ、相手の話が入ってきやすくなりました。 相談できる人を増やし、ひとりで抱え込まない ひとりで考え続けると、視点が偏りやすくなります。家族、友人、カウンセラーなど、安心して話せる相手がいると、不安を言葉にでき、気持ちが整理されやすくなります。 筆者は、就労移行支援事業所で仕事をすることが多いため、仕事などのことで悩みや課題が出てくると、そこのスタッフさんに「ちょっと聞いて欲しいんですが......」と、気軽に相談ができます。就労移行支援スタッフの方は、そういった相談を聞く経験をたくさん積んでいるので、話したあとはとても気持ちが軽くなります。 日常生活に支障が出ている場合は医療機関に相談する 強い不安が長く続いたり、仕事や生活に影響がある場合、たとえば、 「不安や怖さで眠れない日が続いている」 「職場や学校に行けない状態が続いている」 「現実とは違うと分かっていても、『監視されている』感覚が強く、生活に支障が出ている」 といったことに心当たりがある場合、医療機関で相談することが助けになる場合があります。ASDだけではない、別の障害や精神疾患(不安障害、統合失調症等)によるものである可能性が考えられるためです。専門家と一緒に整理することで、改善のきっかけが見つかりやすくなります。 受け取り方がやわらぐと、働きやすさが変わっていく ASDがある方の不安は、特性と環境、経験が重なって生じる自然な反応です。大切なのは「自分に合った整え方」を見つけていくことであり、自分自身を否定して性格をそっくりそのまま入れ替えることではありません。 少しずつ工夫を積み重ねることで、「被害妄想」や「疑心暗鬼・ネガティブ思考」に対して注意を落ち着いて受け止められたり、人間関係の不安がやわらいだり、仕事のペースがつかみやすくなると感じる方も多くいます。 この日々の工夫は、専門家と一緒に取り組むことで、受け取り方や働き方がより整理され、安心して仕事に向き合いやすくなります。 就労移行支援事業所ディーキャリアでは、働くことで悩みを抱えている発達障害がある方の支援をおこなっており、発達障害がある方が、自己理解を深められる実践的なプログラムを提供し、また規則正しい生活が送れるトレーニングをおこなっています。 発達障害がある方の特性を理解したうえで、個別に最適なトレーニングを提供することが特徴です。 就労移行支援事業所とは、障害のある⽅が就職するための「訓練・就職活動」の⽀援をおこなう障害福祉サービスの一つです。(厚⽣労働省の許認可事業) 就職とは人生の目的を実現するための通過点です。自分の「なりたい」姿を見つけ、障害特性への対策と自分の能力を活かす「できる」ことを学び、社会人として長く働くために「やるべき」ことを身に付ける。 「なりたい」「できる」「やるべき」の 3 つが重なりあうところに仕事の「やりがい」が生まれると、私たちは考えています。 ご相談は無料です。フリーダイヤル、または、24 時間受付のお問い合わせフォームにて、お気軽にお問い合わせください(ご本人様からだけでなく、当事者のご家族の方や、支援をおこなっている方からのご相談も受け付けております)。 お電話(0120-802-146)はこちら▶ お問い合わせフォームはこちら▶ また、全国各地のディーキャリアでは、無料の相談会や体験会も実施しています。 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【当事者解説】発達障害と診断されたらどうする?やるべきことは?

ADHD当事者の筆者が、診断を受けたあとの行動ステップ、利用できる制度、職場への伝え方、自己理解・特性への工夫までを解説します。

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「発達障害と診断されたけれど、どうすればいいのか分からない」「職場や家族に伝えるべきか、必要な手続きはあるか」 そんな不安を感じていませんか。 診断を受けた直後は、気持ちが揺れやすく、今後のことを考える余裕が持ちにくい時期です。焦らずに少しずつ整理していけば、自分らしく働き、暮らしていくための方法を見つけていくことができます。 この記事では、ADHDの診断を受けた筆者が、「発達障害と診断されたら」というテーマで、診断に至るまでの流れから、診断後にできること、そして周囲との向き合い方までをお伝えします。今の環境をより過ごしやすく整えるためのヒントとして、ぜひ参考にしてみてください。 執筆者紹介 小鳥遊(たかなし)さん 発達障害やタスク管理をテーマに、2021年まで会社員、2022年からフリーランスとして活動している。 発達障害(ADHD)当事者。主に発達障害や仕事術をテーマとするweb記事を執筆。2020年に共著「要領がよくないと思い込んでいる人のための仕事術図鑑」(サンクチュアリ出版)を執筆し発行部数は10万部を超える。 また、就労移行支援事業所でタスク管理等に関する定期プログラムやセミナー等を実施。企業や大学等での講演、個人/法人のタスク管理コンサルティングもおこなっている。 [toc] 診断に至るまでによくあるきっかけ まだ診断を受けていない方・受けるか悩んでいる方も多いかと思います。まず最初に、診断を受けたきっかけについて紹介します。 診断後にやるべきことについて今すぐ知りたい方は、「診断後にできる行動のステップ」からお読みください。 発達障害は、症状が突然あらわれて診断がくだるものではなく、日常生活や仕事の中で感じる「やりづらさ」や「違和感」から、少しずつ気づいていくケースが多いです。 職場でうまくいかない場面が続いたとき 「同じ注意を受けることが多い」「予定の調整が難しい」「会議中に集中が続かない」など、仕事の中で自分でもうまく回せていないと感じることが続く場合があります。 筆者が「自分は発達障害かもしれない」と思ったきっかけがまさにこのパターンでした。 法律事務所の事務員をアルバイトでやっていて、電話の対応がうまくできなかったり、お客様にお渡しする大事なお金を事務所に置いたまま外出してしまったりといった場面が続き、「もう雇い続けられない」と契約を終了することになりました。 続けて不動産仲介の小さな会社でアルバイトを始めるのですが、そこでもファイリングに明らかに時間がかかりすぎてしまったり、お客様を物件に案内できず迷子になってしまったりと、自分でも「何かおかしい」と考えるようになりました。 そこで、「仕事 うまくいかない」「仕事 ケアレスミス」といったワードで検索をかけてみたところ、「発達障害」という言葉を知り、クリニックで診断を受けました。 情報を見て「もしかして自分も」と感じたとき テレビや記事、SNSなどで「大人の発達障害」「ADHD」「ASD」といった言葉を目にし、自分の行動パターンや考え方に似ていると感じて受診する方も少なくありません。 これまで言葉にできなかった「生きづらさ」や「頑張ってもうまくいかない理由」に納得できることで、ほっとしたり、次の一歩を考えやすくなる方も多いようです。 筆者は、診断はADHDだったのですが、発達障害について知るにつれて、ASDの傾向もあるかもしれないと思うようになっていきました。 「抽象的な言葉が理解しづらい」「言葉にならない行間を読むのが苦手」といったASD特性のある方の経験談をSNSやウェブなどでよく見ます。筆者もそれを見て、「そういえば自分もそうだ!」と思い、ASD傾向への対策も取り入れて仕事や生活をするようにしています。 メンタル不調で通院したときに分かることも ストレスや疲れの蓄積で心療内科・精神科を受診した際に、医師から「発達障害の傾向があるかもしれません」と指摘されるケースもあります。 気分や体調の波が大きいと感じている場合、その背景に特性が関係していることもあるため、専門の医療機関で相談してみることが一つの選択肢になります。 診断後にできる行動のステップ 風邪などの病気は、診断があり、薬を処方され、服薬をすれば治っていきます。診断を受けたら、ある程度終わりが見えることが多いです。しかし、発達障害の診断は、診断→自己理解→対策という流れの「始まり」だと考えて良いでしょう。 以下に、診断を受けた後に意識しておくとよい5つのステップを紹介します。 1. 自分を知る時間をつくる 診断を受けたあと、焦って誰かに伝えたり、手続きを急いだりする必要はありません。まずは「どんな場面でうまくいかないのか」「どんな条件なら力を発揮しやすいのか」を整理してみましょう。 得意・不得意の傾向を書き出す 困った場面をメモして、どんな工夫が有効だったかを記録する 特性を理解しているカウンセラーや医師に話してみる このような記録は、後で職場や家族と話すときにも役立ちます。 筆者は、逆にこの時間をつくらなかったため、少々回り道をしてしまいました。診断を受けたあとに、クリニックのソーシャルワーカーの方に就労について相談して障害者雇用の話を聞き、すぐに就職活動を始めたのです。 スピーディーに事が進んだのは良いのかもしれませんが、その反面、自分自身の得意・不得意などもしっかり把握せずに仕事を始めてしまったため、仕事がうまくいかず体調を崩して休職するということを2社連続でしてしまいました。 もし診断を受けた当時の自分に今の自分がアドバイスするなら、「まずは就職を焦らずに、自分のことを知る時間を確保しよう」と言うと思います。 2. 利用できる制度や支援を調べる 発達障害がある方を支える制度は複数あります。それぞれの特徴を知り、必要に応じて利用を検討するのをおすすめします。 医療機関での継続的なフォロー(通院・カウンセリングなど) 発達障害者支援センターでの相談(生活や就労について) 就労移行支援などの障害福祉サービス(働く準備のサポート) 合理的配慮を得るための社内相談 前述のとおり、筆者は診断を受けてすぐに就職活動を始めたのですが、それは制度や支援機関についての知識がなかったというのも一因でした。特に、「就労移行支援事業所」というものの存在を知らず、応募書類の作成なども自力か友人の力を借りてやっていました。 