うまくいかないとき…記憶を整理する~復職準備:記憶の特徴と整理法~

過去に起きてしまった出来事は、誰も変えることができません。しかし「記憶」を整理することで、過去の受け止めが正常化します。→行動が変わってきます→1分先の未来を自分が望む方向に動かすことができるようになります。つまり偏っているかもしれない記憶を整理していくことは、こころを解放する脳内作業といえます。
過去との向き合い方を建設的なものに移行し、自分の人生の主導権を自分の手に取り戻すため、今回のブログでは具体的なアプローチについて、脳の仕組みを紐解きながら一緒に見ていきましょう。
■ この記事の目次
- 「記憶」の正体:記憶は料理のレシピであり、映画の続編である
- 感情と記憶の強固なつながり:脳が「生き延びる」を優先するとき
- 「記憶」から、主導権を取り戻す2つのアプローチ:コントロール拡張法・経験整理法
- 【実践ワーク】過去を整理する:「経験整理法(再定義法)」
- おわりに:迷っても、揺らいでもいい
1. 「記憶」の正体
私たちが「過去の嫌な出来事」に囚われてしまうとき、脳の中では一体何が起きているのでしょうか。まず知っておきたいのは、「記憶とは、録画された動画のように、毎回同じものが再生されているわけではない」という事実です。
① 記憶は「料理のレシピ」である
記憶は、思い出すたびに脳内で毎回「つくりなおされて(再調理されて)」います。出来事という「材料や基本レシピ」は変わりませんが、思い出すその瞬間のあなたの脳内状態や体調等によって、材料が追加されたりレシピが変更されたりします。
- その時の体調やメンタルの状態
- 今のあなたが持っている立場や知識
- 現在の周囲の状況や環境
これら海馬の中にある今の「材料」を使って、思い出すたびに新しい料理として作り直されているのです。つまり、記憶は固定された事実ではなく、常に変化する情報だと言えます。

② 記憶は「映画の続編」
さらに厄介なのは、人間は頭の中で反省を繰り返したり、ネガティブな想定をぐるぐると考えてしまう習性があることです。この習性は映画の続編のように、わたしたちの記憶に大きな影響を及ぼしていきます。映画の続編では新しい過去が追加されることが多いのですが、その結果、物語に違う意味付けが施されたり、「あれは○○が影響していたのか」と、主人公のストーリーの背景が追加され際立ってくる…過去の追加によって、物語がネガティブ劇場になることも…。
私たちの脳内でも、これと同じようなことが起きています。何度も思い返して考える過程で、実際にはその時存在しなかったはずの考えや感情が、新しい「場面」として勝手に追加されていきます。そして「新たなネガティブストーリー」が付け加えられるのです。
♢ 脳内で後から追加されやすい「ネガティブな続編」の例
- 「あのとき、相手からこう思われたに違いない」→「絶対嫌われた」
- 「本当は、もっと酷いニュアンスでああ言われていた気がする」→「ひどいことを言われた」
- 「振り返ってみれば、自分はずっと昔からダメだったんだ」→「自分はもともとダメなんだ」→「何をやってもダメだ」
これらのつらい振り返りを繰り返すことで、脳が付け加えた続編が、事実であるかのような錯覚を生じさせます。

【コラム】脳の状態による記憶の傾向
心が弱っているとき、記憶の偏りはさらに顕著になります。これはあなたの性格や努力不足のせいではなく、純粋に「脳の状態」によるものです。
- うつ病:良い記憶が思い出しにくくなり、失敗や後悔ばかりが強く残る。
- 不安症:不安を感じた場面が強く残り、その記憶が未来への過度な心配に使われやすくなる。
- トラウマ障害 / 発達性PTSD:記憶が感情や感覚のレベルで断片的になり、時系列で整理しにくい。思い出したくない記憶が突然侵入し、「過去」ではなく「今まさに起きている」感覚に陥る。
- 神経発達症(発達障害):自分の興味のあることは強烈に記憶するが、それ以外の記憶は抜け落ちやすい。
2. 感情と記憶の強固なつながり
なぜ脳はわざわざネガティブな記憶を強く残し、勝手に続編を作ってしまうのでしょうか? その理由は、脳にとって「感情」とは生存に関わるもっとも強い命令信号だからです。
特に強い恐怖、不安、怒り、あるいはコミュニティから拒絶されるかもしれない恐怖感や「嫌われたくない」という強い感情が発生したとき、脳は遺伝子レベルで組み込まれた防衛反応を最優先します。つまり、冷静に状況を「考える・理解する」ことよりも、不快な記憶から「守る・逃げる」を優先するのです。自分を守るため一旦保留処理をしているのですが、このとき、脳内は次のような状態で止まっています。
出来事への意味づけや整理が“途中、つまり未処理のまま”脳内でフリーズしている状態。→処理が中断された強い感情を伴う記憶は、脳内で何度もアラートのように意識に上がってきてしまい、結果として「つらい記憶が残り続ける」という現象が起きます。アラートとともに意識に上がってきた記憶に対して、新たな材料やレシピを加え「違う料理」をつくったり、実際にはその時存在しなかったはずの考えや感情を、新しい「場面」として勝手に追加し、「ネガティブな続編」をつくってしまう、そしていつの間にか壮大なネガティブストーリーが紡がれ、客観的事実としては「ほぼフィクション」なのだが、自分のとっては「ノンフィクション」として記憶化されていきます。

