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【当事者解説】発達障害と診断されたらどうする?やるべきことは?

ADHD当事者の筆者が、診断を受けたあとの行動ステップ、利用できる制度、職場への伝え方、自己理解・特性への工夫までを解説します。

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「発達障害と診断されたけれど、どうすればいいのか分からない」「職場や家族に伝えるべきか、必要な手続きはあるか」 そんな不安を感じていませんか。 診断を受けた直後は、気持ちが揺れやすく、今後のことを考える余裕が持ちにくい時期です。焦らずに少しずつ整理していけば、自分らしく働き、暮らしていくための方法を見つけていくことができます。 この記事では、ADHDの診断を受けた筆者が、「発達障害と診断されたら」というテーマで、診断に至るまでの流れから、診断後にできること、そして周囲との向き合い方までをお伝えします。今の環境をより過ごしやすく整えるためのヒントとして、ぜひ参考にしてみてください。 執筆者紹介 小鳥遊(たかなし)さん 発達障害やタスク管理をテーマに、2021年まで会社員、2022年からフリーランスとして活動している。 発達障害(ADHD)当事者。主に発達障害や仕事術をテーマとするweb記事を執筆。2020年に共著「要領がよくないと思い込んでいる人のための仕事術図鑑」(サンクチュアリ出版)を執筆し発行部数は10万部を超える。 また、就労移行支援事業所でタスク管理等に関する定期プログラムやセミナー等を実施。企業や大学等での講演、個人/法人のタスク管理コンサルティングもおこなっている。 [toc] 診断に至るまでによくあるきっかけ まだ診断を受けていない方・受けるか悩んでいる方も多いかと思います。まず最初に、診断を受けたきっかけについて紹介します。 診断後にやるべきことについて今すぐ知りたい方は、「診断後にできる行動のステップ」からお読みください。 発達障害は、症状が突然あらわれて診断がくだるものではなく、日常生活や仕事の中で感じる「やりづらさ」や「違和感」から、少しずつ気づいていくケースが多いです。 職場でうまくいかない場面が続いたとき 「同じ注意を受けることが多い」「予定の調整が難しい」「会議中に集中が続かない」など、仕事の中で自分でもうまく回せていないと感じることが続く場合があります。 筆者が「自分は発達障害かもしれない」と思ったきっかけがまさにこのパターンでした。 法律事務所の事務員をアルバイトでやっていて、電話の対応がうまくできなかったり、お客様にお渡しする大事なお金を事務所に置いたまま外出してしまったりといった場面が続き、「もう雇い続けられない」と契約を終了することになりました。 続けて不動産仲介の小さな会社でアルバイトを始めるのですが、そこでもファイリングに明らかに時間がかかりすぎてしまったり、お客様を物件に案内できず迷子になってしまったりと、自分でも「何かおかしい」と考えるようになりました。 そこで、「仕事 うまくいかない」「仕事 ケアレスミス」といったワードで検索をかけてみたところ、「発達障害」という言葉を知り、クリニックで診断を受けました。 情報を見て「もしかして自分も」と感じたとき テレビや記事、SNSなどで「大人の発達障害」「ADHD」「ASD」といった言葉を目にし、自分の行動パターンや考え方に似ていると感じて受診する方も少なくありません。 これまで言葉にできなかった「生きづらさ」や「頑張ってもうまくいかない理由」に納得できることで、ほっとしたり、次の一歩を考えやすくなる方も多いようです。 筆者は、診断はADHDだったのですが、発達障害について知るにつれて、ASDの傾向もあるかもしれないと思うようになっていきました。 「抽象的な言葉が理解しづらい」「言葉にならない行間を読むのが苦手」といったASD特性のある方の経験談をSNSやウェブなどでよく見ます。筆者もそれを見て、「そういえば自分もそうだ!」と思い、ASD傾向への対策も取り入れて仕事や生活をするようにしています。 メンタル不調で通院したときに分かることも ストレスや疲れの蓄積で心療内科・精神科を受診した際に、医師から「発達障害の傾向があるかもしれません」と指摘されるケースもあります。 気分や体調の波が大きいと感じている場合、その背景に特性が関係していることもあるため、専門の医療機関で相談してみることが一つの選択肢になります。 診断後にできる行動のステップ 風邪などの病気は、診断があり、薬を処方され、服薬をすれば治っていきます。診断を受けたら、ある程度終わりが見えることが多いです。しかし、発達障害の診断は、診断→自己理解→対策という流れの「始まり」だと考えて良いでしょう。 以下に、診断を受けた後に意識しておくとよい5つのステップを紹介します。 1. 自分を知る時間をつくる 診断を受けたあと、焦って誰かに伝えたり、手続きを急いだりする必要はありません。まずは「どんな場面でうまくいかないのか」「どんな条件なら力を発揮しやすいのか」を整理してみましょう。 得意・不得意の傾向を書き出す 困った場面をメモして、どんな工夫が有効だったかを記録する 特性を理解しているカウンセラーや医師に話してみる このような記録は、後で職場や家族と話すときにも役立ちます。 筆者は、逆にこの時間をつくらなかったため、少々回り道をしてしまいました。診断を受けたあとに、クリニックのソーシャルワーカーの方に就労について相談して障害者雇用の話を聞き、すぐに就職活動を始めたのです。 スピーディーに事が進んだのは良いのかもしれませんが、その反面、自分自身の得意・不得意などもしっかり把握せずに仕事を始めてしまったため、仕事がうまくいかず体調を崩して休職するということを2社連続でしてしまいました。 もし診断を受けた当時の自分に今の自分がアドバイスするなら、「まずは就職を焦らずに、自分のことを知る時間を確保しよう」と言うと思います。 2. 利用できる制度や支援を調べる 発達障害がある方を支える制度は複数あります。それぞれの特徴を知り、必要に応じて利用を検討するのをおすすめします。 医療機関での継続的なフォロー(通院・カウンセリングなど) 発達障害者支援センターでの相談(生活や就労について) 就労移行支援などの障害福祉サービス(働く準備のサポート) 合理的配慮を得るための社内相談 前述のとおり、筆者は診断を受けてすぐに就職活動を始めたのですが、それは制度や支援機関についての知識がなかったというのも一因でした。特に、「就労移行支援事業所」というものの存在を知らず、応募書類の作成なども自力か友人の力を借りてやっていました。 ただ、支援制度や相談窓口の情報を知らなかったことで、結果的に一人で抱え込みすぎていたように思います。どこに相談すればいいか分からないときは、まず信頼できる情報を集めることが大切です。 そこで、頼れる専門の相談窓口を紹介します。 発達障害者支援センター:発達障害がある方やご家族が、生活・就労・福祉制度などの相談をできる地域の支援拠点です。お住まいの市区町村の障害福祉窓口:障害者手帳や福祉サービスの申請・利用方法を案内してもらえる窓口です。 精神保健福祉センター:こころの健康や生活・仕事の悩みを専門職に相談できます。 障害者就業・生活支援センター:働くことと暮らしの両面から支援を受けられる機関です。 ハローワーク:障害者雇用の相談や求人紹介、応募書類の作成サポートなどを受けられます。 地域障害者職業センター:職業評価(自分の職業適性や課題、支援方法を知るためのもの)や就職後の定着支援など、専門スタッフによる助言が得られます。 医療機関:治療や服薬の相談のほか、利用できる支援制度を紹介してもらえる場合もあります。 就労移行支援事業所:就職に向けた訓練や生活リズムの整え方、ビジネスマナーなどを学べる障害福祉サービスです。 就労移行支援事業所ディーキャリアでは、診断を受ける前の方、診断を受けたものの障害福祉サービスの利用をするかどうか決めていない方からのご相談も承っています。お気軽にご相談ください。 お問い合わせフォーム▶ 3. 職場への伝え方を考える 発達障害などの障害があると、障害者雇用のオープン就労で働く場合は、自身の障害を開示して、そんな自分が働きやすい環境を作るための「合理的配慮」について伝えることができます。 ただ、「診断名」だけを伝えるだけでは、周囲の人たちも何をすれば良いか分かりづらいものです。それだけでなく「具体的にどんな支援があると働きやすいか」を整理しておくことがポイントです。 たとえば、以下のように合理的配慮事項を伝えると、周囲の人も対応しやすくなります。 指示は口頭だけでなく、メモやメールでももらえると助かる 優先順位を一緒に確認してもらえると安心できる 集中しやすい静かな場所で作業したい 筆者は、この「合理的配慮」を、「自分の弱みをさらけ出すようで気が引ける」と考えていました。したがって、最初の障害者雇用のオープン就労の際に合理的配慮を聞かれたときに、「いえ、特にありません」と答えてしまいました。 合理的配慮は、あくまで自分と周囲がスムーズに働けるようになるためのものであり、職場の全員のメリットになるものです。変に遠慮すると、かえって職場に迷惑をかけてしまうこともあります。事実、筆者は合理的配慮を満足に伝えずに就労した結果、仕事がうまくいかなくなって休職してしまいました。伝えるべきことは、きちんと伝えることが大事だったなと、心底思ったのを覚えています。 そのためにも、職場のコミュニケーションの取り方や、どこまで伝えるかについては、一人で抱え込まずに相談してみることはとても大切だと考えています。 4. 生活と仕事のバランスを整える 自己理解をして、職場で働くための環境を整えることは、生活の安定性があってこそ十分に発揮されます。 睡眠・食事・休息のリズムを整える スケジュールを見える化し、予定を詰め込みすぎない 定期的に「最近どう感じているか」を振り返る 厚生労働省の就労準備性ピラミッドでは、「働くためのスキル」「社会人としての基本的な習慣」などを支える土台として、まずは「こころとからだの健康」や「日常生活のリズム」が大事なものと位置づけられています。 健康を維持し、日常生活を無理なく続けられる習慣をつくることは、自分らしく働くために最優先事項だと考えたいところです。 診断後の話ではありませんが、筆者が仕事がうまくいかずに休職したときのことです。当時実家に住んでいたのですが、休職の意味をしっかり理解していた親は、「とにかく休むことを優先しよう」と言ってくれました。ただ、1つだけ約束しました。それは、「朝起きて夜寝るというリズムは守ろう」ということでした。 今考えると、この最優先事項だけをしっかり守るという模範的な姿勢だったなと考えています。そのおかげか、しっかり休みつつもスムーズに次の段階へ移行できたという実感がありました。 日常生活のリズムを整えることは、こころとからだのメンタルヘルスを守りながら、無理なく働き続ける土台になります。ぜひ気を付けていただきたい点です。 5. 障害特性への工夫を考える  発達障害がある方の多くは、仕事や生活の中で「忘れやすい」「集中が続かない」「整理が苦手」といった特性を感じることがあります。 こうした特性は、努力や根性で克服するものではなく、自分に合った工夫を取り入れることでうまく付き合っていくことが大切です。 以下は、ADHD当事者である筆者が実際に取り組んでいる工夫で、特性や性格などによって、一人ひとり必要なもの・合う対策が異なりますので、参考としてお読みください。 仕事での工夫の例 タスクを見える化する:付箋やアプリで「やることリスト」を作り把握する。 スケジュール管理を習慣化する:会議や打合せなどの予定はすぐにカレンダーへ入力し、リマインダー機能を活用する。 作業環境を整える:集中しやすい静かな場所を選ぶ、デスク上をシンプルに保つ。 一度に抱えすぎない:同時に複数の作業を進めず、「今はこれだけ」に絞る。 筆者自身も、ADHDの特性である「注意の散りやすさ」を補うために、自分の抱える仕事を書き出して一覧化し、常に「次にやるべきこと」を具体的にして「今日やること」をメモに書き出すようにしていました。やるべきことが明確になることで、落ち着いて仕事を進められるようになりました。 日常生活での工夫の例 家事をルーティン化する:曜日ごとに掃除・洗濯などを決めておくと、迷う時間が減りやすくなります。 金銭管理をシンプルにする:現金での管理は使った履歴を残しづらい(レシートをなくす)ため、できるだけクレジットカードで支払うようにする。 忘れ物対策をする:鍵や財布を置く箱を用意し、出かける前に箱を確認するだけにしておく。 「できたこと」に注目する:完璧を目指すよりも、できたことを記録し、自分を肯定する時間を持つ。 こうした工夫は、特性を無理に変えるのではなく、「自分に合った環境をデザインする」ための方法です。 自分の行動パターンを理解し、小さな工夫を積み重ねることで、仕事も生活も少しずつ安定していきます。 よくあるご質問と考え方 ここでは、診断を受けた後の対処のしかたや、どう行動したら良いかなどについて、よくある疑問についてお答えしていきます。 Q. 会社に伝えたほうがいいですか? A. 伝えるかどうかは、状況や職場環境によって異なります。「配慮があれば働きやすくなる」「理解を得たい」と感じる場合は、信頼できる上司や人事担当者に相談する選択もあります。 一方で、伝えずに働き続けている方もいます。自分が働きやすいと感じる方法を選ぶことが大切です。 Q. 家族や友人に話すべきですか? A. 伝える相手や範囲も自分で決めて構いません。家族や親しい人に理解してもらうことで、生活面の協力を得やすくなることもあります。ただし、相手の理解度や関係性を見ながら、無理のない範囲で話すことをおすすめします。 Q. 障害者手帳は取得した方がいいですか? A. 手帳を取るかどうかは、その方の状況によって異なります。 主なメリット 障害福祉サービスや支援を利用しやすくなる 税制や公共料金の優遇が受けられる場合がある 検討ポイント 手続きに時間や準備が必要 「手帳を持つ」ことに心理的な負担を感じる方もいる 手帳は申請や手続きに時間がかかることもあるので、医師や支援センターなど専門家と一緒に判断していくと安心です。 Q. どんな制度やサービスがありますか A. 代表的な制度としては以下のようなものがあります。 発達障害者支援センター(相談・情報提供) 障害年金(生活・就労に継続的な難しさがある場合) 就労移行支援事業所(働くためのトレーニング・就職活動支援) 発達障害と向き合うために大切なこと 診断を受けることで、「苦手の原因」や「自分の得意なスタイル」が見えてくることがあります。発達障害がある人の中には、集中力・創造力・記憶力などを強みとして発揮できる方も多くいます。 「できないことをなくす」よりも、「できることを増やしていく」意識で取り組むことが、自分らしさを活かす第一歩になります。 こうしたことも含めて、自分の特性を理解しながら、安心して働くための環境づくりは、一人で抱え込まずに進めることが大切です。 就労移行支援事業所ディーキャリアでは、働くことで悩みを抱えている発達障害のある方の支援をおこなっており、発達障害のある方が、自己理解を深められる実践的なプログラムを提供し、また規則正しい生活が送れるトレーニングを行なっています。 発達障害のある方の特性を理解したうえで、個別に最適なトレーニングを提供することが特徴です。 就労移行支援事業所とは、障害のある⽅が就職するための「訓練・就職活動」の⽀援をおこなう障害福祉サービスの一つです。(厚⽣労働省の許認可事業) 就職とは人生の目的を実現するための通過点です。自分の「なりたい」姿を見つけ、障害特性への対策と自分の能力を活かす「できる」ことを学び、社会人として長く働くために「やるべき」ことを身に付ける。 「なりたい」「できる」「やるべき」の 3 つが重なりあうところに仕事の「やりがい」が生まれると、私たちは考えています。 ご相談は無料です。フリーダイヤル、または、24 時間受付のお問い合わせフォームにて、お気軽にお問い合わせください(ご本人様からだけでなく、当事者のご家族の方や、支援をおこなっている方からのご相談も受け付けております)。 お電話(0120-802-146)はこちら▶ お問い合わせフォームはこちら▶ また、全国各地のディーキャリアでは、無料の相談会や体験会も実施しています。 全国オフィス一覧はこちら▶ 就労移行支援事業所ディーキャリアは、「やりがい」を感じながら活き活きと働き、豊かな人生を目指すあなたを全力でサポートします。お一人で悩まず、まずはお気軽にご相談ください。
発達障害の特性に合わせた「合理的配慮」で、自分らしく働く

