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【当事者解説】発達障害と診断されたらどうする?やるべきことは?

ADHD当事者の筆者が、診断を受けたあとの行動ステップ、利用できる制度、職場への伝え方、自己理解・特性への工夫までを解説します。

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「発達障害と診断されたけれど、どうすればいいのか分からない」「職場や家族に伝えるべきか、必要な手続きはあるか」 そんな不安を感じていませんか。 診断を受けた直後は、気持ちが揺れやすく、今後のことを考える余裕が持ちにくい時期です。焦らずに少しずつ整理していけば、自分らしく働き、暮らしていくための方法を見つけていくことができます。 この記事では、ADHDの診断を受けた筆者が、「発達障害と診断されたら」というテーマで、診断に至るまでの流れから、診断後にできること、そして周囲との向き合い方までをお伝えします。今の環境をより過ごしやすく整えるためのヒントとして、ぜひ参考にしてみてください。 執筆者紹介 小鳥遊(たかなし)さん 発達障害やタスク管理をテーマに、2021年まで会社員、2022年からフリーランスとして活動している。 発達障害(ADHD)当事者。主に発達障害や仕事術をテーマとするweb記事を執筆。2020年に共著「要領がよくないと思い込んでいる人のための仕事術図鑑」(サンクチュアリ出版)を執筆し発行部数は10万部を超える。 また、就労移行支援事業所でタスク管理等に関する定期プログラムやセミナー等を実施。企業や大学等での講演、個人/法人のタスク管理コンサルティングもおこなっている。 [toc] 診断に至るまでによくあるきっかけ まだ診断を受けていない方・受けるか悩んでいる方も多いかと思います。まず最初に、診断を受けたきっかけについて紹介します。 診断後にやるべきことについて今すぐ知りたい方は、「診断後にできる行動のステップ」からお読みください。 発達障害は、症状が突然あらわれて診断がくだるものではなく、日常生活や仕事の中で感じる「やりづらさ」や「違和感」から、少しずつ気づいていくケースが多いです。 職場でうまくいかない場面が続いたとき 「同じ注意を受けることが多い」「予定の調整が難しい」「会議中に集中が続かない」など、仕事の中で自分でもうまく回せていないと感じることが続く場合があります。 筆者が「自分は発達障害かもしれない」と思ったきっかけがまさにこのパターンでした。 法律事務所の事務員をアルバイトでやっていて、電話の対応がうまくできなかったり、お客様にお渡しする大事なお金を事務所に置いたまま外出してしまったりといった場面が続き、「もう雇い続けられない」と契約を終了することになりました。 続けて不動産仲介の小さな会社でアルバイトを始めるのですが、そこでもファイリングに明らかに時間がかかりすぎてしまったり、お客様を物件に案内できず迷子になってしまったりと、自分でも「何かおかしい」と考えるようになりました。 そこで、「仕事 うまくいかない」「仕事 ケアレスミス」といったワードで検索をかけてみたところ、「発達障害」という言葉を知り、クリニックで診断を受けました。 情報を見て「もしかして自分も」と感じたとき テレビや記事、SNSなどで「大人の発達障害」「ADHD」「ASD」といった言葉を目にし、自分の行動パターンや考え方に似ていると感じて受診する方も少なくありません。 これまで言葉にできなかった「生きづらさ」や「頑張ってもうまくいかない理由」に納得できることで、ほっとしたり、次の一歩を考えやすくなる方も多いようです。 筆者は、診断はADHDだったのですが、発達障害について知るにつれて、ASDの傾向もあるかもしれないと思うようになっていきました。 「抽象的な言葉が理解しづらい」「言葉にならない行間を読むのが苦手」といったASD特性のある方の経験談をSNSやウェブなどでよく見ます。筆者もそれを見て、「そういえば自分もそうだ!」と思い、ASD傾向への対策も取り入れて仕事や生活をするようにしています。 メンタル不調で通院したときに分かることも ストレスや疲れの蓄積で心療内科・精神科を受診した際に、医師から「発達障害の傾向があるかもしれません」と指摘されるケースもあります。 気分や体調の波が大きいと感じている場合、その背景に特性が関係していることもあるため、専門の医療機関で相談してみることが一つの選択肢になります。 診断後にできる行動のステップ 風邪などの病気は、診断があり、薬を処方され、服薬をすれば治っていきます。診断を受けたら、ある程度終わりが見えることが多いです。しかし、発達障害の診断は、診断→自己理解→対策という流れの「始まり」だと考えて良いでしょう。 以下に、診断を受けた後に意識しておくとよい5つのステップを紹介します。 1. 自分を知る時間をつくる 診断を受けたあと、焦って誰かに伝えたり、手続きを急いだりする必要はありません。まずは「どんな場面でうまくいかないのか」「どんな条件なら力を発揮しやすいのか」を整理してみましょう。 得意・不得意の傾向を書き出す 困った場面をメモして、どんな工夫が有効だったかを記録する 特性を理解しているカウンセラーや医師に話してみる このような記録は、後で職場や家族と話すときにも役立ちます。 筆者は、逆にこの時間をつくらなかったため、少々回り道をしてしまいました。診断を受けたあとに、クリニックのソーシャルワーカーの方に就労について相談して障害者雇用の話を聞き、すぐに就職活動を始めたのです。 スピーディーに事が進んだのは良いのかもしれませんが、その反面、自分自身の得意・不得意などもしっかり把握せずに仕事を始めてしまったため、仕事がうまくいかず体調を崩して休職するということを2社連続でしてしまいました。 もし診断を受けた当時の自分に今の自分がアドバイスするなら、「まずは就職を焦らずに、自分のことを知る時間を確保しよう」と言うと思います。 2. 利用できる制度や支援を調べる 発達障害がある方を支える制度は複数あります。それぞれの特徴を知り、必要に応じて利用を検討するのをおすすめします。 医療機関での継続的なフォロー(通院・カウンセリングなど) 発達障害者支援センターでの相談(生活や就労について) 就労移行支援などの障害福祉サービス(働く準備のサポート) 合理的配慮を得るための社内相談 前述のとおり、筆者は診断を受けてすぐに就職活動を始めたのですが、それは制度や支援機関についての知識がなかったというのも一因でした。特に、「就労移行支援事業所」というものの存在を知らず、応募書類の作成なども自力か友人の力を借りてやっていました。 ただ、支援制度や相談窓口の情報を知らなかったことで、結果的に一人で抱え込みすぎていたように思います。どこに相談すればいいか分からないときは、まず信頼できる情報を集めることが大切です。 そこで、頼れる専門の相談窓口を紹介します。 発達障害者支援センター:発達障害がある方やご家族が、生活・就労・福祉制度などの相談をできる地域の支援拠点です。お住まいの市区町村の障害福祉窓口:障害者手帳や福祉サービスの申請・利用方法を案内してもらえる窓口です。 精神保健福祉センター:こころの健康や生活・仕事の悩みを専門職に相談できます。 障害者就業・生活支援センター:働くことと暮らしの両面から支援を受けられる機関です。 ハローワーク:障害者雇用の相談や求人紹介、応募書類の作成サポートなどを受けられます。 地域障害者職業センター:職業評価(自分の職業適性や課題、支援方法を知るためのもの)や就職後の定着支援など、専門スタッフによる助言が得られます。医療機関:治療や服薬の相談のほか、利用できる支援制度を紹介してもらえる場合もあります。就労移行支援事業所:就職に向けた訓練や生活リズムの整え方、ビジネスマナーなどを学べる障害福祉サービスです。 就労移行支援事業所ディーキャリアでは、診断を受ける前の方、診断を受けたものの障害福祉サービスの利用をするかどうか決めていない方からのご相談も承っています。お気軽にご相談ください。 お問い合わせフォーム▶ 3. 職場への伝え方を考える 発達障害などの障害があると、障害者雇用のオープン就労で働く場合は、自身の障害を開示して、そんな自分が働きやすい環境を作るための「合理的配慮」について伝えることができます。 ただ、「診断名」だけを伝えるだけでは、周囲の人たちも何をすれば良いか分かりづらいものです。それだけでなく「具体的にどんな支援があると働きやすいか」を整理しておくことがポイントです。 たとえば、以下のように合理的配慮事項を伝えると、周囲の人も対応しやすくなります。 指示は口頭だけでなく、メモやメールでももらえると助かる 優先順位を一緒に確認してもらえると安心できる 集中しやすい静かな場所で作業したい 筆者は、この「合理的配慮」を、「自分の弱みをさらけ出すようで気が引ける」と考えていました。したがって、最初の障害者雇用のオープン就労の際に合理的配慮を聞かれたときに、「いえ、特にありません」と答えてしまいました。 合理的配慮は、あくまで自分と周囲がスムーズに働けるようになるためのものであり、職場の全員のメリットになるものです。変に遠慮すると、かえって職場に迷惑をかけてしまうこともあります。事実、筆者は合理的配慮を満足に伝えずに就労した結果、仕事がうまくいかなくなって休職してしまいました。伝えるべきことは、きちんと伝えることが大事だったなと、心底思ったのを覚えています。 そのためにも、職場のコミュニケーションの取り方や、どこまで伝えるかについては、一人で抱え込まずに相談してみることはとても大切だと考えています。 4. 生活と仕事のバランスを整える 自己理解をして、職場で働くための環境を整えることは、生活の安定性があってこそ十分に発揮されます。 睡眠・食事・休息のリズムを整える スケジュールを見える化し、予定を詰め込みすぎない 定期的に「最近どう感じているか」を振り返る 厚生労働省の就労準備性ピラミッドでは、「働くためのスキル」「社会人としての基本的な習慣」などを支える土台として、まずは「こころとからだの健康」や「日常生活のリズム」が大事なものと位置づけられています。 健康を維持し、日常生活を無理なく続けられる習慣をつくることは、自分らしく働くために最優先事項だと考えたいところです。 診断後の話ではありませんが、筆者が仕事がうまくいかずに休職したときのことです。当時実家に住んでいたのですが、休職の意味をしっかり理解していた親は、「とにかく休むことを優先しよう」と言ってくれました。ただ、1つだけ約束しました。それは、「朝起きて夜寝るというリズムは守ろう」ということでした。 今考えると、この最優先事項だけをしっかり守るという模範的な姿勢だったなと考えています。そのおかげか、しっかり休みつつもスムーズに次の段階へ移行できたという実感がありました。 日常生活のリズムを整えることは、こころとからだのメンタルヘルスを守りながら、無理なく働き続ける土台になります。ぜひ気を付けていただきたい点です。 5. 障害特性への工夫を考える  発達障害がある方の多くは、仕事や生活の中で「忘れやすい」「集中が続かない」「整理が苦手」といった特性を感じることがあります。 こうした特性は、努力や根性で克服するものではなく、自分に合った工夫を取り入れることでうまく付き合っていくことが大切です。 以下は、ADHD当事者である筆者が実際に取り組んでいる工夫で、特性や性格などによって、一人ひとり必要なもの・合う対策が異なりますので、参考としてお読みください。 仕事での工夫の例 タスクを見える化する:付箋やアプリで「やることリスト」を作り把握する。 スケジュール管理を習慣化する:会議や打合せなどの予定はすぐにカレンダーへ入力し、リマインダー機能を活用する。 作業環境を整える:集中しやすい静かな場所を選ぶ、デスク上をシンプルに保つ。 一度に抱えすぎない:同時に複数の作業を進めず、「今はこれだけ」に絞る。 筆者自身も、ADHDの特性である「注意の散りやすさ」を補うために、自分の抱える仕事を書き出して一覧化し、常に「次にやるべきこと」を具体的にして「今日やること」をメモに書き出すようにしていました。やるべきことが明確になることで、落ち着いて仕事を進められるようになりました。 日常生活での工夫の例 家事をルーティン化する:曜日ごとに掃除・洗濯などを決めておくと、迷う時間が減りやすくなります。 金銭管理をシンプルにする:現金での管理は使った履歴を残しづらい(レシートをなくす)ため、できるだけクレジットカードで支払うようにする。 忘れ物対策をする:鍵や財布を置く箱を用意し、出かける前に箱を確認するだけにしておく。 「できたこと」に注目する:完璧を目指すよりも、できたことを記録し、自分を肯定する時間を持つ。 こうした工夫は、特性を無理に変えるのではなく、「自分に合った環境をデザインする」ための方法です。 自分の行動パターンを理解し、小さな工夫を積み重ねることで、仕事も生活も少しずつ安定していきます。 よくあるご質問と考え方 ここでは、診断を受けた後の対処のしかたや、どう行動したら良いかなどについて、よくある疑問についてお答えしていきます。 Q. 会社に伝えたほうがいいですか? A. 伝えるかどうかは、状況や職場環境によって異なります。「配慮があれば働きやすくなる」「理解を得たい」と感じる場合は、信頼できる上司や人事担当者に相談する選択もあります。 一方で、伝えずに働き続けている方もいます。自分が働きやすいと感じる方法を選ぶことが大切です。 Q. 家族や友人に話すべきですか? A. 伝える相手や範囲も自分で決めて構いません。家族や親しい人に理解してもらうことで、生活面の協力を得やすくなることもあります。ただし、相手の理解度や関係性を見ながら、無理のない範囲で話すことをおすすめします。 Q. 障害者手帳は取得した方がいいですか? A. 手帳を取るかどうかは、その方の状況によって異なります。 主なメリット 障害福祉サービスや支援を利用しやすくなる 税制や公共料金の優遇が受けられる場合がある 検討ポイント 手続きに時間や準備が必要 「手帳を持つ」ことに心理的な負担を感じる方もいる 手帳は申請や手続きに時間がかかることもあるので、医師や支援センターなど専門家と一緒に判断していくと安心です。 Q. どんな制度やサービスがありますか A. 代表的な制度としては以下のようなものがあります。 発達障害者支援センター(相談・情報提供) 障害年金(生活・就労に継続的な難しさがある場合) 就労移行支援事業所(働くためのトレーニング・就職活動支援) 発達障害と向き合うために大切なこと 診断を受けることで、「苦手の原因」や「自分の得意なスタイル」が見えてくることがあります。発達障害がある人の中には、集中力・創造力・記憶力などを強みとして発揮できる方も多くいます。 「できないことをなくす」よりも、「できることを増やしていく」意識で取り組むことが、自分らしさを活かす第一歩になります。 こうしたことも含めて、自分の特性を理解しながら、安心して働くための環境づくりは、一人で抱え込まずに進めることが大切です。 就労移行支援事業所ディーキャリアでは、働くことで悩みを抱えている発達障害のある方の支援をおこなっており、発達障害のある方が、自己理解を深められる実践的なプログラムを提供し、また規則正しい生活が送れるトレーニングを行なっています。 発達障害のある方の特性を理解したうえで、個別に最適なトレーニングを提供することが特徴です。 就労移行支援事業所とは、障害のある⽅が就職するための「訓練・就職活動」の⽀援をおこなう障害福祉サービスの一つです。(厚⽣労働省の許認可事業) 就職とは人生の目的を実現するための通過点です。自分の「なりたい」姿を見つけ、障害特性への対策と自分の能力を活かす「できる」ことを学び、社会人として長く働くために「やるべき」ことを身に付ける。 「なりたい」「できる」「やるべき」の 3 つが重なりあうところに仕事の「やりがい」が生まれると、私たちは考えています。 ご相談は無料です。フリーダイヤル、または、24 時間受付のお問い合わせフォームにて、お気軽にお問い合わせください(ご本人様からだけでなく、当事者のご家族の方や、支援をおこなっている方からのご相談も受け付けております)。 お電話(0120-802-146)はこちら▶ お問い合わせフォームはこちら▶ また、全国各地のディーキャリアでは、無料の相談会や体験会も実施しています。 全国オフィス一覧はこちら▶ 就労移行支援事業所ディーキャリアは、「やりがい」を感じながら活き活きと働き、豊かな人生を目指すあなたを全力でサポートします。お一人で悩まず、まずはお気軽にご相談ください。 記事監修:北川 庄治(デコボコベース株式会社 最高品質責任者) ・一般社団法人ファボラボ 代表理事 ・公認心理師 ・NESTA認定キッズコーディネーショントレーナー ・発達障害ラーニングサポーター エキスパート 東京大学大学院教育学研究科 博士課程単位取得満期退学。 通信制高校教諭、障害児の学習支援教室での教材作成・個別指導講師を経て現職。
発達障害の「擬態」─無理せず、自分らしく働くためのヒント