3. 「記憶」から、主導権を取り戻す2つのアプローチ
このフリーズしてしまった記憶が、アラートとともに意識に上がってきた際、客観的事実に目を向け、正しく処理する2つのアプローチをご紹介します。状況に応じて使い分けます。
*特にアプローチ②に関して:記憶の処理や正しい再編成や意味付けを行う作業は、記憶の種類によっては、専門家と一緒に行った方がよいものもあります。たとえば途中で涙が出てきたり、気分が悪くなる場合には、カウンセリングや治療を通して解消していきましょう。
アプローチ①:コントロール拡張法(今の感情を扱う)
- 対象:今まさに起きている感情やパニック気味の反応
- やること:(1)まずは感情や気持ちを書き出し、言語化する→メタ認知「あー、今自分は怒っているんだな」と受け止める(2)自分の感情や気持ちをセルフケアする、自分で自分の機嫌を取っておく(3)実際に起こったことだけをpickup、(3)実際に起こっていることに対して、今自分ができる「建設的な行動」を考え実践する。過去の感情に振り回されない状態を「今この瞬間」に作ります。
アプローチ②:経験整理法/再定義法(過去を整理する)
- 対象:何度も繰り返し思い出してしまう過去の出来事そのもの
- やること:過去の「材料」を机の上に広げて整理する=カードや付箋に箇条書きし広げてみる。 1枚づつ手に取り、次の項目に仕分けしていきます。 (1)客観的な事実=実際に起きたこと (2)自分の感情や気持ち (3)自分が後から意味付けしたり、自己解釈したこと →客観的事実だけを残し、「建設的な」思考や意味付け、解釈をやり直してみる →(4)に基いて建設的な行動を考え、一つだけ実践してみる。
4. 【実践ワーク】過去を材料として整理する「経験整理法」
ここからは、実際にノートとペン、付箋を用意して、あなたの記憶を整理してみましょう。無理にポジティブに捉え直す必要はありません。今のあなたにとって「建設的」であればそれで十分です。きつい時は途中で休憩しながら進めるか、無理せず中断してください。なおこの作業はいわゆる直接的なトリガーではない事象を取り扱いましょう。例えば、職場で気になる対人関係や、仕事で上手くいかなかったことなどです。
Step 1 | 事実だけを書く (目安:3分)
客観的に実際に起きたこと(見たこと・聞いたこと・言われたこと・言ったこと)だけを、1枚に1つづつ書き出していきます。自分の評価や感想、感情は一切書かないのが鉄則です。当時の自分の背景(体調・メンタル・仕事の仕方のクセ・そのとき関わった人との関係性・「〜すべき」という思考の傾向など)も、客観的な事実として1枚に1つ書き出していってもよいでしょう。
Step 2 | 後から追加されたものも、除外する (目安:5分)
Step1で書き出した中に、何度も思い返す中で後から自分が付け加えてしまった推測や、実際には生じていない想像が書かれていないか、もう一度見直します。あれば除外します。「○○だったに違いない」という予測記述も、すべて除外し、「事実」から切り離しておきましょう。
Step 3 | 当時の「材料(事実)」を整理する (目安:4分)
机の上には「事実」だけが残っています。1つづつ冷静に受け止めていきましょう。→体調や疲労度、 当時の自分に十分な知識や経験・ 立場や権限・仕事量・関わった人との関係性などの背景に関しても、できる限りシンプルに言語化し受け止めていきます。例えばミスに関して「まだ知識が足りてなかった」「苦手なタイプの人で委縮していた」「残業が続いて体力的に疲労していた」
Step 4 | 今の視点で再定義する (目安:3分)
客観的な事実と当時の自分の背景この2つだけを残し、以下の文章の空欄を完成させてみてください。無理にポジティブに変換する必要はありません。
「この出来事は、今の自分から見ると ________ な出来事だった」
5. おわりに:迷っても、揺らいでもいい
今回ご紹介した方法は、過去の事実そのものを変える魔法ではありません。変えられない過去に対して、「これからどう向き合っていくか」「今の自分が何を大切にしたいか、次の一歩にどんな行動を選んでいくのか」、あなたの主導権を「過去」から取り戻すための羅針盤です。
日々の生活の中で、心がブレたり迷ったり、過去の記憶に引っ張られて揺らぐことがあってもいい、その揺らぎやきついと感じる気持ちは、「これからのあなたの大切な選択を守るための、身体からの大事なサイン」です。そのサインをギュッと抱きしめて、丁寧に整理しながら、自分のペースで次の一歩を踏み出していきましょう。

ディーキャリア大分オフィスのリワークプログラムでは、過去の意味付けの見直しや、客観的な事実に目を向けることができるようになるトレーニングも行っています。グループワークや分かち合い、ロールプレイなども取り入れながら、1人で抱え込まずに過去と向き合うことができるように進めています。
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