「親なきあと」が心配な方へ|障害のある子の将来に向けて今からできる準備
第1部|「親なきあと」と障害のある子の将来を考える
親なきあと、障害のある子はどう生活していくのだろう。
障害のある子どもを支える家族にとって、将来への不安は大きなテーマです。
「自分が元気なうちは支えられる。でも、その先はどうなるのか」
「一人で生活できるのだろうか」
「お金の管理は大丈夫だろうか」
「困ったとき、誰に相談すればよいのだろう」
こうした心配を抱えることは珍しくありません。
親なきあとと障害のある子の生活を考えると、お金や住まいに目が向きやすくなります。しかし、準備したいことはそれだけではありません。
生活を支えてくれる人はいるか。相談できる場所はあるか。そして、本人はどのような生活を望んでいるのか。
こうしたことも含めて、少しずつ整理していくことが大切です。
「親なきあと」は親が亡くなった後だけではない
「親なきあと」という言葉から、親が亡くなった後を想像する方も多いでしょう。
しかし、実際にはもっと広く考える必要があります。
例えば、親自身が高齢になることがあります。病気や入院によって、これまでと同じ支援ができなくなることもあります。
さらに、介護が必要になる可能性もあります。
つまり、親が子どもを支えられなくなる時期は、親が亡くなった後とは限りません。
そのため、「まだ元気だから大丈夫」と先送りするのではなく、余裕のある時期から準備を始めることが重要です。
すべてを今すぐ決める必要はない
一方で、将来の生活を今すぐすべて決める必要もありません。
10年後、20年後には本人の状態が変わっているかもしれません。利用できる制度や地域の社会資源が変わる可能性もあります。
そのため、
今できることを整理する。
本人ができることを少しずつ増やす。
家族以外の相談先を作っておく。
このように段階的に準備することが現実的です。
親なきあとに不安になりやすい5つのこと
親なきあとと障害のある方の生活について考えると、不安はいくつも出てきます。
特に整理しておきたいのは、次の5つです。
1.住まい
「将来、どこで暮らすのか」は大きなテーマです。
今の自宅で暮らす方法もあります。一人暮らしやグループホームなどを検討する場合もあります。
ただし、大切なのは「どの住まいが正解か」を今決めることではありません。
本人がどの程度生活できるのか。どんな支援が必要なのか。本人はどんな暮らしを希望しているのか。
これらを確認することから始めます。
2.お金
生活にはお金が必要です。
収入や年金、預貯金だけではありません。日常的な金銭管理を誰がおこなうのかも重要です。
例えば、買い物は自分でできても、大きな契約の判断が難しい方もいます。
反対に、支援があれば自分で管理できる方もいます。
そのため、「できる・できない」の二択ではなく、どこまで本人ができて、どこに支援が必要なのかを整理します。
3.健康や医療
通院や服薬を家族が管理しているケースもあります。
親が支援できなくなった場合、本人がどこまで対応できるでしょうか。
病院へ行く。
症状を医師へ説明する。
薬を管理する。
体調が悪いときに相談する。
こうした日常の行動も、親なきあとに障害のある方が地域で暮らすための重要な準備になります。
4.日常生活
食事、掃除、洗濯、買い物、予定管理などもあります。
全部を一人でできる必要はありません。
便利な道具を使う方法があります。福祉サービスなどを利用する方法もあります。
重要なのは、本人が苦手なことを家族がすべて代わりに行い続けるのではなく、本人ができる方法を一緒に探しておくことです。
5.困ったときの相談先
そして、特に重要なのが相談先です。
家族がこれまで、
「困ったときに相談する人」
「手続きを一緒にする人」
「本人の特徴を説明する人」
という役割を担ってきた家庭もあるでしょう。
しかし、将来も家族だけで支え続けられるとは限りません。
