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大人の発達障害×職場のコミュニケーション|対策と練習法

「職場でのコミュニケーション課題」について特性に応じた対策や練習法を紹介。ストレスを軽減し、自信を持って働くためのヒントをお伝えします。

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「職場での人間関係がうまくいかない…」「話すのが苦手で、うまく意思疎通ができない…」「指示を理解できないことがあり、ミスが多い…」 そんな悩みを抱えていませんか? 職場では、業務スキルだけでなく「コミュニケーションスキル」が求められるものです。しかし、発達障害の特性によって、雑談が苦手だったり、自分の考えを相手に伝えることや相手の意図を読み取るのが難しかったりすることで、仕事に必要なコミュニケーションが円滑にいかないことがあります。 「報告がうまくできない」「会話がかみ合わない」「言いたいことがうまく伝わらない」といった困りごとが続くと、職場での評価に影響が出たり、周囲との関係にストレスを感じたりすることもあるでしょう。その結果、仕事に自信が持てず、強い不安やストレスを感じてしまうことも少なくありません。 本記事では、発達障害のある方が職場で直面しがちなコミュニケーションの課題を整理し、特性に合わせた対策を紹介します。また、コミュニケーションスキルを向上させるための具体的なトレーニング方法や、職場での合理的配慮の活用についても解説していきます。 発達障害の特性を理解し、自分に合った対策やトレーニング方法を見つけることで、職場でのストレスを減らし、自信を持って働けるようになるきっかけになれば幸いです。 執筆者紹介 小鳥遊(たかなし)さん 発達障害やタスク管理をテーマに、2021年まで会社員、2022年からフリーランスとして活動している。 発達障害(ADHD)当事者。主に発達障害や仕事術をテーマとするweb記事を執筆。2020年に共著「要領がよくないと思い込んでいる人のための仕事術図鑑」(サンクチュアリ出版)を執筆し発行部数は10万部を超える。 また、就労移行支援事業所でタスク管理等に関する定期プログラムやセミナー等を実施。企業や大学等での講演、個人/法人のタスク管理コンサルティングもおこなっている。 [toc] ビジネスにおけるコミュニケーションスキルの必要性 職場におけるコミュニケーションの役割 どの職場でも多かれ少なかれ、社内外でのコミュニケーションが発生します。特に、報告・連絡・相談という、それぞれ最初の一文字を取って「報連相(ホウレンソウ)」と呼ばれるスキルは、ほとんどの仕事において必要と言えるでしょう。 例えば事務職の場合、いくらExcelで複雑な表を作成できたり、PowerPointですぐに資料を作ることができたとしても、上司や同僚と内容をすり合わせたり、完成後に報告をしなければ、仕事の評価を得ることは難しいでしょう。 どんな仕事であっても、組織の一員として働くためには最低限のコミュニケーションスキルは必要不可欠です。実際、今も昔も、多くの企業の人事担当が採用時に重視するポイントのひとつに「円滑なコミュニケーションがとれること」があげられています。 職場でよくあるコミュニケーションの課題 その一方で、職場でのコミュニケーションの苦手に悩む方は少なくありません。特に、発達障害のある方は以下のような課題を抱えがちではないでしょうか。 指示を正しく理解できず、誤った作業をしてしまう 相談をすることが苦手で、トラブルを抱えこむことがある 意見を伝えたり説明したりするのが苦手 相手の話に集中することができず、聞き洩らしが多い 相手や場面に応じたコミュニケーションが取れない 考えがまとまるまで報告を先送りする こうしたコミュニケーションの問題は、仕事の質に直接影響を与えるだけでなく、職場の人間関係にも悪影響を及ぼします。 コミュニケーションがうまくいかないと起こるリスク コミュニケーションがうまくいかないと、次のようなリスクが発生します。 ミスの発生:指示を正しく理解できなかったり、確認不足が原因で業務ミスが発生しやすくなる。 チームワークの低下:仕事の進め方や認識がずれてしまい、チーム全体の業務が滞る。 信頼関係の損失:必要な報告や相談がなされず、「頼りない」「協力的でない」と思われる可能性がある。 いずれも、どの職場でも必要とされる「チームで仕事をやっていくための土台」が揺らいでしまう原因となります。もしこれらのリスクがあると判断されれば、いくら業務スキルを頑張って磨いたとしても、なかなか評価されにくいというのが現実ではないでしょうか。 発達障害のある方がコミュニケーションが苦手な理由 ASD(自閉スペクトラム症)の特徴と課題 ASDの特性のある人の中には、「曖昧な表現が理解できない」「相手の気持ちを察することが苦手」「空気を読めない」といった特徴がある人が多く、職場でのコミュニケーションに影響を与えかねません。 筆者はADHDの診断を受けていますが、日々のコミュニケーションを通じて、ASDの傾向もあるのではないかと感じています。そんな筆者が実感するコミュニケーション上の特性としては、以下の3点が挙げられます。 言葉を文字通りに受け取ってしまう 「いい感じに資料をまとめておいて」と言われても、「いい感じって、具体的にどういうこと?」と疑問に思ってしまいます。「いい感じ」という曖昧な言葉を言われても、それが具体的なイメージとして理解できなければ動けないのです。仮に「A4の紙1枚に、要点を3つに絞って箇条書きで書いて欲しい」などと言ってもらえればスムーズに動けます。これは、言葉を文字通りに受け取るという傾向の表れではないかと自分を分析しています。 「いい感じに」や「なるべく早く」など曖昧で抽象的な表現を理解するのが苦手というのはASDあるあるです。 雑談や社交的な会話が苦手 筆者は、野球やサッカーなど自分が興味のない話題になると、とたんに仏頂面になってしまうのだそうです。「だそうです」と伝聞系で書いたのは、自覚していないからです。普通に会話の場に溶け込んでいると思っているのに、「あ、今興味ないでしょ?」と言われて「なんでばれたのだろう」と思うことが多々ありました。これは、雑談や社交的な会話が苦手だと認識していない分、より問題は深いと考えています。 ASD特性のひとつに「興味の幅が狭い(限定されている)」というものがありますが、悪気なくそれが態度に出てしまっているのかもしれません。 相手の表情や空気を読み取るのが難しい 相手が冗談で言ったことを本気だと思い真剣に受け止めてしまう傾向も、筆者にはあります。社交辞令で「今度飲みに行きましょう」と言われたとしても、それを本気に受け取って「じゃあ、いつにします?」とスマホでスケジュールアプリを開いて検討に入ってしまい、「いや、その、まぁまた近いうちに......」とやんわりはぐらかされた経験が多々あります。 「空気が読めない・冗談が通じない」もASD特性の代表的な特徴です。 ADHD(注意欠如・多動症)の特徴と課題 ADHDの特性のある人の中には、「注意の持続が難しい」「衝動的に発言してしまう」といった特徴がある人が多く、これもまた職場でのやりとりに影響を与えます。 筆者はADHDの診断を受けており、以下のようなことがよくあります。 話を最後まで聞かずに反応してしまう 相手の話が終わる前に相手の言いたいことがおよそ予測でき、自分の話をしたい気持ちが抑えられずに、相手の話にかぶせて自分の話を始めてしまう癖が筆者にはあります。よくないことだと分かっているのですが、その場ではうまく制御できないことが多く、あとから反省することしきりです。 ADHD特性の衝動性によって、早合点をしたり、相手の話を遮ってしまったりして失敗をした経験がある方も多いのではないでしょうか。 集中が続かず、指示を聞き逃す 口頭での指示を受けている最中であっても、たとえば周囲の会話に耳が持っていかれてしまうことがよくあります。せっかく上司が説明をしてくれていて、自分でもその説明を理解しようと思っているのに、瞬間的に周囲で話されている会話の方に注意がいってしまうことがよくあります。 「注意力が散漫」はADHDの代表的な特性のひとつです。メモをとっているのに聞き洩らしをしてしまう、とったメモを失くしてしまうというのもあるあるです。 思いついたことをすぐに口に出してしまう 筆者は以前の職場で取引先へ配信する職員インタビューのメルマガを書いていました。そのインタビューをしている際に、「前職では仕事が多くて過労で倒れる寸前にまでなってしまって......」という体験談を話してもらっているときに、「分かる!自分もそういった経験がある!」と共感してしまい、「ええ、自分も同じような体験がありましてね......」と、それから延々と自分語りを始めてしまい、インタビューの流れを止めてしまったことがありました。 つい場面にそぐわない発言をしてしまったり、一方的に話し続けてしまったりした場合でも、ADHD特性によって自分の言動をコントロールできないことがあります。 コミュニケーションのトレーニング方法 コミュニケーションが苦手だと感じる人の中には、そもそも「どのようにしたら円滑なコミュニケーションがとれるのか」が分からない方も多いかもしれません。一方で、コミュニケーションもスキルの一つであり、体系的に学ぶことが可能です。 特に、「何をどう伝えればいいのか分からない」「相手の気持ちを察するのが苦手」「言葉の意図を誤解しやすい」といった悩みを持つ場合、コミュニケーションの基本を知識として学ぶことが有効です。 知識として学ぶ コミュニケーションを学ぶ方法の一つとして、書籍やセミナーを活用することが挙げられます。たとえば、以下のようなジャンルの本を読むことで、基礎を理解しやすくなります。 ビジネスコミュニケーションの本→ 職場での報告・連絡・相談の方法や、上司・同僚との適切な関わり方を学べる。 傾聴スキルの本→ 相手の話を上手に聞く技術を学び、信頼関係を築く力を養える。 会話のロジックを学ぶ本→ 話がまとまらない、伝えたいことが伝わらないといった悩みを解決するヒントが得られる。 大きな書店だと、「ビジネス」「コミュニケーション」といった棚があると思います。お勧めの選び方としては、自分が読みやすそうだと感じる本を選ぶことです。ネットで調べて評判の高い、有名な著者の本を選ぶのも良いですが、まずは自分が取っつきやすいと感じる本から始めるのが良いと思います。 また、書籍だけでなく、コミュニケーションスキルを学べるセミナーも有効です。セミナーでは、講師の解説を直接聞けるだけでなく、ロールプレイやワークショップを通じて実践的に学ぶことができるため、実際の場面に活かしやすくなります。 このような学びを通して、ビジネスマナーや会話の典型的な流れ、よくあるNG行動などを知り、適切な対応を知ることができます。本やセミナーで教わった内容をすべていっぺんにやろうとはせず、できることから1つずつやっていくのが、最短のスキルアップにつながります。 実践的な対策 コミュニケーションスキルを向上させるためには、知識を学ぶだけでなく、実際に練習しながら身につけることも重要です。代表的な対策として、ミラーリング、アクティブリスニングといった手法があります。 ミラーリング ミラーリング(Mirroring)は、相手の言葉や仕草をさりげなく真似ることで、親しみやすさや共感を生む手法です。例えば、 相手:「最近、忙しくて疲れてるんですよね」 自分:「そうなんですね、忙しくて大変なんですね」 このように、相手の言葉を繰り返すだけでも、「話をしっかり聞いてくれている」という安心感を与えることができます。また、相手の姿勢やジェスチャー、話すスピードを自然に合わせることで、無意識に「この人は自分と波長が合う」と感じてもらえる効果もあります。ただし、やりすぎると不自然に感じられるため、さりげなく取り入れるのがポイントです。 アクティブリスニング アクティブリスニング(Active Listening)は、ただ相手の話を聞くだけでなく、適切な相槌や質問を交えて、積極的に会話に関与する方法です。 具体的には、 相手の話を遮らずに最後まで聞く 「それは大変でしたね」「なるほど、面白いですね」といった共感の言葉を入れる 「それって具体的にはどういうことですか?」と質問して話を広げる といった工夫をすることで、相手は「しっかり話を聞いてもらえている」「この人とは話しやすい」と感じるようになります。アクティブリスニングを身につけることで、より円滑なコミュニケーションが可能になり、信頼関係の構築にも役立ちます。 筆者は、特に感情面で共感することが多いので、それを強く打ち出すことが多いです。「それは大変でしたね」という言葉を入れ、「自分も同じような○○ということがあったので、自分なりにですが、分かります」と寄り添う形でコミュニケーションを取ることがよくあります。 特性に合った、自分らしい働き方を見つけるために ここまでコミュニケーションスキルを上げるための方法などをご紹介しましたが、特に発達障害のある方の場合は、そもそも「特性」としてコミュニケーションが苦手であることが多く、いずれも単に知識を得るだけでは足りず、実際の場面で活かすのが難しいことが多いです。 そこで、実践的な方法が必要となります。代表的なものとしては、SST(Social Skills Training)というトレーニングがあります。適切な言葉の選び方や、表情・態度・ジェスチャーを意識しながら会話の練習を行うことで、社会的スキルを上げ、実際の場面での対応力を高めるものです。 例えば、 上司への報告の仕方 初対面の人とのスムーズな会話の進め方 断るときの伝え方 といったテーマごとに、ロールプレイを通じて練習しながら学ぶことができます。「頭では分かっているけど、実際にやるのは難しい」と感じる人にとって、SSTは実践力を養うのに最適なトレーニングです。 このように実際の職場の状況を想定してロールプレイを行い、その結果のフィードバックを受けながら、練習を重ねることで、自分の特性による「苦手」への理解を深めながら、より実践的に活用できるコミュニケーションスキルを身につけられます。 また、それでも克服が難しい場合は、「合理的配慮」として職場に伝える選択肢もあります。障害者雇用枠ではない一般雇用枠でも、診断がある場合には企業に相談をすることができます。 合理的配慮とは、就職先の企業が、障害による業務上の困難を改善・軽減するために必要なサポートを提供することです。 例えば「具体的な指示が欲しい」「周囲の音が気になるので、耳栓の使用を許可して欲しい」「メモを取る時間を与えて欲しい」といった、業務指示の仕方や職場環境の調整などです。どうすれば仕事が円滑に進められるかを企業側と一緒にすり合わせていく必要があります。 その際には、以下のポイントを説明すると、スムーズに交渉が進みます。 障害の特性や症状 特性による業務上の困難や苦手な業務内容 自分自身で取り組む工夫や対策 企業に依頼をしたい配慮内容 企業に「合理的」だとみなされない場合にはサポートを受けられないケースもあるため、どれだけ困っているか・どうすれば解決できるのかを具体的に説明することはもちろん、自分自身で取り組む対策や配慮を受けることでできるようになることを伝えることも大切です。 詳しくは「発達障害のある方の合理的配慮事例|職場コミュニケーション編」でお伝えしています。 特性によって、一人ひとりに合う対策法は異なります。また、性格や働き方の好みによっても、どのような工夫が効果を発揮するかは変わってきます。そのため、自分自身に合った方法を見つけることが重要です。 就労移行支援事業所ディーキャリアでは、働くことで悩みを抱えている発達障害のある方の支援をおこなっています。 就労移行支援事業所とは、障害のある⽅が就職するための「訓練・就職活動」の⽀援をおこなう障害福祉サービスの一つです。(厚⽣労働省の許認可事業) 就職とは人生の目的を実現するための通過点です。自分の「なりたい」姿を見つけ、障害特性への対策と自分の能力を活かす「できる」ことを学び、社会人として長く働くために「やるべき」ことを身に付ける。 「なりたい」「できる」「やるべき」の 3 つが重なりあうところに仕事の「やりがい」が生まれると、私たちは考えています。 ご相談は無料です。フリーダイヤル、または、24 時間受付のお問い合わせフォームにて、お気軽にお問い合わせください(ご本人様からだけでなく、当事者のご家族の方や、支援をおこなっている方からのご相談も受け付けております)。 お電話(0120-802-146)はこちら▶ お問い合わせフォームはこちら▶ また、全国各地のディーキャリアでは、無料の相談会や体験会も実施しています。 全国オフィス一覧はこちら▶ 就労移行支援事業所ディーキャリアは、「やりがい」を感じながら活き活きと働き、豊かな人生を目指すあなたを全力でサポートします。お一人で悩まず、まずはお気軽にご相談ください。 記事監修:北川 庄治(デコボコベース株式会社 プログラム開発責任者) 東京大学大学院教育学研究科 博士課程単位取得満期退学。通信制高校教諭、障害児の学習支援教室での教材作成・個別指導講師を経て現職。
仕事の不安が軽くなる!発達障害がある方のうつの乗り越え方

