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発達障害で朝起きられない方が就職するまで。

発達障害と睡眠の因果関係

こんにちは、橋本です!!

弊所に相談に来られる方々の中に、「朝起きられない」「充分または長時間(10時間以上)の睡眠を取っていても日中の眠気が強い」など、睡眠と起床についてのお悩みをいただくことがしばしばあります。

発達障害と睡眠には密接な関わりがあります。精神疾患も睡眠と強い関係性がありますが、発達障害が原因となる睡眠の支障とは根本的に原因が異なります。

札幌市のある精神科医の先生がおっしゃっていたことなのですが、発達障害の方は定型発達の方と比べて睡眠が浅い方が多く、それが原因で日中の眠気やいくら寝ても疲労感が取れないことに繋がっているケースが多いんだそうです。

眠りの浅さだけが睡眠の支障の原因ではないですし、発達障害は精神疾患とも因果関連がある場合もあるので、一概に断定することはできませんし、私自身は当然医師ではないので一人ひとりの症例を論じたり、治療方法を勧めることはできない立場ですが、福祉的な視点から関わった結果、実際に朝起きられずに毎日遅刻していた方が、実際に就職することができるまでに至ったケースを、今日はご紹介したいと思います。

朝起きられず、決まった時間に来ることのできないSさん

Sさんは当時大学を卒業し、1年ほどの間就職活動をしていましたが、なかなかうまくいかずハローワークに相談に行ったところディーキャリア札幌オフィスのリーフレットを手に取ってくださり、弊所を見学に来てくださいました。

ASDの特性が大変強く出ている方で、コミュニケーションはほぼ一方通行でした。こちらからの質問には頷くか首をわずかにかしげるか。稀に長考の末、一言二言返事が返ってくる、という控えめに言って会話には相当時間と忍耐が必要でした。

また、自分の意思表示が皆無なため、何がしたいかがほとんどヒアリングできませんでした。逆に自分の経験値や知識にないことは、「いやです」の一点張りでした。

親御さんの後押しもあり、弊所への利用が始まったのですが、支援が全て↑このような感じなので、職業適性や希望も全く見えてきませんし、訓練で作成する書類や成果物はいつもほとんど白紙でした。

そして何より問題だったのは「遅刻」です。いつも就寝時間を申告していただいていたのですが、生活自体は規則正しく過ごしているようだったにも関わらず、本人はいつも決まった時間に就寝している(と主張している)のですが、朝、決まった時間に起きることだけはどうしても難しかったようでした。

ただ、通所が嫌だったわけではなく、通所自体は1日も休まずに来れているのですが、寝坊をしてしまい、支援員からの電話で目が覚めて、そこから準備して通所してくることがほとんどでした。

私たち支援員の支援の未熟さもあったかもしれませんが、はじめの1年はこのような感じで就職への見通しはまったく立たずに時間だけが過ぎていきました。

利用期間が1年を過ぎた頃、僕から本人と親御さんに精神科の方で睡眠について相談してみることを提案しましたが、その時点では「服薬はしたくない」という返答でした。(服薬がなく定期通院のない方でした)

Sさんの未来が変わった瞬間

そこからさらに6か月が経ち、いよいよ就労移行支援の利用期限(2年)も迫ってきて、支援員側もどのように支援計画を立てていくか手詰まりを感じていた中で、本人と親御さんの意志が変わる2つのできごとがありました。

それは、【障害年金で遡及が通ったこと】と【ハローワークで「あなたはこのままでは働けない」と言われたこと】です。

フルタイム勤務は現状どう考えても難しかったので、障害年金の申請を検討することを提案しました。ご実家が札幌市外にあったので、生活費はご両親の仕送りで賄っていたため、障害年金が出るのであればそれは、親御さんにとっても願ってもないことだったので、そのためにまずは札幌市内で主治医を探し、障害年金のための診断書を書いてくれるお願いをするために医療機関を探すところからお手伝いをしました。

主治医の先生の尽力もあり、当時20代半ばだったSさんには20歳からの分の年金の遡及(さかのぼって支給されること)が下りることも決定しました。

この一件から、本人と親御さんは国の制度の力を借りることへの抵抗感が薄れ、こちらの提案を聞き入れてくれる姿勢に変わっていきました。

そこから本人は「就職活動がしたい」というので、僕と一緒にハローワークの障害者雇用の窓口へ相談に行ったのですが、そこで現在の通所状況(毎日決まった時間に通所できていないことも含めて)を相談員に伝えたところ、「ハローワークの求人票には全て、『〇時~〇時までの勤務』と時間が指定されている。決まった時間に来れない方に紹介できる求人は、正直言ってないです」と、辛口な回答が返ってきました。

Sさんは感情を顔に出すことが全くない方だったので、このときSさんが傷ついていたのかどうかは、今でも分かりません。ですが、僕はこのとき内心「良く言ってくれた!!」と心の中で小おどりしてました。(笑)

