男女で差がある?大人の発達障害、性別による違いとは

2. ASDの男性と女性での違い

次に自閉症スペクトラム障害(ASD)について、男性と女性でどのような違いがあるのかを見ていきましょう。

2-1. ASDの性別による違い:「男性が多い」と言われているが、まだよく分かっていない

先ほどご紹介したとおり、ADHDは「女性は不注意優勢型が多く、男性は多動・衝動優勢型が多い」という傾向があると言われています。一方ASDの場合、性別による差があるのかどうかは、まだよく分かっていません。

例えばこの記事の冒頭でご紹介した厚生労働省の情報サイトによれば「ASDの発生頻度は、男性は女性の約4倍」と解説されていますが、この数字は「(女性の場合は)社会的困難の現れが目立たず、過小評価の可能性もある」と付け加えられています。

またお茶の水女子大学・助教の砂川芽衣氏の研究によれば、女性の脳のつくりや社会生活の中での関係性・役割が、女性のASDを分かりづらくしていると考察されています。

2-2. 女性はASDの困りごとが原因で二次障害になりやすい

ASDの女性の場合、困りごとの原因が発達障害であると気付きにくく、過度に自分を責めてしまい二次障害になりやすい、という問題があります。(二次障害については、以下の記事もご参照ください。)

2-2-1. ASDの脳の特性は事務職との相性が悪いケースも

ASDの脳の特性には、以下の3つがあります。

  • ・シングルフォーカス特性:一度に注意を向けられる範囲が狭くなる。興味関心の幅が狭くなりがち。
  • ・ハイコントラスト知覚:物事を「白か黒か」「全か無か」など極端な捉え方をしがち。曖昧な捉え方や、さまざまな物事を「微調整」することが難しくなる。
  • ・シングルレイヤー思考:一度に一つの情報しか処理しにくい。複雑な状況の理解が難しく、明記されていないルールを自然と読み取ったり、物事の「裏」を察したり、といったことが苦手になる。優先順位がつけにくくなる。

先ほどもご紹介しましたが、女性が働くことの多い“事務職”では、ASDの特性がミスマッチを起こしやすくなります。

事務職は「決められた作業を一人で黙々と処理する仕事」と思われがちです。もちろんそうした仕事もないわけではありませんが、実際は「周囲とコミュニケーションを取りながら、臨機応変に対応する仕事」の方が多いのです。

例えば“経理事務”の場合、一人で黙々と処理するのは「会計ソフトへの仕訳の入力作業」くらいで、残りは書類の提出を社内で催促したり、取引先に書類の内容を確認したりといった、コミュニケーションを取りながらおこなう作業がほとんどです。

そのため「臨機応変な対応ができない」「複数の作業を同時に進めるのが苦手」「相手が言ったことの裏が読めずコミュニケーションでトラブルが起こる」といった困りごとが起こってしまうのです。

2-2-2. 女性は社会の中での立場から、原因が発達障害であると気付きにくい

しかしこうした困りごとで仕事を辞め、職を転々とすることになっても、女性の場合は「原因が発達障害である」と気付きにくい背景があります。

男性の場合、社会や家庭の中で“働き手”の役割を担っていることが多いため、「在職期間が短かったり転職を繰り返したりしていることは問題がある」と、自分も周りも気付きやすくなります。

ところが女性の場合、出産や育児などのライフイベントで仕事を離れる、夫の仕事の都合で短期退職するといったことが起こりやすいため、男性と比べると「在職期間が短かったり転職を繰り返したりしていても仕方がない」と容認されやすくなります。そのため、自分も周りも問題の原因が発達障害である可能性に気付きづらくなってしまうのです。

結果として、発達障害である可能性に気づけないため「仕事がうまくいかないのは自分の努力が足りないせいだ」という考えに陥りやすく、それが二次障害を引き起こすことにも繋がってしまうのです。

2-3. 男性もASDの困りごとが原因で二次障害になりやすい

先ほども述べたように、ASDは男性と女性で差があるかどうかは、まだよく分かっていません。女性の場合と同じく、男性の場合も仕事で「臨機応変な対応ができない」「複数の作業を同時に進めるのが苦手」「相手が言ったことの裏が読めずコミュニケーションでトラブルが起こる」といった困りごとが起こりやすくなります。

先ほど解説したように「女性の方が、問題の原因が発達障害であることが分かりづらい」とは言うものの、ASDの困りごとは周りから「本人の努力不足や、性格の問題である」と見られてしまうケースは少なくありません。男性も女性と同様に、二次障害に陥らないよう注意が必要です。

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