【発達凸凹】スケジュール管理はなぜ難しい?
こんにちは。ディーキャリア 川崎オフィス 職業指導員の吉村です。
当事業所に相談に来られる方の多くが、「スケジュール管理が苦手」「優先順位をつけるのが難しい」といったお悩みを抱えていらっしゃいます。実は、これらの困難さは単に「努力が足りない」「だらしない」といった問題ではありません。発達障害特有の脳の特性が深く関わっているのです。
今回は、科学的な見地から発達障害のある方がスケジュール管理を苦手とする理由と、それを踏まえた支援のヒントについてお伝えします。
スケジュール管理の困難さ、実は脳の特性が関係しています

「また遅刻してしまった」
「締め切りを守れなかった」
「何から手をつけていいかわからない」
──こうした経験を繰り返すうちに、自己肯定感が下がってしまう方も少なくありません。
しかし、これは決して本人の怠慢や性格の問題ではなく、脳の機能的な特性に起因するものです。具体的には、以下の3つの要因が関係しています。
1. 実行機能の弱さ
実行機能とは、目標に向かって計画を立て、順序立てて物事を実行する能力のことです。この機能は主に前頭前野という脳の部位が担っています。
発達障害、特にADHD(注意欠如・多動症)やASD(自閉スペクトラム症)のある方は、この前頭前野の活動に特徴があることが脳科学研究で明らかになっています。前頭前野は「脳の司令塔」とも呼ばれ、以下のような機能を担っています。
- 複数のタスクに優先順位をつける
- 時間を逆算して行動を計画する
- 状況に応じて行動を切り替える
- 衝動的な行動を抑制する
実行機能が弱いと、「やるべきことはわかっているのに、どこから手をつけていいかわからない」「時間配分がうまくできない」という状態に陥りやすくなります。これは、スケジュール管理において最も基本となる「計画立案」のステップでつまずいてしまうことを意味します。
2. ワーキングメモリの容量の少なさ
ワーキングメモリとは、情報を一時的に保持しながら処理する能力のことで、いわば「脳のメモ帳」のような役割を果たしています。
発達障害のある方は、このワーキングメモリの容量が生まれつき少ない傾向にあります。そのため、
- 複数の予定を同時に覚えておくことが難しい
- 「A→B→Cの順番で作業する」という手順を頭の中で保持できない
- 作業中に別の情報が入ると、今やっていたことを忘れてしまう
- マルチタスクが極端に苦手
といった困難さが生じます。
例えば、会議中に新しいタスクを頼まれた時、メモを取る前に別の話題に移ってしまうと、その内容をすっかり忘れてしまう──こうした経験は、ワーキングメモリの特性によるものです。
3. 神経伝達物質の働き方の違い
脳内では、ドーパミンやノルアドレナリンといった神経伝達物質が、意欲や集中力、注意力の調整をおこなっています。
ADHDのある方の脳内では、これらの神経伝達物質の働き方が定型発達の方とは異なることが研究で示されています。具体的には、
- 興味のあることには過剰に集中する(過集中)
- 興味のないことには全く集中できない
- 時間感覚が不正確になりやすい
- 報酬が遠い将来にある課題への動機づけが難しい
といった特徴が見られます。
その結果、「締め切りギリギリまで手をつけられない」「時間が経つのがあっという間で、気づいたら約束の時間を過ぎていた」という事態が起こりやすくなります。

