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発達障害×夜型生活 | 「リベンジ夜更かし」の原因と対策

やめたくてもやめられない「リベンジ夜更かし」は、発達障害の特性が関係してる?当事者の経験に基づき、原因と対処法を分かりやすく解説します。

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「翌日も仕事なのに、夜中のゲームがやめられない」「疲れて眠いのに、ただひたすらSNSをスクロールし続けてしまう」「昼間だらだらしたから、まだ寝たくないと考えてしまう」 睡眠よりも「楽しい時間」を優先してしまい、結果的に睡眠不足が続いてしまう…そんな悩みを抱えていませんか。 日中の活動がうまくいかず、漠然と満たされない思いを抱えてしまう。それを埋めるかのように、ゲームや映画などの趣味・娯楽に没頭して気が付いたら朝方になっている。昼間に何もできず、今日という一日を有意義に過ごすために「何かしなければいけない」と思い、夜になっても寝てしまってはいけないと感じる。しかし、その「何か」が出てこず、ひたすらお菓子を食べたり、動画コンテンツやSNSなどを見たりして過ごしてしまう。 このように就寝時間の先延ばしをすることを「リベンジ夜更かし」と言い、発達障害の特性がある人は特になりやすいとされています。 この記事は「リベンジ夜更かし」が常習化していた発達障害当事者が、自身の経験を交えながら、リベンジ夜更かしとは何か・なぜ発達障害のある人が陥りやすいのか、その原因や対策について紹介しています。 夜更かししてしまうのは、意思が弱いからではなく、発達障害の特性が影響しているケースがあります。つい夜更かしをしてしまう理由やその対処法を理解し、自分に合った対策などを見つけることで、現在または将来の職場での就労をスムーズに継続できる一助になればと願っております。 執筆者紹介 小鳥遊(たかなし)さん 発達障害やタスク管理をテーマに、2021年まで会社員、2022年からフリーランスとして活動している。 発達障害(ADHD)当事者。主に発達障害や仕事術をテーマとするweb記事を執筆。2020年に共著「要領がよくないと思い込んでいる人のための仕事術図鑑」(サンクチュアリ出版)を執筆し発行部数は10万部を超える。 また、就労移行支援事業所でタスク管理等に関する定期プログラムやセミナー等を実施。企業や大学等での講演、個人/法人のタスク管理コンサルティングもおこなっている。 [toc] リベンジ夜更かしとは リベンジ夜更かしとは、「報復性夜更かし」とも言われ、日中に充実感や満足がないため、睡眠を削ってでもなんとかして満足感を得ようとする行為のことをいいます。 筆者は、以前会社員をしているときに、このリベンジ夜更かしを常習していました。残業続きでほぼ毎日終電で帰っており、「帰ってそのまま寝たら、毎日何のために生きているのか分からなくなる!」という感覚がありました。 そのため、自宅最寄り駅の隣にあるコンビニに寄っては、ジャンキーでカロリーの高そうなコンビニ弁当を選んでは帰宅して、弁当を食べつつ特に見たいわけではない深夜のバラエティ番組をボーッと眺め、寝るまでの時間を引き延ばしている自分がいました。そのせいか、体重はうなぎのぼりになってしまいました。 その時の自分は、朝から晩まで仕事に追われ、「充実した余暇」を過ごせず、満たされない思いがありました。その満たされない部分を埋めるために、「カロリーの高いコンビニ弁当」「深夜のバラエティ番組」で夜更かしをしていたと言えます。本当は早く寝たほうがいいと分かっていても、どうしても「自分の時間が欲しい」という気持ちが勝ってしまうのです。 発達障害のある人がリベンジ夜更かししがちな原因 「リベンジ夜更かし」がやめられない原因に発達障害が関係していることがあります。実際に昼夜逆転生活や睡眠不足に悩んでいる発達障害当事者の方は少なくありません。 同じ発達障害でもADHD(注意欠如・多動症)やASD(自閉スペクトラム症)などの障害種別、さらに一人ひとり特性が異なるため、原因はそれぞれです。今回は代表的なものを4つ紹介します。 ①ストレスを感じやすい 発達障害のある方は、特性による困難によってストレスを抱えやすかったり、生物学的にストレス耐性が弱かったりすることがあります。詳しくは、以下の参考記事もご覧ください。 さらに、リベンジ夜更かしが癖になっている人は、日中にストレスを受けるなどして「マイナス」なことがあった結果、自分にとって「プラス」になるような体験をしなければと考える傾向にあります。日中に仕事でミスをして「マイナス」、それを埋め合わせるように帰宅してから夜中にゲームや動画視聴をし過ぎてしまう、といったことが典型です。この「マイナス」が大きければ大きいほど、その反動としての「プラス」を大きくしなければなりません。 日中にミスをしたとして、それが「まぁ、しょうがないか」とある程度流せるようであれば、夜中に埋め合わせのゲームや動画は少なくて済みます。しかし、私たち発達障害者は、感情の抑制に課題を抱えていることが多く、「マイナス」をより大きく感じてしまうことがあります。そうなると、より強く大きなリベンジをしないと釣り合いません。感情の抑制がうまくいかずストレスを感じやすい私たちは、リベンジが大きくなってしまいがちなのです。 ②行動の切り替えが苦手 また、発達障害のある人は、行動の切り替えが苦手な傾向もあるとされています。いったん始めたゲームや動画視聴などを止められず、長時間になってしまいがちなのです。筆者もこの傾向にあると実感しています。 筆者の頭の中では何が起こっているのかというと、「せっかく楽しいゲームをしているんだから、ゲームを止めて(ゲームより楽しくはない)他のことをするなんて嫌だ」という気持ちです。切り替えが上手い人は、この「ゲームを止めるのは嫌だ」という感情を抑えて、翌日のために寝るという行動に素早く切り替えることができます。ここでも、感情の抑制が難しいという傾向が関わっています。 また、筆者が特に顕著に感じている、もう一つの傾向があります。それは、「自分の興味のあることには極端に集中してしまう」というものです。興味のある対象にはすぐ動けるのに、興味が薄いものにはやる気がまったく湧きません。ゲームをしている最中はゲームにしか興味がなくなり、「寝なければいけない」と分かりつつも、ゲームから離れられなくなってしまうのです。 ③優先順位が付けられない 知り合いの発達障害のある人の話で、やはり夜中にネットゲームをして睡眠が十分にとれないという悩みがありました。その人が言うには、「一緒にチームを組んでやっている仲間が、どうしても夜中にしか時間が取れない」という理由で、深夜にゲームをせざるを得ないとのことでした。 冷静になって考えれば、「そうではない人とチームを組まないと、いずれ睡眠が不規則になって健康を損なってしまう」ということは分かりそうなものです。しかし、「自分にとって何を優先すべきか」という判断が正しくできない、「あれもやりたい」「これもしたい」となってしまった結果、毎日のように深夜にネットゲームをしてしまっていました。 ④睡眠障害になりやすい 一般に、発達障害のある人は、睡眠と覚醒を調節する中枢神経系の機能不全を抱えていることが多いとされています。具体的には、メラトニン(睡眠ホルモン)の分泌が遅れるなど、体内時計が後ろにずれやすいのです。その影響で、夜中に覚醒、つまり目が覚めてしまって睡眠にうまく入れないことが多く、ベッドに入っても寝られずに朝を迎えてしまった、という人も少なからずいます。どうせ寝られないなら、好きなことやって夜更かししてしまおう、と考えるのも無理はないのではないでしょうか。 以上が、発達障害のある人がリベンジ夜更かしをしてしまいがちな理由の代表的なものです。 リベンジ夜更かしの悪影響 リベンジ夜更かしによって引き起こされる悪影響のうち、代表的なものを3つ挙げます。 ①日中の眠気、集中力の欠如 夜更かしをすれば、十分な睡眠が取れなくなったり、生活サイクルが不規則になったりします。その結果、日中に強い眠気を感じて集中するのが難しくなります。日中の活動中に注意力が散漫になると、仕事でミスなどをしがちになります。 発達障害のADHDがある筆者には、不注意傾向がありました。