目次
3. 発達障害を理解してもらうための3つのポイント
先ほど「2. カミングアウトして感じたメリット・デメリット」の章でもご紹介したように、発達障害のことを伝えても、うまく相手に理解してもらえないというケースもあります。
実際に筆者も、親に伝えた当初は言葉や態度の様子から「まさか自分の子どもが障害者であるわけがない」という雰囲気を感じていました。
発達障害のことを他者に理解してもらうためには、いったいどうすれば良いのでしょうか。アンケートの回答と筆者の体験をもとに、ポイントを3つに整理してみました。
ポイント1. 理解してもらうのは時間がかかるので、伝え続ける努力をする
「発達障害」という、相手にとって今まで知らなかった障害について理解してもらうには、一度だけで理解してもらおうとするのではなく、時間をかけて伝え続けることが大切です。
アンケートでも、理解してもらうまで時間をかけて何度もくり返し伝えた、という回答がありました。
最初は「本当に発達障害なの?」という疑いの目を向けられましたが、障害のことを伝え続けることによって次第に理解を得られるようになりました。 「家族」は自分のことを理解してくれる唯一の理解者なので、「自分から心を開く」ことが大切だと思います。 自分でも障害のことを学んできちんと説明できるようにし、理解を得られるまで何度も何度も伝えることで、少しずつ家族も認めてくれるようになると思います。(※記事掲載用に一部編集しています) |
先ほど筆者の体験談として『親に伝えた当初は、言葉や態度のはしばしから「まさか自分の子どもが障害者であるわけがない」という雰囲気を感じた』と述べました。しかし発達障害のことを自分でも勉強し、何度も繰り返し伝えることで、今では障害があることを含めて私のことを認めてくれていると感じられるようになりました。
ポイント2. 混乱や衝突は「必ず起こるもの」だと考える
自分にとっても周囲にとっても、発達障害のことを本当に理解するまでには時間が必要であり、その途中では混乱や衝突は「必ず起こるもの」と考えた方が、結果的にうまくいくのかもしれません。
ビジネスでは、チームでなにかプロジェクトをおこなうときの手法として「プロジェクトマネジメント」というものがあります。その中では「チーム」が作られていく段階として ①形成期 ②混乱期 ③統一期 ④機能期 という4つのステップがあるとされています。
注目したいのは②混乱期です。
プロジェクトマネジメントの概念は数十年前にアメリカ国防総省で生まれたと言われており、長年にわたり科学的な研究が行われてきた分野で、現在では日本でも国が定めるJIS規格(JIS Q 21500:2018)として登録されています。そのような分野で、人が集まると混乱や衝突が起こることが前提(当たり前)として考えられているのは、非常に興味深くありませんか。
同じように、発達障害のことを自分と周囲が理解していく際にも、混乱や衝突は「必ず起こるもの」なのではないかと、筆者は思うのです。
あくまで筆者の個人的な体験に基づいていますが、「プロジェクトマネジメントの4ステップ」になぞらえると、障害の理解には6つのステップがあるのではないかと考えています。
1. どん底期
働きづらさ・生きづらさがピークに達し、仕事や生活がうまくいっていない時期。インターネット等で発達障害の情報を見て「もしかしたら自分もそうではないか」と思い、発達障害のことを調べ始める。
2. 発見期
病院を受診したり、支援機関の窓口などに相談し始めたりする時期。発達障害の診断を受けることで「仕事や生活がうまくいかない根本的な原因は、自分の性格や努力不足の問題ではなく、発達障害のせいだったんだ」と分かり、気持ちが少し楽になる。
3. 混乱期
診断を受けて多少気持ちは楽になったが、困っている状態が解決したわけではないので「これからどうすればいいの?」と悩んでいる時期。
病院への通院や、公的な支援を受けるための手続きをおこなうなかで徐々に「自分は障害者なんだ」という実感が湧いてくるが、まだ完全には腹落ちできていない。腹落ちできないので、自分で自分の障害や特性のことを十分には理解できず、周囲にもうまく伝えられない。そのため、カミングアウトしてもなかなか理解してもらえない。
4. 衝突期
就労のための支援を受けたり、転職・再就職の活動を始めたりするが、働きづらさ・生きづらさが一気に改善するわけではないので、焦りを感じる時期。
その焦りやいらだちから「自分は障害があってもがんばっているのに、なぜ助けてくれないのか」という気持ちが生まれて、周囲と衝突を起こす。セルフケアや、合理的配慮の調整がまだうまくできない。理解して欲しいという強い気持ちから、自分の障害についてブログやSNS等で発信したりする。
5. 理解期
病院への通院や、障害者支援制度の利用を続けるうちに、「発達障害で困っている人を支援する制度は確かにあるが、誰かが“おんぶに抱っこ”で助けてくれるわけではなく、最終的には自分ががんばらないと解決しない」ことをうすうす感じ始める時期。
現実の厳しさを知って時折くじけそうになるが、自分の障害や特性についての理解が進み、セルフケアもできてくるので、周囲に対してただ「助けて欲しい」と訴えるだけでなく「ここまではがんばるから、ここからは助けて欲しい」という建設的な相談ができるようになってくる。
6. 安定期
転職や再就職が決まってからしばらく経ち、仕事や生活が安定してくる時期。気持ちに少し余裕が生まれてくる。発達障害を持ちながら生きていくことが、当たり前のものとして少しずつ自分の生活になじんでくる。障害の有無に関係なく自分が活躍できる方法を探し始める。
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先ほども申し上げたとおり、上記の6つのステップはあくまで筆者の個人的な体験に基づいており、後から振り返ってみて「このような時期があったな」というものです。
しかし「混乱や衝突は起こっても仕方がないもの」とあらかじめ心構えしておけば、実際にそうなったときにも多少、気持ちに余裕ができるのではないかと思うのです。
ポイント3. まず伝える側=自分の準備を整える
以上のように、発達障害の診断を受けてから現在までを振り返ってみると、発達障害のことを相手に理解してもらうためにもっとも大切なことは、まず伝える側=自分の準備を整えることではないかと思います。
筆者が親にカミングアウトした当時は、障害が原因で仕事を辞め、これからどうすればいいのかと悩んでいた時期でした。仕事も生活もうまくいかず「とにかく今すぐ、誰か助けて欲しい」と強く思っていました。
ところが「助けて欲しい」と思えば思うほど、相手がなかなか理解してくれないことにいらだち、攻撃的な口調になって対立が起こり、余計に相手が理解してくれない…という悪循環に陥っていきました。
しかしそんな悪循環が、再就職が決まったことをきっかけに変わり始めます。
徐々に安定して仕事ができるようになってくると、精神的にも少しずつ余裕が生まれ、次第に「時間がかかってもいいから、理解してもらえるまで根気よく伝え続けよう」と思えるようになっていったのです。
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