ただ、支援制度や相談窓口の情報を知らなかったことで、結果的に一人で抱え込みすぎていたように思います。どこに相談すればいいか分からないときは、まず信頼できる情報を集めることが大切です。 そこで、頼れる専門の相談窓口を紹介します。 発達障害者支援センター:発達障害がある方やご家族が、生活・就労・福祉制度などの相談をできる地域の支援拠点です。お住まいの市区町村の障害福祉窓口:障害者手帳や福祉サービスの申請・利用方法を案内してもらえる窓口です。 精神保健福祉センター:こころの健康や生活・仕事の悩みを専門職に相談できます。 障害者就業・生活支援センター:働くことと暮らしの両面から支援を受けられる機関です。 ハローワーク:障害者雇用の相談や求人紹介、応募書類の作成サポートなどを受けられます。 地域障害者職業センター:職業評価(自分の職業適性や課題、支援方法を知るためのもの)や就職後の定着支援など、専門スタッフによる助言が得られます。 医療機関:治療や服薬の相談のほか、利用できる支援制度を紹介してもらえる場合もあります。 就労移行支援事業所:就職に向けた訓練や生活リズムの整え方、ビジネスマナーなどを学べる障害福祉サービスです。 就労移行支援事業所ディーキャリアでは、診断を受ける前の方、診断を受けたものの障害福祉サービスの利用をするかどうか決めていない方からのご相談も承っています。お気軽にご相談ください。 お問い合わせフォーム▶ 3. 職場への伝え方を考える 発達障害などの障害があると、障害者雇用のオープン就労で働く場合は、自身の障害を開示して、そんな自分が働きやすい環境を作るための「合理的配慮」について伝えることができます。 ただ、「診断名」だけを伝えるだけでは、周囲の人たちも何をすれば良いか分かりづらいものです。それだけでなく「具体的にどんな支援があると働きやすいか」を整理しておくことがポイントです。 たとえば、以下のように合理的配慮事項を伝えると、周囲の人も対応しやすくなります。 指示は口頭だけでなく、メモやメールでももらえると助かる 優先順位を一緒に確認してもらえると安心できる 集中しやすい静かな場所で作業したい 筆者は、この「合理的配慮」を、「自分の弱みをさらけ出すようで気が引ける」と考えていました。したがって、最初の障害者雇用のオープン就労の際に合理的配慮を聞かれたときに、「いえ、特にありません」と答えてしまいました。 合理的配慮は、あくまで自分と周囲がスムーズに働けるようになるためのものであり、職場の全員のメリットになるものです。変に遠慮すると、かえって職場に迷惑をかけてしまうこともあります。事実、筆者は合理的配慮を満足に伝えずに就労した結果、仕事がうまくいかなくなって休職してしまいました。伝えるべきことは、きちんと伝えることが大事だったなと、心底思ったのを覚えています。 そのためにも、職場のコミュニケーションの取り方や、どこまで伝えるかについては、一人で抱え込まずに相談してみることはとても大切だと考えています。 4. 生活と仕事のバランスを整える 自己理解をして、職場で働くための環境を整えることは、生活の安定性があってこそ十分に発揮されます。 睡眠・食事・休息のリズムを整える スケジュールを見える化し、予定を詰め込みすぎない 定期的に「最近どう感じているか」を振り返る 厚生労働省の就労準備性ピラミッドでは、「働くためのスキル」「社会人としての基本的な習慣」などを支える土台として、まずは「こころとからだの健康」や「日常生活のリズム」が大事なものと位置づけられています。 健康を維持し、日常生活を無理なく続けられる習慣をつくることは、自分らしく働くために最優先事項だと考えたいところです。 診断後の話ではありませんが、筆者が仕事がうまくいかずに休職したときのことです。当時実家に住んでいたのですが、休職の意味をしっかり理解していた親は、「とにかく休むことを優先しよう」と言ってくれました。ただ、1つだけ約束しました。それは、「朝起きて夜寝るというリズムは守ろう」ということでした。 今考えると、この最優先事項だけをしっかり守るという模範的な姿勢だったなと考えています。そのおかげか、しっかり休みつつもスムーズに次の段階へ移行できたという実感がありました。 日常生活のリズムを整えることは、こころとからだのメンタルヘルスを守りながら、無理なく働き続ける土台になります。ぜひ気を付けていただきたい点です。 5. 障害特性への工夫を考える  発達障害がある方の多くは、仕事や生活の中で「忘れやすい」「集中が続かない」「整理が苦手」といった特性を感じることがあります。 こうした特性は、努力や根性で克服するものではなく、自分に合った工夫を取り入れることでうまく付き合っていくことが大切です。 以下は、ADHD当事者である筆者が実際に取り組んでいる工夫で、特性や性格などによって、一人ひとり必要なもの・合う対策が異なりますので、参考としてお読みください。 仕事での工夫の例 タスクを見える化する:付箋やアプリで「やることリスト」を作り把握する。 スケジュール管理を習慣化する:会議や打合せなどの予定はすぐにカレンダーへ入力し、リマインダー機能を活用する。 作業環境を整える:集中しやすい静かな場所を選ぶ、デスク上をシンプルに保つ。 一度に抱えすぎない:同時に複数の作業を進めず、「今はこれだけ」に絞る。 筆者自身も、ADHDの特性である「注意の散りやすさ」を補うために、自分の抱える仕事を書き出して一覧化し、常に「次にやるべきこと」を具体的にして「今日やること」をメモに書き出すようにしていました。やるべきことが明確になることで、落ち着いて仕事を進められるようになりました。 日常生活での工夫の例 家事をルーティン化する:曜日ごとに掃除・洗濯などを決めておくと、迷う時間が減りやすくなります。 金銭管理をシンプルにする:現金での管理は使った履歴を残しづらい(レシートをなくす)ため、できるだけクレジットカードで支払うようにする。 忘れ物対策をする:鍵や財布を置く箱を用意し、出かける前に箱を確認するだけにしておく。 「できたこと」に注目する:完璧を目指すよりも、できたことを記録し、自分を肯定する時間を持つ。 こうした工夫は、特性を無理に変えるのではなく、「自分に合った環境をデザインする」ための方法です。 自分の行動パターンを理解し、小さな工夫を積み重ねることで、仕事も生活も少しずつ安定していきます。 よくあるご質問と考え方 ここでは、診断を受けた後の対処のしかたや、どう行動したら良いかなどについて、よくある疑問についてお答えしていきます。 Q. 会社に伝えたほうがいいですか? A. 伝えるかどうかは、状況や職場環境によって異なります。「配慮があれば働きやすくなる」「理解を得たい」と感じる場合は、信頼できる上司や人事担当者に相談する選択もあります。 一方で、伝えずに働き続けている方もいます。自分が働きやすいと感じる方法を選ぶことが大切です。 Q. 家族や友人に話すべきですか? A. 伝える相手や範囲も自分で決めて構いません。家族や親しい人に理解してもらうことで、生活面の協力を得やすくなることもあります。ただし、相手の理解度や関係性を見ながら、無理のない範囲で話すことをおすすめします。 Q. 障害者手帳は取得した方がいいですか? A. 手帳を取るかどうかは、その方の状況によって異なります。 主なメリット 障害福祉サービスや支援を利用しやすくなる 税制や公共料金の優遇が受けられる場合がある 検討ポイント 手続きに時間や準備が必要 「手帳を持つ」ことに心理的な負担を感じる方もいる 手帳は申請や手続きに時間がかかることもあるので、医師や支援センターなど専門家と一緒に判断していくと安心です。 Q. どんな制度やサービスがありますか A. 代表的な制度としては以下のようなものがあります。 発達障害者支援センター(相談・情報提供) 障害年金(生活・就労に継続的な難しさがある場合) 就労移行支援事業所(働くためのトレーニング・就職活動支援) 発達障害と向き合うために大切なこと 診断を受けることで、「苦手の原因」や「自分の得意なスタイル」が見えてくることがあります。発達障害がある人の中には、集中力・創造力・記憶力などを強みとして発揮できる方も多くいます。 「できないことをなくす」よりも、「できることを増やしていく」意識で取り組むことが、自分らしさを活かす第一歩になります。 こうしたことも含めて、自分の特性を理解しながら、安心して働くための環境づくりは、一人で抱え込まずに進めることが大切です。 就労移行支援事業所ディーキャリアでは、働くことで悩みを抱えている発達障害のある方の支援をおこなっており、発達障害のある方が、自己理解を深められる実践的なプログラムを提供し、また規則正しい生活が送れるトレーニングを行なっています。 発達障害のある方の特性を理解したうえで、個別に最適なトレーニングを提供することが特徴です。 就労移行支援事業所とは、障害のある⽅が就職するための「訓練・就職活動」の⽀援をおこなう障害福祉サービスの一つです。(厚⽣労働省の許認可事業) 就職とは人生の目的を実現するための通過点です。自分の「なりたい」姿を見つけ、障害特性への対策と自分の能力を活かす「できる」ことを学び、社会人として長く働くために「やるべき」ことを身に付ける。 「なりたい」「できる」「やるべき」の 3 つが重なりあうところに仕事の「やりがい」が生まれると、私たちは考えています。 ご相談は無料です。フリーダイヤル、または、24 時間受付のお問い合わせフォームにて、お気軽にお問い合わせください(ご本人様からだけでなく、当事者のご家族の方や、支援をおこなっている方からのご相談も受け付けております)。 お電話(0120-802-146)はこちら▶ お問い合わせフォームはこちら▶ また、全国各地のディーキャリアでは、無料の相談会や体験会も実施しています。 全国オフィス一覧はこちら▶ 就労移行支援事業所ディーキャリアは、「やりがい」を感じながら活き活きと働き、豊かな人生を目指すあなたを全力でサポートします。お一人で悩まず、まずはお気軽にご相談ください。