2024年4月から職場での「合理的配慮」が法的義務になりました。自分らしく無理なく働くためには、自分に合った配慮を見つけることが大切です。

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「特性によって、どうしても苦手な業務がある」「障害への理解をしてもらいたいけど、どうしたらよいか分からない」「合理的配慮という言葉は聞いたことがあるが、よく知らない」 そんな悩みを抱えていませんか。 発達障害のある方は、働きづらさを自分の努力だけで解消することが難しい場合があります。障害による困難がある場合には、企業に「合理的配慮」の提供を依頼することができます。 2024年4月1日に改正障害者差別解消法が施行され、合理的配慮の提供は、これまで民間事業者にとっては「努力義務(するように努めなければならない)」とされていたものが「法的義務(しなければならない、守らない場合には罰則を科される)」になりました。 本記事では、職場での「合理的配慮」とは何か、その基本的な考え方や、合理的配慮の伝え方、具体的な事例などを、わかりやすく解説します。 「合理的配慮」と聞くとハードルが高いイメージを持たれる方も少なくないですが、実際には、働く人が力を発揮しやすくするための小さな工夫であることが多いです。そういった「自分に合った」働きやすい工夫を知ることが、安心して働き続けるための第一歩になります。 あなたが無理なく、自分らしく働き続けるためのヒントになれば幸いです。 執筆者紹介 小鳥遊(たかなし)さん 発達障害やタスク管理をテーマに、2021年まで会社員、2022年からフリーランスとして活動している。 発達障害(ADHD)当事者。主に発達障害や仕事術をテーマとするweb記事を執筆。2020年に共著「要領がよくないと思い込んでいる人のための仕事術図鑑」(サンクチュアリ出版)を執筆し発行部数は10万部を超える。 また、就労移行支援事業所でタスク管理等に関する定期プログラムやセミナー等を実施。企業や大学等での講演、個人/法人のタスク管理コンサルティングもおこなっている。 [toc] 合理的配慮とは? 合理的配慮とは、「障害者差別解消法」や「障害者雇用促進法」にもとづき、障害のある人が他の人と平等に活動できるよう、本人の求めに応じて就業環境や方法を企業側と調整することです。 特に発達障害は先天的な脳機能・神経系の特性であるとされているため、本人の努力や工夫だけでは解消できない困難が生じることがあります。そうした困難を補うために、企業のサポート=合理的配慮の依頼を検討することが重要です。 合理的配慮を依頼するときに知っておきたいポイントについて紹介します。ここでは、3つの基本ポイントを整理したうえで、令和6年施行の改正についてもお伝えします。 ポイント①:話し合いで決まる「負担が重すぎない範囲」 合理的配慮は、企業等が「過重な負担でない範囲」で提供するとされています。例えば、車椅子利用者が「エレベーターから近い席を希望する」場合は負担は軽いですが、「オフィスを1階に移転してほしい」となると費用や影響が大きく、過重な負担となります。 提供の可否は、事業活動への影響、実現の難易度、費用などを総合的に踏まえて判断されます。大切なのは企業等と本人との調整であるという点です。本人も自己対処で解消できる部分は自分で対応し、残る困難についてできるだけ負担を少なく解消する方法をすり合わせることが大事です。 更に、以下の3つの条件を満たす必要があります。 必要とされる範囲で、本来の業務に付随するもの 障害のない人との比較において、同等の機会の提供を受けるためのもの 事業そのものの目的・内容・機能の本質的な変更には及ばないもの ポイント②:手帳がなくても求められる 合理的配慮は、「身体障害、知的障害、精神障害、発達障害、その他の心身の機能の障害がある方」かつ「障害による職業生活における制限や困難がある方」が対象になりますが、障害者手帳の有無は問われません。医師の診断書も法律上必須ではありませんが、実際の申請や話し合いでは、配慮内容の検討や公的支援の申請資料として求められることが多くあります。 ポイント③:配慮の申し出は本人から 合理的配慮は、本人からの申し出がある場合に提供すると定められています。これは、2006年採択の国連「障害者権利条約」が掲げた “Nothing about us without us”(私たち抜きに私たちのことを決めるな)の理念に基づくものです。 そもそも、発達障害は特性が十人十色であり、必要な配慮内容も人それぞれ異なります。さらに外見からは分かりにくいため、本人が具体的に言葉にして伝えることが、適切な配慮を得るために欠かせないのです。 令和6年施行の改正について 令和3年(2021年)の障害者差別解消法改正により、民間事業者にも障害のある人への合理的配慮提供が義務化されることが決まり、令和6年(2024年)4月1日から施行されました。 これにより、従来は努力義務だった民間事業者も、申し出があれば過重な負担でない限り必ず検討・実施することが必要になりました。不対応の場合は合理的理由の説明が求められ、行政の勧告・公表や民事での損害賠償リスクが発生します。そのため企業は、対応記録や説明責任を果たす仕組み、社内マニュアルや研修など、組織的な体制整備が不可欠です。 なお、行政などの公的機関においては、障害者雇用促進法に基づき、平成28年(2016年)からすでに事業主に合理的配慮の提供の義務が課されています。今回の改正は、これまで対象外だった民間事業者全般に法的義務が拡大されたものです。 「合理的配慮」申請の流れ 合理的配慮の提供を申請する際、次の3点を伝える必要があります。 ①障害による困難であること②本人の自己対処では解決できないこと③企業にとって過重な負担でないこと 合理的配慮の提供には本人からの申し出が必要だということはすでにお伝えしましたが、特に発達障害のように外見から困難が分かりにくい場合は、具体的な内容を伝えなければ配慮は難しいことがあります。 それを踏まえ、以下の4つのステップを順番にやっていくことが必要になります。 ステップ1:仕事上の困難を把握する まずは自分の特性を知ることから始めます。これまでの仕事やアルバイト、学校生活を振り返り、困難を感じた場面を書き出します。例として、ケアレスミスが多い、曖昧な指示が理解しづらい、周囲の音で集中できないなどがあります。 この「書き出し」で重要なのは、過去の失敗を責めず、困難そのものを単なる客観的事実として受け止めることです。頭の中だけでなく、書き出すことで客観的に整理しやすくなります。そうすることで、自分を理解し、次の行動につなげることができます。 ステップ2:困難への自己対処法を考える 次に、自分でできる対処がないかを検討します。ステップ1で洗い出した困難さの一つひとつについて、以下のような表形式にすると整理がしやすくなります。 仕事上の困難さ自己対処法ケアレスミスや忘れ物・無くし物が多い仕事の手順や持ち物のチェックリストを作って確認する曖昧な表現(だいたい、なるべく早くなど)が理解できない何を・いつまでに・どのようにするのか、質問して確認する周囲の話し声や環境音に敏感で、集中が難しい集中が必要な作業をおこなう時間帯を決め、その時間は話しかけない、電話を取り次がないよう、周囲にお願いする ステップ3:企業に依頼する配慮を考える 発達障害のある方の場合、必要な配慮は一律ではありません。特性は十人十色で、障害による困りごとや適切なサポート内容は一人ひとり異なります。自己対処では対応しきれない困難について、自分に合った形を「自ら」考え、勤務先に伝えることが大切です。 ステップ2で整理した自己対処で仕事上の困難が解消できる項目は合理的配慮の対象から外します。残った「自己対処では対応しきれない困難」について、企業にどのような対応をしてもらえば解決できるのかを「依頼したい配慮事項」として考えることになります。 配慮事項をまとめる際は、「いつ・誰が・どのようにおこなうのか」を具体的に示すことが大切です。企業側が「何をすればよいのか」を一目で理解できるよう、先ほどの表に書き加えながら整理していきます。 仕事上の困難さ 自己対処法 配慮の要否 依頼したい配慮事項 ケアレスミスや忘れ物・無くし物が多い 仕事の手順や持ち物のチェックリストを作って確認する 不要 特になし 曖昧な表現(だいたい、なるべく早くなど)が理解できない 何を・いつまでに・どのようにするのか、質問して確認する 要 完成品のイメージが合っているか、期限までに何回か確認のお時間をいただきたい。もし可能であれば口頭ではなく、メールやチャット等の文面で依頼いただきたい。 周囲の話し声や環境音に敏感で、集中が難しい 自己対処では解決が困難ため、配慮事項を依頼する 要 集中が必要な作業をおこなう行う時間帯を決め、その時間は話しかけない、電話を取り次がないよう、周囲にお願いする。業務上で支障がなければ、集中作業時に耳栓等を付ける許可をいただきたい。 筆者自身、実際に企業へお願いした配慮事項は、「怒らないでいただきたい」というものでした。 筆者は「抜け漏れ」「先送り」「段取りの要領の悪さ」、そして「叱責されると焦ってなおさらミスを誘発してしまう」といった困難さを抱えていました。最初の3つはタスク管理で自己対処できるとし、実際に筆者が企業側へ配慮を依頼したのは「指摘をいただく際は、怒るのではなく、提案という形で冷静に伝えてほしい」という一点でした。 この配慮のおかげで安心して働くことができ、7年間の就労の中で感情的に叱責されたのは一度だけでした。その1回は、今考えてもしょうがなかったと自分でも思えるものでしたので、結果としてとても意味のある配慮の依頼だったと考えています。 ステップ4:企業に申し出る ステップ1〜3で整理した「困難さ」「自己対処」「配慮事項」をもとに、企業へ合理的配慮を申し出て話し合います。雇用形態により、以下の3つのパターンが考えられます。 パターン1:障害者雇用枠で就職・転職 応募書類や面接で3項目を説明し、提出用と自分用の資料を用意。企業から質問がなくても自ら相談します。 パターン2:障害を開示して働いている場合 上司や人事に直接相談し、資料を見ながら共有します。既存の配慮が不十分な場合も調整を依頼することをお勧めします。 パターン3:一般雇用で非開示の場合 慎重に進め、産業医や外部支援機関に守秘義務のもと相談。必要に応じて雇用条件の見直しや障害者雇用への切替も検討。障害は非開示なので、あくまで「困りごと」への対処として企業側に相談します。本パターンは、合理的配慮の法的義務の対象にならないため注意が必要です。 発達障害のある方の「合理的配慮」事例 具体的に、どのような内容であれば企業に合理的配慮としてサポートを求められるのでしょうか。ここでは、発達障害のある方に対し、実際に企業で提供されている配慮の事例をまとめました。 あくまで「一例」であり、すべての企業で同じ対応が受けられるわけではありませんが、ご自身の特性や職場環境に合わせて、どのような依頼が適切かを考える際の参考にしてください。 発達障害のある方の合理的配慮の事例1:作業への配慮 仕事上の困難さ提供されている合理的配慮急な予定の変更や、臨機応変な対応が苦手一日の業務スケジュールを立てた上で、その通りに業務指示をもらっている。業務スケジュールに変更が生じる際には、上司から事前に説明を受けている。指示を「口頭」でおこなった場合、一度で覚えきれずに、抜け漏れが発生してしまう指示の内容は社内のチャットツールを使い「文章」で受け取っているマニュアルや手順書等で、作業や指示内容を随時確認できるようにしてもらっている。作業の優先順位付けが苦手なため、複数の社員から指示をされると、混乱して効率よく作業が進められない指示系統を一本化し、指示をおこなう担当者を決めてもらっている。担当者以外から本人に直接指示があった場合、自分から担当者に相談をして、どのように作業を進めるか指示してもらっている。マルチタスク(複数の作業を、同時に進める)が苦手一つの作業が終わってから、次の作業の指示を出してもらっている。「だいたい」「おおよそ」「なるべく」「できるだけ早く」などの曖昧な表現から、意図を想像して業務を調整することが難しい作業の期限日、必要な数量などを明確にし、具体的な説明を受けている。 発達障害のある方の合理的配慮の事例2:仕事環境への配慮 仕事上の困難さ提供されている合理的配慮聴覚過敏で、周囲の話し声や電話の着信音、椅子を引く音などがあると、作業に集中できない集中が必要な作業の際には、耳栓の着用を許可してもらっている。視覚的な情報に反応しやすく、周囲が気になって、作業に集中することが難しい集中して作業ができるよう、席にパーテーションで仕切りを設けたり、人の動きや掲示物等が目に入りにくい座席配置にしたり、職場環境の調整をしてもらっている。 発達障害のある方の合理的配慮の事例3:コミュニケーションへの配慮 仕事上の困難さ提供されている合理的配慮周囲に迷惑をかけていないか気を遣いすぎることや、何をどう質問したらいいかわからないことから、自ら相談することが苦手毎日の朝礼と終礼の時間に、疑問点や不明点などを質問する時間を設けている。誰に相談をすれば良いのか分からないときに、相談ができないまま業務を進めてしまうことがある相談窓口となる社員を決めて、どのようなことでも、まずはその社員に相談をするようにしている。雑談が苦手、過集中で頑張りすぎてしまいがちである、疲労を自覚しながら業務のペース配分をすることが苦手であるなどの理由で、休憩時間に心が休まらず、十分な休憩が取れない休憩室として個室を別に設けている。人の少ない静かなエリアや、空いている会議室を休憩時間に使う許可をもらっている。不安傾向が強く、業務を滞りなくおこなえているのか、常に不安を感じてしまう週に一度、その週の業務を振り返り、できている点や、もう少し頑張って欲しい点などをフィードバックしてもらう時間を設けている。 発達障害のある方の合理的配慮の事例4:勤務条件への配慮 仕事上の困難さ提供されている合理的配慮仕事上の困難さ提供されている合理的配慮体調不良の際に、満員電車など人が多い環境に長時間いると気分が悪くなってしまうことがある体調が優れない日は、事前に上司に連絡した上で、時差出勤の許可を得ている。業務量や業務内容の調整をするなどの対応をするようにしている。毎月1回、通院のために休暇が必要予め、通院日のスケジュールを上司と共有しておき、通院日は優先的に休めるように調整している。 ここで紹介した事例はあくまで一例であり、職場の状況や本人の特性によって必要な配慮は異なります。大切なのは、「困っていること」を具体的に伝え、あくまで企業と相談しながら自分に合った方法を一緒に探していくことです。こうした対話を重ねることで、無理なく力を発揮できる環境づくりにつながります。 合理的配慮のよくある質問集 これまでに寄せられたご相談の中から、「合理的配慮」に関するよくある質問をまとめました。ほかの人がどんな点で悩み、どのように考えているのかを知ることで、ご自身の課題を解決するヒントが見つかるかもしれません。 詳しく知りたい方は「合理的配慮のよくある質問集」も合わせてお読みください。 Q1. どんな申し出でも対応してもらえるの? どんな申し出も対応してもらえるとは限りません。合理的配慮は「障害による困難のうち、企業にとって過重な負担にならない範囲」で提供されます。また、実際は本人の自己対処では対応しきれない場合であることが多いです。一方的な要求ではなく、あくまで企業と当事者が話し合い、現実的に可能な方法をすり合わせるという姿勢が大事です。 Q2. 障害を開示せずに求められる? 合理的配慮は障害があることを前提に提供されます。そのため、申請には障害を開示する必要があります(証明書類についてはQ4参照)。 Q3. 対象は誰? 対象は手帳の有無や雇用形態に関係なく、身体障害・知的障害・精神障害(発達障害含む)などにより長期的に職業生活が制限される人です。所定労働時間の長短も条件にはなりません。 Q4. 手帳がない場合の証明方法は? 主な方法は2つあります。1つは自治体が発行する「受給者証」(医療・福祉サービス利用時に交付)、もう1つは障害名が記載された「医師の診断書または意見書」です。発達障害では後者が多く使われます。企業によっては提出を求めない場合もあります。 なお、障害者雇用で就労するのであれば、手帳の取得は必須になるので、手帳なしで自身の障害を証明するのは、一般雇用でオープン就労する場合に限ることに注意が必要です。一般雇用/障害者雇用とオープン/クローズ就労の関係については、以下の記事に分かりやすく整理してあるのでご覧ください。 Q5. 断られることはある? 断られる可能性があります。例えば、周囲の物音に過敏に反応してしまうためパーテーションを設けて欲しくても、物理的に設置が難しい場合や、産業医などによる対面の面談サポートが必要とした場合に産業医の稼働が頻繁には難しいといった場合などです。ただし、「パーテーション設置は困難だが着席位置や備品で対応」「対面面談は難しいがメール相談は可」など代替案が出ることもあります。重要なのは、企業の事情と自分の困難の両方を踏まえたすり合わせです。 ここで取り上げた質問と回答は、あくまで代表的な事例や考え方に過ぎません。合理的配慮は、職場環境や業務内容、そして当事者の特性によって形が変わります。大切なのは、疑問や不安を抱えたままにせず、必要な情報を集め、企業等と丁寧に話し合いながら最適な方法を探していくことです。 合理的配慮を「あなたの働きやすさ」に変えるために 自分に必要な合理的配慮を受けるためには、困りごとや依頼したいことを一方的に伝えるだけでなく、「対話のプロセス」が大事になってきます。 配慮の内容は人によっても職場によっても異なります。大切なのは、自分の特性や困難さを具体的に整理し、企業等とすり合わせながら、現実的に続けられる方法を見つけることです。 そんなときは、「一人でなんとかしよう」と抱え込まずに、誰かと一緒に考える、という方法もあります。 自分の特性を整理しながら、「どんな働き方なら安心できそうか」「どうすれば自分の力を活かせるのか」を、少しずつ言葉にしていく。そのプロセスを、伴走してくれる場所があるということを、ぜひ知っておいてほしいのです。 就労移行支援事業所ディーキャリアでは、働くことで悩みを抱えている発達障害のある方の支援をおこなっており、発達障害のある方が、自己理解を深められる実践的なプログラムを提供し、また規則正しい生活が送れるトレーニングをおこなっています。 発達障害のある方の特性を理解したうえで、個別に最適なトレーニングを提供することが特徴です。 就労移行支援事業所とは、障害のある⽅が就職するための「訓練・就職活動」の⽀援をおこなう障害福祉サービスの一つです。(厚⽣労働省の許認可事業) 就職とは人生の目的を実現するための通過点です。自分の「なりたい」姿を見つけ、障害特性への対策と自分の能力を活かす「できる」ことを学び、社会人として長く働くために「やるべき」ことを身に付ける。 「なりたい」「できる」「やるべき」の 3 つが重なりあうところに仕事の「やりがい」が生まれると、私たちは考えています。 ご相談は無料です。フリーダイヤル、または、24 時間受付のお問い合わせフォームにて、お気軽にお問い合わせください(ご本人様からだけでなく、当事者のご家族の方や、支援をおこなっている方からのご相談も受け付けております)。 お電話(0120-802-146)はこちら▶ お問い合わせフォームはこちら▶ また、全国各地のディーキャリアでは、無料の相談会や体験会も実施しています。 全国オフィス一覧はこちら▶ 就労移行支援事業所ディーキャリアは、「やりがい」を感じながら活き活きと働き、豊かな人生を目指すあなたを全力でサポートします。お一人で悩まず、まずはお気軽にご相談ください。
大人の発達障害×職場のコミュニケーション|対策と練習法