それに加えて夜更かしが常態化してしまい、ただでさえ不注意によるミスなどをしがちな上に、頭がボーッとしてしまっていました。その影響もあってか、仕事の負荷が強まると、それに耐えきれず休職を余儀なくされました。 さらに、筆者は元来の不注意特性から日中の活動に充実感が得られず、リベンジ夜更かしをしてしまいがちな状況でした。そして、夜更かしをした結果、はっきりしない頭で翌日業務をおこない、さらに満足のいかない日中を過ごし、さらにリベンジ夜更かしをしたくなる、という悪循環に陥っていたのです。 ②気分の落ち込みやイライラ リベンジ夜更かしをすると、十分な睡眠が取れず、次第に心身ともに健康を害していきます。「体」だけでなく「心」の方も気分が落ち込んだり、イライラしたりと影響が出るのです。そうなると、取るに足らないことで大きな精神的ダメージを受けてしまうようになります。 寝不足によるいらつきで、ネガティブな心理状況に陥りやすくなるだけでなく、十分に考えずに早まった決断をしてしまうことにもつながりかねません。 筆者は、休職直前のあるとき、株主からの電話を受けていました。株主がなかなか電話を切らせてくれず、長時間の電話対応となったのですが、目の前にいた同僚の社員から「早く電話を切り上げて!」といったジェスチャーをされました。 電話が終わった瞬間、「もっと早く簡単に電話終わらせられないの?他にもやることあるんだから」と言われ、「自分だって好きで電話を長引かせているわけじゃない」といつもより強い憤りを感じました。このことは、「もう、自分は働き続けられないな」と休職を決断する原因の1つになりました。 ③不安障害 不安障害とは、不安や恐怖を過剰に感じて、日常生活に支障をきたす精神疾患のことです。睡眠不足は、ストレスホルモンの分泌を増加させるため、不安障害やうつなどの精神疾患の原因になることがあります。 筆者は、自身の発達障害(ADHD)の影響と、毎日終電帰りでリベンジ夜更かしをしていた影響、それと会社の業績が伸びずにリストラが増え自分の業務負荷が増大したという背景もあり、次第に会社に行くのが怖くなってしまいました。 別に、理由があるわけではなく、なんとなく「自分は必ず仕事で失敗して叱責を受ける」という確信にも似た気持ちで毎日通勤するようになったのです。 少しでも日常業務でイレギュラーな出来事があると、それを筆者は「事件」と大げさに認識して焦ってしまっていました。たとえば、名刺作成業務で、役員から「至急で対応して欲しい」と言われようものなら、それは立派な「事件」だったのです。 「いつもなら翌々日に納品なのに、至急で明日の朝までに渡さなければいけない......これは事件だ!」と、不安や恐怖が頭の中をグルグル回りはじめます。やることは、名刺印刷会社の担当者に納期を早める依頼をかけるだけなのですが、いつもとちょっと違うだけで、もはやそれは不安を引き起こすのに十分な「事件」でした。 発達障害の傾向とこのような悪影響の相乗効果により、筆者は仕事を続けられず休職という選択を取らざるを得ませんでした。 不安障害について詳しく知りたい方は、以下の参考記事もぜひご覧ください。 このような状況に陥れば、誰しも心身に支障が出て当然です。では、どうすればこの状況から抜け出せるのでしょうか。次はその対処法をお伝えします。 リベンジ夜更かしの対処法 ここでは、リベンジ夜更かしへの対処法を3つお伝えしたいと思います。 ①規則正しい生活 当たり前過ぎる話かもしれませんが、毎日規則正しく起きて寝るのを習慣化することが、リベンジ夜更かしの対処法としては最大最強のものと言って良いでしょう。 特に、休職中にリベンジ夜更かしに陥り、社会復帰が難航するケースが少なくありません。 筆者が休職したときはまだ実家に住んでいたのですが、その際の両親の対応に感謝していることがあります。それは、「日中は何をやってもいい、『朝起きて、夜寝る』ことだけは守ろう」と提案してくれたことです。筆者が休職したのは10年程度前のことで、当時は今ほどYouTubeなどの手軽にみられる無料動画コンテンツはありませんでしたが、それでもレンタルビデオやネット上のテキストコンテンツなどはふんだんにありました。 夜更かししようと思えばいくらでもでき、その点では夜更かしする危険性は十分にあったのです。両親はそれを見越していたのかもしれません。規則正しい生活を最優先としてくれたおかげで、昼夜逆転生活や睡眠障害になることなく、復職をすることができました。今振り返ると、両親からの助言には感謝してもしきれません。 ②日中にきちんと疲れる 「規則正しい生活」にも通じますが、夜更かしをしないためには、まずは日中の活動でしっかり「疲れる」ことが大切です。 そのために大事な考え方をご紹介します。生活リズムを整えるためには、「早寝早起き」が大事だとよく言われます。実は順序が逆で、「早起き早寝」なのです。眠かろうが疲労が残っていようが、とにかく起きる。そして、就寝するまでは寝ない。起きている間に十分疲れておけば、リベンジ夜更かしをしたくても、体がそれを許してくれません。半強制的に夜寝ることができるのです。 日中にできるだけ用事を入れ、クタクタに疲れて倒れ込むように寝る。その結果翌日はすっきり起きられる。このサイクルに持ち込むことができればこっちのものです。また、適度に疲労を感じて「ああ、やっと寝られる」と布団に入る時の気持ち良さも味わうこともできます。日中の用事は、「疲れる」ことさえできれば、好きなこと、ストレス解消になることであっても構いません。 ③環境調整 さらに「リベンジ夜更かし」への対処法として有効なのが、環境調整です。たとえば、寝室へスマートフォンを持ち込まない、寝るときは薄暗い照明にする、ゆっくりぬるめのお風呂に浸かる、などです。 もちろん個人差はありますが、自分が寝入りやすい環境を作ることが大事です。筆者の知り合いの発達障害のある人に、寝入る際にアロマを焚いているという人がいました。室内を無音にして座って瞑想をする、という人もいました。 以上、3つほど対処法を挙げました。全部する必要はありません。「やってみようかな」というものから実践していただければと思います。 特性に合った、自分らしい働き方を見つけるために これまで、リベンジ夜更かしについての話をしてきましたが、その前提となるのは「自己理解」であると筆者は身にしみて感じています。そもそも自己理解がされていないと、自身がリベンジ夜更かしをしやすいことを自覚しづらいものです。むしろ、「ハードな生活をしている自分」に酔っていたりします。自分のおこなっている行動が「リベンジ夜更かし」であることに気が付くことすら難しいかもしれません。 就労移行支援事業所ディーキャリアでは、発達障害のある方が自己理解を深められる実践的なプログラムを提供し、また規則正しい生活が送れるトレーニングもおこなっています。 発達障害のある方の特性を理解したうえで、個別に最適なトレーニングを提供することが特徴です。 就労移行支援事業所とは、障害のある⽅が就職するための「訓練・就職活動」の⽀援をおこなう障害福祉サービスの一つです。(厚⽣労働省の許認可事業) 就職とは人生の目的を実現するための通過点です。自分の「なりたい」姿を見つけ、障害特性への対策と自分の能力を活かす「できる」ことを学び、社会人として長く働くために「やるべき」ことを身に付ける。 「なりたい」「できる」「やるべき」の 3 つが重なりあうところに仕事の「やりがい」が生まれると、私たちは考えています。 ご相談は無料です。フリーダイヤル、または、24 時間受付のお問い合わせフォームにて、お気軽にお問い合わせください(ご本人様からだけでなく、当事者のご家族の方や、支援をおこなっている方からのご相談も受け付けております)。 お電話(0120-802-146)はこちら▶ お問い合わせフォームはこちら▶ また、全国各地のディーキャリアでは、無料の相談会や体験会も実施しています。 全国オフィス一覧はこちら▶ 就労移行支援事業所ディーキャリアは、「やりがい」を感じながら活き活きと働き、豊かな人生を目指すあなたを全力でサポートします。お一人で悩まず、まずはお気軽にご相談ください。 記事監修:北川 庄治(デコボコベース株式会社 プログラム開発責任者) 東京大学大学院教育学研究科 博士課程単位取得満期退学。通信制高校教諭、障害児の学習支援教室での教材作成・個別指導講師を経て現職。
大人の発達障害×職場のコミュニケーション|対策と練習法

