男女で差がある?大人の発達障害、性別による違いとは

発達障害は男性の方が数が多い——そんな話を聞いたことはありませんか。厚生労働省の情報サイトによると、例えば自閉症スペクトラム障害(ASD)の発生頻度は、男性が女性の約4倍であると言われています。

一方で近年の研究によれば、女性はその社会的な役割や立場が原因で、男性と比べ“発達障害の特性による困難さ”が見えづらいだけであり、困りごとを抱えている人の数は男性と変わらないのではないか、とも言われています。

そこで今回の記事では、発達障害が性別によってどのような差があるのかを解説します。

発達障害に限らず、「性別により分けて考えることは平等ではない」と感じられる方もいらっしゃるかもしれません。しかし生き物としての“つくり”の違いや、生活における役割の違いは、私たちが人間社会で生きていくうえで避けては通れないものです。「区別する」のではなく「違いを知る」ことで、自分や相手の特性が理解できる、対策を立てやすくなる、といったメリットもあります。

この記事が「男性なんだから/女性なんだから、これくらいはガマンしなければ…」と感じている方の、お悩みを解決するヒントとなれれば幸いです。

補足:「大人の発達障害」という呼び方について

発達障害は生まれつきの障害ですので、「大人の発達障害」という名前の障害はありません。

ただ大人は「仕事や家庭などで、社会的な責任を背負わねばならない」「自立して生活しなければならない」などの理由で、子どものころと比べて、困りごとの現れ方や対策方法が大きく異なります。子どもの頃は困りごとを感じていなくても、大人になって働いたり一人で生活するようになったりして初めて困りごとが表面化した、という事例も少なくありません。

このことから、現代では「大人の発達障害」という表現が広く一般的に使われるようになってきましたが、これは「大人になってから発達障害になった」という意味ではありませんのでご注意ください。

1. ADHDの男性と女性での違い

それでは、まず注意欠如・多動性障害(ADHD)から男性と女性でどのような違いがあるのかを見ていきましょう。

1-1. ADHDの性別による違い:女性は「不注意優勢型」が多く、男性は「多動・衝動優勢型」が多い

ADHDは、大きく分けて以下の3つのタイプがあると言われています。

  • ① 不注意優勢型:忘れ物が多い、締め切りに間に合わない、うっかりミスが多い、など
  • ② 多動・衝動優勢型:じっとしていられない、落ち着かない、待つのが苦手、など
  • ③ 混合型:①と②の両方の症状を持っている

このうち女性は①不注意優勢型の人が多い傾向があり、男性は②多動・衝動優勢型の人が多い傾向があると言われています。そのため男性に比べ女性の方が、困りごとが表面化しづらいことが多いのです。

1-2. 女性は事務仕事や家事・育児で困りごとが起こりやすい

男女平等の観点から、性別による職業の差は少しずつなくなってきています。しかし「どの職業でも、男性と女性の割合がまったく同じ」というわけではなく、実際には性別による差があります。厚生労働省の令和2年の調査によると以下のような結果となっており、「女性のおおよそ3人に1人は事務職で働いている」ということになります。

  • ・女性でもっとも割合が高いのは、事務従事者(総務や経理などのバックオフィス業務や、営業事務、貿易事務など)で、29.1%
  • ・男性でもっとも割合が高いのは、専門的・技術的職業従事者(研究者、医者、農業/工業技術者など)で、17.3%

ところが事務職と、女性に多いと言われるADHDの「不注意優勢型」のタイプは、あまり相性がいいとは言えません。

例えば“経理事務”は、会社のお財布を管理する大切な仕事ですので、1円でも金額が間違っていてはならず、取引先への支払いや、納税の期限もしっかり守らねばなりません。ADHDの不注意優勢型の「締め切りに間に合わない」「うっかりミスが多い」といった特性は、マイナスに現れるケースがどうしても多くなってしまいます。

また女性の場合、仕事以外でも困りごとが起こるシーンがあります。それが家事・育児です。

こちらも若い世代を中心に夫婦で平等に分担する意識が高まっていますが、内閣府の令和元年の調査によれば依然として多くの家事・育児で、分担は「妻がやる」「どちらかと言えば妻がやる」方が圧倒的に多くなっています。

画像引用元:I-特-18図 家事・家庭のマネジメントの分担(夫婦回答計) | 内閣府男女共同参画局

このように、現代においても家事・育児を担当する割合は女性の方が多いのですが、これもADHDの不注意優勢型の特性と相性があまりいいとは言えません。

「家事を段取りよくこなせない」「予定を詰め込みすぎてしまう」といった困りごとがあるだけでなく、それが「家庭」という外からは見えづらい環境で起こるため、大人の発達障害であることに気付きにくいという問題もあるのです。

1-3. 男性は職場での人間関係で困りごとが起こりやすい

一方で男性の方が多いと言われるADHDの多動・衝動優勢型のタイプでは、職場における人間関係で困りごとが起こりやすくなります。

例えば自分の担当ではない仕事に衝動的に首を突っ込んだり、遠慮なく自分の意見を押し通そうとしたりすることで周囲とのトラブルが起こりがちです。

このような活動的な特性は“営業職”のように「行動力が必要な職業」ではプラスに働く場合もありますが、一方で細かな点に注意せず勢いでものごとを進めてしまいがちなため、「資料を作るときにいつも印刷部数や製本を間違える」「見積書を作るときに金額を間違える」などのケアレスミスが起こりやすくなります。

ADHDの多動・衝動優勢型の「じっとしていられない」「落ち着かない」といった特性は、子ども時代は「男の子はそれくらい元気な方がいい」と思われて見過ごされてしまうケースがあり、子どもの頃から対策のトレーニングができない、という問題もあります。

次ページ:ASDの場合、男性と女性では何が違う?

おすすめ関連コラム