2. 発達障害がある方のためのストレス対策

大人になり社会に出た後は、ストレスを感じやすい場面も多くなります。ストレスをうまくコントロールしながら長く働くためには、どのような対策を取れば良いのでしょうか。

2-1. 自分の特性を理解する

「発達障害」と一口に言っても、障害の特性や今おかれている環境は人それぞれです。発達障害にはどのような特性があるのか。今の環境の中でどのようなところに困難さがありストレスを感じやすいのか。まずは自分の障害について理解することが、ストレス対策の第一歩です。

自分の障害の特性を理解すれば、おこなうべきセルフケアや、周囲に求めるべき支援の内容も分かりやすくなります。以下のページで発達障害の特性について解説していますのでご参照ください。

また国の運営する各種サイトでも、発達障害の特性理解に役立つ資料が公開されていますので併せてご参照ください。

「一生懸命がんばれば何とかできる」にも要注意

特性に対するセルフケア(自分で自分の面倒を見たりいたわったりして、自己管理すること)ができている方や、発達障害の診断を受けるまでには至っていない「グレーゾーン」の方であっても、ストレスのケアには注意が必要です。なぜなら周りの環境に合わせるために対策したり我慢したりすること自体が、ストレスの原因となっている場合があるからです。

筆者の事例をご紹介しましょう。

筆者はASDの診断を受けており、人とのコミュニケーションが苦手でいわゆる“空気が読めない”タイプです。しかし実際の仕事では「私は空気が読めませんので、みなさんヨロシク!」と宣言するわけにはいきません。空気が読めない分を他の情報で補うよう努めています。

  • ・周りの人の表情・声のトーン・ちょっとしたしぐさなどを注意深く観察する
  • ・コミュニケーションがスムーズになるよう、誰かと話をするときは相手の目を見る、相づちを打つなどを意識する
  • ・直接の会話が苦手な分、メールやチャットでのテキスト・コミュニケーションでは気を配る

言ってみれば「空気を読む」というセンサーが働かない分、他のセンサーを代わりに使って何とかやりくりしている、という感じです。

自分の特性を理解し上記のような対策をするようになってから、人とのコミュニケーションで大きなトラブルはなくなりました。しかし人と長時間接すると、とても大きな疲れを感じます。特にミーティングや商談が連続してあった後などは、しばらく放心状態で動けなくなってしまうこともあります。

がんばって対策をしよう・周囲に合わせようとしている方の場合、「苦手や困難さはあるが、一生懸命がんばれば何とかできる」という状態がずっと続くことになります。

このような状態は周りから見ると大きな問題がないように見えても、当の本人は「周囲に合わせるために、実は他の人の何倍もエネルギーを使っている」ことになるため、ストレスをためすぎないよう注意が必要です。

筆者の場合は人と接するときの疲労対策として、「ミーティングの後は休憩時間もあらかじめ予定に入れておく」「社外の人との打ち合わせはより大きなストレスがかかるので、1日2回以上おこなわない」ようにしています。

2-2. 生活習慣を整える

基本的なストレス対策として「適度な運動をする」「三食しっかりとご飯を食べる」「十分な睡眠時間を取る」など、生活習慣を整えることはとても大切です。特に「睡眠」については、若くて健康な人であっても、睡眠不足がたった二日続いただけで体内のホルモン分泌や自律神経機能に大きな影響が出ると言われています*。

「生活習慣を整えましょう」という話を見聞きしたことがある方は多いと思いますし、そんなことはよく分かっていると思われる方もいらっしゃるでしょう。

しかし発達障害のある方の場合、生活習慣の乱れが原因で仕事の勤怠が安定せず、結果として仕事が長続きしないというケースもあります。この後にもいくつか対策をご紹介しますが、すべての対策の基礎として、まずは「今の生活習慣が乱れていないか」「生活習慣を整えるためにできることはないか」を考えてみることが大切です。