時間感覚のズレも大きな要因
発達障害のある方の多くが経験するのが、時間感覚の独特さです。
- 「5分だけ」と思ったことが30分経っていた
- 「まだ時間がある」と思っていたら、すでに遅刻していた
- 作業にかかる時間を見積もることができない
- 時計を見ても、その時刻が「どのくらい先/後」なのかピンとこない
これは、前頭前野が担う「時間的展望」の機能の弱さと、ドーパミンなどの神経伝達物質の働きが関係していると考えられています。時間という抽象的な概念を実感として捉えることが難しいため、スケジュール管理においてさらなる困難さが生じるのです。
優先順位づけが難しい理由
多くの方が「何から手をつけていいかわからない」と訴えられます。これには、以下のような要因が絡んでいます。
全体を俯瞰する力の弱さ
ASDの特性として、中枢性統合の弱さが指摘されています。これは、物事を全体的に把握する能力のことです。
細部には注目できても、全体像をつかむことが苦手なため、「今、何が最優先なのか」「この作業は全体の中でどの位置にあるのか」といった判断が難しくなります。
緊急度と重要度の判断の困難さ
実行機能の弱さにより、「締め切りが近い」「影響が大きい」といった情報を統合して、適切に優先順位をつけることが苦手になります。
結果として、
- 目の前にあるものから手をつけてしまう
- 興味のあることを優先してしまう
- すべてが同じくらい重要に感じられて、パニックになる
という状況が生まれやすくなります。
有効な支援の考え方
これらの脳科学的な背景を踏まえると、以下のような支援アプローチが有効とされています。
1. 視覚化による支援
ワーキングメモリへの負担を減らすため、予定やタスクを視覚的に明確化することが推奨されています。
- カレンダーやスケジュール表の活用
- タスクリストの作成と見える化
- タイマーやアラームの活用
- 色分けや記号による優先順位の表示
視覚情報として外部化することで、「覚えておく」という負担が軽減され、全体像も把握しやすくなります。
2. タスクの細分化
「資料を作成する」という大きなタスクは、実行機能が弱い方にとってはハードルが高すぎます。
タスクを具体的な小さなステップに分解することで、実行しやすくなります。
- 「資料を作成する」→「必要な情報を集める」→「構成を考える」→「1ページ目を作る」
このように細分化することで、「何から始めればいいか」が明確になります。
3. ルーティンの確立
実行機能を補うため、日々の行動をルーティン化することも有効です。
- 朝のチェックリストを作る
- 毎日決まった時間にスケジュール確認をする
- 作業の終わりに必ず翌日の準備をする
習慣化することで、その都度判断する負担が減り、実行機能への依存度が下がります。
4. テクノロジーの活用
スマートフォンのリマインダー機能や、タスク管理アプリなど、外部ツールを積極的に活用することも一つの方法です。
- リマインダーで時間管理をサポート
- タスク管理アプリで優先順位を可視化
- タイマーアプリで時間感覚を補完
- カレンダーアプリでの予定共有
こうしたツールは、弱い脳機能を補う「外部記憶装置」として機能します。
5. 環境調整
集中しやすい環境づくりも重要です。
- 刺激の少ない作業スペースの確保
- 整理整頓された空間(視覚的な情報を減らす)
- 作業に必要なものだけを手元に置く
- 音の刺激を減らす工夫
環境を整えることで、注意が散漫になりにくくなります。
6. 成功体験の積み重ね
小さな目標を設定し、達成する経験を積み重ねることで、自己効力感を高めることができます。
最初は「10分間集中して作業する」といった小さな目標から始め、徐々にステップアップしていくことで、脳内のドーパミンシステムを活性化し、動機づけを高める効果も期待できます。

一人ひとりに合った支援を見つけることが大切
スケジュール管理の困難さは、発達障害の種類や程度、個人の特性によって大きく異なります。
就労移行支援事業所などでは、一人ひとりの特性を丁寧にアセスメントし、その方に最適な支援方法を一緒に考えていくことができます。
- どの脳機能に特に弱さがあるのか
- どのような環境やツールが合っているのか
- どんな訓練や工夫が効果的か
こうした点を、ご本人と一緒に探りながら、段階的にスキルアップを目指していくことが重要です。
まとめ
スケジュール管理や優先順位づけの困難さは、発達障害のある方にとって切実な課題です。しかし、それは脳の特性によるものであり、適切な理解と支援があれば、必ず改善していくことができます。
「自分はダメだ」と思う必要はありません。脳の特性を理解し、それに合った工夫やツールを使うことで、あなたらしい働き方を見つけることができます。
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「スケジュール管理が苦手で困っている」
「優先順位のつけ方がわからない」
──そんなお悩みがある方は、ぜひ一度、見学・相談にいらしてください。一緒に、あなたに合った方法を見つけていきましょう。
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