【発達障害当事者が実践】職場の対人関係を円滑にするビジネスマナー3選

「普通に振る舞っているつもりなのに、周囲の人たちとの壁を感じることがある」
「日頃の行動について注意されたが、どうしたら良いか分からない」

多かれ少なかれ、どんな人でも職場に溶け込むための悩みはあるものでしょう。ただ、周囲の様子や反応から、職場における適切な振る舞いを学ぶのは、発達障害、特に自閉症スペクトラム障害(以下、ASDと表記)の特性がある方にとって苦手なことではないでしょうか。

筆者は、診断として受けているのは注意欠如・多動性障害(以下、ADHDと表記)のみですが、発達障害はスペクトラム(連続性)のあるものであり、ASDに由来する(と思われる)困りごとも体験してきました。

今回の記事では、そんな筆者の体験談を交えながら、職場を安心できる居場所とするためのコミュニケーションのコツを3つお伝えします。

今回は「職場のコミュニケーション」のなかでも社会人として問われる機会の多い「ビジネスマナー」に絞ってお届けします。

皆さんが少しでも働きやすくなるように、この記事がお役に立つことを願っています。

執筆者紹介

小鳥遊(たかなし)さん

発達障害やタスク管理をテーマに、2021年まで会社員、2022年からフリーランスとして活動している。

発達障害(ADHD)当事者。主に発達障害や仕事術をテーマとするweb記事を執筆。2020年に共著「要領がよくないと思い込んでいる人のための仕事術図鑑」(サンクチュアリ出版)を執筆し発行部数は10万部を超える。

また、就労移行支援事業所でタスク管理等に関する定期プログラムやセミナー等を実施。企業や大学等での講演、個人/法人のタスク管理コンサルティングもおこなっている。

ASDのある方が、ビジネスマナーが苦手な原因とは

ASDの特性がある方は、場の空気を読むなどして暗黙のルールを認識することが苦手とされています。

なぜ、ASDの特性がある方は、暗黙のルールを認識するのが苦手なのでしょうか。

一般に、発達障害の特性がない定型発達の方は、「①理解できていない」状態から「②なんとなく分かる」という段階を経て「③理由が説明できて分かる」という順番で理解が進みます。

しかし、ASDの特性がある方は、「②なんとなく分かる」というプロセスがないことが研究で分かっています。つまり、「①理解できていない」の次が「③理由が説明できて分かる」なのです。

これは、言葉で分かるようにならないと理解ができないということと、一度理解したことを「なんとなく」変更する柔軟な対応が難しい(マイルールへのこだわりがある)ことを意味します。

どの職場でも「これは言わなくても守って当たり前」と思う「暗黙のルール」は存在します。そして、色々な職場に共通する暗黙のルールが「ビジネスマナー」としてまとめられ、明文化されないまま社会全体に広まっていったと考えて良いでしょう。これは、言葉以外の意味合いを重要視する日本ならではの文化かもしれません。

ただし、ASDの特性がある方がこのような文化の中でうまくコミュニケーションをとっていくのは、上記の内容から分かる通り、難しいと言わざるを得ません。

そんな発達障害の、特にASDの特性がある方が、職場でのコミュニケーションを円滑にするためにはどうすればいいのでしょうか。具体的な対策としてのビジネスマナーを、筆者の失敗事例を通してお伝えしていきます。

対策①報連相ができない→ひと言テンプレートを用意

筆者の体験談

「報告」「連絡」「相談」をまとめて「報連相」といいます。職場でのコミュニケーションの第一歩でありビジネスマナーの基本ですが、筆者が一番最初にぶちあたった壁でもありました。

働き始めた当初、私にはそもそも報告や連絡、相談などをするという考え自体がありませんでした。しかし、当時の上司や先輩社員にとっては、仕事をする上で報連相をすることは当たり前であり「教えるまでもないこと」だったのです。

その結果、「ある程度進んでいるのなら、きちんと報告して欲しい」「分からないことがあるなら、相談するように」と言われるまで、一人でウンウンうなって何も仕事が進まない、進まない状況すら上司などに共有しないという状況になってしまいました。