参考例:睡眠時間を先に確保する

一例として、筆者が実際に生活習慣を整えるためにおこなっている対策をご紹介します。

筆者は1日の予定を立てる際、最初に睡眠時間から予定を確保してスケジュールを組み立てるようにしています。睡眠時間の目標は1日7時間なので、まずは夜23:00〜6:00までを睡眠時間としてGoogleカレンダーに入れ、そこから逆算して他の予定を入れていきます。

  • 【ある日の予定の例】
  • 23:00 就寝
  • 22:30 ベッドに入る
  • 22:00〜21:00 洗濯、明日の準備など
  • 21:00〜20:00 子どもの宿題を見る
  • 20:00〜19:00 夕食、食事の後片付け
  • 19:00〜18:30 子どもを風呂に入れる
  • 18:30〜18:00 仕事の片付け(※リモートワークのため通勤時間はなし)

このように「23:00に寝る」ところから逆算していくと、18:00には仕事を終えなければならないことが分かります。

仕事が忙しかったりプライベートの時間が取れなかったりすると、つい睡眠時間を削ってしまいがちです。しかし寝る時間が短いと翌日の日中に眠くなってしまい、昼間に予定していた作業が遅れる → また睡眠時間を削る…という悪循環になりがちです。

もちろんいつもすべてが予定どおりに進むわけではありません。仕事が忙しく残業しなければならなかったり、突発的なトラブルで予定が狂ったりすることもあります。その場合でも睡眠時間を削るのは最終手段にして、他の部分でできる限り調整するようにしています。

2-3. 特性に対するアプローチをトレーニングする

発達障害の特性に対してアプローチする方法を学ぶことで、ストレスを軽減できる場合があります。

例えばASDのある方は、「シングルレイヤー特性」によってものごとの裏側の想像がしづらく、見たままに受け取ってしまうことがあります。これに対してリフレーミングというアプローチ法では、自分に起きた出来事を別の視点から捉え直すことで、出来事から受ける感じ方が変わり、前向きに考えることができるという効果があります。

別の例としてADHDのある方は、「衝動性(行動のブレーキの利かなさ)の特性」によって何か怒りを感じるような場面に遭遇した際、自分の怒りをそのまま相手にぶつけてしまうことがあります。これに対してアンガーマネジメントというアプローチ法では、「自分は今、怒りを感じている」という状態に気付くことからスタートし、怒りをコントロールしたり、怒りを増幅させるストレスをためこまないようにしたりする方法を学ぶことができます。

特性に対するアプローチ法があることを知っているのといないのとでは、大きな差が生まれます。トレーニングして少しずつ身に付けていくものもありますので、長期的に取り組んでいくことが大切です。

公的な障害福祉サービスである就労移行支援事業所では、特性に対するアプローチ法のトレーニングを受けられるところもありますので、利用を検討してみるのも良いでしょう。就労移行支援事業所について、詳しくは以下の記事もご参照ください。

2-4. 環境を調整する/合理的配慮を求める

発達障害は脳の特性と、生活・仕事の環境や人間関係にミスマッチが起こることで、生きづらさが生じる障害です。そもそもミスマッチの原因となっている環境を調整することも、健康的に長く働いていく上ではとても重要です。

例えば感覚過敏への対策として、席の場所や照明などを変えたりするのも環境の調整だと言えます。

ただこうした調整には周囲の理解が必要な場合も多いので、セルフケアだけでは限界もあります。周りからの支援が必要な場合には、会社に対して合理的配慮の相談をすることも検討しましょう。合理的配慮について、詳しくは以下の記事もご参照ください。

より長期的には、自分の適性にあった仕事環境になるよう、社内での異動や別の会社へ転職することを検討する必要もあるかもしれません。

ただしやみくもに異動や転職すればいいというものではなく「自分にはどのような特性があり、どのような環境であれば生きづらさ・働きづらさが改善されるのか」「どのような目的を持って仕事をし、どんな将来像を描きたいのか」をしっかりと見定めてからおこなう必要があります。

自己分析や業界研究の方法など、就職・転職活動の始め方については以下の記事で解説していますので、併せてご参照ください。

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