ADHDのある方に向いている仕事〜実践的な仕事の選び方〜

「仕事がうまくいかなくて辞めたい…」「他にもっと、向いている仕事があるんじゃないか…」

注意欠如・多動性障害(以下、ADHD)の診断を受けた方や「自分はADHDかもしれない」と感じている方の中には、もっと働きやすい仕事への転職を検討されている方もいらっしゃるかもしれません。

デザイナーやエンジニア、ジャーナリストなど、書籍やインターネットの情報では「ADHDのある方に向いている仕事」が紹介されていることがあります。しかし気をつけねばならないのは、これらの職業はあくまで「ADHDの特性が活かせる可能性がある」というだけで、「ADHDの特性があれば必ずこれらの職業になれる、というわけではない」という点です。

そこで今回は、ADHDのある方に向いている職業をご紹介したうえで、「それらの職業に就くには、実際にどのようにすれば良いのか」「現実的になれる可能性がどれくらいあるのか」を解説します。これから就職や転職を考えている方の参考としてご覧ください。

ADHDの特性とは

向いている仕事を分析するために、まずはADHDの特性が、実際の生活にどのように影響するのかを確認しておきましょう。

ADHDとは、不注意や多動、衝動性などを主な特徴とする障害であり、脳の特性として大きく2つに分けられます。

一つ目は「行動や思考を制御する機能の低下」です。行動や思考のブレーキが効きにくくなっている状態とも言えます。この特性と、その人が持つ本来の個性が掛け合わさることで、個々の症状が表れます。例えば「活発な人」の場合は衝動性が表れ、「好奇心が強い人」の場合は過集中が表れる、といった具合です。

二つ目は「ワーキングメモリーの弱み」です。脳の一時的な記憶の置き場であり、作業場でもあるワーキングメモリーの機能低下により、臨機応変な対応が難しくなったり、不注意が起こりやすくなったりします。

一つ目の「行動や思考を制御する機能の低下」の特性は、場合によっては長所にもなり得ます。例えば、衝動性がプラスに働きスピーディーな判断や行動につながる、過集中がプラスに働き興味関心があることに没頭できる、といった仕事における強みが生まれるケースも少なくありません。

一方で、二つ目の「ワーキングメモリーの弱み」の特性は、残念ながら実生活において長所になることがほとんどなく、大半が困りごととして表れてきます。

「ADHDの特性を活かした職業がある」とは言っても、大前提として特性に対する対策(セルフケア)をセットでおこなうことが必要不可欠であることに注意が必要です。

ADHDの特性による苦手

では、ADHDの特性によって苦手なこと(困りごと)に対して、具体的にどのような対策(セルフケア)をおこなえば良いのかを見ていきましょう。代表的な困りごととして以下のようなものが挙げられます。

  • ・ケアレスミスが多い
  • ・忘れ物、失くし物が多い
  • ・マルチタスク(複数の作業を同時進行すること)ができない
  • ・集中力が続かない
  • ・物事を先延ばしにしてしまいがちで、納期を守れない
  • ・物事の優先順位をつけられない
  • ・思いついたことをすぐに発言したり行動したりする

例えば「ケアレスミスが多い」という困りごとの場合、原因はワーキングメモリーの弱みにより、「一つのことを忘れないようにしながら他の作業をすることが難しい」という部分にあります。対策としては、

  • ・覚えていなければいけないことを頭の中だけで頑張って覚えておくのではなく、メモ帳やスマホのスケジュール機能、アラーム機能などを活用して、頭の外に記録しておく
  • ・周囲の同僚や上司に、何かの作業中に指示を追加しないよう配慮をお願いする

…といったことが有効です。上記以外の困りごとについても、以下のページで原因と対策をまとめていますのでご参照ください。

注意欠如・多動性障害(ADHD)|大人の発達障害とは | 就労移行支援事業所ディーキャリア

ADHDの特性による強み

先ほどもご紹介したとおり、ADHDの「行動や思考を制御する機能の低下」という脳の特性が、以下のような強みとして表れるケースもあります。

  • ・フットワークが軽く、行動力がある
  • ・スピーディーな判断ができる
  • ・自分の意志を貫くことができる
  • ・好奇心の幅が広い
  • ・興味関心があることに没頭できる

例えば、「フットワークが軽く、行動力がある」のであれば、その強みを活かして営業職などのフィールドワーク(社外に出て現場で働くこと)が向いていそうです。「スピーディーな判断ができる」「自分の意志を貫くことができる」ことは、会社や事業を運営する上で重要なスキルですので、経営者に向いていると言えるかもしれません。

しかし「特性が営業職や経営者として向いている」ということと、「実際に営業職や経営者になれるかどうか」は別の問題です。特性が活かせる職業に実際に就くためには、どのようにすれば良いのでしょうか。

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