「職場でのコミュニケーション課題」について特性に応じた対策や練習法を紹介。ストレスを軽減し、自信を持って働くためのヒントをお伝えします。

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「職場での人間関係がうまくいかない…」「話すのが苦手で、うまく意思疎通ができない…」「指示を理解できないことがあり、ミスが多い…」 そんな悩みを抱えていませんか? 職場では、業務スキルだけでなく「コミュニケーションスキル」が求められるものです。しかし、発達障害の特性によって、雑談が苦手だったり、自分の考えを相手に伝えることや相手の意図を読み取るのが難しかったりすることで、仕事に必要なコミュニケーションが円滑にいかないことがあります。 「報告がうまくできない」「会話がかみ合わない」「言いたいことがうまく伝わらない」といった困りごとが続くと、職場での評価に影響が出たり、周囲との関係にストレスを感じたりすることもあるでしょう。その結果、仕事に自信が持てず、強い不安やストレスを感じてしまうことも少なくありません。 本記事では、発達障害のある方が職場で直面しがちなコミュニケーションの課題を整理し、特性に合わせた対策を紹介します。また、コミュニケーションスキルを向上させるための具体的なトレーニング方法や、職場での合理的配慮の活用についても解説していきます。 発達障害の特性を理解し、自分に合った対策やトレーニング方法を見つけることで、職場でのストレスを減らし、自信を持って働けるようになるきっかけになれば幸いです。 執筆者紹介 小鳥遊(たかなし)さん 発達障害やタスク管理をテーマに、2021年まで会社員、2022年からフリーランスとして活動している。 発達障害(ADHD)当事者。主に発達障害や仕事術をテーマとするweb記事を執筆。2020年に共著「要領がよくないと思い込んでいる人のための仕事術図鑑」(サンクチュアリ出版)を執筆し発行部数は10万部を超える。 また、就労移行支援事業所でタスク管理等に関する定期プログラムやセミナー等を実施。企業や大学等での講演、個人/法人のタスク管理コンサルティングもおこなっている。 [toc] ビジネスにおけるコミュニケーションスキルの必要性 職場におけるコミュニケーションの役割 どの職場でも多かれ少なかれ、社内外でのコミュニケーションが発生します。特に、報告・連絡・相談という、それぞれ最初の一文字を取って「報連相(ホウレンソウ)」と呼ばれるスキルは、ほとんどの仕事において必要と言えるでしょう。 例えば事務職の場合、いくらExcelで複雑な表を作成できたり、PowerPointですぐに資料を作ることができたとしても、上司や同僚と内容をすり合わせたり、完成後に報告をしなければ、仕事の評価を得ることは難しいでしょう。 どんな仕事であっても、組織の一員として働くためには最低限のコミュニケーションスキルは必要不可欠です。実際、今も昔も、多くの企業の人事担当が採用時に重視するポイントのひとつに「円滑なコミュニケーションがとれること」があげられています。 職場でよくあるコミュニケーションの課題 その一方で、職場でのコミュニケーションの苦手に悩む方は少なくありません。特に、発達障害のある方は以下のような課題を抱えがちではないでしょうか。 指示を正しく理解できず、誤った作業をしてしまう 相談をすることが苦手で、トラブルを抱えこむことがある 意見を伝えたり説明したりするのが苦手 相手の話に集中することができず、聞き洩らしが多い 相手や場面に応じたコミュニケーションが取れない 考えがまとまるまで報告を先送りする こうしたコミュニケーションの問題は、仕事の質に直接影響を与えるだけでなく、職場の人間関係にも悪影響を及ぼします。 コミュニケーションがうまくいかないと起こるリスク コミュニケーションがうまくいかないと、次のようなリスクが発生します。 ミスの発生:指示を正しく理解できなかったり、確認不足が原因で業務ミスが発生しやすくなる。 チームワークの低下:仕事の進め方や認識がずれてしまい、チーム全体の業務が滞る。 信頼関係の損失:必要な報告や相談がなされず、「頼りない」「協力的でない」と思われる可能性がある。 いずれも、どの職場でも必要とされる「チームで仕事をやっていくための土台」が揺らいでしまう原因となります。もしこれらのリスクがあると判断されれば、いくら業務スキルを頑張って磨いたとしても、なかなか評価されにくいというのが現実ではないでしょうか。 発達障害のある方がコミュニケーションが苦手な理由 ASD(自閉スペクトラム症)の特徴と課題 ASDの特性のある人の中には、「曖昧な表現が理解できない」「相手の気持ちを察することが苦手」「空気を読めない」といった特徴がある人が多く、職場でのコミュニケーションに影響を与えかねません。 筆者はADHDの診断を受けていますが、日々のコミュニケーションを通じて、ASDの傾向もあるのではないかと感じています。そんな筆者が実感するコミュニケーション上の特性としては、以下の3点が挙げられます。 言葉を文字通りに受け取ってしまう 「いい感じに資料をまとめておいて」と言われても、「いい感じって、具体的にどういうこと?」と疑問に思ってしまいます。「いい感じ」という曖昧な言葉を言われても、それが具体的なイメージとして理解できなければ動けないのです。仮に「A4の紙1枚に、要点を3つに絞って箇条書きで書いて欲しい」などと言ってもらえればスムーズに動けます。これは、言葉を文字通りに受け取るという傾向の表れではないかと自分を分析しています。 「いい感じに」や「なるべく早く」など曖昧で抽象的な表現を理解するのが苦手というのはASDあるあるです。 雑談や社交的な会話が苦手 筆者は、野球やサッカーなど自分が興味のない話題になると、とたんに仏頂面になってしまうのだそうです。「だそうです」と伝聞系で書いたのは、自覚していないからです。普通に会話の場に溶け込んでいると思っているのに、「あ、今興味ないでしょ?」と言われて「なんでばれたのだろう」と思うことが多々ありました。これは、雑談や社交的な会話が苦手だと認識していない分、より問題は深いと考えています。 ASD特性のひとつに「興味の幅が狭い(限定されている)」というものがありますが、悪気なくそれが態度に出てしまっているのかもしれません。 相手の表情や空気を読み取るのが難しい 相手が冗談で言ったことを本気だと思い真剣に受け止めてしまう傾向も、筆者にはあります。社交辞令で「今度飲みに行きましょう」と言われたとしても、それを本気に受け取って「じゃあ、いつにします?」とスマホでスケジュールアプリを開いて検討に入ってしまい、「いや、その、まぁまた近いうちに......」とやんわりはぐらかされた経験が多々あります。 「空気が読めない・冗談が通じない」もASD特性の代表的な特徴です。 ADHD(注意欠如・多動症)の特徴と課題 ADHDの特性のある人の中には、「注意の持続が難しい」「衝動的に発言してしまう」といった特徴がある人が多く、これもまた職場でのやりとりに影響を与えます。 筆者はADHDの診断を受けており、以下のようなことがよくあります。 話を最後まで聞かずに反応してしまう 相手の話が終わる前に相手の言いたいことがおよそ予測でき、自分の話をしたい気持ちが抑えられずに、相手の話にかぶせて自分の話を始めてしまう癖が筆者にはあります。よくないことだと分かっているのですが、その場ではうまく制御できないことが多く、あとから反省することしきりです。 ADHD特性の衝動性によって、早合点をしたり、相手の話を遮ってしまったりして失敗をした経験がある方も多いのではないでしょうか。 集中が続かず、指示を聞き逃す 口頭での指示を受けている最中であっても、たとえば周囲の会話に耳が持っていかれてしまうことがよくあります。せっかく上司が説明をしてくれていて、自分でもその説明を理解しようと思っているのに、瞬間的に周囲で話されている会話の方に注意がいってしまうことがよくあります。 「注意力が散漫」はADHDの代表的な特性のひとつです。メモをとっているのに聞き洩らしをしてしまう、とったメモを失くしてしまうというのもあるあるです。 思いついたことをすぐに口に出してしまう 筆者は以前の職場で取引先へ配信する職員インタビューのメルマガを書いていました。そのインタビューをしている際に、「前職では仕事が多くて過労で倒れる寸前にまでなってしまって......」という体験談を話してもらっているときに、「分かる!自分もそういった経験がある!」と共感してしまい、「ええ、自分も同じような体験がありましてね......」と、それから延々と自分語りを始めてしまい、インタビューの流れを止めてしまったことがありました。 つい場面にそぐわない発言をしてしまったり、一方的に話し続けてしまったりした場合でも、ADHD特性によって自分の言動をコントロールできないことがあります。 コミュニケーションのトレーニング方法 コミュニケーションが苦手だと感じる人の中には、そもそも「どのようにしたら円滑なコミュニケーションがとれるのか」が分からない方も多いかもしれません。一方で、コミュニケーションもスキルの一つであり、体系的に学ぶことが可能です。 特に、「何をどう伝えればいいのか分からない」「相手の気持ちを察するのが苦手」「言葉の意図を誤解しやすい」といった悩みを持つ場合、コミュニケーションの基本を知識として学ぶことが有効です。 知識として学ぶ コミュニケーションを学ぶ方法の一つとして、書籍やセミナーを活用することが挙げられます。たとえば、以下のようなジャンルの本を読むことで、基礎を理解しやすくなります。 ビジネスコミュニケーションの本→ 職場での報告・連絡・相談の方法や、上司・同僚との適切な関わり方を学べる。 傾聴スキルの本→ 相手の話を上手に聞く技術を学び、信頼関係を築く力を養える。 会話のロジックを学ぶ本→ 話がまとまらない、伝えたいことが伝わらないといった悩みを解決するヒントが得られる。 大きな書店だと、「ビジネス」「コミュニケーション」といった棚があると思います。お勧めの選び方としては、自分が読みやすそうだと感じる本を選ぶことです。ネットで調べて評判の高い、有名な著者の本を選ぶのも良いですが、まずは自分が取っつきやすいと感じる本から始めるのが良いと思います。 また、書籍だけでなく、コミュニケーションスキルを学べるセミナーも有効です。セミナーでは、講師の解説を直接聞けるだけでなく、ロールプレイやワークショップを通じて実践的に学ぶことができるため、実際の場面に活かしやすくなります。 このような学びを通して、ビジネスマナーや会話の典型的な流れ、よくあるNG行動などを知り、適切な対応を知ることができます。本やセミナーで教わった内容をすべていっぺんにやろうとはせず、できることから1つずつやっていくのが、最短のスキルアップにつながります。 実践的な対策 コミュニケーションスキルを向上させるためには、知識を学ぶだけでなく、実際に練習しながら身につけることも重要です。代表的な対策として、ミラーリング、アクティブリスニングといった手法があります。 ミラーリング ミラーリング(Mirroring)は、相手の言葉や仕草をさりげなく真似ることで、親しみやすさや共感を生む手法です。例えば、 相手:「最近、忙しくて疲れてるんですよね」 自分:「そうなんですね、忙しくて大変なんですね」 このように、相手の言葉を繰り返すだけでも、「話をしっかり聞いてくれている」という安心感を与えることができます。また、相手の姿勢やジェスチャー、話すスピードを自然に合わせることで、無意識に「この人は自分と波長が合う」と感じてもらえる効果もあります。ただし、やりすぎると不自然に感じられるため、さりげなく取り入れるのがポイントです。 アクティブリスニング アクティブリスニング(Active Listening)は、ただ相手の話を聞くだけでなく、適切な相槌や質問を交えて、積極的に会話に関与する方法です。 具体的には、 相手の話を遮らずに最後まで聞く 「それは大変でしたね」「なるほど、面白いですね」といった共感の言葉を入れる 「それって具体的にはどういうことですか?」と質問して話を広げる といった工夫をすることで、相手は「しっかり話を聞いてもらえている」「この人とは話しやすい」と感じるようになります。アクティブリスニングを身につけることで、より円滑なコミュニケーションが可能になり、信頼関係の構築にも役立ちます。 筆者は、特に感情面で共感することが多いので、それを強く打ち出すことが多いです。「それは大変でしたね」という言葉を入れ、「自分も同じような○○ということがあったので、自分なりにですが、分かります」と寄り添う形でコミュニケーションを取ることがよくあります。 特性に合った、自分らしい働き方を見つけるために ここまでコミュニケーションスキルを上げるための方法などをご紹介しましたが、特に発達障害のある方の場合は、そもそも「特性」としてコミュニケーションが苦手であることが多く、いずれも単に知識を得るだけでは足りず、実際の場面で活かすのが難しいことが多いです。 そこで、実践的な方法が必要となります。代表的なものとしては、SST(Social Skills Training)というトレーニングがあります。適切な言葉の選び方や、表情・態度・ジェスチャーを意識しながら会話の練習を行うことで、社会的スキルを上げ、実際の場面での対応力を高めるものです。 例えば、 上司への報告の仕方 初対面の人とのスムーズな会話の進め方 断るときの伝え方 といったテーマごとに、ロールプレイを通じて練習しながら学ぶことができます。「頭では分かっているけど、実際にやるのは難しい」と感じる人にとって、SSTは実践力を養うのに最適なトレーニングです。 このように実際の職場の状況を想定してロールプレイを行い、その結果のフィードバックを受けながら、練習を重ねることで、自分の特性による「苦手」への理解を深めながら、より実践的に活用できるコミュニケーションスキルを身につけられます。 また、それでも克服が難しい場合は、「合理的配慮」として職場に伝える選択肢もあります。障害者雇用枠ではない一般雇用枠でも、診断がある場合には企業に相談をすることができます。 合理的配慮とは、就職先の企業が、障害による業務上の困難を改善・軽減するために必要なサポートを提供することです。 例えば「具体的な指示が欲しい」「周囲の音が気になるので、耳栓の使用を許可して欲しい」「メモを取る時間を与えて欲しい」といった、業務指示の仕方や職場環境の調整などです。どうすれば仕事が円滑に進められるかを企業側と一緒にすり合わせていく必要があります。 その際には、以下のポイントを説明すると、スムーズに交渉が進みます。 障害の特性や症状 特性による業務上の困難や苦手な業務内容 自分自身で取り組む工夫や対策 企業に依頼をしたい配慮内容 企業に「合理的」だとみなされない場合にはサポートを受けられないケースもあるため、どれだけ困っているか・どうすれば解決できるのかを具体的に説明することはもちろん、自分自身で取り組む対策や配慮を受けることでできるようになることを伝えることも大切です。 詳しくは「発達障害のある方の合理的配慮事例|職場コミュニケーション編」でお伝えしています。 特性によって、一人ひとりに合う対策法は異なります。また、性格や働き方の好みによっても、どのような工夫が効果を発揮するかは変わってきます。そのため、自分自身に合った方法を見つけることが重要です。 就労移行支援事業所ディーキャリアでは、働くことで悩みを抱えている発達障害のある方の支援をおこなっています。 就労移行支援事業所とは、障害のある⽅が就職するための「訓練・就職活動」の⽀援をおこなう障害福祉サービスの一つです。(厚⽣労働省の許認可事業) 就職とは人生の目的を実現するための通過点です。自分の「なりたい」姿を見つけ、障害特性への対策と自分の能力を活かす「できる」ことを学び、社会人として長く働くために「やるべき」ことを身に付ける。 「なりたい」「できる」「やるべき」の 3 つが重なりあうところに仕事の「やりがい」が生まれると、私たちは考えています。 ご相談は無料です。フリーダイヤル、または、24 時間受付のお問い合わせフォームにて、お気軽にお問い合わせください(ご本人様からだけでなく、当事者のご家族の方や、支援をおこなっている方からのご相談も受け付けております)。 お電話(0120-802-146)はこちら▶ お問い合わせフォームはこちら▶ また、全国各地のディーキャリアでは、無料の相談会や体験会も実施しています。 全国オフィス一覧はこちら▶ 就労移行支援事業所ディーキャリアは、「やりがい」を感じながら活き活きと働き、豊かな人生を目指すあなたを全力でサポートします。お一人で悩まず、まずはお気軽にご相談ください。 記事監修:北川 庄治(デコボコベース株式会社 プログラム開発責任者) 東京大学大学院教育学研究科 博士課程単位取得満期退学。通信制高校教諭、障害児の学習支援教室での教材作成・個別指導講師を経て現職。
仕事の不安が軽くなる!発達障害がある方のうつの乗り越え方