そのため、家族以外にも本人を知っている人や相談できる場所を作っておくことが大切です。
厚生労働省でも、障害のある人や家族などを対象とした相談支援の仕組みが示されています。住まいに関する支援や、必要に応じた成年後見制度の利用支援なども位置づけられています。

親だけで支える仕組みから「地域で支える仕組み」へ
親なきあとと障害のある方の生活を考えるとき、家族がすべてを準備しなければならないと感じるかもしれません。
しかし、本来は家族だけで抱えるものではありません。
日本には、相談支援をはじめ、地域生活を支えるさまざまな制度や社会資源があります。
厚生労働省は、地域生活支援事業について、障害のある方が地域の特性や本人の状況に応じて日常生活や社会生活を送れるよう、市町村などが実施する仕組みとして位置づけています。
さらに、2024年4月からは、基幹相談支援センターの設置や地域生活支援拠点等の整備が市町村の努力義務となっています。地域で相談を受け止める体制の強化も進められています。
つまり、将来に向けて大切なのは、
「親の代わりになる一人を探すこと」だけではありません。
本人を支える人や機関とのつながりを少しずつ増やし、家族だけに集中している支援を地域へ広げていくことも重要です。
本人を抜きにして将来を決めない
そして、もう一つ忘れてはいけないことがあります。
それは、本人自身の希望です。
家族としては、
「一人暮らしは心配」
「グループホームの方が安心」
「お金は誰かに管理してもらった方がいい」
と考えることもあるでしょう。
もちろん、安全を考えることは重要です。
しかし、実際にその生活を送るのは本人です。
本人はどこで暮らしたいのか。
どんな生活をしたいのか。
何は自分でやってみたいのか。
どんなときに支援してほしいのか。
こうした希望を確認しながら準備することが大切です。
親なきあとと障害のある子の将来を考えることは、親だけで将来を決めることではありません。
本人と一緒に、「これからどんな生活を作っていくか」を考えることでもあります。
次の第2部では、親なきあとに備えて整理しておきたい「住まい・お金・成年後見制度」について、具体的に見ていきます。成年後見制度についても、「とりあえず利用すれば安心」と単純に考えず、どのような制度なのかを確認していきます。
第2部|親なきあとに備える「住まい・お金・制度」
親なきあとと障害のある方の生活を考えるとき、大きな不安になりやすいのが「住まい」と「お金」です。
「今の家に住み続けられるのか」
「一人暮らしはできるのか」
「生活費は足りるのか」
「お金の管理が難しくなったらどうするのか」
こうした問題は、本人の生活に直接関わります。
しかし、今の段階ですべてを決める必要はありません。
大切なのは、現在の本人の力と必要な支援を整理し、将来の選択肢を増やしておくことです。
親なきあとと障害のある方の「住まい」
住まいを考えると、「一人暮らし」か「グループホーム」かという二択になりがちです。
しかし、実際には本人の状況によって考え方は変わります。
現在の自宅で生活を続ける人もいます。
賃貸住宅などで一人暮らしをする人もいます。
共同生活援助(グループホーム)を利用する人もいます。
さらに、必要な障害福祉サービスなどを利用しながら地域で生活する方法もあります。
そのため、まず考えたいのは「どこに住ませるか」ではありません。
本人がどのような生活を送りたいのか。
そこから考えることが大切です。
一人暮らしに必要なのは家事能力だけではない
一人暮らしというと、
料理ができる。
掃除ができる。
洗濯ができる。
こうした家事能力をイメージしやすいでしょう。
もちろん、それらも必要です。
しかし、実際の生活ではそれ以外の力も必要になります。
例えば、決められた日にごみを出す。
公共料金を支払う。
郵便物を確認する。
必要な買い物をする。
体調が悪ければ病院へ行く。
