発達障害(ADHD/ASD)の遺伝の確立は?|原因と遺伝子に関する論文まとめ
こんにちは!
就労移行支援事業所ディーキャリア札幌オフィスです!
この記事を読んでいるあなたはこんなことを考えていませんか?
- ●自分が発達障害(ADHD/ASD)の診断があるんだけど、子どもにも遺伝してしまわないか心配
- ●最近発達障害の診断がついたけど、親も似たような症状がある気がする
- ●カサンドラ症候群という言葉を最近知ったけど、もしかして自分も当てはまるかもしれない
今回の記事では様々な文献などを踏まえて発達障害と遺伝に関する情報をまとめて見ました。
この記事を読むことで
- ●発達障害と遺伝の関係について理解ができる
- ●親と子の関係について気をつけていきたいポイントが分かる
といったことに繋がると嬉しいです。
発達障害(ADHD/ASD)の原因は?
発達障害(ADHD/ASD/SLD)は「先天性の脳機能の障害である」ということが近年明らかになっています。
そしてその原因は、はっきりとしたものは現在は分かっていませんが、参考になる文献はいくつかあります。
ADHDの場合には脳の前頭葉の中の行動を抑制する機能に障害があると言われています。
また、それに関連して実行機能(計画立案、作業記憶-ワーキングメモリ、柔軟な切り替えなど)に問題が起きるとされており、これらにより仕事のスケジュール管理ができなかったり、複数の仕事を同時並行していくことに苦手さが生じてしまうといったことが起こります。
ASDの場合には表情を認知することに関連する扁桃体、顔の認知などに関連する紡錘状回(ぼうすいじょうかい)、ヒトミラーニューロンシステムとして模倣や共感に関連するとされる下前頭回や上側頭溝、人の意図していることを理解することに関与する内側前頭前野などといった脳の部位や小脳に対して、脳の体積に異常の報告が多いとされています。
ただし、これらはあくまでも現段階において分かりつつあることであり、明確な原因として発表されているものではありません。
ADHD(注意欠如・多動性障害)の遺伝率は?
ADHD(注意欠如・多動性障害)の原因については明確な根拠は現時点ではまだありませんが、親が発達障害の当事者の場合、子どもも何らかの発達障害がある状態で生まれるケースは多い傾向であると言われています。
「注意欠如・多動症発症のエピジェネティクス仮説」の中ではADHDの遺伝率について次のように記載されています。
遺伝率とは,ある形質の発現に遺伝要因がどの くらい関与しているかという割合であるが,一般的に一卵性双生児(ゲノムが 100%近く一致)と二卵性双生児(ゲノムが 50%近く一致)の診断一 致率から求められることが多い.ADHD について もこれまでさまざまな形で遺伝率について報告されてきた.児童思春期のADHDの遺伝率としては20の双生児研究から,76%(60~90%)という 結果が示されている15).一方で成人のADHDの遺伝率は30~40%と低く報告されている7,45).こ れに関しては評価者の違いによるバイアスの影響 が考えられている.つまり児童思春期では親か担当する教師が評価者となり,成人期では自己評価式の質問紙が使用されることが多い.成人のADHD で自己評価式質問紙を使用した研究では,有症率は,不注意症状 37%,多動性・衝動性症状38%28)であった.また臨床データによる研究とし ては,成人期 ADHD の遺伝率 72%29)という報告がある.このように評価者効果8,36)についての検討は重要である.
児童思春期の方を対象とした場合は親や担当教師が本人の評価を行い、その場合にはADHDの遺伝率は76%という結果になったようですね。
ただし成人になった本人が自己評価を行った場合ではADHDの遺伝率は30-40%と低い結果が出ています。
その理由については本人が評価するか他者が評価するかという「評価者」が異なることでバイアス(評価の偏り)が発生している可能性があることが書かれています。
ASD(自閉症スペクトラム障害 / アスペルガー症候群 / 高機能自閉症)の遺伝率は?
