障害者雇用と一般雇用どちらがいい?|2025年版|リアルな情報を発信

「障害者雇用って、配慮があるのはありがたいけど、給与面やキャリア的にはどうなんだろう…」
「一般雇用で働いてるけど、実はしんどい。でも今さら障害をオープンにするのも怖いし…」

そんな悩みを抱えていませんか。

働き方には正解があるわけではなく、それぞれにメリットとデメリットがあります。大切なのは、「自分に合った働き方とは何か」を、自分自身で少しずつ見つけていくこと。

この記事では、障害者雇用と一般雇用、両方の求人枠で働いた経験のある筆者が、それぞれの違いやよくある質問を整理しながら、働く上での選択肢を広げるための視点をお届けします。あなたがこれからの職場で、無理なく、安心して働き続けていくためのヒントになれば幸いです。

執筆者紹介

小鳥遊(たかなし)さん

発達障害やタスク管理をテーマに、2021年まで会社員、2022年からフリーランスとして活動している。

発達障害(ADHD)当事者。主に発達障害や仕事術をテーマとするweb記事を執筆。2020年に共著「要領がよくないと思い込んでいる人のための仕事術図鑑」(サンクチュアリ出版)を執筆し発行部数は10万部を超える。

また、就労移行支援事業所でタスク管理等に関する定期プログラムやセミナー等を実施。企業や大学等での講演、個人/法人のタスク管理コンサルティングもおこなっている。

障害者雇用と一般雇用とは?

就職活動を始めるうえで、まず知っておきたいのが「障害者雇用」と「一般雇用」の違いです。ここでは、「オープン・クローズ」という考え方や、それぞれの雇用形態の特徴について解説します。

オープン就労とクローズ就労の違い

障害者雇用と一般雇用の違いを知るうえで、最初に押さえておきたいのが「オープン就労」「クローズ就労」という考え方です。

  • オープン就労とは、障害があることを就職先に開示して働くこと。
  • クローズ就労とは、障害があることを就職先に伝えずに働くこと。

※それぞれ「就労」をつけずに「オープン・クローズ」と呼ばれることも多いです。以降は「オープン・クローズ」と表記します。

「オープン=障害者雇用(障害者求人枠)」と思われがちですが、実際には一般求人枠であっても障害を開示して働くこともオープンに含まれます。つまり、オープンかクローズかは「雇用の枠」ではなく「開示の有無」によって区別されます。

筆者は、3社経験していますが、1社目は「オープンで障害者雇用」、2社目は「クローズで一般雇用」、3社目は「オープンで障害者雇用」から「オープンで一般雇用」に切り替わりました。

障害者雇用(障害者求人枠)とは?

日本では、障害のある人が働く機会を確保するために、企業に対して一定の割合で障害者を雇用する義務(法定雇用率)が定められています。2025年現在の民間企業の法定雇用率は2.5%、2026年7月には2.7%に引き上げ予定となっています。また、法定雇用率が適用される会社や法人の対象も拡大傾向にあり、2025年現在は従業員数40人以上、2026年7月からは37.5人以上となる予定です。

このルールに基づいて設けられているのが、障害者求人枠です。

障害者雇用で働くには、障害者手帳の取得が必須です。発達障害などで医師の診断があっても、手帳がなければこの枠に応募することはできないということです。

障害者雇用は、障害の特性や必要な配慮を事前に伝えたうえで働くことが前提となっており、職場から配慮を得られやすいのが大きな特徴です。 たとえば、勤務時間や業務内容の調整、通院配慮、職場内でのコミュニケーション支援など、状況に応じた「合理的配慮」を受けやすくなります。

一方で、障害やその特性によって業務内容や働き方に制限がある場合には、給与水準や昇進スピードが限定的になるケースもあります。また、業務内容が単純作業に偏るケースがあり、キャリアアップよりも「安定」や「安心」を重視する働き方が中心となる傾向もあります。

ただし最近では、障害の有無ではなくスキルと成果でフラットに評価される環境も広がっています。

筆者がはじめて就職した会社は、まさに「フラット」なIT企業でした。当時、障害者求人枠での求人票の中で、比較的給料が高く、面接でも「仕事を頑張れば役職だったり給料も高くなっていきますか?」と質問して「そうですよ」と答えてもらったことを覚えています。

さらに、障害者雇用ならではの働き方として、特有の仕組みが用意されていることもあります。

たとえば特例子会社制度は、障害のある方が安心して働けるよう、配慮された環境を備えた子会社を企業が設立し、その子会社での雇用を親会社の雇用率に算入できる仕組みです。障害特性への理解がある職場づくりが進んでいるケースも多く、はじめての就労先として選ばれることもあります。

また、トライアル雇用制度は、働くことに不安がある方に向けた“お試し雇用”の制度で、一定期間(通常3か月)働いてみたうえで、双方が合意すれば本採用に進む仕組みです。障害者専用の制度もあり、無理のない形で職場に慣れていけるステップとして活用されています。

一般雇用(一般求人枠)とは?