さらに、「報連相をしなければいけない」と分かっても、どのように報告や連絡、相談をすれば良いかが分からないという問題が出てきました。

「実は、名刺を作っているんですけど、昨日営業部のAさんが、名刺作成依頼の申請を上げてきて、それで…」

と、思いつくまま話し始めると、

「で、いったい小鳥遊くんは何を言いたいの?」

と上司に怒られてしまう。それで心を折られて「すみません、出直してきます」と自席へ戻り、なかなか話すきっかけがつかめない。そんな場面がしょっちゅうありました。

対策

「喋りだしの一言テンプレート」を準備しておきましょう。

報連相をするためには、まずどう喋りだすかが重要です。いきなり本題に入るのではなく、「報告」なのか「連絡」なのか「相談」なのかを最初に明確にすれば、聞く方も聞きやすくなります。

「●●の件について、『報告』or『連絡』or『相談』なのですが、今よろしいでしょうか?」

こういった「喋りだしの一言テンプレート」を最初に言うだけで、相手の反応が違ってきます。仮に、それに続く内容があまり要領を得ないものであっても、「小鳥遊くんが今いっているのは、相談だったよな。であれば、話の内容から自分が何かしら返答する必要があるはず。まずはじっくり聞いてみよう」などと、相手側から歩み寄ってくれます。

私はこれで「何を言っているか分からない」と言われてすごすごと退散することはなくなり、安心して報連相ができるようになりました。

対策②雑談が苦手→共通の話題を選ぶ&避けた方がよい話題もあり

筆者の体験談

誰も教えてくれないビジネスマナーの中に「適切な話題を選んで雑談する」というものがあります。

筆者はクラシック音楽が趣味なのですが、正直言って「誰でも知っている」という話題ではありません。しかし、会話の中でちょっとでもクラシックの話が出てくると「これは自分の出番!」とばかりに、その話に熱中して話し続けてしまっていたのです。

会話をしていた相手にとっては、あまりよく知らない話題について延々と話されて、さぞ閉口したことと思います。

対策

雑談は、共通する話題を選び、タブーの話題を控えましょう。

雑談の目的の一つは、相手との共通点を見いだし、距離を縮めて関係性を良くするところにあります。したがって、自分が好きな話題を繰り出して一方的に話すのではなく、多少興味は薄くてもお互いが分かる共通の話題をピックアップすることが大切です。

同時に、以下のような一般的にタブーとされている話題は控えましょう。個人の思想や信条にダイレクトに関わることであったり、あまり人に言いたくない話であったりする可能性が高いからです。

  • 政治
  • 宗教
  • 収入
  • 学歴
  • 家庭や家族の問題

対策③暗黙のルールが理解できない→自分の考えをいったん脇に置く

筆者の体験談

ある日、私は直属の上司である副部長から指示を受けて仕事をしていました。それを見ていた係長が猛然と「そんなことを今していてはダメだ!もっと他にやるべきことがあるだろう!」と筆者に指導をしはじめました。

当然、係長よりも副部長の方が上なので、「いや、でも副部長の指示なので…」と答えたところ、「上の人が言うからといって、そのまま鵜呑みにしてはダメだ!」となお一層怒られてしまいました。

後で先輩社員がこっそり教えてくれたのですが、その係長は、会社が何度もお願いをして社員になってもらったので、職位は係長でも発言力はとても大きい例外的な方だったのです。「いや、副部長が…」と返答したことは、そういった事情から考えると、取ってはいけない行動だったのでしょう。

対策

あれ?と思ったら、自分の考えをいったん脇に置きましょう。

副部長の指示に係長が反対の意見を言ってくる時点で「あれ?」と思うタイミングがあったはずです。そこで自分の考えを優先せず、周囲に「副部長からの指示とまったく逆のことを係長から言われて迷っているんですが…」と素直に聞いていれば、「ああ、それはね…」と内情を話してくれたかもしれません。

このように、一般的な常識とは異なる、その職場だけの「暗黙のルール」があることは珍しくありません。本を読んだり、過去の経験から学んだことが通用せず、「実際にその職場の人に聞いてみないと分からないこと」はどうしても存在するのです。

そのような場合、自分の中の「こうあるべき」はいったん脇に置き、周囲の人たちの行動を観察してその真似をしたり、以前に同様の仕事をした人に「どう進めたか」を聞いたりしてみましょう。そうすることで職場に溶け込んでいくことができます。

なぜビジネスマナーが必要なのか

仕事仲間とはいえ、良い関係を構築する「努力」が必要

どれだけ同じ場にいて一緒の時間を過ごしている「仲間」であっても、あくまで上司は上司、部下は部下、同僚は同僚です。一緒にいれば勝手に良い関係が構築されたり、いったん構築された良い関係が自動的に継続できたりするとは限りません。むしろ、意図的に「良好な人間関係」を築き、それを継続させるための努力が必要と言えます。

