ASDのある人に自傷行為はなぜ起こるのか?就労移行支援で大切にしたい理解と支援の視点

はじめに
就労移行支援事業所の現場では、ASD(自閉スペクトラム症)のある方が抱える困難と日々向き合っています。その中でも、とりわけ支援者が対応に悩みやすいテーマの一つが「自傷行為」です。なぜなら、自傷行為は外から見たときに理解されにくく、誤解や否定的な評価を受けやすい行動だからです。しかしながら、近年の研究では、自傷行為は突発的で意味のない行動ではなく、本人なりの理由や背景を持った行動であることが明らかになってきています。
そこで本記事では、Richards ら(2012)の研究を土台として、ASD と自傷行為の関係について整理しながら、就労移行支援事業所の実践にどのようにつなげていけるのかを丁寧に考えていきます。そして、研究知見と現場支援を結び付けることで、より安心感のある、継続的な就労支援のあり方を共有することを目的としています。
ASD(自閉スペクトラム症)の特性を改めて考える
まずは、ASD の特性について整理しておきましょう。ASD とは、自閉スペクトラム症の略称であり、対人コミュニケーションの特性や、興味・行動の偏り、感覚特性などを特徴とする発達特性です。ただし、ASD の現れ方は非常に幅広く、一人ひとり大きく異なります。
たとえば、言葉のやり取りが苦手な方もいれば、会話自体はできるものの、相手の意図や暗黙のルールを読み取ることに困難を感じる方もいます。また、音や光、匂いといった感覚刺激に対して過敏さを持つ方も多く、周囲が気づかないレベルの刺激であっても、強い疲労やストレスにつながる場合があります。
そして重要なのは、これらの特性そのものが問題なのではなく、特性と環境とのミスマッチによって困難が生じるという点です。つまり、理解や配慮が不足した環境では、ASD のある方は過剰な努力を強いられ、その結果として心身に大きな負担がかかってしまうのです。
ASDの特性について他にも こちら
Richards ら(2012)の研究が示したもの
ここで、本記事の中心となる Richards ら(2012)の研究について見ていきます。この研究では、ASD のある人を対象に、自傷行為の有病率や関連要因が詳細に検討されました。その結果、ASD 群では約半数に自傷行為が認められ、他の発達障害群と比較しても有意に高い割合であることが示されています。
さらに注目すべき点として、自傷行為の有無は、単純に知的能力の程度だけで説明されるものではありませんでした。研究では、衝動性の高さ、過活動、否定的情動の強さなどが、自傷行為と関連していることが示されています。つまり、自傷行為は「問題行動」として切り取るのではなく、情動調整の困難さや内的ストレスの高さと結びつけて理解する必要があるということです。
この研究知見は、就労移行支援の現場においても非常に重要な示唆を与えてくれます。なぜなら、支援の焦点を行動の制止だけに当ててしまうと、本人の苦しさや根本的な困難を見落としてしまう可能性があるからです。
自傷行為は「意味のある行動」である
自傷行為という言葉には、どうしても否定的なイメージがつきまといます。しかし、Richards らの研究や臨床的な知見を踏まえると、自傷行為は多くの場合、本人にとって意味のある行動であることがわかります。
たとえば、強い不安や混乱、怒り、虚無感といった感情が限界に達したとき、身体的な刺激を与えることで気持ちを落ち着かせようとすることがあります。言い換えれば、自傷行為は、本人なりの「感情を調整する手段」として機能している場合があるのです。
そのため、支援の場面では「なぜやめられないのか」ではなく、「なぜ必要だったのか」という視点に立つことが重要になります。この視点の転換こそが、支援関係を築くうえでの大きな第一歩となります。
就労場面で積み重なりやすいストレス
次に、就労という場面に目を向けてみましょう。就労は、生活の安定や自己肯定感の向上につながる一方で、ASD のある方にとっては多くのストレスが重なりやすい環境でもあります。
たとえば、業務内容が曖昧であったり、指示が抽象的であったりすると、不安や混乱が生じやすくなります。また、急な変更やイレギュラー対応が続くと、見通しが立たなくなり、心身の負担が一気に高まることもあります。
さらに、人間関係において「空気を読む」ことや「臨機応変な対応」を求められる場面が多い場合、常に緊張状態が続き、否定的情動が蓄積しやすくなります。このような状況が続けば、Richards らの研究で示されたような衝動性や情動調整の困難さが強まり、自傷行為のリスクが高まることも十分に考えられます。
就労移行支援事業所における基本的な支援姿勢
こうした背景を踏まえ、就労移行支援事業所では、まず「安心できる関係づくり」を何よりも大切にしています。自傷行為が見られる場合であっても、行為そのものを否定したり、評価したりすることはしません。
その代わりに、「どのような場面で気持ちが追い込まれたのか」「何が一番つらかったのか」を一緒に振り返っていきます。そうすることで、本人自身も自分の状態を客観的に捉えやすくなり、「自分はなぜ苦しくなるのか」を少しずつ言葉にできるようになります。
このプロセスは、就労に向けた準備段階として非常に重要です。なぜなら、自分の状態を理解し、周囲に伝える力は、働き続けるための大切な土台になるからです。
代替行動と感情調整スキルの支援
自傷行為への支援では、「やめさせること」よりも「選択肢を増やすこと」が重視されます。具体的には、自傷行為以外で気持ちを落ち着かせる方法を、一緒に探していきます。
たとえば、感覚刺激を利用したセルフケア、深呼吸やストレッチ、気持ちを書き出すワーク、信頼できる人に早めに相談する練習などがあります。これらはすぐに効果が出るものではありませんが、繰り返し経験することで、「自傷行為をしなくても乗り越えられた」という成功体験につながります。
そして、この成功体験の積み重ねが、就労場面でのストレス対処力を高めることにもつながっていきます。
環境調整と就労定着への視点
さらに、就労移行支援では、本人の努力だけに頼らず、環境調整を行うことも重要な支援の一つです。業務内容を明確にする、作業手順を可視化する、静かな環境を確保するなどの工夫は、情動の安定に大きく寄与します。
また、企業側に対して、本人の特性や必要な配慮をわかりやすく伝えるサポートも行います。これにより、本人が無理に特性を隠す必要がなくなり、結果として長期的な就労定着につながります。
おわりに
Richards ら(2012)の研究は、ASD と自傷行為の関係を、衝動性や否定的情動といった視点から捉える重要性を示しています。そしてこの視点は、就労移行支援の現場においても非常に有効です。
自傷行為は、本人の弱さや甘えではなく、環境の中で必死にバランスを取ろうとする行動の一つです。だからこそ、理解と配慮に基づいた支援が求められます。
就労移行支援事業所は、「働かせること」を目的にするのではなく、「安心して働き続けられる状態を整えること」を大切にしています。本記事が、ASD と自傷行為に対する理解を深め、より良い支援を考えるきっかけとなれば幸いです。
参考文献
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