「広汎性発達障害の脳形態異常とその起源について」の中ではASD(自閉症スペクトラム / アスペルガー症候群 / 高機能自閉症など)の遺伝率について次のように記載されています。
自閉症スペクトラム障害,特にアスペルガー障害では,共感能力の障害などに基づく対人相互作用 などの社会性の障害がその中核をなし,当事者や家族の生活に深刻な制限をもたらす.しかし,その 社会性の障害の脳基盤は未解明で,治療法も確立されていない.また,一卵性双生児での一致度が非 常に高く,遺伝疫学的研究から算出された遺伝要因の関与は 90% と報告されているにもかかわらず, 多因子疾患のためか未だ責任遺伝子の同定にいたっていない.
こちらの引用の通り、自閉症スペクトラムの中でもアスペルガー障害では遺伝子要因の関与が90%となっているようです。
ただし、先述のADHDの遺伝率と違いどのような方法でどのように測定したかは文章の中では明らかにされてはいません。
方法がどのようなものにせよ、ADHD・ASDともに遺伝に関しては関係性があると見られているようです。
発達障害(ADHD/ASD)の原因となる遺伝子は?
次に、発達障害を引き起こす原因となる遺伝子についてまとめていきます。
ここで注意していただきたいのは「原因となる遺伝子についてまとめます」とは言ったものの、発達障害の原因となる遺伝子は現在も究明が続けられている段階であり、特定されているわけではありません。
これから紹介していく遺伝子については「ADHDにおける衝動性への行動-遺伝的アプローチ」の中の記述されているものを紹介していきます。
これまでの研究で ADHD への関与が強く示唆されている関連遺伝子のみを取り上げて紹介する。
ADHDの原因となる遺伝子①カテコールアミン系
- ●ドーパミン D4受容体(DRD4)
- ●ドーパミン D5受容体(DRD5)
- ●ドーパミントランスポーター(DAT)
- ●ドーパミンβ水酸化酵素(DBH)
- ●カテコール-O-メチル基転移酵素(COMT)
ADHDの原因となる遺伝子②セロトニン系
- ●セロトニントランスポーター(5-HTT)
- ●セロトニン受容体(HTR1B)
- ●シナプトソーム関連タンパク(SNAP-25)
以上が参考文献の中で紹介されていたADHDの原因となる遺伝子です。
また、ASDの関係遺伝子については先述の「広汎性発達障害の脳形態異常とその起源について」に記載があった通り複数の要因があるため同定に至っていないという記載がありました。
しかし、2021年7月に神戸大学の研究では次の通りに発表されています。
神戸大学は7月6日、染色体異常のコピー数多型を有する自閉症モデルマウスの主たる原因遺伝子(Necdin、NDN)を明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科生理学分野の内匠透教授(理化学研究所生命機能科学研究センター客員主管研究員)、玉田紘太助教らの研究グループによるもの。研究成果は、「Nature Communications」に掲載されている。
現在は自閉症モデルマウスにおいて同定されている状態なので、今後の研究と治療方法の確立などに役立つかもしれません。
発達障害(ADHD)を引き起こす環境要因は?
次に、発達障害(ADHD:注意欠如・多動性障害)を引き起こすと考えられている環境要因について「ADHDのエピジェネティクス仮説」より引用をしながら解説をしていきます。
(*ちなみにですが「エピジェネティクス」とは細胞が遺伝子の働きを制御する仕組みを研究する学問のことです)
発達障害(ADHD)の環境要因その1:喫煙
タバコの煙はニコチンだけでなく約 250 種類の化学物質を含む(中略)妊娠中の母親の喫煙が胎児の神経発達に影響することはよく知られている.11の疫学研究のレビューでは,母親が喫煙しているとADHDの子どもが生まれ るオッズ比は2.39と高値であった30).また,副流煙も子どもの脳にさまざまな影響を引き起こすといわれている.学習の困難,構造的な脳機能の変化とともにADHD症状(限局性学習症や素行症の症状も)を引き起こすという報告がある24).
