ADHDのある方に向いている仕事〜実践的な仕事の選び方〜

ADHDの特性が活かせる職種

書籍やインターネット上の情報で「ADHDに向いている」と紹介されていることが多い職種を、難易度別に整理しました。「その職種を目指すためにどうすれば良いのか」も併せて解説します。

※ここで言う「難易度」は、「ADHDに向いている」と言われる職業のなかでの、未経験からの転職のしやすさ」を表しています。「難易度が低いから仕事内容も簡単」というわけではありませんので、ご注意ください。

1. 難易度:低 (未経験からでもなれる可能性がある職業)

1-1. 営業職

ADHDの「フットワークが軽く、行動力がある」という特性を活かして活躍できる可能性があるのが営業職です。

営業の仕事には行動力が欠かせません。1件でも、1人でも多くのお客様と商談し、お客様のご要望を聞き商品の良さを知っていただくことが成果へとつながります。もちろん、ただ闇雲に行動するのでなく考えることも必要ですが、多くの場合営業の成果は行動した量と比例しますので、積極的に行動すればするほど成果が出しやすい職種だと言えるでしょう。

また、ADHDの「好奇心の幅が広い」という特性を活かしてお客様のニーズや最新の情報をリサーチすることで、営業の仕事に活かすこともできます。

営業職では「計画を立て、スケジュール通りに行動する」「約束を守る」「電話や対面でコミュニケーションをとる」ことが求められることが多いため、これらに問題がない、または、対策がしっかりできているのであれば、職業として向いている可能性が高まると言えるでしょう。

営業職を目指すのであれば、未経験可の求人も比較的多いので、実際に求人を検索しどのような経験やスキルが求められているのかを調べてみるのが近道です。

同じ営業職であっても、保険会社やカーディーラーのように「個人にモノ・サービスを売る場合」と、メーカーや商社のように「企業(法人)にモノ・サービスを売る場合」とでは、仕事内容や必要なスキルはかなり異なります。

また、扱っているモノ・サービスによっても、「日用品や食品のように価格が安いものを売る場合」と、「医療機器や大型の産業機械のように価格が高いものを売る場合」とでは、やはり大きな違いがあります。

例えば「より多くの人とコミュニケーションを取りたい」という方は個人向け営業を選ぶ、「より深い関係性を築きたい」という方は法人向け営業を選ぶ、というように性格や適性に応じた選び方もあります。

求人に書かれている具体的な仕事内容を見て、自分にはどのような営業の仕事をしたいのか、どのようなタイプなら自分に向いていそうかを検討しましょう。求人の研究や志望企業の探し方については、以下の記事もご参照ください。

【大人の発達障害の就活HACK】志望企業の探し方 〜①基本編〜|発達障害のある方のためのお役立ちコラム

1-2. Webデザイナー

ADHDの「興味関心があることに没頭できる」「好奇心の幅が広い」という特性を活かして、活躍できる可能性があるのがWebデザイナーです。

Webデザイナーの仕事とは、簡単に言うと「Webサイトの制作」です。Webの技術は日々進化していくので、興味関心や好奇心を持って新しい技術や知識を広く身につけることが欠かせません。また、Webサイトを作るときには「細かく正確な作業をする」「集中力を持続させる」ことが求められます。これらの要素と自分の特性がマッチすれば、活躍がしやすい職種だと言えるでしょう。

 

Webデザイナーを目指す際に注意したいのが、その役割です。Webサイトの制作では、以下のような役割があります。

  • ・お客様との調整や全体の進行管理をおこなう「ディレクション」
  • ・導線やコンテンツの配置など、サイト全体のデザインを設計する「UI/UXデザイン」
  • ・サイトに掲載する文章を制作する「ライティング」
  • ・画像やイラストを制作する「デザイン」
  • ・HTMLやCSSなどの言語を使い設計図に従って実際にサイトを組んでいく「コーディング」

Webデザイナーはその名前から「デザイン関係の仕事をしている」と思われがちですが、実際には上記のうち「コーディング」の担当を指している求人が多いです。

ただ、実際の現場ではWebデザイナーが複数の役割を兼任していることも多く、「コーディングから始めて他の役割へ仕事を拡げていく」ということはやりやすい職業です。多様な業務にチャレンジする機会が多いため、「飽きっぽい」特性がある方には向いている職種と言えるのではないでしょうか。将来的に自分がどんなWebデザイナーを目指したいのか、考えておくと良いでしょう。

Webデザイナーは、プログラミングスキル、もしくはIllustrator・Photoshopなどを用いたデザインスキルが必要となるため、実務は未経験可だったとしても基礎的な知識やスキルは求められることが多く、、事前に知識やスキルを身に付けた上での就職・転職活動が基本となります。

