ADHDの自己受容と他者受容|「できない自分」を責めすぎない働き方の整え方
「また忘れてしまった」
「締切直前まで動けなかった」
「周りは普通にできているのに、自分だけできない」
ADHDの特性がある人の中には、このような経験を何度も重ね、自分を責め続けてしまう人が少なくありません。
しかし、ADHDは「性格がだらしない」「努力が足りない」だけで説明できるものではありません。不注意、多動性・衝動性、実行機能の困難さなどが、生活や仕事の場面で影響することがあります。
国立精神・神経医療研究センター病院の解説でも、ADHDは不注意や多動性・衝動性を主な特徴とし、仕事や日常生活に支障が生じることがあると説明されています。
そのため大切なのは、根性だけで乗り切ることではなく、自分の特性を理解し、必要な工夫を使える状態に整えることです。
この記事では、ADHDの人にとって重要な「自己受容」と「他者受容」について、働く場面につなげながら整理します。

ADHDの人が自己否定しやすい理由
ADHDの人は、日常生活や職場で「小さな失敗」を繰り返しやすいことがあります。
- 忘れ物が多い
- 予定や締切を忘れやすい
- 優先順位をつけるのが苦手
- 片付けが後回しになる
- 話を最後まで聞く前に反応してしまう
- 注意されると頭が真っ白になる
- やるべきことは分かっているのに、始められない
このような経験が積み重なると、本人の中で「行動の失敗」が「人格の問題」にすり替わりやすくなります。
例えば、「締切を忘れた」という出来事が、「自分は社会人としてダメだ」という考えに変わってしまうことがあります。
しかし、ここで必要なのは自分を責めることではありません。まず必要なのは、どの場面で困りやすいのかを分けて見ることです。
自己受容とは「できないままでいい」と開き直ることではない
自己受容という言葉を聞くと、「できない自分をそのまま許すこと」「努力しなくてもよいということ」と感じる人もいます。
しかし、ADHDにおける自己受容は、開き直りではありません。
自己受容とは、自分の苦手さを正しく知り、必要な工夫や支援を使いながら、現実的に前へ進むことです。
- 自分の苦手を知る
- 苦手を人格否定につなげすぎない
- 失敗しやすい場面を整理する
- 自分に合う対策を持つ
- 必要な支援や配慮を言葉にする
つまり、自己受容は「諦め」ではなく「現実対応」です。
「自分はダメだから無理」ではなく、「自分はこの場面で困りやすい。だから仕組みを変えよう」と考えることが、働きやすさにつながります。
「自分が悪い」ではなく「仕組みが足りない」と考える
例えば、「仕事が続かない」という悩みがある場合、そのままでは大きすぎて対策が見えません。
そこで、困りごとを具体的な場面に分けます。
- 口頭指示だけだと抜けやすい
- タスクが大きいと始められない
- 締切までの逆算が苦手
- 同時に複数の作業を言われると混乱する
- 完璧にやろうとして着手が遅れる
ここまで分けると、対策も具体化できます。
- 指示はメモやチャットに残す
- 作業を小さく分ける
- 最初の5分だけ着手する
- 中間締切を作る
- 優先順位を確認してから動く
- タイマーを使って時間の区切りを作る
発達障害のある方の就労支援では、本人の特性理解と環境調整の視点が重要です。JEEDの障害者職業総合センターでも、発達障害に関する支援マニュアルや実践報告が公開されています。
参考:JEED 障害者職業総合センター「発達障害関連の実践報告書及び支援マニュアル」