周囲に馴染むために本当の自分を隠そうとする「擬態」についてADHD当事者が解説。無理に特性を隠すことで起こるリスクや対処法について紹介。

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「本当の自分を知られたくない」「仕事ができないと思われるのが怖い」「障害があることが知られたら嫌われるかもしれない」 そんな悩みを抱えていませんか。 発達障害のある方のなかには、周囲に特性があることを悟られないように、定型発達者のように振る舞おうとすることがあります。これを「擬態」あるいは「ソーシャルカモフラージュ」と呼びます。 この記事では、ADHDの診断を受けた筆者から、発達障害のある方が無理をして特性を隠すことで生じるリスクと、より無理なく働き続けるための対処法を、経験談を交えてご紹介します。 対処法を知ることで、今の職場やこれからの就労をよりスムーズに続けていくためのヒントになれば幸いです。 執筆者紹介 小鳥遊(たかなし)さん 発達障害やタスク管理をテーマに、2021年まで会社員、2022年からフリーランスとして活動している。 発達障害(ADHD)当事者。主に発達障害や仕事術をテーマとするweb記事を執筆。2020年に共著「要領がよくないと思い込んでいる人のための仕事術図鑑」(サンクチュアリ出版)を執筆し発行部数は10万部を超える。 また、就労移行支援事業所でタスク管理等に関する定期プログラムやセミナー等を実施。企業や大学等での講演、個人/法人のタスク管理コンサルティングもおこなっている。 [toc] 擬態(カモフラージュ)とは何か 「擬態」とは、本来の自分の特性を隠し、周囲に適応するために意識的・無意識的に振る舞いを変えることを指します。発達障害の分野では「ソーシャルカモフラージュ」と呼ばれることもあります。 たとえばASD(自閉スペクトラム症)の方は、「空気が読めない」と指摘された経験から、表情や声色のわずかな変化まで必死に観察し続けます。ADHDの方は「忘れ物が多い」と言われないように、過剰なチェックを常に繰り返します。 このように、「障害がある自分を受け入れてもらえないかもしれない」という不安や、「もう失敗したくない」という体験から、当事者は自分を抑圧し、演じるように振る舞うことがあります。 筆者も、擬態せざるを得ない状況に置かれたことがあります。一般雇用でクローズ就労をしたときのことです。クローズ(=障害を開示しない)なので、当然特性があるとは周囲に言えません。しかも、その会社には、年齢が30代中盤だったことから役職を付けて採用してもらいました。 役職付き、つまりチームのリーダーとしての役割を果たす必要がありました。しかも自分のタスクも当然こなさなければなりません。「ADHDで抜け漏れが多い」「先送り癖がある」とは言えない状況でした。 必然的に、「抜け漏れのないプレイングマネージャーであらねばならない」「チームメンバーの手前、先送りなどしてしまっては示しがつかない」と考えるようになり、擬態を余儀なくされました。 擬態は、ある種の生存戦略でもあります。 相手の反応を見て相槌のタイミングを真似(模倣)する。会議の段取りや資料の形式にも合わせる。こうした調整は、脳機能の特性を補うために生まれることがあります。 実際、筆者は発達障害当事者へのインタビューをする機会も多いのですが、「笑顔で合わせ続けた結果、帰宅後にぐったりして動けない」という声が繰り返し語られます。 発達障害のある当事者がこうした擬態を続けると、「自分を押し殺して、無理に社会に馴染もうとする」生き方になりがちです。しかもそれは仕事の場面だけではありません。 例えば、飲み会で本当は早く帰りたいのに「場を壊さないように」と笑顔を続ける。親族や友人との集まりで、不得意な雑談に相槌を合わせ、興味のない話題に同調する。LINEのやり取りひとつでも「変に思われない言葉」を探して何度も書き直す。休日も「充実している人」を演じるために予定を詰め込み、安心しようとする。 こうして職場でもプライベートでも「社会に溶け込むための演技」を続けるうちに、気がつけば心も体もすっかり消耗してしまうのです。 擬態が生まれる背景 発達障害のある方が「擬態」をする理由には、大きく4つの要因が考えられます。 ①過去の失敗体験 業務上のミスや、学生時代の人間関係での失敗体験。こうした経験から「二度と同じ失敗をしたくない」「これ以上笑われたくない」と思い、過剰な努力で特性を隠そうとします。 筆者自身も、中学時代に学級委員を務めていたとき、全員で暗唱するはずの詩を教室に掲示し忘れ、発表直前になって慌てて貼り出し、そのまま強行させてしまったことがありました。 その結果、クラス文集の「傲慢な人」というアンケートで名前が挙がってしまい、強いショックを受けました。本人にとっては単なる抜け漏れでも、周囲には「横柄で独りよがり」と誤解されてしまったのです。 こうした体験は、「自分の特性をそのまま出すと人に迷惑をかけたり嫌われたりする」という思い込みにつながり、社会人になってからも業務での報告書の不備や手続きの抜け漏れといったミスに過敏に反応し、「次こそは絶対に失敗できない」というプレッシャーを強め、さらに擬態を習慣化していきました。筆者も、特性による業務上のミスをして叱責を受けた経験から、「二度と同じ失敗をしてはいけない」と強く思い込み、体調を崩すほどの残業でリカバリーを重ねたことがあります。 特性上、数字の管理や抜け漏れが多い傾向があり、特に総務で社用車の管理を担当していたときはそれが顕著でした。全国の営業車は1500台、技術者用の車は800台、さらに役員車もあり、それらの状況を毎月所定のフォーマットに入力し、分厚い報告書にまとめる必要がありました。 本来なら定時内で終えるべき作業でしたが、ミスなく提出するためには人の3倍の時間をかけてWチェック、トリプルチェックをするしかなく、ときには深夜3時までかかることもありました。こうした過剰な努力は、一見すると「責任感の強さ」に見えるかもしれませんが、実際には「特性ゆえの苦手さを隠し通すための擬態」でもあったのです。 ②社会的圧力 「空気を読むのが当たり前」「仕事は正確でなければならない」などの職場文化が、発達障害の特性を持つ人にとっては強いプレッシャーになります。筆者も、上司からの無言の期待を読み、「強くメンバーを引っ張るリーダー」に擬態しようとしていました。あるとき、チームの目標設定を上司と決めようとしたとき、「頑張れば到達できるレベル」を設定しました。 上司からは「どう頑張っても到達できなさそうなゴールを設定してこそだ」と指導されました。正直、閉口しました。それでも「会社とは成長率を極限まで押し上げる場所だ」と自分に言い聞かせ、チームに目標を共有しました。 加えて、ASD特性のある方のなかには「場の雰囲気を察した発言」が苦手な方も少なくありません。しかし、日本の社会文化では「暗黙の了解」や「協調性」が強く求められるため、周囲から浮いてしまわないように過剰に適応してしまうことがあります。こうした文化的な背景も、発達障害のある人を擬態に追い込みやすい要因のひとつです。 ③自己肯定感の低下 周囲に理解されない体験が続くと、「本来の自分では認められない」という思い込みが強まり、擬態を手放せなくなります。筆者も、職場で「本来の自分では受け入れられない」と思い込むきっかけになった出来事があります。筆者は臨機応変な対応が苦手という特性が強いと感じており、日常的な会話でも「ちょっとここで気の利いた一言を言わなければ」と思えば思うほど、うまくいかないのです。 たとえば、職場の飲み会で、わざと「最後に面白い一言で締めてよ」と振られることがよくがありました。芸人でもない自分に、急に「笑わせて終わらせろ」と当意即妙な対応を求められても、うまくいくはずがありません。どんな言葉を選んでも空気は冷え、結局は滑って、それを笑いのネタにして場を収める。そんな役回りを押しつけられました。その瞬間は場が和んだように見えても、自分にとっては「なんて自分は役に立たない存在なんだろう」という無力感だけが残りました。気づけば「こんな自分でも、なんとかこの人たちとやっていかなければ」と必死に笑顔を作り、無理に同調するようになっていたのです。自己肯定感は下がり続け、それを補うかのように擬態が習慣化していきました。 ④発達障害への偏見や誤解 「発達障害=できない人」「甘えているだけ」といった偏見や誤解も、当事者を擬態に追い込みます。周囲の理解不足から「特性をそのまま見せたら否定されるに違いない」と考え、本来の自分を隠す習慣が強まります。 筆者も一般雇用のクローズ就労で働いていたとき、特例子会社について上司に尋ねた経験があります。そのグループ企業では農園事業を営む特例子会社があり、筆者は「今後、事務仕事など他の分野にも広げる予定はないのですか?」と聞いてみました。すると上司から返ってきたのは、「障害者でそういった高いレベルのことができる人はなかなかいないのだよ」という言葉でした。 その瞬間、「特性を開示したら、自分も『できない人』と見なされてしまうのではないか」という不安が強まり、言葉を失いました。こうした偏見は当事者に深い無力感を与えるだけでなく、「本来の自分を見せるわけにはいかない」と擬態を強化する原因にもなります。 なお、擬態の裏側では、しばしば「過剰適応」というものが起きています。 「迷惑をかけたくない」「普通でいたい」という気持ちから、限界を超えて合わせ続ける。その積み重ねが、自分の感情と身体の声を消していってしまうのです。気づいたときには「無理がデフォルト」になっていました。 こうして「無理が標準」になると、仕事だけでなく私生活でも、生きづらいと感じる世界に閉じ込められていく感覚が強まります。 擬態がもたらすリスク 精神的な消耗 無理を続けることで、心身は限界に近づきます。燃え尽き症候群(バーンアウト)、うつ病、適応障害といった二次障害につながることも少なくありません。 筆者も、職場で無理を重ねた結果、心身が摩耗して抑うつ症状に陥った経験があります。 以前は当たり前のように昼食を買ってデスクで食べられていたのに、ある時期からは昼休みに席に座っていることすら耐えられなくなりました。会社近くのカフェに逃げ込み、音楽を聴きながら時間を潰しました。「このあと仕事が始まってしまう」と、ただそれだけが怖い。嫌な出来事があったわけでもないのに、ふいに涙がこぼれ、止まらないこともありました。 そんな状態では仕事などできるはずがないのに、「行かなければ」という思いに背中を押され、重たい体と心を引きずるように出社を続けていました。 自己肯定感の低下 そもそもこの「擬態」の根っこにあるのは、単なる「苦手」ではありません。注意力や記憶、感情のコントロールなど、脳機能の偏りから生じる「特性由来の困難さ」です。 それは怠けや努力不足ではなく、脳の仕組みによってどうしても現れてしまうものです。しかし、その事実を知らないまま「自分が弱いからだ」と思い込むと、深い自己否定へとつながってしまいます。 だからこそ、見えないところで無理する/頑張りすぎる状態が続き、気づけば常に疲れる・慢性的な疲労・「なんだかしんどい」が日常になります。こうした状態は「生きているのに生きづらい」という感覚を強めていきます。 筆者も、自分を否定し続けた結果、まったく自信が持てなくなった時期がありました。本来なら誰でもできるはずの単純な業務でさえ、「自分には絶対にできない」と思い込んでしまうのです。 例えば社内の備品をパソコン上で発注する場面。ボタンを押すだけの作業なのに、「間違えて大量にコピー用紙を頼んでしまうのではないか」「押した瞬間に自分のミスが露呈して迷惑をかけるのではないか」と強く不安が膨らみました。 それは「かもしれない」ではなく、「きっとやってしまう」という確信めいた恐れでした。その結果、「自分はダメだ」「これはやってはいけない」と思い込み、手が止まります。そのために業務が滞り、周囲から注意され、さらに自分を否定する。そんな悪循環に陥った経験があります。 診断や支援が遅れる 特性を隠し続けると、周囲からは「問題ない人」と見なされ気づかれないまま時間が過ぎ、結果として診断が遅れることがあります。 筆者も、まさにその一人でした。自分を認められないがゆえに、特性をひた隠しにし、「抜け漏れがある」「先送りしてしまう」「段取りが苦手」といった自分の姿を否定し続けていました。 常に背伸びをし、何とか「普通の社会人」として振る舞おうとする毎日は、自己受容という本来のスタート地点に立つことを長く遅らせていたのです。 その結果、自分なりのやり方を模索し、適切に自分を支える仕組みとして「タスク管理」を習得し始めるまでに、ADHDの診断を受けてから実に8年もの時間を要してしまいました。 擬態から解放されるために 擬態を完全にやめることは難しいかもしれません。しかし「無理をし続ける」状態から少しずつ距離を置く工夫は可能です。 自己理解を深める 自分の特性や苦手を知り、「どこまでなら努力できるか」「どこからは支援が必要か」を整理しましょう。 筆者は、残念ながら、当時は就労移行支援事業所などの福祉的な支援の存在をあまり知らず、すべてを自力で解決しようとしてしまいました。そのために非常に長い時間がかかってしまったのですが、振り返ってみると大切だったのは「前向きな諦め」でした。 「諦め」という言葉にはネガティブな響きがあります。ここで言うのは、等身大の自分を知り、苦手を認めるという前向きな諦めです。最初は敗北感が伴います。それでも、その先には大きな解放感と希望が広がっていました。 例えば筆者は「忘れっぽい」特性があります。それを隠そうとすると苦しいだけでしたが、「自分は忘れてしまう」と認めたうえで、「だから大事なことはすべて紙に書いておく」という仕組みを作ることで安心して動けるようになりました。つまり、こうした工夫こそが「支援」であり、自分を守るための大切な対策なのだと実感しています。 周囲に伝える(カミングアウト) 信頼できる上司や同僚に、必要な配慮を伝えることで、無理をせずに働ける環境が整います。 筆者の経験では、一般雇用のクローズ就労ではうまくいきませんでした(あくまで筆者の場合です)。毎日顔を合わせる仲間だからこそ、自分の特性をある程度開示し、素の自分を知ってもらったうえで仕事をしたいという気持ちが強かったのです。 そのため、障害者雇用としてオープン就労で入社した会社では、合理的配慮を無理なく伝えることができました。そして、それをチーム全体で共有してもらうことで、「特別扱いをしてもらう」こと以上に「自分の特性を知ってもらえている」という安心感が生まれました。その安心感は常に抱えていた緊張を和らげ、結果として無理をせず働き続けることにつながりました。 もちろん、人によってはクローズ就労でも、工夫や対策を積み重ねることで「苦手はあるけれど自分なりにやっていけている」という自信を持ち、職場を居場所と感じられる場合もあると思います。 大切なのは、自分にとって「どの程度まで素の自分を出せるか」を見極めることです。いずれにしても、自分を完全に偽ることなく過ごせる環境であれば、無理をせずに長く働き続けることができ、自分本来の力を発揮することができると実感しています。 小さな工夫を取り入れる とはいえ、完全に自分自身をそのまま受け入れてもらうのは難しいものです。 会議中のメモを許可してもらう 締め切りを細分化する 静かな作業環境を確保する など、自分の特性に合わせた工夫を少しずつ実践していくことをお勧めします。 筆者自身も抜け漏れが多い特性がありますが、「抜け漏れをしてしまう自分をそのまま許してほしい」と訴えるわけにはいきません。 大切なのは、まず「抜け漏れをする」という事実を認めること。そのうえで、「抜け漏れを防ぐ方法」「抜け漏れが起きても致命傷にならない仕組み」を考えることでした。 そうした工夫を積み重ねていった結果、今の自分に合ったタスク管理の仕組みを作り上げることができました。 もちろん、人によって工夫の仕方は異なります。ある人にとっては「話し方を工夫する」ことかもしれませんし、「挨拶を丁寧にする」ことや、「人の嫌がる雑務を率先して引き受ける」ことかもしれません。 そうした小さな工夫を積み重ねていくことは、職場に溶け込み、長く働き続けるために決して無駄にはなりません。自分に合ったやり方を見つけることが、無理をしすぎない働き方の第一歩だと実感しています。 無理を続ける前に──支援という選択肢 無理をしすぎず働き続けるには、自分なりの工夫が欠かせません。ただ、筆者はそれをすべて独力でやろうとして、結果的に大きく遠回りしました。 もしあの頃、就労移行支援事業所のような専門的なサポートの場があることを知っていれば、もっと早く自己理解を深め、無理なく働ける方法を身につけられたのではないかと思います。支援を受けることは甘えではなく、自分の可能性を広げるための大切な手段です。 就労移行支援事業所ディーキャリアでは、働くことで悩みを抱えている発達障害のある方の支援をおこなっており、発達障害のある方が、自己理解を深められる実践的なプログラムを提供し、また規則正しい生活が送れるトレーニングを行なっています。 発達障害のある方の特性を理解したうえで、個別に最適なトレーニングを提供することが特徴です。 就労移行支援事業所とは、障害のある⽅が就職するための「訓練・就職活動」の⽀援をおこなう障害福祉サービスの一つです。(厚⽣労働省の許認可事業) 就職とは人生の目的を実現するための通過点です。自分の「なりたい」姿を見つけ、障害特性への対策と自分の能力を活かす「できる」ことを学び、社会人として長く働くために「やるべき」ことを身に付ける。 「なりたい」「できる」「やるべき」の 3 つが重なりあうところに仕事の「やりがい」が生まれると、私たちは考えています。 ご相談は無料です。フリーダイヤル、または、24 時間受付のお問い合わせフォームにて、お気軽にお問い合わせください(ご本人様からだけでなく、当事者のご家族の方や、支援をおこなっている方からのご相談も受け付けております)。 お電話(0120-802-146)はこちら▶ お問い合わせフォームはこちら▶ また、全国各地のディーキャリアでは、無料の相談会や体験会も実施しています。 全国オフィス一覧はこちら▶ 就労移行支援事業所ディーキャリアは、「やりがい」を感じながら活き活きと働き、豊かな人生を目指すあなたを全力でサポートします。お一人で悩まず、まずはお気軽にご相談ください。 記事監修:北川 庄治(デコボコベース株式会社 プログラム開発責任者) 東京大学大学院教育学研究科 博士課程単位取得満期退学。通信制高校教諭、障害児の学習支援教室での教材作成・個別指導講師を経て現職。
事務が苦手でも働き続けるために。ADHD当事者が辿り着いた対処法

