【発達障害当事者が解説】「不安な気持ち」の原因とその対処法

「不安な気持ち」への対処法

では、不安な気持ちにはどのように対処をすればいいのでしょうか。今回は「自分でできる対処」として筆者が実践している方法と、「第三者の力を借りておこなう対処」として認知行動療法の二つをご紹介します。

①筆者の対処法「書き出して見通しを立てることで、不安な気持ちをやわらげる」

私は不安な気持ちになったときに、書き出して見通しを立てることで対処をおこなっています。特に、仕事において有効な方法ですが、プライベートへの応用も可能です。具体的な手順と、どのような効果があるのかを3つに分けてご紹介します。

効果① 次にやるべき「行動」がハッキリすると不安がやわらぐ

まずは、不安なことが頭に浮かんで来たら、それを「やるべきこと」として名前を付けて書き出します。書き出したら、その「やるべきこと」を達成するための「行動」に置き換えます。

例えば仕事で、部長から「会議の資料を準備しておいて」と頼まれたとしましょう。「準備と言われたけど、どうしよう…うまくできるかな」という不安が浮かんで来たら、

  • 会議で使う資料を作成し、部長へ提出する

というように「やるべきこと」として書き出します。書き出したら、次はその「やるべきこと」を達成するために必要な行動を、順を追って書き出します。

  • やるべきことの名前「会議で使う資料を作成し、部長へ提出する」
    • 行動①:資料の下書きを作成する
    • 行動②:先輩に、下書きのチェックをお願いする
    • 行動③:先輩から、チェック結果を受け取る
    • 行動④:チェック結果を下書きに反映させ、資料を仕上げる
    • 行動⑤:部長に、資料を提出する

「会議の準備をしないと…」とだけ考えていても、具体的に何をすれば良いのかが分からず、不安な気持ちがふくらんでしまいます。しかし、上記のように「次に何をする」という行動をハッキリとさせるだけで、不安な気持ちをやわらげることができます。

効果② 書き出しておくと、予想外の事態が起きても対処しやすくなる

私は「予想外の事態」が起こってしまうとパニックになってしまいがちなのですが、あらかじめ「次に何をする」という行動を書き出しておくことで、予想外の事態が起きても対処がしやすくなります。

例えば、先ほど書き出した「行動②」ではチェックを先輩に頼むつもりでしたが、先輩が急に休んでしまって頼めなかったとしましょう。行動をあらかじめ書き出しておけば、先輩の他にチェックを頼めそうな人を探して、

  • 行動②:先輩に下書きのチェックをお願いする
  • 行動②:課長に下書きのチェックをお願いする

…と少し修正するだけで対応が可能なことが分かります。

もし、書き出さずに頭の中だけで考えていたら、「先輩に頼めなくなってしまった!どうしよう、また一から考え直さなければ!」とパニックになっていたでしょう。しかし、書き出しておくことで「変わったのは一部分だけだから、大きな変更じゃないぞ」と分かるので、気持ちを落ち着けて対処がしやすくなるのです。

効果③ 小さな成功体験を積み重ねることができる

私は、発達障害の特性が原因で、過去に失敗した経験が多く、自分にあまり自信が持てませんでした。しかし、書き出して見通しを立てるようになり、少しずつ成功体験を積み重ねることができました。

「次に何をする」という行動を書き出しておけば、それはそのまま、仕事でやるべき手順のチェックリストとして使うことができます。終わった行動から順に消していけば、「ここまで仕事を終わらせることができたぞ」ということが分かります。

とても小さなことですが、私にとっては大きな成功体験だったのです。

過去の失敗体験から、私は「どうせ自分はうまくいかない」「今まで失敗ばかりだったから、きっと今度も失敗する」と、不安な気持ちになることが多くありました。これは先ほどご紹介した「認知の歪み」に近いと言えます。

しかし、「次に何をする」という行動を書き出し、終わったら一つずつ消していくことで、「自分はこれだけの仕事をちゃんと終わらせることができたんだ」と思えるようになりました。自信が足りなくなってきたときには、終わらせた行動の一覧を見返して、自信を取り戻すようにしています。

小さな成功体験を積み重ねることで、私は不安な気持ちにも少しずつ自分で対処ができるようになりました。あくまで筆者個人の体験ではありますが、紙とペンさえあればどなたでもできる方法ですので、ぜひ一度お試しください。

②認知行動療法による不安な気持ちへの対処

認知行動療法とは

認知行動療法とは、心理療法(精神的な働きかけによる治療法)の一種です。アメリカで開発され、英語名(Cognitive Behavior Therapy)を略して「CBT」とも呼ばれます。

例えば、仲が良い同僚にあいさつをしたのに、返事がなかったとしましょう。これを悪い方に偏ったとらえ方をしてしまうと、

「何で返事をくれなかったのだろう…もしかして嫌われてるのかな」
「自分なんて、きっとこの会社では嫌われ者なんだ」
「あの人は仲が良いフリをしていただけの、うそつきだったんだ」

…というように、極端で否定的な考えにとらわれてしまい、なんでも自分(あるいは他者)が悪いと考えたり、自分が攻撃されていると思い込んだりすることで、「生きづらさ」を感じてしまうのです。

このような、ものごとの極端なとらえ方を見直すことにより、そこから生まれる“感情”や“行動”に働きかけ、生きづらさやストレスを軽くしていく治療法が認知行動療法です。

先ほど、不安な気持ちの原因としてご紹介した「認知の歪み」に対しても効果があるとされています。

認知行動療法について、より詳しくは以下の記事もご参照ください。

認知行動療法はどうすれば受けられる?

認知行動療法は、基本的に医師やカウンセラーの指導のもとでおこなわれます。精神科や心療内科で相談してみましょう。すべての病院・クリニックで認知行動療法をおこなっているわけではないので、診察前に問い合わせてみることをおすすめします。

病院だけでなく「就労移行支援事業所」などの福祉施設でも、認知行動療法に基づいた支援プログラムを提供していることがあります。

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