ADHD当事者で抑うつ状態を経験した筆者が、特性による「働きづらさ」と二次障害である「うつ」を乗り越えるためのヒントを紹介します。

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「頑張っているのになぜか仕事がうまくいかない」「ミスや失敗ばかりで、職場に行くのが怖い」 発達障害の特性による困難や苦手のある人で、「どれだけ頑張ってもうまくいかない」「人一倍、努力しているのに成果がでない」という悩みを抱える方は少なくありません。このような状況が続くと、仕事への不安や自己肯定感の低下によって、うつなどの精神障害につながることもあります。 実は、発達障害とうつの間に密接な関係性がある場合が多いのです。一般に、発達障害のASDやADHDの特性があることを「一次障害」、そして一次障害が原因で引き起こされる「うつ」などを「二次障害」といいます。 筆者は、一次障害として主にADHDと診断され、二次障害として抑うつ状態と診断されました。この記事では、そんな筆者の執筆した書籍『「発達障害」「うつ」を乗り越え@小鳥遊がたどりついた 「生きづらい」がラクになる メンタルを守る仕事術&暮らし方』の内容を引用しつつ、障害による困りごとに向き合い、乗り越えるためのヒントをお届けします。日常の工夫や考え方を見直すことで、新たな一歩を踏み出すきっかけになることを願っています。 執筆者紹介 小鳥遊(たかなし)さん 発達障害やタスク管理をテーマに、2021年まで会社員、2022年からフリーランスとして活動している。 発達障害(ADHD)当事者。主に発達障害や仕事術をテーマとするweb記事を執筆。2020年に共著「要領がよくないと思い込んでいる人のための仕事術図鑑」(サンクチュアリ出版)を執筆し発行部数は10万部を超える。 また、就労移行支援事業所でタスク管理等に関する定期プログラムやセミナー等を実施。企業や大学等での講演、個人/法人のタスク管理コンサルティングもおこなっている。 [toc] 発達障害がうつを招く理由 発達障害(この記事ではASDとADHDのことを指して「発達障害」と書きます)とうつは、密接なつながりがあります。この項では、発達障害の説明と二次障害の説明をすることで、両者は密接なつながりがあることをお伝えします。 ASDとADHDの特徴と主な症状 ASD(自閉スペクトラム症)は、対人関係やコミュニケーションが苦手で、特定の興味や感覚の敏感さが特徴的な発達障害です。具体的には以下のような症状がみられます。 他人の気持ちや状況を理解するのが苦手特定の物事への強い関心やこだわり感覚過敏(音や匂いなど)がある臨機応変な対応や複数作業の同時進行が苦手 ADHD(注意欠如・多動症)は、集中力の維持が難しく衝動的な行動をとりやすい特性を持つ発達障害です。具体的には以下のような症状がみられます。 注意が散漫でミスが多い落ち着きがなく衝動的な行動をする整理整頓、スケジュール管理、約束を守ることが苦手 筆者は、ADHDの診断を受けており、以下のような症状があります。 私は、発達障害の当事者です。ADHD(注意欠如・多動症)の診断を受けました。■不注意によるミス・抜けもれがひどい■先送りグセがなおらず、締め切りが守れない■ミスを必要以上に深刻に受け止めてしまう■他人のミスも自分のせいかもと考えてしまう■仕事の段取りがつけられない■マルチタスクに思考停止してしまう■思考やものの整理ができないこれらは、私の特性による「傾向」をまとめたものです。このうちのいくつかは、自分にも当てはまるという人がいるのではないでしょうか。筆者の著書『「発達障害」「うつ」を乗り越え@小鳥遊がたどりついた 「生きづらい」がラクになる メンタルを守る仕事術&暮らし方』より引用。以降、引用は同書からのものとなります。 二次障害とは 二次障害とは、発達障害の特性による困難やストレスが原因で、心や身体、行動に不調や問題が現れる状態を指します。これにより日常生活に支障をきたすことが少なくありません。主な例として、うつ病や不安障害といった精神的な不調、頭痛や不眠などの身体的な不調、さらには暴言や引きこもりといった行動面の問題が挙げられます。 二次障害については、こちらの記事でより詳細に説明しています。あわせてご覧ください。 筆者は、下記のような経緯をたどって「抑うつ状態」の診断を受けて休職を余儀なくされ、最終的に退職することになりました。 しかし、与えられた仕事は忘れる、締め切りも守れない、つい先送りをして怒られる…。その連続で自信をなくしていき、大きな不安に苛まれるようになり、それに耐え切れず休職、退職。現実は、仕事の充実どころの話ではありませんでした。友人が仕事でどんどん活躍していくのを横目に、いつしか、「どうせ、これが自分の限界なんだ」「仕事の充実? 自分がそんなことを考えてはいけない」と思うようになっていきました。むしろ、自分が思う「人並みの生活」すらも、自分にはできないのだと、完全に自信を失ってしまいました。「発達障害」「うつ」を乗り越え@小鳥遊がたどりついた 「生きづらい」がラクになる メンタルを守る仕事術&暮らし方 発達障害がうつにつながってしまう3つ理由 発達障害の特性が二次障害であるうつや不安障害などの精神疾患につながる主な理由として、「生きづらさ」「自己肯定感の低下」「不安やストレス」などの要因が挙げられます。それぞれの要因を詳しく解説します。 特性による「生きづらさ」や「働きづらさ」 発達障害のある人は、その特性による困難や苦手によって社会で生きづらさを感じることがあります。 たとえば、筆者は「ミスをしたときには上長に報告をする」というビジネスマナーは知っていたものの、「お金など重要なものに関するミスは、早急に報告をする」「重要な問題にならなかったときであっても、ミスは必ず報告する」という考えに至らないことがありました。 あるとき、アルバイト先で、お客様のお金を届けるという依頼を受けた際に、お金を忘れて出かけたことがありました。すぐに同僚から連絡をもらって、最終的には事なきを得たため、そのことを上長に報告しませんでした。ミスを隠すつもりはなかったものの、信頼を失うことに繋がってしまい、解雇を言い渡されてしまいました。 ビジネスマナーなどの「暗黙の了解」の苦手はASD特性がある方に多いケースで、仕事上のコミュニケーションで失敗につながることがあります。 特性による失敗は、気を付けようとしてもなかなか回避できないことが多いです。その結果、「なぜ自分はこんなこともできないのか」と自己否定に陥ったり、他者から否定的な反応をされたりすることで精神的な不調を抱えたりするなど、社会での生きづらさを感じる要因になります。 過去の失敗体験の積み重ねによる自己肯定感の低下 先述した通り、発達障害のある方は特性による困難や苦手によって失敗体験をすることがあります。さらに、特性への自己対処や周囲への配慮(サポート)依頼をしない限り、その失敗を繰り返してしまいがちです。 仕事における失敗は一人ひとりさまざまで、たとえば、コミュニケーションがうまくいかない、ケアレスミスや遅刻が多いなどがあります。そういった失敗が積み重なると、自己肯定感が低下し、「自分はダメな人間だ」「誰からも理解されない」と感じることが増えます。 筆者は、全国に営業所のある企業の総務で社用車の管理をしていたことがあります。全国から社用車に関する相談事や報告への対処を一手に引き受けていました。前任者はその対応をそつなく臨機応変にこなしていましたが、私はそういった要領があまり良くありませんでした。そのため、営業所の担当の方とのコミュニケーションがうまくいかないことがあり、あまりに目に余ったときには、電話口で強い調子で詰められたり、口汚くののしられたりしました。 そういった経験が重なると、いやおうなしに自己肯定感が低下します。そういったこともまた、うつ病などの精神疾患のリスクを高める要因の1つとなります。 不安やストレスを感じやすい 発達障害のある方は、不安やストレスを感じやすいと言われています。予測できない状況への不安や、他者の気持ちを汲み取れないことによる孤立感が、強いストレスとなることがあります。また、ミスや遅刻、計画の混乱による自己批判や焦りは、不安を引き起こしがちです。 筆者は、物事が予定通りに進まないだけで、すぐに焦って混乱してしまいがちでした。あるとき、人事担当者との面談で、「毎日何かしら『事件』があるのが辛くて......」と話したところ、「え?事件って何のこと?」とポカンとされた経験があります。他人にとっては日常の出来事の範囲内なのに、自分にとってはストレス・不安の源である、ということがよくありました。 こうした不安やストレスが慢性的に続くと、心の負担が大きくなり、自己肯定感の低下や無力感につながることがあります。その結果、うつ病や不安障害などの二次障害につながってしまうのです。 「不安な気持ち」は、発達障害のある方にとっては、切っても切れないテーマです。その原因と対処法については、以下の記事に詳しく書いてあります。ぜひこちらもあわせてご覧ください。 大人になり社会に出てから、発達障害の特性による失敗や困難が増え、うつや不安障害などの二次障害になるケースは少なくありません。幼少期や学生時代には「性格」などとして見過ごされていた特性が、就職活動や職業生活の中で「困りごと」として表出されることがあるためです。 最初は、仕事や対人関係の困難による不安感やうつのような症状を感じて通院する。しかし、実はその奥を探ってみると発達障害が判明する。そんな経緯で、これまでの生きづらさや困難の背景に発達障害があることを理解するようになる方も多いようです。 発達障害の特性との付き合い方について 自分の特性を知って工夫する 発達障害の特性は、予測できない状況に強い不安を感じたり、抜け漏れせず段取りよく仕事を進めるのが苦手で、遅延やミスを繰り返したりなど、一人ひとり異なります。