一般雇用とは、障害の有無にかかわらず、誰でも応募できる求人枠のことです。障害者手帳の有無は問われませんし、障害の開示も必須ではありません。

開示するかどうかは、本人の判断に委ねられています。ただし、開示しない(クローズ)場合は、そもそも障害があることを企業に伝えていないため、障害による困りごとがあったとしても配慮を求めることができません。

開示をする(オープン)場合は、障害の診断があり障害による業務への支障がみとめられたときに、必要な配慮を申し出ることができます。ただし、「合理的」であることが前提であるため、就業先にとって過重な負担と判断された場合は配慮を受けられないこともあります。

また、一般雇用では、他の社員と同様の成果や働き方を求められることが多くなります。 そのため、特性への自己理解や対処法を身につけていて、配慮がなくても働ける環境や仕事を選べる人には向いているといえます。

筆者は2社目で一般雇用・クローズで働きました。係長級の役職も付けていただいて入社し、それなりの水準の給料でした。そういったメリットがある反面、「その分しっかり働かないといけない」と考えて、自分にプレッシャーをかけてしまい、長くは続きませんでした。

障害者雇用・一般雇用のメリットとデメリット

「障害者雇用と一般雇用、どちらがいいのか?」と考えるとき、単純に比較できるものではありません。ここでは、自分に合った働き方を見極める手がかりとして、それぞれのメリット・デメリットを整理してみます。

この記事では、一般的に言われているそれぞれの雇用枠での働き方に沿って情報をお伝えします。実際には、企業によって募集要項や人事制度、受けられる配慮の程度はさまざまですので、参考としてお読みください。

障害者雇用で働くメリット・デメリット

障害者雇用のメリット

▷ 応募・選考のしやすさ
  • 未経験OKの求人が多く、スキルや職歴が問われにくい傾向がある
  • 競争倍率が比較的低めで、就職のハードルが下がる場合がある
  • 書類選考や面接に加えて「職場実習」を設ける企業も多く、事前に職場との相性を確かめられる
▷ 障害への配慮を受けやすい
  • 合理的配慮(業務調整、通院配慮、コミュニケーション支援など)を求めやすい
  • 勤務時間や業務内容を、特性に応じて柔軟に調整してもらえる
  • 周囲が障害を理解してくれている安心感がある
▷ 心身の安定につながりやすい
  • 「障害を隠さなければいけない」という不安がない
  • 体調の波や特性について、職場に相談できる環境がある
▷ 職場定着支援が受けられる
  • 就労移行支援や定着支援事業を通じて、職場との間にサポーターが入ることができる
  • 支援機関との面談は企業に知られずにおこなえるケースも多い(精神的安全の確保

筆者は、障害者雇用で働き始めましたが、そのときは新卒の年齢から数年近く経っており、同年代の友人はすでにスキルや経験を積んで社会で活躍していました。そんな友人に引け目を感じていた筆者にとって、スキルや職歴が問われにくい障害者雇用は、「心機一転でスタートできる」という意味合いからも、スムーズに社会に出られた実感がありました。

また、最初に入った会社では、一緒に働いていた先輩社員が、事前に「精神障害のある人と働くためには」といった本を読んでくれていて、合理的配慮としてだけではなく、筆者個人の性格や得手不得手をよく観察して受け入れてくれて、とても働きやすい環境を作ってくれました。

障害者雇用で働くデメリット

▷ 求人の幅が狭い
  • 一般雇用に比べ、選べる業種・職種に偏りがあることが多い。
  • 実際の求人では、6割以上が事務職、2割が軽作業(ディーキャリア調べ)となっており、専門性のある職が少ない
▷ 待遇やキャリアパスに制限がある場合も
  • 初期雇用が契約社員やパートスタートになることが多く、給与水準も低め
  • 昇進やジョブローテーションなどの機会が少なく、「成長機会」を得にくい職場もある
  • 一部企業では「障害者雇用枠と一般枠で評価制度が分かれている」ケースもある

