「聞いているのに動けない」のはなぜ?傾聴訓練で見えてきた、発達障害と”聴く力”の話
こんにちは!
ディーキャリア川崎オフィス、生活支援員の伊藤です。
「指示を聞いたはずなのに、何から手をつければいいかわからなくなる」「話を聞きながらメモをとるのが苦手」——そんな悩みを持つ方は少なくありません。ディーキャリア 川崎オフィスでは、こうした働く上での「聴く力」をトレーニングする傾聴訓練を定期的に行っています。今回はその内容をご紹介します。
POINT 1「聞く」と「聴く」——その違いをご存知ですか?
傾聴を理解する上で、まずこの二つの言葉の違いを押さえておきましょう。
「聞こえてはいるけれど、理解が追いついていない」「話を聴きながら別のことを考えてしまう」——これはまさに「聞く」にとどまっている状態です。職場で求められるのは、相手の意図を正確に受け取り、行動につなげる「聴く」こと。この訓練ではその力を段階的に育てていきます。
POINT 2傾聴って、ただ静かに聞くだけじゃないんです
「傾聴」というと、カウンセリングのように静かに話を聞くイメージを持たれる方もいるかもしれません。就労支援の場でいう傾聴スキルは少し違います。
職場で求められる傾聴とは、「聴いていることを相手に伝えながら、正確に情報を受け取るスキル」のことです。うなずきや相槌のタイミング、メモのとり方、わからないことを確認する力——こうした要素が組み合わさって、はじめて「聴けている」状態になります。
- 話を聴きながらメモをとるコツ
- 指示の中の「曖昧な点」に気づく力
- わからないときに確認できるようになる
- 自分がどこで手が止まりやすいかを知る(自己理解)
POINT 3今回の訓練:「指示を聴き取る」ワーク
この日のテーマは、「口頭で指示を受けたとき、どれだけ正確に情報を整理できるか」です。
スタッフが「特性プレゼンの資料を今日中に仕上げてほしい」という口頭指示を読み上げ、参加者はそれを聴きながらメモをとります。そのあと、各自がまとめた内容と気づいた「曖昧な点」をチャットで共有しました。
「今日中に完成させること」「以前の資料をベースにすること」「レイアウトを見やすくすること」——同じ指示を聴いても、参加者ごとに整理の仕方はさまざまでした。ある方は「聞き慣れない言葉の意味が正確にわからなかったので確認が必要」と気づきを共有。別の方は「使用ツールはPowerPoint限定なのか?」という新たな視点を提示しました。
POINT 4「手が止まった」気づきを、特性理解に活かす
訓練の後半では、「指示を聴いていて手が止まりそうになったのはどこか?」を振り返る時間を設けました。参加者の気づきを、特性の観点から整理してみます。
聴覚処理・音の聞き取りに関する特性
訓練での気づき
「”レイアウト”という言葉が別の言葉に聞こえてしまった」「口頭だけの説明は途中で聞き取れなくなった」という声がありました。
音が正確に処理されにくい、または似た音を混同しやすいという特性が影響している可能性があります。聴覚情報の処理に負荷がかかると、内容の理解が追いつかなくなることもあります。
求められる配慮の例
口頭指示と合わせて書面・チャットでの補足をお願いする、重要な内容はゆっくり・はっきり伝えてもらうよう依頼する。
情報処理・同時処理に関する特性
訓練での気づき
「話を聴き終わってから要点をまとめる方が自分には合っていると気づいた」「聴いている最中はどこが重要かわからず、話し終えてからメモした」という声がありました。
「聴く」と「書く」を同時におこなうことに負荷がかかる特性が見られます。情報を一度に並行処理することが難しく、段階を分けることで力を発揮しやすいタイプといえます。
求められる配慮の例
指示を聴いた後に「整理する時間」を少しもらう、録音や文字起こしを活用することを職場に相談する。
曖昧さへの敏感さ・不確定情報への対処
訓練での気づき
「”手直しが入る”という未確定な情報で、どこまでやればいいか迷った」「5W1Hで指示してほしいと思った」という声がありました。
曖昧な指示や未確定な情報が残ると、判断の基準がなくなり、行動に移れなくなることがあります。これは「完璧にやらなければ」という意識の強さや、不確実な状況への不安感が背景にある場合もあります。逆に言えば、明確な基準があれば力を発揮しやすいという強みでもあります。
求められる配慮の例
指示を受ける際に「最低限の完成形はどの状態か」を確認することを習慣化する。職場に対しては、期限・優先順位・完成基準を具体的に示してもらうよう依頼する。
質問・確認のタイミングに関する特性
訓練での気づき
「その場で質問するのではなく、後から時間をかけて整理してから確認する傾向がある」という自己分析がありました。
その場での即時判断・即時発言が難しく、情報を内側で整理してから行動するタイプといえます。焦って聴いていると混乱が生じやすく、「後で確認しよう」と判断を先送りにするパターンが生まれやすくなります。
求められる配慮の例
「後で確認メモ」を作る習慣をつける、「指示の後で質問時間を設けてほしい」と職場に伝える。その場での即答を求められない環境をあらかじめ相談しておく。
特性による困りごとは、努力だけで完全になくすことは難しい場合があります。大切なのは、「自分がどこでつまずきやすいか」を知った上で、必要な配慮を職場に求めることです。
「書面でも指示をもらえますか」「完成基準を教えてもらえますか」——こうした一言を言えるようになることが、長く安心して働き続けるための重要なスキルです。ディーキャリアの訓練では、自己理解を深めながら、自分に合った「配慮の求め方」も一緒に練習しています。
POINT 5「わからないことに気づく力」が就職後に活きる
発達障害・精神障害のある方の中には、指示を聴いた時点では「わかった気がする」のに、いざ取り組もうとすると何をすればいいかわからなくなる、という経験をされた方も多いです。
この訓練でめざすのは、そのギャップに自分で気づけるようになることです。「ここが曖昧だ」「これを確認しないと進められない」と感じる力は、職場でのミスを減らし、「自分から確認できる人」として評価につながります。
- 1まず聴く——全体の流れを把握しながら、要点をメモする
- 2整理する——「決定事項」と「曖昧な点」に分けて考える
- 3確認する——不明点をそのままにせず、適切なタイミングで確認・配慮を求める
- 口頭指示を聴き取る力・メモをとる習慣が身につく
- 自分がどの場面で混乱しやすいかを客観的に知ることができる
- 特性に関連した困りごとを言語化できるようになる
- 「確認する」「配慮を求める」ことへの心理的ハードルが下がる
- 自分に合ったコミュニケーション方法を一緒に探せる
ディーキャリア 川崎オフィスでは、こうした訓練を通じて、「働き続けるための自己理解」と「配慮の求め方」を丁寧にサポートしています。利用を検討されている方・ご家族の方は、まずはお気軽に見学・相談にいらしてください。