発達障害の「擬態」─無理せず、自分らしく働くためのヒント

周囲に馴染むために本当の自分を隠そうとする「擬態」についてADHD当事者が解説。無理に特性を隠すことで起こるリスクや対処法について紹介。

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  • #自閉スペクトラム症(ASD)
  • #注意欠如・多動症(ADHD)
「本当の自分を知られたくない」「仕事ができないと思われるのが怖い」「障害があることが知られたら嫌われるかもしれない」 そんな悩みを抱えていませんか。 発達障害のある方のなかには、周囲に特性があることを悟られないように、定型発達者のように振る舞おうとすることがあります。これを「擬態」あるいは「ソーシャルカモフラージュ」と呼びます。 この記事では、ADHDの診断を受けた筆者から、発達障害のある方が無理をして特性を隠すことで生じるリスクと、より無理なく働き続けるための対処法を、経験談を交えてご紹介します。 対処法を知ることで、今の職場やこれからの就労をよりスムーズに続けていくためのヒントになれば幸いです。 執筆者紹介 小鳥遊(たかなし)さん 発達障害やタスク管理をテーマに、2021年まで会社員、2022年からフリーランスとして活動している。 発達障害(ADHD)当事者。主に発達障害や仕事術をテーマとするweb記事を執筆。2020年に共著「要領がよくないと思い込んでいる人のための仕事術図鑑」(サンクチュアリ出版)を執筆し発行部数は10万部を超える。 また、就労移行支援事業所でタスク管理等に関する定期プログラムやセミナー等を実施。企業や大学等での講演、個人/法人のタスク管理コンサルティングもおこなっている。 [toc] 擬態(カモフラージュ)とは何か 「擬態」とは、本来の自分の特性を隠し、周囲に適応するために意識的・無意識的に振る舞いを変えることを指します。発達障害の分野では「ソーシャルカモフラージュ」と呼ばれることもあります。 たとえばASD(自閉スペクトラム症)の方は、「空気が読めない」と指摘された経験から、表情や声色のわずかな変化まで必死に観察し続けます。ADHDの方は「忘れ物が多い」と言われないように、過剰なチェックを常に繰り返します。 このように、「障害がある自分を受け入れてもらえないかもしれない」という不安や、「もう失敗したくない」という体験から、当事者は自分を抑圧し、演じるように振る舞うことがあります。 筆者も、擬態せざるを得ない状況に置かれたことがあります。一般雇用でクローズ就労をしたときのことです。クローズ(=障害を開示しない)なので、当然特性があるとは周囲に言えません。しかも、その会社には、年齢が30代中盤だったことから役職を付けて採用してもらいました。 役職付き、つまりチームのリーダーとしての役割を果たす必要がありました。しかも自分のタスクも当然こなさなければなりません。「ADHDで抜け漏れが多い」「先送り癖がある」とは言えない状況でした。 必然的に、「抜け漏れのないプレイングマネージャーであらねばならない」「チームメンバーの手前、先送りなどしてしまっては示しがつかない」と考えるようになり、擬態を余儀なくされました。 擬態は、ある種の生存戦略でもあります。 相手の反応を見て相槌のタイミングを真似(模倣)する。会議の段取りや資料の形式にも合わせる。こうした調整は、脳機能の特性を補うために生まれることがあります。 実際、筆者は発達障害当事者へのインタビューをする機会も多いのですが、「笑顔で合わせ続けた結果、帰宅後にぐったりして動けない」という声が繰り返し語られます。 発達障害のある当事者がこうした擬態を続けると、「自分を押し殺して、無理に社会に馴染もうとする」生き方になりがちです。しかもそれは仕事の場面だけではありません。 例えば、飲み会で本当は早く帰りたいのに「場を壊さないように」と笑顔を続ける。親族や友人との集まりで、不得意な雑談に相槌を合わせ、興味のない話題に同調する。LINEのやり取りひとつでも「変に思われない言葉」を探して何度も書き直す。休日も「充実している人」を演じるために予定を詰め込み、安心しようとする。 こうして職場でもプライベートでも「社会に溶け込むための演技」を続けるうちに、気がつけば心も体もすっかり消耗してしまうのです。 擬態が生まれる背景 発達障害のある方が「擬態」をする理由には、大きく4つの要因が考えられます。 ①過去の失敗体験 業務上のミスや、学生時代の人間関係での失敗体験。こうした経験から「二度と同じ失敗をしたくない」「これ以上笑われたくない」と思い、過剰な努力で特性を隠そうとします。 筆者自身も、中学時代に学級委員を務めていたとき、全員で暗唱するはずの詩を教室に掲示し忘れ、発表直前になって慌てて貼り出し、そのまま強行させてしまったことがありました。 その結果、クラス文集の「傲慢な人」というアンケートで名前が挙がってしまい、強いショックを受けました。本人にとっては単なる抜け漏れでも、周囲には「横柄で独りよがり」と誤解されてしまったのです。 こうした体験は、「自分の特性をそのまま出すと人に迷惑をかけたり嫌われたりする」という思い込みにつながり、社会人になってからも業務での報告書の不備や手続きの抜け漏れといったミスに過敏に反応し、「次こそは絶対に失敗できない」というプレッシャーを強め、さらに擬態を習慣化していきました。筆者も、特性による業務上のミスをして叱責を受けた経験から、「二度と同じ失敗をしてはいけない」と強く思い込み、体調を崩すほどの残業でリカバリーを重ねたことがあります。 特性上、数字の管理や抜け漏れが多い傾向があり、特に総務で社用車の管理を担当していたときはそれが顕著でした。全国の営業車は1500台、技術者用の車は800台、さらに役員車もあり、それらの状況を毎月所定のフォーマットに入力し、分厚い報告書にまとめる必要がありました。 本来なら定時内で終えるべき作業でしたが、ミスなく提出するためには人の3倍の時間をかけてWチェック、トリプルチェックをするしかなく、ときには深夜3時までかかることもありました。こうした過剰な努力は、一見すると「責任感の強さ」に見えるかもしれませんが、実際には「特性ゆえの苦手さを隠し通すための擬態」でもあったのです。 ②社会的圧力 「空気を読むのが当たり前」「仕事は正確でなければならない」などの職場文化が、発達障害の特性を持つ人にとっては強いプレッシャーになります。筆者も、上司からの無言の期待を読み、「強くメンバーを引っ張るリーダー」に擬態しようとしていました。あるとき、チームの目標設定を上司と決めようとしたとき、「頑張れば到達できるレベル」を設定しました。 上司からは「どう頑張っても到達できなさそうなゴールを設定してこそだ」と指導されました。正直、閉口しました。それでも「会社とは成長率を極限まで押し上げる場所だ」と自分に言い聞かせ、チームに目標を共有しました。 加えて、ASD特性のある方のなかには「場の雰囲気を察した発言」が苦手な方も少なくありません。しかし、日本の社会文化では「暗黙の了解」や「協調性」が強く求められるため、周囲から浮いてしまわないように過剰に適応してしまうことがあります。こうした文化的な背景も、発達障害のある人を擬態に追い込みやすい要因のひとつです。 ③自己肯定感の低下 周囲に理解されない体験が続くと、「本来の自分では認められない」という思い込みが強まり、擬態を手放せなくなります。筆者も、職場で「本来の自分では受け入れられない」と思い込むきっかけになった出来事があります。筆者は臨機応変な対応が苦手という特性が強いと感じており、日常的な会話でも「ちょっとここで気の利いた一言を言わなければ」と思えば思うほど、うまくいかないのです。 たとえば、職場の飲み会で、わざと「最後に面白い一言で締めてよ」と振られることがよくがありました。芸人でもない自分に、急に「笑わせて終わらせろ」と当意即妙な対応を求められても、うまくいくはずがありません。どんな言葉を選んでも空気は冷え、結局は滑って、それを笑いのネタにして場を収める。そんな役回りを押しつけられました。その瞬間は場が和んだように見えても、自分にとっては「なんて自分は役に立たない存在なんだろう」という無力感だけが残りました。気づけば「こんな自分でも、なんとかこの人たちとやっていかなければ」と必死に笑顔を作り、無理に同調するようになっていたのです。自己肯定感は下がり続け、それを補うかのように擬態が習慣化していきました。 ④発達障害への偏見や誤解 「発達障害=できない人」「甘えているだけ」といった偏見や誤解も、当事者を擬態に追い込みます。周囲の理解不足から「特性をそのまま見せたら否定されるに違いない」と考え、本来の自分を隠す習慣が強まります。 筆者も一般雇用のクローズ就労で働いていたとき、特例子会社について上司に尋ねた経験があります。そのグループ企業では農園事業を営む特例子会社があり、筆者は「今後、事務仕事など他の分野にも広げる予定はないのですか?」と聞いてみました。すると上司から返ってきたのは、「障害者でそういった高いレベルのことができる人はなかなかいないのだよ」という言葉でした。 その瞬間、「特性を開示したら、自分も『できない人』と見なされてしまうのではないか」という不安が強まり、言葉を失いました。こうした偏見は当事者に深い無力感を与えるだけでなく、「本来の自分を見せるわけにはいかない」と擬態を強化する原因にもなります。 なお、擬態の裏側では、しばしば「過剰適応」というものが起きています。 「迷惑をかけたくない」「普通でいたい」という気持ちから、限界を超えて合わせ続ける。その積み重ねが、自分の感情と身体の声を消していってしまうのです。気づいたときには「無理がデフォルト」になっていました。 