予定を管理する。
困ったときには誰かへ相談する。
こうしたことも地域生活の一部です。
一方で、全部を一人でできる必要はありません。
本人ができる部分は自分で行う。そして、難しい部分は道具やサービス、人の支援を利用する。
この組み合わせを考えることが重要です。
「できるか」より「何があればできるか」
例えば、服薬を忘れることがあるとします。
そこで、
「一人では薬を管理できない」
と判断するだけではありません。
スマートフォンのアラームを使う方法があります。
薬を曜日ごとに整理する方法もあります。
必要に応じて支援を受ける方法も考えられます。
つまり、
「できる・できない」ではなく、「何があればできるのか」
と考えます。
これは、親なきあとと障害のある方の生活を考える上で、とても大切な視点です。

親なきあとに備えて「お金」を整理する
住まいと同じくらい心配なのがお金です。
「親がいなくなった後、生活費はどうするのか」
という不安を持つ家族も多いでしょう。
ここでは、将来の資産だけでなく、日常生活のお金をどう管理するかという視点も重要です。
まず現在のお金の流れを把握する
将来を考える前に、現在の生活にどれくらいのお金が必要なのかを整理します。
例えば、
- 家賃
- 食費
- 水道・光熱費
- 通信費
- 医療費
- 日用品
- 交通費
- 趣味や余暇
などがあります。
さらに、本人にどのような収入があるのかも確認します。
給与がある人もいます。
障害年金などを受給している人もいます。
家族から生活費の支援を受けている場合もあります。
まずは、現在の収入と支出を本人と一緒に把握することが準備の第一歩です。
金銭管理も「全部できる・できない」で考えない
発達障害や知的障害などのある方では、金銭管理に支援が必要な場合があります。
しかし、「お金の管理が苦手」という言葉だけでは、必要な支援は分かりません。
例えば、
日常の買い物は問題なくできる。
しかし、大きな金額になると判断が難しい。
毎月の支払いを忘れてしまう。
インターネットで衝動的に購入してしまう。
契約内容を理解することが難しい。
このように、困り方は人によって異なります。
本人ができる部分を残す
支援を考える際には、家族や支援者がすべて管理する方法だけではありません。
例えば、1週間分の生活費を分けて管理する方法があります。
口座を目的別に分けることもできます。
家計簿アプリなどを利用する方法もあります。
そのため、本人ができる部分まで周囲がすべて代わりに行うのではなく、本人が管理できる仕組みを一緒に考えることも大切です。
成年後見制度を使えばすべて安心?
親なきあとと障害のある方の生活を調べていると、「成年後見制度」という言葉を目にすることがあります。
成年後見制度は、認知症、知的障害、精神障害などによって判断能力が十分ではない方を法律的に支援する制度です。
財産管理や契約などについて支援を受けることができます。
ただし、
「親なきあとが心配だから、とりあえず成年後見制度を利用する」
と単純に考えるものではありません。
成年後見制度には種類がある
成年後見制度には、大きく分けて法定後見制度と任意後見制度があります。
法定後見制度では、本人の判断能力に応じて「後見」「保佐」「補助」という類型があります。
一方、任意後見制度は、本人に十分な判断能力があるうちに、将来支援してもらう人や内容を契約で決めておく仕組みです。
制度の利用が必要かどうかは、本人の判断能力や生活状況などによって異なります。
そのため、制度名だけを見て決めるのではなく、専門機関へ相談しながら検討することが大切です。
成年後見制度だけでは日常生活のすべてを支えられない
ここも重要なポイントです。
成年後見人等がつけば、日常生活のすべてを代わりに行ってもらえるわけではありません。
例えば、
毎日の食事を作る。
掃除をする。
通勤に付き添う。
本人が寂しいときに話を聞く。