事業所に戻り、ハローワークの支援員に言われたことをそのままお母さまにもお伝えし、「当方としてもこれまでいろいろ手を尽くしたつもりでしたが、決まった時間に通所ができない=睡眠が改善しないことは、就職にとって目を背けることは難しいことだと思います」と、1年前に拒否された睡眠治療を、改めてSさんに提案しました。

障害年金で遡及も下りたことが功奏し、今回はすんなりと応じてくださり、年金の診断書を書いてくれた先生を通じて、睡眠治療専門の病院を紹介していただきました。

数日入院し、精密な検査を受け、服薬を始めたところ、朝の寝坊は目覚ましく改善し、服薬を境に遅刻することは一日もなくなりました。元々ルーティンで決まった時間に枠にはめた行動をすることは得意な方だったので、服薬もきちんと漏らさずにしてくれていました。

睡眠が改善し、無遅刻無欠席で通えるようになったため、実習を受け入れてくれる企業のところで作業が問題なく遂行できることも実績として作ることができました。

本来2年が就労移行支援の利用期間ですが、就職の可能性があったため、札幌市にかけ合い利用期限を1年延長、そこからさらに6か月間実習や職業適性検査を受けることで、無事就職することができました。

本人の勤労収入と障害年金で、親の仕送りを受けることもなく、現在もなおその会社で働きながら、札幌市内で自立した生活をしています。

僕のなかで特に印象の強く、そして就労移行支援の支援員として手応えを感じられた利用者の就職事案のひとつでした。

睡眠の悩みを解決するまでのプロセス

では、睡眠による日常生活や仕事のトラブルや困難について、どのように向き合っていけばよいでしょうか。僕なりの答えを用意してみました。

・睡眠を軽んじず、問題意識を持つ:

Sさんの事例について睡眠治療を受けるに至るまでの対応が遅れてしまった理由のなかに、「睡眠による生活や就労準備への弊害を、ご本人とご家族の方が軽視されていた」ということが原因に挙げられると思われます。

「軽視」という表現には語弊があるかもしれませんが、夜更かしや寝坊は「誰にでも多かれ少なかれあること」と、問題意識をもって改善する意識や姿勢を持つことから遠ざかってしまったことが就労が困難だった原因の根本にあったことです。

僕は専門家ではないので知識のない中での例ですが、例えばアルコール依存なんかもこれに近い形で治療が遅れるのではないでしょうか。お酒を楽しんでいる本人は、生活や仕事に多少の支障が出る程度(例えば日中の眠気やパフォーマンスが下がること)では問題意識を持って改善をするところまでは、なかなか行かないですよね。アルコール依存が診断される患者さんの大半は、依存が相当進行した段階や、家族や周りの方の勧めによって、ようやく受診に至るのではないでしょうか(僕の知っている知識の範囲の憶測です、間違っていたらごめんなさい)。

生活習慣全般に言えることですが、「改善した方が良いかな~」と頭で分かっていても、生活の質を高めるために具体的な行動を起こすことは、大変な意志や労力、あるいは大きなきっかけが必要になることが多いです。これはもう動物としての人間の習性も絡んでくるので、致し方ありません。

そこにメスを入れることを恐れず、問題が問題であることをまずは「受け入れる」のが、改善の第一段階になってくると、橋本は考えます。

・睡眠専門の治療を受ける:

睡眠に対する問題意識を持ち、「変えていかなければならないんだ」という気持ちの受け入れができたら、次は専門家=医師に相談しましょう。

世の中に出回っているリラックス法や安眠法などで、自分で安直に改善を試みるのではなく、特に精神発達障害の診断がついている方においては、医学的・科学的見地に基づいて治療をしていく方が正しい改善につながりやすいです。

また医学的・科学的見地から今の自分の状態を客観的に判断してもらい、福祉サービスや行政の制度も含めた、どのサポートを受けることが今の自分にとって適切なのかを専門家に提示してもらうことは、生活や暮らしが実質的、場合によっては経済的な改善に直結します。

・適切な処方を受ける

当たり前ですが受診すると、必ずではないですが、医師から薬が処方されます。睡眠には悩んでいるものの、特に精神科受診歴のない方の中にはSさんのように本人ないしご家族が、この「薬を飲む」ということ自体に抵抗を感じている方もいらっしゃるでしょう。

私の口から「飲んだ方が良いですよ」とお勧めすることはできませんし、繰り返しになりますが私は医師ではないため、服薬について何かアドバイスをできる立場ではありません。

ですが実際に、1.睡眠に問題意識を持ち、2.睡眠治療の専門家に検査をしてもらった上で 3.適切な服薬を始めたことによって、生活保護や家族からの仕送りに頼って生活を余儀なくされた方が、福祉サービスと行政の制度の力を借りることによって、経済的依存から脱却して自立した社会人生活を送れるに至った事例がSさん以外にもたくさんあります。

就労移行支援で学ぶ日々の訓練やスキル磨きももちろん大切なのですが、このように医療・福祉・行政などの社会資源の力を借りて、その方に合った道筋を設計していくことも、支援者にとって大切な役割ではないか、と僕は強く感じております。

ではまた次回!

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