ADHD当事者で抑うつ状態を経験した筆者が、特性による「働きづらさ」と二次障害である「うつ」を乗り越えるためのヒントを紹介します。

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「頑張っているのになぜか仕事がうまくいかない」「ミスや失敗ばかりで、職場に行くのが怖い」 発達障害の特性による困難や苦手のある人で、「どれだけ頑張ってもうまくいかない」「人一倍、努力しているのに成果がでない」という悩みを抱える方は少なくありません。このような状況が続くと、仕事への不安や自己肯定感の低下によって、うつなどの精神障害につながることもあります。 実は、発達障害とうつの間に密接な関係性がある場合が多いのです。一般に、発達障害のASDやADHDの特性があることを「一次障害」、そして一次障害が原因で引き起こされる「うつ」などを「二次障害」といいます。 筆者は、一次障害として主にADHDと診断され、二次障害として抑うつ状態と診断されました。この記事では、そんな筆者の執筆した書籍『「発達障害」「うつ」を乗り越え@小鳥遊がたどりついた 「生きづらい」がラクになる メンタルを守る仕事術&暮らし方』の内容を引用しつつ、障害による困りごとに向き合い、乗り越えるためのヒントをお届けします。日常の工夫や考え方を見直すことで、新たな一歩を踏み出すきっかけになることを願っています。 執筆者紹介 小鳥遊(たかなし)さん 発達障害やタスク管理をテーマに、2021年まで会社員、2022年からフリーランスとして活動している。 発達障害(ADHD)当事者。主に発達障害や仕事術をテーマとするweb記事を執筆。2020年に共著「要領がよくないと思い込んでいる人のための仕事術図鑑」(サンクチュアリ出版)を執筆し発行部数は10万部を超える。 また、就労移行支援事業所でタスク管理等に関する定期プログラムやセミナー等を実施。企業や大学等での講演、個人/法人のタスク管理コンサルティングもおこなっている。 [toc] 発達障害がうつを招く理由 発達障害(この記事ではASDとADHDのことを指して「発達障害」と書きます)とうつは、密接なつながりがあります。この項では、発達障害の説明と二次障害の説明をすることで、両者は密接なつながりがあることをお伝えします。 ASDとADHDの特徴と主な症状 ASD(自閉スペクトラム症)は、対人関係やコミュニケーションが苦手で、特定の興味や感覚の敏感さが特徴的な発達障害です。具体的には以下のような症状がみられます。 他人の気持ちや状況を理解するのが苦手特定の物事への強い関心やこだわり感覚過敏(音や匂いなど)がある臨機応変な対応や複数作業の同時進行が苦手 ADHD(注意欠如・多動症)は、集中力の維持が難しく衝動的な行動をとりやすい特性を持つ発達障害です。具体的には以下のような症状がみられます。 注意が散漫でミスが多い落ち着きがなく衝動的な行動をする整理整頓、スケジュール管理、約束を守ることが苦手 筆者は、ADHDの診断を受けており、以下のような症状があります。 私は、発達障害の当事者です。ADHD(注意欠如・多動症)の診断を受けました。■不注意によるミス・抜けもれがひどい■先送りグセがなおらず、締め切りが守れない■ミスを必要以上に深刻に受け止めてしまう■他人のミスも自分のせいかもと考えてしまう■仕事の段取りがつけられない■マルチタスクに思考停止してしまう■思考やものの整理ができないこれらは、私の特性による「傾向」をまとめたものです。このうちのいくつかは、自分にも当てはまるという人がいるのではないでしょうか。筆者の著書『「発達障害」「うつ」を乗り越え@小鳥遊がたどりついた 「生きづらい」がラクになる メンタルを守る仕事術&暮らし方』より引用。以降、引用は同書からのものとなります。 二次障害とは 二次障害とは、発達障害の特性による困難やストレスが原因で、心や身体、行動に不調や問題が現れる状態を指します。これにより日常生活に支障をきたすことが少なくありません。主な例として、うつ病や不安障害といった精神的な不調、頭痛や不眠などの身体的な不調、さらには暴言や引きこもりといった行動面の問題が挙げられます。 二次障害については、こちらの記事でより詳細に説明しています。あわせてご覧ください。 筆者は、下記のような経緯をたどって「抑うつ状態」の診断を受けて休職を余儀なくされ、最終的に退職することになりました。 しかし、与えられた仕事は忘れる、締め切りも守れない、つい先送りをして怒られる…。その連続で自信をなくしていき、大きな不安に苛まれるようになり、それに耐え切れず休職、退職。現実は、仕事の充実どころの話ではありませんでした。友人が仕事でどんどん活躍していくのを横目に、いつしか、「どうせ、これが自分の限界なんだ」「仕事の充実? 自分がそんなことを考えてはいけない」と思うようになっていきました。むしろ、自分が思う「人並みの生活」すらも、自分にはできないのだと、完全に自信を失ってしまいました。「発達障害」「うつ」を乗り越え@小鳥遊がたどりついた 「生きづらい」がラクになる メンタルを守る仕事術&暮らし方 発達障害がうつにつながってしまう3つ理由 発達障害の特性が二次障害であるうつや不安障害などの精神疾患につながる主な理由として、「生きづらさ」「自己肯定感の低下」「不安やストレス」などの要因が挙げられます。それぞれの要因を詳しく解説します。 特性による「生きづらさ」や「働きづらさ」 発達障害のある人は、その特性による困難や苦手によって社会で生きづらさを感じることがあります。 たとえば、筆者は「ミスをしたときには上長に報告をする」というビジネスマナーは知っていたものの、「お金など重要なものに関するミスは、早急に報告をする」「重要な問題にならなかったときであっても、ミスは必ず報告する」という考えに至らないことがありました。 あるとき、アルバイト先で、お客様のお金を届けるという依頼を受けた際に、お金を忘れて出かけたことがありました。すぐに同僚から連絡をもらって、最終的には事なきを得たため、そのことを上長に報告しませんでした。ミスを隠すつもりはなかったものの、信頼を失うことに繋がってしまい、解雇を言い渡されてしまいました。 ビジネスマナーなどの「暗黙の了解」の苦手はASD特性がある方に多いケースで、仕事上のコミュニケーションで失敗につながることがあります。 特性による失敗は、気を付けようとしてもなかなか回避できないことが多いです。その結果、「なぜ自分はこんなこともできないのか」と自己否定に陥ったり、他者から否定的な反応をされたりすることで精神的な不調を抱えたりするなど、社会での生きづらさを感じる要因になります。 過去の失敗体験の積み重ねによる自己肯定感の低下 先述した通り、発達障害のある方は特性による困難や苦手によって失敗体験をすることがあります。さらに、特性への自己対処や周囲への配慮(サポート)依頼をしない限り、その失敗を繰り返してしまいがちです。 仕事における失敗は一人ひとりさまざまで、たとえば、コミュニケーションがうまくいかない、ケアレスミスや遅刻が多いなどがあります。そういった失敗が積み重なると、自己肯定感が低下し、「自分はダメな人間だ」「誰からも理解されない」と感じることが増えます。 筆者は、全国に営業所のある企業の総務で社用車の管理をしていたことがあります。全国から社用車に関する相談事や報告への対処を一手に引き受けていました。前任者はその対応をそつなく臨機応変にこなしていましたが、私はそういった要領があまり良くありませんでした。そのため、営業所の担当の方とのコミュニケーションがうまくいかないことがあり、あまりに目に余ったときには、電話口で強い調子で詰められたり、口汚くののしられたりしました。 そういった経験が重なると、いやおうなしに自己肯定感が低下します。そういったこともまた、うつ病などの精神疾患のリスクを高める要因の1つとなります。 不安やストレスを感じやすい 発達障害のある方は、不安やストレスを感じやすいと言われています。予測できない状況への不安や、他者の気持ちを汲み取れないことによる孤立感が、強いストレスとなることがあります。また、ミスや遅刻、計画の混乱による自己批判や焦りは、不安を引き起こしがちです。 筆者は、物事が予定通りに進まないだけで、すぐに焦って混乱してしまいがちでした。あるとき、人事担当者との面談で、「毎日何かしら『事件』があるのが辛くて......」と話したところ、「え?事件って何のこと?」とポカンとされた経験があります。他人にとっては日常の出来事の範囲内なのに、自分にとってはストレス・不安の源である、ということがよくありました。 こうした不安やストレスが慢性的に続くと、心の負担が大きくなり、自己肯定感の低下や無力感につながることがあります。その結果、うつ病や不安障害などの二次障害につながってしまうのです。 「不安な気持ち」は、発達障害のある方にとっては、切っても切れないテーマです。その原因と対処法については、以下の記事に詳しく書いてあります。ぜひこちらもあわせてご覧ください。 大人になり社会に出てから、発達障害の特性による失敗や困難が増え、うつや不安障害などの二次障害になるケースは少なくありません。幼少期や学生時代には「性格」などとして見過ごされていた特性が、就職活動や職業生活の中で「困りごと」として表出されることがあるためです。 最初は、仕事や対人関係の困難による不安感やうつのような症状を感じて通院する。しかし、実はその奥を探ってみると発達障害が判明する。そんな経緯で、これまでの生きづらさや困難の背景に発達障害があることを理解するようになる方も多いようです。 発達障害の特性との付き合い方について 自分の特性を知って工夫する 発達障害の特性は、予測できない状況に強い不安を感じたり、抜け漏れせず段取りよく仕事を進めるのが苦手で、遅延やミスを繰り返したりなど、一人ひとり異なります。そのため、まずはどのような場面で困難を感じるのかを把握し、それに合う自分なりの工夫をすることが大切です。 たとえば、筆者は、段取りよく仕事を進めるのが難しいときは、目の前の一手を明確にして、それを終わらせることだけ考えるようにしています。 対策:まずは最初にすることだけを書き出す【1】まずは最初の手順「だけ」書き出す間違っていてもよし。まずは自分なりに思いつく、できるだけ簡単に、すぐできそうな「最初の一歩」となる作業を書き出す【2】とにかく実行してみる自分なりに書き出した作業を、とにかく一つだけ実行してみる【3】「一歩」をくり返すうまく行ったら次の一歩も書き出してみる。以後、「書き出し」→「実行」をくり返すどこから手をつければよいかわかりにくい仕事を目の前に、ただただ思考停止してしまう。また、そんなときほど一気に仕事を仕上げたくなり、結局何もできずに時間だけが経ってしまいます。 先走らず、まずは足元を見ましょう。最初の一歩ぐらいは想像できるはずです。そして、その次、その次と、一歩ずつ歩んでいけば、仕事の終わりが近づいてくるはずです。「発達障害」「うつ」を乗り越え@小鳥遊がたどりついた 「生きづらい」がラクになる メンタルを守る仕事術&暮らし方 さらに、抜け漏れが発生しがちな傾向については、このような対策をとっています。 対策:すぐに着手しようとする気持ちをいったん抑える【まずはやるべき仕事を確認しよう】 抜けもれしてしまう人の特徴として「すぐに結果が出るものに飛びついてしまう」傾向があります。 言われたことをメモしたり、書き出したりせず、すぐに仕事に着手すれば、「より早く仕事が進む」という結果が得られるかもしれません。しかし、そうすると抜けもれしやすい傾向のある人は、「自分が抱えている仕事の把握」がおろそかになってしまい、はじめに指示されていた仕事を新たな指示によって忘れてしまうという事態につながることも。結局仕事の抜けもれにつながってしまうのです。 手っ取り早く終わらせてしまいたい気持ちをまずは我慢して、いまやるべき仕事を書き出して確認してみましょう。「発達障害」「うつ」を乗り越え@小鳥遊がたどりついた 「生きづらい」がラクになる メンタルを守る仕事術&暮らし方 もちろん、上記は筆者の一例に過ぎず、人によっては対策がなかなか打てない特性もあるかもしれません。ただ、困りごとの原因となる特性・特徴と向き合い、それをカバーすることができれば、結果的に障害と共存して毎日を送ることができるようになります。 障害の自己受容をし、他者にヘルプを頼む 発達障害の特性と向き合い「自己を受容する」第一歩は、できないことや苦手なことがあっても、それは努力不足ではないと考えるところから始まります。「完璧にこなさなければならない」というプレッシャーから解放されることで、心が少し楽になります。 それが進むと、周囲に助けを求めるハードルも下がります。周囲との協力は、特性を補いながら自分らしく生きる大きな助けとなります。 たとえば、筆者はこのようにして他者へ協力を求めやすくする工夫をしています。 対策:仕事の「ボール持ち」を設定する【1】作業の手順を書き出す現在抱えている仕事の作業手順を書き出して一覧にする【2】「自分のボール持ち」を明確にするほかの人の対応待ちの作業(相手のボール持ち)と、自分がボールを持っている(自分がやらなければいけない)作業とを区別する仕事がうんざりするほど多くても、そのなかで自分が進められる仕事というのは、実はその一部であることが少なくありません。「自分のボール持ち」を書き込んで、「本当に自分が抱えるべき仕事」の量がわかれば、より前向きに仕事に取り組めるようになります。 もし、ほとんどの手順が「自分のボール持ち」だったら、それは自分が抱え込み過ぎる傾向があるということです。仕事の進め方を同僚や上司によく相談してください。「発達障害」「うつ」を乗り越え@小鳥遊がたどりついた 「生きづらい」がラクになる メンタルを守る仕事術&暮らし方 また、その上で、一人で抱え込みすぎないよう、自己開示するためのフレーズを決めています。 対策:魔法のフレーズ「困ッテイルンデス」を唱える【仕事での悩みを開示して、ミスのショックをやわらげよう】 仕事では、できるだけ相談して「共犯者」をつくりましょう。一緒に仕事をする人であればだれでもよいです。相談するのが難しければ 、「(〇〇の)仕事で困っているんですが」という「話し出しの魔法のフレーズ」を唱えましょう。 相談することができれば、その仕事は自分とその相談相手が一緒に持つ「荷物」のようなものになり、荷物の重さを二分(にぶん)することができます。そして、ミスがあったとしてもそのショックを「はんぶんこ」することができます。そのために、自分の悩みを開示してみるのがおすすめです。「発達障害」「うつ」を乗り越え@小鳥遊がたどりついた 「生きづらい」がラクになる メンタルを守る仕事術&暮らし方 ストレスや不安との付き合い方を学ぶ 発達障害の特性を持つ人にとって、日常生活や仕事の中でストレスや不安を感じる場面は多いものです。ストレスと向き合い、上手に付き合う方法を身につけることはとても大切です。 対策:思い浮かぶたくさんのことを受け流す【1】楽な姿勢で座る【2】意識的にゆっくり呼吸をする【3】目をつぶり思い浮かぶことを考える【4】そのまま3分間【「全部やらなきゃ」脱却のカギ「マインドフルネス」】 やらなければいけないことが多いと、「全部いっぺんにやらないといけない!」と焦って、結局すべて中途半端になってしまいがちではないでしょうか。まずは、焦りをなくしていったん落ち着くことが大切です。ぜひ、呼吸法など、自分に合った「マインドフルネス」を試してみてください。 頭に思い浮かぶ雑念を無理に否定せず、ただ「ああ、こういうことがあるなぁ」「自分はこれに対して不安を感じているんだな」とありのままの「いま」を認めてそれに集中することで、リラックスすることができ、「焦り」からも解放されるかもしれません。「発達障害」「うつ」を乗り越え@小鳥遊がたどりついた 「生きづらい」がラクになる メンタルを守る仕事術&暮らし方 対策:自分を大きく肯定することばをわざとつけて話す【「おれ/私ってすごいから~」と言ってから、本題に】 自己肯定感をキープしたりあげたりするために、「肯定的なことを口に出す」のは大切だと感じています。私はよく妻に、自分を肯定することばを最初に言って話し始めています。「おれってすごいから、今日締め切りの仕事を終わらせたよ」「おれってすごいから、階段だけを使って帰ってきたよ」という具合です。大してすごいことでなくてもよく、むしろ無理矢理な感じがあったほうが、より効果的です。 信頼できる家族や友人などに、ぜひ言ってみてください。くり返すと、ちょっとずつですが自信が湧いてくる気がします。「発達障害」「うつ」を乗り越え@小鳥遊がたどりついた 「生きづらい」がラクになる メンタルを守る仕事術&暮らし方 ストレスや不安を完全に取り除くことは難しくても、日常のちょっとした工夫から、ストレスとうまく付き合う術を身につけることで、日々を少しでも楽に過ごせるようになります。この方法はすべての人に当てはまるわけではありませんが、できることから少しずつ進めてみましょう。 特性に合った、自分らしい働き方を見つけるために 特性や性格によって、一人ひとりに合う対策法は異なります。また、性格や働き方の好みによっても、どのような工夫が効果を発揮するかは変わってきます。そのため、自分自身に合った方法を見つけることが重要です。 その参考として、筆者の執筆した書籍『「発達障害」「うつ」を乗り越え@小鳥遊がたどりついた 「生きづらい」がラクになる メンタルを守る仕事術&暮らし方』は、なんらかの参考になることと思います。興味がありましたら、ぜひお手に取ってみてください。 「発達障害」「うつ」を乗り越え@小鳥遊がたどりついた 「生きづらい」がラクになる メンタルを守る仕事術&暮らし方 ただ、就労には、本書でご紹介する仕事術などとあわせて、その他のトレーニングも必要です。独学でそのすべてを習得するのは、膨大な手間と時間がかかります。 就労移行支援事業所ディーキャリアでは、働くことで悩みを抱えている発達障害のある方の支援をおこなっています。 就労移行支援事業所とは、障害のある⽅が就職するための「訓練・就職活動」の⽀援をおこなう障害福祉サービスの一つです。(厚⽣労働省の許認可事業) 就職とは人生の目的を実現するための通過点です。自分の「なりたい」姿を見つけ、障害特性への対策と自分の能力を活かす「できる」ことを学び、社会人として長く働くために「やるべき」ことを身に付ける。 「なりたい」「できる」「やるべき」の 3 つが重なりあうところに仕事の「やりがい」が生まれると、私たちは考えています。 ご相談は無料です。フリーダイヤル、または、24 時間受付のお問い合わせフォームにて、お気軽にお問い合わせください(ご本人様からだけでなく、当事者のご家族の方や、支援をおこなっている方からのご相談も受け付けております)。 お電話(0120-802-146)はこちら▶ お問い合わせフォームはこちら▶ また、全国各地のディーキャリアでは、無料の相談会や体験会も実施しています。 全国オフィス一覧はこちら▶ 就労移行支援事業所ディーキャリアは、「やりがい」を感じながら活き活きと働き、豊かな人生を目指すあなたを全力でサポートします。お一人で悩まず、まずはお気軽にご相談ください。 記事監修:北川 庄治(デコボコベース株式会社 プログラム開発責任者) 東京大学大学院教育学研究科 博士課程単位取得満期退学。通信制高校教諭、障害児の学習支援教室での教材作成・個別指導講師を経て現職。
自己理解が必須!?障害者雇用の面接がうまくいくノウハウ