「職場でのコミュニケーション課題」について特性に応じた対策や練習法を紹介。ストレスを軽減し、自信を持って働くためのヒントをお伝えします。

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「職場での人間関係がうまくいかない…」「話すのが苦手で、うまく意思疎通ができない…」「指示を理解できないことがあり、ミスが多い…」 そんな悩みを抱えていませんか? 職場では、業務スキルだけでなく「コミュニケーションスキル」が求められるものです。しかし、発達障害の特性によって、雑談が苦手だったり、自分の考えを相手に伝えることや相手の意図を読み取るのが難しかったりすることで、仕事に必要なコミュニケーションが円滑にいかないことがあります。 「報告がうまくできない」「会話がかみ合わない」「言いたいことがうまく伝わらない」といった困りごとが続くと、職場での評価に影響が出たり、周囲との関係にストレスを感じたりすることもあるでしょう。その結果、仕事に自信が持てず、強い不安やストレスを感じてしまうことも少なくありません。 本記事では、発達障害のある方が職場で直面しがちなコミュニケーションの課題を整理し、特性に合わせた対策を紹介します。また、コミュニケーションスキルを向上させるための具体的なトレーニング方法や、職場での合理的配慮の活用についても解説していきます。 発達障害の特性を理解し、自分に合った対策やトレーニング方法を見つけることで、職場でのストレスを減らし、自信を持って働けるようになるきっかけになれば幸いです。 執筆者紹介 小鳥遊(たかなし)さん 発達障害やタスク管理をテーマに、2021年まで会社員、2022年からフリーランスとして活動している。 発達障害(ADHD)当事者。主に発達障害や仕事術をテーマとするweb記事を執筆。2020年に共著「要領がよくないと思い込んでいる人のための仕事術図鑑」(サンクチュアリ出版)を執筆し発行部数は10万部を超える。 また、就労移行支援事業所でタスク管理等に関する定期プログラムやセミナー等を実施。企業や大学等での講演、個人/法人のタスク管理コンサルティングもおこなっている。 [toc] ビジネスにおけるコミュニケーションスキルの必要性 職場におけるコミュニケーションの役割 どの職場でも多かれ少なかれ、社内外でのコミュニケーションが発生します。特に、報告・連絡・相談という、それぞれ最初の一文字を取って「報連相(ホウレンソウ)」と呼ばれるスキルは、ほとんどの仕事において必要と言えるでしょう。 例えば事務職の場合、いくらExcelで複雑な表を作成できたり、PowerPointですぐに資料を作ることができたとしても、上司や同僚と内容をすり合わせたり、完成後に報告をしなければ、仕事の評価を得ることは難しいでしょう。 どんな仕事であっても、組織の一員として働くためには最低限のコミュニケーションスキルは必要不可欠です。実際、今も昔も、多くの企業の人事担当が採用時に重視するポイントのひとつに「円滑なコミュニケーションがとれること」があげられています。 職場でよくあるコミュニケーションの課題 その一方で、職場でのコミュニケーションの苦手に悩む方は少なくありません。特に、発達障害のある方は以下のような課題を抱えがちではないでしょうか。 指示を正しく理解できず、誤った作業をしてしまう 相談をすることが苦手で、トラブルを抱えこむことがある 意見を伝えたり説明したりするのが苦手 相手の話に集中することができず、聞き洩らしが多い 相手や場面に応じたコミュニケーションが取れない 考えがまとまるまで報告を先送りする こうしたコミュニケーションの問題は、仕事の質に直接影響を与えるだけでなく、職場の人間関係にも悪影響を及ぼします。 コミュニケーションがうまくいかないと起こるリスク コミュニケーションがうまくいかないと、次のようなリスクが発生します。 ミスの発生:指示を正しく理解できなかったり、確認不足が原因で業務ミスが発生しやすくなる。 チームワークの低下:仕事の進め方や認識がずれてしまい、チーム全体の業務が滞る。 信頼関係の損失:必要な報告や相談がなされず、「頼りない」「協力的でない」と思われる可能性がある。 いずれも、どの職場でも必要とされる「チームで仕事をやっていくための土台」が揺らいでしまう原因となります。もしこれらのリスクがあると判断されれば、いくら業務スキルを頑張って磨いたとしても、なかなか評価されにくいというのが現実ではないでしょうか。 発達障害のある方がコミュニケーションが苦手な理由 ASD(自閉スペクトラム症)の特徴と課題 ASDの特性のある人の中には、「曖昧な表現が理解できない」「相手の気持ちを察することが苦手」「空気を読めない」といった特徴がある人が多く、職場でのコミュニケーションに影響を与えかねません。 筆者はADHDの診断を受けていますが、日々のコミュニケーションを通じて、ASDの傾向もあるのではないかと感じています。そんな筆者が実感するコミュニケーション上の特性としては、以下の3点が挙げられます。 言葉を文字通りに受け取ってしまう 「いい感じに資料をまとめておいて」と言われても、「いい感じって、具体的にどういうこと?」と疑問に思ってしまいます。「いい感じ」という曖昧な言葉を言われても、それが具体的なイメージとして理解できなければ動けないのです。仮に「A4の紙1枚に、要点を3つに絞って箇条書きで書いて欲しい」などと言ってもらえればスムーズに動けます。これは、言葉を文字通りに受け取るという傾向の表れではないかと自分を分析しています。 「いい感じに」や「なるべく早く」など曖昧で抽象的な表現を理解するのが苦手というのはASDあるあるです。 雑談や社交的な会話が苦手 筆者は、野球やサッカーなど自分が興味のない話題になると、とたんに仏頂面になってしまうのだそうです。「だそうです」と伝聞系で書いたのは、自覚していないからです。普通に会話の場に溶け込んでいると思っているのに、「あ、今興味ないでしょ?」と言われて「なんでばれたのだろう」と思うことが多々ありました。これは、雑談や社交的な会話が苦手だと認識していない分、より問題は深いと考えています。 ASD特性のひとつに「興味の幅が狭い(限定されている)」というものがありますが、悪気なくそれが態度に出てしまっているのかもしれません。 相手の表情や空気を読み取るのが難しい 相手が冗談で言ったことを本気だと思い真剣に受け止めてしまう傾向も、筆者にはあります。社交辞令で「今度飲みに行きましょう」と言われたとしても、それを本気に受け取って「じゃあ、いつにします?」とスマホでスケジュールアプリを開いて検討に入ってしまい、「いや、その、まぁまた近いうちに......」とやんわりはぐらかされた経験が多々あります。 「空気が読めない・冗談が通じない」もASD特性の代表的な特徴です。 ADHD(注意欠如・多動症)の特徴と課題 ADHDの特性のある人の中には、「注意の持続が難しい」「衝動的に発言してしまう」といった特徴がある人が多く、これもまた職場でのやりとりに影響を与えます。 筆者はADHDの診断を受けており、以下のようなことがよくあります。 話を最後まで聞かずに反応してしまう 相手の話が終わる前に相手の言いたいことがおよそ予測でき、自分の話をしたい気持ちが抑えられずに、相手の話にかぶせて自分の話を始めてしまう癖が筆者にはあります。よくないことだと分かっているのですが、その場ではうまく制御できないことが多く、あとから反省することしきりです。 ADHD特性の衝動性によって、早合点をしたり、相手の話を遮ってしまったりして失敗をした経験がある方も多いのではないでしょうか。 集中が続かず、指示を聞き逃す 口頭での指示を受けている最中であっても、たとえば周囲の会話に耳が持っていかれてしまうことがよくあります。せっかく上司が説明をしてくれていて、自分でもその説明を理解しようと思っているのに、瞬間的に周囲で話されている会話の方に注意がいってしまうことがよくあります。 「注意力が散漫」はADHDの代表的な特性のひとつです。メモをとっているのに聞き洩らしをしてしまう、とったメモを失くしてしまうというのもあるあるです。 思いついたことをすぐに口に出してしまう 筆者は以前の職場で取引先へ配信する職員インタビューのメルマガを書いていました。そのインタビューをしている際に、「前職では仕事が多くて過労で倒れる寸前にまでなってしまって......」という体験談を話してもらっているときに、「分かる!自分もそういった経験がある!」と共感してしまい、「ええ、自分も同じような体験がありましてね......」と、それから延々と自分語りを始めてしまい、インタビューの流れを止めてしまったことがありました。 つい場面にそぐわない発言をしてしまったり、一方的に話し続けてしまったりした場合でも、ADHD特性によって自分の言動をコントロールできないことがあります。 コミュニケーションのトレーニング方法 コミュニケーションが苦手だと感じる人の中には、そもそも「どのようにしたら円滑なコミュニケーションがとれるのか」が分からない方も多いかもしれません。一方で、コミュニケーションもスキルの一つであり、体系的に学ぶことが可能です。 特に、「何をどう伝えればいいのか分からない」「相手の気持ちを察するのが苦手」「言葉の意図を誤解しやすい」といった悩みを持つ場合、コミュニケーションの基本を知識として学ぶことが有効です。 知識として学ぶ コミュニケーションを学ぶ方法の一つとして、書籍やセミナーを活用することが挙げられます。たとえば、以下のようなジャンルの本を読むことで、基礎を理解しやすくなります。 ビジネスコミュニケーションの本→ 職場での報告・連絡・相談の方法や、上司・同僚との適切な関わり方を学べる。 傾聴スキルの本→ 相手の話を上手に聞く技術を学び、信頼関係を築く力を養える。 会話のロジックを学ぶ本→ 話がまとまらない、伝えたいことが伝わらないといった悩みを解決するヒントが得られる。 大きな書店だと、「ビジネス」「コミュニケーション」といった棚があると思います。お勧めの選び方としては、自分が読みやすそうだと感じる本を選ぶことです。ネットで調べて評判の高い、有名な著者の本を選ぶのも良いですが、まずは自分が取っつきやすいと感じる本から始めるのが良いと思います。 また、書籍だけでなく、コミュニケーションスキルを学べるセミナーも有効です。セミナーでは、講師の解説を直接聞けるだけでなく、ロールプレイやワークショップを通じて実践的に学ぶことができるため、実際の場面に活かしやすくなります。 このような学びを通して、ビジネスマナーや会話の典型的な流れ、よくあるNG行動などを知り、適切な対応を知ることができます。本やセミナーで教わった内容をすべていっぺんにやろうとはせず、できることから1つずつやっていくのが、最短のスキルアップにつながります。 実践的な対策 コミュニケーションスキルを向上させるためには、知識を学ぶだけでなく、実際に練習しながら身につけることも重要です。代表的な対策として、ミラーリング、アクティブリスニングといった手法があります。 ミラーリング ミラーリング(Mirroring)は、相手の言葉や仕草をさりげなく真似ることで、親しみやすさや共感を生む手法です。例えば、 相手:「最近、忙しくて疲れてるんですよね」 自分:「そうなんですね、忙しくて大変なんですね」 このように、相手の言葉を繰り返すだけでも、「話をしっかり聞いてくれている」という安心感を与えることができます。また、相手の姿勢やジェスチャー、話すスピードを自然に合わせることで、無意識に「この人は自分と波長が合う」と感じてもらえる効果もあります。ただし、やりすぎると不自然に感じられるため、さりげなく取り入れるのがポイントです。 アクティブリスニング アクティブリスニング(Active Listening)は、ただ相手の話を聞くだけでなく、適切な相槌や質問を交えて、積極的に会話に関与する方法です。 具体的には、 相手の話を遮らずに最後まで聞く 「それは大変でしたね」「なるほど、面白いですね」といった共感の言葉を入れる 「それって具体的にはどういうことですか?」と質問して話を広げる といった工夫をすることで、相手は「しっかり話を聞いてもらえている」「この人とは話しやすい」と感じるようになります。アクティブリスニングを身につけることで、より円滑なコミュニケーションが可能になり、信頼関係の構築にも役立ちます。 筆者は、特に感情面で共感することが多いので、それを強く打ち出すことが多いです。「それは大変でしたね」という言葉を入れ、「自分も同じような○○ということがあったので、自分なりにですが、分かります」と寄り添う形でコミュニケーションを取ることがよくあります。 特性に合った、自分らしい働き方を見つけるために ここまでコミュニケーションスキルを上げるための方法などをご紹介しましたが、特に発達障害のある方の場合は、そもそも「特性」としてコミュニケーションが苦手であることが多く、いずれも単に知識を得るだけでは足りず、実際の場面で活かすのが難しいことが多いです。 そこで、実践的な方法が必要となります。代表的なものとしては、SST(Social Skills Training)というトレーニングがあります。適切な言葉の選び方や、表情・態度・ジェスチャーを意識しながら会話の練習を行うことで、社会的スキルを上げ、実際の場面での対応力を高めるものです。 例えば、 上司への報告の仕方 初対面の人とのスムーズな会話の進め方 断るときの伝え方 といったテーマごとに、ロールプレイを通じて練習しながら学ぶことができます。「頭では分かっているけど、実際にやるのは難しい」と感じる人にとって、SSTは実践力を養うのに最適なトレーニングです。 このように実際の職場の状況を想定してロールプレイを行い、その結果のフィードバックを受けながら、練習を重ねることで、自分の特性による「苦手」への理解を深めながら、より実践的に活用できるコミュニケーションスキルを身につけられます。 また、それでも克服が難しい場合は、「合理的配慮」として職場に伝える選択肢もあります。障害者雇用枠ではない一般雇用枠でも、診断がある場合には企業に相談をすることができます。 合理的配慮とは、就職先の企業が、障害による業務上の困難を改善・軽減するために必要なサポートを提供することです。 例えば「具体的な指示が欲しい」「周囲の音が気になるので、耳栓の使用を許可して欲しい」「メモを取る時間を与えて欲しい」といった、業務指示の仕方や職場環境の調整などです。どうすれば仕事が円滑に進められるかを企業側と一緒にすり合わせていく必要があります。 その際には、以下のポイントを説明すると、スムーズに交渉が進みます。 障害の特性や症状 特性による業務上の困難や苦手な業務内容 自分自身で取り組む工夫や対策 企業に依頼をしたい配慮内容 企業に「合理的」だとみなされない場合にはサポートを受けられないケースもあるため、どれだけ困っているか・どうすれば解決できるのかを具体的に説明することはもちろん、自分自身で取り組む対策や配慮を受けることでできるようになることを伝えることも大切です。 詳しくは「発達障害のある方の合理的配慮事例|職場コミュニケーション編」でお伝えしています。 特性によって、一人ひとりに合う対策法は異なります。また、性格や働き方の好みによっても、どのような工夫が効果を発揮するかは変わってきます。そのため、自分自身に合った方法を見つけることが重要です。 就労移行支援事業所ディーキャリアでは、働くことで悩みを抱えている発達障害のある方の支援をおこなっています。 就労移行支援事業所とは、障害のある⽅が就職するための「訓練・就職活動」の⽀援をおこなう障害福祉サービスの一つです。(厚⽣労働省の許認可事業) 就職とは人生の目的を実現するための通過点です。自分の「なりたい」姿を見つけ、障害特性への対策と自分の能力を活かす「できる」ことを学び、社会人として長く働くために「やるべき」ことを身に付ける。 「なりたい」「できる」「やるべき」の 3 つが重なりあうところに仕事の「やりがい」が生まれると、私たちは考えています。 ご相談は無料です。フリーダイヤル、または、24 時間受付のお問い合わせフォームにて、お気軽にお問い合わせください(ご本人様からだけでなく、当事者のご家族の方や、支援をおこなっている方からのご相談も受け付けております)。 お電話(0120-802-146)はこちら▶ お問い合わせフォームはこちら▶ また、全国各地のディーキャリアでは、無料の相談会や体験会も実施しています。 全国オフィス一覧はこちら▶ 就労移行支援事業所ディーキャリアは、「やりがい」を感じながら活き活きと働き、豊かな人生を目指すあなたを全力でサポートします。お一人で悩まず、まずはお気軽にご相談ください。
発達障害や鬱で「就活がうまくいかない」苦手感の克服方法

就活がうまくいかず250社落ちた経験のあるADHD当事者が、失敗から学んだ対策法について紹介します。特性理解がポイントです!