そのため、まずはどのような場面で困難を感じるのかを把握し、それに合う自分なりの工夫をすることが大切です。 たとえば、筆者は、段取りよく仕事を進めるのが難しいときは、目の前の一手を明確にして、それを終わらせることだけ考えるようにしています。 対策:まずは最初にすることだけを書き出す【1】まずは最初の手順「だけ」書き出す間違っていてもよし。まずは自分なりに思いつく、できるだけ簡単に、すぐできそうな「最初の一歩」となる作業を書き出す【2】とにかく実行してみる自分なりに書き出した作業を、とにかく一つだけ実行してみる【3】「一歩」をくり返すうまく行ったら次の一歩も書き出してみる。以後、「書き出し」→「実行」をくり返すどこから手をつければよいかわかりにくい仕事を目の前に、ただただ思考停止してしまう。また、そんなときほど一気に仕事を仕上げたくなり、結局何もできずに時間だけが経ってしまいます。 先走らず、まずは足元を見ましょう。最初の一歩ぐらいは想像できるはずです。そして、その次、その次と、一歩ずつ歩んでいけば、仕事の終わりが近づいてくるはずです。「発達障害」「うつ」を乗り越え@小鳥遊がたどりついた 「生きづらい」がラクになる メンタルを守る仕事術&暮らし方 さらに、抜け漏れが発生しがちな傾向については、このような対策をとっています。 対策:すぐに着手しようとする気持ちをいったん抑える【まずはやるべき仕事を確認しよう】 抜けもれしてしまう人の特徴として「すぐに結果が出るものに飛びついてしまう」傾向があります。 言われたことをメモしたり、書き出したりせず、すぐに仕事に着手すれば、「より早く仕事が進む」という結果が得られるかもしれません。しかし、そうすると抜けもれしやすい傾向のある人は、「自分が抱えている仕事の把握」がおろそかになってしまい、はじめに指示されていた仕事を新たな指示によって忘れてしまうという事態につながることも。結局仕事の抜けもれにつながってしまうのです。 手っ取り早く終わらせてしまいたい気持ちをまずは我慢して、いまやるべき仕事を書き出して確認してみましょう。「発達障害」「うつ」を乗り越え@小鳥遊がたどりついた 「生きづらい」がラクになる メンタルを守る仕事術&暮らし方 もちろん、上記は筆者の一例に過ぎず、人によっては対策がなかなか打てない特性もあるかもしれません。ただ、困りごとの原因となる特性・特徴と向き合い、それをカバーすることができれば、結果的に障害と共存して毎日を送ることができるようになります。 障害の自己受容をし、他者にヘルプを頼む 発達障害の特性と向き合い「自己を受容する」第一歩は、できないことや苦手なことがあっても、それは努力不足ではないと考えるところから始まります。「完璧にこなさなければならない」というプレッシャーから解放されることで、心が少し楽になります。 それが進むと、周囲に助けを求めるハードルも下がります。周囲との協力は、特性を補いながら自分らしく生きる大きな助けとなります。 たとえば、筆者はこのようにして他者へ協力を求めやすくする工夫をしています。 対策:仕事の「ボール持ち」を設定する【1】作業の手順を書き出す現在抱えている仕事の作業手順を書き出して一覧にする【2】「自分のボール持ち」を明確にするほかの人の対応待ちの作業(相手のボール持ち)と、自分がボールを持っている(自分がやらなければいけない)作業とを区別する仕事がうんざりするほど多くても、そのなかで自分が進められる仕事というのは、実はその一部であることが少なくありません。「自分のボール持ち」を書き込んで、「本当に自分が抱えるべき仕事」の量がわかれば、より前向きに仕事に取り組めるようになります。 もし、ほとんどの手順が「自分のボール持ち」だったら、それは自分が抱え込み過ぎる傾向があるということです。仕事の進め方を同僚や上司によく相談してください。「発達障害」「うつ」を乗り越え@小鳥遊がたどりついた 「生きづらい」がラクになる メンタルを守る仕事術&暮らし方 また、その上で、一人で抱え込みすぎないよう、自己開示するためのフレーズを決めています。 対策:魔法のフレーズ「困ッテイルンデス」を唱える【仕事での悩みを開示して、ミスのショックをやわらげよう】 仕事では、できるだけ相談して「共犯者」をつくりましょう。一緒に仕事をする人であればだれでもよいです。相談するのが難しければ 、「(〇〇の)仕事で困っているんですが」という「話し出しの魔法のフレーズ」を唱えましょう。 相談することができれば、その仕事は自分とその相談相手が一緒に持つ「荷物」のようなものになり、荷物の重さを二分(にぶん)することができます。そして、ミスがあったとしてもそのショックを「はんぶんこ」することができます。そのために、自分の悩みを開示してみるのがおすすめです。「発達障害」「うつ」を乗り越え@小鳥遊がたどりついた 「生きづらい」がラクになる メンタルを守る仕事術&暮らし方 ストレスや不安との付き合い方を学ぶ 発達障害の特性を持つ人にとって、日常生活や仕事の中でストレスや不安を感じる場面は多いものです。ストレスと向き合い、上手に付き合う方法を身につけることはとても大切です。 対策:思い浮かぶたくさんのことを受け流す【1】楽な姿勢で座る【2】意識的にゆっくり呼吸をする【3】目をつぶり思い浮かぶことを考える【4】そのまま3分間【「全部やらなきゃ」脱却のカギ「マインドフルネス」】 やらなければいけないことが多いと、「全部いっぺんにやらないといけない!」と焦って、結局すべて中途半端になってしまいがちではないでしょうか。まずは、焦りをなくしていったん落ち着くことが大切です。ぜひ、呼吸法など、自分に合った「マインドフルネス」を試してみてください。 頭に思い浮かぶ雑念を無理に否定せず、ただ「ああ、こういうことがあるなぁ」「自分はこれに対して不安を感じているんだな」とありのままの「いま」を認めてそれに集中することで、リラックスすることができ、「焦り」からも解放されるかもしれません。「発達障害」「うつ」を乗り越え@小鳥遊がたどりついた 「生きづらい」がラクになる メンタルを守る仕事術&暮らし方 対策:自分を大きく肯定することばをわざとつけて話す【「おれ/私ってすごいから~」と言ってから、本題に】 自己肯定感をキープしたりあげたりするために、「肯定的なことを口に出す」のは大切だと感じています。私はよく妻に、自分を肯定することばを最初に言って話し始めています。「おれってすごいから、今日締め切りの仕事を終わらせたよ」「おれってすごいから、階段だけを使って帰ってきたよ」という具合です。大してすごいことでなくてもよく、むしろ無理矢理な感じがあったほうが、より効果的です。 信頼できる家族や友人などに、ぜひ言ってみてください。くり返すと、ちょっとずつですが自信が湧いてくる気がします。「発達障害」「うつ」を乗り越え@小鳥遊がたどりついた 「生きづらい」がラクになる メンタルを守る仕事術&暮らし方 ストレスや不安を完全に取り除くことは難しくても、日常のちょっとした工夫から、ストレスとうまく付き合う術を身につけることで、日々を少しでも楽に過ごせるようになります。この方法はすべての人に当てはまるわけではありませんが、できることから少しずつ進めてみましょう。 特性に合った、自分らしい働き方を見つけるために 特性や性格によって、一人ひとりに合う対策法は異なります。また、性格や働き方の好みによっても、どのような工夫が効果を発揮するかは変わってきます。そのため、自分自身に合った方法を見つけることが重要です。 その参考として、筆者の執筆した書籍『「発達障害」「うつ」を乗り越え@小鳥遊がたどりついた 「生きづらい」がラクになる メンタルを守る仕事術&暮らし方』は、なんらかの参考になることと思います。興味がありましたら、ぜひお手に取ってみてください。 「発達障害」「うつ」を乗り越え@小鳥遊がたどりついた 「生きづらい」がラクになる メンタルを守る仕事術&暮らし方 ただ、就労には、本書でご紹介する仕事術などとあわせて、その他のトレーニングも必要です。独学でそのすべてを習得するのは、膨大な手間と時間がかかります。 就労移行支援事業所ディーキャリアでは、働くことで悩みを抱えている発達障害のある方の支援をおこなっています。 就労移行支援事業所とは、障害のある⽅が就職するための「訓練・就職活動」の⽀援をおこなう障害福祉サービスの一つです。(厚⽣労働省の許認可事業) 就職とは人生の目的を実現するための通過点です。自分の「なりたい」姿を見つけ、障害特性への対策と自分の能力を活かす「できる」ことを学び、社会人として長く働くために「やるべき」ことを身に付ける。 「なりたい」「できる」「やるべき」の 3 つが重なりあうところに仕事の「やりがい」が生まれると、私たちは考えています。 ご相談は無料です。フリーダイヤル、または、24 時間受付のお問い合わせフォームにて、お気軽にお問い合わせください(ご本人様からだけでなく、当事者のご家族の方や、支援をおこなっている方からのご相談も受け付けております)。 お電話(0120-802-146)はこちら▶ お問い合わせフォームはこちら▶ また、全国各地のディーキャリアでは、無料の相談会や体験会も実施しています。 全国オフィス一覧はこちら▶ 就労移行支援事業所ディーキャリアは、「やりがい」を感じながら活き活きと働き、豊かな人生を目指すあなたを全力でサポートします。お一人で悩まず、まずはお気軽にご相談ください。 記事監修:北川 庄治(デコボコベース株式会社 プログラム開発責任者) 東京大学大学院教育学研究科 博士課程単位取得満期退学。通信制高校教諭、障害児の学習支援教室での教材作成・個別指導講師を経て現職。
【発達障害と金銭管理】実際に効果があった対策を紹介