転職活動で合計250社から「お見送り」…ADHD当事者である筆者の経験をもとに、障害者雇用枠求人ならではの「面接対策」をご紹介!

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「就職活動に苦手意識がある」「面接でうまく話せない」「就活の進捗管理が難しい」「障害のことをどう伝えればいいか分からない」 ADHD当事者である筆者は、転職活動をしたとき、書類審査のみの会社も含めて合計250社、面接だけでも30社からお見送りをされました。最終的には、転職活動を始めてから約半年後に、ほぼ同時に3社から内定をいただき終了したのですが、どの方にお話しても、選考に通過しなかった数は驚かれます。 そんな筆者だからこそ分かったことや経験談、その他障害者雇用枠求人ならではの面接対策についてお伝えしていきます。 皆さんが自分らしいキャリアに向けた一歩を進むためのヒントになるよう、特に現在就職活動をしている方々が納得のいく就職ができるよう、この記事がお役に立つことを願っています。 執筆者紹介 小鳥遊(たかなし)さん 発達障害やタスク管理をテーマに、2021年まで会社員、2022年からフリーランスとして活動している。 発達障害(ADHD)当事者。主に発達障害や仕事術をテーマとするweb記事を執筆。2020年に共著「要領がよくないと思い込んでいる人のための仕事術図鑑」(サンクチュアリ出版)を執筆し発行部数は10万部を超える。 また、就労移行支援事業所でタスク管理等に関する定期プログラムやセミナー等を実施。企業や大学等での講演、個人/法人のタスク管理コンサルティングもおこなっている。 [toc] 障害者雇用枠ならではの選考内容 一般雇用枠にはない障害者雇用枠ならではの選考内容として、代表的なものに「障害に関する資料の提出(面接にはその説明)」と「企業実習」があります。※「企業実習」はすべての企業で実施されているわけではありませんが、選考フローのひとつとして取り組む企業が増えてきています 自分の特性を理解してもらうための資料「障害について(ナビゲーションブック)」 通常、求人に応募しようとする会社へ提出する書類は、「履歴書」と「職務経歴書」の2つのみです。しかし、筆者は、障害を開示せずに働くクローズ就労だけでなく、障害を開示して働くオープン就労でも応募をしていたため、さらにもう1つの書類として、障害内容や障害に対してどのように配慮して欲しいかなどを書いた「障害について」という資料(=ナビゲーションブック※)をオープン就労用に用意していました。 ※「ナビゲーションブック」とは、障害のある方が就職活動をするときや職場定着を目指すときに活用できるツールで、①自身の障害のこと(障害の特徴=特性や症状)②仕事をするうえで困難なこと③職場に求める合理的配慮をまとめたものです。オープン就労の中でも、一般雇用枠の場合には提出は任意であることがほとんどですが、障害者雇用枠の場合には応募書類のひとつとして提出を求められることが多いです。 雇用主とのマッチングを見極める期間としての「職場体験実習・企業実習」 筆者が定期的に講師としてプログラムをおこなっている就労移行支援事業所のある東京都では、東京しごと財団が「職場体験実習」を実施しています。また、近年では多くの企業が選考時に同様の「企業実習(インターン)」を取り入れています。 企業等で働いた経験がない(少ない)、自分の適性が分からないなど、企業等で働くことに不安がある場合に、いきなり「就職」ではなく、仕事を「体験」できます。この職場体験実習により、企業等の現場を知ることができ、また、実習中の体験を通じて、自分の新たな課題を発見することもできます。東京しごと財団HP「職場体験実習」 通常の就職活動は、書類選考と2,3回の面接のみで採用するのがほとんどです。しかし、それだと企業側と応募者がマッチするかどうか分かりません。特に、障害者雇用枠においては、職場環境とマッチする/しないの差が大きく、さらにマッチしなかったときの影響も大きくなりがちです。 そこで、あらかじめ実習期間を設けることで、企業側だけでなく、応募者である障害者からも、職場環境との相性などをじっくり判断する機会を設けています。 発達障害のある方が就職活動で苦手とすること ここでは発達障害のある方が就職活動をおこなう上で、苦手とすることを解説していきます。なお、あわせてこちらもお読みいただくと、より面接への対策をおこなうことができます。 面接でうまく話せない 話しすぎる まずは、特に多動性の特徴のある方に顕著ですが、面接で話しすぎてしまうというのがあります。ADHDである筆者も、その多動性からか、今考えればかなり話しすぎていたように思います。なお、そういった点も含めて面接での話し方で気をつけるべき点を後述の「面接中の対策」でご紹介します。 少なくとも「話しすぎない」ということを念頭においた途端、今まで面接でどこにも通らなかったのが、3社から立て続けに内定をいただけたという経験が、筆者にはあります。「過ぎたるは猶及ばざるが如し(やり過ぎることは、やり足りないことと同じように良くない)」という言葉がありますが、まさにその通りです。足りなければ面接官から聞いてきます。 質問と答えが噛み合わない さらにもう1つ、面接でうまく話せないということについて筆者がよく感じていたのが、「質問と答えが噛み合わない」ということでした。これもADHDの多動性がおそらく関係しているのだと考えているのですが、話し初めと話し終わりでテーマが変わってしまうことが多かったのです。 これは、話し初めはAという話題だったのに、話しているうちにどんどん話がそれていき、いつのまにか別の話題になってしまい、最終的にはBというテーマになってしまった、といったことです。もしかしたら、ADHDのある方は、日常会話でもこのようなことが身に覚えがあるかもしれません。 ASDで他者視点の欠如がある場合は、相手の質問の意図を読み取ることができず、的外れな回答をしてしまうケースがあります。 進捗管理が難しい ADHD/ASD共通の苦手なこととして「マルチタスク」があります。まさに、就職活動は同時並行のマルチタスク処理が要求されます。1社ずつ応募していけばマルチタスクにはなりませんが、そうなると時間が非常にかかってしまい、現実的ではありません。 筆者は、進捗管理をこのようなExcelの表にまとめていました。 ※右端の「障害」欄の「有」は、障害を開示する「オープン就労」の求人であることを示しています。 この進捗管理表を更新すること自体が楽しくなってきて、それが250社落ちても就職活動を続けられる原動力になったと言っても過言ではありません。 就職活動のマナーが分からない あまり胸張って言えるようなことではありませんが、筆者は暗黙のルール=ビジネスマナーを認識するのが非常に苦手です。特に服装には無頓着で、靴が汚れている、袖のボタンが1つ取れかかっている、ネクタイの色がふさわしくない、髪の毛がまとまっていない、などの身だしなみについて、完全に対策できたことはないに等しいです。 こういったことは、まさか面接をする相手企業に問い合わせることもできず、せめてマナー本などを見るくらいしか手立てがありませんでした。 面接の具体的な対策 面接における具体的な対策として、「事前準備」と「面接中の対策」をご紹介します。 事前準備 よく聞かれる質問に、まずは回答を文章であらかじめ書いておくと良いです。よく聞かれる質問の例は後述します。一度書いてまとめておくと、頭に入りやすくなります。 書き方としては、PREP法を用いると良いでしょう。PREP法とは、以下の順番で話をしていく手法です。 P=Point 「結論」R=Reason 「理由」E=Example 「事例」P=Point 「結論を繰り返す」 たとえば、面接で「当社を志望した理由を教えてください」という質問に対しては、このようになります。 結論:御社のチャレンジし続ける企業風土です。理由:というのも、私もまたチャレンジの連続をしてきたからです。事例:私は去年はTOEIC、今年は簿記に挑戦しており、来年は宅建を受けてみようと思っています。結論:ということで、御社のチャレンジし続ける企業風土に惹かれています。 面接中の対策 まずは結論から 事前準備のところでも書きましたが、面接中の口頭でのやり取りでも、PREP法を意識して話すと、混乱せずに伝えることができます。特に、発達障害の特性のある方は、話があちらこちらに飛びがちです。話をしている間に、自分でも何について話しているか分からなくなってしまうのです。それを防ぐためにも、PREP法は有効です。 一文でいったん区切る 思考があちらこちらに飛びがちだと、経験上一文を言い切ることが難しくなります。「~~だと思います」「~~です」と言い切ろうとしても、それに続くトピックが思い浮かび、言いたくなるのです。そこで、続けざまに話し出してしまいます。結果、「話が長く、要点がはっきりしない」という悪印象を与えてしまうことが、筆者にはよくありました。 語尾を伸ばさない 思考を続けながら話すと、それに引っ張られて語尾が伸びることが筆者にはよくありました(今もあります)。上記の「一文でいったん区切る」とあわせて活用すると、抑制の効いた、理解しやすい印象を相手に持ってもらうことができます。 分からなければ「~~ということでしょうか?」と聞く 面接中、面接官の言うことが分からなかったとき、筆者は「分かっていないことを悟られてはいけない」と考え、分かったふりをしてその後懸命に文脈から内容を類推する、ということをしていました。これは本当に意味がありません。分からなければ、正直に伝えるのをおすすめします。「分かりません」ではなく、「~~ということでしょうか?」と自分からの理解も精一杯していることが伝わるような言い方をするとなお良しです。 いずれにしても、「立て板に水のごとく(よどみなく、すらすらと話す様子)」うまく話そうと思わないことが、結果的に良い伝え方、伝わり方になることが多いです。 面接でよく聞かれること 面接では、履歴書の内容、職務経歴書の内容、志望動機などの他に、障害者雇用枠特有の「頻出質問」があります。その中からいくつかピックアップしてみます。 1. 自身の障害について 自身の障害のことについては、ほぼ自己紹介のようなものなので、ひととおり説明できるようにしておくと良いと思います。筆者の場合、面接ではありませんが、イベントなどで登壇したときの自己紹介をする際には、以下のように「診断名」「具体的な傾向(障害特性による困難や苦手なことなど)」をセットにしてお伝えするようにしています。 「私は、10数年前にADHDの診断を受けました」「具体的には、主なものとして、抜け漏れ、先送り、過度の自責傾向、段取り苦手といった傾向があります」 2. 障害対策として取り組んでいること さらに、職場で本人が自ら働けるような自助努力をしているかは、面接官としても聞きたいところです。そこで、障害対策として取り組んでいることも、要点を押さえて伝えられるようにしておくと良いです。どのような要点の押さえ方をすれば良いかというと、上記の「自身の障害について」で挙げた「具体的な傾向」に対応する形で伝えれば良いです。筆者であれば、以下のようにお伝えしています。 「私は、タスク管理ツールに書き出すことで抜け漏れを防いでいます」「また、仕事を細かい作業に分けることで、先送りや段取りが苦手なところをカバーしています」「さらに、タスクのボールを自分が持っているかどうかを可視化して、自責傾向を抑えています」 3. 必要な合理的配慮について 自身の障害を説明し、できる限り対策を講じていることを伝えると、必要な配慮がグッと相手に入りやすくなります。同時に、「ここまで自分は頑張っているのだから、自分の希望をストレートに伝えても大丈夫」という余裕が出てきやすくなります。必要な配慮を依頼するときには、「特性による行動面の特徴」「具体的な配慮事項」をセットでお伝えしていました。筆者の実例は、このようなものでした。 「過度な自責傾向があるため、強い口調で指摘をされると、思考が止まってしまい業務が手につかないことがあります。」「何か注意すべき点があるときには感情的に叱責するのではなく、冷静に対話していただけるとありがたいです。」 そのほかの合理的配慮の依頼例としては、以下のようなものがあります。 抜け漏れについては「重要な書類は、Wチェックをしていただきたい」先送り、段取りが苦手については「週1回業務確認のミーティングを実施していただきたい」 上記3点は、どの企業の面接を受けるとしても、障害者雇用枠での選考であれば必要になります。ご自分なりの想定回答をご用意いただけると良いかと思います。そして、その大前提として、「自己理解」が必要となります。 自分にはどんな障害があり、具体的にどのような傾向でどのような困りごとが発生しているかそれに対してどう対策しているかそれでも対応し切れなくて配慮して欲しいことは何か これらの項目にスムーズに答えられるように自己理解をしておくと、面接に通る確率が上がることでしょう。 面接や就職活動の対策は、しかるべき人に頼ろう これまで、面接対策として、よくありがちな困りごとや苦手なこと等を中心にお伝えしてきました。筆者は、就労移行支援事業所等の存在を知らなかったため、自己理解から具体的な対策をするまでに年単位の時間がかかってしまい、それでも十分な対策ができたとは言えない状態でした。 面接のみならず、就職活動では、個々人の困りごとや特性などを総合的に判断し、原因にあわせた対策が必要になります。面接での細かな工夫なども含め、専門的な知見を持った人の協力を得て、自分にあった対処法を見つけて実践していくことが大切です。 就労移行支援事業所ディーキャリアでは、働くことで悩みを抱えている発達障害のある方の支援をおこなっています。就労移行支援事業所ディーキャリアは、利用者様一人ひとりに合う金銭管理方法を見つけるサポートも行なっています。 就労移行支援事業所とは、障害のある⽅が就職するための「訓練・就職活動」の⽀援をおこなう障害福祉サービスの一つです。(厚⽣労働省の許認可事業) 就職とは人生の目的を実現するための通過点です。自分の「なりたい」姿を見つけ、障害特性への対策と自分の能力を活かす「できる」ことを学び、社会人として長く働くために「やるべき」ことを身に付ける。 「なりたい」「できる」「やるべき」の 3 つが重なりあうところに仕事の「やりがい」が生まれると、私たちは考えています。 ご相談は無料です。フリーダイヤル、または、24 時間受付のお問い合わせフォームにて、お気軽にお問い合わせください(ご本人様からだけでなく、当事者のご家族の方や、支援をおこなっている方からのご相談も受け付けております)。 お電話(0120-802-146)はこちら▶ お問い合わせフォームはこちら▶ また、全国各地のディーキャリアでは、無料の相談会や体験会も実施しています。 全国オフィス一覧はこちら▶ 就労移行支援事業所ディーキャリアは、「やりがい」を感じながら活き活きと働き、豊かな人生を目指すあなたを全力でサポートします。お一人で悩まず、まずはお気軽にご相談ください。 記事監修:北川 庄治(デコボコベース株式会社 プログラム開発責任者) 東京大学大学院教育学研究科 博士課程単位取得満期退学。通信制高校教諭、障害児の学習支援教室での教材作成・個別指導講師を経て現職。
仕事が辛い同志におくる、ADHDのための「紙1枚」仕事術