筆者自身は、障害者雇用で入社した会社で、待遇やキャリアに関する大きな不満を感じたことはありませんでした。しかし、就職活動中に参加した合同面接会では、参加している企業の求人票を見る限り、「スキルを磨いて専門性を高めていくのは難しそうだ」という印象を強く受けました。

たとえば、事務職の求人に対しても「成長やキャリアアップの道筋が見えにくい」と感じることが多く、自分が目指していた働き方とはギャップがありました。そのとき、「障害者になった途端、自分のやりたい仕事への道が閉ざされてしまうのか」と、強い不安と悲しさを感じたのをよく覚えています。

一般雇用で働くメリット・デメリット

一般雇用のメリット

▷ 幅広い求人の中から選べる
  • 求人数が多く、業界・職種・地域等の採用条件の選択肢が豊富
  • スキルや実務経験がある場合、より専門的な仕事に就けるチャンスが広がる
▷ キャリアアップの道が開ける
  • 障害者雇用よりも、昇格・昇給・異動・新規プロジェクトへの参加など、キャリアパスの選択肢が多い
  • 裁量のある仕事や責任あるポジションを任されやすく、やりがいを感じやすい

オープンであれクローズであれ、会社の許す限り「やりたい」といったことをやれる自由は、非常に魅力的でした。こうした自由度の高い環境のなかで、筆者は3社目の途中から副業を開始しました。

発達障害のある方々に、自分が発達障害傾向をカバーして働けるようになったことを講演会や執筆活動を通してお伝えするという副業がわずかながら収益化できたことで、その収益を会社が受け取ることと引き換えに、会社の業務の一環として行うことを提案し、毎週金曜日会社外で働くことができるようになりました。それが現在筆者がフリーランスとして働いている活動の礎になりました。

一般雇用のデメリット

▷ 応募・選考の難易度が高い
  • 実習のない企業が多く、実際に働いてみないと相性が分かりづらい
  • スキルや職歴、適応力などが厳しく見られる場合がある
▷ 障害への配慮が得られにくい
  • クローズの場合、合理的配慮を求めることが難しい
  • オープンの場合も、企業側の理解や制度が整っていないと、通院・服薬・特性への配慮をしてもらえないことも
  • 定着支援など障害福祉サービスからの支援が受けられず、トラブルが起きた際も基本は「自己解決」
▷ 精神的な不安・疲労感が蓄積しやすい
  • 「いつか障害がバレるのでは?」という不安を抱えながら働くことになる
  • 長時間労働や急な残業が発生しやすく、生活リズムが崩れることも

一般雇用では、良い意味でも悪い意味でも障害者雇用より自由です。筆者自身、一般雇用で働いた際には、苦手な作業への対応に苦慮した経験があります。筆者のADHDの不注意傾向のせいか、仕事を自分一人でミスなくこなすことが非常に難しかったです。

クローズで働いていると、そういったことを苦手だというのは当然ながら理解されづらいですし、自分から言うことも難しいです。そのため、苦手なことも自分だけで克服しようと頑張りすぎて、深夜や早朝まで残業したり、それでもうっかりミスなどがあって注意を受けたりすることで、不安や疲労が蓄積したのは実際あったなと感じています。

このように、障害者雇用にも、一般雇用にも、それぞれにメリットとデメリットがあります。 大事なのは、「どちらが自分に合っているか」を、働きやすさ・安心感・将来像の観点から冷静に見極めることです。

最近では、障害の有無にかかわらず、スキルや成果で評価する企業も増えています。「障害者雇用=安定」「一般雇用=挑戦」といった枠にとらわれず、自分にとって何を大切にしたいのかという視点で選ぶことが、納得のいく働き方につながります。

筆者自身も、発達障害の特性である「興味の偏り」が強く、関心の持てない仕事にはどうしても集中できませんでした。興味のある分野である程度の収益が見込めるようになったことをきっかけに、「このままでは会社に迷惑をかけてしまう」と判断して退職。現在はフリーランスとして働いています。結果として、自分が何を大切にしたいかという軸で選んだ道だったと感じています。

次ページ:障害者雇用と一般雇用の「よくある質問」にお答えします

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