「がんばれば、何とかできる」に要注意!〜過剰適応とは〜

あなたの対処法、もしかして、がんばり過ぎていませんか?

発達障害の特性について学び、自分自身で対処をおこなうことは大切です。しかし対処法が適切ではなかったり、無理してがんばり過ぎたりすると“過剰適応”の状態になり、新たなストレスを生んでしまうことがあります。そのまま放っておくと自分でも気づかないうちに疲労が蓄積されて、二次障害を引き起こしてしまうことにもなりかねません。

今回は、過剰適応にならないようにするための注意点についてご紹介します。

なお発達障害のある方のストレス対策については、過去のコラム記事もご参照ください。

1. 過剰適応とは、周りに合わせようと無理をし過ぎている状態

1-1. 過剰適応とは

「上司からの期待に応えるために、睡眠時間を削って残業した」「友だちの機嫌を損ねないように、無理なお願いをしぶしぶ引き受けた」——皆さんも日常生活の中で、多かれ少なかれ「自分以外を優先した経験」があるのではないでしょうか。

このような「自分よりも周りを優先すること」が、度を超えて行き過ぎてしまった状態が“過剰適応”です。

気を遣って周りに合わせることは大切ですが、自分を押し殺した状態が長く続けば当然ストレスがたまってしまいます。特に、大人になると「職場において、自分より会社や上司の都合を優先する」「家庭において、自分より家族や親戚の都合を優先する」というように、自分の感情を抑えなければならないシーンが増え、過剰適応に陥る可能性も高くなります。

過剰適応で気をつけねばならないポイントは、「本人は無理をしている状態だが、周囲はそれに気づきづらい」ということです。

他人から見ると問題が起こっていないように見えても、その裏では本人が気持ちを抑え込んだり、自分なりに対処したりして「問題が起こらないようにがんばっている結果、問題が起こっていないだけ」なのかもしれません。

そのような「がんばり過ぎの」状態は、言いかえれば「常に無理をしている状態」とも言えます。無理をしている状態が続けば当然、心身の負担になり、体調を崩してしまうことがあるのです。

1-2. 発達障害における過剰適応とは

発達障害のある方の場合、脳の機能に生まれながらの特性があり、その特性によって“苦手なこと”と“得意なこと”の間に大きな差が生じます。特に社会人になると、本来は特性によって苦手なことでも「周りに合わせて行動する」ことが求められるため、過剰適応に陥りやすいという問題があります。

例えば、ADHD(注意欠如・多動性障害)の「じっとしていられない」「落ち着きがない」という特性は、子どものころであれば周りから「それくらい元気な方がいい」と見てもらえることもありますが、社会人になると「公共の場所や職場では、大人なら当然、静かにするべきだ」という見られ方に変わります。

このように、子どものころは大丈夫だったことが、大人になって「社会的にNG」になることは珍しくありません。明確な説明がなく“暗黙の了解”で成り立っているようなこともいくつもあります。本人にとってみれば、「大人になったら、いきなりハシゴを外された」ような感覚であり、急に適応が求められることになるので、どうにかしようと無理してがんばることになってしまうのです。

しかし「無理してがんばって、どうにか対処していること」は、残念ながら周りから見てもよく分かりません。例えて言うなら、「マラソン大会で、一見みんなと同じペースで走っているように見えるが、実は一人だけ手足に見えない重りを付けて走っている」ような状態です。

もともと発達障害は“目に見えづらい障害”と言われており、苦手に対して無理をしていることに周囲が気づきづらく、さらに自分自身も「自分の限界を超えていること」に気づかないことも多いのです。

事例①〜うっかり忘れやケアレスミスが多い、Aさんの場合〜

Aさんは、ADHDの特性により「仕事で指示された内容をうっかり忘れてしまう」「書類を作るときに、細かな部分でケアレスミスが多い」という困りごとがありました。

前職ではそのことでたびたび上司から注意を受け、それがきっかけで転職することになったAさん。新しい転職先の会社では同じミスを繰り返さないようにしようと、以下のような対策をおこなうことにしました。

  • ・仕事で指示されたことを忘れないよう、常にペンとメモ帳を持ち歩いて、指示を受けた際には必ずメモを取るようにする
  • ・タスク管理のアプリを使って、締め切りを忘れないようリマインドする
  • ・書類のケアレスミスをなくすため、作った後に時間を置いて二回チェックをする

対策をおこなった結果、うっかり忘れやケアレスミスを減らすことができましたが、もともと細かなことに気を遣うのが苦手なAさんにとっては、とても疲れてしまうやり方でもありました。苦手なことなので余計に時間がかかり、業務が忙しい時期には遅くまで残業することもありました。

ところが転職先の会社の人たちは、かつてのAさんの様子を知りません。今のAさんが問題を起こしていない裏で、どれだけ無理をしてがんばっているかなど、想像も付かなかったのです。

新しい会社にも慣れ、任される仕事が増えるにつれて、Aさんの疲れとストレスもどんどんたまっていき、とうとう限界を越えてしまいました。仕事に行くことができなくなったAさんは“適応障害”と診断され、休職することになってしまいました。

がんばりすぎたことが原因で過剰適応の状態に陥ってしまったために、“適応障害”という二次障害へとつながってしまったのです。

事例②〜空気が読めず、友だちとの人付き合いで苦労した筆者の場合〜

筆者の事例をご紹介しましょう。ASDの特性により、私は子どものころから場の空気が読めず、「友だちとの会話がうまく成り立たない」という困りごとがありました。具体的には、次のようなものです。

  • ・友だちから言われた冗談を真に受けて怒ったり、落ち込んだりする
  • ・何の話をしているのかが理解できず、「今、なんて言った?」と何度も聞き返す
  • ・いきなり話を振られると付いていけず、とっさにした返事が、話の流れに合わない
  • ・冗談を言うような雰囲気でないときに冗談を言ってしまい、場の雰囲気を凍らせる

当然、私がそんな様子ですから、会話に入れてもらえないことが増え、徐々に仲間はずれにされるようになっていきました。私は何とかこの状況を打開しようと、以下のような対処法を考えました。

  • 「話の流れが分からなくても、とりあえず相づちを打っておこう」
  • 「イヤなことを言われても冗談かもしれないから、愛想笑いをしておこう」
  • 「自分がこうだと思っても間違っている可能性があるから、口には出さないでおこう」
  • 「うっかり失言をしてしまいがちだから、なるべく発言を控えよう」

このような対処のおかげで、会話はどうにか成り立つようになり仲間はずれにされることもなくなりました。しかしいつしか、友だちたちと遊んでいても「楽しい」と思うより、疲れを感じるようになっていきました。

自分でも気がつかないうちに、私は場の空気を読もうとして、相手の表情や言葉の抑揚、身ぶり手ぶりなど、常に細心の注意を払っていました。つまり「場の空気を読む」というセンサーが働かない代わりに、別のセンサーを最大パワーで貼り続けていたので、友だちとの会話に大きな疲れを感じるようになってしまったのです。

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