特性による失敗を繰り返し、どんどん自信がなくなっていく。そんな状況から立ち直った仕事のコツを紹介します。

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「頑張っているのに仕事がうまくいかない」「みんなはできているのに自分だけできない」 社会人になった途端に、仕事でうまくいっている友人たちとの間に距離を感じてしまう。会社で認められて出世したり、大きな買い物を次々にしていく周囲の人たちがいる一方、自分は些細なことでも失敗をしでかして、どんどん自信がなくなっていく。そういった筆者の体験談をもとに、そんな状況から立ち直っていった仕事のコツを、筆者の執筆した書籍『発達障害の僕らが生き抜くための「紙1枚」仕事術』をベースにお伝えします。 皆さまの「生きづらさ・働きづらさ」への対処法のヒントとして、この記事がお役に立つことを願っています。 執筆者紹介 小鳥遊(たかなし)さん 発達障害やタスク管理をテーマに、2021年まで会社員、2022年からフリーランスとして活動している。 発達障害(ADHD)当事者。主に発達障害や仕事術をテーマとするweb記事を執筆。2020年に共著「要領がよくないと思い込んでいる人のための仕事術図鑑」(サンクチュアリ出版)を執筆し発行部数は10万部を超える。 また、就労移行支援事業所でタスク管理等に関する定期プログラムやセミナー等を実施。企業や大学等での講演、個人/法人のタスク管理コンサルティングもおこなっている。 [toc] 大学は出たけれど 就職活動ができなくて資格試験の道へ 大学進学までは周囲と変わらず普通に過ごしていましたが、大学3年生から始まる就職活動で、「なぜ自分は働かなければいけないのだろう」「自分が本当にやりたい仕事って何だろう?」と考え始めてしまい、答えが見つからず就職活動全般に対して興味がなくなってしまいました。 後にADHDと診断される筆者は、「知識の偏り」を医師より指摘されます。興味がないことは徹底して知識が身に付かないということです。そんな筆者なので、「仕事をすること」に興味を持てない当然の結果として、就職活動に身が入らなくなってしまいました。 そんなことから、法律系の難関資格である司法書士を目指すことになるのですが、消去法で選んだこともあり勉強に身が入らず、大学卒業後20代の大半を受験勉強に費やしてしまいました。 勉強しながらアルバイトをしようと考えたものの、慣れないこともあってか仕事がうまくいかず、司法書士事務所と不動産会社でのアルバイトを相次いでクビになり、「これは何かおかしいのではないか」と思って診断を受けました。そこでADHDの診断を受けたのです。 就職しても傾向は変わらず その後、障害者雇用枠で会社に就職し、約4年ほどはなんとか仕事を続けられたものの、会社内の状況の変化なども影響して、仕事のミスが頻発し会社に行けなくなり休職し、そして退職してしまいました。 筆者には、このような特性があります。 私は、発達障害の1つADHD(注意欠如・多動症)の診断を受けていて、具体的には、「抜け漏れ」「先送り」「過度な自責傾向」「段取りが苦手」「集中しづらさ」という発達障害によくある特性があります。『発達障害の僕らが生き抜くための「紙1枚」仕事術』(SBクリエイティブ) ADHDの特性は、基本的には一生変わりません。筆者は、特に緊張したり焦ると、この特性が出やすく、より強く出てしまいます。会社の経営状況が悪くなり人員も減らされていった結果、仕事の負荷が年々重くなっていきました。それと同期するように、社内の人間関係もギスギスしていきました。そういった環境の変化から特性が強く出るようになり、いくら頑張ってもなかなか仕事がうまくいきませんでした。その結果、休職し退職にいたったことは、前述のとおりです。 そのような展開は、転職した次の会社でも同様でした。会社の経営状況は好調でしたが、クローズ雇用(障害を開示しない一般雇用枠)で入社したのと、年齢を加味してもらって役職付きになったため、前の会社よりも一層業務負荷が重い環境で働くことになりました。その結果、特性が強く出てしまい仕事が思うようにいかず、1年程度でまた休職することになりました。 一方、友人たちは…… 筆者が休職や退職をしている一方、友人たちは着実にキャリアを積み重ねていきました。有名企業に入って順調にステップアップする友人、高い車を買う友人、豪華な結婚式をあげる友人、家業を継いで経営層として結果を出す友人、飲食業で頑張ってお店を持つまでになった友人。周囲の人たちは仕事というフィールドできちんと結果を出して、ライフイベントも次々と迎えていく。それに比べて、自分はなぜできないのだろうと、自己肯定感は下がるばかりでした。  私はずっと「自分の力で稼いで、(自分の考える)人並みの生活をしていきたい」という気持ちを持っていました。大学を卒業するまで、いつかは自分にも「人並み」の生活や幸せが勝手に訪れるものだと信じていたからでしょう。 ところが、学生時代が終わり、社会に出た途端、「人並み」とか「普通」とか、そういう類のものが自分にとってはるか遠くのものになってしまいました。「いわゆる障害者雇用」のあまりにも低い給料に悔し涙が出たのも、有名企業に入った大学の友だちと心のどこかで距離感を覚えてしまったのも、その根底にはいつも、「人並みになれない自分」への驚きと悔しさがあったのだと思います。『発達障害の僕らが生き抜くための「紙1枚」仕事術』(SBクリエイティブ) 「タスク管理」で劇的に変わる 「タスク管理」なんて知らなかった私 自己肯定感が大きく下がり、自信を完全に喪失した私は、「できる」自分を背伸びして追い求めるのを諦めるようになりました。それは、今考えれば結果的に自分を良い方向へと導いてくれたと考えています。「できない」等身大の自分を認めることができるようになったことで、自分の抱える特性「抜け漏れ」「先送り」「過度な自責傾向」「段取りが苦手」「集中しづらさ」に真っ向から向き合い、現実的な対策を講じることができるようになりました。 「現実的な対策」とは、「内勤事務職である自分が、目の前のパソコンで仕事の管理表を作る」ということです。当時は、これが「タスク管理」になるとはつゆ知らず、「仕事ができない自分のためのちょっとした工夫」ぐらいしか考えていませんでした。 ①「抜け漏れ」対策 「言われた仕事は全部書く」ということを徹底してやりました。頭の中にあるから書かなくていい、と書くのが面倒な私は思いがちでしたが、面倒でも書く!と自分に言い聞かせ、目の前のパソコンのExcelに書き出しました。 抜け漏れや忘れは、頭で記憶しようとするから起こります。つまり、頭で記憶せず、外部媒体に記録すれば良いのです。こんな当たり前のことがなぜ今まで思いつかなかったのか不思議でした。 ②「先送り」対策 先送りをしてしまう原因の1つとして、「将来得られる大きな達成感」よりも「今得られる小さな達成感」を優先することが挙げられます。やらなければいけない大きくて手間のかかりそうなプロジェクトに高いハードルを感じて、ちょっとの手間でできそうなデスク回りの掃除をついやってしまうのです。 そうならないように、大きくて手間のかかりそうなプロジェクトはすぐに終わらせることができる細かい作業に分け、取り組むことへの心理的なハードルを下げました。 ③「過度な自責」対策 過度な自責傾向とは、自分が責任を持たなくても良い事柄に関しても、「何か自分がやれたのではないか」と考えてしまい、「うまくいかなかったのは自分のせいだ」と思ってしまうことです。心理学上の言葉では「自己関連付け」と言います。 これに対しては、「自分の責任」「相手(自分以外の他人)の責任」とをタスクごとに見える化して、「相手の責任は相手の責任」と思えるようにしました。 ④「段取りが苦手」対策 決められた締切までにタスクを完了させるための「段取り」。夏休みの宿題をやらずに放置して最終日に慌てて手を付けるも間に合わない、といった話がよくあります。まさに自分がこのタイプで、段取りがうまくない典型例でした。 その対策として、②で分けた細かい作業単位に締切を設定して、マラソンのラップタイムのように「いつまでに、どこまでいけば大丈夫か」が分かるようにしました。 ⑤「集中しづらさ」対策 ①~④で書き出した情報は有用なものですが、ときに大量になり過ぎて、どこに注目すれば良いかが分かりにくく、目移りしてしまいがちでした。目移りすると、それに伴って思考の対象も変わってしまいます。今「経費精算申請書の作成」をしていたのに、新着メールの通知に引っ張られて「人事からのメール閲覧」に変わってしまっていたり、といった経験がある方は少なくないのではないでしょうか。 対策としては、「これだけ見ておけばいいですよ!」という、見るべき情報をできるだけ絞り込ませるような見え方になる工夫をすることです。たとえば、すでに終わった作業に取消線を引いたり、「今やるべき作業」だけを集めてリスト化したり、といったところです。 上記①~⑤を「紙1枚」に集約させたのが下記になります。 『発達障害の僕らが生き抜くための「紙1枚」仕事術』(SBクリエイティブ) ※上記画像の「ステータス」は以下のようにご理解ください。 自分:自分がボールを持っている(タスクの進捗の主導権を握っている)相手:自分以外の他人がボールを持っている予定:誰もボールを持っておらず、特定の日時に自然と発生するいつか:自分がボールを持っているが、締切がなく「いつかやれればいい」程度である 劇的に変わった仕事生活 このような仕組みをExcelで作った私の仕事生活は、劇的に変わりました。特性はそのままでしょうがないと考え、代わりにこの仕組みに沿って仕事を進めていったところ、それぞれの特性による困りごとが驚くほどなくなっていったのです。 以前は、退社後や休日にも仕事のことが頭から離れず鬱々としていました。それが、このやり方を取り入れてからは、毎日退社後や休日は「定期試験の最終日の解放感」を味わうことができるようになりました。 自分の苦手を徹底的に受け容れ、そんな自分をそのままカバーする仕組みを作っていき、自身の発達障害特性による困りごとをことごとくカバーするExcelが完成しました。このExcelこそ、本書で紹介する「紙1枚」のベースとなるものです。私の人生はここでようやく底を打ちます。8年間抱えてきた仕事の悩みがウソみたいに解消され、会社での仕事に自信が持てるようになり、会社員として人並みに食べていけるようになりました。特性がなくなったわけではありません。仕事のやり方をほんの少し変えただけ。ただそれだけでよかったのです。『発達障害の僕らが生き抜くための「紙1枚」仕事術』(SBクリエイティブ) 「紙1枚」を活用した仕事上の工夫 この「紙1枚」仕事術を活用すると数々のメリットがあります。その一部をご紹介します。 「面倒くさい」は幸せの青い鳥 「紙1枚」仕事術では、タスクはより細かいサブタスクへ分解して着手しやすくします。しかし、それでも「面倒くさい......」と感じて、自然と手が止まってしまうことがあります。面倒くさいと感じることは、ADHDによく起こりがちな「先送り」を引き起こすことにつながります。 そんなときは、そのサブタスクが、自分が実行可能なレベルまで分解されていないことが多いのです。「面倒くさい」と感じたら、それは「そのサブタスクをもっと分解しよう」の合図です。「面倒くさい」と感じること自体はネガティブなイメージですが、実は先送りに陥りそうな自分を救ってくれる幸せの青い鳥なのです。 「『面倒くさい』というサインが出たぞ! よし、サブタスクを分解しよう」と変換する思考習慣ができたら無敵です。サブタスクをザクザクカットしていくうちに、面倒くさい気持ちはどこかへ飛んでいき、代わりに「面倒くさくない」サブタスクのリストができあがります。『発達障害の僕らが生き抜くための「紙1枚」仕事術』(SBクリエイティブ) 「マルチタスク」という幻想を捨てよう 現代社会では仕事をするうえで、一人でいくつものタスクを同時に実行する「マルチタスク状態が”当たり前”」という「幻想」が一般的に広くあるような気がします。 実は、マルチタスクは、それぞれのタスクをサブタスクへ分解し、そのサブタスクたちを次々に終わらせていくことでしか対処できません。ある取引先へのメールを打ちながら、別の取引の担当者とまったく違う内容の電話をするようなことは不可能なのです。 つまり、「田中商事に送るサービスの見積書を作成する」というタスクと、「Cさんからのお礼メールに返信する」というタスクが2つ同時に存在していて、今は前者のサブタスクの2つ目に着手していますよ、という「紙1枚」では至って普通な仕事のこなし方が、世に言う「マルチタスク」なのです。難しく考えるほどのことではない気がしてきませんか?「できる人」は、この「シングルタスク」を非常に効率よく無駄なく高速で処理していると言えます。『発達障害の僕らが生き抜くための「紙1枚」仕事術』(SBクリエイティブ) 特性も含めて自分自身 タスク管理は「たまたま」 筆者は、自分の特性をカバーする方法を自分なりに考えていた結果たどりついたのが、たまたまタスク管理でした。もしかしたら、他の方はまた別のやり方にたどりつくかもしれません。 仕事術の本を執筆し、それを広める活動をしている筆者ですが、もっと他のところに目を向けて、それぞれがそれぞれなりの「障害特性への対策」を立てれば良いと考えています。 特性を「なかったこと」にしない ただ、その根っこのところで大事にしたい考え方があります。それは、自分の特性を否定して「なかったこと」にしようとしないというものです。特に、ADHDに限らず、発達障害の特性は、なかったことには基本的にはできません。一生付き合い続けていく必要があります。 したがって、特性も含めて自分自身だと考え、「障害特性込み」で対策を立てるのをお勧めします。また、特性があることによって困ったり悩んだりすることも、「そのようなことがあってもしょうがない」「そういった困りごとがあって当たり前」という考え方ができると、実は特性への対処が進みやすくなるのです。 「どうせ自分なんて」と思っている気持ちや自分の特性をそのまま受け止め、自分の心に刻んでください。「どうせ」と思っている自分も、特性で困ってもがいている自分も、他ならぬ自分なのです。決して否定する必要はありません。辛さを抱えているからこその生き抜き方があります。「紙1枚」仕事術もその1つです。失うものは何もありません。お金もいりません。『発達障害の僕らが生き抜くための「紙1枚」仕事術』(SBクリエイティブ) そんな風に障害特性を受け容れ、困りごとに対処していった結果生まれた「タスク管理」を、もしご自分で参考になりそうでしたら、ぜひ試してみてください。 その際は、本記事でご紹介した小鳥遊の著書『発達障害の僕らが生き抜くための「紙1枚」仕事術』がお役に立てると思います。 発達障害の僕らが生き抜くための「紙1枚」仕事術(SBクリエイティブ) なお、就労には、本書でご紹介する「タスク管理」スキルとあわせて、その他のスキルのトレーニングも必要です。独学でそのすべてを習得するのは、膨大な手間と時間がかかります。 就労移行支援事業所ディーキャリアでは、働くことで悩みを抱えている発達障害のある方の支援をおこなっています。就労移行支援事業所ディーキャリアは、利用者様一人ひとりに合う金銭管理方法を見つけるサポートも行なっています。 就労移行支援事業所とは、障害のある⽅が就職するための「訓練・就職活動」の⽀援をおこなう障害福祉サービスの一つです。(厚⽣労働省の許認可事業) 就職とは人生の目的を実現するための通過点です。自分の「なりたい」姿を見つけ、障害特性への対策と自分の能力を活かす「できる」ことを学び、社会人として長く働くために「やるべき」ことを身に付ける。 「なりたい」「できる」「やるべき」の 3 つが重なりあうところに仕事の「やりがい」が生まれると、私たちは考えています。 ご相談は無料です。フリーダイヤル、または、24 時間受付のお問い合わせフォームにて、お気軽にお問い合わせください(ご本人様からだけでなく、当事者のご家族の方や、支援をおこなっている方からのご相談も受け付けております)。 お電話(0120-802-146)はこちら▶ お問い合わせフォームはこちら▶ また、全国各地のディーキャリアでは、無料の相談会や体験会も実施しています。 全国オフィス一覧はこちら▶ 就労移行支援事業所ディーキャリアは、「やりがい」を感じながら活き活きと働き、豊かな人生を目指すあなたを全力でサポートします。お一人で悩まず、まずはお気軽にご相談ください。 記事監修:北川 庄治(デコボコベース株式会社 プログラム開発責任者) 東京大学大学院教育学研究科 博士課程単位取得満期退学。通信制高校教諭、障害児の学習支援教室での教材作成・個別指導講師を経て現職。
食事でADHD特性対策!「集中力」を高める食べ物は?