こうした日常生活そのものを成年後見人等が直接担う制度ではありません。
つまり、財産管理や契約などを支える仕組みと、日常生活を支える仕組みは分けて考える必要があります。
そのため、親なきあとへの準備では、一つの制度だけですべてを解決しようとしないことが大切です。
「誰に何を頼むか」を分けて考える
親は、普段の生活の中で多くの役割を担っています。
お金を管理する。
病院へ付き添う。
行政手続きをする。
本人の相談に乗る。
生活の変化に気付く。
必要な支援先へ連絡する。
これだけの役割を、将来一人の支援者にすべて引き継ぐのは現実的ではありません。
そこで、
お金のことは誰に相談するのか。
生活のことは誰に相談するのか。
福祉サービスについては誰と考えるのか。
医療についてはどこにつながっておくのか。
というように、役割を分けて考えます。
このように複数の人や機関とつながっておくことが、親なきあとと障害のある方の生活を支える土台になります。
一人暮らしを「練習してみる」という考え方
将来の生活を考える際、いきなり完全な一人暮らしを始める必要はありません。
まず本人が現在できていることを確認します。
その上で、できそうなことを少しずつ経験していく方法があります。
例えば、自分で買い物をする。
自分で予定を管理する。
家族がいない日に食事を準備する。
分からないことを家族以外の人へ相談してみる。
こうした経験を重ねることで、本人自身も「できること」と「支援が必要なこと」を理解しやすくなります。
将来のために「今の生活」を整える
親なきあとへの準備というと、何十年も先のことを決めるイメージがあります。
しかし、将来の生活は現在の生活の延長線上にあります。
今、自分でできることを増やす。
苦手なことへの対処方法を見つける。
家族以外へ相談する経験を作る。
自分の希望を言葉にする。
こうした経験が、将来の生活につながっていきます。
そのため、親なきあとと障害のある方の将来を考えることは、「親がいなくなった後だけを考えること」ではありません。
本人が今から少しずつ、自分の生活を作っていくことでもあります。
次の第3部では、家族だけで抱え込まないために、相談支援や地域の支援者とどうつながっていくのかを具体的に見ていきます。
第3部|親なきあとに備えて「家族以外」とつながる
親なきあとと障害のある方の生活を考えるとき、住まいやお金と同じくらい重要なのが「人とのつながり」です。
これまで親が、本人にとって一番身近な相談相手だった家庭も多いでしょう。
体調が悪いときに相談する。
大切な郵便物を一緒に確認する。
行政手続きを手伝う。
仕事で困ったときに話を聞く。
必要な支援機関へ連絡する。
こうした役割を、日常的に親が担っていることがあります。
しかし、親なきあとに障害のある方が地域で生活していくためには、家族以外にも相談できる人や場所を作っておくことが大切です。
「親の代わり」を一人探す必要はない
親なきあとへの準備というと、
「自分の代わりに、この子を支えてくれる人を探さなければ」
と考えることがあります。
しかし、親が担ってきた役割は一つではありません。
生活の相談。
お金の管理。
医療機関との連絡。
福祉サービスの調整。
仕事についての相談。
緊急時の対応。
これだけの役割を、一人の支援者にすべて任せることは現実的ではありません。
そこで大切になるのが、複数の人や機関で支えるという考え方です。
「支援のチーム」を少しずつ作る
例えば、生活について相談できる人がいる。
医療について相談できる場所がある。
福祉制度について相談できる人がいる。
働くことについて相談できる支援者がいる。
このように役割を分けることができます。
すべての支援者が常に集まる必要はありません。
大切なのは、本人が困ったときに、
「このことなら、ここへ相談できる」
と分かる状態を作っておくことです。
相談支援は何をしてくれる?