なぜ事務が苦手?どうすれば働きやすくなる?ADHD特性で事務作業が苦手な方に向け、見える化・仕組み化など実践的な仕事術を紹介します。

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「経費精算、いつもギリギリ…先延ばしの自分が嫌になる」「タスクを整理したはずなのに、気づけば頭がパンクしてる」 こんなお悩みを抱えていませんか。ADHDがある方で事務作業への苦手意識がある方は少なくありません。 仕事をするうえで避けて通れないのが「事務仕事」の存在。でも、ADHDのある方にとって、この“地味で当たり前なはずの仕事”が、どうにもこうにも苦手なことがあります。本記事では、筆者の書籍『ADHDの僕が苦手とされる事務にとことん向き合ってみた。』(大和書房)をベースに、ADHDの特性と「事務」とのつきあい方について紹介します。 あなたがこれからの職場で、無理なく、安心して働き続けていくためのヒントになれば幸いです。  執筆者紹介 小鳥遊(たかなし)さん 発達障害やタスク管理をテーマに、2021年まで会社員、2022年からフリーランスとして活動している。 発達障害(ADHD)当事者。主に発達障害や仕事術をテーマとするweb記事を執筆。2020年に共著「要領がよくないと思い込んでいる人のための仕事術図鑑」(サンクチュアリ出版)を執筆し発行部数は10万部を超える。 また、就労移行支援事業所でタスク管理等に関する定期プログラムやセミナー等を実施。企業や大学等での講演、個人/法人のタスク管理コンサルティングもおこなっている。 [toc] ADHDが事務作業を苦手とする理由 ADHD(注意欠如・多動症)は、先天的な脳機能や神経伝達の障害で発達障害のひとつです。「不注意」「多動性」「衝動性」といった特性が日常生活や仕事に影響を及ぼします。 たとえば… 不注意 → ケアレスミス、忘れ物、抜け漏れ 衝動性 → 気づいたら他のことに手を出してしまう 多動性 → 頭の中が常に動いていて、落ち着いて段取りを考えられない これらは、まさに「事務作業」と真っ向からぶつかってしまう特性です。優先順位を立てたり、書類を揃えたり、物事を順序だてて淡々と進めたりする「事務」は、ADHDのある方にとっては「苦手が凝縮されたジャンル」と言っても過言ではありません。 そもそも「事務」ってなんだろう? 「事務」と聞いて、どんな仕事を思い浮かべますか? 多くの方がまず思い浮かべるのは、いわゆる“事務職”の人がやる仕事内容のイメージかもしれません。 たとえば、伝票処理や資料の印刷、会議室の予約、備品の管理。そういった「オフィスの裏方」を支える業務です。一方で、筆者が自身の困りごとに向き合い、再定義した「事務」という言葉は、それを含むもっと広い意味を持っています。 目の前の目的を、確実に達成するための地道なプロセス。派手ではないけれど、現実を一歩ずつ進めていくために欠かせない動き。 たとえば旅行を計画するとき 「フランスでルーブル美術館に行きたい!」という目的があったとします。 それを実現するには、具体的にどんな行動が必要でしょうか? 飛行機やホテルを予約する 休暇の日程を職場に申請する パスポートや荷物の準備をする 滞在中の移動手段を調べる このように、目的を“実現可能な形に落とし込む”プロセスが発生します。 これこそが「事務」です。どんな人のどんな活動にも内包されている「共通の要素」であり、「夢や目的を絵に描いた餅にしないための現実的な行動」――これが「事務的な動き」の本質です。 どんな仕事にも「事務」がある たとえば、営業職であれば、訪問や商談が「本番」かもしれません。 でも、その前には、 スケジュール調整 顧客情報の整理 提案資料の準備 報告書の作成 といった、準備のプロセスが不可欠です。就労の場面では、「業務遂行能力」という言葉がよく使われます。これは単なるスキルや知識のことではなく、仕事を現実的に、安定して続けていけるだけの“足場”があるかどうかとも言い換えられるでしょう。ADHDのある方にとって、「事務」に向き合うとは、まさにその“足場づくり”です。 頭の中の混乱を整理する 一人抱え込まず他人と連携できるようにする 忘れやミスを減らす仕組みを作る これらの行動は、どれも「事務的」な動きでありながら、自分らしく働くための支えになります。「事務」は単なる裏方仕事ではなく、仕事を進める“エンジン”であり、“土台”であり、“保険”でもあるのです。 就労に困り感を抱えている方が安心して働くためには、この「事務」との向き合い方が、とても大きな一歩になるはずです。 仕事が動き始める、「3つのギモン」 ADHDのある方が「仕事をやろうと思っても、なぜか動けない」「気づけば別のことをしていた」という経験を持つことは少なくありません。 その背景には、頭の中で物事が絡まってしまい、何から始めればいいのか見えなくなる。そんな“見えないハードル”があるからです。 筆者も、かつてはその一人でした。 事務作業にどうしても苦手意識が拭えず、仕事が思うように進まない日々。休職を経て復職したあと、ようやくたどり着いたのが、「3つのギモン(問い)」を自分に投げかけるというシンプルな方法でした。 ① どうやる?(=分解) やるべきことを細かい手順に分解する。これが「どうやる?」です。たとえば「レポートを出す」なら、 何を書くかメモする Wordで下書きを書く 添削してPDFに変換する 上司に送る というように、「行動レベル」に落とし込んでいきます。ADHDのある人は、“ざっくりしたまま”だと混乱しやすく、手が止まってしまう傾向があります。 でも、手順として見える形にすると、とたんに「できそうな感じ」が生まれ、動きやすくなるのです。 ② いつやる?(=日付) 手順ひとつひとつに日付を入れていく。これが「いつやる?」です。「構成を考えるのは月曜の午前中、下書きは火曜日の午後」といった具合に、自分なりの予定を置くことで、「今やること」「あとでやること」の整理がつきます。その仕事をどう進めるか「スケジューリング」をする、と言っても良いでしょう。 ここで大切なのは、完璧なスケジュールを作ろうとしないこと。 あくまで「仮置き」でいい。状況に応じて変えても大丈夫です。 予定があるだけで、「動き方」が見えてくる。それが、日付を置くことの効果です。 ③ だれがやる?(=担当) 「この作業は本当に自分がやるのか?」という「だれがやる?」というギモンを立てます。手順ごとに「自分」とか「相手」あるいは「同僚のAさん」「上司のBさん」といった形で、作業の担当者を付け加えていくのです。 全部自分で抱え込んでいませんか? 人に頼めること、分担できることがあるかもしれません。たとえば、 会議の議事録は同僚のAさんに頼む 書類の準備は上司のBさんに確認をとってもらう 役所の手続きは家族に手伝ってもらう といったように、「誰に任せられるか」を考えるだけで、自分の負担は大きく変わります。 そしてそれは、人に頼る練習にもつながっていくのです。 どのように書き出すのか これらの「3つのギモン」をどのように実際に書き出すのかは自由です。ツールも問いませんし、自分が分かれば良いので、決まった型はありません。とはいえ、イメージはつきづらいと思いますので、参考までに筆者の書き方をお伝えします。 「会議資料作成」 └7/24 資料案作成【自分】 └7/25 資料案のチェックを同僚のAさんへ依頼する【自分】 └7/27 Aさんからチェック結果が帰ってくる【相手(Aさん)】 └7/28 資料案へチェック結果を反映させる【自分】  └7/29 完成させた資料を上司のBさんへ提出する【自分】 筆者はこのような形で仕事を書き出しています。ただ、必ずこの形にしなければいけないのではありません。この例は、3つのギモンを全て活用しましたが、一部だけ組み合わせて活用するのも大丈夫です。 「仕組み」で“自分”を支えるという考え方 この「3つのギモン」は、特別な道具やスキルがなくても実践できる、ADHDのある方が“自分らしく働くための足場です。 仕事のことで頭がぐるぐるして動けないとき やらなきゃいけないことが山積みのとき 誰にも頼れず、ひとりで抱え込んでしまいそうなとき そんなときこそ、この3つのギモンを思い出してみてください。 「どうやる?」「いつやる?」「だれがやる?」をひとつずつ書き出すだけで、頭の中が整理されて、仕事が少しずつ動き出す感覚が得られるはずです。 次の節からは、そんな「3つのギモン」をどのように活用していくのかを、困りごとの事例を挙げながら3つお伝えしていきます。 困りごと別、「事務」活用法①モヤッとした仕事、「よくわからない」せいで手が止まる やらなきゃいけないのは分かっている。むしろ、やりたいと思っていても、いざ取りかかろうとすると、手が止まってしまう。そんな経験、ありませんか? あるクライアントさんのお話です。専門分野を活かしてセミナーを開催したいという思いがありました。けれど、なかなか行動に移せません。理由をうかがってみると、 セミナーのイメージが具体的に湧かない どんなふうに集客すればいいのか分からない 当日の流れを考えるだけで、なんだか気が重くなる といった、「漠然とした不安」がいくつも積み重なっていたのです。 曖昧なものには、人は動きづらい これは、発達障害、特にASD(自閉スペクトラム症)の特性がある方によく見られる傾向ですが、「曖昧さ」に対する不安が強く、手をつける前に止まってしまいやすいのです。実は筆者自身もADHDの診断を受けていますが、曖昧なものに対して不安を感じやすいという点では、ASDの特性による傾向にも共感します。(ADHDとASDが併存するケースは多く、診断がいずれかであっても、もう一方の特性が見られる方は少なくありません) 「やらなきゃ」と思う気持ちはあっても、 「何からどうすればいいの?」となると、手が止まり、気持ちが焦るばかりになります。 でも、仕事には“カタチ”を与えられる そんなときに役立つのが、「仕事にカタチを与える」という考え方です。たとえば、「セミナー開催」という目標があるなら、それをそのまま“やること”と考えると、どうすればいいのかが曖昧なままになってしまいます。そこで、「3つのギモン」を活用します。 どうやる?(分解):作業を手順に分ける いつやる?(日付):それぞれの手順に日付を入れる だれがやる?(担当):自分か、誰かに頼むか明確にする たとえば、こんなふうに「セミナー資料を作る」だけでも具体化できます。 4/2 既存の資料に付箋を貼りながら確認する【自分】 4/4 修正する【自分】 4/4 友人Cさんに内容チェックを依頼する【自分】 4/8 友人Cさんからのフィードバックを受け取る【友人】 4/10 修正を反映する【自分】 こうして「カタチ」ができると、 曖昧だった“やりたい仕事”が、見える手順の集合体になります。 これだけで、「これならできるかも」と思えてくるのです。 手が動かないのは、あなたのせいじゃない 行動できないことに対して、「自分の意志が弱いせいだ」と思ってしまう人は少なくありません。でも、実はそうではないのかもしれません。 「カタチが見えないから、不安になる」 「具体的にどうすればいいか分からないから、止まる」 このように、“やる気”ではなく“構造”の問題として捉えることで、 自分を責めずに、新しい一歩を踏み出すことができます。実際に、クライアントさんも、「仕事の見える化」ができたことで一気に前に進み、セミナーを無事開催されました。 困りごと別、「事務」活用法②「重い仕事」ばかり残って、しかも消えない TODOリストは便利です。 やるべきことを並べて、終わったら線を引く—— そうして一つひとつ片づけていくのは達成感がありますよね。でも、こんな経験はないでしょうか? 「今日は仕事をたくさん進めた」と思ったのに、気づくと“重い仕事”だけが手つかずで残っている 軽い仕事ばかり優先して、大事なことにいつまでも手をつけられない リストが減らないどころか、見るだけで気が重くなる こうした悩みには、仕事の“切り方”、つまり「どうやる?(分解)」にヒントがあります。 大きな魚は、食べる前に“さばく”のが当たり前 たとえば、「年度予算の作成」と「お客様へのお礼の電話」という2つの仕事があるとします。後者は電話1本で終わりますが、前者はあまりに大きすぎて、どこから手をつければいいのか分からない。前者を大きなマグロ1匹、後者をタイの刺身1枚とします。結果として、「今日は電話だけ」といった軽い仕事(タイの刺身)ばかりが優先され、重い仕事(マグロ1匹)が後回しになります。このままでは、いつまでたってもマグロ1匹は丸ごと残ったままです。 そこでおすすめなのが、仕事を“同じ大きさの切り身”にそろえるという考え方です。 切り分けて、並べて、同じくらいの大きさに 「年度予算の作成」という大きな仕事を、次のように「どうやる?(分解)」で分けてみます。 前年度の予算実績を収集する 提供依頼メールを送る 担当者にヒアリングする データをまとめる さらに細かくして、「前年度の予算実績データの提供を依頼するメールを送る」とすれば、それは「お礼の電話」と同じくらいの手間で済む“小さな仕事”になります。 お客様に電話をかける 提供依頼のメールを送る どちらも、今すぐ着手できる“等身大の作業”になります。このように「仕事の大きさをそろえる」ことで、達成感はそのままに、重い仕事にも自然と手が伸びるようになるのです。 ADHDの特性が理由でも、やり方次第で変えられる ADHDのある方には、将来の大きな成果よりも「今すぐに得られる達成感」に惹かれる傾向があります。 これは「報酬系の特性」として知られています。だからこそ、「ちょっと頑張ればすぐに終わること」に先に手を出してしまいがちです。 この結果、「重い仕事=やりたくない仕事・やる気が出づらい作業」が後手後手になってしまうといったことは、ADHDあるあるの先延ばしグセの原因の一つと考えられるのではないでしょうか。 しかし、重い仕事を小さく切ってしまえば、どれもが「すぐ終わること」に変わり、後手後手になることを避けやすくなります。 つまり、“自分の特性”に合った仕組みを作っていくことで、自然と行動を変えることができるのです。 目安は“数分〜30分で終わる切り身” 筆者自身も、タスクの「切り身」は1つあたり数分〜30分、長くても1時間以内を目安にしています。これくらいのサイズ感でそろえると、「これは今日できそう」「これもやれそう」と、仕事に向かうハードルが一気に下がります。 TO DOリストが機能しないのは、意志の弱さのせいではなく、 “大きさのバラバラな仕事”が並んでいるからかもしれません。仕事を“さばく”視点で、ぜひ一度見直してみてください。 困りごと別、「事務」活用法③本当は断りたいのに、つい「大丈夫です」と言ってしまう 仕事を頼まれたとき、つい「大丈夫です!やりますよ!」と言ってしまったことはありませんか?でも実際は、その「大丈夫」が全然大丈夫じゃなかった―― そんな苦い経験、誰にでもあるのではないでしょうか。 キャパオーバー寸前なのに、なぜか断れない 筆者がかつて総務部で働いていたとき、先輩から「稟議書の対応、一緒にやってくれない?」と頼まれました。「大変そうだけど…お世話になってるし、なんとかなるだろう」と思って引き受けたものの、実際は稟議対応に追われ、 自分の業務は完全に手が回らない状態に。 しかも、そのとき筆者はすでにほぼ毎日終電帰り。 午前は名刺や備品の発注対応、午後はプロジェクト対応、突発対応も多く、夜にやっと日中に処理しきれなかった仕事に手をつける――そんな日々でした。 ADHD特性「衝動性」と「見積もりの甘さ」 このように「断れなかった」背景には、ADHDの特性である 衝動的にその場で即決してしまう「衝動性」 所要時間の見積もりが苦手な「時間感覚のズレ」 という2つの特徴が大きく影響しています。その場の空気で「やりますよ!」と即断してしまい、 「後で詰む」というパターンにハマってしまうわけです。 “外の視点”を借りる。「事務はなんて言うだろう?」 ではどうすれば、断れるようになるのでしょうか。ポイントは、「引き受けよう!」と考える自分ではなく “もう一人の、事務を行う冷静な自分”の視点を持つことです。筆者はこう考えるようにしました。 「自分は引き受けてもいいと思ってる。でも、“事務”はなんて言うだろう?」 そうつぶやいて、今抱えている仕事をリスト化+「いつやる?(日付)」で可視化してみるのです。 すると、すでにパンパンのスケジュールが目に見えて分かるようになります。その結果… 「やりたい」という気持ちの自分に対して 「それは無理だよ」と“事務”が冷静にツッコミを入れてくれる という構図ができるのです。 「第2の自分(外の視点)」を作り出すことは難しいものですが、「もう一人の私はなんて言う?」という言葉を呪文のように発するだけで、冷静さを取り戻すことができ、客観的な視点を持てるようになれるかもしれません。 「第2の自分」を想像することが難しい場合には、実在している先輩や上司に置き換えてみるのもおすすめです。 判断は“事務”、伝えるのは“自分” もちろん、それでも「断れない」と感じる人も多いでしょう。それでもこの方法には、こんな効能があります。 「断る」という判断を自分がしなくていい → 「事務が言ってるんで」と、“伝えるだけ”でよくなる 自分の気持ちと向き合いすぎず、“状況”に判断を委ねるだけでも、少し断りやすくなるのです。 「断る」は勇気ではなく、“仕組み”で 断れない人にとって、「断る」は根性論ではなく構造の問題です。 自分の気持ちに気づくこと 客観的な判断軸を持つこと それを代弁する方法を持つこと こうした“仕組み”があることで、はじめて「断る」という選択が現実のものになります。 「自分はいいけど、“事務”はなんて言うだろう?」 このひとことを、ぜひ心の中の“口癖”にしてみてください。あなたの中の“冷静な判断者”が、そっと助け舟を出してくれるはずです。 変わらなくていい。ただ、「工夫」する。 「事務が苦手。だから、事務が出来るような自分に変わらないといけない」と思っていませんか? でも、ADHDの特性は“治る”ものではありません。無理に変わるより、「工夫」でカバーする方がずっと現実的です。自分を責める前に、「仕組み」を味方につけてみてください。 今回ご紹介している書籍では、そのためのヒントがたくさんつまっています。よろしければお手に取ってみてください。 仕事がうまくいかないと感じているすべての方へ――特にADHD傾向のある方に向けて、具体的な仕事の工夫や思考法などを紹介した一冊です。 事務の悩みを超えて、「働く」を支える場所へ ここまで、ADHDと事務というテーマで、筆者の著作『ADHDの僕が苦手とされる事務にとことん向き合ってみた。』をベースに、困りごと別の対処法をお伝えしてきました。 こうした困りごとには共通して、「本人が悪いわけではないのに、うまくいかずに自己否定してしまいやすい」という難しさがあります。そして、その苦しさは、一人でなんとかしようとすればするほど深まってしまうこともあります。 実際、私自身もそうした時期を長く過ごしてきました。だからこそ今は、「一人で抱え込まずに、信頼できる支援を受けながら、自分に合った方法を見つけていく」ことも大切だと感じています。 就労移行支援事業所ディーキャリアでは、働くことで悩みを抱えている発達障害のある方の支援をおこなっており、発達障害のある方が、就労に向けての実践的なプログラムを提供し、また規則正しい生活が送れるトレーニングをおこなっています。 発達障害のある方の特性を理解したうえで、個別に最適なトレーニングを提供することが特徴です。 就労移行支援事業所とは、障害のある⽅が就職するための「訓練・就職活動」の⽀援をおこなう障害福祉サービスの一つです。(厚⽣労働省の許認可事業) 就職とは人生の目的を実現するための通過点です。自分の「なりたい」姿を見つけ、障害特性への対策と自分の能力を活かす「できる」ことを学び、社会人として長く働くために「やるべき」ことを身に付ける。 「なりたい」「できる」「やるべき」の 3 つが重なりあうところに仕事の「やりがい」が生まれると、私たちは考えています。 ご相談は無料です。フリーダイヤル、または、24 時間受付のお問い合わせフォームにて、お気軽にお問い合わせください(ご本人様からだけでなく、当事者のご家族の方や、支援をおこなっている方からのご相談も受け付けております)。 お電話(0120-802-146)はこちら▶ お問い合わせフォームはこちら▶ また、全国各地のディーキャリアでは、無料の相談会や体験会も実施しています。 全国オフィス一覧はこちら▶ 就労移行支援事業所ディーキャリアは、「やりがい」を感じながら活き活きと働き、豊かな人生を目指すあなたを全力でサポートします。お一人で悩まず、まずはお気軽にご相談ください。 記事監修:北川 庄治(デコボコベース株式会社 プログラム開発責任者) 東京大学大学院教育学研究科 博士課程単位取得満期退学。通信制高校教諭、障害児の学習支援教室での教材作成・個別指導講師を経て現職。
発達障害がある方の話し方の特徴|よくある困りごと&対策