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「就職活動、お見送りの連絡ばかりでちっとも内定がもらえない」 「そもそも、選考に通る履歴書や職務経歴書の書き方のコツが分からない」 ADHDの診断を受けた筆者は、上記のような悩みを抱えて就職活動(就活)をおこない、250社落ちました。その経験から、どんな特性がありどんな困りごとがあったのか、その対策を講じるにはどうしたらいいかをお伝えします。 皆さんが少しでも安心した社会生活を送れるよう、この記事がお役に立つことを願っています。 執筆者紹介 小鳥遊(たかなし)さん 発達障害やタスク管理をテーマに、2021年まで会社員、2022年からフリーランスとして活動している。 発達障害(ADHD)当事者。主に発達障害や仕事術をテーマとするweb記事を執筆。2020年に共著「要領がよくないと思い込んでいる人のための仕事術図鑑」(サンクチュアリ出版)を執筆し発行部数は10万部を超える。 また、就労移行支援事業所でタスク管理等に関する定期プログラムやセミナー等を実施。企業や大学等での講演、個人/法人のタスク管理コンサルティングもおこなっている。 [toc] 特性による就活困りごとエピソード ここでは、筆者にある特性や発達障害の特性がある人ならではの就活における困りごとエピソードをお伝えします。 衝動性 ADHDには衝動性という特性があります。筆者においては、「考えたことを口に出さないと気が済まない、思考がつい口をついて出てしまう」という形で表れました。その特性に関連した就活失敗事例をお伝えします。 ①話しすぎ シンプルに面接で話しすぎていました。筆者は1社目を退職した後、半年ほど就活をしました。その半年間に(障害者雇用と一般雇用の求人合わせて)250社近くお見送りをされ、3社から内定をもらいました。その3社の内定は、「あること」に気をつけた途端に連続して獲得することができました。 その「あること」とは、話しすぎないということです。具体的には、「いったん言い終わったら、『これも言った方がいいかも』という内容を付け足さず、ぐっとこらえて相手の反応を見る」というものです。おそらく、付け足しの言葉はかなりの確率で相手にとって無駄なことだったのでしょう。無駄が削ぎ落され、分かりやすく話せるという好印象を面接官に与えた結果、内定につながったのではないかと考えています。 ②思考がそのまま口に出てしまう 大学生のときの話です。ある金融機関に応募したところ、面接前日に面接官を名乗る人から携帯電話あてに着信がありました。出てみると、翌日の面接に成績証明書を持参して欲しいとのこと。前日にいきなりそんな指示をされて少々面食らった私は、「え!?今日の明日ですか!?いきなり言われても用意できないかもしれませんが、とりあえず頑張ってみます」と答えました。 翌日、成績証明書が手に入り「これでどうだ」とばかり面接に臨みました。すると、面接官の態度がとてもそっけなかったのです。結果はお見送りでした。結果の連絡があってから、「あのとき『はい!明日大学で取ってまいります!」と元気よく返事をしていたら、もしかしたらそっけない態度もされず、選考も先に進めたのではないかと思いました。 意に沿わないことを言われても、笑顔で対応することが求められていたのかもしれません。思考をそのまま口にしてしまう傾向がストレートに出てしまったことで、お見送りという結果につながったのではないかと考えています。 知識の偏り 筆者がADHDの診断を受けたとき、臨床心理士から心理検査の結果に関して「知識の偏りがある」と言われました。知識に偏りがあるということは、興味があることについては積極的に行動し知識と経験を蓄積していくのに対して、興味がないことに関しては行動も消極的になり、経験も積めず知識も蓄えられないということです。 大学生のときの話です。同級生は就活をしてある程度経つと何らかの企業から内定をもらうようになりました。一方、筆者は内定が出ずじまいでした。その違いとして筆者が感じたのは、「説得力のある志望動機が言えるかどうか」でした。 同級生は、仮にA社の事業内容について少ししか興味がないにもかかわらず、その自分の興味とA社の事業内容の重なる部分をクローズアップして、「ということで御社に興味を持ちまして......」と言えていたのです。対して筆者は、自己分析や業界研究をあまり深めていなかったこともあり、基本的に一般企業の事業内容に共感もできず興味も持てず、志望動機が言えなかったのです。 それでも無理矢理ひねり出したのですが、社会の荒波に揉まれ人生経験を積んだ面接官が「これは本気で思っていないな」と見抜くのはたやすかったことでしょう。 能力の凹凸の落差 これは厳密に言うと「発達障害の特性」とは違いますが、ある能力は秀でているのに、別のことについてはびっくりするぐらいできないのは、発達障害のある人によくあることです。 とある有名企業の特例子会社の最終面接で、会社の役員の人たちが数人並んでいる中、そのうちの一人から「君はここにくるべき人ではない」と言われてしまいました。筆者は、「物忘れ」「先送り」「自責傾向」「段取り下手」という、どちらかと言うと事務処理に関する能力に自信がなく、逆に人前で話すようなことは大の得意でした。面接ではその筆者の得意がいかんなく発揮されたのです。 普通の面接であれば、好印象を与えて「では合格!」という方向にいきそうなものです。しかし、おそらく逆に「こんなにちゃんとしているのに、なぜ特例子会社で障害者雇用に応募してくるのだろうか」と面接官の人たちは思ったのでしょう。そして出てきたのが、「君はここにくるべき人ではない」という、やんわりとしたお断りの言葉だったのではないかと筆者は思っています。 特性があることによる自信のなさ これも特性自体の話ではありませんが、仕事に支障が出るような特性があるという後ろめたさ・自信のなさを埋め合わせるように譲歩をしてしまっていました。 ①「合理的配慮いりません」 初めて会社というものに入社して(障害者雇用で)働き始めたときの話です。配慮事項を聞かれたとき、「こんな自分を採用してくれたんだから、余計な迷惑を会社にかけていられない」という気持ちから、「合理的配慮をしていただく必要はありません!足りないところがあれば、自分で頑張ってどうにかします!」といった返答をしてしまいました。 ②休みが求人票と違っても受け入れる 上記とは別の会社で、一般雇用で入社したときの話です。求人票では「土日祝日お休み」と書いてあったのですが、内定をもらってから説明を受けたときには、「休みは月9日のシフト休日」と言われたのです。筆者は休日は就職にあたって重要な事項と考えていたため、とても迷いました。しかし、一般雇用で役職つきであり比較的高めの給与であったこと、何より「これを逃したら、これ以上の条件で就職できないのではないか」という自信のなさから、その条件を受け入れてしまいました。 こういった特性をあらかじめ知った上で就活をしていれば、250社も落ちなかったんじゃないかと筆者は今になって思います。 特性を知る方法 ここでは、特性を知る方法について、筆者の経験談も交えてお伝えします。 就活サポートの事例から 就労移行支援事業所ディーキャリアの就職サポートの事例で、卒業生の方がこのように振り返っています。 発達障害のある方が長く働くためには、自分の特性について知ることがとても大切だと考えています。 自分にどのような特性があるかを知って、どのように具体的に対策をすればよいかを知ることで、働きやすくなると思います。 面接のときにも、自分の障害のこと・特性への自己対処法・企業に求める合理的配慮を自分で説明する必要があり、自己理解の度合いが採用の合否にも影響することもあるそうです。 事業所によって支援実績のある障害種別が違うので、自分の障害にあった事業所で、自己理解とセルフケアを学ぶのがおすすめです。 筆者が特性を知った経緯 筆者が初めて就活をしたのは、今から10数年前、2007年のことです。その頃は就労移行支援というものを筆者は知らず、ひとりで就職活動をしていました。そもそも、障害者の就労を支援するいわゆる就労移行支援という制度は2006年に施行された「障害者自立支援法」に基づいたものなので、知らなくても無理はありません。 ひとりで障害者雇用の求人票を見てはハローワーク経由で連絡し、ひとりで履歴書などの書類を作って提出し、面接を受けるという流れを半年程繰り返して1社目で働き始めます。そのプロセスには、自分の特性を知る機会はほぼありませんでした。 それからどのようにして特性を知ったのかというと、「ただひたすら失敗やしくじりを繰り返して経験し、自分の特性や弱みを身をもって思い知った」というのが筆者が一番しっくりくる言い方です。 この「特性の知り方」は確実です。間違いなく、自分の特性を知ることができます。しかし、時間がかかります。筆者は、2007年に会社での勤務を開始してから、明らかに自分の特性を把握しているなと実感できるようになるまで7年かかりました。また、業務での失敗やそれが重なっての休職や退職という精神的にダメージを受けることを何度も繰り返すことになるので、リスキーでもあります。 早く安全に特性を知る方法 筆者の例よりも早く安全に特性を知る方法があります。それは、第三者からの意見に耳を傾けることです。自分の特性を知ることは、多くの場合自分の弱点や苦手なことを洗い出すことになります。そういった作業は、自分ひとりではなかなかできません。家族や友人など親しい人から聞きだすのもありかもしれません。 もちろん、特性を知る手がかりとして自己分析をおこなうのも大いにありえます。自己分析の方法は、こちらにくわしく説明してありますので、ご参照ください。 ただ、「①特性を知る」ことができたとしても、そのための「②自己対処法の習得や企業に求める合理的配慮などの洗い出し」をして、その上で「③応募書類の作成や面接対策」をすることが必要になってきます。 筆者は、上記で挙げた就活では、①と②はほぼできておらず、③を自治体などが提供する就労サービスを利用しておこなったのみでした。その結果が250社のお見送りだったり、せっかく就職しても辞めることになったりということになりました。もし①から③をワンストップでサポートを受けることができたら......と思わずにはいられません。 「自己対処法や合理的配慮の洗い出し」、それと「就活」について 以上のように、障害当事者として就職するには、「特性を知る」に加えて、「自己対処法や合理的配慮の洗い出し」「就活(応募書類の作成や面接練習など)」という2点も重要だと筆者は考えています。 自己対処法や合理的配慮の洗い出しについて ①自己対処法の洗い出し 仕事をする上で起こる困りごとに対して、自分ができることを考えて洗い出しをおこないます。その多くは、「忘れないように書きとめるメモ帳を常に持っておく」「仕事上の書類が行方不明になったり紛失しないように、スキャンしてデータ保存する」といった小さな工夫であることが多いです。 「なんだ、そんな些細なことか」と思うかもしれません。しかし、筆者の経験上、「そんな些細なこと」だから、習慣化するのが難しく、自己対処のハードルを上げてしまうのです。1つ1つ確実に実行していって、自分なりの対処法を身に付けていく姿勢が大事です。具体的にどのような自己対処法があるかについて、以下の記事も参考にしてください。 筆者のおこなった自己対処法については、以下の記事に詳しく書いてあるので、よろしければご覧ください。 ②合理的配慮の洗い出し 自己対処をするにも限界があります。それでも対処できないのであれば、企業側に配慮してもらうよう理解を求めることになります。それが「合理的配慮」です。合理的配慮の基礎知識は以下の記事にまとめられているのでご紹介します。 また、特性を知るところから、自己対処法の洗い出しを経て、企業へ求める合理的配慮を決めるところまでを分かりやすくまとめた記事もあります。こちらをお読みください。 筆者は、これまでに3社の就労経験があります。1社目と3社目が障害者雇用で、合理的配慮を申請しました。1社目は前述の通り「合理的配慮無しで良いです!」と伝えました。3社目については、特性も理解し、自己対処法も確立していたこともあり、1つに絞ってシンプルに伝えることができました。それは「怒らないでください」というものです。 自責傾向が強く、また度重なる失敗やミスにより自己肯定感が低くなっていた筆者は、とにかく叱責を受けることが何より精神的ダメージを受けるものでした。怒られ終わった後も、自分による自分へのダメ出しが続き、心理的に勝手に自分を追い込んでしまうのです。その結果、仕事が手につかず、また新たなミスを誘発してしまうことも多々ありました。 そういったことにならないよう、「一点だけお願いします。怒らないでください。改善すべき点があれば、冷静に指摘するという形にして欲しいです」と、社長面接で合理的配慮を聞かれた筆者は伝えました。 ただ、「怒らないで欲しい」とは、人によっては受け入れがたい話かもしれません。そこで筆者は、仕事の進め方(タスク管理)を活用して仕事についてはしっかり責任を持ってやるという自己対処法もセットで伝え、「自分でできる限りのことはやります。それでも対処が難しいところだけはお願いします」と伝えるようにしました。 「就活」について 志望企業を選んだり、面接対策や応募書類添削などをおこなう、いわゆる「就活」については、先にご紹介した就労移行支援事業所ディーキャリアの卒業生がこのように振り返っています。 自分の経歴は変えられない中で、どう書類でまとめればよいか・離職期間や転職の回数についてどう説明すればよいかをアドバイスしてもらえたことがよかったです。離職期間が長かったり、転職回数が多い方には、就労移行支援のフォローをもらうことがおすすめです。 障害者雇用枠での就職活動は、自分の障害のことや必要な配慮事項を伝えなければなりません。自分の言葉で説明するのが難しかったので、応募書類の作成や面接練習などのサポートはありがたかったです。 自分に合う求人を一緒に探してくれたり、面接に同席をしてくれたりしたことも心強かったです。 「就活」については、以下のページをお読みいただくと、より具体的にご理解いただけます。 必須とも言える第三者によるサポート 特性を知ることも、自己対処法や合理的配慮の洗い出しも、そして具体的に就活をおこなう際にも、いずれも第三者のサポートは必須ではないかと筆者は考えています。筆者はすべてをほぼ自分のみでやりましたが、せっかく就職してもうまくいかなかったり、そもそも特性の理解ができていなかったり、自己対処法や合理的配慮の洗い出しをするということすら考えが至りませんでした。 さらに、これら3点がすべて揃って就職までこぎつけるのに、数年の時間がかかりました。逆にサポートがあれば、そんなにかからなかっただろうと筆者は考えています。3点をまとめてサポートしてくれる上に、志望する企業へ就職するために必要なスキル習得の訓練もできるのが、就労移行支援事業所です。 就労移行支援事業所ディーキャリアでは、働くことで悩みを抱えている発達障害のある方の支援をおこなっています。 就労移行支援事業所とは、障害のある⽅が就職するための「訓練・就職活動」の⽀援をおこなう障害福祉サービスの一つです。(厚⽣労働省の許認可事業) 就職とは人生の目的を実現するための通過点です。自分の「なりたい」姿を見つけ、障害特性への対策と自分の能力を活かす「できる」ことを学び、社会人として長く働くために「やるべき」ことを身に付ける。 「なりたい」「できる」「やるべき」の 3 つが重なりあうところに仕事の「やりがい」が生まれると、私たちは考えています。 ディーキャリアは、就労へ向けて以下4点においてサービスを提供しています。 「就労準備性」の向上就労するうえで必要な心身の健康管理(生活リズムの安定、通院・服薬等)、ビジネスマナーの習得、コミュニケーションスキル・実務スキルの習得等をおこないます。 自分の障害特性への対処法の習得障害理解を深め、自己対処法の習得、必要な合理的配慮の洗い出しをおこないます。 「自分らしい"働き方"」の探求業界職種はもちろん、一人ひとりに合った「働き方(障害者雇用or一般雇用、給与、職場環境、勤務時間等)」をスタッフに相談しながら決めることができます。 就職サポート応募書類の添削や、面接練習、キャリア相談などを通して、就職に至るまでの「就活」をサポートします。具体的には以下をご参照ください。 具体的には以下をご参照ください。 ご相談は無料です。フリーダイヤル、または、24 時間受付のお問い合わせフォームにて、お気軽にお問い合わせください(ご本人様からだけでなく、当事者のご家族の方や、支援をおこなっている方からのご相談も受け付けております)。 お電話(0120-802-146)はこちら▶ お問い合わせフォームはこちら▶ また、全国各地のディーキャリアでは、無料の相談会や体験会も実施しています。 全国オフィス一覧はこちら▶ 就労移行支援事業所ディーキャリアは、「やりがい」を感じながら活き活きと働き、豊かな人生を目指すあなたを全力でサポートします。お一人で悩まず、まずはお気軽にご相談ください。
【発達障害当事者が解説】職場に発達障害を隠すとどうなる?

障害者雇用と一般雇用の両方で就労経験がある筆者が、自身の体験談を交えながら、障害開示をするメリットとデメリットをお伝えします。

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  • #クローズ就労
  • #オープン就労
「発達障害を隠して働いているが、問題ないのか」「診断がある場合は、障害者雇用枠で働かないといけないのか」「発達障害があることが、会社にバレてしまうことはあるのか」 発達障害があることを職場に言わずに働いている(以下表②)場合、「自分の障害のことが知られてしまうのではないか」「知られたら辞めさせられるのではないか」という不安がつきまとうのではないでしょうか。 <発達障害のある人の働き方> No雇用枠障害のオープン/クローズ①障害者雇用枠オープン(障害を開示)②一般雇用枠クローズ(障害を非開示)③一般雇用枠オープン(障害を開示) 発達障害のある人の働き方に関する基礎情報と体験談は以下のコラムでもお伝えしています。あわせてお読みください。 発達障害の1つであるADHDの特性のある筆者は、上記①②③いずれも経験があり、一般雇用枠でのクローズ就労のときは、自分の障害がバレてしまうのではないかと考えてヒヤッとしたことがあります。そんな経験談も交えながら、「発達障害の診断が出ているが、会社に言わないとどうなる?」と気になっている方々へ、一般雇用枠でのクローズ就労のメリットとデメリット・発達障害当事者としての働き方についての考えをお伝えします。 皆さんが少しでも安心した社会生活を送れるよう、この記事がお役に立つことを願っています。 [toc] 執筆者紹介 小鳥遊(たかなし)さん 発達障害やタスク管理をテーマに、2021年まで会社員、2022年からフリーランスとして活動している。 発達障害(ADHD)当事者。主に発達障害や仕事術をテーマとするweb記事を執筆。2020年に共著「要領がよくないと思い込んでいる人のための仕事術図鑑」(サンクチュアリ出版)を執筆し発行部数は10万部を超える。 また、就労移行支援事業所でタスク管理等に関する定期プログラムやセミナー等を実施。企業や大学等での講演、個人/法人のタスク管理コンサルティングもおこなっている。 障害を伝えずに働くことは可能です! まず第一にお伝えしたいのは、「障害を伝えずに働くことは可能」だということです。障害があったら、それを必ず伝えなければいけないと考える必要はありません。また、こちらから言わなければ、原則的に会社は知ることはありません。 また、仮に自分の障害が会社に知られたとしても、「障害がある」という理由だけで解雇する権利は会社にはありません。障害者雇用促進法第35条では、障害者であることを理由に不当な差別的取り扱いをしてはならないと定められています。 障害者雇用促進法 第35条事業主は、賃金の決定、教育訓練の実施、福利厚生施設の利用その他の待遇について、労働者が障害者であることを理由として、障害者でない者と不当な差別的取扱いをしてはならない。 したがって、まずは「障害が知られても不当な扱いは受けないと制度的に保障されている」と安心していただければと思います。 障害を開示せず一般雇用枠で働くメリット そもそも、なぜ「一般雇用枠で」「障害を開示しない」クローズ就労で働くという選択肢があるのか考えてみたいと思います。 なお、冒頭でご案内したとおり、一般雇用枠でオープン就労をするという選択肢もあります。ただし、多くの場合は「一般雇用枠でクローズ就労」か「障害者雇用枠でオープン就労」のどちらかを選ぶことになるため、今回はこの2つを対比させながら考えていきたいと思います。 給料が高い 障害者雇用枠で障害を開示して働くオープン就労に比べて、一般雇用枠で障害を開示せず働くクローズ就労の方が、給料が高い傾向があります。 オープン/クローズの就労タイプ別に特徴などを図にまとめてみました。会社によって雇用条件や業務内容はさまざまですが、一般的にこのような傾向があると理解して良いと思います。 就労タイプ特徴筆者の経験事例給料障害者雇用枠オープン就労障害特性への配慮の面から、比較的負荷の低い業務が中心書類のPDF化郵便物の集配など低め一般雇用枠クローズ就労負荷が高く責任が重い業務も担う全国の社用車の配置案株主総会準備など高め キャリアパスが豊富 また、一般雇用枠のクローズ就労は、負荷の低い業務から負荷の高い業務まで幅広くこなすのが想定されるため、「将来どんな仕事をしたいか」について、より多くの選択肢があることが多いです。 それに対して、負荷の低い業務のみを担当することが多い障害者雇用枠のオープン就労では、より負荷の高い業務を行なうポジションにステップアップすることは難しいのではないでしょうか。 より多くの業務をこなせるようになるのは、将来的に自分の価値を高めることにつながります。その点で、一般雇用枠のクローズ就労にはメリットがあると考えられます。 このように、一般雇用枠でクローズ就労をするメリットとして、「給料が比較的高いこと」「キャリアパスが豊富であること」があると言えそうです。 障害者雇用枠では高い給与や豊富なキャリアパスは不可能? なお、近年では、これまでの実務スキルや知識を活かし、一般雇用枠と同様の業務を担当し同等の給与をもらえる障害者枠求人も増えてきました。また、スキルや知識がなくても、積極的に多くの仕事をしたいと伝えれば色々やらせてもらえる職場も、まれにですがあります。 筆者も、1社目の会社で、障害者雇用枠で採用されたものの、当初求人票に書かれていた業務以外の仕事を多くするようになった経験があります。しかし、その結果「あの人は普通に仕事を振っても大丈夫」と思われて、どんどん仕事が増えていつしかコントロールが効かなくなってしまい、負荷に耐えきれず筆者は休職することになってしまいました。 障害者雇用枠で働きながらも、一般雇用枠と同様の業務を担当し同等の給与をもらえるようになるためには、体調管理や業務量の管理、きちんと障害特性への配慮が受けられるような環境でいられるかなどについて相当気を付けなければならず、まだまだ課題があると言えます。 障害を開示せず一般雇用枠で働くデメリット それでは、障害を開示しないクローズ就労で働くデメリットについて考えてみたいと思います。 障害が知られないか不安になる 障害があることを言わずに働いていると、常に「知られてしまうのではないか」と不安に駆られながら働くことになります。このプレッシャーは無視できません。「こちらから言わなければ、会社側は障害の事実を知ることはない」と前述しましたが、意図せず知られてしまう例外があります。3つほど具体的な事例を挙げてみます。 障害者控除の申請会社で毎年配られる年末調整の書類に障害者控除記入欄がある。会社の労務などの担当者がチェックするので、その際に知られる場合がある。障害年金・傷病手当金の申請障害年金が支給されているときに、重ねて傷病手当金の申請をする場合、障害年金の受給の事実を記載する必要がある。傷病手当金は会社を通して申請するので、その際に知られてしまうことがある。健康診断問診で精神科で処方された薬を服用していると回答した場合、それが会社側に伝わることがあります。その薬がどんな病状のときに処方されるかを調べられたら、それによって障害が知られる可能性がある。 障害がバレるかもしれなかった筆者の事例 障害があることが知られる場面は他にもあります。1社目に障害者雇用枠でオープン就労をし、2社目に一般雇用枠でクローズ就労に転職をした筆者がヒヤッとした事例をご紹介します。 1社目の休職中、給与が出ない代わりに傷病手当金の支給を受けていた筆者は、休職してそのまま退職となったため、1社目の最後の数か月は「給与ゼロ」でした。そのため、1社目の源泉徴収票の年収や所得の欄には、ありえないくらい低い額が記載されていました。 2社目の年末調整には1社目の源泉徴収票を提出しなければいけないことが分かり、筆者は気が気ではありませんでした。源泉徴収票を確認され、「どうして年収がこんなに低いのですか?」と訊かれたら、障害があること、その影響から仕事がうまくいかなくなって休職したことを話さないといけないと考えたからです。 2社目の入社面接の最後に「心身ともに健康ですか?」と面接官に質問されたときのことが思い出されました。その際、「発達障害が影響して二次障害を起こして休職したのだけど、それは健康と言えるのだろうか?」と一瞬疑問がよぎったものの、ここで言いよどんでしまうと入社に支障が出るのではないかと思い、「はい」とだけ返答しました。 面接で「心身ともに健康」と伝えておきながら、実はその数か月前まで休職していましただなんて言えない。そう思うと、隠していたことがバレてしまってとがめられるのではないかと内心不安でいっぱいでした。 しかし、話さずに済みました。2社目の入社が12月半ばだったので、すでに社内の年末調整の手続きは終わっており、「年末調整の手続きはもう終わってしまったので、自分で確定申告をしてください」と言われたのです。その結果、源泉徴収票を見られることはなかったのでした。 結果的に何もなかったものの、「障害が知られてしまうかもしれない」という不安を抱きつつ仕事をするのは、精神的に結構プレッシャーがかかるものです。無いに越したことはありません。 配慮が受けられない 障害を開示しないので、合理的配慮も受けられないということになります。発達障害のある人が配慮なしに仕事をするのは、相当負荷のかかることです。 厚生労働省が令和2年に発表した|障害者雇用の促進について 関係資料」によると「一般求人障害非開示=一般雇用枠でクローズ就労」で就職した場合の職場定着率は1年で30.8%とかなり低いというのが現状です。一方で「障害者求人」の場合には70.4%と比較的高い定着率となっています。 障害を開示して配慮を受けられる方が、障害を開示せず配慮を受けられない方よりも、圧倒的に定着率が高いのです。 配慮が受けられない環境に耐えきれなかった筆者の事例 筆者は、前述した通り2社目は一般雇用枠でクローズ就労、つまり配慮なしに仕事をする状況でした。結果、1年強で仕事が続けられなくなり休職を余儀なくされました。 締切は守れない、チェックミスを連発する、やるべきことが溜まりすぎてどれから手をつければ良いか分からない。そういったことが日常茶飯事になると、次第に頭が働かなくなってきます。 「頭が働かなくなる」→「仕事上でミスをする、仕事が溜まる」→「より頭が働かなくなる」という悪循環に陥り、「自分は職場にいていいのか」と自己嫌悪にさいなまれるようになっていきました。職場のデスクで昼食を取るのもできなくなり、昼休みになると逃げるように職場近くのレストランやカフェに行くようになりました。 発達障害は外から見て分かる障害ではありません。したがって、より働きやすくなるためには、自分の障害のことを説明して、配慮を求める必要があります。しかし、一般雇用枠でのクローズ就労は、それができません。 そういったこともあり、自己嫌悪がさらに悪化して、「どうせ自分は仕事がちゃんとできない」と思い込むようになってしまい、出社するのが怖くなり、仕事をするどころの精神状態ではなくなって休職をすることになってしまいました。 解雇につながることも また、配慮が受けられない環境は、思った以上に簡単に自分を追い詰めてしまいます。単に「仕事がつらい」だけではなく、解雇されてもしかたがない・解雇理由ありとされるような状況に陥ることもあるのです。 解雇理由は、会社が自由に従業員を解雇できないよう就業規則に定めておかねばならないとされています。厚生労働省が公開している就業規則のひな形では、解雇理由として、次のような事項などが列挙されています。 精神又は身体の障害により業務に耐えられないとき 正当な理由なく無断欠勤が●日以上に及び、出勤の督促に応じなかったとき  正当な理由なく無断でしばしば遅刻、早退又は欠勤を繰り返し、 ●回にわたって注意を受けても改めなかったとき 就業規則に明記された解雇理由に該当しなければ、解雇されることはありません。しかし逆にいえば、該当したら解雇される可能性があるという点、注意が必要です。 筆者は解雇された経験はありませんが、そうなってしまう一歩手前までいったと感じています。前述の通り、出社するのが怖くなると、「休みます」の連絡さえ難しくなります。その状態がエスカレートすれば、「無断で長期にわたり欠勤をする」ことにつながりかねませんでした。 「自分に合った働き方」を 以上、障害を開示せず一般雇用枠で働くメリットとデメリットを見てきました。それを踏まえて、「発達障害の診断が出ているが、会社に言わないとどうなる?」と気になっている方々へお伝えしたいことをまとめました。 今、一般雇用枠でクローズ就労をしている方へ 今現在、障害を開示せずクローズ就労をしている方、繰り返しになりますが、「障害を伝えずに働くことは可能」です。障害特性による苦手があったとしても、働くにあたって支障がないのであれば、会社・チームにとって頼りになる存在になっているはずです。自信を持って仕事を続けてください。 もし、仕事をやるにあたって困りごとがあり、しんどさを感じているのであれば、それは自分からの大事なシグナルです。無理せず、仕事の負荷を減らしたり、ちょっとお休みをしたりといったアクションをするのをお勧めします。 そんなとき、「本当なら毎日きちんと仕事ができて当たり前なのに、なんて私はダメなんだ」と思ってしまうかもしれません。その必要はありません。自分に合った「仕事のやり方」「対処法」に工夫の余地があるだけだ、と考えてみてください。 ただ、自己対処を尽くしても、どうしても仕事が続けられないということもあるかもしれません。その場合は、休職するなり退職するなりいったん職場から離れて自分に合った働き方を考え直してみるのも、長い目で見ればありです。 一般雇用枠でクローズ就労したいが迷っている方へ 迷っているということは、障害特性が仕事上に影響が出てしまうことを危惧されているのだと思います。そんな方は、いったん特性に配慮してもらいやすい障害者雇用枠でのオープン就労も選択肢の一つです。もちろん、障害者雇用枠は給料などの条件が低めに設定されていることが多いですが、それを差し引いても、「働きやすい職場」「長く働ける職場」での就労をまずは優先しても良いのではないでしょうか。 筆者は、待遇や条件面を理由に一般雇用枠のクローズ就労を選んだところ、前述したとおり1年ちょっとで就労を継続するのが難しくなってしまいました。そういった経験からも、事情が許す限り、まずは障害者雇用枠のオープン就労の検討から始めるのが現実的だと考えます。 とはいえ、給与の高低は見逃せない問題です。そこで、人によってはオープン就労で「働くこと」自体に慣れてきたらクローズ就労への転職を考えてみるといった計画性を持ってキャリアプランを立てるのもありです。 同じ会社で障害者雇用枠から一般雇用枠へ移行することも 冒頭で簡単に触れさせていただきましたが、「障害を開示しつつ一般雇用枠で働く」という選択肢もあります。 筆者は、同じ会社で「障害を開示して、障害者雇用枠のオープン就労で働き始める」→「一般雇用枠のオープン就労へ移行して継続して働く」という経験をしています。もちろん、スムーズに話は進むとは限りませんが、そんな例もあると知っておいても損はないと思います。 その会社は、障害があったとしても働きぶりが一般雇用の方と同等であれば、差は設けていませんでした。また、その会社で働いているあいだ、役職も付いて手当もつき、昇給もありました。 筆者にとってよかったのは、障害者雇用枠で働き始めた際に申し出た配慮事項が、一般雇用枠へ移行した後でもそのまま継続されたことです。筆者の配慮事項は、強い調子で叱責をされると必要以上に自分を責めてしまい頭の中が真っ白になって仕事にならないことから「怒らないで欲しい。改善すべきところがあれば、冷静に『提案』して欲しい」というものでした。 もちろん、どんな配慮事項も一般雇用枠でも受け入れられるとは言えませんが、「怒らない」というのは実行しやすい配慮であることもあり、職場で受け入れられる「円滑に仕事を進めるために業務上必要なこと」と認められたのだと筆者は推測しています。ちなみに、一般雇用枠であったとしても合理的配慮を依頼することができます。ただし、会社との話し合いのうえで「合理的」だと判断されるかどうかによります。詳しく「合理的配慮」について知りたい方は以下のコラムもあわせてお読みください。 余談になりますが、そもそもなぜ障害者雇用枠から一般雇用枠になったのかご説明をしたいと思います。それは筆者の「忘れっぽい」というADHD特性がいかんなく発揮されてしまい、障害者手帳の更新を忘れてしまったからです。意図せず移行してしまいましたが、それでも就労を継続させてくれた会社には感謝しかありません。 自己理解にもとづいた「配慮事項の明確化」「自己対処」が大切 障害者雇用枠/一般雇用枠、オープン/クローズ就労のどの働き方をするにしても、自分に合った働き方を探す上で、自分の特性をしっかり理解し、必要であれば配慮事項を明確に伝えられ、特性に対して自己対処ができて求められる成果をあげられることは、その選択肢を広げるという意味でプラスになります。 筆者は、仕事が膨大であっても精神的に落ち着いて取り組める「タスク管理」というスキルで自己対処ができ、それでも配慮して欲しい点として「怒らないで(強い調子で叱責しないで)欲しい。改善すべきところがあれば、提案という形でお願いしたい」と明確に打ち出すことができました。 しかし、配慮事項を明確にし、自分なりの自己対処法を身に付け、長期的に継続できる自分なりの働き方を探すのは、自分一人でおこなうには難しく、膨大な手間がかかってしまうでしょう。 そんなときは、自分一人で悩んだり、余計に手間をかけたりしてしまうよりも専門家の手を借りることも検討してみましょう。 就労移行支援事業所ディーキャリアでは、働くことで悩みを抱えている発達障害のある方の支援をおこなっています。 就労移行支援事業所とは、障害のある方が就職するための「訓練・就職活動」の支援をおこなう障害福祉サービスの一つです。(厚生労働省の許認可事業) 就職とは人生の目的を実現するための通過点です。自分の「なりたい」姿を見つけ、障害特性への対策と自分の能力を活かす「できる」ことを学び、社会人として長く働くために「やるべき」ことを身に付ける。 「なりたい」「できる」「やるべき」の 3 つが重なりあうところに仕事の「やりがい」が生まれると、私たちは考えています。 もちろん、今の時点でサービスを利用する目的を決めていなくても大丈夫です。 「まだやりたいことが決まっていない、将来のビジョンが見えていない」「何を目的にサービス利用をすべきかイメージが湧かない」「自分に合っているか分からない」 …と悩んでいる方も安心してお問い合わせください。一人ひとりのご状況や困りごとをヒアリングしながら、ご提案をさせていてだきます。 ご相談は無料です。フリーダイヤル、または、24 時間受付のお問い合わせフォームにて、お気軽にお問い合わせください(ご本人様からだけでなく、当事者のご家族の方や、支援をおこなっている方からのご相談も受け付けております)。 お電話(0120-802-146)はこちら▶ お問い合わせフォームはこちら▶ また、全国各地のディーキャリアでは、無料の相談会や体験会も実施しています。 全国オフィス一覧はこちら▶ 就労移行支援事業所ディーキャリアは、「やりがい」を感じながら活き活きと働き、豊かな人生を目指すあなたを全力でサポートします。お一人で悩まず、まずはお気軽にご相談ください。
【発達障害当事者が解説】発達障害者のためのマルチタスク対処法