ADHDの苦手あるある「集中しづらい・続かない」を「食べ物」で対策。カフェインの摂り過ぎは要注意!おすすめの栄養素を紹介。

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「集中力が続かない」「1つのことに専念できず、つい気が散ってしまう」 ADHDの特性がある筆者は、集中しづらさという傾向があります。何か気になることがあると今やっていた作業から集中がそれてしまったり、優先順位が高いやるべきことに専念しなければいけないのに、つい興味のある他のことについて考えて手が止まってしまったり、ADHDの衝動性が行動にあらわれてしまいがちです。そんな傾向への対策として、今回は「食事」という観点からできることをお伝えしていきます。 皆さんの「生きづらさ・働きづらさ」への対処法のヒントとして、この記事がお役に立つことを願っています。 執筆者紹介 小鳥遊(たかなし)さん 発達障害やタスク管理をテーマに、2021年まで会社員、2022年からフリーランスとして活動している。 発達障害(ADHD)当事者。主に発達障害や仕事術をテーマとするweb記事を執筆。2020年に共著「要領がよくないと思い込んでいる人のための仕事術図鑑」(サンクチュアリ出版)を執筆し発行部数は10万部を超える。 また、就労移行支援事業所でタスク管理等に関する定期プログラムやセミナー等を実施。企業や大学等での講演、個人/法人のタスク管理コンサルティングもおこなっている。 [toc] なぜADHDがあると集中力が続かないのか ADHDの抱える「衝動性の強さ」 ADHDのある方は、判断や抑制を司る脳内の機能が低下し、行動や思考のブレーキが効きにくくなり、すぐに行動に移してしまいがちです。この「衝動性の強さ」が、集中しづらさにつながっています。 ADHDの抱える「ワーキングメモリーの弱み」 また、情報を脳内に一時的に置いておく機能「ワーキングメモリ―」の働きが弱い傾向が、ADHDのある方には顕著です。その傾向から、1つの作業に集中しようにも、作業に必要な情報の整理ができないこともよくあり、これもまた集中しづらさにつながっています。 このように、ADHDのよくある2つの傾向「衝動性の強さ」「ワーキングメモリ―の弱み」が主な原因となり、集中力が続かない、集中しづらいという結果に結びつきがちです。 ADHDのある方が集中できない理由やその対策については、下記の記事に詳しく書いてありますので、興味ある方は参考にしていただければと思います。 集中しづらさを「食事」で対策 集中力不足によくやりがちな対策 そもそも、ADHD特性の有無関係なく、誰にでも「集中しづらい」ときはあるものです。たとえば睡眠不足だったり、過労で頭がしっかり働かなかったりといった経験は誰でもあるでしょう。そんな集中力が途切れたときには、多くの人はエナジードリンクやコーヒーなどで「カフェイン」を摂り、眠気覚ましや脳を覚醒させて、集中力を発揮しようとするものです。 たしかに、カフェインには大脳を興奮させる作用があり、眠気が覚めて気分が高揚したような感覚を得ることができます。ただそれは、いわば「元気の前借り」であって、長期的に安定して集中力を発揮することから逆に遠ざかってしまいます。過剰に摂取すると、脳を中心とした中枢神経系が刺激されることによるめまい、心拍数の増加、興奮、不安、震え、不眠症、下痢、吐き気等の健康被害があるとされ、厚生労働省は注意喚起をしています。 参考:食品に含まれるカフェインの過剰摂取についてQ&A ~カフェインの過剰摂取に注意しましょう~ そこで、長く安定して「集中できる自分」になれるための3つの栄養素や成分、それらを多く含む食べ物をご紹介します。 脳の唯一のエネルギー源「ブドウ糖」 まずは、脳を活性化させて集中力や記憶力を高める、脳の唯一のエネルギー源「ブドウ糖」を摂ることが大事です。ダイエットのために糖質制限をするのはよく聞きますが、あまり過剰にやり過ぎると適切な判断ができなくなったり注意力が低下したりします。適切なタイミングで、しっかりブドウ糖を摂ることは、集中力を高める上でも大切です。 ブドウ糖を多く含む食べ物としては、パンなどの穀類、いも、果物などが挙げられます。特に果物はブドウ糖の含有率が高く、集中力対策には効果的です。また、砂糖などの甘味料も大事な脳のエネルギー源となってくれます。 参考:ブドウ糖を含む食べ物とは?ブドウ糖のおもな働きやおすすめレシピを紹介 筆者も、会社の仕事帰りなどで疲労感がたまっているときに、そうとは知らずブドウ糖を補給していた経験があります。帰宅途中の乗換駅にカフェがあり、そこで冷たくて甘いスムージーがとても欲しくなり、よく立ち寄っては飲んでいました。今考えると、体がブドウ糖を欲していたのでしょう。 ただし、一度に大量のブドウ糖を摂取すると、血糖値が急激に上がることがあります。急激に血糖値が上昇すると、体内でインスリンが過剰に分泌され、体に脂肪を溜め込みやすくなり、肥満のリスクが高くなってしまいます。同時に、眠くなったり、気持ちがイライラする原因ともなります。 そこで、血糖値の急激な情報を抑えてくれる食物繊維を多く含む食べ物を一緒に摂ると良いでしょう。幸いなことに、いもや柑橘系の果物など、ブドウ糖と食物繊維の両方とも多く含む食物もあります。他に、野菜や豆類、きのこや海藻などは、食物繊維を多く含むのでお勧めです。 脳のエネルギー補給を補助する「ビタミンB1」 ブドウ糖を体内に入れただけでは、直接脳の活性化にはつながりません。体内に取り込まれたブドウ糖をエネルギーに変えることが必要になります。ブドウ糖をエネルギーに変える働きやそのための神経を正常に機能させるのが「ビタミンB1」です。 ビタミンB1が不足すると、ブドウ糖の分解がうまく行なわれなくなり、脳へのエネルギーの供給がうまくいかず、集中するどころの話ではなくなってしまいます。ブドウ糖を摂るのと同時に、ぜひビタミンB1も一緒に摂るようにすることを心がけましょう。 ビタミンB1を多く含む食物は、肉類(豚肉、レバー)、魚類(ウナギ、カツオ)、豆類などがあります。穀類にも含まれますが、多く含まれるのは玄米などであり、パンや精白米などはビタミンB1は多くはありません。また、お酒をよく飲む方は、アルコールの分解にビタミンB1が使われてしまうため、せっかく摂取したビタミンB1が無駄に消費されてしまうことに注意が必要です。 やる気や覚醒を司る神経伝達物質を作る「チロシン」 また、「やる気」を起こさせる、持続させるという点では、「チロシン」という成分が有効です。チロシンは、ドーパミンやアドレナリンの原料です。ドーパミンは別名「幸せホルモン」と呼ばれ、やる気の向上や幸福感のアップをもたらしてくれます。アドレナリンは、危機を察知したときなどに分泌されるホルモンであり、集中力を上げて、自分の置かれた状況に対して迅速に決断することを助けてくれます。 チロシンを多く含む食物の代表はタケノコです。他にも、かつお節やアーモンド、ピーナッツ、牛乳や肉類にも豊富に含まれています。チロシンはトリプトファンという物質と一緒に摂取するとより効率的に脳に届けられます。トリプトファンは大豆や牛乳、チーズやヨーグルトなどに多く含まれています。 なお、炭水化物を多く含む食物とチロシンを一緒に摂ると効果が低くなってしまうので、ご注意ください。 食事以外での集中しづらさ対策 今までは、集中力を上げる食事についてお伝えしてきました。私たちの体は、食べたものによってできているといっても過言ではありません。何をどう食べるか気をつけると、きっと効果が現れることでしょう。 そういった食事面での対策をしつつ、さらに効果を上げるための対策を挙げてみます。 定期的な気分転換 無意識的に行なっている方もいるかもしれませんが、あらためて「定期的な気分転換」の重要性をお伝えします。まず、集中しづらさという元来の傾向をある程度受け入れることが、無理なく自然に作業を継続できるよい対策につながります。 そのためにも、一気に長時間作業を続けるのではなく、短時間に区切り、タイミングよく休憩や気分転換を挟むことをお勧めします。 気分転換の事例としては、オフィスで業務を行なっている場合、トイレに行ったり、コーヒーブレイクをしたりすることが挙げられます。筆者は、常にコーヒーの入ったコップをデスクに置き、飲み終わったタイミングでまたコーヒーを入れるため給湯室へ行っていました。オフィスから出られるなら、昼休みなどに軽い運動をしたり、仮眠をとるのも有効です。こうした行動を取って気持ちをリフレッシュさせることで、集中力が高まります。 また、定期的な区切りをつけられるようにするために、業務の作業内容を小分けにするなど仕事を進める上での工夫も重要です。たとえば、「資料を作る」ではなく、「資料の項目を洗い出す」「項目ごとに簡単な内容を書く」「本文を書く」といった具合です。小分けにすることで、席を立つタイミングをより多く作ることができ、ずっと机にかじりつくような状況を避けることができます。 さらに、集中力を高めるには、「集中すべき対象以外に注意をいかせない」工夫も大事です。たとえば、今日やるべきことを付箋に書きだして目の前に貼っておく、机の上の物はできるだけなくす、仕掛かり中の仕事タスクに関係のない書類はシュレッダーするかスキャンしてデータで保存する、スマホの通知やパソコンのメールの通知などは切っておくといったことで注意散漫になることを避け、より集中できる環境を作ることができます。 服薬 集中しづらさにはADHD特有の「衝動性」があることはすでにご説明しました。服薬をすることで、この衝動性を軽減できる場合があります。ストラテラを服用することで衝動性が抑えられているという体験談を過去の記事でご紹介しております。 集中しづらさ対策は人それぞれ 今回の記事では、食事面での対策を中心に、集中力を上げる、集中しづらさという傾向を抑える方法をお伝えしてきました。ただ、そもそもADHDと言ってもその症状や傾向は人によって違います。集中力が続かない原因も人それぞれだと考えるのが適切でしょう。 発達障害の特性がある方は、睡眠障害も併発しやすく、その結果集中しづらさにつながっている場合もあります。「過集中」が原因で疲労が溜まってしまったり、職場への過剰適応のせいで疲れやすくなったり、環境と特性のミスマッチによって集中できなくなることもあります。 そういった困りごとや特性などを総合的に判断し、原因にあわせた対策が必要になります。食事での工夫なども含め、専門的な知見を持った人の協力を得て、働くうえで自分にあった対処法を見つけて実践していくことが大切です。 就労移行支援事業所ディーキャリアでは、働くことで悩みを抱えている発達障害のある方の支援をおこなっています。 就労移行支援事業所とは、障害のある⽅が就職するための「訓練・就職活動」の⽀援をおこなう障害福祉サービスの一つです。(厚⽣労働省の許認可事業) 就職とは人生の目的を実現するための通過点です。自分の「なりたい」姿を見つけ、障害特性への対策と自分の能力を活かす「できる」ことを学び、社会人として長く働くために「やるべき」ことを身に付ける。 「なりたい」「できる」「やるべき」の 3 つが重なりあうところに仕事の「やりがい」が生まれると、私たちは考えています。 ディーキャリアは、就労へ向けて以下4点においてサービスを提供しています。 「就労準備性」の向上就労するうえで必要な心身の健康管理(生活リズムの安定、通院・服薬等)、ビジネスマナーの習得、コミュニケーションスキル・実務スキルの習得等をおこないます。自分の障害特性への対処法の習得障害理解を深め、自己対処法の習得、必要な合理的配慮の洗い出しをおこないます。「自分らしい"働き方"」の探求業界職種はもちろん、一人ひとりに合った「働き方(障害者雇用or一般雇用、給与、職場環境、勤務時間等)」をスタッフに相談しながら決めることができます。就職サポート応募書類の添削や、面接練習、キャリア相談などを通して、就職に至るまでの「就活」をサポートします。具体的には以下をご参照ください。 具体的には以下をご参照ください。 ご相談は無料です。フリーダイヤル、または、24 時間受付のお問い合わせフォームにて、お気軽にお問い合わせください(ご本人様からだけでなく、当事者のご家族の方や、支援をおこなっている方からのご相談も受け付けております)。 お電話(0120-802-146)はこちら▶ お問い合わせフォームはこちら▶ また、全国各地のディーキャリアでは、無料の相談会や体験会も実施しています。 全国オフィス一覧はこちら▶ 就労移行支援事業所ディーキャリアは、「やりがい」を感じながら活き活きと働き、豊かな人生を目指すあなたを全力でサポートします。お一人で悩まず、まずはお気軽にご相談ください。 記事監修:北川 庄治(デコボコベース株式会社 プログラム開発責任者) 東京大学大学院教育学研究科 博士課程単位取得満期退学。通信制高校教諭、障害児の学習支援教室での教材作成・個別指導講師を経て現職。
発達障害や鬱で「就活がうまくいかない」苦手感の克服方法

