国は「障害の有無にかかわらず、個人の希望や能力、適性に応じた職に就き、自立した生活を送ることができる社会」を目指して、障害のある方の雇用対策を推進しています。
厚生労働省の調査(令和元年度 障害者の職業紹介状況等)によれば、障害のある方々が「働きたい」と思う意欲は年々高まっており、ハローワークにおける障害のある方の就職件数は、この11年連続で増加しています。
また、平成30年4月1日より障害者雇用率(企業等の事業者に義務づけられた、障害者を雇用しなければならない人数の割合)が引き上げられ、企業や自治体、教育機関等の事業主が、障害のある方を積極的に雇用するよう後押ししています。
この記事では、障害者雇用枠での就職を目指す方に向けて、障害者雇用の基礎知識をまとめました。障害のある方の雇用をどのように国が推進しているのかを知ることで、障害者の権利や、権利が守られない場合の対処法について知識を深めましょう。
目次
障害者雇用促進法とは
障害者雇用促進法は、正式な名称を「障害者の雇用の促進等に関する法律」といいます。その目的は、大きく下記の3つです。
- 障害者の雇用の促進と安定
- 障害者が職業に就くため、また就いてからの、職業リハビリテーションの推進
- 障害者の自立の推進
つまり、誰もが自分の能力や適性を十分に発揮し活躍ができる雇用環境を整え、障害の有無に関わらず皆がともに働く社会を作るための法律が、障害者雇用促進法です。
障害者雇用促進法で定められている制度やルール
それでは、障害者雇用促進法で定められている制度やルールについて、具体的にその内容を解説していきます。
1. 障害者雇用率制度
企業等のすべての事業主は、常時雇用(※)する従業員のうち、一定の割合=法定雇用率以上の障害者を雇用することが義務付けられています。
※常時雇用…正社員・パート・アルバイトなどの名称にかかわらず、「期間の定めなく雇用されている者」「過去 1 年以上の期間について引き続き雇用されている者、または雇い入れ時から1年以上引き続き雇用されると見込まれる者」のこと。
法定雇用率は、事業主の区分によって割合が定められています。令和3年3月の法改正によって以下のように割合が引き上げられ、障害者雇用の推進が図られています。
- 民間企業(従業員45.5人以上)…2.2%→2.3%
- 国、地方公共団体、特殊法人…2.5%→2.6%
- 都道府県等の教育委員…2.4%→2.5%
令和3年3月の法改正では法定雇用率の引き上げとともに、民間企業の事業主の範囲が「従業員45.5人以上」から「従業員43.5人以上」へと拡大し、より多くの民間企業が対象となりました。なお、福祉先進国であるヨーロッパの国々では、法定雇用率は5%以上となっており、日本もそれにならう形で、今後さらに割合が引き上げられると予想されています。
2. 障害者雇用納付金制度
障害者雇用に伴う、事業主の間の経済的負担の差を調整したり、経済的な負担を軽減したりするための制度です。大きく分けて以下の2つがあります。
2-1. 納付金・調整金
先ほど「1. 障害者雇用率制度」でもご紹介したとおり、障害者雇用促進法では、すべての事業主に対して一定の割合での障害者の雇用を義務づけられています。しかし実際には、障害者雇用率を満たせている事業主も、満たせていない事業主も存在します。
障害者雇用のためには、施設の整備や介助者の配置など、事業主には少なからず経済的な負担が発生します。「障害者雇用を推進する企業だけが経済的な負担を背負い、推進できていない企業は負担を免れる」ということにならないように、法定雇用率を満たせていない企業からは納付金を徴収し、満たせている企業には調整金を支給する仕組みになっているのです。
なお、納付金を徴収する対象は、一定の規模以上(常時雇用される従業員が100名以上)の事業主となっており、100名未満の事業主からは徴収されません。これは、規模の大きな事業者ほどより大きな経済的利益を得ており、社会的な責任も大きいという考えに基づいています。