その努力を集約したものが、例えば、「雑談をして、ある程度お互いのことを知ってサポートし合う」や「報連相を適切にして余計な人間関係の摩擦をなくす」といったビジネスマナーなのです。

一般的には無意識に実践されているこの「ビジネスマナー」ですが、これを意識的に身に付けるようにすれば、職場での円滑なコミュニケーションに大いに寄与するのではないでしょうか。

努力するのと同時に、合理的配慮でより良い関係性を

ただし、どれだけ職場で周囲とうまくやっていけるよう努力しても、自分一人では限界があるかもしれません。そのような場合には、会社と「合理的配慮」を相談することも検討しましょう。

例えば、報連相の喋り出しをテンプレート化しながら、仕事上のコミュニケーションをより円滑にするために「言葉になっていない意図は、汲み取ることが難しいので、できるだけ言葉や文章にして伝えてください」といった配慮を求めることができれば、より仕事がやりやすくなることでしょう。

ビジネスマナーを実践しながら、職場との合理的配慮を調整することで、より健康で安定的に働き続けることが可能になります。

しかし、自身の特性を過不足なく把握し、必要な合理的配慮を伝えられるようになるのには、また別の大変さがともないます。そんなときには、自分一人で悩むよりも専門家の手を借りることも検討してみましょう。

就労移行支援事業所ディーキャリアでは、働くことで悩みを抱えている発達障害のある方の支援をおこなっています。

就労移行支援事業所とは、障害のある方が就職するための「訓練・就職活動」の支援をおこなう障害福祉サービスの一つです。(厚生労働省の許認可事業)

就職とは人生の目的を実現するための通過点です。自分の「なりたい」姿を見つけ、障害特性への対策と自分の能力を活かす「できる」ことを学び、社会人として長く働くために「やるべき」ことを身に付ける。

「なりたい」「できる」「やるべき」の 3 つが重なりあうところに仕事の「やりがい」が生まれると、私たちは考えています。

もちろん、今の時点でサービスを利用する目的をが決めていなくても大丈夫です。

「まだやりたいことが決まっていない、将来のビジョンが見えていない」
「何を目的にサービス利用をすべきかイメージが湧かない」
「自分に合っているか分からない」

…と悩んでいる方も安心してお問い合わせください。一人ひとりのご状況や困りごとをヒアリングしながら、ご提案をさせていてだきます。

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編集担当

藤森ユウワ(ライター・編集)

ベンチャー企業の社員として働きながら、兼業で個人事業主としてもライター・Webディレクターとして活動。

これまで5社を転職し、営業、営業企画、カスタマーサポート、マーケティングなどさまざまな職種を経験。

子どものころから「コミュニケーションが苦手」「段取が悪い」「集中力が続かない」などの困りごとがあり、社会人になってからも生きづらさを感じつつ何とか働いていたが、あるとき仕事内容が大きく変わったことがきっかけで困難が表面化し、休職や離職を経験。

36 歳で ADHD・ASD と診断される。

診断後、「就労移行支援事業所 ディーキャリア」を運営するデコボコベース株式会社でアルバイトしたことをきっかけに自分に合う仕事や働き方を模索し、現在の形に辿り着く。

誰かの「なるほど!」を作るライティングがモットー。

さまざまな職種を転々とする中、苦手を補うため自分用の業務マニュアルを自作してきた経験を活かして、記事や企画書、プレゼン資料、製品マニュアルなど、幅広く執筆の仕事を行っている。

自分の凸凹を補うためにITツールを使って工夫するのが好き。

記事監修北川 庄治(デコボコベース株式会社 最高品質責任者)
  • 一般社団法人ファボラボ 代表理事
  • 特定非営利活動法人日本冒険遊び場づくり協会 評議員
  • 公認心理師
  • NESTA認定キッズコーディネーショントレーナー
  • 発達障害ラーニングサポーター エキスパート
  • 中学校教諭 専修免許状(社会科)
  • 高等学校教諭 専修免許状(地理歴史科)
東京大学大学院教育学研究科 博士課程単位取得満期退学。
通信制高校教諭、障害児の学習支援教室での教材作成・個別指導講師を経て現職。

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