就活がうまくいかず250社落ちた経験のあるADHD当事者が、失敗から学んだ対策法について紹介します。特性理解がポイントです!

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「就職活動、お見送りの連絡ばかりでちっとも内定がもらえない」 「そもそも、選考に通る履歴書や職務経歴書の書き方のコツが分からない」 ADHDの診断を受けた筆者は、上記のような悩みを抱えて就職活動(就活)をおこない、250社落ちました。その経験から、どんな特性がありどんな困りごとがあったのか、その対策を講じるにはどうしたらいいかをお伝えします。 皆さんが少しでも安心した社会生活を送れるよう、この記事がお役に立つことを願っています。 執筆者紹介 小鳥遊(たかなし)さん 発達障害やタスク管理をテーマに、2021年まで会社員、2022年からフリーランスとして活動している。 発達障害(ADHD)当事者。主に発達障害や仕事術をテーマとするweb記事を執筆。2020年に共著「要領がよくないと思い込んでいる人のための仕事術図鑑」(サンクチュアリ出版)を執筆し発行部数は10万部を超える。 また、就労移行支援事業所でタスク管理等に関する定期プログラムやセミナー等を実施。企業や大学等での講演、個人/法人のタスク管理コンサルティングもおこなっている。 [toc] 特性による就活困りごとエピソード ここでは、筆者にある特性や発達障害の特性がある人ならではの就活における困りごとエピソードをお伝えします。 衝動性 ADHDには衝動性という特性があります。筆者においては、「考えたことを口に出さないと気が済まない、思考がつい口をついて出てしまう」という形で表れました。その特性に関連した就活失敗事例をお伝えします。 ①話しすぎ シンプルに面接で話しすぎていました。筆者は1社目を退職した後、半年ほど就活をしました。その半年間に(障害者雇用と一般雇用の求人合わせて)250社近くお見送りをされ、3社から内定をもらいました。その3社の内定は、「あること」に気をつけた途端に連続して獲得することができました。 その「あること」とは、話しすぎないということです。具体的には、「いったん言い終わったら、『これも言った方がいいかも』という内容を付け足さず、ぐっとこらえて相手の反応を見る」というものです。おそらく、付け足しの言葉はかなりの確率で相手にとって無駄なことだったのでしょう。無駄が削ぎ落され、分かりやすく話せるという好印象を面接官に与えた結果、内定につながったのではないかと考えています。 ②思考がそのまま口に出てしまう 大学生のときの話です。ある金融機関に応募したところ、面接前日に面接官を名乗る人から携帯電話あてに着信がありました。出てみると、翌日の面接に成績証明書を持参して欲しいとのこと。前日にいきなりそんな指示をされて少々面食らった私は、「え!?今日の明日ですか!?いきなり言われても用意できないかもしれませんが、とりあえず頑張ってみます」と答えました。 翌日、成績証明書が手に入り「これでどうだ」とばかり面接に臨みました。すると、面接官の態度がとてもそっけなかったのです。結果はお見送りでした。結果の連絡があってから、「あのとき『はい!明日大学で取ってまいります!」と元気よく返事をしていたら、もしかしたらそっけない態度もされず、選考も先に進めたのではないかと思いました。 意に沿わないことを言われても、笑顔で対応することが求められていたのかもしれません。思考をそのまま口にしてしまう傾向がストレートに出てしまったことで、お見送りという結果につながったのではないかと考えています。 知識の偏り 筆者がADHDの診断を受けたとき、臨床心理士から心理検査の結果に関して「知識の偏りがある」と言われました。知識に偏りがあるということは、興味があることについては積極的に行動し知識と経験を蓄積していくのに対して、興味がないことに関しては行動も消極的になり、経験も積めず知識も蓄えられないということです。 大学生のときの話です。同級生は就活をしてある程度経つと何らかの企業から内定をもらうようになりました。一方、筆者は内定が出ずじまいでした。その違いとして筆者が感じたのは、「説得力のある志望動機が言えるかどうか」でした。 同級生は、仮にA社の事業内容について少ししか興味がないにもかかわらず、その自分の興味とA社の事業内容の重なる部分をクローズアップして、「ということで御社に興味を持ちまして......」と言えていたのです。対して筆者は、自己分析や業界研究をあまり深めていなかったこともあり、基本的に一般企業の事業内容に共感もできず興味も持てず、志望動機が言えなかったのです。 それでも無理矢理ひねり出したのですが、社会の荒波に揉まれ人生経験を積んだ面接官が「これは本気で思っていないな」と見抜くのはたやすかったことでしょう。 能力の凹凸の落差 これは厳密に言うと「発達障害の特性」とは違いますが、ある能力は秀でているのに、別のことについてはびっくりするぐらいできないのは、発達障害のある人によくあることです。 とある有名企業の特例子会社の最終面接で、会社の役員の人たちが数人並んでいる中、そのうちの一人から「君はここにくるべき人ではない」と言われてしまいました。筆者は、「物忘れ」「先送り」「自責傾向」「段取り下手」という、どちらかと言うと事務処理に関する能力に自信がなく、逆に人前で話すようなことは大の得意でした。面接ではその筆者の得意がいかんなく発揮されたのです。 普通の面接であれば、好印象を与えて「では合格!」という方向にいきそうなものです。しかし、おそらく逆に「こんなにちゃんとしているのに、なぜ特例子会社で障害者雇用に応募してくるのだろうか」と面接官の人たちは思ったのでしょう。そして出てきたのが、「君はここにくるべき人ではない」という、やんわりとしたお断りの言葉だったのではないかと筆者は思っています。 特性があることによる自信のなさ これも特性自体の話ではありませんが、仕事に支障が出るような特性があるという後ろめたさ・自信のなさを埋め合わせるように譲歩をしてしまっていました。 ①「合理的配慮いりません」 初めて会社というものに入社して(障害者雇用で)働き始めたときの話です。配慮事項を聞かれたとき、「こんな自分を採用してくれたんだから、余計な迷惑を会社にかけていられない」という気持ちから、「合理的配慮をしていただく必要はありません!足りないところがあれば、自分で頑張ってどうにかします!」といった返答をしてしまいました。 ②休みが求人票と違っても受け入れる 上記とは別の会社で、一般雇用で入社したときの話です。求人票では「土日祝日お休み」と書いてあったのですが、内定をもらってから説明を受けたときには、「休みは月9日のシフト休日」と言われたのです。筆者は休日は就職にあたって重要な事項と考えていたため、とても迷いました。しかし、一般雇用で役職つきであり比較的高めの給与であったこと、何より「これを逃したら、これ以上の条件で就職できないのではないか」という自信のなさから、その条件を受け入れてしまいました。 こういった特性をあらかじめ知った上で就活をしていれば、250社も落ちなかったんじゃないかと筆者は今になって思います。 特性を知る方法 ここでは、特性を知る方法について、筆者の経験談も交えてお伝えします。 就活サポートの事例から 就労移行支援事業所ディーキャリアの就職サポートの事例で、卒業生の方がこのように振り返っています。 発達障害のある方が長く働くためには、自分の特性について知ることがとても大切だと考えています。自分にどのような特性があるかを知って、どのように具体的に対策をすればよいかを知ることで、働きやすくなると思います。面接のときにも、自分の障害のこと・特性への自己対処法・企業に求める合理的配慮を自分で説明する必要があり、自己理解の度合いが採用の合否にも影響することもあるそうです。事業所によって支援実績のある障害種別が違うので、自分の障害にあった事業所で、自己理解とセルフケアを学ぶのがおすすめです。 筆者が特性を知った経緯 筆者が初めて就活をしたのは、今から10数年前、2007年のことです。その頃は就労移行支援というものを筆者は知らず、ひとりで就職活動をしていました。そもそも、障害者の就労を支援するいわゆる就労移行支援という制度は2006年に施行された「障害者自立支援法」に基づいたものなので、知らなくても無理はありません。 ひとりで障害者雇用の求人票を見てはハローワーク経由で連絡し、ひとりで履歴書などの書類を作って提出し、面接を受けるという流れを半年程繰り返して1社目で働き始めます。そのプロセスには、自分の特性を知る機会はほぼありませんでした。 それからどのようにして特性を知ったのかというと、「ただひたすら失敗やしくじりを繰り返して経験し、自分の特性や弱みを身をもって思い知った」というのが筆者が一番しっくりくる言い方です。 この「特性の知り方」は確実です。間違いなく、自分の特性を知ることができます。しかし、時間がかかります。筆者は、2007年に会社での勤務を開始してから、明らかに自分の特性を把握しているなと実感できるようになるまで7年かかりました。また、業務での失敗やそれが重なっての休職や退職という精神的にダメージを受けることを何度も繰り返すことになるので、リスキーでもあります。 早く安全に特性を知る方法 筆者の例よりも早く安全に特性を知る方法があります。それは、第三者からの意見に耳を傾けることです。自分の特性を知ることは、多くの場合自分の弱点や苦手なことを洗い出すことになります。そういった作業は、自分ひとりではなかなかできません。家族や友人など親しい人から聞きだすのもありかもしれません。 もちろん、特性を知る手がかりとして自己分析をおこなうのも大いにありえます。自己分析の方法は、こちらにくわしく説明してありますので、ご参照ください。 ただ、「①特性を知る」ことができたとしても、そのための「②自己対処法の習得や企業に求める合理的配慮などの洗い出し」をして、その上で「③応募書類の作成や面接対策」をすることが必要になってきます。 筆者は、上記で挙げた就活では、①と②はほぼできておらず、③を自治体などが提供する就労サービスを利用しておこなったのみでした。その結果が250社のお見送りだったり、せっかく就職しても辞めることになったりということになりました。もし①から③をワンストップでサポートを受けることができたら......と思わずにはいられません。 「自己対処法や合理的配慮の洗い出し」、それと「就活」について 以上のように、障害当事者として就職するには、「特性を知る」に加えて、「自己対処法や合理的配慮の洗い出し」「就活(応募書類の作成や面接練習など)」という2点も重要だと筆者は考えています。 自己対処法や合理的配慮の洗い出しについて ①自己対処法の洗い出し 仕事をする上で起こる困りごとに対して、自分ができることを考えて洗い出しをおこないます。その多くは、「忘れないように書きとめるメモ帳を常に持っておく」「仕事上の書類が行方不明になったり紛失しないように、スキャンしてデータ保存する」といった小さな工夫であることが多いです。 「なんだ、そんな些細なことか」と思うかもしれません。しかし、筆者の経験上、「そんな些細なこと」だから、習慣化するのが難しく、自己対処のハードルを上げてしまうのです。1つ1つ確実に実行していって、自分なりの対処法を身に付けていく姿勢が大事です。具体的にどのような自己対処法があるかについて、以下の記事も参考にしてください。 筆者のおこなった自己対処法については、以下の記事に詳しく書いてあるので、よろしければご覧ください。 ②合理的配慮の洗い出し 自己対処をするにも限界があります。それでも対処できないのであれば、企業側に配慮してもらうよう理解を求めることになります。それが「合理的配慮」です。合理的配慮の基礎知識は以下の記事にまとめられているのでご紹介します。 また、特性を知るところから、自己対処法の洗い出しを経て、企業へ求める合理的配慮を決めるところまでを分かりやすくまとめた記事もあります。こちらをお読みください。 筆者は、これまでに3社の就労経験があります。1社目と3社目が障害者雇用で、合理的配慮を申請しました。1社目は前述の通り「合理的配慮無しで良いです!」と伝えました。3社目については、特性も理解し、自己対処法も確立していたこともあり、1つに絞ってシンプルに伝えることができました。それは「怒らないでください」というものです。 自責傾向が強く、また度重なる失敗やミスにより自己肯定感が低くなっていた筆者は、とにかく叱責を受けることが何より精神的ダメージを受けるものでした。怒られ終わった後も、自分による自分へのダメ出しが続き、心理的に勝手に自分を追い込んでしまうのです。その結果、仕事が手につかず、また新たなミスを誘発してしまうことも多々ありました。 そういったことにならないよう、「一点だけお願いします。怒らないでください。改善すべき点があれば、冷静に指摘するという形にして欲しいです」と、社長面接で合理的配慮を聞かれた筆者は伝えました。 ただ、「怒らないで欲しい」とは、人によっては受け入れがたい話かもしれません。そこで筆者は、仕事の進め方(タスク管理)を活用して仕事についてはしっかり責任を持ってやるという自己対処法もセットで伝え、「自分でできる限りのことはやります。それでも対処が難しいところだけはお願いします」と伝えるようにしました。 「就活」について 志望企業を選んだり、面接対策や応募書類添削などをおこなう、いわゆる「就活」については、先にご紹介した就労移行支援事業所ディーキャリアの卒業生がこのように振り返っています。 自分の経歴は変えられない中で、どう書類でまとめればよいか・離職期間や転職の回数についてどう説明すればよいかをアドバイスしてもらえたことがよかったです。