障害福祉の分野には「相談支援」という仕組みがあります。
相談支援では、障害のある方や家族から生活上の相談を受けます。また、必要な情報提供や福祉サービスの利用支援などを行います。
障害福祉サービスを利用する場合には、計画相談支援を利用することもあります。
ただし、相談支援専門員が本人の生活すべてを代わりに行うわけではありません。
本人の希望や困りごとを確認する。
必要なサービスや社会資源を一緒に考える。
関係する支援機関との連携を図る。
こうした役割を担います。
親なきあとに備える地域の相談体制
相談先は一つだけではありません。
市区町村の障害福祉担当窓口があります。地域によっては、基幹相談支援センターなどもあります。
また、本人の状況によっては医療機関や障害福祉サービス事業所などとのつながりも重要です。
さらに、働いている方であれば、職場や就労関係の支援機関との関係もあります。
つまり、親なきあとと障害のある方の生活を、一つの制度だけで支えるわけではありません。
本人の生活全体を見ながら、必要な社会資源を組み合わせていくことが重要です。
緊急時についても考えておく
普段は安定して生活できていても、急な出来事が起こる可能性があります。
例えば、親が突然入院する。
本人の体調が急に悪くなる。
家で生活を続けることが難しくなる。
このような場合です。
そのため、日常生活の支援だけではなく、「もしものとき、どこへ相談するのか」も確認しておくと安心です。
地域生活支援拠点等は、障害のある方の地域生活を支える体制として、相談や緊急時の受け入れ・対応などの機能を担う仕組みです。
ただし、整備状況や具体的な利用方法は地域によって異なります。

親が元気なうちに「相談する経験」を作る
支援機関の連絡先を知っているだけでは、実際に困ったときに相談できない場合があります。
特に、これまで困ったことをすべて親へ相談してきた方の場合、
「何を相談したらいいのか分からない」
「どう説明したらいいのか分からない」
ということもあります。
そのため、親が元気なうちから、家族以外へ相談する経験を作ることが大切です。
親がすぐに答えないことも練習になる
例えば、本人が困ったとき、親がすぐに答えを出している家庭もあるでしょう。
もちろん、必要な支援をすることは大切です。
一方で、状況によっては、
「誰に聞けば分かるかな」
「まず自分で相談してみようか」
と本人と一緒に考えることもできます。
そして、本人が支援者へ相談してみる。
必要なら親が横で補足する。
慣れてきたら、本人が中心になって話す。
このように少しずつ経験を重ねる方法があります。
親なきあとに障害のある方が相談できるようになるためには、親がいなくなってから初めて相談するのではなく、今から経験しておくことが重要です。
本人のことを家族だけが知っている状態を減らす
もう一つ確認しておきたいのが、本人に関する情報です。
例えば、
どんなことが得意なのか。
どんな場面で困りやすいのか。
体調を崩す前にどんな変化があるのか。
服用している薬は何か。
どの医療機関へ通っているのか。
困ったときに有効な対処方法は何か。
こうした情報を親だけが把握している場合があります。
必要な情報を整理しておく
すべての情報を誰にでも伝える必要はありません。
しかし、必要な情報を本人と一緒に整理しておくことは役立ちます。
例えば、
- 医療機関や相談先
- 服薬に関する情報
- 緊急連絡先
- 利用しているサービス
- 本人が困りやすい場面
- 有効な対処方法
- 本人が大切にしていること
などです。
情報が変われば更新します。
つまり、一度作って保管して終わりではありません。
本人の生活に合わせて情報も見直していくことが重要です。
「支援を受ける力」も将来への準備
自立というと、「一人でできることを増やす」と考えがちです。
もちろん、それも大切です。
しかし、社会の中で誰にも頼らず生活している人はほとんどいません。
分からなければ専門家へ相談する。
体調が悪ければ医療機関を利用する。
難しい手続きでは助けを求める。
これは障害の有無にかかわらず行っていることです。
そのため、必要なときに支援を求められることも、地域で生活するための大切な力と考えられます。
親なきあとで大切なのは本人の人間関係
制度やサービスだけでは補えないものもあります。
友人との関係。
職場の人との関係。
地域で顔を合わせる人。
趣味を通じたつながり。
本人にとって安心できる人間関係は、生活の豊かさにも関係します。