金銭管理が苦手な発達障害のある方に向け、ADHD当事者が実際に効果のあった対策を紹介します。特性別の困りごとと支援制度についても解説。

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「衝動買いが止められない」「お金がいつの間にか残り少なくなっている」「貯金がどうしてもできない」 発達障害のある方は、金銭管理に関する苦労がついてまわるといっても過言ではありません。筆者も、期限まで払うべきお金を延滞させてしまったり、計画的なお金の使い方ができず月末に翌月分の前借りをしなければならなくなったりと、お金の管理にはだいぶ手を焼いてきました。 今回の記事は、特性別のよくある困りごと、それらに対する対策、さらには相談先や支援制度の紹介をいたします。まずは自分で困りごとを把握して対策を立てることが大事です。しかし、自分だけでどうにかできない可能性もあり、相談先や支援制度も知っておくこともまた大切なこととなります。 皆さんが少しでも安心した社会生活を送れるよう、この記事がお役に立つことを願っています。 執筆者紹介 小鳥遊(たかなし)さん 発達障害やタスク管理をテーマに、2021年まで会社員、2022年からフリーランスとして活動している。 発達障害(ADHD)当事者。主に発達障害や仕事術をテーマとするweb記事を執筆。2020年に共著「要領がよくないと思い込んでいる人のための仕事術図鑑」(サンクチュアリ出版)を執筆し発行部数は10万部を超える。 また、就労移行支援事業所でタスク管理等に関する定期プログラムやセミナー等を実施。企業や大学等での講演、個人/法人のタスク管理コンサルティングもおこなっている。 [toc] 発達障害とは まず最初に、発達障害とはどういう障害なのかを簡単にご説明します。 「先天的」なもの 発達障害は、「先天的な脳機能の障害」です。「大人の発達障害」という言葉が有名になりつつあるので誤解されがちですが、親のしつけや本人の努力不足などで後天的に発達障害になる、ということはありません。 大きく分けて3つの要素がある 発達障害には、大きく分けて、自閉症スペクトラム障害(ASD)、注意欠如・多動性障害(ADHD)、限局性学習障害(SLD)の3つの要素があります。 自閉症スペクトラム障害(ASD) 対人関係やコミュニケーションの難しさ、強いこだわりや興味の偏りなどを特徴とする障害 注意欠如・多動性障害(ADHD) 不注意や多動、衝動性などを主な特徴とする障害 限局性学習障害(SLD) 全体的な知的発達に大きな遅れはないが、読み・書き・計算などの特定の課題の習得が、他に比べて不自然に遅れる状態 発達障害と診断される人のほとんどは、ADHD傾向が強いがASDの特性もいくぶんか見られるといった、3つの要素の濃淡の組み合わせであることが多いのです。このように、3つそれぞれの間は独立・分断されていないことから、発達障害はスペクトラム(連続性がある)と言われています。 発達障害の定義や、3つの障害の詳細については、下記記事を合わせてお読みください。 【特性別】お金の困りごとあるある 本記事では、ASDとADHDにフォーカスして、お金の困りごとを列挙していきます。 ASD特有の「お金の困りごと」 特性困りごとあるある将来の見通しを立てることへの苦手感計画をもってお金を使うことや、クレジットカードの引き落としなどの管理が難しいこだわりの強さ興味関心があることへの執着から、強い購買意欲を抑えられなくなる他者の気持ちが汲み取りづらい相手の言うことの真偽を見抜くことが苦手で騙されやすく詐欺被害にあうことがある ADHD特有の「お金の困りごと」 特性困りごとあるある衝動的に行動してしまう「ほしい」という感情や行動の抑制ができず衝動買いしてしまう継続することへの苦手感飽きっぽい・集中力が続かない等の理由で家計簿をつけ続けられない ASDやADHDの特性をお持ちの方は、多かれ少なかれ当てはまるところがあったのではないでしょうか。このような特性由来の「困りごと」を把握することは、対策をとるうえで大事になってきます。まずは、上記の「困りごと」のうち、自分がどれによく当てはまるかを確認してみてください。
【発達障害の治療と薬】実際に服薬してみてどうだった?

発達障害の治療法には服薬と心理療法があります。服薬の体験談と効果についてインタビューしました。薬に頼らず自己対処をすることも大切です。

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「発達障害の特性を治療でどうにかしたい」 「服薬をすることでもっとスムーズに毎日を送りたい」 発達障害と診断を受けた場合、服薬や心理療法を勧められることがあると思います。そこで、発達障害の治療法にはどんなものがあるのか、そして治療薬はどのようなものがあり、どんな効果があるのかをお伝えします。特に治療薬については、体験談を織り交ぜながらご説明していきたいと思います。 皆さんが少しでも過ごしやすい社会生活を送れるよう、この記事がお役に立つことを願っています。 皆さんが少しでも安心した社会生活を送れるよう、この記事がお役に立つことを願っています。 [toc] 執筆者紹介 小鳥遊(たかなし)さん 発達障害やタスク管理をテーマに、2021年まで会社員、2022年からフリーランスとして活動している。 発達障害(ADHD)当事者。主に発達障害や仕事術をテーマとするweb記事を執筆。2020年に共著「要領がよくないと思い込んでいる人のための仕事術図鑑」(サンクチュアリ出版)を執筆し発行部数は10万部を超える。 また、就労移行支援事業所でタスク管理等に関する定期プログラムやセミナー等を実施。企業や大学等での講演、個人/法人のタスク管理コンサルティングもおこなっている。 発達障害とは まず最初に、発達障害とはどういう障害なのかを簡単にご説明します。 「先天的」なもの 発達障害は、先天的な脳機能の障害です。「大人の発達障害」という言葉が有名になりつつあるので誤解されがちですが、親のしつけや本人の努力不足などで後天的に発達障害になる、ということはありません。 大きく分けて3つの要素がある 発達障害には、大きく分けて、自閉症スペクトラム障害(ASD)、注意欠如・多動性障害(ADHD)、限局性学習障害(SLD)の3つの要素があります。 自閉症スペクトラム障害(ASD) 対人関係やコミュニケーションの難しさ、強いこだわりや興味の偏りなどを特徴とする障害 注意欠如・多動性障害(ADHD) 不注意や多動、衝動性などを主な特徴とする障害 限局性学習障害(SLD) 全体的な知的発達に大きな遅れはないが、読み・書き・計算などの特定の課題の習得が、他に比べて不自然に遅れる状態 発達障害と診断される人のほとんどは、ADHD傾向が強いがASDの特性もいくぶんか見られるといった、3つの要素の濃淡の組み合わせであることが多いのです。このように、3つそれぞれの間は独立・分断されていないことから、発達障害はスペクトラム(連続性がある)と言われています。 発達障害の定義や、3つの障害の詳細については、下記記事を合わせてお読みください。 発達障害の治療について 一般に、医師から病気であると診断された場合、治療を受けたり薬を処方されたりします。発達障害も同じです。成育歴や日々の行動の聞き取りや、考え方や知能等の心理検査の結果をもとに診断され、治療を受けます。発達障害の治療には、大きく分けて「心理社会的治療」と「薬物療法」の2つがあります。 心理社会的治療 心理社会的治療は、「発達障害は先天的なものであり、障害そのものを『治癒』することは困難である」という見地に立ちます。そのため、本人が自らの特性と向き合い、社会に適応していくためのスキルを身に付けることが目的となります。 心理社会的治療の代表格といえば「認知行動療法」です。自身の「認知(ものごとのとらえ方)」を観察することで、そこから生まれる「感情」「行動」を変化させて生きづらさやストレスを軽くしていく治療法です。 認知行動療法については、下記記事を合わせてお読みください。 その他にも報告・連絡・相談のロールプレイなどをする「ソーシャルスキルトレーニング」、特性による困りごとが発生している状況において、そもそも本人の周囲を調整して困りごとが発生しないようにする「環境調整」というものが挙げられます。 薬物療法 心理社会的治療に対して、直接身体に作用する薬物を用いて困りごとに対処していくのが「薬物療法」です。ただし、現在はADHDの治療薬はあるものの、ASDやSLDへの治療薬はありません。また、症状を根治するものではなく、一時的に症状を抑えるものとなります。 とはいえ、服用した経験のある人からは、「頭の中がスッキリ静まり返ってびっくりした」「集中力が劇的に上がった」といった感想があがることがあり、一定の効果が得られるところは見逃せません。ADHDの治療薬として承認を受けている薬は以下の4つです。 名称内容コンサータ(メチルフェニデート塩酸塩徐放錠)・即効性あり・約12時間程度で効果が消失・ADHDの子どもの7割に効果・2013年に18歳以上の成人投与承認ストラテラ(アトモキセチン塩酸塩)・効果が現れるまで約8週間ほど・1日2回服用で24時間効果が継続・2012年に18歳以上の成人投与承認インチュニブ(グアンファシン塩酸塩徐放性製剤)・2017年3月に承認・特に多動性・衝動性について新たな治療の選択肢となることが期待されるビバンセ(リスデキサンフェタミンメシル塩酸)・2019年3月に「小児期におけるADHD」の適応において承認・ADHDの診断治療に精通した医師に限り、薬物依存にも対応できる医療機関薬局においてのみ取り扱い可・他のADHD治療薬が効果不十分のときのみに使用 なお、ASDやSLDの特性を持つ人に対しては何も薬物療法をおこなわないかというとそうではありません。例えば二次障害として不安や不眠などの症状が出ている場合には精神安定剤などの治療薬を用いたりしています。 二次障害については、下記記事を合わせてお読みください。
【発達障害当事者が解説】発達障害者のためのマルチタスク対処法