まず1つ目は妊娠中の喫煙です。
妊娠中の喫煙は良くないというのは既に多く知られていることかと思います。
良くない理由として有名なものは、ニコチンが血管を収縮させることで胎児が低酸素状態になってしまうためというのがよく知られているものだと思います。
そして、引用部から分かる通りオッズ比が2.39と高値であったと記載されています。
ここで「オッズ比とは何か?」というのが記事を執筆していて分からなかったので調べたところ、次のように解説されていました。
生命科学の分野において,ある疾患などへの罹りやすさを2つの群で比較して示す統計学的な尺度である.オッズ比が1とは,ある疾患への罹りやすさが両群で同じということであり,1より大きいとは,疾患への罹りやすさがある群でより高いことを意味する.逆に,オッズが1より小さいとは,ある群において疾患に罹りにくいことを意味する
薬学用語解説 より引用
一般的にオッズ比が1.5を超えると相関関係が強いと考えるようです。
ですので、喫煙をすることによりADHDの子どもが生まれる関係は強いようですね。
発達障害(ADHD)の環境要因その2:アルコール
親のアルコール摂取と子どもの ADHD 発症については,以下のような報告がある.母親がアルコールを摂取した際の影響として,胎生期のアルコールの曝露がマウスやラットで ADHD 様の行動特性を示し,同時に DAT発現増加,MeCP2の発現減少が前頭皮質や線条体でみられることが報告されている25).また父親のアルコールへの曝露は,精子に影響を与え,子の大脳におけるDAT のプロモーター領域の異常なメチル化を引き起こ すという報告がある26)
2つ目は妊娠中の飲酒です。
妊娠中のアルコール摂取についても良くないというのは既に多く知られていることですね。
妊娠中にアルコールを摂取することは様々な影響を胎児に与えると言われています。その影響は「胎児性アルコール障害」と呼ばれ、次のようなような影響があるようです。
- ●低体重
- ●形態異常(主に顔に現れる)
- ●脳障害
これに加えて引用部分のように妊娠中の母親から胎児への影響と、父親の精子への影響があるようです。
引用部分と原文からはどれくらいの影響があるかというような具体的な数字などは示されていませんでしたが、いずれにしても子どもには良くないものですので妊娠中のアルコールは完全に絶った方がいいですね。
発達障害(ADHD)の環境要因その3:虐待などの心理社会的ストレス
DSM‒5 でもADHDの鑑別診断として,反応性アタッチメント障害が挙げられて おり,また脱抑制型対人交流障害の鑑別診断,併 存診断にそれぞれ ADHDが挙げられている3).成人の双生児に対して子どものころの虐待体験とADHD症状について質問紙を用いて尋ねると,一卵性,二卵性にかかわらず,有意な相関がみられ たという報告もある9).
3つ目は虐待などの心理社会的ストレスです。
子どもの頃の虐待については対人関係の困難さや感情のコントロールの難しさといった生きづらさを生むアダルトチルドレンに繋がることや、「自信がない」「孤独を感じる」といった考え方や行動パターンに影響を与えるインナーチャイルドにも関係してきます。
引用部で取り上げられている「反応性アタッチメント障害」と「脱抑制型対人交流障害」についても簡単にお伝えしておきます。
反応性アタッチメント障害は、「嬉しい」「楽しい」といった感情表現ができなかったり、人に無関心で交流することが少ないなどASD(自閉症スペクトラムやアスペルガー症候群など)と似たような反応が見られるものです。
脱抑制型対人交流障害とは初対面の相手でもなれなれしい言動をとったり、簡単について行ってしまうなどADHDの衝動性や多動性のような反応が見られるものです。
そして、引用部にもある通り一卵性、二卵性にかかわらずADHD症状と心理社会的ストレスについては有意な相関があるという報告もあるようですね。
発達障害自体は先天的な脳機能の障害として知られていますが、その症状は一人ひとりによって様々です。もしも10代や学生時代では特に困りごとがなかったのに大人になってからADHDの症状が強く出るようになった場合は、心理社会的ストレスなど後天的な環境要因も関係しているのかもしれませんね。
発達障害の親も変わっていることが多いのか?