ただ、Webデザインを学べる専門学校は数多くあり、自宅からオンラインで学べるものもありますので、他の「専門スキルが必要な職種」と比べると比較的、未経験からでもチャレンジしやすいと言えるでしょう。

また「特性を活かせる可能性がある」「企業からの求人ニーズが大きい」という理由から、近年はWebデザインを専門的に学べる就労移行支援事業所も増えています。そうした福祉施設を利用して、一からスキルを身に付ける方法もあります。

就労移行支援事業所については、以下の記事もご参照ください。

2. 難易度:中 (未経験からの転職には長期的な取り組みが必要な職業)

2-1. デザイナー、イラストレーター

Webデザイナーと同様、ADHDの「興味関心があることに没頭できる」「好奇心の幅が広い」という特性を活かして、活躍できる可能性があるのがデザイナーイラストレーターです。

デザイナーやイラストレーターは「自分の美的センスをもとに、独自の世界を創作する仕事」と思われがちです。たしかに、制作物には作者の個性が表れますが、実際のビジネスの現場では自分の感性だけで好き勝手に創作しているわけではなく、「自分の持っている技術を使って、お客様のご要望に沿ったデザインやイラストを制作する仕事」であることがほとんどです。

つまり、実際の仕事の場面では「自分のやりたいものではないデザインをする」「締め切りを守る」などのADHD特性に向かないことも生じるため、自分の特性とマッチするか注意が必要です。著名なアーティストともなれば、独自の世界観を創作することで生計を立てることができますが、そのような例は特別だと考えた方が良いでしょう。

転職の際には、「デザインの技法や、デザインツール(Illustrator・Photoshopなど)の操作方法をどれだけ習得しているか」「過去にどんな仕事に携わってきたのか」が重要な判断ポイントになるため、未経験でいきなり転職することは難しく、デザインの専門学校などで学んだ上で、何らかの実務経験を積む必要があります。

実務経験の積み方として、卒業時に専門学校側から紹介してもらう、クラウドソーシング(雇用契約を結ばずに、Web上などで案件の受発注をする仕組み)等で経験を積むなどのほか、「趣味でデザインを学んでいた方が、社内でデザイン作業を頼まれたところ評判になり、少しずつ任せてもらえるデザインの仕事が増えていった」といったようなケースもあります。

いずれにせよ簡単にチャンスをつかめるものではありませんが、デザインやイラスト制作へのニーズは幅広くあり、ビジネスのなかで重宝される役割であることは間違いありません。

2-2. ITエンジニア

ITエンジニアも「ADHDの方が向いている」として挙げられることが多い職業です。難易度は「2-1. デザイナー、イラストレーター」とほぼ同じです。

エンジニアというと「PCの黒い画面に向かって黙々とコードを打っている仕事」と思われがちです。しかし実際のビジネスの現場では「自分の持っている技術を使って、お客様のご要望をどう解決するか」が重要であり、一説には「コードを打っているよりも、解決策を探すために調べ物やミーティングをしていることの方が多い」と言われることもあります。「お客様の要望に応える」「コミュニケーションが頻発する」「納期や約束を守る必要がある」などの場面が多くなる可能性があるため、ご自身に合うかどうかを見極める必要があります。

転職の際には、「プログラミング言語をどれだけ習得しているか」「過去にどんな仕事に携わってきたのか」が重要な判断ポイントとなるため、経験やスキルなしでいきなり転職することは難しく、プログラミングの専門学校などで学んだ上で、実務に活かせる経験経験を積む必要があります。

近年はエンジニア人材の需要は非常に高まっており、基礎的なスキルが習得できていれば実務経験が少なくてもOKという求人もあるため、未経験から転職するチャンスは「2-1. デザイナー、イラストレーター」よりは比較的多くあるでしょう。

また、先ほどご紹介した「1-2. Webデザイナー」と同じく、「特性を活かせる可能性がある」「企業からの求人ニーズが大きい」という理由から、近年はプログラミングを専門的に学べる就労移行支援事業所も増えています。そうした福祉施設を利用して、一からスキルを身に付ける方法もあります。

3. 難易度:高 (未経験からなる/生計を立てることが難しい職業)

3-1. ユーチューバー、ゲーマー

「小学生がなりたい職業」でいつも上位にランクインするユーチューバーやゲーマー。動画などのコンテンツは更新頻度が重要となるので「フットワークが軽く、行動力がある」という特性を活かしたり、自分が発信する分野の深い知識が求められるので「興味関心があることに没頭できる」「好奇心の幅が広い」という特性を活かしたりして、活躍できる可能性がある職業です。