発達障害(ADHD/ASD)がある方の話し方の特徴、特性との関係性について解説 。発達障害当事者の実体験をもとにした対処法を紹介します。

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「つい話しすぎてしまって、後で一人反省会をする」「不用意な発言をしまって、相手を傷つけた」 そんな悩みを抱えていませんか。 発達障害であるADHDやASDがある人は、特性によって独特な話し方をすることがあるとされています。たとえば、話が一方的になったり、冗談が通じなかったり、思いつくままに話してしまったり。こういった話し方は、ときに相手に誤解や不快感を与えてしまうこともあります。 そのため、コミュニケーションにおける失敗経験があり、人と話すことに苦手意識を持っている方は少なくありません。 この記事では、ADHDやASDがある人の話し方の特徴と、そこに隠れている特性、そして発達障害(ADHD強め、ASDも若干あり)の筆者の経験から得た具体的な対処法をご紹介します。対処法を知ることで、今の職場や、これからの職場での就労をよりスムーズに続けていくためのヒントになれば幸いです。 執筆者紹介 小鳥遊(たかなし)さん 発達障害やタスク管理をテーマに、2021年まで会社員、2022年からフリーランスとして活動している。 発達障害(ADHD)当事者。主に発達障害や仕事術をテーマとするweb記事を執筆。2020年に共著「要領がよくないと思い込んでいる人のための仕事術図鑑」(サンクチュアリ出版)を執筆し発行部数は10万部を超える。 また、就労移行支援事業所でタスク管理等に関する定期プログラムやセミナー等を実施。企業や大学等での講演、個人/法人のタスク管理コンサルティングもおこなっている。 [toc] ADHD、ASDの特性 今回の記事では、発達障害の中でもADHD(注意欠如・多動症)とASD(自閉スペクトラム症)に関する情報をお伝えします。どちらの障害も、その特性によってコミュニケーションのスタイルに独特な傾向をもたらすことがあります。 まずは、それぞれの代表的な特性について簡単に説明していきます。特性は一人ひとり異なるため、参考としてお読みください。 ADHDの特性 会話をする際に影響を大きく与えると考えられるADHDの主な特性は以下の3つです。 衝動性の高さ思いついたことをすぐに口に出したり、行動に移したりしてしまう 注意力の欠如相手の話を聞き続けることが難しかったり、集中が途切れて気がそれたりする 脳内多動(注意の転導)頭の中に次々とアイデアや思考が浮かび、話が飛びやすくなる ASDの特性 会話をする際に影響を大きく与えると考えられるASDの主な特性は以下の4つです。 こだわりの強さ特定のテーマについて非常に深くこだわり、話題が広がりにくくなる 興味の偏り自分の興味のある話題には夢中になるが、興味のない話題には関心を持ちにくい 他者視点の低さ相手の気持ちや考えを想像することが難しく、自分本位な話し方になることがある 想像力の低さ比喩やたとえ話を文字通りに受け取り、ニュアンスや空気感を読み取りにくい これらの特性が、日常の会話の中でどのように表れるのか、発達障害当事者である筆者の実際の体験をもとにした具体例をもとに見ていきましょう。 ADHDの話し方の代表例とその対処法 話しだすと止まらない、マシンガントーク 筆者はクラシック音楽が大好きなのですが、誰でも興味が湧くようなジャンルではありません。そうだと理解しているものの、「それってなんですか?」などと質問されると、つい嬉しくなって「ベートーベンは交響曲を9つ書いていて、1番は......」と、順々に曲目解説を始めてしまったことがあります。相手が時計を気にしていたりしてもお構いなしで、気が付いたら2,30分経っていたこともあります。 対処法 「ベートーベンは交響曲を9曲書いているんだけど、最後の9番がね......」と、伝えたい内容を絞り込み、話しすぎないように気を付けるようにしています。相手から「他の曲は?」と聞かれたら、またもう1曲、という具合に、「聞かれれば答える」ということに気を付けています。 話にまとまりがない、話が噛み合わない、会話が飛びやすい 先週末に観たYouTubeの話をしていたのに、ふとその後に観たテレビ番組のことを思い出し、さらにそのテレビ番組の出演者のやっていたラジオの話を脈絡なく話し出してしまい、「で、何の話だっけ?」と相手に言われてしまったことが筆者にはありました。 対処法 話を始める前に「まず何について話すか」を心の中で整理してから話すように気を付けています。YouTubeの話をしていたら、いったんそれで話し終えて、相手の反応を見ます。相手が別の話題を出して来たらそれに乗っかります。相手が別の話題を出してこなくても、「そういえば、YouTubeの後に観たテレビがまた面白くてさ......」と、橋渡しになる言葉を挟んでから次の話題に行くようにしています。 早口になる 自分が好きなお笑い芸人の話になり、その魅力を分かってもらいたくて熱を込めて話をしていたら、「もっとゆっくり話して」と言われてしまったことがありました。そこで初めて、自分が早口だったことに気づきました。 対処法 伝えたい内容が頭の中に膨大な量思い浮かぶと、それをできるだけ早く伝えたいと思って早口になりやすくなります。そんなときは、「ゆっくり」を5割増しで意識して話してみるようにしています。また、語尾を丁寧に言うことも効果的です。 話に集中できない(聞き続けられない) オンラインミーティングで相手が一生懸命にしゃべっているのに、相手の部屋の壁に貼ってあるポスターが気になって、「あれはもしかしたら自分が好きな画家の絵のレプリカじゃないか。そういえば、その画家の展覧会が近々あったな......」などと余計なことを考えていて気づいたら話が終わっていた、ということがありました。 対処法 覚えておく必要がなくても、キーワードをメモしながら話を聞くと、集中しやすくなります。手を動かして話の内容を書いていると、他に思考が飛びにくくなるのか、比較的相手の話が頭に入りやすくなる印象があります。 早とちりして話の内容を解釈する ある原稿を執筆する仕事について、その仕事を依頼してきた人と電話をしていて、「ということで、明日までには原稿を......」と聞き、「え、明日までには書くのはちょっと難しいんですけど」と即答しました。すると、「いえ、明日までには原稿を仕上げるのは難しいと思うので、締切を1週間延ばそうかと思っていまして......」と話を続けられ、気まずい思いをしました。 対処法 「最後まで聞いてから意見を言う」をできるだけやるようにしています。それでも反射的に口から言葉が出てきてしまうことがありますが、それに気が付いた時点ですぐに止めて、「うん、いや、続けて」と相手の話を聞くようにしています。 思いついたまま話をする 独身の友人から、「今やっているドラマでお勧めはある?」と聞かれ、家事や育児がテーマの人気ドラマの話をしてしまい、「そんなに人気なら私も観てみようかな。それって私も共感できそう?」と言われて、言葉に困ったことがありました。 対処法 まず「今この話題を言うべき?」と心の中でワンクッション置いてから話そうと心がけています。それでも気を抜いたら言ってしまいますが、気を付けるに越したことはありません。 相手の話に割り込む(会話泥棒)、話を被せる 相手が話し始めた瞬間、「それ私も!」と話をかぶせてしまうことがあります。最近出版された話題の本が面白いと相手が話し出したときに、「それね!でも、それって私が表紙を見た感じは、最初は確かにすごいインパクトがあったんだけど、私はあまり面白いと思えなくて......」と、話の主導権を奪って、なおかつ相手の主張の逆方向に話を持っていってしまったことがありました。 対処法 いったん相手が話を一段落させてから、相手との共通点をまずは探して話し出すようにしています。相手と自分の意見が違う場合は、いきなり話し出さずに、いったん「そうだよね」と相手の意見を尊重するクッション言葉を入れてから、「一方で、こんな考えもあるかなと思って......」と、自分の話をするようにしています。 ASDの話し方の代表例とその対処法 一方的に話しを続ける 子供の保育園の謝恩会で、思い出の写真を音楽と共に紹介するムービーを作った際、そのムービーを作ったときにどれだけ大変だったか、写真を出すタイミングと音楽との調整にどれだけ試行錯誤をしたかなどを熱く語りすぎて、気が付いたら相手が反応に困っていたことがありました。 対処法 途中でいったん話を区切って、相手の反応を見るタイミングを作ろうと心がけています。そのため、一気に話を続けるのではなく、まるでYouTubeのチャプター分けのように、「まずは写真を選ぶときに気を付けたことを話そう」「次にどんな音楽を付けようか迷ったときのことを少し話そう」などと、ちょっとずつ分けて考えて話すようにしています。 冗談が通じない 同じく発達障害のある人に、合理的配慮を考えたいと言われたときの話です。「まずは会社にやって欲しいことを10個挙げてみようか」と伝えたら、「まずは、こちらから言わなくても察して欲しい、とか配慮して欲しいかな(笑)」と言われて、「いや、それ言ったら始まらないでしょう」と答えてしまい、「冗談だよ!」と言われたことがありました。 対処法 相手の言葉だけでなく、相手の表情、口調やイントネーションもよく観察して反応するようにしたいと思っています。 相手や場面に応じた話し方や内容の調整ができない プライベートの飲み会で、友人が家庭の愚痴を言ってきたときに、「洗濯が大変?なら、やってもらえるように交渉しようよ」とか「掃除が面倒くさいなら、もしかしたら掃除機を変えたらやりやすくなって、できるようになるかもね」と、求められてもいないアドバイスをしてしまったことがありました。 対処法 ただたんに会話をしたいだけの場なのか、真剣に解決策を求められている場なのかなど、どのようなことが求められている場なのかを自分なりに決めてからその場に臨むようにしています。 興味のない会話に一切入らない 同僚とランチに行ったときに、みんなが昨日のプロ野球の話をしていて、正直興味ないと思って静観していたら、「小鳥遊くん、目が死んでる(笑)」と言われてしまいました。 対処法 興味が無いのはしょうがないので、せめて「話している人に目を合わせて相づちを打つ」ことだけはしようと考えています。 筆者の発達障害の傾向から、ADHD多め、ASD少なめですが、経験にもとづいた「生きた」対策をぜひ参考にしていただければと思います。 なお、上記も含めた、発達障害によくある話し方の特徴について、分かりやすく解説した動画もご紹介します。 ▶ 発達障害の話し方5選(あるある形式でわかりやすく紹介) https://www.tiktok.com/@decobocobase/video/7333158353604037895?is_from_webapp=1&sender_device=pc&web_id=7476382824065697288 ▶ 発達障害の話し方の特徴(よくあるすれ違い事例を解説) https://www.tiktok.com/@decobocobase/video/7407774275383463176?is_from_webapp=1&sender_device=pc&web_id=7476382824065697288 ▶ 発達障害の話し方(具体的な会話例から解説) https://www.tiktok.com/@decobocobase/video/7457141775568833813?is_from_webapp=1&sender_device=pc&web_id=7476382824065697288 ディーキャリアのコミュニケーションプログラム ディーキャリアでは、発達障害の特性に応じたコミュニケーションプログラムを用意しています。代表的なプログラム2つを紹介いたします。 「傾聴スキル」プログラム 相手の話をうなずきながら聞く 共感を示しながら聞く こまめに質問をいれる などのコミュニケーションの技術を身につけることで、相手の話を「しっかり聞いている」という印象を与えることができ、一方的に話すことを防ぐことができるようになります。 「アサーティブコミュニケーション」プログラム 自分の意見を言う際に、攻撃的になったり逆に消極的になりすぎないように適切な主張の仕方を学ぶ訓練です。 自分の意見だけ伝えるだけではなく、相手の意見を聞き、双方を尊重しながらコミュニケーションをとっていきます。 代表例2つをあげましたが、これ以外にも日々の訓練の中で「人前で話すこと・プレゼン」や「意見交換・ディスカッション」、休み時間中の「雑談」などの場でコミュニケーションスキルを高める機会を設けています。 今回ご紹介をした「話し方」に当てはまる方・コミュニケーションに苦手意識のある方は、ぜひ一度ディーキャリアのプログラム体験会にご参加ください。 特性に合った、自分らしい働き方を見つけるために これまで、ADHDやASDの人がしやすい話し方とその対処法についてお伝えしてきました。その前提となるのは「自己理解」であると筆者は身にしみて感じています。場に合った・相手に合った話し方をしているかを客観的な視点から知る機会が得られると、調整することができるでしょう。 就労移行支援事業所ディーキャリアでは、働くことで悩みを抱えている発達障害のある方の支援をおこなっており、発達障害のある方が、自己理解を深められる実践的なプログラムを提供し、また規則正しい生活が送れるトレーニングをおこなっています。 発達障害のある方の特性を理解したうえで、個別に最適なトレーニングを提供することが特徴です。 就労移行支援事業所とは、障害のある⽅が就職するための「訓練・就職活動」の⽀援をおこなう障害福祉サービスの一つです。(厚⽣労働省の許認可事業) 就職とは人生の目的を実現するための通過点です。自分の「なりたい」姿を見つけ、障害特性への対策と自分の能力を活かす「できる」ことを学び、社会人として長く働くために「やるべき」ことを身に付ける。 「なりたい」「できる」「やるべき」の 3 つが重なりあうところに仕事の「やりがい」が生まれると、私たちは考えています。 ご相談は無料です。フリーダイヤル、または、24 時間受付のお問い合わせフォームにて、お気軽にお問い合わせください(ご本人様からだけでなく、当事者のご家族の方や、支援をおこなっている方からのご相談も受け付けております)。 お電話(0120-802-146)はこちら▶ お問い合わせフォームはこちら▶ また、全国各地のディーキャリアでは、無料の相談会や体験会も実施しています。 全国オフィス一覧はこちら▶ 就労移行支援事業所ディーキャリアは、「やりがい」を感じながら活き活きと働き、豊かな人生を目指すあなたを全力でサポートします。お一人で悩まず、まずはお気軽にご相談ください。 記事監修:北川 庄治(デコボコベース株式会社 プログラム開発責任者) 東京大学大学院教育学研究科 博士課程単位取得満期退学。通信制高校教諭、障害児の学習支援教室での教材作成・個別指導講師を経て現職。
発達障害×夜型生活 | 「リベンジ夜更かし」の原因と対策

やめたくてもやめられない「リベンジ夜更かし」は、発達障害の特性が関係してる?当事者の経験に基づき、原因と対処法を分かりやすく解説します。

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「翌日も仕事なのに、夜中のゲームがやめられない」「疲れて眠いのに、ただひたすらSNSをスクロールし続けてしまう」「昼間だらだらしたから、まだ寝たくないと考えてしまう」 睡眠よりも「楽しい時間」を優先してしまい、結果的に睡眠不足が続いてしまう…そんな悩みを抱えていませんか。 日中の活動がうまくいかず、漠然と満たされない思いを抱えてしまう。それを埋めるかのように、ゲームや映画などの趣味・娯楽に没頭して気が付いたら朝方になっている。昼間に何もできず、今日という一日を有意義に過ごすために「何かしなければいけない」と思い、夜になっても寝てしまってはいけないと感じる。しかし、その「何か」が出てこず、ひたすらお菓子を食べたり、動画コンテンツやSNSなどを見たりして過ごしてしまう。 このように就寝時間の先延ばしをすることを「リベンジ夜更かし」と言い、発達障害の特性がある人は特になりやすいとされています。 この記事は「リベンジ夜更かし」が常習化していた発達障害当事者が、自身の経験を交えながら、リベンジ夜更かしとは何か・なぜ発達障害のある人が陥りやすいのか、その原因や対策について紹介しています。 夜更かししてしまうのは、意思が弱いからではなく、発達障害の特性が影響しているケースがあります。つい夜更かしをしてしまう理由やその対処法を理解し、自分に合った対策などを見つけることで、現在または将来の職場での就労をスムーズに継続できる一助になればと願っております。 執筆者紹介 小鳥遊(たかなし)さん 発達障害やタスク管理をテーマに、2021年まで会社員、2022年からフリーランスとして活動している。 発達障害(ADHD)当事者。主に発達障害や仕事術をテーマとするweb記事を執筆。2020年に共著「要領がよくないと思い込んでいる人のための仕事術図鑑」(サンクチュアリ出版)を執筆し発行部数は10万部を超える。 また、就労移行支援事業所でタスク管理等に関する定期プログラムやセミナー等を実施。企業や大学等での講演、個人/法人のタスク管理コンサルティングもおこなっている。 [toc] リベンジ夜更かしとは リベンジ夜更かしとは、「報復性夜更かし」とも言われ、日中に充実感や満足がないため、睡眠を削ってでもなんとかして満足感を得ようとする行為のことをいいます。 筆者は、以前会社員をしているときに、このリベンジ夜更かしを常習していました。残業続きでほぼ毎日終電で帰っており、「帰ってそのまま寝たら、毎日何のために生きているのか分からなくなる!」という感覚がありました。 そのため、自宅最寄り駅の隣にあるコンビニに寄っては、ジャンキーでカロリーの高そうなコンビニ弁当を選んでは帰宅して、弁当を食べつつ特に見たいわけではない深夜のバラエティ番組をボーッと眺め、寝るまでの時間を引き延ばしている自分がいました。そのせいか、体重はうなぎのぼりになってしまいました。 その時の自分は、朝から晩まで仕事に追われ、「充実した余暇」を過ごせず、満たされない思いがありました。その満たされない部分を埋めるために、「カロリーの高いコンビニ弁当」「深夜のバラエティ番組」で夜更かしをしていたと言えます。本当は早く寝たほうがいいと分かっていても、どうしても「自分の時間が欲しい」という気持ちが勝ってしまうのです。 発達障害のある人がリベンジ夜更かししがちな原因 「リベンジ夜更かし」がやめられない原因に発達障害が関係していることがあります。実際に昼夜逆転生活や睡眠不足に悩んでいる発達障害当事者の方は少なくありません。 同じ発達障害でもADHD(注意欠如・多動症)やASD(自閉スペクトラム症)などの障害種別、さらに一人ひとり特性が異なるため、原因はそれぞれです。今回は代表的なものを4つ紹介します。 ①ストレスを感じやすい 発達障害のある方は、特性による困難によってストレスを抱えやすかったり、生物学的にストレス耐性が弱かったりすることがあります。詳しくは、以下の参考記事もご覧ください。 さらに、リベンジ夜更かしが癖になっている人は、日中にストレスを受けるなどして「マイナス」なことがあった結果、自分にとって「プラス」になるような体験をしなければと考える傾向にあります。日中に仕事でミスをして「マイナス」、それを埋め合わせるように帰宅してから夜中にゲームや動画視聴をし過ぎてしまう、といったことが典型です。この「マイナス」が大きければ大きいほど、その反動としての「プラス」を大きくしなければなりません。 日中にミスをしたとして、それが「まぁ、しょうがないか」とある程度流せるようであれば、夜中に埋め合わせのゲームや動画は少なくて済みます。しかし、私たち発達障害者は、感情の抑制に課題を抱えていることが多く、「マイナス」をより大きく感じてしまうことがあります。そうなると、より強く大きなリベンジをしないと釣り合いません。感情の抑制がうまくいかずストレスを感じやすい私たちは、リベンジが大きくなってしまいがちなのです。 ②行動の切り替えが苦手 また、発達障害のある人は、行動の切り替えが苦手な傾向もあるとされています。いったん始めたゲームや動画視聴などを止められず、長時間になってしまいがちなのです。筆者もこの傾向にあると実感しています。 筆者の頭の中では何が起こっているのかというと、「せっかく楽しいゲームをしているんだから、ゲームを止めて(ゲームより楽しくはない)他のことをするなんて嫌だ」という気持ちです。切り替えが上手い人は、この「ゲームを止めるのは嫌だ」という感情を抑えて、翌日のために寝るという行動に素早く切り替えることができます。ここでも、感情の抑制が難しいという傾向が関わっています。 また、筆者が特に顕著に感じている、もう一つの傾向があります。それは、「自分の興味のあることには極端に集中してしまう」というものです。興味のある対象にはすぐ動けるのに、興味が薄いものにはやる気がまったく湧きません。ゲームをしている最中はゲームにしか興味がなくなり、「寝なければいけない」と分かりつつも、ゲームから離れられなくなってしまうのです。 ③優先順位が付けられない 知り合いの発達障害のある人の話で、やはり夜中にネットゲームをして睡眠が十分にとれないという悩みがありました。その人が言うには、「一緒にチームを組んでやっている仲間が、どうしても夜中にしか時間が取れない」という理由で、深夜にゲームをせざるを得ないとのことでした。 冷静になって考えれば、「そうではない人とチームを組まないと、いずれ睡眠が不規則になって健康を損なってしまう」ということは分かりそうなものです。しかし、「自分にとって何を優先すべきか」という判断が正しくできない、「あれもやりたい」「これもしたい」となってしまった結果、毎日のように深夜にネットゲームをしてしまっていました。 ④睡眠障害になりやすい 一般に、発達障害のある人は、睡眠と覚醒を調節する中枢神経系の機能不全を抱えていることが多いとされています。具体的には、メラトニン(睡眠ホルモン)の分泌が遅れるなど、体内時計が後ろにずれやすいのです。その影響で、夜中に覚醒、つまり目が覚めてしまって睡眠にうまく入れないことが多く、ベッドに入っても寝られずに朝を迎えてしまった、という人も少なからずいます。どうせ寝られないなら、好きなことやって夜更かししてしまおう、と考えるのも無理はないのではないでしょうか。 以上が、発達障害のある人がリベンジ夜更かしをしてしまいがちな理由の代表的なものです。 リベンジ夜更かしの悪影響 リベンジ夜更かしによって引き起こされる悪影響のうち、代表的なものを3つ挙げます。 ①日中の眠気、集中力の欠如 夜更かしをすれば、十分な睡眠が取れなくなったり、生活サイクルが不規則になったりします。その結果、日中に強い眠気を感じて集中するのが難しくなります。日中の活動中に注意力が散漫になると、仕事でミスなどをしがちになります。 発達障害のADHDがある筆者には、不注意傾向がありました。それに加えて夜更かしが常態化してしまい、ただでさえ不注意によるミスなどをしがちな上に、頭がボーッとしてしまっていました。その影響もあってか、仕事の負荷が強まると、それに耐えきれず休職を余儀なくされました。 さらに、筆者は元来の不注意特性から日中の活動に充実感が得られず、リベンジ夜更かしをしてしまいがちな状況でした。そして、夜更かしをした結果、はっきりしない頭で翌日業務をおこない、さらに満足のいかない日中を過ごし、さらにリベンジ夜更かしをしたくなる、という悪循環に陥っていたのです。 ②気分の落ち込みやイライラ リベンジ夜更かしをすると、十分な睡眠が取れず、次第に心身ともに健康を害していきます。「体」だけでなく「心」の方も気分が落ち込んだり、イライラしたりと影響が出るのです。そうなると、取るに足らないことで大きな精神的ダメージを受けてしまうようになります。 寝不足によるいらつきで、ネガティブな心理状況に陥りやすくなるだけでなく、十分に考えずに早まった決断をしてしまうことにもつながりかねません。 筆者は、休職直前のあるとき、株主からの電話を受けていました。株主がなかなか電話を切らせてくれず、長時間の電話対応となったのですが、目の前にいた同僚の社員から「早く電話を切り上げて!」といったジェスチャーをされました。 電話が終わった瞬間、「もっと早く簡単に電話終わらせられないの?他にもやることあるんだから」と言われ、「自分だって好きで電話を長引かせているわけじゃない」といつもより強い憤りを感じました。このことは、「もう、自分は働き続けられないな」と休職を決断する原因の1つになりました。 ③不安障害 不安障害とは、不安や恐怖を過剰に感じて、日常生活に支障をきたす精神疾患のことです。睡眠不足は、ストレスホルモンの分泌を増加させるため、不安障害やうつなどの精神疾患の原因になることがあります。 筆者は、自身の発達障害(ADHD)の影響と、毎日終電帰りでリベンジ夜更かしをしていた影響、それと会社の業績が伸びずにリストラが増え自分の業務負荷が増大したという背景もあり、次第に会社に行くのが怖くなってしまいました。 別に、理由があるわけではなく、なんとなく「自分は必ず仕事で失敗して叱責を受ける」という確信にも似た気持ちで毎日通勤するようになったのです。 少しでも日常業務でイレギュラーな出来事があると、それを筆者は「事件」と大げさに認識して焦ってしまっていました。たとえば、名刺作成業務で、役員から「至急で対応して欲しい」と言われようものなら、それは立派な「事件」だったのです。 「いつもなら翌々日に納品なのに、至急で明日の朝までに渡さなければいけない......これは事件だ!」と、不安や恐怖が頭の中をグルグル回りはじめます。やることは、名刺印刷会社の担当者に納期を早める依頼をかけるだけなのですが、いつもとちょっと違うだけで、もはやそれは不安を引き起こすのに十分な「事件」でした。 発達障害の傾向とこのような悪影響の相乗効果により、筆者は仕事を続けられず休職という選択を取らざるを得ませんでした。 不安障害について詳しく知りたい方は、以下の参考記事もぜひご覧ください。 このような状況に陥れば、誰しも心身に支障が出て当然です。では、どうすればこの状況から抜け出せるのでしょうか。次はその対処法をお伝えします。 リベンジ夜更かしの対処法 ここでは、リベンジ夜更かしへの対処法を3つお伝えしたいと思います。 ①規則正しい生活 当たり前過ぎる話かもしれませんが、毎日規則正しく起きて寝るのを習慣化することが、リベンジ夜更かしの対処法としては最大最強のものと言って良いでしょう。 特に、休職中にリベンジ夜更かしに陥り、社会復帰が難航するケースが少なくありません。 筆者が休職したときはまだ実家に住んでいたのですが、その際の両親の対応に感謝していることがあります。それは、「日中は何をやってもいい、『朝起きて、夜寝る』ことだけは守ろう」と提案してくれたことです。筆者が休職したのは10年程度前のことで、当時は今ほどYouTubeなどの手軽にみられる無料動画コンテンツはありませんでしたが、それでもレンタルビデオやネット上のテキストコンテンツなどはふんだんにありました。 夜更かししようと思えばいくらでもでき、その点では夜更かしする危険性は十分にあったのです。両親はそれを見越していたのかもしれません。規則正しい生活を最優先としてくれたおかげで、昼夜逆転生活や睡眠障害になることなく、復職をすることができました。今振り返ると、両親からの助言には感謝してもしきれません。 ②日中にきちんと疲れる 「規則正しい生活」にも通じますが、夜更かしをしないためには、まずは日中の活動でしっかり「疲れる」ことが大切です。 そのために大事な考え方をご紹介します。生活リズムを整えるためには、「早寝早起き」が大事だとよく言われます。実は順序が逆で、「早起き早寝」なのです。眠かろうが疲労が残っていようが、とにかく起きる。そして、就寝するまでは寝ない。起きている間に十分疲れておけば、リベンジ夜更かしをしたくても、体がそれを許してくれません。半強制的に夜寝ることができるのです。 日中にできるだけ用事を入れ、クタクタに疲れて倒れ込むように寝る。その結果翌日はすっきり起きられる。このサイクルに持ち込むことができればこっちのものです。また、適度に疲労を感じて「ああ、やっと寝られる」と布団に入る時の気持ち良さも味わうこともできます。日中の用事は、「疲れる」ことさえできれば、好きなこと、ストレス解消になることであっても構いません。 ③環境調整 さらに「リベンジ夜更かし」への対処法として有効なのが、環境調整です。たとえば、寝室へスマートフォンを持ち込まない、寝るときは薄暗い照明にする、ゆっくりぬるめのお風呂に浸かる、などです。 もちろん個人差はありますが、自分が寝入りやすい環境を作ることが大事です。筆者の知り合いの発達障害のある人に、寝入る際にアロマを焚いているという人がいました。室内を無音にして座って瞑想をする、という人もいました。 以上、3つほど対処法を挙げました。全部する必要はありません。「やってみようかな」というものから実践していただければと思います。 特性に合った、自分らしい働き方を見つけるために これまで、リベンジ夜更かしについての話をしてきましたが、その前提となるのは「自己理解」であると筆者は身にしみて感じています。そもそも自己理解がされていないと、自身がリベンジ夜更かしをしやすいことを自覚しづらいものです。むしろ、「ハードな生活をしている自分」に酔っていたりします。自分のおこなっている行動が「リベンジ夜更かし」であることに気が付くことすら難しいかもしれません。 就労移行支援事業所ディーキャリアでは、発達障害のある方が自己理解を深められる実践的なプログラムを提供し、また規則正しい生活が送れるトレーニングもおこなっています。 発達障害のある方の特性を理解したうえで、個別に最適なトレーニングを提供することが特徴です。 就労移行支援事業所とは、障害のある⽅が就職するための「訓練・就職活動」の⽀援をおこなう障害福祉サービスの一つです。(厚⽣労働省の許認可事業) 就職とは人生の目的を実現するための通過点です。自分の「なりたい」姿を見つけ、障害特性への対策と自分の能力を活かす「できる」ことを学び、社会人として長く働くために「やるべき」ことを身に付ける。 「なりたい」「できる」「やるべき」の 3 つが重なりあうところに仕事の「やりがい」が生まれると、私たちは考えています。 ご相談は無料です。フリーダイヤル、または、24 時間受付のお問い合わせフォームにて、お気軽にお問い合わせください(ご本人様からだけでなく、当事者のご家族の方や、支援をおこなっている方からのご相談も受け付けております)。 お電話(0120-802-146)はこちら▶ お問い合わせフォームはこちら▶ また、全国各地のディーキャリアでは、無料の相談会や体験会も実施しています。 全国オフィス一覧はこちら▶ 就労移行支援事業所ディーキャリアは、「やりがい」を感じながら活き活きと働き、豊かな人生を目指すあなたを全力でサポートします。お一人で悩まず、まずはお気軽にご相談ください。 記事監修:北川 庄治(デコボコベース株式会社 プログラム開発責任者) 東京大学大学院教育学研究科 博士課程単位取得満期退学。通信制高校教諭、障害児の学習支援教室での教材作成・個別指導講師を経て現職。
大人の発達障害×職場のコミュニケーション|対策と練習法