こうして「無理が標準」になると、仕事だけでなく私生活でも、生きづらいと感じる世界に閉じ込められていく感覚が強まります。 擬態がもたらすリスク 精神的な消耗 無理を続けることで、心身は限界に近づきます。燃え尽き症候群(バーンアウト)、うつ病、適応障害といった二次障害につながることも少なくありません。 筆者も、職場で無理を重ねた結果、心身が摩耗して抑うつ症状に陥った経験があります。 以前は当たり前のように昼食を買ってデスクで食べられていたのに、ある時期からは昼休みに席に座っていることすら耐えられなくなりました。会社近くのカフェに逃げ込み、音楽を聴きながら時間を潰しました。「このあと仕事が始まってしまう」と、ただそれだけが怖い。嫌な出来事があったわけでもないのに、ふいに涙がこぼれ、止まらないこともありました。 そんな状態では仕事などできるはずがないのに、「行かなければ」という思いに背中を押され、重たい体と心を引きずるように出社を続けていました。 自己肯定感の低下 そもそもこの「擬態」の根っこにあるのは、単なる「苦手」ではありません。注意力や記憶、感情のコントロールなど、脳機能の偏りから生じる「特性由来の困難さ」です。 それは怠けや努力不足ではなく、脳の仕組みによってどうしても現れてしまうものです。しかし、その事実を知らないまま「自分が弱いからだ」と思い込むと、深い自己否定へとつながってしまいます。 だからこそ、見えないところで無理する/頑張りすぎる状態が続き、気づけば常に疲れる・慢性的な疲労・「なんだかしんどい」が日常になります。こうした状態は「生きているのに生きづらい」という感覚を強めていきます。 筆者も、自分を否定し続けた結果、まったく自信が持てなくなった時期がありました。本来なら誰でもできるはずの単純な業務でさえ、「自分には絶対にできない」と思い込んでしまうのです。 例えば社内の備品をパソコン上で発注する場面。ボタンを押すだけの作業なのに、「間違えて大量にコピー用紙を頼んでしまうのではないか」「押した瞬間に自分のミスが露呈して迷惑をかけるのではないか」と強く不安が膨らみました。 それは「かもしれない」ではなく、「きっとやってしまう」という確信めいた恐れでした。その結果、「自分はダメだ」「これはやってはいけない」と思い込み、手が止まります。そのために業務が滞り、周囲から注意され、さらに自分を否定する。そんな悪循環に陥った経験があります。 診断や支援が遅れる 特性を隠し続けると、周囲からは「問題ない人」と見なされ気づかれないまま時間が過ぎ、結果として診断が遅れることがあります。 筆者も、まさにその一人でした。自分を認められないがゆえに、特性をひた隠しにし、「抜け漏れがある」「先送りしてしまう」「段取りが苦手」といった自分の姿を否定し続けていました。 常に背伸びをし、何とか「普通の社会人」として振る舞おうとする毎日は、自己受容という本来のスタート地点に立つことを長く遅らせていたのです。 その結果、自分なりのやり方を模索し、適切に自分を支える仕組みとして「タスク管理」を習得し始めるまでに、ADHDの診断を受けてから実に8年もの時間を要してしまいました。 擬態から解放されるために 擬態を完全にやめることは難しいかもしれません。しかし「無理をし続ける」状態から少しずつ距離を置く工夫は可能です。 自己理解を深める 自分の特性や苦手を知り、「どこまでなら努力できるか」「どこからは支援が必要か」を整理しましょう。 筆者は、残念ながら、当時は就労移行支援事業所などの福祉的な支援の存在をあまり知らず、すべてを自力で解決しようとしてしまいました。そのために非常に長い時間がかかってしまったのですが、振り返ってみると大切だったのは「前向きな諦め」でした。 「諦め」という言葉にはネガティブな響きがあります。ここで言うのは、等身大の自分を知り、苦手を認めるという前向きな諦めです。最初は敗北感が伴います。それでも、その先には大きな解放感と希望が広がっていました。 例えば筆者は「忘れっぽい」特性があります。それを隠そうとすると苦しいだけでしたが、「自分は忘れてしまう」と認めたうえで、「だから大事なことはすべて紙に書いておく」という仕組みを作ることで安心して動けるようになりました。つまり、こうした工夫こそが「支援」であり、自分を守るための大切な対策なのだと実感しています。 周囲に伝える(カミングアウト) 信頼できる上司や同僚に、必要な配慮を伝えることで、無理をせずに働ける環境が整います。 筆者の経験では、一般雇用のクローズ就労ではうまくいきませんでした(あくまで筆者の場合です)。毎日顔を合わせる仲間だからこそ、自分の特性をある程度開示し、素の自分を知ってもらったうえで仕事をしたいという気持ちが強かったのです。 そのため、障害者雇用としてオープン就労で入社した会社では、合理的配慮を無理なく伝えることができました。そして、それをチーム全体で共有してもらうことで、「特別扱いをしてもらう」こと以上に「自分の特性を知ってもらえている」という安心感が生まれました。その安心感は常に抱えていた緊張を和らげ、結果として無理をせず働き続けることにつながりました。 もちろん、人によってはクローズ就労でも、工夫や対策を積み重ねることで「苦手はあるけれど自分なりにやっていけている」という自信を持ち、職場を居場所と感じられる場合もあると思います。 大切なのは、自分にとって「どの程度まで素の自分を出せるか」を見極めることです。いずれにしても、自分を完全に偽ることなく過ごせる環境であれば、無理をせずに長く働き続けることができ、自分本来の力を発揮することができると実感しています。 小さな工夫を取り入れる とはいえ、完全に自分自身をそのまま受け入れてもらうのは難しいものです。 会議中のメモを許可してもらう 締め切りを細分化する 静かな作業環境を確保する など、自分の特性に合わせた工夫を少しずつ実践していくことをお勧めします。 筆者自身も抜け漏れが多い特性がありますが、「抜け漏れをしてしまう自分をそのまま許してほしい」と訴えるわけにはいきません。 大切なのは、まず「抜け漏れをする」という事実を認めること。そのうえで、「抜け漏れを防ぐ方法」「抜け漏れが起きても致命傷にならない仕組み」を考えることでした。 そうした工夫を積み重ねていった結果、今の自分に合ったタスク管理の仕組みを作り上げることができました。 もちろん、人によって工夫の仕方は異なります。ある人にとっては「話し方を工夫する」ことかもしれませんし、「挨拶を丁寧にする」ことや、「人の嫌がる雑務を率先して引き受ける」ことかもしれません。 そうした小さな工夫を積み重ねていくことは、職場に溶け込み、長く働き続けるために決して無駄にはなりません。自分に合ったやり方を見つけることが、無理をしすぎない働き方の第一歩だと実感しています。 無理を続ける前に──支援という選択肢 無理をしすぎず働き続けるには、自分なりの工夫が欠かせません。ただ、筆者はそれをすべて独力でやろうとして、結果的に大きく遠回りしました。 もしあの頃、就労移行支援事業所のような専門的なサポートの場があることを知っていれば、もっと早く自己理解を深め、無理なく働ける方法を身につけられたのではないかと思います。支援を受けることは甘えではなく、自分の可能性を広げるための大切な手段です。 就労移行支援事業所ディーキャリアでは、働くことで悩みを抱えている発達障害のある方の支援をおこなっており、発達障害のある方が、自己理解を深められる実践的なプログラムを提供し、また規則正しい生活が送れるトレーニングを行なっています。 発達障害のある方の特性を理解したうえで、個別に最適なトレーニングを提供することが特徴です。 就労移行支援事業所とは、障害のある⽅が就職するための「訓練・就職活動」の⽀援をおこなう障害福祉サービスの一つです。(厚⽣労働省の許認可事業) 就職とは人生の目的を実現するための通過点です。自分の「なりたい」姿を見つけ、障害特性への対策と自分の能力を活かす「できる」ことを学び、社会人として長く働くために「やるべき」ことを身に付ける。 「なりたい」「できる」「やるべき」の 3 つが重なりあうところに仕事の「やりがい」が生まれると、私たちは考えています。 ご相談は無料です。フリーダイヤル、または、24 時間受付のお問い合わせフォームにて、お気軽にお問い合わせください(ご本人様からだけでなく、当事者のご家族の方や、支援をおこなっている方からのご相談も受け付けております)。 お電話(0120-802-146)はこちら▶ お問い合わせフォームはこちら▶ また、全国各地のディーキャリアでは、無料の相談会や体験会も実施しています。 全国オフィス一覧はこちら▶ 就労移行支援事業所ディーキャリアは、「やりがい」を感じながら活き活きと働き、豊かな人生を目指すあなたを全力でサポートします。お一人で悩まず、まずはお気軽にご相談ください。
発達障害の特性に合わせた「合理的配慮」で、自分らしく働く

2024年4月から職場での「合理的配慮」が法的義務になりました。自分らしく無理なく働くためには、自分に合った配慮を見つけることが大切です。