そのため、親なきあとと障害のある方の将来を考える際には、「誰が支援するのか」だけでなく、「本人がどんな人たちと生活していくのか」という視点も大切です。
家族以外との関係を今から育てる
家族以外との関係は、急に作れるものではありません。
そのため、本人が参加できる場所や活動を少しずつ広げていく方法があります。
仕事をしている方なら、職場での関係があります。
地域活動や趣味を通じて人とつながる方もいます。
福祉サービスの利用を通して、支援者との関係ができる場合もあります。
本人に合った方法で、「家族以外にも自分を知っている人がいる」状態を少しずつ作っていくことが、将来への備えになります。
親なきあとを考えることは「今の生活」を豊かにすること
将来への準備というと、不安な話ばかりに感じるかもしれません。
しかし、親なきあとへの準備は、将来のためだけに行うものではありません。
本人が自分で選ぶ経験を増やす。
家族以外へ相談できるようになる。
自分の得意・不得意を知る。
地域とのつながりを作る。
こうした取り組みは、現在の本人の生活にも役立ちます。
つまり、親なきあとへの備えは、
「親がいなくなった後を何とかする準備」だけではありません。
本人が今から自分らしい生活を作っていく準備でもあります。
次の第4部では、これまでの内容をまとめながら、親なきあとに向けて「今から始められる準備」を具体的に整理します。 また、本人の自己理解や働くことも含め、将来の生活をどう考えていくかにつなげます。
第4部|親なきあとに向けて、今からできる準備
ここまで、親なきあとと障害のある方の生活について考えてきました。
住まい、お金、医療、日常生活、相談先。
考えることが多く、「何から始めればいいのだろう」と感じる方もいるかもしれません。
しかし、すべてを一度に準備する必要はありません。
大切なのは、将来の生活を今のうちに完成させることではなく、本人が少しずつ家族以外の人や地域とつながり、自分の生活を作っていくことです。
親なきあとに向けて、まず「今」を整理する
将来を考えるためには、まず現在の生活を整理します。
例えば、
- 本人が自分でできていること
- 家族が支援していること
- 道具や工夫があればできること
- 家族以外から支援を受けていること
- 今後経験しておきたいこと
- 困ったときの相談先
などです。
ここで大切なのは、できないことだけを探さないことです。
「一人でできる」
「支援があればできる」
「今は家族が行っている」
と分けて考えると、必要な準備が見えやすくなります。
家族がしていることを書き出してみる
特に確認したいのが、家族が日常的に行っている支援です。
例えば、通院の予約を取っている。
薬を確認している。
郵便物を整理している。
お金を管理している。
予定を伝えている。
本人が困ったときに相談に乗っている。
一つひとつは小さなことでも、書き出すと多くの役割を家族が担っていることがあります。
その中から、本人自身でできそうなことや、家族以外の支援につなげた方がよいことを少しずつ整理します。
「本人が選ぶ経験」を増やしていく
親なきあとと障害のある方の将来を考えると、家族は安全を優先したくなることがあります。
もちろん、安全への配慮は必要です。
しかし、将来の生活をすべて家族が決めてしまうと、本人自身が選ぶ経験を持ちにくくなります。
今日何を食べるか。
休日をどう過ごすか。
どんな服を買うか。
どんな仕事をしたいか。
将来どこで暮らしたいか。
生活には大小さまざまな選択があります。
小さな自己決定から始める
いきなり大きな決断を任せる必要はありません。
まずは日常生活の小さな選択から始める方法があります。
そして、選んだ結果を振り返ります。
うまくいけば、その経験を次に活かせます。
うまくいかなかった場合も、「失敗したからもう任せない」で終わらせません。
何が難しかったのか。
次はどんな工夫があればよいのか。
一緒に考えることができます。
こうした経験を重ねることが、本人自身の生活を作る力につながります。
親なきあとに備えて「本人の説明書」を作る
家族が本人のことを詳しく知っていても、その情報が他の人へ伝わっているとは限りません。
そこで、本人と一緒に必要な情報を整理しておく方法があります。
いわゆる「本人の説明書」のようなものです。
例えば、
基本的な情報
利用している医療機関や福祉サービス、緊急連絡先など。
本人の特徴
得意なこと、苦手なこと、理解しやすい伝え方など。