そのため、大企業の方が、中小企業と比べてより積極的な障害者雇用を求められていると言えるでしょう。
2-2. 各種助成金
事業主が障害のある方を雇用した際や、施設の整備、介助者の配置などを行った際に申請することで、事業主に一定の金額が支給される助成金制度が整備されています。事業主の経済的な負担を軽減し、障害者雇用を後押しするための制度です。
3. 障害者に対する差別の禁止
すべての事業主に対し、障害者であることを理由に不当な差別をすることを禁止するルールです。募集や採用を行う際、そして採用後の待遇(賃金・配置・昇進・教育訓練など)において、以下のような差別を禁止しています。
募集・採用時 |
|
---|---|
採用後 |
|
なお、このルールで禁止されているのは不当な差別です。障害の有無にかかわらず職業能力を適正に評価し、その結果として待遇が異なるということを説明できる場合には、ルール違反を問われることにはなりません。
4. 合理的配慮の提供義務
合理的配慮とは、障害のあるなしに関わらず誰もが平等に生きることができる社会を実現するために、障害によっておきる困難さを取り除いたり、周りの環境を整えたりするなどの支援のことです。
合理的配慮の提供を受けることができる「障害者」とは、「障害者手帳を持っている人のこと」だけではありません。
手帳の有無や、障害の種別(身体・知的・精神)、雇用の形態(障害者雇用か一般雇用か)を問わず、障害の特性によって、社会のなかで困難さを抱えている人すべてが対象となります。(もちろん、発達障害の方も対象です。)
合理的配慮については、以下のコラムで詳しく解説していますので、ご参照ください。
- 合理的配慮ってなに?企業に依頼をする前に知っておくべき基礎知識
- 「合理的配慮」申請マニュアル 4つのステップと知っておくべきポイント
- 自分にとって必要な配慮は?を学ぶための、合理的配慮の事例集
- みんなの「お悩み」ポイントはどこ?合理的配慮のよくある質問集
5. 苦情処理・紛争解決援助
障害者雇用促進法の制度やルールが守られていなかったり、実際には機能していなかったりするような場合に、相談する窓口や対応する体制を整えておくためのルールで、以下の措置を事業主に義務づけています。
- 相談窓口を従業員に周知すること
- 相談者のプライバシーを守ること
- 相談内容を理由に不利益な取り扱いをすることを禁止すること。また、従業員に対して「相談内容を理由に不利益な取り扱いはしない」ことを周知すること。
なお、障害のある従業員と事業主との「当事者同士」での解決が難しい場合には、各都道府県が運営する労働局(の職業安定部)に援助を求めることができます。
労働局に援助を求めた場合には、「労働局長による助言、指導または勧告」や「第三者による調停」が行われます。
障害者雇用の対象者
障害者雇用促進法では、事業主に対して雇用を義務づけている障害者(=障害者雇用率の人数としてカウントされる対象)を、身体障害者手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳のいずれかの交付を受けている人と定めています。
つまり、障害者雇用の求人に応募したい場合には、障害者手帳が必要ということになります。
参考:厚生労働省|障害者の雇用
申請先や申請方法は自治体や手帳の種類により異なりますが、まずは、各自治体の「障害福祉担当窓口」に相談してみるのが良いでしょう。手帳を取得することで、障害者雇用の求人に応募ができるほか、障害の種類や程度に応じ、さまざまな福祉サービスを受けることもできます。
障害者雇用と一般雇用のそれぞれの特徴や、メリット・デメリットについては、以下のコラムで詳しく解説していますので、ご参照ください。
- 障害者雇用と一般雇用とは?