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「特性によって、どうしても苦手な業務がある」「障害への理解をしてもらいたいけど、どうしたらよいか分からない」「合理的配慮という言葉は聞いたことがあるが、よく知らない」 そんな悩みを抱えていませんか。 発達障害のある方は、働きづらさを自分の努力だけで解消することが難しい場合があります。障害による困難がある場合には、企業に「合理的配慮」の提供を依頼することができます。 2024年4月1日に改正障害者差別解消法が施行され、合理的配慮の提供は、これまで民間事業者にとっては「努力義務(するように努めなければならない)」とされていたものが「法的義務(しなければならない、守らない場合には罰則を科される)」になりました。 本記事では、職場での「合理的配慮」とは何か、その基本的な考え方や、合理的配慮の伝え方、具体的な事例などを、わかりやすく解説します。 「合理的配慮」と聞くとハードルが高いイメージを持たれる方も少なくないですが、実際には、働く人が力を発揮しやすくするための小さな工夫であることが多いです。そういった「自分に合った」働きやすい工夫を知ることが、安心して働き続けるための第一歩になります。 あなたが無理なく、自分らしく働き続けるためのヒントになれば幸いです。 執筆者紹介 小鳥遊(たかなし)さん 発達障害やタスク管理をテーマに、2021年まで会社員、2022年からフリーランスとして活動している。 発達障害(ADHD)当事者。主に発達障害や仕事術をテーマとするweb記事を執筆。2020年に共著「要領がよくないと思い込んでいる人のための仕事術図鑑」(サンクチュアリ出版)を執筆し発行部数は10万部を超える。 また、就労移行支援事業所でタスク管理等に関する定期プログラムやセミナー等を実施。企業や大学等での講演、個人/法人のタスク管理コンサルティングもおこなっている。 [toc] 合理的配慮とは? 合理的配慮とは、「障害者差別解消法」や「障害者雇用促進法」にもとづき、障害のある人が他の人と平等に活動できるよう、本人の求めに応じて就業環境や方法を企業側と調整することです。 特に発達障害は先天的な脳機能・神経系の特性であるとされているため、本人の努力や工夫だけでは解消できない困難が生じることがあります。そうした困難を補うために、企業のサポート=合理的配慮の依頼を検討することが重要です。 合理的配慮を依頼するときに知っておきたいポイントについて紹介します。ここでは、3つの基本ポイントを整理したうえで、令和6年施行の改正についてもお伝えします。 ポイント①:話し合いで決まる「負担が重すぎない範囲」 合理的配慮は、企業等が「過重な負担でない範囲」で提供するとされています。例えば、車椅子利用者が「エレベーターから近い席を希望する」場合は負担は軽いですが、「オフィスを1階に移転してほしい」となると費用や影響が大きく、過重な負担となります。 提供の可否は、事業活動への影響、実現の難易度、費用などを総合的に踏まえて判断されます。大切なのは企業等と本人との調整であるという点です。本人も自己対処で解消できる部分は自分で対応し、残る困難についてできるだけ負担を少なく解消する方法をすり合わせることが大事です。 更に、以下の3つの条件を満たす必要があります。 必要とされる範囲で、本来の業務に付随するもの 障害のない人との比較において、同等の機会の提供を受けるためのもの 事業そのものの目的・内容・機能の本質的な変更には及ばないもの ポイント②:手帳がなくても求められる 合理的配慮は、「身体障害、知的障害、精神障害、発達障害、その他の心身の機能の障害がある方」かつ「障害による職業生活における制限や困難がある方」が対象になりますが、障害者手帳の有無は問われません。医師の診断書も法律上必須ではありませんが、実際の申請や話し合いでは、配慮内容の検討や公的支援の申請資料として求められることが多くあります。 ポイント③:配慮の申し出は本人から 合理的配慮は、本人からの申し出がある場合に提供すると定められています。これは、2006年採択の国連「障害者権利条約」が掲げた “Nothing about us without us”(私たち抜きに私たちのことを決めるな)の理念に基づくものです。 そもそも、発達障害は特性が十人十色であり、必要な配慮内容も人それぞれ異なります。さらに外見からは分かりにくいため、本人が具体的に言葉にして伝えることが、適切な配慮を得るために欠かせないのです。 令和6年施行の改正について 令和3年(2021年)の障害者差別解消法改正により、民間事業者にも障害のある人への合理的配慮提供が義務化されることが決まり、令和6年(2024年)4月1日から施行されました。 これにより、従来は努力義務だった民間事業者も、申し出があれば過重な負担でない限り必ず検討・実施することが必要になりました。不対応の場合は合理的理由の説明が求められ、行政の勧告・公表や民事での損害賠償リスクが発生します。そのため企業は、対応記録や説明責任を果たす仕組み、社内マニュアルや研修など、組織的な体制整備が不可欠です。 なお、行政などの公的機関においては、障害者雇用促進法に基づき、平成28年(2016年)からすでに事業主に合理的配慮の提供の義務が課されています。今回の改正は、これまで対象外だった民間事業者全般に法的義務が拡大されたものです。 「合理的配慮」申請の流れ 合理的配慮の提供を申請する際、次の3点を伝える必要があります。 ①障害による困難であること②本人の自己対処では解決できないこと③企業にとって過重な負担でないこと 合理的配慮の提供には本人からの申し出が必要だということはすでにお伝えしましたが、特に発達障害のように外見から困難が分かりにくい場合は、具体的な内容を伝えなければ配慮は難しいことがあります。 それを踏まえ、以下の4つのステップを順番にやっていくことが必要になります。 ステップ1:仕事上の困難を把握する まずは自分の特性を知ることから始めます。これまでの仕事やアルバイト、学校生活を振り返り、困難を感じた場面を書き出します。例として、ケアレスミスが多い、曖昧な指示が理解しづらい、周囲の音で集中できないなどがあります。 この「書き出し」で重要なのは、過去の失敗を責めず、困難そのものを単なる客観的事実として受け止めることです。頭の中だけでなく、書き出すことで客観的に整理しやすくなります。そうすることで、自分を理解し、次の行動につなげることができます。 ステップ2:困難への自己対処法を考える 次に、自分でできる対処がないかを検討します。ステップ1で洗い出した困難さの一つひとつについて、以下のような表形式にすると整理がしやすくなります。 仕事上の困難さ自己対処法ケアレスミスや忘れ物・無くし物が多い仕事の手順や持ち物のチェックリストを作って確認する曖昧な表現(だいたい、なるべく早くなど)が理解できない何を・いつまでに・どのようにするのか、質問して確認する周囲の話し声や環境音に敏感で、集中が難しい集中が必要な作業をおこなう時間帯を決め、その時間は話しかけない、電話を取り次がないよう、周囲にお願いする ステップ3:企業に依頼する配慮を考える 発達障害のある方の場合、必要な配慮は一律ではありません。特性は十人十色で、障害による困りごとや適切なサポート内容は一人ひとり異なります。自己対処では対応しきれない困難について、自分に合った形を「自ら」考え、勤務先に伝えることが大切です。 ステップ2で整理した自己対処で仕事上の困難が解消できる項目は合理的配慮の対象から外します。残った「自己対処では対応しきれない困難」について、企業にどのような対応をしてもらえば解決できるのかを「依頼したい配慮事項」として考えることになります。 配慮事項をまとめる際は、「いつ・誰が・どのようにおこなうのか」を具体的に示すことが大切です。企業側が「何をすればよいのか」を一目で理解できるよう、先ほどの表に書き加えながら整理していきます。 仕事上の困難さ 自己対処法 配慮の要否 依頼したい配慮事項 ケアレスミスや忘れ物・無くし物が多い 仕事の手順や持ち物のチェックリストを作って確認する 不要 特になし 曖昧な表現(だいたい、なるべく早くなど)が理解できない 何を・いつまでに・どのようにするのか、質問して確認する 要 完成品のイメージが合っているか、期限までに何回か確認のお時間をいただきたい。もし可能であれば口頭ではなく、メールやチャット等の文面で依頼いただきたい。 周囲の話し声や環境音に敏感で、集中が難しい 自己対処では解決が困難ため、配慮事項を依頼する 要 集中が必要な作業をおこなう行う時間帯を決め、その時間は話しかけない、電話を取り次がないよう、周囲にお願いする。業務上で支障がなければ、集中作業時に耳栓等を付ける許可をいただきたい。 筆者自身、実際に企業へお願いした配慮事項は、「怒らないでいただきたい」というものでした。 筆者は「抜け漏れ」「先送り」「段取りの要領の悪さ」、そして「叱責されると焦ってなおさらミスを誘発してしまう」といった困難さを抱えていました。最初の3つはタスク管理で自己対処できるとし、実際に筆者が企業側へ配慮を依頼したのは「指摘をいただく際は、怒るのではなく、提案という形で冷静に伝えてほしい」という一点でした。 この配慮のおかげで安心して働くことができ、7年間の就労の中で感情的に叱責されたのは一度だけでした。その1回は、今考えてもしょうがなかったと自分でも思えるものでしたので、結果としてとても意味のある配慮の依頼だったと考えています。 ステップ4:企業に申し出る ステップ1〜3で整理した「困難さ」「自己対処」「配慮事項」をもとに、企業へ合理的配慮を申し出て話し合います。雇用形態により、以下の3つのパターンが考えられます。 パターン1:障害者雇用枠で就職・転職 応募書類や面接で3項目を説明し、提出用と自分用の資料を用意。企業から質問がなくても自ら相談します。 パターン2:障害を開示して働いている場合 上司や人事に直接相談し、資料を見ながら共有します。既存の配慮が不十分な場合も調整を依頼することをお勧めします。 パターン3:一般雇用で非開示の場合 慎重に進め、産業医や外部支援機関に守秘義務のもと相談。必要に応じて雇用条件の見直しや障害者雇用への切替も検討。障害は非開示なので、あくまで「困りごと」への対処として企業側に相談します。本パターンは、合理的配慮の法的義務の対象にならないため注意が必要です。 発達障害のある方の「合理的配慮」事例 具体的に、どのような内容であれば企業に合理的配慮としてサポートを求められるのでしょうか。ここでは、発達障害のある方に対し、実際に企業で提供されている配慮の事例をまとめました。 あくまで「一例」であり、すべての企業で同じ対応が受けられるわけではありませんが、ご自身の特性や職場環境に合わせて、どのような依頼が適切かを考える際の参考にしてください。 