離職期間が長かったり、転職回数が多い方には、就労移行支援のフォローをもらうことがおすすめです。障害者雇用枠での就職活動は、自分の障害のことや必要な配慮事項を伝えなければなりません。自分の言葉で説明するのが難しかったので、応募書類の作成や面接練習などのサポートはありがたかったです。自分に合う求人を一緒に探してくれたり、面接に同席をしてくれたりしたことも心強かったです。 「就活」については、以下のページをお読みいただくと、より具体的にご理解いただけます。 必須とも言える第三者によるサポート 特性を知ることも、自己対処法や合理的配慮の洗い出しも、そして具体的に就活をおこなう際にも、いずれも第三者のサポートは必須ではないかと筆者は考えています。筆者はすべてをほぼ自分のみでやりましたが、せっかく就職してもうまくいかなかったり、そもそも特性の理解ができていなかったり、自己対処法や合理的配慮の洗い出しをするということすら考えが至りませんでした。 さらに、これら3点がすべて揃って就職までこぎつけるのに、数年の時間がかかりました。逆にサポートがあれば、そんなにかからなかっただろうと筆者は考えています。3点をまとめてサポートしてくれる上に、志望する企業へ就職するために必要なスキル習得の訓練もできるのが、就労移行支援事業所です。 就労移行支援事業所ディーキャリアでは、働くことで悩みを抱えている発達障害のある方の支援をおこなっています。 就労移行支援事業所とは、障害のある⽅が就職するための「訓練・就職活動」の⽀援をおこなう障害福祉サービスの一つです。(厚⽣労働省の許認可事業) 就職とは人生の目的を実現するための通過点です。自分の「なりたい」姿を見つけ、障害特性への対策と自分の能力を活かす「できる」ことを学び、社会人として長く働くために「やるべき」ことを身に付ける。 「なりたい」「できる」「やるべき」の 3 つが重なりあうところに仕事の「やりがい」が生まれると、私たちは考えています。 ディーキャリアは、就労へ向けて以下4点においてサービスを提供しています。 「就労準備性」の向上就労するうえで必要な心身の健康管理(生活リズムの安定、通院・服薬等)、ビジネスマナーの習得、コミュニケーションスキル・実務スキルの習得等をおこないます。自分の障害特性への対処法の習得障害理解を深め、自己対処法の習得、必要な合理的配慮の洗い出しをおこないます。「自分らしい"働き方"」の探求業界職種はもちろん、一人ひとりに合った「働き方(障害者雇用or一般雇用、給与、職場環境、勤務時間等)」をスタッフに相談しながら決めることができます。就職サポート応募書類の添削や、面接練習、キャリア相談などを通して、就職に至るまでの「就活」をサポートします。具体的には以下をご参照ください。 具体的には以下をご参照ください。 ご相談は無料です。フリーダイヤル、または、24 時間受付のお問い合わせフォームにて、お気軽にお問い合わせください(ご本人様からだけでなく、当事者のご家族の方や、支援をおこなっている方からのご相談も受け付けております)。 お電話(0120-802-146)はこちら▶ お問い合わせフォームはこちら▶ また、全国各地のディーキャリアでは、無料の相談会や体験会も実施しています。 全国オフィス一覧はこちら▶ 就労移行支援事業所ディーキャリアは、「やりがい」を感じながら活き活きと働き、豊かな人生を目指すあなたを全力でサポートします。お一人で悩まず、まずはお気軽にご相談ください。 記事監修:北川 庄治(デコボコベース株式会社 プログラム開発責任者) 東京大学大学院教育学研究科 博士課程単位取得満期退学。通信制高校教諭、障害児の学習支援教室での教材作成・個別指導講師を経て現職。
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  • 注意欠如・多動性障害(ADHD)
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「頑張っているんだけど、なぜか仕事がうまくいかない」「学生時代は気付かなかったけど、社会人になってミスや失敗が目立つようになった」 筆者は発達障害のADHD(注意欠如・多動性障害)の診断を20代後半に受けました。今になって振り返ると、幼少期や学生時代にも、ADHDの特性が出ていたと思います。しかし、そのときは「発達障害」という言葉自体を知らなかったこともあり、ただ単に「なぜだか分からないが、とにかくうまくいかない」という思いを抱えていました。 その後、発達障害の診断を受け、自分の障害特性を理解し受け入れたことで、具体的な対策を打って「生きづらさ」を軽くしていけたという実感があります。そんな「発達障害の気付き」「障害特性の受け容れ」「特性への対策」について、経験談を交えながらお伝えしていこうと思います。 発達障害による「生きづらさ・働きづらさ」を感じている皆さまに、この記事がお役に立つことを願っています。 発達障害の診断を受けるべきか悩んでいる方は、以下のコラムもあわせてお読みください。 執筆者紹介 小鳥遊(たかなし)さん 発達障害やタスク管理をテーマに、2021年まで会社員、2022年からフリーランスとして活動している。 発達障害(ADHD)当事者。主に発達障害や仕事術をテーマとするweb記事を執筆。2020年に共著「要領がよくないと思い込んでいる人のための仕事術図鑑」(サンクチュアリ出版)を執筆し発行部数は10万部を超える。 また、就労移行支援事業所でタスク管理等に関する定期プログラムやセミナー等を実施。企業や大学等での講演、個人/法人のタスク管理コンサルティングもおこなっている。 [toc] ADHDとは まず、ADHD(注意欠如・多動性障害)について、その脳の特性とその特性による影響について簡単にまとめたものをお伝えします。 脳の特性 判断や抑制をつかさどる脳の部位の機能低下・行動や思考のブレーキが効きにくい。・思いついたことをよく考えず衝動に任せて言ってしまったり行動したりしてしまう。ワーキングメモリーの機能低下・臨機応変な対応が難しい。・不注意が起こりやすい。 特性による困りごとの例 ケアレスミスや忘れ物・無くし物が多い落ち着きがないと言われることがある人の話を聞き続けることや同じ資料を読み続けることが苦手予定や約束を忘れてしまうことがある遅刻を繰り返してしまうことがある部屋の片付けや物を探すことが苦手思ったことをそのまま口に出してしまうことがある衝動買いや計画性のない行動をしてしまうことがある仕事中や授業中など大事な場面で寝てしまうことがある計画通りに物事を進めることや、締切を守ることが苦手である このように、脳の特定の機能が低下することで日常生活や仕事上で多くの困りごとが発生することがあります。もっと詳細を知りたい方は、大人の発達障害とは|注意欠如・多動性障害(ADHD)をご覧ください。 ADHDの気付き 「自分がADHDである」という気付きは、幼少期に親が気付いて診断をしてもらったり、逆に大人になって困りごとに直面してはじめて気付いたりと、人によって千差万別です。それぞれの時期別に、よくある気付きのパターンを、筆者の経験談も交えてご紹介します。 幼少期 まだ成長段階であることが多い幼少期は、「忘れ物が多い」「落ち着きがない」「衝動的に行動する」といったことが、先天的な発達障害の症状によるものなのか、それとも成長の一過程だからなのかが判別つかないことがあります。 そんな中でも、以下のような傾向が見られ、それにより保護者の方などから注意を受けることで、本人や周囲が気が付くことが多いと考えられます。 不注意によるもの・ 話を聞き続けられない・ 遊びや活動に集中できない・ 忘れ物や失くし物が多い多動性によるもの・じっとしていられない・ 落ち着きがなく、絶えず動き回る・ 静かな活動が苦手衝動性によるもの・ 順番を待てない・ 思い付きで行動をする・ お友達に手が出てしまう・ 感情の起伏が激しい 今思い返してみると、ADHDの特性や、さらには同じく発達障害の一類型であるASD(自閉スペクトラム症)の特性が影響していると思われる困りごとがよく発生していました。※ASDの特性について詳しく知りたい方は、大人の発達障害とは|自閉症スペクトラム障害(ASD)をご覧ください。 幼稚園の運動会でリレーでのことです。チームに分かれて1人1周ずつ走っていました。第3コーナーにさしかかる直前に先生から「内側を走って!」と言われ、向きをグイッと変えてコースを外れてゴールへほぼ一直線に向かってしまいました。もちろんルール違反で失格です。先生の言う「内側」は、「コースの中で、他の選手よりもなるべく内側」という意味だったのですが、そういった理解をせず独自の解釈をしてしまったのです。「なんでそうするの!?」と先生に叱られながら、心の中では、内側と言われたから内側を走っただけなのにと不満を抱いたことを覚えています。 後年筆者が受けた診断はADHDですが、発達障害は併存することがよくあります。このリレーでの出来事は、ASDによく見られる「言葉の意図が読めない・文字通りに言葉を受け取る」という特性の影響も少なからずあったのではないかと考えています。 学生時代 学生時代は、幼少期より人格形成がされつつあり社会性も求められるので、本人もその特性に比較的気が付きやすくなります。 そのような状況で、以下のような傾向があり、周囲との差を認識することで、自身のADHD特性に気が付くことがあります。 学習の困難・集中力が持続しない・授業中にぼんやりしている・宿題や課題を忘れることが多い行動管理の困難・計画的に勉強や課題をこなすのが難しい・物忘れや失くし物が多い行動抑制の困難・教室内で落ち着かない、席を立ち歩く・過度に話す・ 質問が終わる前に答えたがる社会性の困難・衝動的な発言や行動が多い・危険な行動をとりやすい・友人関係がうまく築けない・いじめの対象になりやすい 筆者は、学習の困難や行動管理の困難、さらにはその社会的な困難があり、「忘れ物が多い」「宿題を忘れる」「計画的に課題をこなせない」「衝動的な行動」といった多くの困りごとに直面していました。 小学生のとき、市のイベントでキャンプにいったときがありました。そこで知り合った友人たちと、近くにある山に登りました。その山はかなり斜面が急で、山道には道に沿って綱がひいてあり、当然その綱につかまりつつ山道を歩かなければ危険なのですが、ふと「この綱から手を放してみたらどうだろう」と考え、パッと手を放してしまったのです。 それから数歩は余裕で歩けたので、調子に乗ってちょっと「ホラ大丈夫!」と速度を早めたところ、その加速が止まらなくなってしまいました。運悪くつまづいて転び、ゴロゴロ転がっていく形になりました。その先は急カーブで、そのままだと自分で曲がることができず深い谷に投げ出されてしまう状況でした。 幸い、急カーブの手前にある大きな木にぶつかって止まり鎖骨骨折で済みましたが、木がなかったら谷底へ落ちていました。まさに、衝動性による危険な行動と言えます。 ただ、幼少期も学生時代も、「発達障害」や「ADHD」という言葉自体があまり知られていなかったこともあり、そういった困りごとがあったにもかかわらず、自分自身も周囲も、特段対策を打つという考えすら思い浮かびませんでした。 社会人以後 幼少期や学生時代において、自身のADHD特性に気が付かず過ごしてきても、社会人として自立・自律して仕事や日常生活をおこなうようになってはじめて気が付くことがあります。 多くの場合は、仕事をする上での困りごとに直面することで否応なしに自身の特性を自覚せざるを得ないというパターンになります。 職務遂行の困難・プロジェクトの計画が立てられない・ケアレスミスが多い・時間管理が苦手(遅刻や納期遅れが多い)・時間配分がうまくできない・優先順位付けが苦手対人関係の困難・上司や同僚とのコミュニケーションがうまく取れない・衝動的な発言や行動でトラブルが生じる日常生活等における困難・感情の起伏が激しいことが多い・ストレスやフラストレーションを感じやすい・家事の管理や金銭管理が苦手・日常生活のルーチンを維持できない 筆者は、職務遂行の困難や時間管理の問題などにより、仕事がうまくいかないと悩むことが非常に多く、さらに、その影響で周囲との関係性が悪化してなおさら仕事がうまくいかなくなるという悪循環に陥りました。 司法書士の資格試験の勉強をしていた20代後半で就いた、ある不動産屋でのアルバイトの話です。最初は快く迎え入れてくれたものの、送付すべき書類を頻繁に間違ったり、お客様を入居候補物件へ案内するのに事前に地図をチェックせず道に迷って結局満足に案内できなかったりとミスや失敗をしていたので、次第に人間関係が悪化していきました。 あるとき、経理をしている社長夫人から、従業員全員にジュースの差し入れがありました。当然自分ももらえるものと思っていたのですが、私だけスルーされてしまいました。また、その社長夫人へ、とある物件についての報告をしたときに、とにかく「言っていることが分からない」とだけしか言われず、どこをどう直して報告すれば良いかも分からず完全に自信を失い、簡単な仕事すらうまくいかないという状況になってしまいました。 そんなこともあり、「自分がこんなにうまくいかないのは、何か理由があるのかもしれない」と思い、「仕事 できない」「仕事 ケアレスミス」といった検索ワードで調べてみたところ、はじめて発達障害やADHDという言葉を知ったのです。その後、公的機関に相談して診療所を紹介してもらい、ADHDの診断を受けました。
ADHD当事者が編み出した「片付け苦手」克服法を紹介

片付け・整理整頓が苦手なADHD当事者が、失敗体験から見出したライフハックを紹介。日常生活はもちろん、職場で活かせる特性対処のヒントに!

