認知行動療法とは、心理療法(精神的な働きかけによる治療法)の一種です。アメリカで開発され、英語名(Cognitive Behavior Therapy)を略して「CBT」とも呼ばれます。
“認知”とは、私たちの「ものごとのとらえ方」のこと。とらえ方を見直すことにより、そこから生まれる“感情”や“行動”に働きかけ、生きづらさやストレスを軽くしていく治療法が認知行動療法です。
注意欠如・多動性障害(ADHD)や自閉症スペクトラム障害(ASD)など「発達障害」の特性に対するアプローチとして、認知行動療法を取り入れることがあります。
また、近年は精神科の治療としてだけでなく、教育やスポーツ、ビジネスでも認知行動療法の考え方が取り入れられているものもあります。
認知行動療法の仕組み
認知・感情・行動の関係性
私たちの“行動”は、感情によって左右されます。そして私たちの“感情”は、ものごとのとらえ方、すなわち“認知”によって左右されます。
例えば「Aさんが朝、会社へ行く準備をしている場面」を想像してみましょう。ふと時計を見ると7:00。出発予定の7:30まで残り30分です。
「あと30分しかない!」と思ったAさんは、頭の中に「遅刻してしまうかもしれない」という考えが浮かび、焦って不安な気持ちになりました。不安にあおられるように慌てて準備し出かけたせいで、財布を忘れたまま出かけることになってしまいました。
もしも、Aさんが「まだ30分ある」と思ったとしたらどうだったでしょう。「残り時間が30分」という状況は同じですが、「もう○○しかない」ではなく「まだ○○もある」と考えられる人であれば、落ち着いて出かける準備をすることができるため、財布を忘れずに済んだかもしれません。
このように「出発時間まで残り30分だと気付いた」というできごとに対して「あと30分しかない!」と認知するか「まだ30分もある」と認知するかにより、湧いてくる感情はだいぶかわります。結果として、そのあとの行動も変わってきます。認知・感情・行動は互いに影響を与え合っているのです。
この仕組みに働きかけをおこなって、凝り固まってしまった認知を解きほぐし、そこから受けるストレスを減らして、自由に考え行動できるようにする。それが認知行動療法です。
詳しくは後述しますが、発達障害のある方はその脳の特性から認知の歪みが起こりやすいと言われており、それに対するアプローチとしても認知行動療法が取り入れられる場合もあります。
認知のもととなる「スキーマ」
スキーマとは、「生まれ持った気質(性格)」と「過去の経験」や「記憶の影響」を受けて作り上げられた、個人の考え方のクセのようなものです。
例えば、「電車に乗り遅れると遅刻をする」「鼻が高くて目が青い人は外国人だ」などがあります。
スキーマは日常生活を送るときや、危険や失敗を回避するときに役立つものですが、過度な思い込みをしたり、過去の失敗経験だけに注目してネガティブ思考になったりすることがあります。
不適切なスキーマによって認知が歪む例としては、「電車に乗り遅れると、絶対に遅刻をする。遅刻をすると会社をクビになる」「鼻が高いから、外国の方である。日本語を話せない可能性が高い」などがあります。つまり、情報不足のまま拡大解釈をしてしまうのです。
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