発達障害のある方の合理的配慮の事例1:作業への配慮 仕事上の困難さ提供されている合理的配慮急な予定の変更や、臨機応変な対応が苦手一日の業務スケジュールを立てた上で、その通りに業務指示をもらっている。業務スケジュールに変更が生じる際には、上司から事前に説明を受けている。指示を「口頭」でおこなった場合、一度で覚えきれずに、抜け漏れが発生してしまう指示の内容は社内のチャットツールを使い「文章」で受け取っているマニュアルや手順書等で、作業や指示内容を随時確認できるようにしてもらっている。作業の優先順位付けが苦手なため、複数の社員から指示をされると、混乱して効率よく作業が進められない指示系統を一本化し、指示をおこなう担当者を決めてもらっている。担当者以外から本人に直接指示があった場合、自分から担当者に相談をして、どのように作業を進めるか指示してもらっている。マルチタスク(複数の作業を、同時に進める)が苦手一つの作業が終わってから、次の作業の指示を出してもらっている。「だいたい」「おおよそ」「なるべく」「できるだけ早く」などの曖昧な表現から、意図を想像して業務を調整することが難しい作業の期限日、必要な数量などを明確にし、具体的な説明を受けている。 発達障害のある方の合理的配慮の事例2:仕事環境への配慮 仕事上の困難さ提供されている合理的配慮聴覚過敏で、周囲の話し声や電話の着信音、椅子を引く音などがあると、作業に集中できない集中が必要な作業の際には、耳栓の着用を許可してもらっている。視覚的な情報に反応しやすく、周囲が気になって、作業に集中することが難しい集中して作業ができるよう、席にパーテーションで仕切りを設けたり、人の動きや掲示物等が目に入りにくい座席配置にしたり、職場環境の調整をしてもらっている。 発達障害のある方の合理的配慮の事例3:コミュニケーションへの配慮 仕事上の困難さ提供されている合理的配慮周囲に迷惑をかけていないか気を遣いすぎることや、何をどう質問したらいいかわからないことから、自ら相談することが苦手毎日の朝礼と終礼の時間に、疑問点や不明点などを質問する時間を設けている。誰に相談をすれば良いのか分からないときに、相談ができないまま業務を進めてしまうことがある相談窓口となる社員を決めて、どのようなことでも、まずはその社員に相談をするようにしている。雑談が苦手、過集中で頑張りすぎてしまいがちである、疲労を自覚しながら業務のペース配分をすることが苦手であるなどの理由で、休憩時間に心が休まらず、十分な休憩が取れない休憩室として個室を別に設けている。人の少ない静かなエリアや、空いている会議室を休憩時間に使う許可をもらっている。不安傾向が強く、業務を滞りなくおこなえているのか、常に不安を感じてしまう週に一度、その週の業務を振り返り、できている点や、もう少し頑張って欲しい点などをフィードバックしてもらう時間を設けている。 発達障害のある方の合理的配慮の事例4:勤務条件への配慮 仕事上の困難さ提供されている合理的配慮仕事上の困難さ提供されている合理的配慮体調不良の際に、満員電車など人が多い環境に長時間いると気分が悪くなってしまうことがある体調が優れない日は、事前に上司に連絡した上で、時差出勤の許可を得ている。業務量や業務内容の調整をするなどの対応をするようにしている。毎月1回、通院のために休暇が必要予め、通院日のスケジュールを上司と共有しておき、通院日は優先的に休めるように調整している。 ここで紹介した事例はあくまで一例であり、職場の状況や本人の特性によって必要な配慮は異なります。大切なのは、「困っていること」を具体的に伝え、あくまで企業と相談しながら自分に合った方法を一緒に探していくことです。こうした対話を重ねることで、無理なく力を発揮できる環境づくりにつながります。 合理的配慮のよくある質問集 これまでに寄せられたご相談の中から、「合理的配慮」に関するよくある質問をまとめました。ほかの人がどんな点で悩み、どのように考えているのかを知ることで、ご自身の課題を解決するヒントが見つかるかもしれません。 詳しく知りたい方は「合理的配慮のよくある質問集」も合わせてお読みください。 Q1. どんな申し出でも対応してもらえるの? どんな申し出も対応してもらえるとは限りません。合理的配慮は「障害による困難のうち、企業にとって過重な負担にならない範囲」で提供されます。また、実際は本人の自己対処では対応しきれない場合であることが多いです。一方的な要求ではなく、あくまで企業と当事者が話し合い、現実的に可能な方法をすり合わせるという姿勢が大事です。 Q2. 障害を開示せずに求められる? 合理的配慮は障害があることを前提に提供されます。そのため、申請には障害を開示する必要があります(証明書類についてはQ4参照)。 Q3. 対象は誰? 対象は手帳の有無や雇用形態に関係なく、身体障害・知的障害・精神障害(発達障害含む)などにより長期的に職業生活が制限される人です。所定労働時間の長短も条件にはなりません。 Q4. 手帳がない場合の証明方法は? 主な方法は2つあります。1つは自治体が発行する「受給者証」(医療・福祉サービス利用時に交付)、もう1つは障害名が記載された「医師の診断書または意見書」です。発達障害では後者が多く使われます。企業によっては提出を求めない場合もあります。 なお、障害者雇用で就労するのであれば、手帳の取得は必須になるので、手帳なしで自身の障害を証明するのは、一般雇用でオープン就労する場合に限ることに注意が必要です。一般雇用/障害者雇用とオープン/クローズ就労の関係については、以下の記事に分かりやすく整理してあるのでご覧ください。 Q5. 断られることはある? 断られる可能性があります。例えば、周囲の物音に過敏に反応してしまうためパーテーションを設けて欲しくても、物理的に設置が難しい場合や、産業医などによる対面の面談サポートが必要とした場合に産業医の稼働が頻繁には難しいといった場合などです。ただし、「パーテーション設置は困難だが着席位置や備品で対応」「対面面談は難しいがメール相談は可」など代替案が出ることもあります。重要なのは、企業の事情と自分の困難の両方を踏まえたすり合わせです。 ここで取り上げた質問と回答は、あくまで代表的な事例や考え方に過ぎません。合理的配慮は、職場環境や業務内容、そして当事者の特性によって形が変わります。大切なのは、疑問や不安を抱えたままにせず、必要な情報を集め、企業等と丁寧に話し合いながら最適な方法を探していくことです。 合理的配慮を「あなたの働きやすさ」に変えるために 自分に必要な合理的配慮を受けるためには、困りごとや依頼したいことを一方的に伝えるだけでなく、「対話のプロセス」が大事になってきます。 配慮の内容は人によっても職場によっても異なります。大切なのは、自分の特性や困難さを具体的に整理し、企業等とすり合わせながら、現実的に続けられる方法を見つけることです。 そんなときは、「一人でなんとかしよう」と抱え込まずに、誰かと一緒に考える、という方法もあります。 自分の特性を整理しながら、「どんな働き方なら安心できそうか」「どうすれば自分の力を活かせるのか」を、少しずつ言葉にしていく。そのプロセスを、伴走してくれる場所があるということを、ぜひ知っておいてほしいのです。 就労移行支援事業所ディーキャリアでは、働くことで悩みを抱えている発達障害のある方の支援をおこなっており、発達障害のある方が、自己理解を深められる実践的なプログラムを提供し、また規則正しい生活が送れるトレーニングをおこなっています。 発達障害のある方の特性を理解したうえで、個別に最適なトレーニングを提供することが特徴です。 就労移行支援事業所とは、障害のある⽅が就職するための「訓練・就職活動」の⽀援をおこなう障害福祉サービスの一つです。(厚⽣労働省の許認可事業) 就職とは人生の目的を実現するための通過点です。自分の「なりたい」姿を見つけ、障害特性への対策と自分の能力を活かす「できる」ことを学び、社会人として長く働くために「やるべき」ことを身に付ける。 「なりたい」「できる」「やるべき」の 3 つが重なりあうところに仕事の「やりがい」が生まれると、私たちは考えています。 ご相談は無料です。フリーダイヤル、または、24 時間受付のお問い合わせフォームにて、お気軽にお問い合わせください(ご本人様からだけでなく、当事者のご家族の方や、支援をおこなっている方からのご相談も受け付けております)。 お電話(0120-802-146)はこちら▶ お問い合わせフォームはこちら▶ また、全国各地のディーキャリアでは、無料の相談会や体験会も実施しています。 全国オフィス一覧はこちら▶ 就労移行支援事業所ディーキャリアは、「やりがい」を感じながら活き活きと働き、豊かな人生を目指すあなたを全力でサポートします。お一人で悩まず、まずはお気軽にご相談ください。
事務が苦手でも働き続けるために。ADHD当事者が辿り着いた対処法

なぜ事務が苦手?どうすれば働きやすくなる?ADHD特性で事務作業が苦手な方に向け、見える化・仕組み化など実践的な仕事術を紹介します。

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  • #注意欠如・多動症(ADHD)