マルチタスクに苦手意識のあった発達障害当事者が、特性をカバーするために編み出した「タスク管理」テクニックを紹介します。

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  • #合理的配慮
  • #自閉スペクトラム症(ASD)
  • #注意欠如・多動症(ADHD)
「仕事が溜まってしまって、どれからやればいいか分からない」「複数の仕事を同時進行するのが難しい」 発達障害、特にASDやADHDのある人は、複数の仕事が目の前にある状態、いわゆる「マルチタスク」に苦手意識を持ちがちではないでしょうか。一方で、現代では、たくさんの仕事を効率よくこなすことが要求されがちです。 発達障害のADHDのある筆者は、自らの特性をカバーする目的で編み出した「タスク管理」をメインに、マルチタスクへの苦手感を大幅に払拭できました。その経験から「発達障害者はいかにマルチタスクに対処すべきか」についてお伝えしたいと思います。この記事が、特性による困りごとのある皆さまにとって「働きやすくなるためのヒント」になることを願っています。 [toc] 執筆者紹介 小鳥遊(たかなし)さん 発達障害やタスク管理をテーマに、2021年まで会社員、2022年からフリーランスとして活動している。 発達障害(ADHD)当事者。主に発達障害や仕事術をテーマとするweb記事を執筆。2020年に共著「要領がよくないと思い込んでいる人のための仕事術図鑑」(サンクチュアリ出版)を執筆し発行部数は10万部を超える。 また、就労移行支援事業所でタスク管理等に関する定期プログラムやセミナー等を実施。企業や大学等での講演、個人/法人のタスク管理コンサルティングもおこなっている。 なぜ発達障害者はマルチタスクが苦手なのか まずは、発達障害者、特にASD/ADHDのある人がマルチタスクへ苦手感を持つ理由をご説明したいと思います。 ASDのある人がマルチタスクが苦手な理由 ASDのある人がマルチタスクに対して苦手感を持つのは、次の2つの傾向が大きく関わっています。 シングルフォーカス特性一度に注意を向けられる範囲が狭くなる。興味関心の幅が狭くなりがち。シングルレイヤー思考一度に一つの情報しか処理しにくい。複雑な状況の理解が難しく、明記されていないルールを自然と読み取ったり、物事の「裏」を察したり、といったことが苦手になる。優先順位がつけにくくなる。 マルチタスクな職場では、この2つの傾向があるとなかなか難しいです。 ADHDのある人がマルチタスクが苦手な理由 ADHDのある人がマルチタスクに対して苦手感を持つのは、次の傾向が大きく関わっています。 ワーキングメモリーの弱み脳の一時的な記憶の置き場であり、作業場でもあるワーキングメモリーの機能低下により、臨機応変な対応が難しくなったり、不注意が起こりやすくなったりする。聞いたことや考えたことを一時的に頭にとどめたままで整理することが難しい。複数の作業を同時に進めることが難しい。集中し続けることや、注意し続けることが苦手。複数のことに目を配れない。など。 特に「聞いたことや考えたことを一時的に頭にとどめたままで整理することが難しい」「複数の作業を同時に進めることが難しい」「複数のことに目を配れない」といった傾向は、常に複数の仕事を抱える状況だと、困りごとを生みやすくなります。 ※上に挙げた話の詳細は、大人の発達障害とはでご説明しています。ぜひ参考になさってください。 そんなASD/ADHDのある人は、「マルチタスクな職場」にどう対応していけば良いのでしょうか。 マルチタスクへの対処法 そもそも、マルチタスクを避けられればそれに越したことはありません。ASDやADHDの人によくみられがちな「反復作業が得意」「興味のあるものへの高い集中力」といった傾向を生かせる、単純作業のみ求められる仕事に就くことができれば、しっかりと自分のパフォーマンスが発揮できることでしょう。 ただ、仕事が複雑化している現代、マルチタスク対応が必須となる職場は少なくありません。マルチタスクが避けられない場合、どのように対処していくかが必要になります。 対処法の鉄則は、「諦める」「自分ができるような状況に持っていく」の2点です。 「マルチにこなそうとする」のを諦める まず、「パソコンが複数のアプリケーションを同時に処理するように複数の仕事を同時並行でこなす」のは、諦めましょう。目の前に複数のやるべき仕事が並んでいるマルチタスク状態において「マルチにタスクをこなす=同時並行に処理する」ことは原則的に無理なのです。 「自転車を運転しながら、今日の夕飯を考える」「請求書の束に印鑑を押し続けながら、上司と話す」といったことは同時並行でできるじゃないかとお思いかもしれません。それは自転車の運転や請求書への押印のどちらも、「何も考えずにできるようになった行動」だからできるのです。 職場でやる仕事は、ほとんどが「考えることが必要」な仕事ですので、やはりマルチタスクは諦めた方が良い、というのが筆者の考えです。 ところで、まるで一度に3つ4つの仕事を同時にこなしているような印象を受けるような、とんでもなく速いスピードで仕事をこなす人がいます。そういう人は、マルチタスクを可能とする特殊技能の持ち主なのでしょうか。実は違うのです。 ASD/ADHDでも対処可能なシングルタスクへ落とし込む 一度に3つ4つを同時にこなしているようなスピード感で仕事をしている人は、実は小さなシングルタスクへ分解して、そのシングルタスクを完了させてはまた別のシングルタスクへ、という風にタスク管理をして仕事を進めているのです。その結果、他の人からみると「ほぼ同時に複数の仕事タスクを終わらせている」ように見えるのです。 例えば、「カレー」「サラダ」「スープ」の3品の料理を作るとします。もちろん3品同時進行で作ることはできません。カレーの具材を切り、水と共に鍋にいれ煮ます。この時点でサラダ作りもスープ作りも着手していません。その後に初めてサラダ作りに着手し、キャベツを千切りにします。千切りが終わったら、鍋にカレールウを入れます。次に、スープの素をカップにあけます。 このように、3品の作成は同時に進行していないことがお分かりだと思います。最終的には「ほぼ」同時に食卓にカレーとサラダとスープが並びますが、その過程はそれぞれの料理を完成させる細かい手順を1つずつ終わらせていった結果にすぎないのです。 仕事も同じです。仕事タスクがA、B、Cと3つあり、それぞれに3つの手順に分解できるとします。最初にA-1を終わらせ、次にB-1をやり、それが終わったらA-2を完了させ、次にC-1とC-2を一気にやり、B-2を終わらせて、A-3、B-3、C-3と順々に完了させていく。そんな風に「あたかもマルチタスク風に」対処するのです。 複数ある仕事を目の前にすると、つい全部いっぺんに終わらせたくなりがちです。しかし、本当にマルチタスクでもスピーディーにこなせる人は、マルチタスク全部を同時に終わらせるという幻想を捨て、シングルタスクへ分解して1つ1つやるしかないと思えた人です。 前述したASDの傾向の「シングルフォーカス」「シングルレイヤー」は、まさにこの進め方にピッタリだと言えるでしょう。また、ADHDの「複数の作業を同時に進めることが難しい」という傾向も、まさにこの進め方で対処できるものです。 マルチタスクをする上で気を付けること ご説明したマルチタスク対処法をやっていくに際して、以下2点はぜひ気を付けたいところです。 スケジュールを意識する そもそも「時間通りに物事を進める」のは、ASD/ADHD共に苦手です。スケジュールを意識して業務タスクを進めるよう気を付けておくに越したことはありません。マルチタスク環境であればなおさら、それぞれのタスクについてスケジュールを意識しなければなりません。 ASDのある人にとっては、先に挙げた「シングルフォーカス」がネックになりがちです。シングルタスクへ分解した結果、いわゆる「過集中」状態になってしまい、今自分が取り組んでいるタスク以外のことに気がいかなくなり1つのことに時間をかけがちです。そんなときは「これから30分やろう」と決めてタイマーをかけておくなどの対策があります。 また、ADHDの「ワーキングメモリ―の弱み」により、せっかく小分けにしたシングルタスクを実行するのを忘れてしまうことがあります。「いつやるか」をリマインダーを設定して確実にしておくことも大事になってきます。筆者は、ADHD傾向が強いため、将来の予定はリマインダーアプリを活用しています。「忘れない」のではなく、「忘れても支障ない」ようにしておくことが大切です。 適宜休憩を取る 当然ながら、集中してタスクを実行すると疲れます。疲労していると、より特性が強く出る場合があります。そうならないように、タイミングを見ては休憩を取ることもまた大事です。 しかし、自分自身は疲れを認識していなくても、実は心身が疲れていることがあります。筆者も、疲れを感じずにずっとタスクに没頭してしまい、終わって2~3時間後にドーンと大きな疲労感に襲われてしまうことがよくあります。そんなときは、特性がいつもより強く出て自分が使いものにならなくなったり、ひどい時にはタスクを実行するだけの元気がなくなってしまったりします。 特にマルチタスク状態で仕事をこなすような環境では、ただでさえ苦手な状況なうえに、次から次へとやることがあるため、休憩を取ることがおざなりになりがちです。就労は50メートルを全力で走ったら終わりなのではなく、長く続くマラソンのようなものです。継続して安定的に働けるように、体力にまだ余裕があるうちに適宜休憩を取るべき、と自戒を込めて筆者は常に意識しています。 前述したASDの傾向の「シングルフォーカス」「シングルレイヤー」は、まさにこの進め方にピッタリだと言えるでしょう。また、ADHDの「複数の作業を同時に進めることが難しい」という傾向も、まさにこの進め方で対処できるものです。 それでも困難を感じるときは ご紹介した「マルチタスクへの対処法」が難しいときは、合理的配慮を求めることになります。 合理的配慮とは 合理的配慮とは、障害のある人もない人も平等に社会生活を送れるように、障害特性や困りごとに応じておこなわれる対応のことです。 合理的配慮については、合理的配慮とは?基礎知識をまとめました。で詳細にご説明しています。よろしければご覧ください。 合理的配慮を受けるためには、下記①~③の要件が揃っている必要があります。 ① 障害が原因となる困難さ(障壁)であること② 障害者本人が、自己対処(セルフケア)を行おこなっても、対処しきれないものであること③ 企業等の側にとっても、重すぎる負担でなく、提供可能な範囲のものであること 要件それぞれの詳しい解説については、「合理的配慮」申請マニュアル 流れとポイントを紹介にあります。また、合理的配慮の具体的な事例に関しては、発達障害のある方の合理的配慮事例を見ていただきたいと思います。 要件②の「自己対処」が、これまでお伝えした「マルチタスクへの対処法」です。それが難しいときは、要件①と③が揃っていれば「合理的配慮」として企業等の側に対応を求めることが可能になります。 国もマルチタスク対応への配慮を念頭に置いている 合理的配慮として企業側が「マルチタスクへの対処法」をおこなうのであれば、上司がマルチタスクをシングルタスク(手順)へ分かりやすく分解し1つずつ指示出しする、といった形になります。 実は、国もそういった形での合理的配慮を想定しているのです。厚生労働省が公開している「合理的配慮指針」の末尾別表にある合理的配慮事例にこのような内容があります。 「業務指示やスケジュールを明確にし、指示を一つずつ出す、作業手順について図等を活用したマニュアルを作成する等の対応を行うこと」(厚生労働省|「合理的配慮指針」別表より。太字は筆者による) それほど、マルチタスクへの対処は、取り組むべき課題だと広く認識されているのでしょう。「そのくらい自分でどうにかしなければいけない」と思う必要はありません。 自己対処や合理的配慮申請を専門家に頼ろう これまで、自己対処としての「マルチタスクへの対処法」を中心に、それが難しいときの合理的配慮申請についても書きました。これらのことは、自分一人でおこなうことも可能ですが、自分に合った自己対処の方法を見つけたり適切な合理的配慮の申請は、自分一人でおこなうことはおそらく難しい、あるいは膨大な時間や手間がかかってしまうでしょう。 そんなときは、自分一人で悩んだり、余計に手間をかけてしまうよりも専門家の手を借りることも検討してみましょう。 就労移行支援事業所ディーキャリアでは、働くことで悩みを抱えている発達障害のある方の支援をおこなっています。 就労移行支援事業所とは、障害のある方が就職するための「訓練・就職活動」の支援をおこなう障害福祉サービスの一つです。(厚生労働省の許認可事業) 就職とは人生の目的を実現するための通過点です。自分の「なりたい」姿を見つけ、障害特性への対策と自分の能力を活かす「できる」ことを学び、社会人として長く働くために「やるべき」ことを身に付ける。 「なりたい」「できる」「やるべき」の 3 つが重なりあうところに仕事の「やりがい」が生まれると、私たちは考えています。 もちろん、今の時点でサービスを利用する目的を決めていなくても大丈夫です。 「まだやりたいことが決まっていない、将来のビジョンが見えていない」「何を目的にサービス利用をすべきかイメージが湧かない」「自分に合っているか分からない」 …と悩んでいる方も安心してお問い合わせください。一人ひとりのご状況や困りごとをヒアリングしながら、ご提案をさせていてだきます。 ご相談は無料です。フリーダイヤル、または、24 時間受付のお問い合わせフォームにて、お気軽にお問い合わせください(ご本人様からだけでなく、当事者のご家族の方や、支援をおこなっている方からのご相談も受け付けております)。 お電話(0120-802-146)はこちら▶ お問い合わせフォームはこちら▶ また、全国各地のディーキャリアでは、無料の相談会や体験会も実施しています。 全国オフィス一覧はこちら▶ 就労移行支援事業所ディーキャリアは、「やりがい」を感じながら活き活きと働き、豊かな人生を目指すあなたを全力でサポートします。お一人で悩まず、まずはお気軽にご相談ください。
【発達障害当事者が解説】「仕事がうまくいかない」対策と継続のコツ