実力があれば、組織に属さずに個人で働くこともできるため、「自由な働き方ができること」がメリットになる方もいらっしゃるでしょう。

しかし「なる」ことはできても「生計を立てる」ことがなかなか難しいのが、この職業の特徴でもあります。

例えばユーチューバーの場合、マーケティング会社がおこなったアンケート調査によれば、平均月収で10万円以上稼いでいる人は全体の1割程度しかおらず、もっとも割合が大きかったのは「平均月収5,000円〜1万円未満」との結果が出ています。

最近は「発達障害系ユーチューバー」として発信している方も多く、自分の意見や情報を世の中に届けるツールとしてYouTubeはとても便利ですが、それだけで生計を立てて行くことはなかなか難しいと言えるでしょう。

ゲーマーの場合、専業でプロとして活動している人は「有名大会で好成績を収め、プロチームからスカウトされたり、スポンサーが付いたりする」ことでお金を稼いでいます。近年「eスポーツ」という言葉が広がっていますが、その名の通り、プロスポーツの世界とほぼ同じ、完全なる実力社会です。

ユーチューバー、ゲーマーのいずれもなかなか厳しい世界ですが、自分自身が主役になるのではなく「動画を制作する側として携わる」という方法もあります。

プロのユーチューバーは動画の制作作業を外注したり、所属する事務所に任せたりするケースが多くあります。またユーチューバーに限らず、近年動画はビジネスの幅広いシーンでニーズが高まっています。(プロゲーマーの場合も、併せてユーチューバーとして活動していることが多いので、やはり動画制作の需要はあります。)

動画制作者を目指す場合、専門学校などでスキルを身に付けた後に転職するのが一般的です。エンジニアと同じく需要が大きいことから、基礎的なスキルが習得できていれば実務経験が少なくてもOKという求人もあるため、転職できるチャンスは比較的あるでしょう。

動画制作からスタートし、アニメーションやCG制作などのスキルを伸ばしていけば、クリエイターとして将来的なキャリアアップが目指せる職業です。

3-2. 研究職

ADHDの「自分の意志を貫くことができる」「好奇心の幅が広い」「興味関心があることに没頭できる」などの特性が活かせる可能性があるのが研究職です。

仕事の幅が限定されていることが多くマルチタスクを避けることができる可能性があることや、研究対象をとことん追求する必要があるため「行動力がある」「興味関心があることに没頭できる」ことが、ADHDの特性にマッチするケースがあります。

求められる行動力について、例えば「ジャングルの奥地に新薬になり得る薬草がある」という研究があったときに、翌日にでも現地に飛ぶ、といった具合です。他にも求められる要素として「細かく正確な作業」や「高い集中力を持続させること」などがあり、これらの適性があるかも、研究職の大事なポイントです。

研究職になるためには、一般的に大学や専門学校等で専門分野の知識を身に付けた後に就職し、研究開発や製造部門に配属される、というルートを通ります。学生時代に学んでいない場合は、専門的な資格が取れる大学や専門学校に通うなど学び直しが必要となるため、未経験からの転職の難易度は高いと言えるでしょう。

「学生時代に専門的な学習を積んだり、資格を取ったりしたが、今はまったく別の仕事に就いていて働きづらさを感じている」という場合には、転職先の一つとして検討の余地があるかもしれません。

3-3. 経営者

マイクロソフト社の創業者であるビル・ゲイツ氏や、アップル社の創業者であるスティーブ・ジョブズ氏など、有名な企業の経営者にはADHDであると言われる人が数多くいます。このような事例をもとに、ADHDの特性を活かせる職業として紹介されることがある経営者ですが、それ自体は「職業」と言うよりも、会社事業を運営する上での「役割」と言った方が正確です。

「自分の意志を貫くことができる」「好奇心の幅が広い」「スピーディーな判断ができる」というADHDの特性は、いずれも経営者としての強みになります。

しかし、この特性だけで経営者になれるわけではありません。事業を運営する上では、さまざまな情報を総合して戦略を練り、誰よりも多く試行錯誤を繰り返し、厳しい状況にも耐えて打ち勝つ精神力が必要です。「ADHDだから経営者になれる」ということではなく、「経営者となった人の中には、ADHDの特性が活かせているケースがある」と考えた方が良いでしょう。

ただ、経営者の仕事のやり方から学べることもあります。

経営者の場合、自分の苦手な業務を部下に任せたり、勤務時間や場所を自由に働いたりできるので、特性による困りごとが起こりづらい環境を整えやすいということが言えます。

つまり、職場の環境や周囲からのサポートの有無によって、働きやすさは大きく変わるということです。転職の際には「ADHDの特性を活かした職業を探す」だけではなく、働きやすい環境を見つけるということも併せて考えるようにしましょう。

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