「職場でのコミュニケーション課題」について特性に応じた対策や練習法を紹介。ストレスを軽減し、自信を持って働くためのヒントをお伝えします。

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「職場での人間関係がうまくいかない…」「話すのが苦手で、うまく意思疎通ができない…」「指示を理解できないことがあり、ミスが多い…」 そんな悩みを抱えていませんか? 職場では、業務スキルだけでなく「コミュニケーションスキル」が求められるものです。しかし、発達障害の特性によって、雑談が苦手だったり、自分の考えを相手に伝えることや相手の意図を読み取るのが難しかったりすることで、仕事に必要なコミュニケーションが円滑にいかないことがあります。 「報告がうまくできない」「会話がかみ合わない」「言いたいことがうまく伝わらない」といった困りごとが続くと、職場での評価に影響が出たり、周囲との関係にストレスを感じたりすることもあるでしょう。その結果、仕事に自信が持てず、強い不安やストレスを感じてしまうことも少なくありません。 本記事では、発達障害のある方が職場で直面しがちなコミュニケーションの課題を整理し、特性に合わせた対策を紹介します。また、コミュニケーションスキルを向上させるための具体的なトレーニング方法や、職場での合理的配慮の活用についても解説していきます。 発達障害の特性を理解し、自分に合った対策やトレーニング方法を見つけることで、職場でのストレスを減らし、自信を持って働けるようになるきっかけになれば幸いです。 執筆者紹介 小鳥遊(たかなし)さん 発達障害やタスク管理をテーマに、2021年まで会社員、2022年からフリーランスとして活動している。 発達障害(ADHD)当事者。主に発達障害や仕事術をテーマとするweb記事を執筆。2020年に共著「要領がよくないと思い込んでいる人のための仕事術図鑑」(サンクチュアリ出版)を執筆し発行部数は10万部を超える。 また、就労移行支援事業所でタスク管理等に関する定期プログラムやセミナー等を実施。企業や大学等での講演、個人/法人のタスク管理コンサルティングもおこなっている。 [toc] ビジネスにおけるコミュニケーションスキルの必要性 職場におけるコミュニケーションの役割 どの職場でも多かれ少なかれ、社内外でのコミュニケーションが発生します。特に、報告・連絡・相談という、それぞれ最初の一文字を取って「報連相(ホウレンソウ)」と呼ばれるスキルは、ほとんどの仕事において必要と言えるでしょう。 例えば事務職の場合、いくらExcelで複雑な表を作成できたり、PowerPointですぐに資料を作ることができたとしても、上司や同僚と内容をすり合わせたり、完成後に報告をしなければ、仕事の評価を得ることは難しいでしょう。 どんな仕事であっても、組織の一員として働くためには最低限のコミュニケーションスキルは必要不可欠です。実際、今も昔も、多くの企業の人事担当が採用時に重視するポイントのひとつに「円滑なコミュニケーションがとれること」があげられています。 職場でよくあるコミュニケーションの課題 その一方で、職場でのコミュニケーションの苦手に悩む方は少なくありません。特に、発達障害のある方は以下のような課題を抱えがちではないでしょうか。 指示を正しく理解できず、誤った作業をしてしまう 相談をすることが苦手で、トラブルを抱えこむことがある 意見を伝えたり説明したりするのが苦手 相手の話に集中することができず、聞き洩らしが多い 相手や場面に応じたコミュニケーションが取れない 考えがまとまるまで報告を先送りする こうしたコミュニケーションの問題は、仕事の質に直接影響を与えるだけでなく、職場の人間関係にも悪影響を及ぼします。 コミュニケーションがうまくいかないと起こるリスク コミュニケーションがうまくいかないと、次のようなリスクが発生します。 ミスの発生:指示を正しく理解できなかったり、確認不足が原因で業務ミスが発生しやすくなる。 チームワークの低下:仕事の進め方や認識がずれてしまい、チーム全体の業務が滞る。 信頼関係の損失:必要な報告や相談がなされず、「頼りない」「協力的でない」と思われる可能性がある。 いずれも、どの職場でも必要とされる「チームで仕事をやっていくための土台」が揺らいでしまう原因となります。もしこれらのリスクがあると判断されれば、いくら業務スキルを頑張って磨いたとしても、なかなか評価されにくいというのが現実ではないでしょうか。 発達障害のある方がコミュニケーションが苦手な理由 ASD(自閉スペクトラム症)の特徴と課題 ASDの特性のある人の中には、「曖昧な表現が理解できない」「相手の気持ちを察することが苦手」「空気を読めない」といった特徴がある人が多く、職場でのコミュニケーションに影響を与えかねません。 筆者はADHDの診断を受けていますが、日々のコミュニケーションを通じて、ASDの傾向もあるのではないかと感じています。そんな筆者が実感するコミュニケーション上の特性としては、以下の3点が挙げられます。 言葉を文字通りに受け取ってしまう 「いい感じに資料をまとめておいて」と言われても、「いい感じって、具体的にどういうこと?」と疑問に思ってしまいます。「いい感じ」という曖昧な言葉を言われても、それが具体的なイメージとして理解できなければ動けないのです。仮に「A4の紙1枚に、要点を3つに絞って箇条書きで書いて欲しい」などと言ってもらえればスムーズに動けます。これは、言葉を文字通りに受け取るという傾向の表れではないかと自分を分析しています。 「いい感じに」や「なるべく早く」など曖昧で抽象的な表現を理解するのが苦手というのはASDあるあるです。 雑談や社交的な会話が苦手 筆者は、野球やサッカーなど自分が興味のない話題になると、とたんに仏頂面になってしまうのだそうです。「だそうです」と伝聞系で書いたのは、自覚していないからです。普通に会話の場に溶け込んでいると思っているのに、「あ、今興味ないでしょ?」と言われて「なんでばれたのだろう」と思うことが多々ありました。これは、雑談や社交的な会話が苦手だと認識していない分、より問題は深いと考えています。 ASD特性のひとつに「興味の幅が狭い(限定されている)」というものがありますが、悪気なくそれが態度に出てしまっているのかもしれません。 相手の表情や空気を読み取るのが難しい 相手が冗談で言ったことを本気だと思い真剣に受け止めてしまう傾向も、筆者にはあります。社交辞令で「今度飲みに行きましょう」と言われたとしても、それを本気に受け取って「じゃあ、いつにします?」とスマホでスケジュールアプリを開いて検討に入ってしまい、「いや、その、まぁまた近いうちに......」とやんわりはぐらかされた経験が多々あります。 「空気が読めない・冗談が通じない」もASD特性の代表的な特徴です。 ADHD(注意欠如・多動症)の特徴と課題 ADHDの特性のある人の中には、「注意の持続が難しい」「衝動的に発言してしまう」といった特徴がある人が多く、これもまた職場でのやりとりに影響を与えます。 筆者はADHDの診断を受けており、以下のようなことがよくあります。 話を最後まで聞かずに反応してしまう 相手の話が終わる前に相手の言いたいことがおよそ予測でき、自分の話をしたい気持ちが抑えられずに、相手の話にかぶせて自分の話を始めてしまう癖が筆者にはあります。よくないことだと分かっているのですが、その場ではうまく制御できないことが多く、あとから反省することしきりです。 ADHD特性の衝動性によって、早合点をしたり、相手の話を遮ってしまったりして失敗をした経験がある方も多いのではないでしょうか。 集中が続かず、指示を聞き逃す 口頭での指示を受けている最中であっても、たとえば周囲の会話に耳が持っていかれてしまうことがよくあります。せっかく上司が説明をしてくれていて、自分でもその説明を理解しようと思っているのに、瞬間的に周囲で話されている会話の方に注意がいってしまうことがよくあります。 「注意力が散漫」はADHDの代表的な特性のひとつです。メモをとっているのに聞き洩らしをしてしまう、とったメモを失くしてしまうというのもあるあるです。 思いついたことをすぐに口に出してしまう 筆者は以前の職場で取引先へ配信する職員インタビューのメルマガを書いていました。そのインタビューをしている際に、「前職では仕事が多くて過労で倒れる寸前にまでなってしまって......」という体験談を話してもらっているときに、「分かる!自分もそういった経験がある!」と共感してしまい、「ええ、自分も同じような体験がありましてね......」と、それから延々と自分語りを始めてしまい、インタビューの流れを止めてしまったことがありました。 つい場面にそぐわない発言をしてしまったり、一方的に話し続けてしまったりした場合でも、ADHD特性によって自分の言動をコントロールできないことがあります。 コミュニケーションのトレーニング方法 コミュニケーションが苦手だと感じる人の中には、そもそも「どのようにしたら円滑なコミュニケーションがとれるのか」が分からない方も多いかもしれません。一方で、コミュニケーションもスキルの一つであり、体系的に学ぶことが可能です。 特に、「何をどう伝えればいいのか分からない」「相手の気持ちを察するのが苦手」「言葉の意図を誤解しやすい」といった悩みを持つ場合、コミュニケーションの基本を知識として学ぶことが有効です。 知識として学ぶ コミュニケーションを学ぶ方法の一つとして、書籍やセミナーを活用することが挙げられます。たとえば、以下のようなジャンルの本を読むことで、基礎を理解しやすくなります。 ビジネスコミュニケーションの本→ 職場での報告・連絡・相談の方法や、上司・同僚との適切な関わり方を学べる。 傾聴スキルの本→ 相手の話を上手に聞く技術を学び、信頼関係を築く力を養える。 会話のロジックを学ぶ本→ 話がまとまらない、伝えたいことが伝わらないといった悩みを解決するヒントが得られる。 大きな書店だと、「ビジネス」「コミュニケーション」といった棚があると思います。お勧めの選び方としては、自分が読みやすそうだと感じる本を選ぶことです。ネットで調べて評判の高い、有名な著者の本を選ぶのも良いですが、まずは自分が取っつきやすいと感じる本から始めるのが良いと思います。 また、書籍だけでなく、コミュニケーションスキルを学べるセミナーも有効です。セミナーでは、講師の解説を直接聞けるだけでなく、ロールプレイやワークショップを通じて実践的に学ぶことができるため、実際の場面に活かしやすくなります。 このような学びを通して、ビジネスマナーや会話の典型的な流れ、よくあるNG行動などを知り、適切な対応を知ることができます。本やセミナーで教わった内容をすべていっぺんにやろうとはせず、できることから1つずつやっていくのが、最短のスキルアップにつながります。 実践的な対策 コミュニケーションスキルを向上させるためには、知識を学ぶだけでなく、実際に練習しながら身につけることも重要です。代表的な対策として、ミラーリング、アクティブリスニングといった手法があります。 ミラーリング ミラーリング(Mirroring)は、相手の言葉や仕草をさりげなく真似ることで、親しみやすさや共感を生む手法です。例えば、 相手:「最近、忙しくて疲れてるんですよね」 自分:「そうなんですね、忙しくて大変なんですね」 このように、相手の言葉を繰り返すだけでも、「話をしっかり聞いてくれている」という安心感を与えることができます。また、相手の姿勢やジェスチャー、話すスピードを自然に合わせることで、無意識に「この人は自分と波長が合う」と感じてもらえる効果もあります。ただし、やりすぎると不自然に感じられるため、さりげなく取り入れるのがポイントです。 アクティブリスニング アクティブリスニング(Active Listening)は、ただ相手の話を聞くだけでなく、適切な相槌や質問を交えて、積極的に会話に関与する方法です。 具体的には、 相手の話を遮らずに最後まで聞く 「それは大変でしたね」「なるほど、面白いですね」といった共感の言葉を入れる 「それって具体的にはどういうことですか?」と質問して話を広げる といった工夫をすることで、相手は「しっかり話を聞いてもらえている」「この人とは話しやすい」と感じるようになります。アクティブリスニングを身につけることで、より円滑なコミュニケーションが可能になり、信頼関係の構築にも役立ちます。 筆者は、特に感情面で共感することが多いので、それを強く打ち出すことが多いです。「それは大変でしたね」という言葉を入れ、「自分も同じような○○ということがあったので、自分なりにですが、分かります」と寄り添う形でコミュニケーションを取ることがよくあります。 特性に合った、自分らしい働き方を見つけるために ここまでコミュニケーションスキルを上げるための方法などをご紹介しましたが、特に発達障害のある方の場合は、そもそも「特性」としてコミュニケーションが苦手であることが多く、いずれも単に知識を得るだけでは足りず、実際の場面で活かすのが難しいことが多いです。 そこで、実践的な方法が必要となります。代表的なものとしては、SST(Social Skills Training)というトレーニングがあります。適切な言葉の選び方や、表情・態度・ジェスチャーを意識しながら会話の練習を行うことで、社会的スキルを上げ、実際の場面での対応力を高めるものです。 例えば、 上司への報告の仕方 初対面の人とのスムーズな会話の進め方 断るときの伝え方 といったテーマごとに、ロールプレイを通じて練習しながら学ぶことができます。「頭では分かっているけど、実際にやるのは難しい」と感じる人にとって、SSTは実践力を養うのに最適なトレーニングです。 このように実際の職場の状況を想定してロールプレイを行い、その結果のフィードバックを受けながら、練習を重ねることで、自分の特性による「苦手」への理解を深めながら、より実践的に活用できるコミュニケーションスキルを身につけられます。 また、それでも克服が難しい場合は、「合理的配慮」として職場に伝える選択肢もあります。障害者雇用枠ではない一般雇用枠でも、診断がある場合には企業に相談をすることができます。 合理的配慮とは、就職先の企業が、障害による業務上の困難を改善・軽減するために必要なサポートを提供することです。 例えば「具体的な指示が欲しい」「周囲の音が気になるので、耳栓の使用を許可して欲しい」「メモを取る時間を与えて欲しい」といった、業務指示の仕方や職場環境の調整などです。どうすれば仕事が円滑に進められるかを企業側と一緒にすり合わせていく必要があります。 その際には、以下のポイントを説明すると、スムーズに交渉が進みます。 障害の特性や症状 特性による業務上の困難や苦手な業務内容 自分自身で取り組む工夫や対策 企業に依頼をしたい配慮内容 企業に「合理的」だとみなされない場合にはサポートを受けられないケースもあるため、どれだけ困っているか・どうすれば解決できるのかを具体的に説明することはもちろん、自分自身で取り組む対策や配慮を受けることでできるようになることを伝えることも大切です。 詳しくは「発達障害のある方の合理的配慮事例|職場コミュニケーション編」でお伝えしています。 特性によって、一人ひとりに合う対策法は異なります。また、性格や働き方の好みによっても、どのような工夫が効果を発揮するかは変わってきます。そのため、自分自身に合った方法を見つけることが重要です。 就労移行支援事業所ディーキャリアでは、働くことで悩みを抱えている発達障害のある方の支援をおこなっています。 就労移行支援事業所とは、障害のある⽅が就職するための「訓練・就職活動」の⽀援をおこなう障害福祉サービスの一つです。(厚⽣労働省の許認可事業) 就職とは人生の目的を実現するための通過点です。自分の「なりたい」姿を見つけ、障害特性への対策と自分の能力を活かす「できる」ことを学び、社会人として長く働くために「やるべき」ことを身に付ける。 「なりたい」「できる」「やるべき」の 3 つが重なりあうところに仕事の「やりがい」が生まれると、私たちは考えています。 ご相談は無料です。フリーダイヤル、または、24 時間受付のお問い合わせフォームにて、お気軽にお問い合わせください(ご本人様からだけでなく、当事者のご家族の方や、支援をおこなっている方からのご相談も受け付けております)。 お電話(0120-802-146)はこちら▶ お問い合わせフォームはこちら▶ また、全国各地のディーキャリアでは、無料の相談会や体験会も実施しています。 全国オフィス一覧はこちら▶ 就労移行支援事業所ディーキャリアは、「やりがい」を感じながら活き活きと働き、豊かな人生を目指すあなたを全力でサポートします。お一人で悩まず、まずはお気軽にご相談ください。 記事監修:北川 庄治(デコボコベース株式会社 プログラム開発責任者) 東京大学大学院教育学研究科 博士課程単位取得満期退学。通信制高校教諭、障害児の学習支援教室での教材作成・個別指導講師を経て現職。
仕事の不安が軽くなる!発達障害がある方のうつの乗り越え方