- 実際の支援の現場から見えてきた、障害者雇用・一般雇用におけるメリットとデメリット
- みんなの「お悩み」ポイントはどこ? 障害者雇用(障害者求人枠)と一般雇用(一般求人枠)のよくある質問集
- 【企業人事に聞いた】変わりつつある「障害者雇用」への考え方
押さえておきたいポイント
少し分かりづらいのですが、「障害者雇用促進法の対象者」と「障害者雇用枠の対象者」は異なっていますので、注意が必要です。
障害者雇用促進法という法律そのものは、「障害のために、長期にわたって職業生活に相当の制限を受けている方、または、職業生活を営むことが著しく困難な方」を対象としており、障害者手帳の有無は問われていません。
一方で、先ほども述べたように、障害者雇用枠の対象者は障害者手帳を持っている方です。
法律の目的は「誰もが自分の能力や適性を十分に発揮し活躍ができる雇用環境を整え、障害の有無に関わらず皆がともに働く社会の実現」ですので手帳の有無は問われませんが、障害者雇用の制度を利用するためには、障害による困難を確認できるものとして障害者手帳が必要となるということを、ポイントとして押さえておきましょう。
障害者雇用の現状
私たちが生活する日本の社会のなかで、障害者雇用が実際にはどれくらい推進されているのでしょうか。現状は以下のようになっています。
雇用されている障害者の数(令和3年度)
民間企業(常時雇用する従業員数43.5人以上:法定雇用率2.3%)に雇用されている障害者の数は約59.8万人で、前年より3.3%(2万人)増加しました。障害ごとの内訳は以下のとおりです。
障害種別 | 雇用人数 | 前年度対比 |
---|---|---|
身体障害 | 35.9万人 | 0.8%増 |
知的障害 | 14.0万人 | 4.0%増 |
精神障害(発達障害含む) | 9.8万人 | 10.2%増 |
いずれも前年度より増加しており、特に、発達障害者を含む精神障害者の雇用が大きく伸びています。
実雇用率 | 2.20% | 前年度対比で0.05ポイント増 |
---|
実雇用率とは、実際に雇用されている障害のある人の割合のことで、10年連続で過去最高を更新しています。実雇用率は常時雇用、つまり、継続的に雇用されており労働時間も一定以上の障害者の人数をもとに計算されており、障害のある方が社会のなかで長期的・安定的に働けていることの指標となります。
障害者雇用率達成企業の割合 | 47.0% | 前年度対比で1.6ポイント減 |
---|
令和3年から事業主の範囲が「従業員45.5人以上」から「従業員43.5人以上」へと拡大し、これまで報告対象でなかった43.5人〜45.5人未満規模の企業の達成率が35.1%に留まっており、全体の割合を押し下げる要因となったようです。
なお、令和3年の法定雇用率未達成企業は全国で56,618社ありますが、そのうち「1人だけ不足している」という企業が63.9%でした。つまり、未達成だった企業でも、その過半数は達成まであと一歩のところまで来ている、ということが言えそうです。
特例子会社の状況 | 全国で562社 | 前年度対比で20社増 |
---|
特例子会社とは、「障害者の雇用の促進及び安定を図るために特別な配慮をした子会社」のことで、配慮にもとづき職場環境の整備が求められるため、一般企業の障害者雇用枠と比べて、さらにサポート体制が充実しています。
特例子会社が雇用する障害者の内訳は、下記のようになっています。
障害種別 | 雇用人数 | 前年度対比 |
---|---|---|
身体障害 | 1.2万人 | 2.5%増 |
知的障害 | 2.2万人 | 6.8%増 |
精神障害(発達障害含む) | 0.8万人 | 13.5%増 |
ハローワークにおける障害者の職業紹介状況(令和2年度)
新規求職申込件数は211.926件で前年度より5.1%減少、就職件数は89,840件で前年度より12.9%減少しています。就職率(就職件数÷新規求職申込件数)は、前年より3.8ポイント下がり、42.4%でした。障害ごとの内訳は以下のとおりです。
障害種別 | 就職件数(前年度対比) | 就職率 |
---|---|---|
身体障害 | 20,025件(21.4%減) | 34.7%(6.4ポイント減) |
知的障害 | 19,801件(9.6%減) | 57.7%(1.7ポイント減) |
精神障害(発達障害含む) | 40,624件(18.1%減) | 42.6%(3.6ポイント減) |
その他の障害(手帳を所持しない発達障害者含む) | 9,390件(52.2%増) | 38.2%(1.6ポイント増) |