体調について
体調を崩す前のサインや、有効な対処方法など。
生活について
生活リズム、金銭管理、服薬、食事などで必要な支援。
本人の希望
どんな生活をしたいのか。何を大切にしているのか。
こうした情報を整理しておくと、支援者が変わった場合にも役立ちます。
ただし、一度作って終わりではありません。
本人の生活や考え方は変化します。そのため、本人と一緒に定期的に見直すことが大切です。
働くことも将来の生活につながっている
親なきあとと障害のある方の生活を考えるとき、住まいや福祉制度だけではなく、「働くこと」も生活の一部です。
働くことには収入を得るという意味があります。
しかし、それだけではありません。
生活リズムができる。
社会とのつながりができる。
自分の役割を持つ。
得意なことを活かす。
こうした側面もあります。
一方で、本人に合わない働き方を無理に続ければ、体調を崩す可能性もあります。
そのため、重要なのは「とにかく就職すること」ではありません。
本人がどんな環境なら力を発揮しやすく、どのような支援や配慮があれば働き続けやすいのかを整理することです。
自己理解は生活にも仕事にも役立つ
例えば、
「予定が急に変わると混乱しやすい」
「口頭だけの指示は覚えにくい」
「疲れてくると相談が遅くなる」
「静かな環境なら集中しやすい」
こうした自分の特徴が分かっていると、仕事だけでなく生活でも対処しやすくなります。
さらに、必要なことを周囲へ説明しやすくなります。
つまり、自己理解は就職のためだけに行うものではありません。
自分らしく地域で生活していくためにも役立つ力です。
家族だけで将来を完成させようとしない
親なきあとへの不安が強いほど、
「自分が元気なうちに全部準備しておかなければ」
と思うかもしれません。
しかし、将来起こることをすべて予測することはできません。
制度も変わります。
本人の希望も変わります。
本人ができることも増える可能性があります。
そのため、完璧な計画を作ることより、状況が変わったときに相談できる関係を作っておくことが重要です。
本人、家族、相談支援、医療、福祉、地域、そして必要に応じて就労関係の支援。
一人にすべてを任せるのではありません。
複数のつながりを少しずつ作ることで、家族だけに集中していた支援を地域へ広げていくことができます。
ディーキャリアびわこ第一オフィスでできること
ディーキャリアびわこ第一オフィスでは、発達障害や精神障害などのある方を対象に、就職と安定した就労に向けた支援を行っています。
就職活動だけではなく、生活リズムやストレスへの対処、コミュニケーション、自己理解などについても取り組みます。
例えば、
「どんな場面で困りやすいのか」
「どんな環境なら力を発揮しやすいのか」
「自分でできる工夫は何か」
「必要な配慮をどう伝えるのか」
といったことを具体的に整理していきます。
こうした自己理解や相談する経験は、働く場面だけでなく、将来の地域生活を考える上でも役立ちます。
また、必要に応じて関係機関との連携も行います。
まとめ|親なきあとへの準備は「今から本人の生活を作ること」
親なきあとと障害のある方の将来を考えると、不安になることはたくさんあります。
住まいはどうするのか。
生活費はどうするのか。
お金は誰が管理するのか。
病院へは行けるのか。
困ったときに誰へ相談するのか。
一つひとつ考えると、家族だけでは抱えきれないと感じるかもしれません。
だからこそ、すべてを家族だけで解決しようとする必要はありません。
まず、本人ができていることを確認する。
次に、家族が担っていることを整理する。
本人自身ができることを少しずつ増やす。
家族以外へ相談する経験を作る。
そして、必要な制度や社会資源とつながる。
こうした準備を、できるところから始めていきます。
親なきあとへの準備は、「親がいなくなった後の生活」を作ることだけではありません。
本人が今から、自分で選び、必要なときには人を頼りながら、自分らしい生活を作っていくことでもあります。
家族が元気な今だからこそ、一緒に考え、一緒に試すことができます。
将来への不安をすべてなくすことは難しいかもしれません。
しかし、本人を支える人や場所とのつながりを少しずつ増やしていくことはできます。
その積み重ねが、親なきあとも本人が地域の中で生活を続けていくための土台になっていきます。
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