「仕事がうまくいかない…」を乗り越えるための対策を筆者の実体験をまじえご紹介。対策を立てた後に『継続』するためのコツもお伝えします。

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  • #クローズ就労
  • #オープン就労
  • #自閉スペクトラム症(ASD)
  • #注意欠如・多動症(ADHD)
「仕事がうまくいかない」「同じようなミスを繰り返してしまう」 発達障害の特性がある方にとって、「仕事がうまくいくかどうか」はかなり大きなテーマでしょう。注意欠如・多動性障害(ADHD)の当事者である筆者も、過去に仕事でミスや失敗をして落ち込み、不安感にさいなまれる経験をしてきました。 平成29年に発表された厚生労働省の発表によると、精神障害者の障害者雇用の離職理由について「仕事内容があわない」「作業、能率面で適応できなかった」という項目が上位にきています。また、日本国内の企業の99.7%を占める中小企業のうち、障害者雇用の定着の理由として「作業を遂行する能力」を挙げる企業が一番多いという調査結果も出ています。 参考文献:障害者雇用の現状等|厚生労働省 発達障害特性への対策は世にたくさん発信されています。一方で、発達障害のある方の離職率が劇的に低くなったという話は聞きません。つまり、対策を知ったとしても、それを実際の自分の業務に生かすことが難しいのではないでしょうか。 今回の記事では、発達障害のある方によくある失敗とその対策、そして、対策を継続し習慣化していった筆者の体験談をお伝えします。皆さんが少しでも職場で長く違和感なく働けるよう、この記事がお役に立つことを願っています。 [toc] 執筆者紹介 小鳥遊(たかなし)さん 発達障害やタスク管理をテーマに、2021年まで会社員、2022年からフリーランスとして活動している。 発達障害(ADHD)当事者。主に発達障害や仕事術をテーマとするweb記事を執筆。2020年に共著「要領がよくないと思い込んでいる人のための仕事術図鑑」(サンクチュアリ出版)を執筆し発行部数は10万部を超える。 また、就労移行支援事業所でタスク管理等に関する定期プログラムやセミナー等を実施。企業や大学等での講演、個人/法人のタスク管理コンサルティングもおこなっている。 発達障害当事者によくある失敗 発達障害の特性があると、以下のような失敗をしがちです。それぞれについて、原因と対策を挙げてみます。今回ご紹介をする【原因】は、あくまでも一例です。特性は一人ひとり異なるため、あくまでも参考としてご覧ください。 ① ケアレスミスが多い 【原因】 一般に、「記憶の抜け漏れ・忘れ」はケアレスミスにつながりやすいと考えられます。発達障害の特性の有無と、「ワーキングメモリ」と呼ばれる作業や動作に必要な情報を一時的に記憶・処理する能力の間には関連性があることが指摘されています。 参考文献:「ワーキングメモリと実行機能の発達」|発達心理学研究 2019,第30巻,第4号,173-175 【対策】 ワーキングメモリの働きを自分でコントロールすることはなかなかできません。頭の中だけで覚えておこうとするのではなく、紙のノートやPCのメモ帳に書き出して保存することが、簡単ながら一番効果的な対策です。電話を受けたらメモをする、口頭で指示を受けたらToDoリストに書き出すなど、確実に残る記録としていつでも参照できるようにしておくことが大切です。 ② 納期を守れない 【原因】 発達障害の特性の1つとして、不安が強く心配性であるため、失敗・挫折への恐怖が強いという傾向があり、仕事(やるべきこと)の先延ばしをして納期を破ってしまいがちだとされています。 参考文献:ひきこもり支援者読本 第2章「ひきこもりと発達障害」|内閣府 【対策】 「できないかもしれない」と思ってしまう仕事は「失敗せずやれる」と思えるような細かい作業手順に分解することでその不安や恐怖を取り除きます。すると、とりあえず手を付けることができるようになります。その結果、先延ばしを避けて納期通りにやるべきことを終わらせることができます。 ③ 優先順位を間違える 【原因】 やるべきことが複数あり、そのどれから着手するかを決める、いわゆる「優先順位づけ」についてもまた、発達障害当事者は困難を抱えがちです。それは、目の前の作業に没頭するあまり、全体と部分の把握を適切に切り替えることが難しかったり、先々の展開を想像することが苦手だったりすることが原因といっても良いでしょう。 参考文献:注意欠陥/多動性障害児を対象とした課題解決場面におけるメタ認知を促すための支援方法に関する事例的研究|上越教育大学大学院 【対策】 「手を付けなければいけない順番」の指標として締切を意識します。締切を意識することで、早く終わらせなければいけないのはどれかが分かり、正しく優先順位づけをすることができます。 このように、それぞれ原因を知り対策を講じることで、よくある失敗を事前に避け、仕事の質を上げることができます。しかし、対策を講じたは良いが続かなかった、飽きて途中で辞めてしまったといった経験がある方も多いのではないでしょうか。 そこで、筆者の「挫折してしまった(継続できなかった)経験」と「うまく継続できた経験」を対比して、対策を習慣化するコツをお伝えします。 うまくいかなかった「ToDoリスト」 筆者は「タスク管理ツール」を使うことで仕事のクオリティーを上げて長く安定して働き続ける力をつけました。しかし、最初からうまくいったわけではありません。 はじめての会社で先輩や上司から言われたのが「ToDoリストを作りなさい」というものでした。それまで「自分のやるべきことを書いて管理する」ということを一切してこなかった筆者は、ただ「作りなさい」と言われ、見よう見まねでやらなきゃいけないと思うことをノートに列挙して仕事をするようになりました。 増殖し続けるリスト ToDoリストに自分の仕事を書き出すだけでうまくいく......わけではありませんでした。むしろ書き出せば書き出すほど仕事の悩みは大きくなりました。「書いても消えない」のです。 例えば、ある日に10個の仕事を書き出したとします。そのうち7個くらいこなしたとして、残りの3個の仕事は翌日のページに繰り越されます。翌日新しい仕事がまた10個発生したら、合計13個の仕事がリストに並びます。そんな調子で数日経過すると、書き出す気がなえるほど膨大な数の仕事を毎日リストに書くことになってしまいます。 なにから手を付ければ良いかが分からない また、ToDoリストに書き出した仕事の数々を眺めて、「あれ?これ何から手を付ければいいんだろう?」と手が止まることも頻繁に起こりました。ある仕事について手が止まると、別の仕事に目がいきます。ところが、別の仕事も同じく手が止まる。また別の仕事に目が向く。またどう着手すれば良いかが分からない。その繰り返しで、結局リスト上の仕事を減らすことが難しくなってしまい、リスト上の仕事が増えることに拍車をかけてしまいました。 優先順位が分からない さらに、目の前におびただしい数の仕事があるとどうしても目移りしてしまい、「あれもやらなければ」「これもやらなければ」と混乱してしまいました。その結果、本当なら最優先で取り組むべき仕事を後回しにしてしまったり、逆にすぐにやらなくてもいい仕事をなぜかすぐにやらないといけないと思い込んでしまったりと、優先順位をきちんとつけることができていませんでした。 ToDoリストによる管理が崩壊 そうしたことが重なり、ToDoリストを更新することが面倒くさくなって、仕事の基本である「自分がやるべきことを客観的に把握する」のをやめてしまいました。 なお、当時の筆者は上記のように細かく分析できていたわけではなく、「なぜか仕事がうまくいかない」という大雑把な認識しかありませんでした。したがって、「ToDoリストを使いやすくするように改善していこう」という考えが微塵もなく、ToDoリストを更新する作業が「仕事を邪魔する面倒くさいこと」としてしか認識できなかったのです。 こうして、筆者の「仕事をうまくこなす」ための作戦は完全に挫折して終わりました。 うまくいった「特性対策ツール」 ただやるべきことを列挙しただけのToDoリストだけでは仕事がうまく管理できなかった私に足りなかったもの。それは「ToDoリストを自分用に変えていこう」という考えでした。 ここに、対策を講じた後にやるべきことのヒントがあると筆者は考えています。それは、「実践」「検証」「改善」を繰り返すことです。以前のToDoリストでの失敗を糧にこの3つを繰り返すことで、ただのToDoリストを「自分ならではの特性対策ツール」へ変えることができ、仕事がうまく回るようになりました。 ①まずはToDoリストにやるべきことを書き出す 実は、ToDoリストを使うことには失敗だけでなく、良い部分もありました。それは、「書いたことは忘れない」という安心感です。むしろ、「書いたから安心して忘れることができる」と言っても良いかもしれません。やるべきことをToDoリストに書き出すことにより、少なくとも「覚えたはずなのに忘れる」「抜け漏れが発生する」といったことによるケアレスミスは減らすことができました。 しかし、以前にToDoリストを使ったときは、「書き出すだけ」で終わっていたのです。そのため「議事録の作成」や「企画の立案」といったざっくりした内容の項目が並ぶToDoリストを眺めては、「議事録を作るためには、何からとりかかればいいのだろうか」「どのような手順を踏めば企画書を作成できるのだろうか」と考えてしまい、いつまでたっても着手できずにいました。 ②仕事の手順を付け加える そこで、書き出したToDoリストに「より具体的で分かりやすい作業手順」を付け加えるようにしてみました。例えば「議事録の作成」の場合、まずは「議事録のフォーマットを先輩から手に入れる」ことが必要ですので、これが最初の作業手順となります。これをToDoリストに書き足しておけば、「まず最初に何をすれば良いか」が分かるので、作業に着手しやすくなります。 これにより、手が付けられず無駄に時間が過ぎていくことを予防でき、結果的に先延ばしを回避することができて納期を守りやすくなりました。ただ、いくら「着手しやすい手順」が目の前に並んでいても、「では、どの作業から着手しよう」というところで迷いが生じます。つまり「優先順位の問題」を考えなければならないのです。 ③自分が進めている仕事かどうかを付け加える 優先順位の問題の対策としてまず考えられるのは、「優先順位をつける対象の数を減らす」ことです。誰かが進めているのを待っているだけの仕事は、自分がすぐに手を付けられないので、そもそも「着手すべき仕事」の優先度を判断する対象から外すことができます。 さらに、「自分が進めている仕事」と、「誰かが進めていて自分はそれが終わるのを待っているだけの仕事」を区別できるように、ToDoリストに「自分」「相手」などと付け加えました。その結果、優先順位をつける対象を絞り込むことができ、どの作業から手を付けたらいいのかが分かりやすくなりました。 ただし、優先順位をつける対象をある程度絞り込めたとしても、最終的にはその中から「今、自分が進めるべき仕事」をどれか1つ選ばなければなりません。その選択基準がなければ、結局、優先順位がつけられていないのと同じことになってしまいます。 ④手順の締切を付け加える そこで、「今、自分が進めるべき仕事」を1つ選びやすくするために、その手順の締切を付け加えました。締切の日付があれば、「これは早めにやっておいた方が良さそうだ」「これは締切が随分あとだから、まだ寝かせていても大丈夫」ということが分かるので、「今、自分が進めるべき仕事」を選びやすくなります。 このようにして、「ケアレスミス」「納期を守れない」「優先順位がつけられない・間違える」という困りごとへの対策を、自分のものにすることができました。また、実践→検証→改善というサイクルを繰り返すことによる「手間暇かけた感」が、この特性対策ツールへの愛着を湧かせ、この仕事の管理方法を継続させる土台となりました。 対策を継続させるための仕組み ここまででも十分に仕事で活用できる管理ツールにはなったのですが、さらに継続させるための仕組みとして、「適切に自分に報酬を与える」ようにしました。 国立精神・神経医療研究センターの研究によると、ADHDのある方には「後で手に入る高額の報酬よりも、すぐに手に入る少額の報酬を選ぶ傾向がある」と言われています。 参考文献:報酬はヒトの行動抑制機能を高めるか?神経心理学的アプローチによる報酬効果の検討と展望|日本生理人類学会誌 Vol.27,  No.2  2022, 5 38 - 45 ここでいう「報酬」とは、仕事が進んだり、完了できたりすることによる「満足感」と考えていただければと思います。ADHDである筆者も例に漏れず、大きなプロジェクトを終わらせたときの満足感のような「後で手に入る高額の報酬」までは待てません。そこで、「すぐに手に入る少額の報酬」を自分で設定するようにしたのです。 完了数の表示 今までご説明した「特性対策ツール」を、私はExcelで作っています。そのExcel上で、「完了した仕事の数」を表示させるようにしました。ロールプレイングゲームでは、経験値が一定数たまるとレベルが上がります。現実の世界では数字がたまっても何も変わらないのですが、Excel上の数値が上がるだけでも「やった!」と満足感を覚えます。仕事を1つ1つ終わらせるごとに「仕事の経験値をためる」という感覚を自分に起こさせるようにしたのです。 毎日の仕事の発生数/完了数の表示 Excel上でその日発生した仕事の数と、完了させた仕事の数とを比較できるようにしました。例えば、ある日仕事が5つ発生して、4つ完了させていたとします。その時点で「1負け」です。そこで、なんとかすぐに完了できる仕事がないか探します。運よくすぐに終わる仕事が見つかると「引き分け」になります。さらにもう1つ仕事が完了できたら「1勝ち」となります。 「発生数/完了数の勝ち負け」の仕組みは最初はお遊び程度だったのですが、これもロールプレイングゲームのような満足感を味わうことができ、仕事を進めるよい燃料になりました。 仕事が画面から消える これはもう筆者の個人的な趣味のような領域になってしまうのですが、完了させた仕事は記録には残るものの、Excelの画面上では見えなくするようにしました。Excelの「フィルタ機能」を使うとことで、完了させたToDoがスッと消える(正確には、画面から見えなくなる)のです。 この瞬間がたまらなく好きになり、この消える際の「スッ」というExcel上の動きを見るだけで一種の快感のようなものを覚えるようになりました。 まずは自己理解から 以上、筆者の失敗事例とうまくいった事例から、「実践」→「検証」→「改善」というサイクルを回すことでより自分に合ったやり方を見つけることで継続できることをお伝えしました。 ただ、筆者とまったく同じことをしましょうと言うつもりはまったくありません。この事例からお伝えしたいことは、「実践・検証・改善を繰り返すことでより習慣化しやすくなる」「改善には、自己理解が助けになる」ということです。 特に、自己理解を深めておくことが大事だと筆者は考えています。抜け漏れしやすかったり、先延ばしぐせがあったり、優先順位がつけにくかったりする特性を認識していないと、そもそも対策を立てること自体ができないからです。 自己の障害特性を理解し、仮説レベルでもいいので対策を立てて実践し、その結果を検証し、自分の特性に照らして「特性のある自分でも対応できそうな」改善策を付け加え、それを実践して......という繰り返しをすることが、発達障害の特性を持つ私たちがより生きやすくなる道だと筆者は考えます。 ただ、正直なことをお話すると、何から何まで自分でやろうとするのは、とても時間と手間がかかります。筆者自身も特性を把握するまでには数年の時間がかかりました。今、この記事をお読みの方は「そこまで時間と手間をかけていられない」とお考えだと思います。 そんなときには、自分一人で悩むよりも専門家の手を借りることも検討してみましょう。 就労移行支援事業所ディーキャリアでは、働くことで悩みを抱えている発達障害のある方の支援をおこなっています。 就労移行支援事業所とは、障害のある方が就職するための「訓練・就職活動」の支援をおこなう障害福祉サービスの一つです。(厚生労働省の許認可事業) 就職とは人生の目的を実現するための通過点です。自分の「なりたい」姿を見つけ、障害特性への対策と自分の能力を活かす「できる」ことを学び、社会人として長く働くために「やるべき」ことを身に付ける。 「なりたい」「できる」「やるべき」の 3 つが重なりあうところに仕事の「やりがい」が生まれると、私たちは考えています。 もちろん、今の時点でサービスを利用する目的をが決めていなくても大丈夫です。 「まだやりたいことが決まっていない、将来のビジョンが見えていない」「何を目的にサービス利用をすべきかイメージが湧かない」「自分に合っているか分からない」 …と悩んでいる方も安心してお問い合わせください。一人ひとりのご状況や困りごとをヒアリングしながら、ご提案をさせていてだきます。 ご相談は無料です。フリーダイヤル、または、24 時間受付のお問い合わせフォームにて、お気軽にお問い合わせください(ご本人様からだけでなく、当事者のご家族の方や、支援をおこなっている方からのご相談も受け付けております)。 お電話(0120-802-146)はこちら▶ お問い合わせフォームはこちら▶ また、全国各地のディーキャリアでは、無料の相談会や体験会も実施しています。 全国オフィス一覧はこちら▶ 就労移行支援事業所ディーキャリアは、「やりがい」を感じながら活き活きと働き、豊かな人生を目指すあなたを全力でサポートします。お一人で悩まず、まずはお気軽にご相談ください。 編集担当 藤森ユウワ(ライター・編集) ベンチャー企業の社員として働きながら、兼業で個人事業主としてもライター・Webディレクターとして活動。 これまで5社を転職し、営業、営業企画、カスタマーサポート、マーケティングなどさまざまな職種を経験。 子どものころから「コミュニケーションが苦手」「段取が悪い」「集中力が続かない」などの困りごとがあり、社会人になってからも生きづらさを感じつつ何とか働いていたが、あるとき仕事内容が大きく変わったことがきっかけで困難が表面化し、休職や離職を経験。 36 歳で ADHD・ASD と診断される。 診断後、「就労移行支援事業所 ディーキャリア」を運営するデコボコベース株式会社でアルバイトしたことをきっかけに自分に合う仕事や働き方を模索し、現在の形に辿り着く。 誰かの「なるほど!」を作るライティングがモットー。 さまざまな職種を転々とする中、苦手を補うため自分用の業務マニュアルを自作してきた経験を活かして、記事や企画書、プレゼン資料、製品マニュアルなど、幅広く執筆の仕事を行っている。 自分の凸凹を補うためにITツールを使って工夫するのが好き。
【発達障害当事者が解説】無理なく働き続けるための特性理解と対策

