ADHDの忘れっぽさは性格のせい?仕事のミスを減らす対策

口頭で受けた指示が、席に戻った途端に思い出せない。複数の作業を同時に進めていたら、いつの間にか一つ抜け落ちていた――。大人になってから仕事でこうしたミスが続くと、「注意が足りないのでは」「性格の問題かもしれない」と自分を責めてしまう方は少なくありません。
ADHD(注意欠如・多動症)の特性がある場合、こうした「忘れっぽさ」には、意志や努力だけでは補いにくい背景があると考えられています。この記事では、ADHDの忘れっぽさ対策を、就労移行支援の現場の視点から「自分でできる工夫」と「周囲に頼ってよい部分」に分けて整理します。
ADHDの「忘れっぽさ」とは何か
不注意という特性の一つとして現れる
厚生労働省の「こころの耳」では、ADHDを、発達水準からみて不相応に注意を持続させることが難しい、順序立てて行動することが苦手といった特徴が続き、日常生活に困難が生じている状態と説明しています。12歳以前からこうした特徴があり、学校・家庭・職場など複数の場面で困難がみられる場合に診断されるとされています(厚生労働省「こころの耳」用語解説)。
米国精神医学会の診断基準DSM-5-TRでも、「不注意」の症状例として、日々の活動で忘れっぽいこと、課題や活動に必要なものをなくすこと、指示に従えず課題をやり遂げられないことなどが挙げられています。いわゆる「忘れっぽさ」は、この不注意の一つの現れ方といえます。ただし、診断は複数の情報をもとに医師が行うものであり、似た傾向があるだけで当てはまるとは限りません。
忘れっぽさの背景として挙げられる、脳機能の特性
ADHDのある方の「忘れっぽさ」には、次のような特性が関係していると指摘されています(程度や現れ方には個人差があります)。
- ワーキングメモリの働きにくさ:情報を一時的に頭にとどめながら作業する力が働きにくく、指示を聞いても、別のことをしている間に抜けてしまう
- 不注意:注意が他に向きやすく、そもそも情報が記憶に残る前に流れてしまうことがある
- 取りかかりの難しさ(先延ばし):やるべきことは分かっていても着手のきっかけをつかみにくく、結果として後回しになり、忘れたような状態になる
- 時間感覚のズレ:作業にかかる時間や期限までの残り時間を見積もりにくく、「まだ大丈夫」が積み重なる
「忘れっぽい=ADHD」とは限りません。睡眠不足や強いストレス、気分の落ち込み、ほかの特性など、忘れやすさの背景はさまざまです。「自分はADHDかもしれない」と自己判断で結論づけず、気になる場合は医療機関に相談してみてください。
職場で起こりやすい「忘れっぽさ」あるある
支援の現場でも、仕事の場面での困りごととして、次のような声がよく聞かれます。
- 口頭での指示を聞いたはずなのに、席に戻ると内容を思い出せない
- 複数の業務を並行して進めると、どれか一つが抜け落ちてしまう
- 電話や声かけで作業が中断され、元の作業に戻るのを忘れる
- 期限や約束を頭では分かっているのに、当日まで意識に上がってこない
- 「確認したつもり」で進めてしまい、後からミスに気づく
これらは能力ややる気の問題というより、「覚えておくこと」に頼る仕事の進め方との相性の問題として捉え直せることが多くあります。相性の問題であれば、進め方を変えることで、ミスを減らす余地があります。
ADHDの忘れっぽさ対策:自己対処と周囲のサポート
自己対処:記憶を「外部化」する
基本の考え方は、「覚えておく」のをやめて「見て思い出せる状態をつくる」ことです。頭の外に記憶を出す、つまり外部化します。
- 指示や気づきを、その場でメモや記録に残す(スマホのメモアプリ、手帳、付箋など)
- リマインダーやアラームで、期限や予定を知らせてもらう
- 大きな作業を細かいタスクに分け、チェックリストにして一つずつ消していく
- 聞いた指示は復唱して、聞き漏れや認識違いをその場で確認する
大切なのは、「続けられる方法」を選ぶことです。どんなに評判のよい方法でも、手間が多ければ続きません。次の章でご紹介するように、自分に合う方法は人によって異なります。
周囲にお願いしたいサポート
自分の工夫だけでは補いきれない部分は、職場に協力をお願いしてよい部分です。たとえば次のようなものがあります。