マルチタスクに苦手意識のあった発達障害当事者が、特性をカバーするために編み出した「タスク管理」テクニックを紹介します。

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「仕事が溜まってしまって、どれからやればいいか分からない」「複数の仕事を同時進行するのが難しい」 発達障害、特にASDやADHDのある人は、複数の仕事が目の前にある状態、いわゆる「マルチタスク」に苦手意識を持ちがちではないでしょうか。一方で、現代では、たくさんの仕事を効率よくこなすことが要求されがちです。 発達障害のADHDのある筆者は、自らの特性をカバーする目的で編み出した「タスク管理」をメインに、マルチタスクへの苦手感を大幅に払拭できました。その経験から「発達障害者はいかにマルチタスクに対処すべきか」についてお伝えしたいと思います。この記事が、特性による困りごとのある皆さまにとって「働きやすくなるためのヒント」になることを願っています。 [toc] 執筆者紹介 小鳥遊(たかなし)さん 発達障害やタスク管理をテーマに、2021年まで会社員、2022年からフリーランスとして活動している。 発達障害(ADHD)当事者。主に発達障害や仕事術をテーマとするweb記事を執筆。2020年に共著「要領がよくないと思い込んでいる人のための仕事術図鑑」(サンクチュアリ出版)を執筆し発行部数は10万部を超える。 また、就労移行支援事業所でタスク管理等に関する定期プログラムやセミナー等を実施。企業や大学等での講演、個人/法人のタスク管理コンサルティングもおこなっている。 なぜ発達障害者はマルチタスクが苦手なのか まずは、発達障害者、特にASD/ADHDのある人がマルチタスクへ苦手感を持つ理由をご説明したいと思います。 ASDのある人がマルチタスクが苦手な理由 ASDのある人がマルチタスクに対して苦手感を持つのは、次の2つの傾向が大きく関わっています。 シングルフォーカス特性一度に注意を向けられる範囲が狭くなる。興味関心の幅が狭くなりがち。シングルレイヤー思考一度に一つの情報しか処理しにくい。複雑な状況の理解が難しく、明記されていないルールを自然と読み取ったり、物事の「裏」を察したり、といったことが苦手になる。優先順位がつけにくくなる。 マルチタスクな職場では、この2つの傾向があるとなかなか難しいです。 ADHDのある人がマルチタスクが苦手な理由 ADHDのある人がマルチタスクに対して苦手感を持つのは、次の傾向が大きく関わっています。 ワーキングメモリーの弱み脳の一時的な記憶の置き場であり、作業場でもあるワーキングメモリーの機能低下により、臨機応変な対応が難しくなったり、不注意が起こりやすくなったりする。聞いたことや考えたことを一時的に頭にとどめたままで整理することが難しい。複数の作業を同時に進めることが難しい。集中し続けることや、注意し続けることが苦手。複数のことに目を配れない。など。 特に「聞いたことや考えたことを一時的に頭にとどめたままで整理することが難しい」「複数の作業を同時に進めることが難しい」「複数のことに目を配れない」といった傾向は、常に複数の仕事を抱える状況だと、困りごとを生みやすくなります。 ※上に挙げた話の詳細は、大人の発達障害とはでご説明しています。ぜひ参考になさってください。 そんなASD/ADHDのある人は、「マルチタスクな職場」にどう対応していけば良いのでしょうか。
【発達障害当事者の経験談】「転院」するときに考えておくべきこと

発達障害のある方が心身健康に働くためには「自分に合う医師の選択」が重要です。実体験をもとに医師選びのポイントを紹介します。

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「発達障害で通院しているが、医師と相性が合わない」「転院したいが、どのように考えればいいのか分からない」 発達障害のある方にとって、医師の存在はとても大きいと言えます。そもそも、発達障害の診断書を出せるのは医師だけです。しかも、診断書の記載内容は病名のみならず、病歴や治療の経過、生活能力の状態などにまで及びます。自然と医師の関わりは大きくなるのです。 また、診断書を出してもらって終わりというわけにはいかず、その後も心身の変化によって服薬を調整したり、日々の生活についてアドバイスを受けたりします。したがって、医師の選択は今後の生活を大きく左右すると言っても過言ではありません。 一方で、「医師をどう選んだら良いか」の大きな指標が示されているわけではありません。医師の「食べログ」のようなものはないのです。口コミがネット上にある場合もありますが、それがどの程度信頼できるかは分かりません。 発達障害当事者であり転院の経験がある筆者として、その経緯をお伝えしつつ、医師を選ぶ基準となる考え方などをご説明します。皆さんが少しでも社会生活を安心して送れるよう、この記事がお役に立つことを願っています。 [toc] 執筆者紹介 小鳥遊(たかなし)さん 発達障害やタスク管理をテーマに、2021年まで会社員、2022年からフリーランスとして活動している。 発達障害(ADHD)当事者。主に発達障害や仕事術をテーマとするweb記事を執筆。2020年に共著「要領がよくないと思い込んでいる人のための仕事術図鑑」(サンクチュアリ出版)を執筆し発行部数は10万部を超える。 また、就労移行支援事業所でタスク管理等に関する定期プログラムやセミナー等を実施。企業や大学等での講演、個人/法人のタスク管理コンサルティングもおこなっている。 筆者の体験談 筆者は、最初の病院を含めて合計3院、2回の転院をしています。それぞれ経緯と所感を書いてみます。 1カ所目:都内某診療所 【経緯】 仕事がうまくいかなかった筆者は、ネットで調べてみて「自分は発達障害ではないか」と考えるようになり、「東京都多摩総合精神保健福祉センター」に相談しました。面談の後、より詳しく調べてみようということになり「東京都発達障害者支援センター(TOSCA)」を紹介され再度面談をしたところ、都内の某診療所を紹介されました。 【所感】 筆者は、自分の「忘れっぽさ」「段取りの悪さ」といった特徴を自覚しており、心の底では「自分は発達障害であろう」と考えていました。結果、その通りの診断をしてもらうことができ、その意味では自分の意図に沿う対応をしてくれたと言えます。 また、当時は障害者が社会生活を送るのに必要なサポートを提供してくれる、いわゆる「社会資源」についての知識が筆者にはなかったのですが、診療所に常駐していたソーシャルワーカーさんに「障害者雇用」という働き方を教えてもらうことができ、その後の就職への足がかりを得ることができました。この点においても、筆者にとって良い選択だったと言えます。 ただ、当時東京都の多摩地方に住んでいた筆者は、23区内にあるこの診療所は自宅から往復3時間近くかかり、通院に苦痛を感じていました。 また、医師とのやりとりに違和感を覚えたことがありました。ある診察時に「私は本当に発達障害なんでしょうか?」と質問したときに、少し強い調子で「だって、それでうまくいっていないんでしょう?!」と少々強く言われたのです。今考えれば、「仕事がうまくいかず社会生活に支障をきたす」という時点で自明なのですが、強く言われるほど変な質問をしていないのではないかと思いました。 【転院のきっかけ】 1社目の会社に就職後、自宅から遠かったこともあり、また「通い続けなくても自分は大丈夫」と思って次第にこの診療所から足が遠のいていきました。 2カ所目:都内某医院 【経緯】 1社目、障害者雇用で就職して一安心していましたが、人員整理や親会社との合併の影響でだんだんと業務負荷が高くなっていき、やがて仕事がうまくいかなくなり休職に至ります。休職するためには医師の診断書が必要なので、自宅の近場で手っ取り早く休職できる診断書を書いてくれる病院を探しました。その結果、自宅から自転車で10分程度のところにあるこの医院を見つけ、通院し始めました。 【所感】 経緯でも書いたとおり、「休職できる診断書をもらう」のが目的でした。「このまま働き続けることは難しい」という状況に陥ったときは、一刻も早く休養を取る必要があります。休職へとスムーズに移行するためには、医師の協力が不可欠となります。そういうときは、休職のための診断書を作成してくれる「装置」として「医師を使う」のも大いにありだと考えています。 この医院の医師は、ある意味機械的に、すぐに休職に必要な診断書を書いてくれました。このときの筆者にとってはとてもニーズにマッチした医院だったと考えています。 【転院のきっかけ】 通所していくうちに、最初はメリットとして感じた「機械的さ」に物足りなさを感じたことと、休職期間が終了してそのまま退職し、2社目に転職するバタバタから通院しなくなりました。そして、2社目でも仕事がうまくいかず休職を考えたときに、別の病院を探すようになります。 3カ所目:都内某クリニック(現在) 【経緯】 2社目でまた仕事がうまくいかず休職を考えたときに、ちょうど知り合いが行っているクリニックが良いと話を聞きました。そこで行ってみたところとても相性が良く、現在でも継続して通っています。 【所感】 2カ所目の医院で感じた物足りなさは、当初それが何なのかがはっきりとは分かっていませんでした。しかし、この3ヶ所目のクリニックの医師と会った瞬間に分かりました。ただ単に薬を出してもらうだけではなく(それも大事ですが)、自分の話をしっかり聞いてくれて、より生活や仕事を考慮して踏み込んだアドバイスをしてくれることを筆者は欲していたのです。また、とにかく声が明るく、ハキハキとしていつでも笑顔で話してくれることも、筆者としても安心感がありました。 このクリニックに通い続けて数年経ちますが、結果的に服薬内容は変わっておらず、月1回の通院の際には、今の生活や仕事の話をして、「頑張ってね」と言われて診察は終わり、ということもあります。「それは本当に良い医者なのか?」というような話ですが、それでも危ない傾向があるときはちゃんと言ってくれる、筆者にとっては良いバロメーターとして頼れる存在になっています。
【発達障害当事者が解説】「仕事がうまくいかない」対策と継続のコツ