長く健康的に働き続けるためにはどうすればいいのか。筆者の体験談を交えながら、なぜ発達障害のある方は仕事が長続きしない傾向にあるのか、その原因や対策などについてお伝えします。

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「仕事がうまくいかず長続きしない」「職場の環境と合わなくて、短期離職を繰り返してしまう」 令和2年に発表された厚生労働省の資料によると、精神障害のある方が1年間就労を継続できている割合は50%を切っており、定着が困難な方が多いと解説されています。 参考文献:障害者雇用の促進について関係資料|厚生労働省 発達障害の注意欠如・多動性障害(以下ADHDと表記)の当事者である筆者の就労経験からしても、最後に勤めた会社を除き、思ったほど長続きしなかった印象があります。障害者雇用枠で就労していた会社は4年強で休職し、一般雇用枠で就労していた会社は2年と持たずに休職してしまいました。実際は休職に至るまでかなり長い期間をかけて「就労環境とのミスマッチ」が生じていたので、適切な環境で就労できていた年数は、それよりもずっと短いという印象です。 今回の記事では、そんな筆者の体験談を交えながら、なぜ発達障害のある方は仕事が長続きしない傾向にあるのか、その原因や対策などについてお伝えします。皆さんが健康で長く働けるよう、この記事がお役に立つことを願っています。 [toc] 執筆者紹介 小鳥遊(たかなし)さん 発達障害やタスク管理をテーマに、2021年まで会社員、2022年からフリーランスとして活動している。 発達障害(ADHD)当事者。主に発達障害や仕事術をテーマとするweb記事を執筆。2020年に共著「要領がよくないと思い込んでいる人のための仕事術図鑑」(サンクチュアリ出版)を執筆し発行部数は10万部を超える。 また、就労移行支援事業所でタスク管理等に関する定期プログラムやセミナー等を実施。企業や大学等での講演、個人/法人のタスク管理コンサルティングもおこなっている。 発達障害のある方が仕事が長続きしない原因とは 仕事が長続きしない原因は「①仕事内容とのミスマッチ」「②職場環境とのミスマッチ」の2つと考えられます。 仕事内容とのミスマッチ 曖昧な内容が理解できないことで空気が読めなかったり、衝動的に思いついたことをしゃべったりといった発達障害の傾向は、周囲の人たちとのコミュニケーションがうまくいかなくなることにつながりがちで、仕事内容とのミスマッチが発生する可能性があります。 例えば、接客業はお客様とのコミュニケーションありきの仕事なので、お客様とのやりとりがうまくいかなければ、そもそもその仕事にマッチしないということになります。 職場環境とのミスマッチ さらに、せっかく仕事内容とはマッチしていても、例えば遠隔地にあるオフィスに通うための長時間の満員電車の混雑に耐えられなかったり、騒がしいオフィス内で発達障害の特性による聴覚過敏から集中できなかったりといった、職場環境とのミスマッチを生んでしまうこともあります。 筆者の事例 筆者も発達障害の特性によるミスマッチに悩まされた一人です。 「先延ばしグセ」がもとで期日に厳しい公共機関へ提出する報告書に手を付けずクレームを受ける 「段取り下手」で社内イベントの準備がうまくできない 「マルチタスクが苦手」なあまり名刺発注業務と社内備品の発注と来客対応の優先順位がうまくつけられない 「抜け漏れ」でついさっき頼まれた仕事を忘れる 「自己関連付け」(何か良くないことが起こったとき自分に責任がないような場合でも自分のせいにしてしまう)で通常どおりに使用していたプリンターが壊れた際に自分が原因があると考えてしまう このようなことが多発し仕事がうまくいかなくなる→ストレスが溜まりその傾向に拍車がかかる→より仕事がうまくいかなくなる、という悪循環に陥りました。 また、仕事がうまくいかないことで、周囲の方々との関係も悪化し、あるいはそう自分が勝手に思い込んでしまい、居場所感のようなものがだんだんなくなっていき、「これ以上仕事を続けられない」という心理状態になっていきました。 この悪循環を断ち切るには、自らの特性に応じた対策を打つことが必要です。そのためには、自分にはどういった特性があるのかをまず知ることが大事です。 発達障害の特性を理解するメリット 前述したように、自らが持つ発達障害の特性を知ることはその対策を打つためにとても大事です。ここでは、自分の障害特性を知るメリットについてお伝えします。 「続かない」仕事を避け、「続けられる」仕事を選べる 自分の特性が分かると、その特性にあった職業を選ぶことができます。 例えば、「臨機応変に段取って仕事を進めるのが苦手」であれば、プロジェクトの進行管理をするWebディレクターや、複数の顧客とやり取りをする必要のある営業職などは難しいでしょう。また、ケアレスミスを多くしてしまう傾向があるのであれば、税理士や司法書士など正確な事務作業が要求されるような職業はあらかじめ候補から外しておくのが得策です。 逆に、細かい事務作業は苦手だけど人と接するのが得意という方は、飲食やサービス業などの接客業が向いている可能性が高いと言えます。細かいチェックなどの作業に集中できるのであれば、経理などの事務職が向いている可能性が高いと言えます。 このように、自分の特性を理解していれば、仕事を選ぶときに当たりをつけることができるようになります。 「できない」仕事について周囲がサポートしやすくなる ただし、どんな仕事でも「100%自分の得意なことだけやっていればいい」ということはほとんどありません。 例えば、接客業であっても出勤シフトを組んだり、一日の売上の計算をしたりするときには、どうしても事務作業が必要になります。また事務職であっても自分の業務のみ黙々とおこなうのは難しく、少なくとも仕事を協力し合う同僚とはコミュニケーションを取らなければなりません。 そこで「この仕事のこういう部分が苦手です/得意ではありません」といったことを把握し、自分から周囲に伝えておけば、「あの人は、事務処理が苦手だから手伝おう」「コミュニケーションが苦手だから、分かりやすく話してあげよう」とサポートしてもらえる可能性が高くなります。 「できる」仕事について能力を発揮し、自己肯定感を高められる 得意な仕事が分かっていれば、「それやります!」と率先して引き受けることができます。 得意なことなので当然その仕事はうまくいきやすく、成功体験を積むことができます。成功体験を積むと、自己肯定感が上がります。すると、もっと積極的に仕事に取り組むことができるようになります。 この好循環により、安定して仕事を続けられるようになります。 対策の具体的な手順と事例 自分の障害特性を知ればその対策を打つことができます。対策が打てれば、働きやすさは格段に上がります。ここでは、自分の障害特性を知り対策を打つところまでの筆者の具体的な経験をお伝えします。 自分の障害特性を知る 筆者は、2007年にADHDの診断を受けました。しかし、診断を受けただけで終わってしまいました。「自分はADHDである」ことを“知った”だけで、「では、自分にはどのような障害特性があるのか」までは考えようとしなかったのです。 その後、会社に就職して働き始めるのですが、具体的にどのような障害特性があるのかまで分かっていないので、当然仕事はうまくいきません。入社 → やみくもに頑張って仕事をするも次第に息切れ → 休職という流れがお決まりになってしまいました。 その流れを断ち切ったのは、2社目での休職からの復職後のことでした。 それまでの経緯を振り返り、自分の特性を知ろうと考えたのです。厳密に言うと「うすうす自分の特性には気づきながらも認められずにいたが、ついに意識せざるを得なくなった」といったところでしょうか。 このとき、「自分の障害特性を知ること」と同時にやったのは「諦めること」でした。 「忘れない自分になるのを諦める」「段取りよく仕事を進められる自分になるのを諦める」「先送りしない自分になるのを諦める」 諦めることで、特性ありきの自分を受け入れることができ、「そんな自分でもなんとかできるためにはどうすれば良いか」というスタート地点に立つことができたのです。診断を受けてから7年の月日が経っていました。 特性に対する対策を知る 自身の障害特性を知って受け入れた後は、その対策を立てることになります。復職直後は時間的余裕があったので、目の前にあるPCでExcelの練習も兼ねて、自分の特性をカバーするようなものを作ろうと考えました。 忘れっぽさに対しては、とにかく依頼を受けた仕事は全部Excelに書くことで対処していくことに決めました。 段取りが苦手なことや先送り癖に対しては、受けた仕事を細かい手順にあらかじめ分解して、その手順ごとに細かく締切を設定することで対処しようと考えました。 全部自分の責任だと考えてしまう「自己関連付け」という思考に対しては、それぞれの手順の担当者は誰かを追記することで、自分が進める段階か相手が進める段階かを明確にして、必要以上に自分が責任を背負い込み過ぎないような表示にしました。 マルチタスクになると気が散って集中できなくなってしまうのは、それぞれの仕事について「今やるべき手順」のみを表示させることで、「今自分が取り組むべきことはこれ!」と集中できるようにしました。 こうしてできたExcelの自分用仕事ツールによって、仕事の質・量が劇的に改善し、そして何より仕事をする自信を持つことができるようになりました。 余談ですが、このようなやり方をしている人が他にいないかと調べてみると、「タスク管理」という仕事術に非常に似ていることが分かり、その瞬間思わず感動して抑えきれず声が出たのを覚えています。 タスク管理に限らず、特性を受け容れて対策を打ち出すときに大切なことは、自分が頑張って「できるようになる」ではなく、他人や物に頼って「自分はできないけど、結果的になんとかする」という考え方です。このように考えると、無理なく仕事が続けられる、自分に合った対策を立てることができるようになります。 (自己対処できない場合)自分に必要な合理的配慮を知る 合理的配慮とは、「障害による困りごとへの配慮を、企業や自治体、教育機関等の事業主に求めることができる」という制度です。合理的配慮について職場と調整をすることは、発達障害のある方が安定して長く働いていくために大切なポイントとなります。 ※合理的配慮について、詳しくは関連記事をご参照ください 筆者はタスク管理でかなり状況が改善されましたが、それでも仕事上うまくいかないことはあります。筆者の場合は、否定的な態度でコミュニケーションをとられると、それだけで萎縮して頭が真っ白になってしまい、しばらくの間まともな判断ができなくなってしまいます。 復職後しばらくして別の会社に障害者雇用で転職した筆者は、社長面接で「ではあなたの求める合理的配慮を教えてください」と言われました。 そこで、「怒らないでください。仕事についてはタスク管理でカバーしてなんとかしますが、もし私に落ち度があって改善する必要があれば、普通のトーンで変更の提案をしてください」と伝えました。 実際、ほとんど怒られずに済み、精神的にも安定して長期間就労を継続することができました。 逆にタスク管理部分を配慮してもらって、「自分のメンタルは自分でなんとかします」でも良いと思います。実際、厚生労働省から出ている合理的配慮指針にこのような内容があります。 「業務指示やスケジュールを明確にし、指示を一つずつ出す、作業手順について図等を活用したマニュアルを作成する等の対応を行うこと」 出典:合理的配慮指針|厚生労働省 できる限り対策を考えてやってみて、それと同時並行で対処しきれないところについては合理的配慮を求めるという姿勢が大事なのではないかと考えています。 筆者の事例はあくまで個人的なものですが、「自分の特性を知り受け入れる」「その対策を立てる」「それでも必要な部分を合理的配慮として求める」ということは、どんな方にも共通する大事なことではないでしょうか。 ただ、筆者のように自分の特性を受け入れるまで何年もかけるのは現実的ではありません。また、その対処法についても、筆者は幸運なことにExcelを使ったタスク管理に出会ったわけですが、人それぞれ違うであろう対処法を自分だけで探し当てるのは難しいかもしれません。 そんなときには、自分一人で悩むよりも専門家の手を借りることも検討してみましょう。 就労移行支援事業所ディーキャリアでは、働くことで悩みを抱えている発達障害のある方の支援をおこなっています。 就労移行支援事業所とは、障害のある方が就職するための「訓練・就職活動」の支援をおこなう障害福祉サービスの一つです。(厚生労働省の許認可事業) 就職とは人生の目的を実現するための通過点です。自分の「なりたい」姿を見つけ、障害特性への対策と自分の能力を活かす「できる」ことを学び、社会人として長く働くために「やるべき」ことを身に付ける。 「なりたい」「できる」「やるべき」の 3 つが重なりあうところに仕事の「やりがい」が生まれると、私たちは考えています。 もちろん、今の時点でサービスを利用する目的をが決めていなくても大丈夫です。 「まだやりたいことが決まっていない、将来のビジョンが見えていない」「何を目的にサービス利用をすべきかイメージが湧かない」「自分に合っているか分からない」 …と悩んでいる方も安心してお問い合わせください。一人ひとりのご状況や困りごとをヒアリングしながら、ご提案をさせていてだきます。 ご相談は無料です。フリーダイヤル、または、24 時間受付のお問い合わせフォームにて、お気軽にお問い合わせください(ご本人様からだけでなく、当事者のご家族の方や、支援をおこなっている方からのご相談も受け付けております)。 お電話(0120-802-146)はこちら▶ お問い合わせフォームはこちら▶ また、全国各地のディーキャリアでは、無料の相談会や体験会も実施しています。 全国オフィス一覧はこちら▶ 就労移行支援事業所ディーキャリアは、「やりがい」を感じながら活き活きと働き、豊かな人生を目指すあなたを全力でサポートします。お一人で悩まず、まずはお気軽にご相談ください。 編集担当 藤森ユウワ(ライター・編集) ベンチャー企業の社員として働きながら、兼業で個人事業主としてもライター・Webディレクターとして活動。 これまで5社を転職し、営業、営業企画、カスタマーサポート、マーケティングなどさまざまな職種を経験。 子どものころから「コミュニケーションが苦手」「段取が悪い」「集中力が続かない」などの困りごとがあり、社会人になってからも生きづらさを感じつつ何とか働いていたが、あるとき仕事内容が大きく変わったことがきっかけで困難が表面化し、休職や離職を経験。 36 歳で ADHD・ASD と診断される。 診断後、「就労移行支援事業所 ディーキャリア」を運営するデコボコベース株式会社でアルバイトしたことをきっかけに自分に合う仕事や働き方を模索し、現在の形に辿り着く。 誰かの「なるほど!」を作るライティングがモットー。 さまざまな職種を転々とする中、苦手を補うため自分用の業務マニュアルを自作してきた経験を活かして、記事や企画書、プレゼン資料、製品マニュアルなど、幅広く執筆の仕事を行っている。 自分の凸凹を補うためにITツールを使って工夫するのが好き。
【発達障害当事者が実践】職場の対人関係を円滑にするビジネスマナー3選