「経費精算、いつもギリギリ…先延ばしの自分が嫌になる」「タスクを整理したはずなのに、気づけば頭がパンクしてる」 こんなお悩みを抱えていませんか。ADHDがある方で事務作業への苦手意識がある方は少なくありません。 仕事をするうえで避けて通れないのが「事務仕事」の存在。でも、ADHDのある方にとって、この“地味で当たり前なはずの仕事”が、どうにもこうにも苦手なことがあります。本記事では、筆者の書籍『ADHDの僕が苦手とされる事務にとことん向き合ってみた。』(大和書房)をベースに、ADHDの特性と「事務」とのつきあい方について紹介します。 あなたがこれからの職場で、無理なく、安心して働き続けていくためのヒントになれば幸いです。  執筆者紹介 小鳥遊(たかなし)さん 発達障害やタスク管理をテーマに、2021年まで会社員、2022年からフリーランスとして活動している。 発達障害(ADHD)当事者。主に発達障害や仕事術をテーマとするweb記事を執筆。2020年に共著「要領がよくないと思い込んでいる人のための仕事術図鑑」(サンクチュアリ出版)を執筆し発行部数は10万部を超える。 また、就労移行支援事業所でタスク管理等に関する定期プログラムやセミナー等を実施。企業や大学等での講演、個人/法人のタスク管理コンサルティングもおこなっている。 [toc] ADHDが事務作業を苦手とする理由 ADHD(注意欠如・多動症)は、先天的な脳機能や神経伝達の障害で発達障害のひとつです。「不注意」「多動性」「衝動性」といった特性が日常生活や仕事に影響を及ぼします。 たとえば… 不注意 → ケアレスミス、忘れ物、抜け漏れ 衝動性 → 気づいたら他のことに手を出してしまう 多動性 → 頭の中が常に動いていて、落ち着いて段取りを考えられない これらは、まさに「事務作業」と真っ向からぶつかってしまう特性です。優先順位を立てたり、書類を揃えたり、物事を順序だてて淡々と進めたりする「事務」は、ADHDのある方にとっては「苦手が凝縮されたジャンル」と言っても過言ではありません。 そもそも「事務」ってなんだろう? 「事務」と聞いて、どんな仕事を思い浮かべますか? 多くの方がまず思い浮かべるのは、いわゆる“事務職”の人がやる仕事内容のイメージかもしれません。 たとえば、伝票処理や資料の印刷、会議室の予約、備品の管理。そういった「オフィスの裏方」を支える業務です。一方で、筆者が自身の困りごとに向き合い、再定義した「事務」という言葉は、それを含むもっと広い意味を持っています。 目の前の目的を、確実に達成するための地道なプロセス。派手ではないけれど、現実を一歩ずつ進めていくために欠かせない動き。 たとえば旅行を計画するとき 「フランスでルーブル美術館に行きたい!」という目的があったとします。 それを実現するには、具体的にどんな行動が必要でしょうか? 飛行機やホテルを予約する 休暇の日程を職場に申請する パスポートや荷物の準備をする 滞在中の移動手段を調べる このように、目的を“実現可能な形に落とし込む”プロセスが発生します。 これこそが「事務」です。どんな人のどんな活動にも内包されている「共通の要素」であり、「夢や目的を絵に描いた餅にしないための現実的な行動」――これが「事務的な動き」の本質です。 どんな仕事にも「事務」がある たとえば、営業職であれば、訪問や商談が「本番」かもしれません。 でも、その前には、 スケジュール調整 顧客情報の整理 提案資料の準備 報告書の作成 といった、準備のプロセスが不可欠です。就労の場面では、「業務遂行能力」という言葉がよく使われます。これは単なるスキルや知識のことではなく、仕事を現実的に、安定して続けていけるだけの“足場”があるかどうかとも言い換えられるでしょう。ADHDのある方にとって、「事務」に向き合うとは、まさにその“足場づくり”です。 頭の中の混乱を整理する 一人抱え込まず他人と連携できるようにする 忘れやミスを減らす仕組みを作る これらの行動は、どれも「事務的」な動きでありながら、自分らしく働くための支えになります。「事務」は単なる裏方仕事ではなく、仕事を進める“エンジン”であり、“土台”であり、“保険”でもあるのです。 就労に困り感を抱えている方が安心して働くためには、この「事務」との向き合い方が、とても大きな一歩になるはずです。 仕事が動き始める、「3つのギモン」 ADHDのある方が「仕事をやろうと思っても、なぜか動けない」「気づけば別のことをしていた」という経験を持つことは少なくありません。 その背景には、頭の中で物事が絡まってしまい、何から始めればいいのか見えなくなる。そんな“見えないハードル”があるからです。 筆者も、かつてはその一人でした。 事務作業にどうしても苦手意識が拭えず、仕事が思うように進まない日々。休職を経て復職したあと、ようやくたどり着いたのが、「3つのギモン(問い)」を自分に投げかけるというシンプルな方法でした。 ① どうやる?(=分解) やるべきことを細かい手順に分解する。これが「どうやる?」です。たとえば「レポートを出す」なら、 何を書くかメモする Wordで下書きを書く 添削してPDFに変換する 上司に送る というように、「行動レベル」に落とし込んでいきます。ADHDのある人は、“ざっくりしたまま”だと混乱しやすく、手が止まってしまう傾向があります。 でも、手順として見える形にすると、とたんに「できそうな感じ」が生まれ、動きやすくなるのです。 ② いつやる?(=日付) 手順ひとつひとつに日付を入れていく。これが「いつやる?」です。「構成を考えるのは月曜の午前中、下書きは火曜日の午後」といった具合に、自分なりの予定を置くことで、「今やること」「あとでやること」の整理がつきます。その仕事をどう進めるか「スケジューリング」をする、と言っても良いでしょう。 ここで大切なのは、完璧なスケジュールを作ろうとしないこと。 あくまで「仮置き」でいい。状況に応じて変えても大丈夫です。 予定があるだけで、「動き方」が見えてくる。それが、日付を置くことの効果です。 ③ だれがやる?(=担当) 「この作業は本当に自分がやるのか?」という「だれがやる?」というギモンを立てます。手順ごとに「自分」とか「相手」あるいは「同僚のAさん」「上司のBさん」といった形で、作業の担当者を付け加えていくのです。 全部自分で抱え込んでいませんか? 人に頼めること、分担できることがあるかもしれません。たとえば、 会議の議事録は同僚のAさんに頼む 書類の準備は上司のBさんに確認をとってもらう 役所の手続きは家族に手伝ってもらう といったように、「誰に任せられるか」を考えるだけで、自分の負担は大きく変わります。 そしてそれは、人に頼る練習にもつながっていくのです。 どのように書き出すのか これらの「3つのギモン」をどのように実際に書き出すのかは自由です。ツールも問いませんし、自分が分かれば良いので、決まった型はありません。とはいえ、イメージはつきづらいと思いますので、参考までに筆者の書き方をお伝えします。 「会議資料作成」 └7/24 資料案作成【自分】 └7/25 資料案のチェックを同僚のAさんへ依頼する【自分】 └7/27 Aさんからチェック結果が帰ってくる【相手(Aさん)】 └7/28 資料案へチェック結果を反映させる【自分】  └7/29 完成させた資料を上司のBさんへ提出する【自分】 筆者はこのような形で仕事を書き出しています。ただ、必ずこの形にしなければいけないのではありません。この例は、3つのギモンを全て活用しましたが、一部だけ組み合わせて活用するのも大丈夫です。 「仕組み」で“自分”を支えるという考え方 この「3つのギモン」は、特別な道具やスキルがなくても実践できる、ADHDのある方が“自分らしく働くための足場です。 仕事のことで頭がぐるぐるして動けないとき やらなきゃいけないことが山積みのとき 誰にも頼れず、ひとりで抱え込んでしまいそうなとき そんなときこそ、この3つのギモンを思い出してみてください。 「どうやる?」「いつやる?」「だれがやる?」をひとつずつ書き出すだけで、頭の中が整理されて、仕事が少しずつ動き出す感覚が得られるはずです。 次の節からは、そんな「3つのギモン」をどのように活用していくのかを、困りごとの事例を挙げながら3つお伝えしていきます。 困りごと別、「事務」活用法①モヤッとした仕事、「よくわからない」せいで手が止まる やらなきゃいけないのは分かっている。むしろ、やりたいと思っていても、いざ取りかかろうとすると、手が止まってしまう。そんな経験、ありませんか? あるクライアントさんのお話です。専門分野を活かしてセミナーを開催したいという思いがありました。けれど、なかなか行動に移せません。理由をうかがってみると、 セミナーのイメージが具体的に湧かない どんなふうに集客すればいいのか分からない 当日の流れを考えるだけで、なんだか気が重くなる といった、「漠然とした不安」がいくつも積み重なっていたのです。 曖昧なものには、人は動きづらい これは、発達障害、特にASD(自閉スペクトラム症)の特性がある方によく見られる傾向ですが、「曖昧さ」に対する不安が強く、手をつける前に止まってしまいやすいのです。実は筆者自身もADHDの診断を受けていますが、曖昧なものに対して不安を感じやすいという点では、ASDの特性による傾向にも共感します。(ADHDとASDが併存するケースは多く、診断がいずれかであっても、もう一方の特性が見られる方は少なくありません) 「やらなきゃ」と思う気持ちはあっても、 「何からどうすればいいの?」となると、手が止まり、気持ちが焦るばかりになります。 でも、仕事には“カタチ”を与えられる そんなときに役立つのが、「仕事にカタチを与える」という考え方です。たとえば、「セミナー開催」という目標があるなら、それをそのまま“やること”と考えると、どうすればいいのかが曖昧なままになってしまいます。そこで、「3つのギモン」を活用します。 どうやる?(分解):作業を手順に分ける いつやる?(日付):それぞれの手順に日付を入れる だれがやる?(担当):自分か、誰かに頼むか明確にする たとえば、こんなふうに「セミナー資料を作る」だけでも具体化できます。 4/2 既存の資料に付箋を貼りながら確認する【自分】 4/4 修正する【自分】 4/4 友人Cさんに内容チェックを依頼する【自分】 4/8 友人Cさんからのフィードバックを受け取る【友人】 4/10 修正を反映する【自分】 こうして「カタチ」ができると、 曖昧だった“やりたい仕事”が、見える手順の集合体になります。 これだけで、「これならできるかも」と思えてくるのです。 