ADHD当事者で抑うつ状態を経験した筆者が、特性による「働きづらさ」と二次障害である「うつ」を乗り越えるためのヒントを紹介します。

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「頑張っているのになぜか仕事がうまくいかない」「ミスや失敗ばかりで、職場に行くのが怖い」 発達障害の特性による困難や苦手のある人で、「どれだけ頑張ってもうまくいかない」「人一倍、努力しているのに成果がでない」という悩みを抱える方は少なくありません。このような状況が続くと、仕事への不安や自己肯定感の低下によって、うつなどの精神障害につながることもあります。 実は、発達障害とうつの間に密接な関係性がある場合が多いのです。一般に、発達障害のASDやADHDの特性があることを「一次障害」、そして一次障害が原因で引き起こされる「うつ」などを「二次障害」といいます。 筆者は、一次障害として主にADHDと診断され、二次障害として抑うつ状態と診断されました。この記事では、そんな筆者の執筆した書籍『「発達障害」「うつ」を乗り越え@小鳥遊がたどりついた 「生きづらい」がラクになる メンタルを守る仕事術&暮らし方』の内容を引用しつつ、障害による困りごとに向き合い、乗り越えるためのヒントをお届けします。日常の工夫や考え方を見直すことで、新たな一歩を踏み出すきっかけになることを願っています。 執筆者紹介 小鳥遊(たかなし)さん 発達障害やタスク管理をテーマに、2021年まで会社員、2022年からフリーランスとして活動している。 発達障害(ADHD)当事者。主に発達障害や仕事術をテーマとするweb記事を執筆。2020年に共著「要領がよくないと思い込んでいる人のための仕事術図鑑」(サンクチュアリ出版)を執筆し発行部数は10万部を超える。 また、就労移行支援事業所でタスク管理等に関する定期プログラムやセミナー等を実施。企業や大学等での講演、個人/法人のタスク管理コンサルティングもおこなっている。 [toc] 発達障害がうつを招く理由 発達障害(この記事ではASDとADHDのことを指して「発達障害」と書きます)とうつは、密接なつながりがあります。この項では、発達障害の説明と二次障害の説明をすることで、両者は密接なつながりがあることをお伝えします。 ASDとADHDの特徴と主な症状 ASD(自閉スペクトラム症)は、対人関係やコミュニケーションが苦手で、特定の興味や感覚の敏感さが特徴的な発達障害です。具体的には以下のような症状がみられます。 他人の気持ちや状況を理解するのが苦手 特定の物事への強い関心やこだわり 感覚過敏(音や匂いなど)がある 臨機応変な対応や複数作業の同時進行が苦手 ADHD(注意欠如・多動症)は、集中力の維持が難しく衝動的な行動をとりやすい特性を持つ発達障害です。具体的には以下のような症状がみられます。 注意が散漫でミスが多い 落ち着きがなく衝動的な行動をする 整理整頓、スケジュール管理、約束を守ることが苦手 筆者は、ADHDの診断を受けており、以下のような症状があります。 私は、発達障害の当事者です。ADHD(注意欠如・多動症)の診断を受けました。 ■不注意によるミス・抜けもれがひどい■先送りグセがなおらず、締め切りが守れない■ミスを必要以上に深刻に受け止めてしまう■他人のミスも自分のせいかもと考えてしまう■仕事の段取りがつけられない■マルチタスクに思考停止してしまう■思考やものの整理ができない これらは、私の特性による「傾向」をまとめたものです。このうちのいくつかは、自分にも当てはまるという人がいるのではないでしょうか。 筆者の著書『「発達障害」「うつ」を乗り越え@小鳥遊がたどりついた 「生きづらい」がラクになる メンタルを守る仕事術&暮らし方』より引用。以降、引用は同書からのものとなります。 二次障害とは 二次障害とは、発達障害の特性による困難やストレスが原因で、心や身体、行動に不調や問題が現れる状態を指します。これにより日常生活に支障をきたすことが少なくありません。主な例として、うつ病や不安障害といった精神的な不調、頭痛や不眠などの身体的な不調、さらには暴言や引きこもりといった行動面の問題が挙げられます。 二次障害については、こちらの記事でより詳細に説明しています。あわせてご覧ください。 筆者は、下記のような経緯をたどって「抑うつ状態」の診断を受けて休職を余儀なくされ、最終的に退職することになりました。 しかし、与えられた仕事は忘れる、締め切りも守れない、つい先送りをして怒られる…。その連続で自信をなくしていき、大きな不安に苛まれるようになり、それに耐え切れず休職、退職。現実は、仕事の充実どころの話ではありませんでした。 友人が仕事でどんどん活躍していくのを横目に、いつしか、「どうせ、これが自分の限界なんだ」「仕事の充実? 自分がそんなことを考えてはいけない」と思うようになっていきました。 むしろ、自分が思う「人並みの生活」すらも、自分にはできないのだと、完全に自信を失ってしまいました。 「発達障害」「うつ」を乗り越え@小鳥遊がたどりついた 「生きづらい」がラクになる メンタルを守る仕事術&暮らし方 発達障害がうつにつながってしまう3つ理由 発達障害の特性が二次障害であるうつや不安障害などの精神疾患につながる主な理由として、「生きづらさ」「自己肯定感の低下」「不安やストレス」などの要因が挙げられます。それぞれの要因を詳しく解説します。 特性による「生きづらさ」や「働きづらさ」 発達障害のある人は、その特性による困難や苦手によって社会で生きづらさを感じることがあります。 たとえば、筆者は「ミスをしたときには上長に報告をする」というビジネスマナーは知っていたものの、「お金など重要なものに関するミスは、早急に報告をする」「重要な問題にならなかったときであっても、ミスは必ず報告する」という考えに至らないことがありました。 あるとき、アルバイト先で、お客様のお金を届けるという依頼を受けた際に、お金を忘れて出かけたことがありました。すぐに同僚から連絡をもらって、最終的には事なきを得たため、そのことを上長に報告しませんでした。ミスを隠すつもりはなかったものの、信頼を失うことに繋がってしまい、解雇を言い渡されてしまいました。 ビジネスマナーなどの「暗黙の了解」の苦手はASD特性がある方に多いケースで、仕事上のコミュニケーションで失敗につながることがあります。 特性による失敗は、気を付けようとしてもなかなか回避できないことが多いです。その結果、「なぜ自分はこんなこともできないのか」と自己否定に陥ったり、他者から否定的な反応をされたりすることで精神的な不調を抱えたりするなど、社会での生きづらさを感じる要因になります。 過去の失敗体験の積み重ねによる自己肯定感の低下 先述した通り、発達障害のある方は特性による困難や苦手によって失敗体験をすることがあります。さらに、特性への自己対処や周囲への配慮(サポート)依頼をしない限り、その失敗を繰り返してしまいがちです。 仕事における失敗は一人ひとりさまざまで、たとえば、コミュニケーションがうまくいかない、ケアレスミスや遅刻が多いなどがあります。そういった失敗が積み重なると、自己肯定感が低下し、「自分はダメな人間だ」「誰からも理解されない」と感じることが増えます。 筆者は、全国に営業所のある企業の総務で社用車の管理をしていたことがあります。全国から社用車に関する相談事や報告への対処を一手に引き受けていました。前任者はその対応をそつなく臨機応変にこなしていましたが、私はそういった要領があまり良くありませんでした。そのため、営業所の担当の方とのコミュニケーションがうまくいかないことがあり、あまりに目に余ったときには、電話口で強い調子で詰められたり、口汚くののしられたりしました。 そういった経験が重なると、いやおうなしに自己肯定感が低下します。そういったこともまた、うつ病などの精神疾患のリスクを高める要因の1つとなります。 不安やストレスを感じやすい 発達障害のある方は、不安やストレスを感じやすいと言われています。予測できない状況への不安や、他者の気持ちを汲み取れないことによる孤立感が、強いストレスとなることがあります。また、ミスや遅刻、計画の混乱による自己批判や焦りは、不安を引き起こしがちです。 筆者は、物事が予定通りに進まないだけで、すぐに焦って混乱してしまいがちでした。あるとき、人事担当者との面談で、「毎日何かしら『事件』があるのが辛くて......」と話したところ、「え?事件って何のこと?」とポカンとされた経験があります。他人にとっては日常の出来事の範囲内なのに、自分にとってはストレス・不安の源である、ということがよくありました。 こうした不安やストレスが慢性的に続くと、心の負担が大きくなり、自己肯定感の低下や無力感につながることがあります。その結果、うつ病や不安障害などの二次障害につながってしまうのです。 「不安な気持ち」は、発達障害のある方にとっては、切っても切れないテーマです。その原因と対処法については、以下の記事に詳しく書いてあります。ぜひこちらもあわせてご覧ください。 大人になり社会に出てから、発達障害の特性による失敗や困難が増え、うつや不安障害などの二次障害になるケースは少なくありません。幼少期や学生時代には「性格」などとして見過ごされていた特性が、就職活動や職業生活の中で「困りごと」として表出されることがあるためです。 最初は、仕事や対人関係の困難による不安感やうつのような症状を感じて通院する。しかし、実はその奥を探ってみると発達障害が判明する。そんな経緯で、これまでの生きづらさや困難の背景に発達障害があることを理解するようになる方も多いようです。 発達障害の特性との付き合い方について 自分の特性を知って工夫する 発達障害の特性は、予測できない状況に強い不安を感じたり、抜け漏れせず段取りよく仕事を進めるのが苦手で、遅延やミスを繰り返したりなど、一人ひとり異なります。そのため、まずはどのような場面で困難を感じるのかを把握し、それに合う自分なりの工夫をすることが大切です。 たとえば、筆者は、段取りよく仕事を進めるのが難しいときは、目の前の一手を明確にして、それを終わらせることだけ考えるようにしています。 対策:まずは最初にすることだけを書き出す 【1】まずは最初の手順「だけ」書き出す間違っていてもよし。まずは自分なりに思いつく、できるだけ簡単に、すぐできそうな「最初の一歩」となる作業を書き出す 【2】とにかく実行してみる自分なりに書き出した作業を、とにかく一つだけ実行してみる 【3】「一歩」をくり返すうまく行ったら次の一歩も書き出してみる。以後、「書き出し」→「実行」をくり返す どこから手をつければよいかわかりにくい仕事を目の前に、ただただ思考停止してしまう。また、そんなときほど一気に仕事を仕上げたくなり、結局何もできずに時間だけが経ってしまいます。 先走らず、まずは足元を見ましょう。最初の一歩ぐらいは想像できるはずです。そして、その次、その次と、一歩ずつ歩んでいけば、仕事の終わりが近づいてくるはずです。 「発達障害」「うつ」を乗り越え@小鳥遊がたどりついた 「生きづらい」がラクになる メンタルを守る仕事術&暮らし方 さらに、抜け漏れが発生しがちな傾向については、このような対策をとっています。 対策:すぐに着手しようとする気持ちをいったん抑える 【まずはやるべき仕事を確認しよう】 抜けもれしてしまう人の特徴として「すぐに結果が出るものに飛びついてしまう」傾向があります。 言われたことをメモしたり、書き出したりせず、すぐに仕事に着手すれば、「より早く仕事が進む」という結果が得られるかもしれません。しかし、そうすると抜けもれしやすい傾向のある人は、「自分が抱えている仕事の把握」がおろそかになってしまい、はじめに指示されていた仕事を新たな指示によって忘れてしまうという事態につながることも。結局仕事の抜けもれにつながってしまうのです。 手っ取り早く終わらせてしまいたい気持ちをまずは我慢して、いまやるべき仕事を書き出して確認してみましょう。 「発達障害」「うつ」を乗り越え@小鳥遊がたどりついた 「生きづらい」がラクになる メンタルを守る仕事術&暮らし方 もちろん、上記は筆者の一例に過ぎず、人によっては対策がなかなか打てない特性もあるかもしれません。ただ、困りごとの原因となる特性・特徴と向き合い、それをカバーすることができれば、結果的に障害と共存して毎日を送ることができるようになります。 障害の自己受容をし、他者にヘルプを頼む 発達障害の特性と向き合い「自己を受容する」第一歩は、できないことや苦手なことがあっても、それは努力不足ではないと考えるところから始まります。「完璧にこなさなければならない」というプレッシャーから解放されることで、心が少し楽になります。 それが進むと、周囲に助けを求めるハードルも下がります。周囲との協力は、特性を補いながら自分らしく生きる大きな助けとなります。 たとえば、筆者はこのようにして他者へ協力を求めやすくする工夫をしています。 対策:仕事の「ボール持ち」を設定する 【1】作業の手順を書き出す現在抱えている仕事の作業手順を書き出して一覧にする 【2】「自分のボール持ち」を明確にするほかの人の対応待ちの作業(相手のボール持ち)と、自分がボールを持っている(自分がやらなければいけない)作業とを区別する 仕事がうんざりするほど多くても、そのなかで自分が進められる仕事というのは、実はその一部であることが少なくありません。「自分のボール持ち」を書き込んで、「本当に自分が抱えるべき仕事」の量がわかれば、より前向きに仕事に取り組めるようになります。 もし、ほとんどの手順が「自分のボール持ち」だったら、それは自分が抱え込み過ぎる傾向があるということです。仕事の進め方を同僚や上司によく相談してください。 「発達障害」「うつ」を乗り越え@小鳥遊がたどりついた 「生きづらい」がラクになる メンタルを守る仕事術&暮らし方 また、その上で、一人で抱え込みすぎないよう、自己開示するためのフレーズを決めています。 対策:魔法のフレーズ「困ッテイルンデス」を唱える 【仕事での悩みを開示して、ミスのショックをやわらげよう】 仕事では、できるだけ相談して「共犯者」をつくりましょう。一緒に仕事をする人であればだれでもよいです。相談するのが難しければ 、「(〇〇の)仕事で困っているんですが」という「話し出しの魔法のフレーズ」を唱えましょう。 相談することができれば、その仕事は自分とその相談相手が一緒に持つ「荷物」のようなものになり、荷物の重さを二分(にぶん)することができます。そして、ミスがあったとしてもそのショックを「はんぶんこ」することができます。そのために、自分の悩みを開示してみるのがおすすめです。 「発達障害」「うつ」を乗り越え@小鳥遊がたどりついた 「生きづらい」がラクになる メンタルを守る仕事術&暮らし方 ストレスや不安との付き合い方を学ぶ 発達障害の特性を持つ人にとって、日常生活や仕事の中でストレスや不安を感じる場面は多いものです。ストレスと向き合い、上手に付き合う方法を身につけることはとても大切です。 対策:思い浮かぶたくさんのことを受け流す 【1】楽な姿勢で座る【2】意識的にゆっくり呼吸をする【3】目をつぶり思い浮かぶことを考える【4】そのまま3分間 【「全部やらなきゃ」脱却のカギ「マインドフルネス」】 やらなければいけないことが多いと、「全部いっぺんにやらないといけない!」と焦って、結局すべて中途半端になってしまいがちではないでしょうか。まずは、焦りをなくしていったん落ち着くことが大切です。ぜひ、呼吸法など、自分に合った「マインドフルネス」を試してみてください。 頭に思い浮かぶ雑念を無理に否定せず、ただ「ああ、こういうことがあるなぁ」「自分はこれに対して不安を感じているんだな」とありのままの「いま」を認めてそれに集中することで、リラックスすることができ、「焦り」からも解放されるかもしれません。 「発達障害」「うつ」を乗り越え@小鳥遊がたどりついた 「生きづらい」がラクになる メンタルを守る仕事術&暮らし方 対策:自分を大きく肯定することばをわざとつけて話す 【「おれ/私ってすごいから~」と言ってから、本題に】 自己肯定感をキープしたりあげたりするために、「肯定的なことを口に出す」のは大切だと感じています。私はよく妻に、自分を肯定することばを最初に言って話し始めています。「おれってすごいから、今日締め切りの仕事を終わらせたよ」「おれってすごいから、階段だけを使って帰ってきたよ」という具合です。大してすごいことでなくてもよく、むしろ無理矢理な感じがあったほうが、より効果的です。 信頼できる家族や友人などに、ぜひ言ってみてください。くり返すと、ちょっとずつですが自信が湧いてくる気がします。 「発達障害」「うつ」を乗り越え@小鳥遊がたどりついた 「生きづらい」がラクになる メンタルを守る仕事術&暮らし方 ストレスや不安を完全に取り除くことは難しくても、日常のちょっとした工夫から、ストレスとうまく付き合う術を身につけることで、日々を少しでも楽に過ごせるようになります。この方法はすべての人に当てはまるわけではありませんが、できることから少しずつ進めてみましょう。 特性に合った、自分らしい働き方を見つけるために 特性や性格によって、一人ひとりに合う対策法は異なります。また、性格や働き方の好みによっても、どのような工夫が効果を発揮するかは変わってきます。そのため、自分自身に合った方法を見つけることが重要です。 その参考として、筆者の執筆した書籍『「発達障害」「うつ」を乗り越え@小鳥遊がたどりついた 「生きづらい」がラクになる メンタルを守る仕事術&暮らし方』は、なんらかの参考になることと思います。興味がありましたら、ぜひお手に取ってみてください。 「発達障害」「うつ」を乗り越え@小鳥遊がたどりついた 「生きづらい」がラクになる メンタルを守る仕事術&暮らし方 ただ、就労には、本書でご紹介する仕事術などとあわせて、その他のトレーニングも必要です。独学でそのすべてを習得するのは、膨大な手間と時間がかかります。 就労移行支援事業所ディーキャリアでは、働くことで悩みを抱えている発達障害のある方の支援をおこなっています。 就労移行支援事業所とは、障害のある⽅が就職するための「訓練・就職活動」の⽀援をおこなう障害福祉サービスの一つです。(厚⽣労働省の許認可事業) 就職とは人生の目的を実現するための通過点です。自分の「なりたい」姿を見つけ、障害特性への対策と自分の能力を活かす「できる」ことを学び、社会人として長く働くために「やるべき」ことを身に付ける。 「なりたい」「できる」「やるべき」の 3 つが重なりあうところに仕事の「やりがい」が生まれると、私たちは考えています。 ご相談は無料です。フリーダイヤル、または、24 時間受付のお問い合わせフォームにて、お気軽にお問い合わせください(ご本人様からだけでなく、当事者のご家族の方や、支援をおこなっている方からのご相談も受け付けております)。 お電話(0120-802-146)はこちら▶ お問い合わせフォームはこちら▶ また、全国各地のディーキャリアでは、無料の相談会や体験会も実施しています。 全国オフィス一覧はこちら▶ 就労移行支援事業所ディーキャリアは、「やりがい」を感じながら活き活きと働き、豊かな人生を目指すあなたを全力でサポートします。お一人で悩まず、まずはお気軽にご相談ください。 記事監修:北川 庄治(デコボコベース株式会社 プログラム開発責任者) 東京大学大学院教育学研究科 博士課程単位取得満期退学。通信制高校教諭、障害児の学習支援教室での教材作成・個別指導講師を経て現職。
自己理解が必須!?障害者雇用の面接がうまくいくノウハウ

転職活動で合計250社から「お見送り」…ADHD当事者である筆者の経験をもとに、障害者雇用枠求人ならではの「面接対策」をご紹介!