- 業務の指示を、チャットやメールなどの「文字」でもらう
- 週1回など、タスクの優先順位を一緒に確認するミーティングの時間を設ける
- 一度に出される指示の量を絞り、一つずつ伝えてもらう
合理的配慮の考え方:すべてを自分で克服しなくてよい
特性による困りごとを、すべて自分の努力で克服する必要はありません。まずは自分でできる範囲を、自己管理の方法として整える。そのうえで、どうしても難しい部分については、職場に配慮を求めることができます。
厚生労働省の合理的配慮指針では、障害のある方から事業主に、支障となっている事情や必要な配慮を申し出て、話し合ったうえで提供される仕組みが示されています。配慮は、事業主にとって過重な負担にならない範囲で、個々の状況に応じて検討されるものです。(厚生労働省「合理的配慮指針」)。
「配慮が要らない職場」を探すのではなく、自分の特性と工夫を整理したうえで、必要な配慮を言葉にして伝える。この力を育てることが、長く働き続けることにつながります。
ディーキャリア川崎オフィスでの取り組み
当オフィスの訓練では、よく知られた対策をそのまま当てはめるのではなく、実際に試しながら「自分に合う方法」を見つけることを大切にしています。ここでは、支援の中で見られるパターンを、個人が特定されないよう一般化してご紹介します。
パターン①:定番のリマインダーアプリが続かなかった
「忘れっぽさ」の対策として、まず思い浮かぶのがスマホのリマインダーアプリです。しかし、実践してみると三日坊主になってしまう方もいます。振り返ってみると、そもそもアプリに予定を登録すること自体を忘れてしまう、新しいものへの関心が長続きしにくい、といった特性が影響していることがあります。
そこで、手間がかからず毎日目に入る方法として、付箋アプリを活用して、PCの画面に表示するやり方を試したところ、無理なく続いたというケースがあります。デジタルかアナログかに正解はなく、「登録の手間が少ない」「自然と目に入る」といった、続く条件を見つけることがポイントです。
パターン②:「忘れっぽさ」が原因だと思っていたが、実は別の要因だった
前職で業務を納期通りに進められなかった経験から、「自分は忘れっぽいからだ」と考えていた、というお話もあります。
ところが訓練で作業の進め方を記録して振り返ってみると、忘れていたというより、別の特性が影響していたと分かることがあります。たとえば、作業の取りかかりが遅れる、所要時間を見積もりにくい、優先順位をつけにくい、といったことです。
原因の見立てが変われば、効果的な対策も変わります。「忘れっぽさ」と思い込んでメモを増やしても改善しなかったのが、着手の仕組みづくりに切り替えたことで進めやすくなる、といったことも起こり得ます。自分のつまずきを客観的に見極めることは、対策の精度を上げる第一歩です。
まとめ:自分に合ったADHDの忘れっぽさ対策を、練習しながら見つける
ADHDの忘れっぽさ対策は、「気をつける」ことではなく、「仕組みでカバーする」ことが基本です。記憶を外部化する自己対処を整えたうえで、それでも難しい部分は、文字での指示や優先順位の確認といった配慮を求めてよい部分です。
就労移行支援の訓練では、自分に合う方法を試し、特性の理解と、周囲への伝え方を繰り返し練習できます。回数を重ねるほど、理解や伝え方の精度が上がり、就職後に「何に困っていて、何があれば力を発揮できるか」を自分の言葉で説明できるようになります。それが職場での定着につながっていきます。
「自分の忘れっぽさの原因を整理したい」「仕事で使えるメモの工夫を一緒に探したい」という方は、ディーキャリア川崎オフィスの見学・ご相談をご活用ください。
参考・出典
・厚生労働省「こころの耳」用語解説「注意欠陥性多動障害(ADHD)」:https://kokoro.mhlw.go.jp/glossaries/word-1647/
・厚生労働省「合理的配慮指針」(平成27年厚生労働省告示第117号):https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11600000-Shokugyouanteikyoku/0000082153.pdf
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