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「片付けをしようとしても、何から手を付ければいいか分からない」「会社のデスクの上に物が散乱していて、仕事に支障が…」 ADHDの特性のある人にとって、物を片付けて整理整頓するハードルは高いものです。「先延ばし・注意力散漫・やる気になりづらい」といった傾向は、キチンとまめに片付けをするという行動に立ちはだかる大きな壁になります。 筆者も、片付けに対して長年苦手感を抱いていました。特に職場での物の整理整頓は、仕事上のロスタイムやミス・失敗の原因にもなりかねません。そこで、まず日常生活において小さな行動をきっかけにしてなんとか人並み程度にはできるようになりました。さらに、職場では、仕事の整理をすることで結果的に物の整理ができるようになりました。 今回は、そういった日常生活上での片付けの工夫、職場での物の整理への取り組み方をお伝えします。 皆さんの日常生活での困りごとが少しでも「ラク」になるよう、この記事がお役に立つことを願っています。 執筆者紹介 小鳥遊(たかなし)さん 発達障害やタスク管理をテーマに、2021年まで会社員、2022年からフリーランスとして活動している。 発達障害(ADHD)当事者。主に発達障害や仕事術をテーマとするweb記事を執筆。2020年に共著「要領がよくないと思い込んでいる人のための仕事術図鑑」(サンクチュアリ出版)を執筆し発行部数は10万部を超える。 また、就労移行支援事業所でタスク管理等に関する定期プログラムやセミナー等を実施。企業や大学等での講演、個人/法人のタスク管理コンサルティングもおこなっている。 [toc] 筆者の「片付けられない」エピソード まずは、どれだけ筆者が片付けや整理整頓が苦手だったかをお伝えいたします。 幼稚園のお泊り保育 整理整頓への苦手感でまず思い出すのは、幼稚園のお泊り保育でのことです。 親がリュックサックに服や下着、靴下やその他必要な物をビニール袋に小分けして入れてくれたはずなのに、着替えなどのタイミングでかならず「・・・はて?」と困っていたのを覚えています。どの服を着ればいいのか分からない、どれがすでに履いた下着でどれがこれから履くべき下着なのかが分からない、そんな状態でした。 同じ組の友達がチャッチャと着替えて集合場所に向かう中、自分ひとりだけ部屋にポツーンと取り残されて、リュックサックの中のものを出したり入れたりしては、「どれを着るんだろう?」と頭をひねっていました。 机の中から靴下が1足 小学生になっても自分が持っている物の整理ができず、そのせいか頻繁に忘れ物や失くし物をしていました。学校の担任と親との連絡事項を書く連絡帳には、担任からの「また忘れ物をしたようです」、そして親からの「申し訳ございません、よく言って聞かせるようにいたします」のやりとりの連続でした。しかも、連絡帳自体持って帰るのを忘れるという始末でした。 特に夏休みなどの直前は大変で、ロッカーの中や机の中などは、開けてはいけないパンドラの箱でした。ロッカーの中はとにかく大量の物が乱雑に押し込まれプレスされた状態で、取り出すことすら大変でした。また、本来教科書やノートなどしか入っていないはずの机の中ですが、なぜか奥の方から靴下が1足だけでてきたことがありました。 ずさんな来客カードキー管理 時は過ぎ、会社員として働くようになってからのことです。相変わらず整理整頓が下手でした。例えば、会社に来客があった際に必ずお渡しする貸出用のカードキーの管理など。来客があったらカードキーを貸し出し、お客様の用件が済んだら、カードキーの返却を受けて管理用の引き出しに戻し、貸出簿に返却のチェックを入れる。たったそれだけのことです。 それがうまくいかず、どのカードキーを貸し出しているのか、貸出簿と現実とがまったく合わず、行方不明になったカードキーの入室権限を止め、新たな貸出用のカードキーを頻繁に作らねばならず、非常にずさんな管理しかできていませんでした。 日常から始める「物の管理」対策 そんな私ですが、取っ掛かりとして家にある物の片付けから手をつけてみることで、片付けへの苦手感を少しずつ克服することができるようになりました。 まず声を大にして言いたいのは、「捨てることを制する者、片付けを制する」です。「整理整頓(せいり→せいとん)」と言いますが、「整頓整理(せいとん→せいり)」とは言いません。整理は「物を捨てること(不要なものを取り除く)」、整頓は「必要なものをいつでも誰でも取り出せるよう、秩序立てて配置すること」です。まず最初に「整理=捨てること」ありきなのです。 とにかく、捨てる!捨てる!捨てる!片付けの第一歩はそこからです。 とは言うものの、ADHDのある人は捨てることも苦手だったりします。そのための、筆者が実践している小さな工夫を1つだけご紹介します。まずはこれだけやってみてください。 一日一善ならぬ「一日一捨」 ADHD特性のある筆者は、色々な物に目がいってしまい集中できなくなってしまいがちです。また、ゴチャッとうずたかく積まれた物を見てやる気をなくし、すぐに先延ばしをしてしまいます。そんな筆者でも実践できたのが、 一日一捨 です。今日、目の前の1個だけ捨てる。明日もまた、目の前の1個だけ捨てる。ただそれを繰り返していくのみです。色々な物に注意がそれる前に「1個捨てる」という行動は完了します。ものの数秒、長くて十数秒です。 「じゃあ、まとまった時間をとって10個や20個捨てたほうがいいんじゃないか」と思うかもしれません。でも、1個にしておきます。中断させられたような気持ちになり、次の1個をやりたくなります。そのまま自分をじらすことで、翌日に片付けたい気持ちを持ち越すことができるのです。その繰り返しで、先延ばしすることなく、いつの間にか多くの「捨てるべき物」がなくなっているのです。 我慢できなくて一日に2個以上捨てることもあるかもしれません。ただし、原則は「一日一捨」。これだけを考えてやってみると、無理なく自然に物を整理することができます。
【発達障害と金銭管理】実際に効果があった対策を紹介

金銭管理が苦手な発達障害のある方に向け、ADHD当事者が実際に効果のあった対策を紹介します。特性別の困りごとと支援制度についても解説。

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「衝動買いが止められない」「お金がいつの間にか残り少なくなっている」「貯金がどうしてもできない」 発達障害のある方は、金銭管理に関する苦労がついてまわるといっても過言ではありません。筆者も、期限まで払うべきお金を延滞させてしまったり、計画的なお金の使い方ができず月末に翌月分の前借りをしなければならなくなったりと、お金の管理にはだいぶ手を焼いてきました。 今回の記事は、特性別のよくある困りごと、それらに対する対策、さらには相談先や支援制度の紹介をいたします。まずは自分で困りごとを把握して対策を立てることが大事です。しかし、自分だけでどうにかできない可能性もあり、相談先や支援制度も知っておくこともまた大切なこととなります。 皆さんが少しでも安心した社会生活を送れるよう、この記事がお役に立つことを願っています。 執筆者紹介 小鳥遊(たかなし)さん 発達障害やタスク管理をテーマに、2021年まで会社員、2022年からフリーランスとして活動している。 発達障害(ADHD)当事者。主に発達障害や仕事術をテーマとするweb記事を執筆。2020年に共著「要領がよくないと思い込んでいる人のための仕事術図鑑」(サンクチュアリ出版)を執筆し発行部数は10万部を超える。 また、就労移行支援事業所でタスク管理等に関する定期プログラムやセミナー等を実施。企業や大学等での講演、個人/法人のタスク管理コンサルティングもおこなっている。 [toc] 発達障害とは まず最初に、発達障害とはどういう障害なのかを簡単にご説明します。 「先天的」なもの 発達障害は、「先天的な脳機能の障害」です。「大人の発達障害」という言葉が有名になりつつあるので誤解されがちですが、親のしつけや本人の努力不足などで後天的に発達障害になる、ということはありません。 大きく分けて3つの要素がある 発達障害には、大きく分けて、自閉症スペクトラム障害(ASD)、注意欠如・多動性障害(ADHD)、限局性学習障害(SLD)の3つの要素があります。 自閉症スペクトラム障害(ASD) 対人関係やコミュニケーションの難しさ、強いこだわりや興味の偏りなどを特徴とする障害 注意欠如・多動性障害(ADHD) 不注意や多動、衝動性などを主な特徴とする障害 限局性学習障害(SLD) 全体的な知的発達に大きな遅れはないが、読み・書き・計算などの特定の課題の習得が、他に比べて不自然に遅れる状態 発達障害と診断される人のほとんどは、ADHD傾向が強いがASDの特性もいくぶんか見られるといった、3つの要素の濃淡の組み合わせであることが多いのです。このように、3つそれぞれの間は独立・分断されていないことから、発達障害はスペクトラム(連続性がある)と言われています。 発達障害の定義や、3つの障害の詳細については、下記記事を合わせてお読みください。 【特性別】お金の困りごとあるある 本記事では、ASDとADHDにフォーカスして、お金の困りごとを列挙していきます。 ASD特有の「お金の困りごと」 特性困りごとあるある将来の見通しを立てることへの苦手感計画をもってお金を使うことや、クレジットカードの引き落としなどの管理が難しいこだわりの強さ興味関心があることへの執着から、強い購買意欲を抑えられなくなる他者の気持ちが汲み取りづらい相手の言うことの真偽を見抜くことが苦手で騙されやすく詐欺被害にあうことがある ADHD特有の「お金の困りごと」 特性困りごとあるある衝動的に行動してしまう「ほしい」という感情や行動の抑制ができず衝動買いしてしまう継続することへの苦手感飽きっぽい・集中力が続かない等の理由で家計簿をつけ続けられない ASDやADHDの特性をお持ちの方は、多かれ少なかれ当てはまるところがあったのではないでしょうか。このような特性由来の「困りごと」を把握することは、対策をとるうえで大事になってきます。まずは、上記の「困りごと」のうち、自分がどれによく当てはまるかを確認してみてください。
【発達障害の治療と薬】実際に服薬してみてどうだった?

発達障害の治療法には服薬と心理療法があります。服薬の体験談と効果についてインタビューしました。薬に頼らず自己対処をすることも大切です。

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「発達障害の特性を治療でどうにかしたい」 「服薬をすることでもっとスムーズに毎日を送りたい」 発達障害と診断を受けた場合、服薬や心理療法を勧められることがあると思います。そこで、発達障害の治療法にはどんなものがあるのか、そして治療薬はどのようなものがあり、どんな効果があるのかをお伝えします。特に治療薬については、体験談を織り交ぜながらご説明していきたいと思います。 皆さんが少しでも過ごしやすい社会生活を送れるよう、この記事がお役に立つことを願っています。 皆さんが少しでも安心した社会生活を送れるよう、この記事がお役に立つことを願っています。 [toc] 執筆者紹介 小鳥遊(たかなし)さん 発達障害やタスク管理をテーマに、2021年まで会社員、2022年からフリーランスとして活動している。 発達障害(ADHD)当事者。主に発達障害や仕事術をテーマとするweb記事を執筆。2020年に共著「要領がよくないと思い込んでいる人のための仕事術図鑑」(サンクチュアリ出版)を執筆し発行部数は10万部を超える。 また、就労移行支援事業所でタスク管理等に関する定期プログラムやセミナー等を実施。企業や大学等での講演、個人/法人のタスク管理コンサルティングもおこなっている。 発達障害とは まず最初に、発達障害とはどういう障害なのかを簡単にご説明します。 「先天的」なもの 発達障害は、先天的な脳機能の障害です。「大人の発達障害」という言葉が有名になりつつあるので誤解されがちですが、親のしつけや本人の努力不足などで後天的に発達障害になる、ということはありません。 大きく分けて3つの要素がある 発達障害には、大きく分けて、自閉症スペクトラム障害(ASD)、注意欠如・多動性障害(ADHD)、限局性学習障害(SLD)の3つの要素があります。 自閉症スペクトラム障害(ASD) 対人関係やコミュニケーションの難しさ、強いこだわりや興味の偏りなどを特徴とする障害 注意欠如・多動性障害(ADHD) 不注意や多動、衝動性などを主な特徴とする障害 限局性学習障害(SLD) 全体的な知的発達に大きな遅れはないが、読み・書き・計算などの特定の課題の習得が、他に比べて不自然に遅れる状態 発達障害と診断される人のほとんどは、ADHD傾向が強いがASDの特性もいくぶんか見られるといった、3つの要素の濃淡の組み合わせであることが多いのです。このように、3つそれぞれの間は独立・分断されていないことから、発達障害はスペクトラム(連続性がある)と言われています。 発達障害の定義や、3つの障害の詳細については、下記記事を合わせてお読みください。 発達障害の治療について 一般に、医師から病気であると診断された場合、治療を受けたり薬を処方されたりします。発達障害も同じです。成育歴や日々の行動の聞き取りや、考え方や知能等の心理検査の結果をもとに診断され、治療を受けます。発達障害の治療には、大きく分けて「心理社会的治療」と「薬物療法」の2つがあります。 心理社会的治療 心理社会的治療は、「発達障害は先天的なものであり、障害そのものを『治癒』することは困難である」という見地に立ちます。そのため、本人が自らの特性と向き合い、社会に適応していくためのスキルを身に付けることが目的となります。 心理社会的治療の代表格といえば「認知行動療法」です。自身の「認知(ものごとのとらえ方)」を観察することで、そこから生まれる「感情」「行動」を変化させて生きづらさやストレスを軽くしていく治療法です。 認知行動療法については、下記記事を合わせてお読みください。 その他にも報告・連絡・相談のロールプレイなどをする「ソーシャルスキルトレーニング」、特性による困りごとが発生している状況において、そもそも本人の周囲を調整して困りごとが発生しないようにする「環境調整」というものが挙げられます。 薬物療法 心理社会的治療に対して、直接身体に作用する薬物を用いて困りごとに対処していくのが「薬物療法」です。ただし、現在はADHDの治療薬はあるものの、ASDやSLDへの治療薬はありません。また、症状を根治するものではなく、一時的に症状を抑えるものとなります。 とはいえ、服用した経験のある人からは、「頭の中がスッキリ静まり返ってびっくりした」「集中力が劇的に上がった」といった感想があがることがあり、一定の効果が得られるところは見逃せません。ADHDの治療薬として承認を受けている薬は以下の4つです。 名称内容コンサータ(メチルフェニデート塩酸塩徐放錠)・即効性あり・約12時間程度で効果が消失・ADHDの子どもの7割に効果・2013年に18歳以上の成人投与承認ストラテラ(アトモキセチン塩酸塩)・効果が現れるまで約8週間ほど・1日2回服用で24時間効果が継続・2012年に18歳以上の成人投与承認インチュニブ(グアンファシン塩酸塩徐放性製剤)・2017年3月に承認・特に多動性・衝動性について新たな治療の選択肢となることが期待されるビバンセ(リスデキサンフェタミンメシル塩酸)・2019年3月に「小児期におけるADHD」の適応において承認・ADHDの診断治療に精通した医師に限り、薬物依存にも対応できる医療機関薬局においてのみ取り扱い可・他のADHD治療薬が効果不十分のときのみに使用 なお、ASDやSLDの特性を持つ人に対しては何も薬物療法をおこなわないかというとそうではありません。例えば二次障害として不安や不眠などの症状が出ている場合には精神安定剤などの治療薬を用いたりしています。 二次障害については、下記記事を合わせてお読みください。

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