レオナルド・ダ・ヴィンチ　ADHDと推測される理由～「岩窟の聖母」にみる特性について～

未完成の作品が多いことやさまざまなジャンルのスケッチ、鏡文字で残されたメモ、こだわりの強い行動、その他多くの合致する事例などから、彼はADHDだったのではないかと推測されています。現代では芸能やスポーツ界、経済界の著名人の中には発達障害を、ご自身でオープンにされている方も少なくありません。当時はまだ認識されていなかった発達障害ですが、突出した能力を持ち、余すところなく発揮した天才。今回のブログでは大人の発達障害の特性を、レオナルド・ダ・ヴィンチの作品「岩窟の聖母」にまつわるエピソードをご紹介しながら、みていきたいと思います。

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こんにちは、ディーキャリア大分オフィス　職業指導員　看護師の秋元です。今回は大好きなアートを題材にしました！　以前、美術を学んでいたこともあり、そこで知り得たことなどをアップデートしてお伝えできたらなと思います。楽しんで読んでいただけたら嬉しいです。

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＜ディーキャリア大分オフィスについて＞

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①レオナルド・ダ・ヴィンチの制作の特徴３つ

レオナルド・ダ・ヴィンチは、14歳でミラノの工房に入り、すぐに師匠に認められました。師匠は彼の腕前を目の当たりにして筆を置いた（もう描くことをやめてしまった）とさえ言われています。20歳にしてマスターの資格をもらい独立します。…師匠が筆を置くという逸話が残されるほど、絵が上手だったレオナルドでしたが、当時の職人として作品を制作する上で、致命的となる特徴がありました。それは次の3つです。

当時、絵画や作品を作る人はアーチストではなく「職人」として扱われていました。ですから発注されたとおりに作成することや、パトロン（才能がある者は絶対的な支援者としてパトロンがつきました）や、依頼主の決めた期日までには仕上げることが、求められていたのです。このような時代、「未完成作品が多かったり」、「自らのこだわりにより結果的に依頼主の指示を無視することになってしまったり」「納期に間に合わなかったり」等の彼の仕事のやり方は職人として致命的でした。これから紹介する「岩窟の聖母」は、この特徴がよく表れているエピソードを持っている作品です。

②「岩窟の聖母」にみるレオナルド・ダ・ヴィンチの「らしさ」　この作品には当時の宗教画ではみられない斬新な表現が３つあります、なんでしょうか。

答えは①天使の羽をマントで隠している。（右端の指さしをしている人物は天使）②人物の頭上に光輪がない。③三角形の人物配置です。

彼が生きていた時代、「宗教画におけるきまりごと」のようなものがありました。天使には羽を描く、キリストや聖人には他の人と区別するために、聖なるものとしての光輪（頭上に金の輪を描く）を、そして構図はキリストを中心とし、天使を左右に描くというように「横一列の人物配置」が決まり事としてありました。ですから「天使の羽をマントで隠したり」「キリストの頭上に光輪が描かれていなかったり」、「人物が横一列に配置されていない」この絵は、”奇抜な表現”と依頼主に酷評されてしまいました。依頼主は当然「描きなおすように」と指示を出しました、しかしレオナルドは従わず、彼は依頼主に訴訟をおこされてしまいます。

レオナルドが描きなおさなかったため賃金は支払われることはありませんでした。…この後なんと約20年にもわたり裁判は続いたのです。（当時、依頼主は構図や配色・技法に至るまで細かく注文を付けていました。この作品に限らずレオナルドはそのほとんどを無視していたといいます。）…レオナルドはやっと20年後に、天使の羽を描き、キリストや聖母マリア、天使の頭上に光輪を描き、作品を完成させました（下図参照）。しかし「背景の岩窟」は注文だったゴールド１色に塗りなおすことはありませんでした。

③その他の特徴

他にも彼には特徴的な「らしさ」がありました。それはさまざまなことに興味が向かいあちこちに考えやアイデアが浮かぶというものです。その証拠といえるのがスケッチ群です。レオナルドはさまざまなスケッチを描いています。（そのほとんどを弟子に残しました。しかしこの弟子の息子が高額で売りさばいたために、あちらこちらでヒューマンエラーが生じ、紛失したものの方が多いとも言われています。）

このスケッチは人物から植物、いきもの、建造物にとどまらず、まだなかった飛行機の緻密なスケッチなど発明スケッチも残っています。スケッチした人物もいわゆる当時の「美しい」とされる価値観に合うようなひとではなく、珍しい風貌をしている人物が多く、いきものもクモやトカゲ等、当時、絵画としてあまり描かれてはいなかったタイプの生き物を描いています。このようなスケッチの特徴から、”自分の興味が赴くまま描いていったのでは”と言われています。

彼の「こだわり」をよく示しているエピソードを紹介したいと思います。それは60代の時に解剖学を学ぶため、20代の学者に弟子入りしたという話しです。「人体の解剖図」は細部まで詳細に執拗に描かれています。誰もなし得なかった偉業を達成する”突出したこだわりや才能”、ここにも彼の特性が表れていると言われています。

神経生理学者で自閉症とADHDに詳しいマルコ・カターニ氏と医学史の専門家パオロ・マザレロ氏は、このようなエピソードから、「レオナルド・ダ・ヴィンチはADHDだった可能性が高い」ことを、以下の様に表現しています。

この他にもレオナルド・ダ・ヴィンチについては多くのエピソードが残されています。例えば「慢性的にものごとを先延ばしにする」ことのエピソードとして、前払い金を受け取っていたにもかかわらず、結局完成させられなかった作品（チャペルのための大型祭壇画）があることや、「最後の晩餐」は依頼主に”遅い”とせかされて描いたと言われています。理由として「数日間夜明けから夕暮れまで食事もとらずに絵画制作に没頭した」かと思うと、「4日間まったく何もしない」などの集中力のムラを繰り返していたからです。…「最後の晩餐」は3年かけて完成させました。←３年は彼の最速です！また有名な「モナ・リザ」に関しては「描いては中断」を繰り返し、16年をかけて完成させていますが…結局「彼自身は納得していなかった」と言われています。さらに「荒野の聖ヒエロニムス」は着色どころか一部の下書きさえ終わっていない状態です。

未完成作品を含め13点のみという作品数もレオナルドの「らしさ」だと思えてきます。「完璧主義」もあったのでしょうか、描いては画面を塗りなおし何度も何度も描きなおしている作品もあります。

ルネサンスの偉大な巨匠レオナルド・ダ・ヴィンチの偉業は、「らしさ」があったからこそ誕生しました。自分の「らしさ」と付き合いながら、得意を生きる糧としたその作品は、本当に美しくこれからもたくさんの人を感動させ、未来永劫のこっていくのだと思います。

ADHDに関するブログ紹介です。特性や困りごとに関する対処法を紹介しています。

ADHDの特性による職場での困りごと/その対策例③～時間を守れない/時間の見込みを立て行動するのが苦手｜就労移行支援事業所ディーキャリア (dd-career.com)

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　文責　秋元　美智子