「仕事がうまくいかない…」を乗り越えるための対策を筆者の実体験をまじえご紹介。対策を立てた後に『継続』するためのコツもお伝えします。

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「仕事がうまくいかない」「同じようなミスを繰り返してしまう」 発達障害の特性がある方にとって、「仕事がうまくいくかどうか」はかなり大きなテーマでしょう。注意欠如・多動性障害(ADHD)の当事者である筆者も、過去に仕事でミスや失敗をして落ち込み、不安感にさいなまれる経験をしてきました。 平成29年に発表された厚生労働省の発表によると、精神障害者の障害者雇用の離職理由について「仕事内容があわない」「作業、能率面で適応できなかった」という項目が上位にきています。また、日本国内の企業の99.7%を占める中小企業のうち、障害者雇用の定着の理由として「作業を遂行する能力」を挙げる企業が一番多いという調査結果も出ています。 参考文献:障害者雇用の現状等|厚生労働省 発達障害特性への対策は世にたくさん発信されています。一方で、発達障害のある方の離職率が劇的に低くなったという話は聞きません。つまり、対策を知ったとしても、それを実際の自分の業務に生かすことが難しいのではないでしょうか。 今回の記事では、発達障害のある方によくある失敗とその対策、そして、対策を継続し習慣化していった筆者の体験談をお伝えします。皆さんが少しでも職場で長く違和感なく働けるよう、この記事がお役に立つことを願っています。 [toc] 執筆者紹介 小鳥遊(たかなし)さん 発達障害やタスク管理をテーマに、2021年まで会社員、2022年からフリーランスとして活動している。 発達障害(ADHD)当事者。主に発達障害や仕事術をテーマとするweb記事を執筆。2020年に共著「要領がよくないと思い込んでいる人のための仕事術図鑑」(サンクチュアリ出版)を執筆し発行部数は10万部を超える。 また、就労移行支援事業所でタスク管理等に関する定期プログラムやセミナー等を実施。企業や大学等での講演、個人/法人のタスク管理コンサルティングもおこなっている。 発達障害当事者によくある失敗 発達障害の特性があると、以下のような失敗をしがちです。それぞれについて、原因と対策を挙げてみます。今回ご紹介をする【原因】は、あくまでも一例です。特性は一人ひとり異なるため、あくまでも参考としてご覧ください。 ① ケアレスミスが多い 【原因】 一般に、「記憶の抜け漏れ・忘れ」はケアレスミスにつながりやすいと考えられます。発達障害の特性の有無と、「ワーキングメモリ」と呼ばれる作業や動作に必要な情報を一時的に記憶・処理する能力の間には関連性があることが指摘されています。 参考文献:「ワーキングメモリと実行機能の発達」|発達心理学研究 2019,第30巻,第4号,173-175 【対策】 ワーキングメモリの働きを自分でコントロールすることはなかなかできません。頭の中だけで覚えておこうとするのではなく、紙のノートやPCのメモ帳に書き出して保存することが、簡単ながら一番効果的な対策です。電話を受けたらメモをする、口頭で指示を受けたらToDoリストに書き出すなど、確実に残る記録としていつでも参照できるようにしておくことが大切です。 ② 納期を守れない 【原因】 発達障害の特性の1つとして、不安が強く心配性であるため、失敗・挫折への恐怖が強いという傾向があり、仕事(やるべきこと)の先延ばしをして納期を破ってしまいがちだとされています。 参考文献:ひきこもり支援者読本 第2章「ひきこもりと発達障害」|内閣府 【対策】 「できないかもしれない」と思ってしまう仕事は「失敗せずやれる」と思えるような細かい作業手順に分解することでその不安や恐怖を取り除きます。すると、とりあえず手を付けることができるようになります。その結果、先延ばしを避けて納期通りにやるべきことを終わらせることができます。 ③ 優先順位を間違える 【原因】 やるべきことが複数あり、そのどれから着手するかを決める、いわゆる「優先順位づけ」についてもまた、発達障害当事者は困難を抱えがちです。それは、目の前の作業に没頭するあまり、全体と部分の把握を適切に切り替えることが難しかったり、先々の展開を想像することが苦手だったりすることが原因といっても良いでしょう。 参考文献:注意欠陥/多動性障害児を対象とした課題解決場面におけるメタ認知を促すための支援方法に関する事例的研究|上越教育大学大学院 【対策】 「手を付けなければいけない順番」の指標として締切を意識します。締切を意識することで、早く終わらせなければいけないのはどれかが分かり、正しく優先順位づけをすることができます。 このように、それぞれ原因を知り対策を講じることで、よくある失敗を事前に避け、仕事の質を上げることができます。しかし、対策を講じたは良いが続かなかった、飽きて途中で辞めてしまったといった経験がある方も多いのではないでしょうか。 そこで、筆者の「挫折してしまった(継続できなかった)経験」と「うまく継続できた経験」を対比して、対策を習慣化するコツをお伝えします。
【発達障害当事者が解説】無理なく働き続けるための特性理解と対策

長く健康的に働き続けるためにはどうすればいいのか。筆者の体験談を交えながら、なぜ発達障害のある方は仕事が長続きしない傾向にあるのか、その原因や対策などについてお伝えします。

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「仕事がうまくいかず長続きしない」「職場の環境と合わなくて、短期離職を繰り返してしまう」 令和2年に発表された厚生労働省の資料によると、精神障害のある方が1年間就労を継続できている割合は50%を切っており、定着が困難な方が多いと解説されています。 参考文献:障害者雇用の促進について関係資料|厚生労働省 発達障害の注意欠如・多動性障害(以下ADHDと表記)の当事者である筆者の就労経験からしても、最後に勤めた会社を除き、思ったほど長続きしなかった印象があります。障害者雇用枠で就労していた会社は4年強で休職し、一般雇用枠で就労していた会社は2年と持たずに休職してしまいました。実際は休職に至るまでかなり長い期間をかけて「就労環境とのミスマッチ」が生じていたので、適切な環境で就労できていた年数は、それよりもずっと短いという印象です。 今回の記事では、そんな筆者の体験談を交えながら、なぜ発達障害のある方は仕事が長続きしない傾向にあるのか、その原因や対策などについてお伝えします。皆さんが健康で長く働けるよう、この記事がお役に立つことを願っています。 [toc] 執筆者紹介 小鳥遊(たかなし)さん 発達障害やタスク管理をテーマに、2021年まで会社員、2022年からフリーランスとして活動している。 発達障害(ADHD)当事者。主に発達障害や仕事術をテーマとするweb記事を執筆。2020年に共著「要領がよくないと思い込んでいる人のための仕事術図鑑」(サンクチュアリ出版)を執筆し発行部数は10万部を超える。 また、就労移行支援事業所でタスク管理等に関する定期プログラムやセミナー等を実施。企業や大学等での講演、個人/法人のタスク管理コンサルティングもおこなっている。 発達障害のある方が仕事が長続きしない原因とは 仕事が長続きしない原因は「①仕事内容とのミスマッチ」「②職場環境とのミスマッチ」の2つと考えられます。 仕事内容とのミスマッチ 曖昧な内容が理解できないことで空気が読めなかったり、衝動的に思いついたことをしゃべったりといった発達障害の傾向は、周囲の人たちとのコミュニケーションがうまくいかなくなることにつながりがちで、仕事内容とのミスマッチが発生する可能性があります。 例えば、接客業はお客様とのコミュニケーションありきの仕事なので、お客様とのやりとりがうまくいかなければ、そもそもその仕事にマッチしないということになります。 職場環境とのミスマッチ さらに、せっかく仕事内容とはマッチしていても、例えば遠隔地にあるオフィスに通うための長時間の満員電車の混雑に耐えられなかったり、騒がしいオフィス内で発達障害の特性による聴覚過敏から集中できなかったりといった、職場環境とのミスマッチを生んでしまうこともあります。 筆者の事例 筆者も発達障害の特性によるミスマッチに悩まされた一人です。 「先延ばしグセ」がもとで期日に厳しい公共機関へ提出する報告書に手を付けずクレームを受ける「段取り下手」で社内イベントの準備がうまくできない「マルチタスクが苦手」なあまり名刺発注業務と社内備品の発注と来客対応の優先順位がうまくつけられない「抜け漏れ」でついさっき頼まれた仕事を忘れる「自己関連付け」(何か良くないことが起こったとき自分に責任がないような場合でも自分のせいにしてしまう)で通常どおりに使用していたプリンターが壊れた際に自分が原因があると考えてしまう このようなことが多発し仕事がうまくいかなくなる→ストレスが溜まりその傾向に拍車がかかる→より仕事がうまくいかなくなる、という悪循環に陥りました。 また、仕事がうまくいかないことで、周囲の方々との関係も悪化し、あるいはそう自分が勝手に思い込んでしまい、居場所感のようなものがだんだんなくなっていき、「これ以上仕事を続けられない」という心理状態になっていきました。 この悪循環を断ち切るには、自らの特性に応じた対策を打つことが必要です。そのためには、自分にはどういった特性があるのかをまず知ることが大事です。
【発達障害当事者が実践】職場の対人関係を円滑にするビジネスマナー3選

ASDのある方が困りごとを感じやすい「職場でのコミュニケーション」。筆者の体験談を交えながら、職場を安心できる居場所とするためのコツをお伝えします。

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「普通に振る舞っているつもりなのに、周囲の人たちとの壁を感じることがある」「日頃の行動について注意されたが、どうしたら良いか分からない」 多かれ少なかれ、どんな人でも職場に溶け込むための悩みはあるものでしょう。ただ、周囲の様子や反応から、職場における適切な振る舞いを学ぶのは、発達障害、特に自閉症スペクトラム障害(以下、ASDと表記)の特性がある方にとって苦手なことではないでしょうか。 筆者は、診断として受けているのは注意欠如・多動性障害(以下、ADHDと表記)のみですが、発達障害はスペクトラム(連続性)のあるものであり、ASDに由来する(と思われる)困りごとも体験してきました。 今回の記事では、そんな筆者の体験談を交えながら、職場を安心できる居場所とするためのコミュニケーションのコツを3つお伝えします。 今回は「職場のコミュニケーション」のなかでも社会人として問われる機会の多い「ビジネスマナー」に絞ってお届けします。 皆さんが少しでも働きやすくなるように、この記事がお役に立つことを願っています。 [toc] 執筆者紹介 小鳥遊(たかなし)さん 発達障害やタスク管理をテーマに、2021年まで会社員、2022年からフリーランスとして活動している。 発達障害(ADHD)当事者。主に発達障害や仕事術をテーマとするweb記事を執筆。2020年に共著「要領がよくないと思い込んでいる人のための仕事術図鑑」(サンクチュアリ出版)を執筆し発行部数は10万部を超える。 また、就労移行支援事業所でタスク管理等に関する定期プログラムやセミナー等を実施。企業や大学等での講演、個人/法人のタスク管理コンサルティングもおこなっている。 ASDのある方が、ビジネスマナーが苦手な原因とは ASDの特性がある方は、場の空気を読むなどして暗黙のルールを認識することが苦手とされています。 参考文献:発達障害者の就労上の困難性と具体的対策 ─ASD 者を中心に|独立行政法人労働政策研究・研修機構 なぜ、ASDの特性がある方は、暗黙のルールを認識するのが苦手なのでしょうか。 一般に、発達障害の特性がない定型発達の方は、「①理解できていない」状態から「②なんとなく分かる」という段階を経て「③理由が説明できて分かる」という順番で理解が進みます。 しかし、ASDの特性がある方は、「②なんとなく分かる」というプロセスがないことが研究で分かっています。つまり、「①理解できていない」の次が「③理由が説明できて分かる」なのです。 これは、言葉で分かるようにならないと理解ができないということと、一度理解したことを「なんとなく」変更する柔軟な対応が難しい(マイルールへのこだわりがある)ことを意味します。 参考文献:他者理解の発達再考―直感的他者理解をめぐるASD(自閉症スペクトラム)研究を通して―|東洋大学 どの職場でも「これは言わなくても守って当たり前」と思う「暗黙のルール」は存在します。そして、色々な職場に共通する暗黙のルールが「ビジネスマナー」としてまとめられ、明文化されないまま社会全体に広まっていったと考えて良いでしょう。これは、言葉以外の意味合いを重要視する日本ならではの文化かもしれません。 ただし、ASDの特性がある方がこのような文化の中でうまくコミュニケーションをとっていくのは、上記の内容から分かる通り、難しいと言わざるを得ません。 そんな発達障害の、特にASDの特性がある方が、職場でのコミュニケーションを円滑にするためにはどうすればいいのでしょうか。具体的な対策としてのビジネスマナーを、筆者の失敗事例を通してお伝えしていきます。