手が動かないのは、あなたのせいじゃない 行動できないことに対して、「自分の意志が弱いせいだ」と思ってしまう人は少なくありません。でも、実はそうではないのかもしれません。 「カタチが見えないから、不安になる」 「具体的にどうすればいいか分からないから、止まる」 このように、“やる気”ではなく“構造”の問題として捉えることで、 自分を責めずに、新しい一歩を踏み出すことができます。実際に、クライアントさんも、「仕事の見える化」ができたことで一気に前に進み、セミナーを無事開催されました。 困りごと別、「事務」活用法②「重い仕事」ばかり残って、しかも消えない TODOリストは便利です。 やるべきことを並べて、終わったら線を引く—— そうして一つひとつ片づけていくのは達成感がありますよね。でも、こんな経験はないでしょうか? 「今日は仕事をたくさん進めた」と思ったのに、気づくと“重い仕事”だけが手つかずで残っている 軽い仕事ばかり優先して、大事なことにいつまでも手をつけられない リストが減らないどころか、見るだけで気が重くなる こうした悩みには、仕事の“切り方”、つまり「どうやる?(分解)」にヒントがあります。 大きな魚は、食べる前に“さばく”のが当たり前 たとえば、「年度予算の作成」と「お客様へのお礼の電話」という2つの仕事があるとします。後者は電話1本で終わりますが、前者はあまりに大きすぎて、どこから手をつければいいのか分からない。前者を大きなマグロ1匹、後者をタイの刺身1枚とします。結果として、「今日は電話だけ」といった軽い仕事(タイの刺身)ばかりが優先され、重い仕事(マグロ1匹)が後回しになります。このままでは、いつまでたってもマグロ1匹は丸ごと残ったままです。 そこでおすすめなのが、仕事を“同じ大きさの切り身”にそろえるという考え方です。 切り分けて、並べて、同じくらいの大きさに 「年度予算の作成」という大きな仕事を、次のように「どうやる?(分解)」で分けてみます。 前年度の予算実績を収集する 提供依頼メールを送る 担当者にヒアリングする データをまとめる さらに細かくして、「前年度の予算実績データの提供を依頼するメールを送る」とすれば、それは「お礼の電話」と同じくらいの手間で済む“小さな仕事”になります。 お客様に電話をかける 提供依頼のメールを送る どちらも、今すぐ着手できる“等身大の作業”になります。このように「仕事の大きさをそろえる」ことで、達成感はそのままに、重い仕事にも自然と手が伸びるようになるのです。 ADHDの特性が理由でも、やり方次第で変えられる ADHDのある方には、将来の大きな成果よりも「今すぐに得られる達成感」に惹かれる傾向があります。 これは「報酬系の特性」として知られています。だからこそ、「ちょっと頑張ればすぐに終わること」に先に手を出してしまいがちです。 この結果、「重い仕事=やりたくない仕事・やる気が出づらい作業」が後手後手になってしまうといったことは、ADHDあるあるの先延ばしグセの原因の一つと考えられるのではないでしょうか。 しかし、重い仕事を小さく切ってしまえば、どれもが「すぐ終わること」に変わり、後手後手になることを避けやすくなります。 つまり、“自分の特性”に合った仕組みを作っていくことで、自然と行動を変えることができるのです。 目安は“数分〜30分で終わる切り身” 筆者自身も、タスクの「切り身」は1つあたり数分〜30分、長くても1時間以内を目安にしています。これくらいのサイズ感でそろえると、「これは今日できそう」「これもやれそう」と、仕事に向かうハードルが一気に下がります。 TO DOリストが機能しないのは、意志の弱さのせいではなく、 “大きさのバラバラな仕事”が並んでいるからかもしれません。仕事を“さばく”視点で、ぜひ一度見直してみてください。 困りごと別、「事務」活用法③本当は断りたいのに、つい「大丈夫です」と言ってしまう 仕事を頼まれたとき、つい「大丈夫です!やりますよ!」と言ってしまったことはありませんか?でも実際は、その「大丈夫」が全然大丈夫じゃなかった―― そんな苦い経験、誰にでもあるのではないでしょうか。 キャパオーバー寸前なのに、なぜか断れない 筆者がかつて総務部で働いていたとき、先輩から「稟議書の対応、一緒にやってくれない?」と頼まれました。「大変そうだけど…お世話になってるし、なんとかなるだろう」と思って引き受けたものの、実際は稟議対応に追われ、 自分の業務は完全に手が回らない状態に。 しかも、そのとき筆者はすでにほぼ毎日終電帰り。 午前は名刺や備品の発注対応、午後はプロジェクト対応、突発対応も多く、夜にやっと日中に処理しきれなかった仕事に手をつける――そんな日々でした。 ADHD特性「衝動性」と「見積もりの甘さ」 このように「断れなかった」背景には、ADHDの特性である 衝動的にその場で即決してしまう「衝動性」 所要時間の見積もりが苦手な「時間感覚のズレ」 という2つの特徴が大きく影響しています。その場の空気で「やりますよ!」と即断してしまい、 「後で詰む」というパターンにハマってしまうわけです。 “外の視点”を借りる。「事務はなんて言うだろう?」 ではどうすれば、断れるようになるのでしょうか。ポイントは、「引き受けよう!」と考える自分ではなく “もう一人の、事務を行う冷静な自分”の視点を持つことです。筆者はこう考えるようにしました。 「自分は引き受けてもいいと思ってる。でも、“事務”はなんて言うだろう?」 そうつぶやいて、今抱えている仕事をリスト化+「いつやる?(日付)」で可視化してみるのです。 すると、すでにパンパンのスケジュールが目に見えて分かるようになります。その結果… 「やりたい」という気持ちの自分に対して 「それは無理だよ」と“事務”が冷静にツッコミを入れてくれる という構図ができるのです。 「第2の自分(外の視点)」を作り出すことは難しいものですが、「もう一人の私はなんて言う?」という言葉を呪文のように発するだけで、冷静さを取り戻すことができ、客観的な視点を持てるようになれるかもしれません。 「第2の自分」を想像することが難しい場合には、実在している先輩や上司に置き換えてみるのもおすすめです。 判断は“事務”、伝えるのは“自分” もちろん、それでも「断れない」と感じる人も多いでしょう。それでもこの方法には、こんな効能があります。 「断る」という判断を自分がしなくていい → 「事務が言ってるんで」と、“伝えるだけ”でよくなる 自分の気持ちと向き合いすぎず、“状況”に判断を委ねるだけでも、少し断りやすくなるのです。 「断る」は勇気ではなく、“仕組み”で 断れない人にとって、「断る」は根性論ではなく構造の問題です。 自分の気持ちに気づくこと 客観的な判断軸を持つこと それを代弁する方法を持つこと こうした“仕組み”があることで、はじめて「断る」という選択が現実のものになります。 「自分はいいけど、“事務”はなんて言うだろう?」 このひとことを、ぜひ心の中の“口癖”にしてみてください。あなたの中の“冷静な判断者”が、そっと助け舟を出してくれるはずです。 変わらなくていい。ただ、「工夫」する。 「事務が苦手。だから、事務が出来るような自分に変わらないといけない」と思っていませんか? でも、ADHDの特性は“治る”ものではありません。無理に変わるより、「工夫」でカバーする方がずっと現実的です。自分を責める前に、「仕組み」を味方につけてみてください。 今回ご紹介している書籍では、そのためのヒントがたくさんつまっています。よろしければお手に取ってみてください。 仕事がうまくいかないと感じているすべての方へ――特にADHD傾向のある方に向けて、具体的な仕事の工夫や思考法などを紹介した一冊です。 事務の悩みを超えて、「働く」を支える場所へ ここまで、ADHDと事務というテーマで、筆者の著作『ADHDの僕が苦手とされる事務にとことん向き合ってみた。』をベースに、困りごと別の対処法をお伝えしてきました。 こうした困りごとには共通して、「本人が悪いわけではないのに、うまくいかずに自己否定してしまいやすい」という難しさがあります。そして、その苦しさは、一人でなんとかしようとすればするほど深まってしまうこともあります。 実際、私自身もそうした時期を長く過ごしてきました。だからこそ今は、「一人で抱え込まずに、信頼できる支援を受けながら、自分に合った方法を見つけていく」ことも大切だと感じています。 就労移行支援事業所ディーキャリアでは、働くことで悩みを抱えている発達障害のある方の支援をおこなっており、発達障害のある方が、就労に向けての実践的なプログラムを提供し、また規則正しい生活が送れるトレーニングをおこなっています。 発達障害のある方の特性を理解したうえで、個別に最適なトレーニングを提供することが特徴です。 就労移行支援事業所とは、障害のある⽅が就職するための「訓練・就職活動」の⽀援をおこなう障害福祉サービスの一つです。(厚⽣労働省の許認可事業) 就職とは人生の目的を実現するための通過点です。自分の「なりたい」姿を見つけ、障害特性への対策と自分の能力を活かす「できる」ことを学び、社会人として長く働くために「やるべき」ことを身に付ける。 「なりたい」「できる」「やるべき」の 3 つが重なりあうところに仕事の「やりがい」が生まれると、私たちは考えています。 ご相談は無料です。フリーダイヤル、または、24 時間受付のお問い合わせフォームにて、お気軽にお問い合わせください(ご本人様からだけでなく、当事者のご家族の方や、支援をおこなっている方からのご相談も受け付けております)。 お電話(0120-802-146)はこちら▶ お問い合わせフォームはこちら▶ また、全国各地のディーキャリアでは、無料の相談会や体験会も実施しています。 全国オフィス一覧はこちら▶ 就労移行支援事業所ディーキャリアは、「やりがい」を感じながら活き活きと働き、豊かな人生を目指すあなたを全力でサポートします。お一人で悩まず、まずはお気軽にご相談ください。