他者受容とは「全部我慢すること」ではない
ADHDの人は、人間関係でも悩みやすいことがあります。
- 話を遮ってしまう
- 返信を忘れてしまう
- 感情が先に出てしまう
- 相手の意図を悪く受け取りやすい
- 注意されると強く落ち込む
- 自分の説明がうまく伝わらない
このような経験があると、「どうせ分かってもらえない」「自分は人付き合いが苦手だ」と感じやすくなります。
しかし、他者受容とは、自分だけが我慢することではありません。
他者受容とは、相手にも事情があり、自分にも特性があると理解した上で、誤解を減らす関わり方を考えることです。
例えば、職場では相手も忙しく、毎回細かく説明する余裕がない場合があります。一方で、自分は口頭指示だけでは抜けやすいかもしれません。
その場合に必要なのは、我慢ではなく調整です。
- 「メモを取りながら確認してもよろしいでしょうか」と伝える
- 「優先順位を確認させてください」と聞く
- 「一度整理してから返答してもよろしいでしょうか」と時間を取る
- 「理解がずれていないか復唱します」と確認する
このように、相手を責めず、自分の困りごとも隠しすぎず、行動レベルで伝えることが大切です。
自己受容と他者受容はセットで考える
自己受容だけだと、「自分はこういう特性だから仕方ない」で止まってしまうことがあります。
一方で、他者受容だけだと、「全部自分が合わせないといけない」となり、疲れ切ってしまいます。
だからこそ、両方をセットで考える必要があります。
- 自己受容:自分の特性を理解する
- 他者受容:相手との違いを理解する
- 行動調整:誤解を減らす伝え方をする
- 環境調整:続けやすい仕組みを作る
目指すのは、完璧な自分になることではありません。失敗しても立て直せる自分になることです。
ADHDの人が今日からできる自己受容の行動
1. 失敗を「性格」ではなく「場面」で記録する
「自分はだらしない」と書くと、対策が見えません。
しかし、「朝の準備で持ち物確認をしていなかった」「締切をカレンダーに入れていなかった」「口頭指示をメモに残していなかった」と書くと、次の行動が見えます。
2. 苦手な場面に名前をつける
苦手さに名前をつけると、支援や対策につなげやすくなります。
- 朝の準備で止まりやすい
- 締切直前まで動けない
- 口頭指示が抜けやすい
- 予定変更で混乱しやすい
- 注意後に思考停止しやすい
3. 「できたこと」も残す
ADHDの人は、失敗体験の記憶が強く残りやすいことがあります。だからこそ、小さな成功も記録します。
- メモを取れた
- 相談できた
- 5分だけ始められた
- 中間確認ができた
- 休憩を入れて立て直せた
これは無理に自己肯定感を上げるためではありません。自分の行動パターンを正確に見るためです。

ADHDの人が今日からできる他者受容の行動
1. 相手の意図をすぐに決めつけない
注意された時に、「責められた」「嫌われた」と感じることがあります。
しかし実際には、仕事上必要な確認だったり、ミスを防ぐための指摘だったりする場合もあります。
まずは、「相手は何を目的に伝えたのか」を一度整理することが大切です。
2. 確認の言葉を用意しておく
混乱した時に、その場で言葉を作るのは大変です。あらかじめ使う言葉を決めておくと、職場での誤解を減らせます。
- 確認させてください
- 優先順位はどちらが先でしょうか
- メモを見ながら復唱してもよろしいでしょうか
- 一度整理してから返答してもよろしいでしょうか
- 理解がずれていないか確認したいです
3. 自分の特性を短く説明する
長く説明しすぎると、相手も受け取りにくくなります。職場では「困りごと」と「対応策」をセットで短く伝えることが有効です。
- 口頭だけだと抜けやすいため、メモを取って確認するようにしています。
- 同時に複数の指示があると混乱しやすいため、順番を確認させてください。
- 急な変更時は、一度整理すると対応しやすいです。
政府広報オンラインでも、発達障害は脳機能の発達に関係するものであり、周囲の理解と適切なサポートが重要とされています。
就労移行支援でできること
ADHDの自己受容と他者受容は、一人だけで進めようとすると難しい場合があります。なぜなら、自分では当たり前になっている行動パターンに気づきにくいからです。
就労移行支援では、働く前の準備として、次のような内容を整理していきます。
- 自己理解
- 生活リズムの安定
- ストレス対処
- コミュニケーション練習
- 報連相の練習
- タスク管理
- 職場での配慮事項の整理
- 就職活動の準備
特にADHDの人にとっては、「自分を変える」よりも、「自分に合う働き方を見つける」ことが重要です。
ディーキャリアびわこ第一オフィスでも、発達障害やメンタル不調のある方が、自分の特性を整理しながら、働き方を考えるサポートを行っています。
また、発達障害者支援法では、発達障害のある人が日常生活や社会生活を営めるよう、切れ目のない支援を行う重要性が示されています。
まとめ|ADHDの自己受容は「働きやすさ」を作る
ADHDの自己受容とは、「できない自分でいい」と諦めることではありません。
自分の特性を理解し、苦手な場面を整理し、必要な工夫を使えるようになることです。
また、他者受容とは、相手に合わせて我慢し続けることではありません。自分と相手の違いを理解し、誤解を減らす伝え方を身につけることです。
働く上で本当に大切なのは、「頑張ります」だけではありません。
「自分はこういう工夫があると安定しやすいです」と説明できることも、大切な力になります。
焦らなくて大丈夫です。まずは、自分を責め続けるところから少しずつ離れ、自分に合う働き方を一緒に整理していきましょう。
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