ASDのある方が困りごとを感じやすい「職場でのコミュニケーション」。筆者の体験談を交えながら、職場を安心できる居場所とするためのコツをお伝えします。

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  • #合理的配慮
  • #障害者雇用
  • #自閉スペクトラム症(ASD)
  • #注意欠如・多動症(ADHD)
  • #限局性学習症(SLD)
「普通に振る舞っているつもりなのに、周囲の人たちとの壁を感じることがある」「日頃の行動について注意されたが、どうしたら良いか分からない」 多かれ少なかれ、どんな人でも職場に溶け込むための悩みはあるものでしょう。ただ、周囲の様子や反応から、職場における適切な振る舞いを学ぶのは、発達障害、特に自閉症スペクトラム障害(以下、ASDと表記)の特性がある方にとって苦手なことではないでしょうか。 筆者は、診断として受けているのは注意欠如・多動性障害(以下、ADHDと表記)のみですが、発達障害はスペクトラム(連続性)のあるものであり、ASDに由来する(と思われる)困りごとも体験してきました。 今回の記事では、そんな筆者の体験談を交えながら、職場を安心できる居場所とするためのコミュニケーションのコツを3つお伝えします。 今回は「職場のコミュニケーション」のなかでも社会人として問われる機会の多い「ビジネスマナー」に絞ってお届けします。 皆さんが少しでも働きやすくなるように、この記事がお役に立つことを願っています。 [toc] 執筆者紹介 小鳥遊(たかなし)さん 発達障害やタスク管理をテーマに、2021年まで会社員、2022年からフリーランスとして活動している。 発達障害(ADHD)当事者。主に発達障害や仕事術をテーマとするweb記事を執筆。2020年に共著「要領がよくないと思い込んでいる人のための仕事術図鑑」(サンクチュアリ出版)を執筆し発行部数は10万部を超える。 また、就労移行支援事業所でタスク管理等に関する定期プログラムやセミナー等を実施。企業や大学等での講演、個人/法人のタスク管理コンサルティングもおこなっている。 ASDのある方が、ビジネスマナーが苦手な原因とは ASDの特性がある方は、場の空気を読むなどして暗黙のルールを認識することが苦手とされています。 参考文献:発達障害者の就労上の困難性と具体的対策 ─ASD 者を中心に|独立行政法人労働政策研究・研修機構 なぜ、ASDの特性がある方は、暗黙のルールを認識するのが苦手なのでしょうか。 一般に、発達障害の特性がない定型発達の方は、「①理解できていない」状態から「②なんとなく分かる」という段階を経て「③理由が説明できて分かる」という順番で理解が進みます。 しかし、ASDの特性がある方は、「②なんとなく分かる」というプロセスがないことが研究で分かっています。つまり、「①理解できていない」の次が「③理由が説明できて分かる」なのです。 これは、言葉で分かるようにならないと理解ができないということと、一度理解したことを「なんとなく」変更する柔軟な対応が難しい(マイルールへのこだわりがある)ことを意味します。 参考文献:他者理解の発達再考―直感的他者理解をめぐるASD(自閉症スペクトラム)研究を通して―|東洋大学 どの職場でも「これは言わなくても守って当たり前」と思う「暗黙のルール」は存在します。そして、色々な職場に共通する暗黙のルールが「ビジネスマナー」としてまとめられ、明文化されないまま社会全体に広まっていったと考えて良いでしょう。これは、言葉以外の意味合いを重要視する日本ならではの文化かもしれません。 ただし、ASDの特性がある方がこのような文化の中でうまくコミュニケーションをとっていくのは、上記の内容から分かる通り、難しいと言わざるを得ません。 そんな発達障害の、特にASDの特性がある方が、職場でのコミュニケーションを円滑にするためにはどうすればいいのでしょうか。具体的な対策としてのビジネスマナーを、筆者の失敗事例を通してお伝えしていきます。 対策①報連相ができない→ひと言テンプレートを用意 筆者の体験談 「報告」「連絡」「相談」をまとめて「報連相」といいます。職場でのコミュニケーションの第一歩でありビジネスマナーの基本ですが、筆者が一番最初にぶちあたった壁でもありました。 働き始めた当初、私にはそもそも報告や連絡、相談などをするという考え自体がありませんでした。しかし、当時の上司や先輩社員にとっては、仕事をする上で報連相をすることは当たり前であり「教えるまでもないこと」だったのです。 その結果、「ある程度進んでいるのなら、きちんと報告して欲しい」「分からないことがあるなら、相談するように」と言われるまで、一人でウンウンうなって何も仕事が進まない、進まない状況すら上司などに共有しないという状況になってしまいました。 さらに、「報連相をしなければいけない」と分かっても、どのように報告や連絡、相談をすれば良いかが分からないという問題が出てきました。 「実は、名刺を作っているんですけど、昨日営業部のAさんが、名刺作成依頼の申請を上げてきて、それで...」 と、思いつくまま話し始めると、 「で、いったい小鳥遊くんは何を言いたいの?」 と上司に怒られてしまう。それで心を折られて「すみません、出直してきます」と自席へ戻り、なかなか話すきっかけがつかめない。そんな場面がしょっちゅうありました。 対策 「喋りだしの一言テンプレート」を準備しておきましょう。 報連相をするためには、まずどう喋りだすかが重要です。いきなり本題に入るのではなく、「報告」なのか「連絡」なのか「相談」なのかを最初に明確にすれば、聞く方も聞きやすくなります。 「●●の件について、『報告』or『連絡』or『相談』なのですが、今よろしいでしょうか?」 こういった「喋りだしの一言テンプレート」を最初に言うだけで、相手の反応が違ってきます。仮に、それに続く内容があまり要領を得ないものであっても、「小鳥遊くんが今いっているのは、相談だったよな。であれば、話の内容から自分が何かしら返答する必要があるはず。まずはじっくり聞いてみよう」などと、相手側から歩み寄ってくれます。 私はこれで「何を言っているか分からない」と言われてすごすごと退散することはなくなり、安心して報連相ができるようになりました。 対策②雑談が苦手→共通の話題を選ぶ&避けた方がよい話題もあり 筆者の体験談 誰も教えてくれないビジネスマナーの中に「適切な話題を選んで雑談する」というものがあります。 筆者はクラシック音楽が趣味なのですが、正直言って「誰でも知っている」という話題ではありません。しかし、会話の中でちょっとでもクラシックの話が出てくると「これは自分の出番!」とばかりに、その話に熱中して話し続けてしまっていたのです。 会話をしていた相手にとっては、あまりよく知らない話題について延々と話されて、さぞ閉口したことと思います。 対策 雑談は、共通する話題を選び、タブーの話題を控えましょう。 雑談の目的の一つは、相手との共通点を見いだし、距離を縮めて関係性を良くするところにあります。したがって、自分が好きな話題を繰り出して一方的に話すのではなく、多少興味は薄くてもお互いが分かる共通の話題をピックアップすることが大切です。 同時に、以下のような一般的にタブーとされている話題は控えましょう。個人の思想や信条にダイレクトに関わることであったり、あまり人に言いたくない話であったりする可能性が高いからです。 政治 宗教 収入 学歴 家庭や家族の問題 対策③暗黙のルールが理解できない→自分の考えをいったん脇に置く 筆者の体験談 ある日、私は直属の上司である副部長から指示を受けて仕事をしていました。それを見ていた係長が猛然と「そんなことを今していてはダメだ!もっと他にやるべきことがあるだろう!」と筆者に指導をしはじめました。 当然、係長よりも副部長の方が上なので、「いや、でも副部長の指示なので...」と答えたところ、「上の人が言うからといって、そのまま鵜呑みにしてはダメだ!」となお一層怒られてしまいました。 後で先輩社員がこっそり教えてくれたのですが、その係長は、会社が何度もお願いをして社員になってもらったので、職位は係長でも発言力はとても大きい例外的な方だったのです。「いや、副部長が...」と返答したことは、そういった事情から考えると、取ってはいけない行動だったのでしょう。 対策 あれ?と思ったら、自分の考えをいったん脇に置きましょう。 副部長の指示に係長が反対の意見を言ってくる時点で「あれ?」と思うタイミングがあったはずです。そこで自分の考えを優先せず、周囲に「副部長からの指示とまったく逆のことを係長から言われて迷っているんですが...」と素直に聞いていれば、「ああ、それはね...」と内情を話してくれたかもしれません。 このように、一般的な常識とは異なる、その職場だけの「暗黙のルール」があることは珍しくありません。本を読んだり、過去の経験から学んだことが通用せず、「実際にその職場の人に聞いてみないと分からないこと」はどうしても存在するのです。 そのような場合、自分の中の「こうあるべき」はいったん脇に置き、周囲の人たちの行動を観察してその真似をしたり、以前に同様の仕事をした人に「どう進めたか」を聞いたりしてみましょう。そうすることで職場に溶け込んでいくことができます。 なぜビジネスマナーが必要なのか 仕事仲間とはいえ、良い関係を構築する「努力」が必要 どれだけ同じ場にいて一緒の時間を過ごしている「仲間」であっても、あくまで上司は上司、部下は部下、同僚は同僚です。一緒にいれば勝手に良い関係が構築されたり、いったん構築された良い関係が自動的に継続できたりするとは限りません。むしろ、意図的に「良好な人間関係」を築き、それを継続させるための努力が必要と言えます。 その努力を集約したものが、例えば、「雑談をして、ある程度お互いのことを知ってサポートし合う」や「報連相を適切にして余計な人間関係の摩擦をなくす」といったビジネスマナーなのです。 一般的には無意識に実践されているこの「ビジネスマナー」ですが、これを意識的に身に付けるようにすれば、職場での円滑なコミュニケーションに大いに寄与するのではないでしょうか。 努力するのと同時に、合理的配慮でより良い関係性を ただし、どれだけ職場で周囲とうまくやっていけるよう努力しても、自分一人では限界があるかもしれません。そのような場合には、会社と「合理的配慮」を相談することも検討しましょう。 例えば、報連相の喋り出しをテンプレート化しながら、仕事上のコミュニケーションをより円滑にするために「言葉になっていない意図は、汲み取ることが難しいので、できるだけ言葉や文章にして伝えてください」といった配慮を求めることができれば、より仕事がやりやすくなることでしょう。 ビジネスマナーを実践しながら、職場との合理的配慮を調整することで、より健康で安定的に働き続けることが可能になります。 しかし、自身の特性を過不足なく把握し、必要な合理的配慮を伝えられるようになるのには、また別の大変さがともないます。そんなときには、自分一人で悩むよりも専門家の手を借りることも検討してみましょう。 就労移行支援事業所ディーキャリアでは、働くことで悩みを抱えている発達障害のある方の支援をおこなっています。 就労移行支援事業所とは、障害のある方が就職するための「訓練・就職活動」の支援をおこなう障害福祉サービスの一つです。(厚生労働省の許認可事業) 就職とは人生の目的を実現するための通過点です。自分の「なりたい」姿を見つけ、障害特性への対策と自分の能力を活かす「できる」ことを学び、社会人として長く働くために「やるべき」ことを身に付ける。 「なりたい」「できる」「やるべき」の 3 つが重なりあうところに仕事の「やりがい」が生まれると、私たちは考えています。 もちろん、今の時点でサービスを利用する目的をが決めていなくても大丈夫です。 「まだやりたいことが決まっていない、将来のビジョンが見えていない」「何を目的にサービス利用をすべきかイメージが湧かない」「自分に合っているか分からない」 …と悩んでいる方も安心してお問い合わせください。一人ひとりのご状況や困りごとをヒアリングしながら、ご提案をさせていてだきます。 ご相談は無料です。フリーダイヤル、または、24 時間受付のお問い合わせフォームにて、お気軽にお問い合わせください(ご本人様からだけでなく、当事者のご家族の方や、支援をおこなっている方からのご相談も受け付けております)。 お電話(0120-802-146)はこちら▶ お問い合わせフォームはこちら▶ また、全国各地のディーキャリアでは、無料の相談会や体験会も実施しています。 全国オフィス一覧はこちら▶ 就労移行支援事業所ディーキャリアは、「やりがい」を感じながら活き活きと働き、豊かな人生を目指すあなたを全力でサポートします。お一人で悩まず、まずはお気軽にご相談ください。 編集担当 藤森ユウワ(ライター・編集) ベンチャー企業の社員として働きながら、兼業で個人事業主としてもライター・Webディレクターとして活動。 これまで5社を転職し、営業、営業企画、カスタマーサポート、マーケティングなどさまざまな職種を経験。 子どものころから「コミュニケーションが苦手」「段取が悪い」「集中力が続かない」などの困りごとがあり、社会人になってからも生きづらさを感じつつ何とか働いていたが、あるとき仕事内容が大きく変わったことがきっかけで困難が表面化し、休職や離職を経験。 36 歳で ADHD・ASD と診断される。 診断後、「就労移行支援事業所 ディーキャリア」を運営するデコボコベース株式会社でアルバイトしたことをきっかけに自分に合う仕事や働き方を模索し、現在の形に辿り着く。 誰かの「なるほど!」を作るライティングがモットー。 さまざまな職種を転々とする中、苦手を補うため自分用の業務マニュアルを自作してきた経験を活かして、記事や企画書、プレゼン資料、製品マニュアルなど、幅広く執筆の仕事を行っている。 自分の凸凹を補うためにITツールを使って工夫するのが好き。
発達障害のある方の合理的配慮事例|職場コミュニケーション編

発達障害の特性により「職場でのコミュニケーションが苦手」という方に向け、実際に提供されている合理的配慮事項と自己対処法をセットで紹介します。

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  • #合理的配慮
  • #障害者雇用
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合理的配慮とは、「障害による困りごとへの配慮を、企業や自治体、教育機関等の事業主(※)に求めることができる」という制度です(※以下、本文では「職場」と表記します)。合理的配慮について職場と調整をすることは、発達障害のある方が安定して長く働いていくために大切なポイントとなります。 では、具体的にどんな内容であれば、職場に合理的配慮を求めることができるでしょうか。 今回は、発達障害の特性がある方が抱えやすい「コミュニケーション」の苦手に対する配慮事例を紹介をします。 [toc] 相談前に押さえておこう〜合理的配慮の前提となる自己対処〜 「合理的」と付いているのには理由がある。 「障害者差別解消法」や「障害者雇用促進法」などの法律では、障害のある方に対し職場は合理的配慮の提供をおこなうことを義務づけています。 ただし、「障害者が求めたことは、どんな内容でも配慮してもらえる」というわけではありません。 法律では、職場が合理的配慮を提供する場合に「負担が重すぎない範囲で」と定められています。職場の側に配慮を求めるだけでなく、障害者の側も「自分でおこなえる対処」を提示して、互いに無理のない範囲をすり合わせることが必要です。 これが、単に「配慮」ではなく「合理的配慮」と書かれている理由です。 「合理的であるかどうか」を判断するポイントは、「障害が原因となる困難さのうち自己対処では対応しきれないことであり、かつ職場側にとっても重い負担がなく提供可能な範囲かどうか」ですので、しっかりと押さえておきましょう。 なお、合理的配慮については以下の記事で詳しく解説しています。実際に職場と合理的配慮の相談をする前に、ぜひご一読ください。 参考 合理的配慮とは?基礎知識をまとめました。 「合理的配慮」申請マニュアル 流れとポイントを紹介 合理的配慮のよくある質問集 困りごと・原因・自己対処の例・合理的配慮の例 合理的配慮の例を、職場で起こりやすいコミュニケーションの困りごと別に整理しました。実際に提供されている配慮事例とセットで、「原因はなにか」「自己対処として何ができるか」の例もまとめています。困りごとの原因は一人ひとりの特性によって異なるため、自己対処と合理的配慮の内容は「自分に合ったもの」にする必要があります。また、職場や職務内容によっては、以下の配慮の提供が難しいケースもあります。今回ご紹介するものは、あくまでも参考としてお読みください。 上司へ声掛けをするタイミングが分からず、報連相(報告・連絡・相談)ができない 原因の例 シングルレイヤー思考により、文脈や言外の意味理解が難しく、上司に話しかけてよいタイミングや場の空気が読めない 自己対処の例 「毎朝」「毎週月曜日」など頻度を定め、上司にメールで現在の状況を送る 日報を書いて上司に提出する 合理的配慮の例 「毎朝10分」「毎週1時間」など、頻度と時間を定めて、定時報告する時間を上司に予定してもらう 上司の方から定期的に状況を確認してもらう 曖昧な表現(なるべく早く、いい感じに、など)が理解できない 原因の例 ハイコントラスト知覚により、抽象的に表現された内容の要点を捉えることが難しく、具体的な数字や判断基準のない表現が受け入れにくくなる。など 自己対処の例 あいまいな指示を受けた際、そのまま引き受けてしまわずに「具体的な日時を決めてよいでしょうか?」「もう少し具体的に、どの程度の品質が必要でしょうか?」と確認をおこなう 合理的配慮の例 指示に具体的な期限や判断基準を入れてもらうようお願いする 締切の指示:×「なるべく早く」→ ○「△日の□時までに」 品質の指示:×「いい感じに」→ ○「社内検討用なので手書きのラフでOK」 話を聞きながらメモをとることが苦手 原因の例 シングルレイヤー特性により、聞いた内容を処理しながら、同時にメモを取ることが難しくなる。話の内容全体を把握しながら、要点を捉えることが苦手。など 自己対処の例 「ゆっくり話してもらう」「一つメモを取り終わったら、次の話をしてもらう」など、その場で相手にお願いする。 紙にペンでメモするだけでなく、「ボイスレコーダーを使う」などの方法も検討する 話の全部をメモしようとするのではなく、要点だけ(日付、人物、方法など)をキーワードでメモするようにする。電話であれば、電話メモのテンプレートを用意しておく 合理的配慮の例 メモが必要な口頭ではなく、なるべくメールやチャット等の文章で指示を出してもらうようにする 説明をするのが苦手 原因の例 衝動性(行動のブレーキの利かなさ)により、話そうとすることを整理する前に思いついたまま話し始めてしまう。頭の中だけで考えを整理することが苦手。など 自己対処の例 説明することをあらかじめ紙などに書き出し、5W1Hで整理してから話す。 その場で説明を始めず、少し待ってもらい、状況や考えを整理してから改めて説明する 口頭で説明せず、メールやチャット等、文章で回答する 合理的配慮の例 何か説明を求めるときには、口頭ではなくメールやチャット等で事前に依頼してもらうようにする 会議で説明を求めるときには、事前に通知して、考えを整理し準備する時間をもらうようにする 話を聞き続けるのが苦手 原因の例 衝動性(抑制の効かなさ)により、他のものに注意が向いてしまうと、そちらに意識を持っていかれてしまう。ワーキングメモリーの弱みにより、記憶にとどめておける情報量が少ないので、聞き続けると情報が処理しきれなくなる。など 自己対処の例 睡眠不足などにより集中力そのものが下がっていることがあるので、生活リズムを整える 話を聞くときにはPCの画面を消す・手元の資料を閉じるなど、他のものに注意が行かないよう工夫する 合理的配慮の例 一度に多すぎる情報を与えないよう、小出しにしてもらう。その上で、少し待ってメモや整理する時間をもらう 思ったことをそのまま口に出してしまう 原因の例 衝動性(行動のブレーキの効かなさ)により、思った瞬間には、すでに口に出てしまっている。(「口に出してはいけないな」と判断が終わる前に、すでに行動してしまっている)など 自己対処の例 思わず口に出してしまったことを、無理に取り繕おうとせず謝る。そのうえで、本来言おうとしていたことを言い直すように習慣づけする。 合理的配慮の例 話している際にパニックになっている様子が見受けられたら、「落ち着くための時間を設けてよい(5分休憩など)」旨を伝えてもらう 失言があったときには、その場で注意してもらうようにする(失言を謝る、言い直す習慣づけのため) 合理的配慮の相談をするための3ステップ ここまでご紹介してきたように、職場と合理的配慮を相談する際には、前提として「自己対処(セルフケア)として何ができるか」を考える必要があり、そのためには「原因は何か」を知っておく必要があります。 つまり、以下の3ステップで考えることが大切です。 ステップ1:自分の特性について知る ステップ2:自己対処として何ができるかを考える ステップ3:自分の特性と合った合理的配慮を探す(相談する) 発達障害の特性や、それによる困りごとは人それぞれです。「どのような特性があり、それに対してどのような対策が取れるのか」を知っておくことが、自分に合う対策方法や合理的配慮を見つけることへとつながるのです。 ただ、目の前の仕事や生活で困りごとを抱えている状態で、正しい知識を独学で身に付けることはたいへんです。 「自分の特性にあった自己対処は何をすればいいの?」「どのような形・タイミングで職場と相談すればいいの?」など、悩んでしまうことがあるかも知れません。 そんなときには、自分一人で抱え込まずに、専門家の手を借りることも検討してみましょう。 就労移行支援事業所ディーキャリアでは、働くことで悩みを抱えている発達障害のある方の支援をおこなっています。 就労移行支援事業所とは、障害のある⽅が就職するための「訓練・就職活動」の⽀援をおこなう障害福祉サービスの一つです。(厚⽣労働省の許認可事業) ご相談は無料です。フリーダイヤル、または、24 時間受付のお問い合わせフォームにて、お気軽にお問い合わせください(ご本人様からだけでなく、当事者のご家族の方や、支援をおこなっている方からのご相談も受け付けております)。 お電話(0120-802-146)はこちら▶ お問い合わせフォームはこちら▶ また、全国各地のディーキャリアでは、無料の相談会や体験会も実施しています。 全国オフィス一覧はこちら▶ 就労移行支援事業所ディーキャリアは、「やりがい」を感じながら活き活きと働き、豊かな人生を目指すあなたを全力でサポートします。お一人で悩まず、まずはお気軽にご相談ください。 執筆者 藤森ユウワ(ライター・編集) ベンチャー企業の社員として働きながら、兼業で個人事業主としてもライター・Webディレクターとして活動。 これまで5社を転職し、営業、営業企画、カスタマーサポート、マーケティングなどさまざまな職種を経験。 子どものころから「コミュニケーションが苦手」「段取が悪い」「集中力が続かない」などの困りごとがあり、社会人になってからも生きづらさを感じつつ何とか働いていたが、あるとき仕事内容が大きく変わったことがきっかけで困難が表面化し、休職や離職を経験。 36 歳で ADHD・ASD と診断される。 診断後、「就労移行支援事業所 ディーキャリア」を運営するデコボコベース株式会社でアルバイトしたことをきっかけに自分に合う仕事や働き方を模索し、現在の形に辿り着く。 誰かの「なるほど!」を作るライティングがモットー。 さまざまな職種を転々とする中、苦手を補うため自分用の業務マニュアルを自作してきた経験を活かして、記事や企画書、プレゼン資料、製品マニュアルなど、幅広く執筆の仕事を行っている。 自分の凸凹を補うためにITツールを使って工夫するのが好き。