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「就職活動に苦手意識がある」「面接でうまく話せない」「就活の進捗管理が難しい」「障害のことをどう伝えればいいか分からない」 ADHD当事者である筆者は、転職活動をしたとき、書類審査のみの会社も含めて合計250社、面接だけでも30社からお見送りをされました。最終的には、転職活動を始めてから約半年後に、ほぼ同時に3社から内定をいただき終了したのですが、どの方にお話しても、選考に通過しなかった数は驚かれます。 そんな筆者だからこそ分かったことや経験談、その他障害者雇用枠求人ならではの面接対策についてお伝えしていきます。 皆さんが自分らしいキャリアに向けた一歩を進むためのヒントになるよう、特に現在就職活動をしている方々が納得のいく就職ができるよう、この記事がお役に立つことを願っています。 執筆者紹介 小鳥遊(たかなし)さん 発達障害やタスク管理をテーマに、2021年まで会社員、2022年からフリーランスとして活動している。 発達障害(ADHD)当事者。主に発達障害や仕事術をテーマとするweb記事を執筆。2020年に共著「要領がよくないと思い込んでいる人のための仕事術図鑑」(サンクチュアリ出版)を執筆し発行部数は10万部を超える。 また、就労移行支援事業所でタスク管理等に関する定期プログラムやセミナー等を実施。企業や大学等での講演、個人/法人のタスク管理コンサルティングもおこなっている。 [toc] 障害者雇用枠ならではの選考内容 一般雇用枠にはない障害者雇用枠ならではの選考内容として、代表的なものに「障害に関する資料の提出(面接にはその説明)」と「企業実習」があります。※「企業実習」はすべての企業で実施されているわけではありませんが、選考フローのひとつとして取り組む企業が増えてきています 自分の特性を理解してもらうための資料「障害について(ナビゲーションブック)」 通常、求人に応募しようとする会社へ提出する書類は、「履歴書」と「職務経歴書」の2つのみです。しかし、筆者は、障害を開示せずに働くクローズ就労だけでなく、障害を開示して働くオープン就労でも応募をしていたため、さらにもう1つの書類として、障害内容や障害に対してどのように配慮して欲しいかなどを書いた「障害について」という資料(=ナビゲーションブック※)をオープン就労用に用意していました。 ※「ナビゲーションブック」とは、障害のある方が就職活動をするときや職場定着を目指すときに活用できるツールで、①自身の障害のこと(障害の特徴=特性や症状)②仕事をするうえで困難なこと③職場に求める合理的配慮をまとめたものです。オープン就労の中でも、一般雇用枠の場合には提出は任意であることがほとんどですが、障害者雇用枠の場合には応募書類のひとつとして提出を求められることが多いです。 雇用主とのマッチングを見極める期間としての「職場体験実習・企業実習」 筆者が定期的に講師としてプログラムをおこなっている就労移行支援事業所のある東京都では、東京しごと財団が「職場体験実習」を実施しています。また、近年では多くの企業が選考時に同様の「企業実習(インターン)」を取り入れています。 企業等で働いた経験がない(少ない)、自分の適性が分からないなど、企業等で働くことに不安がある場合に、いきなり「就職」ではなく、仕事を「体験」できます。この職場体験実習により、企業等の現場を知ることができ、また、実習中の体験を通じて、自分の新たな課題を発見することもできます。 東京しごと財団HP「職場体験実習」 通常の就職活動は、書類選考と2,3回の面接のみで採用するのがほとんどです。しかし、それだと企業側と応募者がマッチするかどうか分かりません。特に、障害者雇用枠においては、職場環境とマッチする/しないの差が大きく、さらにマッチしなかったときの影響も大きくなりがちです。 そこで、あらかじめ実習期間を設けることで、企業側だけでなく、応募者である障害者からも、職場環境との相性などをじっくり判断する機会を設けています。 発達障害のある方が就職活動で苦手とすること ここでは発達障害のある方が就職活動をおこなう上で、苦手とすることを解説していきます。なお、あわせてこちらもお読みいただくと、より面接への対策をおこなうことができます。 面接でうまく話せない 話しすぎる まずは、特に多動性の特徴のある方に顕著ですが、面接で話しすぎてしまうというのがあります。ADHDである筆者も、その多動性からか、今考えればかなり話しすぎていたように思います。なお、そういった点も含めて面接での話し方で気をつけるべき点を後述の「面接中の対策」でご紹介します。 少なくとも「話しすぎない」ということを念頭においた途端、今まで面接でどこにも通らなかったのが、3社から立て続けに内定をいただけたという経験が、筆者にはあります。「過ぎたるは猶及ばざるが如し(やり過ぎることは、やり足りないことと同じように良くない)」という言葉がありますが、まさにその通りです。足りなければ面接官から聞いてきます。 質問と答えが噛み合わない さらにもう1つ、面接でうまく話せないということについて筆者がよく感じていたのが、「質問と答えが噛み合わない」ということでした。これもADHDの多動性がおそらく関係しているのだと考えているのですが、話し初めと話し終わりでテーマが変わってしまうことが多かったのです。 これは、話し初めはAという話題だったのに、話しているうちにどんどん話がそれていき、いつのまにか別の話題になってしまい、最終的にはBというテーマになってしまった、といったことです。もしかしたら、ADHDのある方は、日常会話でもこのようなことが身に覚えがあるかもしれません。 ASDで他者視点の欠如がある場合は、相手の質問の意図を読み取ることができず、的外れな回答をしてしまうケースがあります。 進捗管理が難しい ADHD/ASD共通の苦手なこととして「マルチタスク」があります。まさに、就職活動は同時並行のマルチタスク処理が要求されます。1社ずつ応募していけばマルチタスクにはなりませんが、そうなると時間が非常にかかってしまい、現実的ではありません。 筆者は、進捗管理をこのようなExcelの表にまとめていました。 ※右端の「障害」欄の「有」は、障害を開示する「オープン就労」の求人であることを示しています。 この進捗管理表を更新すること自体が楽しくなってきて、それが250社落ちても就職活動を続けられる原動力になったと言っても過言ではありません。 就職活動のマナーが分からない あまり胸張って言えるようなことではありませんが、筆者は暗黙のルール=ビジネスマナーを認識するのが非常に苦手です。特に服装には無頓着で、靴が汚れている、袖のボタンが1つ取れかかっている、ネクタイの色がふさわしくない、髪の毛がまとまっていない、などの身だしなみについて、完全に対策できたことはないに等しいです。 こういったことは、まさか面接をする相手企業に問い合わせることもできず、せめてマナー本などを見るくらいしか手立てがありませんでした。 面接の具体的な対策 面接における具体的な対策として、「事前準備」と「面接中の対策」をご紹介します。 事前準備 よく聞かれる質問に、まずは回答を文章であらかじめ書いておくと良いです。よく聞かれる質問の例は後述します。一度書いてまとめておくと、頭に入りやすくなります。 書き方としては、PREP法を用いると良いでしょう。PREP法とは、以下の順番で話をしていく手法です。 P=Point 「結論」 R=Reason 「理由」 E=Example 「事例」 P=Point 「結論を繰り返す」 たとえば、面接で「当社を志望した理由を教えてください」という質問に対しては、このようになります。 結論:御社のチャレンジし続ける企業風土です。 理由:というのも、私もまたチャレンジの連続をしてきたからです。 事例:私は去年はTOEIC、今年は簿記に挑戦しており、来年は宅建を受けてみようと思っています。 結論:ということで、御社のチャレンジし続ける企業風土に惹かれています。 面接中の対策 まずは結論から 事前準備のところでも書きましたが、面接中の口頭でのやり取りでも、PREP法を意識して話すと、混乱せずに伝えることができます。特に、発達障害の特性のある方は、話があちらこちらに飛びがちです。話をしている間に、自分でも何について話しているか分からなくなってしまうのです。それを防ぐためにも、PREP法は有効です。 一文でいったん区切る 思考があちらこちらに飛びがちだと、経験上一文を言い切ることが難しくなります。「~~だと思います」「~~です」と言い切ろうとしても、それに続くトピックが思い浮かび、言いたくなるのです。そこで、続けざまに話し出してしまいます。結果、「話が長く、要点がはっきりしない」という悪印象を与えてしまうことが、筆者にはよくありました。 語尾を伸ばさない 思考を続けながら話すと、それに引っ張られて語尾が伸びることが筆者にはよくありました(今もあります)。上記の「一文でいったん区切る」とあわせて活用すると、抑制の効いた、理解しやすい印象を相手に持ってもらうことができます。 分からなければ「~~ということでしょうか?」と聞く 面接中、面接官の言うことが分からなかったとき、筆者は「分かっていないことを悟られてはいけない」と考え、分かったふりをしてその後懸命に文脈から内容を類推する、ということをしていました。これは本当に意味がありません。分からなければ、正直に伝えるのをおすすめします。「分かりません」ではなく、「~~ということでしょうか?」と自分からの理解も精一杯していることが伝わるような言い方をするとなお良しです。 いずれにしても、「立て板に水のごとく(よどみなく、すらすらと話す様子)」うまく話そうと思わないことが、結果的に良い伝え方、伝わり方になることが多いです。 面接でよく聞かれること 面接では、履歴書の内容、職務経歴書の内容、志望動機などの他に、障害者雇用枠特有の「頻出質問」があります。その中からいくつかピックアップしてみます。 1. 自身の障害について 自身の障害のことについては、ほぼ自己紹介のようなものなので、ひととおり説明できるようにしておくと良いと思います。筆者の場合、面接ではありませんが、イベントなどで登壇したときの自己紹介をする際には、以下のように「診断名」「具体的な傾向(障害特性による困難や苦手なことなど)」をセットにしてお伝えするようにしています。 「私は、10数年前にADHDの診断を受けました」 「具体的には、主なものとして、抜け漏れ、先送り、過度の自責傾向、段取り苦手といった傾向があります」 2. 障害対策として取り組んでいること さらに、職場で本人が自ら働けるような自助努力をしているかは、面接官としても聞きたいところです。そこで、障害対策として取り組んでいることも、要点を押さえて伝えられるようにしておくと良いです。どのような要点の押さえ方をすれば良いかというと、上記の「自身の障害について」で挙げた「具体的な傾向」に対応する形で伝えれば良いです。筆者であれば、以下のようにお伝えしています。 「私は、タスク管理ツールに書き出すことで抜け漏れを防いでいます」 「また、仕事を細かい作業に分けることで、先送りや段取りが苦手なところをカバーしています」 「さらに、タスクのボールを自分が持っているかどうかを可視化して、自責傾向を抑えています」 3. 必要な合理的配慮について 自身の障害を説明し、できる限り対策を講じていることを伝えると、必要な配慮がグッと相手に入りやすくなります。同時に、「ここまで自分は頑張っているのだから、自分の希望をストレートに伝えても大丈夫」という余裕が出てきやすくなります。必要な配慮を依頼するときには、「特性による行動面の特徴」「具体的な配慮事項」をセットでお伝えしていました。筆者の実例は、このようなものでした。 「過度な自責傾向があるため、強い口調で指摘をされると、思考が止まってしまい業務が手につかないことがあります。」 「何か注意すべき点があるときには感情的に叱責するのではなく、冷静に対話していただけるとありがたいです。」 そのほかの合理的配慮の依頼例としては、以下のようなものがあります。 抜け漏れについては「重要な書類は、Wチェックをしていただきたい」 先送り、段取りが苦手については「週1回業務確認のミーティングを実施していただきたい」 上記3点は、どの企業の面接を受けるとしても、障害者雇用枠での選考であれば必要になります。ご自分なりの想定回答をご用意いただけると良いかと思います。そして、その大前提として、「自己理解」が必要となります。 自分にはどんな障害があり、具体的にどのような傾向でどのような困りごとが発生しているか それに対してどう対策しているか それでも対応し切れなくて配慮して欲しいことは何か これらの項目にスムーズに答えられるように自己理解をしておくと、面接に通る確率が上がることでしょう。 面接や就職活動の対策は、しかるべき人に頼ろう これまで、面接対策として、よくありがちな困りごとや苦手なこと等を中心にお伝えしてきました。筆者は、就労移行支援事業所等の存在を知らなかったため、自己理解から具体的な対策をするまでに年単位の時間がかかってしまい、それでも十分な対策ができたとは言えない状態でした。 面接のみならず、就職活動では、個々人の困りごとや特性などを総合的に判断し、原因にあわせた対策が必要になります。面接での細かな工夫なども含め、専門的な知見を持った人の協力を得て、自分にあった対処法を見つけて実践していくことが大切です。 就労移行支援事業所ディーキャリアでは、働くことで悩みを抱えている発達障害のある方の支援をおこなっています。就労移行支援事業所ディーキャリアは、利用者様一人ひとりに合う金銭管理方法を見つけるサポートも行なっています。 就労移行支援事業所とは、障害のある⽅が就職するための「訓練・就職活動」の⽀援をおこなう障害福祉サービスの一つです。(厚⽣労働省の許認可事業) 就職とは人生の目的を実現するための通過点です。自分の「なりたい」姿を見つけ、障害特性への対策と自分の能力を活かす「できる」ことを学び、社会人として長く働くために「やるべき」ことを身に付ける。 「なりたい」「できる」「やるべき」の 3 つが重なりあうところに仕事の「やりがい」が生まれると、私たちは考えています。 ご相談は無料です。フリーダイヤル、または、24 時間受付のお問い合わせフォームにて、お気軽にお問い合わせください(ご本人様からだけでなく、当事者のご家族の方や、支援をおこなっている方からのご相談も受け付けております)。 お電話(0120-802-146)はこちら▶ お問い合わせフォームはこちら▶ また、全国各地のディーキャリアでは、無料の相談会や体験会も実施しています。 全国オフィス一覧はこちら▶ 就労移行支援事業所ディーキャリアは、「やりがい」を感じながら活き活きと働き、豊かな人生を目指すあなたを全力でサポートします。お一人で悩まず、まずはお気軽にご相談ください。 記事監修:北川 庄治(デコボコベース株式会社 プログラム開発責任者) 東京大学大学院教育学研究科 博士課程単位取得満期退学。通信制高校教諭、障害児の学習支援教室での教材作成・個別指導講師を経て現職。
仕事が辛い同志におくる、ADHDのための「紙1枚」仕事術

特性による失敗を繰り返し、どんどん自信がなくなっていく。そんな状況から立ち直った仕事のコツを紹介します。

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「頑張っているのに仕事がうまくいかない」「みんなはできているのに自分だけできない」 社会人になった途端に、仕事でうまくいっている友人たちとの間に距離を感じてしまう。会社で認められて出世したり、大きな買い物を次々にしていく周囲の人たちがいる一方、自分は些細なことでも失敗をしでかして、どんどん自信がなくなっていく。そういった筆者の体験談をもとに、そんな状況から立ち直っていった仕事のコツを、筆者の執筆した書籍『発達障害の僕らが生き抜くための「紙1枚」仕事術』をベースにお伝えします。 皆さまの「生きづらさ・働きづらさ」への対処法のヒントとして、この記事がお役に立つことを願っています。 執筆者紹介 小鳥遊(たかなし)さん 発達障害やタスク管理をテーマに、2021年まで会社員、2022年からフリーランスとして活動している。 発達障害(ADHD)当事者。主に発達障害や仕事術をテーマとするweb記事を執筆。2020年に共著「要領がよくないと思い込んでいる人のための仕事術図鑑」(サンクチュアリ出版)を執筆し発行部数は10万部を超える。 また、就労移行支援事業所でタスク管理等に関する定期プログラムやセミナー等を実施。企業や大学等での講演、個人/法人のタスク管理コンサルティングもおこなっている。 [toc] 大学は出たけれど 就職活動ができなくて資格試験の道へ 大学進学までは周囲と変わらず普通に過ごしていましたが、大学3年生から始まる就職活動で、「なぜ自分は働かなければいけないのだろう」「自分が本当にやりたい仕事って何だろう?」と考え始めてしまい、答えが見つからず就職活動全般に対して興味がなくなってしまいました。 後にADHDと診断される筆者は、「知識の偏り」を医師より指摘されます。興味がないことは徹底して知識が身に付かないということです。そんな筆者なので、「仕事をすること」に興味を持てない当然の結果として、就職活動に身が入らなくなってしまいました。 そんなことから、法律系の難関資格である司法書士を目指すことになるのですが、消去法で選んだこともあり勉強に身が入らず、大学卒業後20代の大半を受験勉強に費やしてしまいました。 勉強しながらアルバイトをしようと考えたものの、慣れないこともあってか仕事がうまくいかず、司法書士事務所と不動産会社でのアルバイトを相次いでクビになり、「これは何かおかしいのではないか」と思って診断を受けました。そこでADHDの診断を受けたのです。 就職しても傾向は変わらず その後、障害者雇用枠で会社に就職し、約4年ほどはなんとか仕事を続けられたものの、会社内の状況の変化なども影響して、仕事のミスが頻発し会社に行けなくなり休職し、そして退職してしまいました。 筆者には、このような特性があります。 私は、発達障害の1つADHD(注意欠如・多動症)の診断を受けていて、具体的には、「抜け漏れ」「先送り」「過度な自責傾向」「段取りが苦手」「集中しづらさ」という発達障害によくある特性があります。 『発達障害の僕らが生き抜くための「紙1枚」仕事術』(SBクリエイティブ) ADHDの特性は、基本的には一生変わりません。筆者は、特に緊張したり焦ると、この特性が出やすく、より強く出てしまいます。会社の経営状況が悪くなり人員も減らされていった結果、仕事の負荷が年々重くなっていきました。それと同期するように、社内の人間関係もギスギスしていきました。そういった環境の変化から特性が強く出るようになり、いくら頑張ってもなかなか仕事がうまくいきませんでした。その結果、休職し退職にいたったことは、前述のとおりです。 そのような展開は、転職した次の会社でも同様でした。会社の経営状況は好調でしたが、クローズ雇用(障害を開示しない一般雇用枠)で入社したのと、年齢を加味してもらって役職付きになったため、前の会社よりも一層業務負荷が重い環境で働くことになりました。その結果、特性が強く出てしまい仕事が思うようにいかず、1年程度でまた休職することになりました。 一方、友人たちは…… 筆者が休職や退職をしている一方、友人たちは着実にキャリアを積み重ねていきました。有名企業に入って順調にステップアップする友人、高い車を買う友人、豪華な結婚式をあげる友人、家業を継いで経営層として結果を出す友人、飲食業で頑張ってお店を持つまでになった友人。周囲の人たちは仕事というフィールドできちんと結果を出して、ライフイベントも次々と迎えていく。それに比べて、自分はなぜできないのだろうと、自己肯定感は下がるばかりでした。  私はずっと「自分の力で稼いで、(自分の考える)人並みの生活をしていきたい」という気持ちを持っていました。大学を卒業するまで、いつかは自分にも「人並み」の生活や幸せが勝手に訪れるものだと信じていたからでしょう。  ところが、学生時代が終わり、社会に出た途端、「人並み」とか「普通」とか、そういう類のものが自分にとってはるか遠くのものになってしまいました。「いわゆる障害者雇用」のあまりにも低い給料に悔し涙が出たのも、有名企業に入った大学の友だちと心のどこかで距離感を覚えてしまったのも、その根底にはいつも、「人並みになれない自分」への驚きと悔しさがあったのだと思います。 『発達障害の僕らが生き抜くための「紙1枚」仕事術』(SBクリエイティブ) 「タスク管理」で劇的に変わる 「タスク管理」なんて知らなかった私 自己肯定感が大きく下がり、自信を完全に喪失した私は、「できる」自分を背伸びして追い求めるのを諦めるようになりました。それは、今考えれば結果的に自分を良い方向へと導いてくれたと考えています。「できない」等身大の自分を認めることができるようになったことで、自分の抱える特性「抜け漏れ」「先送り」「過度な自責傾向」「段取りが苦手」「集中しづらさ」に真っ向から向き合い、現実的な対策を講じることができるようになりました。 「現実的な対策」とは、「内勤事務職である自分が、目の前のパソコンで仕事の管理表を作る」ということです。当時は、これが「タスク管理」になるとはつゆ知らず、「仕事ができない自分のためのちょっとした工夫」ぐらいしか考えていませんでした。 ①「抜け漏れ」対策 「言われた仕事は全部書く」ということを徹底してやりました。頭の中にあるから書かなくていい、と書くのが面倒な私は思いがちでしたが、面倒でも書く!と自分に言い聞かせ、目の前のパソコンのExcelに書き出しました。 抜け漏れや忘れは、頭で記憶しようとするから起こります。つまり、頭で記憶せず、外部媒体に記録すれば良いのです。こんな当たり前のことがなぜ今まで思いつかなかったのか不思議でした。 ②「先送り」対策 先送りをしてしまう原因の1つとして、「将来得られる大きな達成感」よりも「今得られる小さな達成感」を優先することが挙げられます。やらなければいけない大きくて手間のかかりそうなプロジェクトに高いハードルを感じて、ちょっとの手間でできそうなデスク回りの掃除をついやってしまうのです。 そうならないように、大きくて手間のかかりそうなプロジェクトはすぐに終わらせることができる細かい作業に分け、取り組むことへの心理的なハードルを下げました。 ③「過度な自責」対策 過度な自責傾向とは、自分が責任を持たなくても良い事柄に関しても、「何か自分がやれたのではないか」と考えてしまい、「うまくいかなかったのは自分のせいだ」と思ってしまうことです。心理学上の言葉では「自己関連付け」と言います。 これに対しては、「自分の責任」「相手(自分以外の他人)の責任」とをタスクごとに見える化して、「相手の責任は相手の責任」と思えるようにしました。 ④「段取りが苦手」対策 決められた締切までにタスクを完了させるための「段取り」。夏休みの宿題をやらずに放置して最終日に慌てて手を付けるも間に合わない、といった話がよくあります。まさに自分がこのタイプで、段取りがうまくない典型例でした。 その対策として、②で分けた細かい作業単位に締切を設定して、マラソンのラップタイムのように「いつまでに、どこまでいけば大丈夫か」が分かるようにしました。 ⑤「集中しづらさ」対策 ①~④で書き出した情報は有用なものですが、ときに大量になり過ぎて、どこに注目すれば良いかが分かりにくく、目移りしてしまいがちでした。目移りすると、それに伴って思考の対象も変わってしまいます。今「経費精算申請書の作成」をしていたのに、新着メールの通知に引っ張られて「人事からのメール閲覧」に変わってしまっていたり、といった経験がある方は少なくないのではないでしょうか。 対策としては、「これだけ見ておけばいいですよ!」という、見るべき情報をできるだけ絞り込ませるような見え方になる工夫をすることです。たとえば、すでに終わった作業に取消線を引いたり、「今やるべき作業」だけを集めてリスト化したり、といったところです。 上記①~⑤を「紙1枚」に集約させたのが下記になります。 『発達障害の僕らが生き抜くための「紙1枚」仕事術』(SBクリエイティブ) ※上記画像の「ステータス」は以下のようにご理解ください。 自分:自分がボールを持っている(タスクの進捗の主導権を握っている) 相手:自分以外の他人がボールを持っている 予定:誰もボールを持っておらず、特定の日時に自然と発生する いつか:自分がボールを持っているが、締切がなく「いつかやれればいい」程度である 劇的に変わった仕事生活 このような仕組みをExcelで作った私の仕事生活は、劇的に変わりました。特性はそのままでしょうがないと考え、代わりにこの仕組みに沿って仕事を進めていったところ、それぞれの特性による困りごとが驚くほどなくなっていったのです。 以前は、退社後や休日にも仕事のことが頭から離れず鬱々としていました。それが、このやり方を取り入れてからは、毎日退社後や休日は「定期試験の最終日の解放感」を味わうことができるようになりました。 自分の苦手を徹底的に受け容れ、そんな自分をそのままカバーする仕組みを作っていき、自身の発達障害特性による困りごとをことごとくカバーするExcelが完成しました。このExcelこそ、本書で紹介する「紙1枚」のベースとなるものです。 私の人生はここでようやく底を打ちます。8年間抱えてきた仕事の悩みがウソみたいに解消され、会社での仕事に自信が持てるようになり、会社員として人並みに食べていけるようになりました。特性がなくなったわけではありません。仕事のやり方をほんの少し変えただけ。ただそれだけでよかったのです。 『発達障害の僕らが生き抜くための「紙1枚」仕事術』(SBクリエイティブ) 「紙1枚」を活用した仕事上の工夫 この「紙1枚」仕事術を活用すると数々のメリットがあります。その一部をご紹介します。 「面倒くさい」は幸せの青い鳥 「紙1枚」仕事術では、タスクはより細かいサブタスクへ分解して着手しやすくします。しかし、それでも「面倒くさい......」と感じて、自然と手が止まってしまうことがあります。面倒くさいと感じることは、ADHDによく起こりがちな「先送り」を引き起こすことにつながります。 そんなときは、そのサブタスクが、自分が実行可能なレベルまで分解されていないことが多いのです。「面倒くさい」と感じたら、それは「そのサブタスクをもっと分解しよう」の合図です。「面倒くさい」と感じること自体はネガティブなイメージですが、実は先送りに陥りそうな自分を救ってくれる幸せの青い鳥なのです。 「『面倒くさい』というサインが出たぞ! よし、サブタスクを分解しよう」と変換する思考習慣ができたら無敵です。サブタスクをザクザクカットしていくうちに、面倒くさい気持ちはどこかへ飛んでいき、代わりに「面倒くさくない」サブタスクのリストができあがります。 『発達障害の僕らが生き抜くための「紙1枚」仕事術』(SBクリエイティブ) 「マルチタスク」という幻想を捨てよう 現代社会では仕事をするうえで、一人でいくつものタスクを同時に実行する「マルチタスク状態が”当たり前”」という「幻想」が一般的に広くあるような気がします。 実は、マルチタスクは、それぞれのタスクをサブタスクへ分解し、そのサブタスクたちを次々に終わらせていくことでしか対処できません。ある取引先へのメールを打ちながら、別の取引の担当者とまったく違う内容の電話をするようなことは不可能なのです。 つまり、「田中商事に送るサービスの見積書を作成する」というタスクと、「Cさんからのお礼メールに返信する」というタスクが2つ同時に存在していて、今は前者のサブタスクの2つ目に着手していますよ、という「紙1枚」では至って普通な仕事のこなし方が、世に言う「マルチタスク」なのです。難しく考えるほどのことではない気がしてきませんか? 「できる人」は、この「シングルタスク」を非常に効率よく無駄なく高速で処理していると言えます。 『発達障害の僕らが生き抜くための「紙1枚」仕事術』(SBクリエイティブ) 特性も含めて自分自身 タスク管理は「たまたま」 筆者は、自分の特性をカバーする方法を自分なりに考えていた結果たどりついたのが、たまたまタスク管理でした。もしかしたら、他の方はまた別のやり方にたどりつくかもしれません。 仕事術の本を執筆し、それを広める活動をしている筆者ですが、もっと他のところに目を向けて、それぞれがそれぞれなりの「障害特性への対策」を立てれば良いと考えています。 特性を「なかったこと」にしない ただ、その根っこのところで大事にしたい考え方があります。それは、自分の特性を否定して「なかったこと」にしようとしないというものです。特に、ADHDに限らず、発達障害の特性は、なかったことには基本的にはできません。一生付き合い続けていく必要があります。 したがって、特性も含めて自分自身だと考え、「障害特性込み」で対策を立てるのをお勧めします。また、特性があることによって困ったり悩んだりすることも、「そのようなことがあってもしょうがない」「そういった困りごとがあって当たり前」という考え方ができると、実は特性への対処が進みやすくなるのです。 「どうせ自分なんて」と思っている気持ちや自分の特性をそのまま受け止め、自分の心に刻んでください。「どうせ」と思っている自分も、特性で困ってもがいている自分も、他ならぬ自分なのです。決して否定する必要はありません。 辛さを抱えているからこその生き抜き方があります。「紙1枚」仕事術もその1つです。失うものは何もありません。お金もいりません。 『発達障害の僕らが生き抜くための「紙1枚」仕事術』(SBクリエイティブ) そんな風に障害特性を受け容れ、困りごとに対処していった結果生まれた「タスク管理」を、もしご自分で参考になりそうでしたら、ぜひ試してみてください。 その際は、本記事でご紹介した小鳥遊の著書『発達障害の僕らが生き抜くための「紙1枚」仕事術』がお役に立てると思います。 発達障害の僕らが生き抜くための「紙1枚」仕事術(SBクリエイティブ) なお、就労には、本書でご紹介する「タスク管理」スキルとあわせて、その他のスキルのトレーニングも必要です。独学でそのすべてを習得するのは、膨大な手間と時間がかかります。 就労移行支援事業所ディーキャリアでは、働くことで悩みを抱えている発達障害のある方の支援をおこなっています。就労移行支援事業所ディーキャリアは、利用者様一人ひとりに合う金銭管理方法を見つけるサポートも行なっています。 就労移行支援事業所とは、障害のある⽅が就職するための「訓練・就職活動」の⽀援をおこなう障害福祉サービスの一つです。(厚⽣労働省の許認可事業) 就職とは人生の目的を実現するための通過点です。自分の「なりたい」姿を見つけ、障害特性への対策と自分の能力を活かす「できる」ことを学び、社会人として長く働くために「やるべき」ことを身に付ける。 「なりたい」「できる」「やるべき」の 3 つが重なりあうところに仕事の「やりがい」が生まれると、私たちは考えています。 ご相談は無料です。フリーダイヤル、または、24 時間受付のお問い合わせフォームにて、お気軽にお問い合わせください(ご本人様からだけでなく、当事者のご家族の方や、支援をおこなっている方からのご相談も受け付けております)。 お電話(0120-802-146)はこちら▶ お問い合わせフォームはこちら▶ また、全国各地のディーキャリアでは、無料の相談会や体験会も実施しています。 全国オフィス一覧はこちら▶ 就労移行支援事業所ディーキャリアは、「やりがい」を感じながら活き活きと働き、豊かな人生を目指すあなたを全力でサポートします。お一人で悩まず、まずはお気軽にご相談ください。 記事監修:北川 庄治(デコボコベース株式会社 プログラム開発責任者) 東京大学大学院教育学研究科 博士課程単位取得満期退学。通信制高校教諭、障害児の学習支援教室での教材作成・個別指導講師を経て現職。
食事でADHD特性対策!「集中力」を高める食べ物は?