これまでは発達障害と遺伝について記入をしてきました。
様々な論文などからも分かるとおり、遺伝の可能性は研究が続けられているところでありこれからも少しずつ明らかになっていきます。
そして、もしあなたが発達障害(ADHD/ASD)の診断がついている場合、もしかしたら親から遺伝したのかもしれないという可能性は拭いきれません。
また、大人になってから発達障害があることが分かる「大人の発達障害」のケースがあることからも分かるとおり、親も発達障害があることが「本人も周囲も分からないまま」過ごしている可能性というのもあります。
親に発達障害がある場合、例えば次のようなことがあるかもしれません。
- ●厳しく叱ってばかりいる
- ●会話はしていても気持ちをわかってもらえない
- ●完璧を求められる
- ●スキンシップが少ない
- ●無関心
また、かつてアスペルガー症候群と言われていた診断名の症状がある場合、家族の中でカサンドラ症候群となることもあると言われています。
カサンドラ症候群とは現状では障害ではないものの、偏頭痛や体重増減といった身体症状を引き起こしたり、自己肯定感の低下や抑うつ状態になるなど精神面の症状が起きることもあるものです。
考察:発達障害が遺伝している場合に自分ができることは?
「親が変わっているかもしれない」
「自分に障害があるのは親のせいかもしれない」
もしかしたらそんな気持ちにもなるかもしれませんが、親のせいと考えたり、それを伝えたとしても親が変わるということではありませんし、障害が治るわけでもありません。
では、そのような状況でもできることは何なのか?ここからは筆者の独断と偏見で考えをお伝えしていきます。
発達障害があっても自分ができること①「コントロールできること」に意識を向けること
親から遺伝するものや障害があることというのは自分で選ぶことはできない=コントロールすることはできません。
コントロールすることができないということは、いくらそれに対して思うことや変えたい気持ちがあったとしても、変えることはできないということです。
コントロールできないものというのは障害の有無に関わらず沢山あります。
- ●社会の情勢
- ●自然災害
- ●天気
- ●他人
- ●過去
これらを変えようとすると、怒りの感情が湧いてきたり、現状が変わらない無力感などを感じることがあります。
一方で、コントロールできるものを変えようとすることは、変えていくことができるということ。それはつまり自分自身のできることを増やすことや物事の捉え方を柔軟にし成長させていくということです。
発達障害があっても自分ができること②ポータブルスキルを身につける
今の社会は個の力が増していて、SNSをはじめとするインターネットを使うことで個人でもどんどん仕事ができる社会になっています。
その中で社会的には「専門性」が突出していることが社会的には求められています。
そして、この専門性を活かしていくためにもポータブルスキルが必要となります。
ポータブルスキルとは業種や職種が変わっても持ち運びが可能な職務遂行上のスキルのことであり、一覧にすると下記の通りです。
参考:厚生労働省ーポータブルスキル見える化ツール(職業能力診断ツール)
この表から読み取り、さらに一般的な言葉にすると次のようにまとめられると思います。
- ●コミュニケーションスキル
- ●問題解決力・目標設定
- ●管理能力(スケジュールや社内外の関係者との調整をしていく力)
- ●報告・連絡・相談やお礼・謝罪など社会で働いていくための一般的なルールの理解
さらに、たとえ困難な状況だとしても気持ちを切り替え体調を整えながら長く働いていくことが大切になります。
障害に関わらず、社会で活躍していくために
いかがでしたでしょうか?
今回は発達障害と遺伝という観点から、さまざまな論文を元に遺伝率や原因となる遺伝子についてまとめていきました。
改めてではありますが発達障害を取り巻く現状は分かっていることはあるものの、まだまだ分からないことがある状態であり、また、現在の医療では完全に治療をすることは難しいです。
遺伝とは障害の有無に関わらず、コントロールすることはできません。それは私たち全ての人に当てはまると言えます。
その中で大切なことはコントロールできることは何かを考え、社会で活躍していくためには専門性はもちろんその中に含まれるコミュニケーション力などのポータブルスキルを身につけていくことが大切だと思います。
発達障害の特性上、このポータブルスキルが苦手な場合が多いです。しかし、スキルとは練習と実践を繰り返すことで身につけていくことができるものです。
スキルを身につけていくには書籍や個別のトレーニングなどを受けていくことももちろん可能です。また、私たちディーキャリアでも日々訓練を行っており、時にはスタッフからフィードバックやロールプレイを行い身につけていくことを支援しています。
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