新規求職申込件数は、平成11年度以来、21年ぶりの減少に転じています。新型コロナウイルス感染症の影響により「製造業」、「宿泊業,飲食サービス業」、「卸売業,小売業」といった障害者が比較的応募しやすい業種の求人数が減少した影響と考えられます。
精神障害者雇用義務化
ここまで見てきたように、障害のある方の就職に関するさまざまな指標で、精神障害者(発達障害含む)の数値は近年、大きな伸びを示しています。
一方で、精神障害者の人数:389.1万人に対して、就業者数(実際に働いている人)は9.8万人しかおらず、わずか2.5%と非常に低い状況です。
平成30年4月1日の法改正では、法定雇用率が引き上げられたのと同時に、障害者雇用義務の対象として、「身体障害者」「知的障害者」だけでなく、「精神障害者」も加わりました。(この法律上の精神障害者には、発達障害も含まれています。)
ここにいう雇用義務化とは、「事業主が必ず精神障害者を雇用しなければならない」ということではなく、「法定雇用率の算出に、精神障害者を対象にしてよい」という意味です。
精神障害者の雇用義務化により、企業等による精神障害や発達障害の方の雇用が進んでいくことが期待されています。
まとめ
法改正後、国や福祉サービスを提供する事業者が、企業等に対して精神・発達障害への理解を深めるためのセミナーを実施する例が増えてきました。精神・発達障害とはそもそもどのようなものなのか、企業等の側として受け入れるためにはどうすべきか、企業等の側も関心が高まっていることが伺えます。
また、今回ご紹介をした法律や制度以外にも、例えば、実雇用率が低い企業については行政処分の対象となったり、逆に雇用に積極的な企業は税金が優遇されたりするなど、障害者の雇用を支援するさまざま制度が整備されてきていますので、障害者の雇用がさらに推進されていくことが期待されています。
一人で悩まず、ディーキャリアに相談してみませんか?
障害者求人枠が自分に合うかが分からない…障害者雇用というものにまだ不安がある…というお悩みがある方も多いと思います。
就労移行支援事業所ディーキャリアでは、働くことで悩みを抱えている発達障害のある方の支援をおこなっています。
就労移行支援事業所とは、障害のある⽅が就職するための「訓練・就職活動」の⽀援をおこなう障害福祉サービスの一つです。(厚⽣労働省の許認可事業)
就職とは人生の目的を実現するための通過点です。自分の「なりたい」姿を見つけ、障害特性への対策と自分の能力を活かす「できる」ことを学び、社会人として長く働くために「やるべき」ことを身に付ける。
「なりたい」「できる」「やるべき」の 3 つが重なりあうところに仕事の「やりがい」が生まれると、私たちは考えています。
ご相談は無料です。フリーダイヤル、または、24 時間受付のお問い合わせフォームにて、お気軽にお問い合わせください(ご本人様からだけでなく、当事者のご家族の方や、支援をおこなっている方からのご相談も受け付けております)。
お電話(0120-802-146)はこちら▶
お問い合わせフォームはこちら▶
また、全国各地のディーキャリアでは、無料の相談会や体験会も実施しています。
全国オフィス一覧はこちら▶
就労移行支援事業所ディーキャリアは、「やりがい」を感じながら活き活きと働き、豊かな人生を目指すあなたを全力でサポートします。お一人で悩まず、まずはお気軽にご相談ください。
参考URL
厚生労働省 障害者雇用対策
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/shougaishakoyou/index.html
厚生労働省 障害者の雇用
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/jigyounushi/page10.html
厚生労働省 令和3年 障害者雇用状況の集計結果
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_23014.html
内閣府 令和3年版 障害者白書 参考資料 障害者の状況
https://www8.cao.go.jp/shougai/whitepaper/r03hakusho/zenbun/siryo_02.html
厚生労働省 令和2年度 障害者の職業紹介状況等
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_19443.html