ADHDの苦手あるある「集中しづらい・続かない」を「食べ物」で対策。カフェインの摂り過ぎは要注意!おすすめの栄養素を紹介。

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「集中力が続かない」「1つのことに専念できず、つい気が散ってしまう」 ADHDの特性がある筆者は、集中しづらさという傾向があります。何か気になることがあると今やっていた作業から集中がそれてしまったり、優先順位が高いやるべきことに専念しなければいけないのに、つい興味のある他のことについて考えて手が止まってしまったり、ADHDの衝動性が行動にあらわれてしまいがちです。そんな傾向への対策として、今回は「食事」という観点からできることをお伝えしていきます。 皆さんの「生きづらさ・働きづらさ」への対処法のヒントとして、この記事がお役に立つことを願っています。 執筆者紹介 小鳥遊(たかなし)さん 発達障害やタスク管理をテーマに、2021年まで会社員、2022年からフリーランスとして活動している。 発達障害(ADHD)当事者。主に発達障害や仕事術をテーマとするweb記事を執筆。2020年に共著「要領がよくないと思い込んでいる人のための仕事術図鑑」(サンクチュアリ出版)を執筆し発行部数は10万部を超える。 また、就労移行支援事業所でタスク管理等に関する定期プログラムやセミナー等を実施。企業や大学等での講演、個人/法人のタスク管理コンサルティングもおこなっている。 [toc] なぜADHDがあると集中力が続かないのか ADHDの抱える「衝動性の強さ」 ADHDのある方は、判断や抑制を司る脳内の機能が低下し、行動や思考のブレーキが効きにくくなり、すぐに行動に移してしまいがちです。この「衝動性の強さ」が、集中しづらさにつながっています。 ADHDの抱える「ワーキングメモリーの弱み」 また、情報を脳内に一時的に置いておく機能「ワーキングメモリ―」の働きが弱い傾向が、ADHDのある方には顕著です。その傾向から、1つの作業に集中しようにも、作業に必要な情報の整理ができないこともよくあり、これもまた集中しづらさにつながっています。 このように、ADHDのよくある2つの傾向「衝動性の強さ」「ワーキングメモリ―の弱み」が主な原因となり、集中力が続かない、集中しづらいという結果に結びつきがちです。 ADHDのある方が集中できない理由やその対策については、下記の記事に詳しく書いてありますので、興味ある方は参考にしていただければと思います。 集中しづらさを「食事」で対策 集中力不足によくやりがちな対策 そもそも、ADHD特性の有無関係なく、誰にでも「集中しづらい」ときはあるものです。たとえば睡眠不足だったり、過労で頭がしっかり働かなかったりといった経験は誰でもあるでしょう。そんな集中力が途切れたときには、多くの人はエナジードリンクやコーヒーなどで「カフェイン」を摂り、眠気覚ましや脳を覚醒させて、集中力を発揮しようとするものです。 たしかに、カフェインには大脳を興奮させる作用があり、眠気が覚めて気分が高揚したような感覚を得ることができます。ただそれは、いわば「元気の前借り」であって、長期的に安定して集中力を発揮することから逆に遠ざかってしまいます。過剰に摂取すると、脳を中心とした中枢神経系が刺激されることによるめまい、心拍数の増加、興奮、不安、震え、不眠症、下痢、吐き気等の健康被害があるとされ、厚生労働省は注意喚起をしています。 参考:食品に含まれるカフェインの過剰摂取についてQ&A ~カフェインの過剰摂取に注意しましょう~ そこで、長く安定して「集中できる自分」になれるための3つの栄養素や成分、それらを多く含む食べ物をご紹介します。 脳の唯一のエネルギー源「ブドウ糖」 まずは、脳を活性化させて集中力や記憶力を高める、脳の唯一のエネルギー源「ブドウ糖」を摂ることが大事です。ダイエットのために糖質制限をするのはよく聞きますが、あまり過剰にやり過ぎると適切な判断ができなくなったり注意力が低下したりします。適切なタイミングで、しっかりブドウ糖を摂ることは、集中力を高める上でも大切です。 ブドウ糖を多く含む食べ物としては、パンなどの穀類、いも、果物などが挙げられます。特に果物はブドウ糖の含有率が高く、集中力対策には効果的です。また、砂糖などの甘味料も大事な脳のエネルギー源となってくれます。 参考:ブドウ糖を含む食べ物とは?ブドウ糖のおもな働きやおすすめレシピを紹介 筆者も、会社の仕事帰りなどで疲労感がたまっているときに、そうとは知らずブドウ糖を補給していた経験があります。帰宅途中の乗換駅にカフェがあり、そこで冷たくて甘いスムージーがとても欲しくなり、よく立ち寄っては飲んでいました。今考えると、体がブドウ糖を欲していたのでしょう。 ただし、一度に大量のブドウ糖を摂取すると、血糖値が急激に上がることがあります。急激に血糖値が上昇すると、体内でインスリンが過剰に分泌され、体に脂肪を溜め込みやすくなり、肥満のリスクが高くなってしまいます。同時に、眠くなったり、気持ちがイライラする原因ともなります。 そこで、血糖値の急激な情報を抑えてくれる食物繊維を多く含む食べ物を一緒に摂ると良いでしょう。幸いなことに、いもや柑橘系の果物など、ブドウ糖と食物繊維の両方とも多く含む食物もあります。他に、野菜や豆類、きのこや海藻などは、食物繊維を多く含むのでお勧めです。 脳のエネルギー補給を補助する「ビタミンB1」 ブドウ糖を体内に入れただけでは、直接脳の活性化にはつながりません。体内に取り込まれたブドウ糖をエネルギーに変えることが必要になります。ブドウ糖をエネルギーに変える働きやそのための神経を正常に機能させるのが「ビタミンB1」です。 ビタミンB1が不足すると、ブドウ糖の分解がうまく行なわれなくなり、脳へのエネルギーの供給がうまくいかず、集中するどころの話ではなくなってしまいます。ブドウ糖を摂るのと同時に、ぜひビタミンB1も一緒に摂るようにすることを心がけましょう。 ビタミンB1を多く含む食物は、肉類(豚肉、レバー)、魚類(ウナギ、カツオ)、豆類などがあります。穀類にも含まれますが、多く含まれるのは玄米などであり、パンや精白米などはビタミンB1は多くはありません。また、お酒をよく飲む方は、アルコールの分解にビタミンB1が使われてしまうため、せっかく摂取したビタミンB1が無駄に消費されてしまうことに注意が必要です。 やる気や覚醒を司る神経伝達物質を作る「チロシン」 また、「やる気」を起こさせる、持続させるという点では、「チロシン」という成分が有効です。チロシンは、ドーパミンやアドレナリンの原料です。ドーパミンは別名「幸せホルモン」と呼ばれ、やる気の向上や幸福感のアップをもたらしてくれます。アドレナリンは、危機を察知したときなどに分泌されるホルモンであり、集中力を上げて、自分の置かれた状況に対して迅速に決断することを助けてくれます。 チロシンを多く含む食物の代表はタケノコです。他にも、かつお節やアーモンド、ピーナッツ、牛乳や肉類にも豊富に含まれています。チロシンはトリプトファンという物質と一緒に摂取するとより効率的に脳に届けられます。トリプトファンは大豆や牛乳、チーズやヨーグルトなどに多く含まれています。 なお、炭水化物を多く含む食物とチロシンを一緒に摂ると効果が低くなってしまうので、ご注意ください。 食事以外での集中しづらさ対策 今までは、集中力を上げる食事についてお伝えしてきました。私たちの体は、食べたものによってできているといっても過言ではありません。何をどう食べるか気をつけると、きっと効果が現れることでしょう。 そういった食事面での対策をしつつ、さらに効果を上げるための対策を挙げてみます。 定期的な気分転換 無意識的に行なっている方もいるかもしれませんが、あらためて「定期的な気分転換」の重要性をお伝えします。まず、集中しづらさという元来の傾向をある程度受け入れることが、無理なく自然に作業を継続できるよい対策につながります。 そのためにも、一気に長時間作業を続けるのではなく、短時間に区切り、タイミングよく休憩や気分転換を挟むことをお勧めします。 気分転換の事例としては、オフィスで業務を行なっている場合、トイレに行ったり、コーヒーブレイクをしたりすることが挙げられます。筆者は、常にコーヒーの入ったコップをデスクに置き、飲み終わったタイミングでまたコーヒーを入れるため給湯室へ行っていました。オフィスから出られるなら、昼休みなどに軽い運動をしたり、仮眠をとるのも有効です。こうした行動を取って気持ちをリフレッシュさせることで、集中力が高まります。 また、定期的な区切りをつけられるようにするために、業務の作業内容を小分けにするなど仕事を進める上での工夫も重要です。たとえば、「資料を作る」ではなく、「資料の項目を洗い出す」「項目ごとに簡単な内容を書く」「本文を書く」といった具合です。小分けにすることで、席を立つタイミングをより多く作ることができ、ずっと机にかじりつくような状況を避けることができます。 さらに、集中力を高めるには、「集中すべき対象以外に注意をいかせない」工夫も大事です。たとえば、今日やるべきことを付箋に書きだして目の前に貼っておく、机の上の物はできるだけなくす、仕掛かり中の仕事タスクに関係のない書類はシュレッダーするかスキャンしてデータで保存する、スマホの通知やパソコンのメールの通知などは切っておくといったことで注意散漫になることを避け、より集中できる環境を作ることができます。 服薬 集中しづらさにはADHD特有の「衝動性」があることはすでにご説明しました。服薬をすることで、この衝動性を軽減できる場合があります。ストラテラを服用することで衝動性が抑えられているという体験談を過去の記事でご紹介しております。 集中しづらさ対策は人それぞれ 今回の記事では、食事面での対策を中心に、集中力を上げる、集中しづらさという傾向を抑える方法をお伝えしてきました。ただ、そもそもADHDと言ってもその症状や傾向は人によって違います。集中力が続かない原因も人それぞれだと考えるのが適切でしょう。 発達障害の特性がある方は、睡眠障害も併発しやすく、その結果集中しづらさにつながっている場合もあります。「過集中」が原因で疲労が溜まってしまったり、職場への過剰適応のせいで疲れやすくなったり、環境と特性のミスマッチによって集中できなくなることもあります。 そういった困りごとや特性などを総合的に判断し、原因にあわせた対策が必要になります。食事での工夫なども含め、専門的な知見を持った人の協力を得て、働くうえで自分にあった対処法を見つけて実践していくことが大切です。 就労移行支援事業所ディーキャリアでは、働くことで悩みを抱えている発達障害のある方の支援をおこなっています。 就労移行支援事業所とは、障害のある⽅が就職するための「訓練・就職活動」の⽀援をおこなう障害福祉サービスの一つです。(厚⽣労働省の許認可事業) 就職とは人生の目的を実現するための通過点です。自分の「なりたい」姿を見つけ、障害特性への対策と自分の能力を活かす「できる」ことを学び、社会人として長く働くために「やるべき」ことを身に付ける。 「なりたい」「できる」「やるべき」の 3 つが重なりあうところに仕事の「やりがい」が生まれると、私たちは考えています。 ディーキャリアは、就労へ向けて以下4点においてサービスを提供しています。 「就労準備性」の向上就労するうえで必要な心身の健康管理(生活リズムの安定、通院・服薬等)、ビジネスマナーの習得、コミュニケーションスキル・実務スキルの習得等をおこないます。 自分の障害特性への対処法の習得障害理解を深め、自己対処法の習得、必要な合理的配慮の洗い出しをおこないます。 「自分らしい"働き方"」の探求業界職種はもちろん、一人ひとりに合った「働き方(障害者雇用or一般雇用、給与、職場環境、勤務時間等)」をスタッフに相談しながら決めることができます。 就職サポート応募書類の添削や、面接練習、キャリア相談などを通して、就職に至るまでの「就活」をサポートします。具体的には以下をご参照ください。 具体的には以下をご参照ください。 ご相談は無料です。フリーダイヤル、または、24 時間受付のお問い合わせフォームにて、お気軽にお問い合わせください(ご本人様からだけでなく、当事者のご家族の方や、支援をおこなっている方からのご相談も受け付けております)。 お電話(0120-802-146)はこちら▶ お問い合わせフォームはこちら▶ また、全国各地のディーキャリアでは、無料の相談会や体験会も実施しています。 全国オフィス一覧はこちら▶ 就労移行支援事業所ディーキャリアは、「やりがい」を感じながら活き活きと働き、豊かな人生を目指すあなたを全力でサポートします。お一人で悩まず、まずはお気軽にご相談ください。 記事監修:北川 庄治(デコボコベース株式会社 プログラム開発責任者) 東京大学大学院教育学研究科 博士課程単位取得満期退学。通信制高校教諭、障害児の学習支援教室での教材作成・個別指導講師を経て現職。