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発達障害とトラウマの関係性を踏まえた就労支援とは?支援現場で求められる理解と対応

就労移行支援の現場から考える支援の視点

1. はじめに

発達障害に対する理解は近年大きく進展してきた。ASDやADHDといった診断名や、「生得的な特性」「脳機能の偏り」といった説明も、社会の中で一定程度共有されるようになっている。一方で、実際の臨床現場や就労移行支援の場に目を向けると、発達障害の特性だけでは説明しきれない困難さを抱える人が少なくないことも明らかになってきている。

こうした背景の中で、近年あらためて注目されているのが「トラウマ」の視点である。発達障害のある人が経験してきた対人関係上の傷つきや、長期にわたる否定的体験が、現在の行動や心理状態に大きな影響を与えている可能性が指摘されている。

その中で、杉山登志郎(2016)は、発達障害とトラウマの関係性について、両者を独立した概念として捉えるのではなく、相互に影響し合いながら個人の発達や適応に深く関与していると述べている。本稿ではこの論考を基軸とし、発達障害とトラウマの関係性を整理したうえで、就労移行支援における支援の視点について考察することを目的とする。


2.発達障害の特性と「傷つきやすさ」

まず、発達障害の特性そのものについて整理しておく必要がある。発達障害(ASD、ADHDなど)は、認知の仕方や注意の向け方、感覚処理、社会的コミュニケーション、感情調整といった点に特徴を持つ。これらは本来、個人差として存在するものであり、それ自体が直ちに「問題」や「障害」を意味するわけではない。

しかし、環境との不適合が生じた場合、発達障害のある人は強いストレスや失敗体験を繰り返しやすい傾向がある。とくに、周囲の理解や調整が乏しい環境では、本人の努力とは無関係に否定的な評価を受け続けることになりやすい。

杉山(2016)は、発達障害のある人がトラウマを受けやすい要因として、以下の点を挙げている。

  • 他者の意図や状況を正確に読み取ることが難しく、対人関係で誤解や叱責を受けやすい
  • 感覚過敏や予測困難な状況に対する脆弱性が高い
  • 失敗や否定的体験を「自分の全体的否定」として内在化しやすい

これらの要因が重なることで、本人にとっては日常的な学校生活や職場体験そのものが、慢性的な心理的外傷体験となる可能性がある。


3.トラウマの視点から見た発達障害理解

ここで重要となるのが、「トラウマ」という概念の捉え直しである。トラウマとは、災害や事故などの生命の危機に限られるものではなく、「その人の処理能力を超えた体験」によって生じる心身の反応を指す。

杉山(2016)は、発達障害のある人が経験するトラウマの多くは、単発的な出来事ではなく、慢性的・反復的な対人ストレスであると指摘している。具体的には、

  • 繰り返される叱責や注意
  • いじめや排除の経験
  • 「できないこと」への過度な指摘
  • 特性を理解されないままの適応強要

といった体験が挙げられる。

これらは一つ一つを見ると小さな出来事のように見えるかもしれない。しかし、それが長期間にわたり積み重なることで、深刻なトラウマ反応を形成することがある。その結果、不安や抑うつ、回避行動、過覚醒、自己否定感の強化といった症状が現れ、発達障害の特性と重なり合う形で表出する。


4.発達障害とトラウマの「見分けにくさ」

発達障害とトラウマの関係を考えるうえで、特に注意が必要なのが「見分けにくさ」の問題である。杉山(2016)は、発達障害の特性とトラウマ反応が、非常に似た形で表出することを強調している。

例えば、

  • 注意散漫:ADHDの特性か、トラウマによる過覚醒か
  • 対人回避:ASDの特性か、対人トラウマによる回避か
  • 感情の爆発:感情調整の困難さか、トリガー反応か

このように、表面的な行動のみを見て判断すると、トラウマの影響が見逃されやすい。その結果、「特性の問題」「努力不足」と誤解され、本人はさらに追い詰められることになる。この誤解の積み重ねが、二次的障害を悪化させる悪循環を生む。


5.二次障害としてのトラウマ反応

発達障害のある人が抱える抑うつ、不安障害、適応障害、PTSD様症状は、一次的な障害ではなく、環境との不適合やトラウマ体験による二次障害である場合が多い。

杉山(2016)は、これらの状態を「本人の弱さ」や「性格の問題」として捉えるのではなく、「長期間にわたり適切な理解や支援を受けられなかった結果」として理解する重要性を示している。この視点に立つことで、支援者の関わり方は大きく変化する。

つまり、問題は本人にあるのではなく、本人を取り巻く環境や関係性の中で形成されてきた体験の積み重ねにあるという理解が求められる。


6.就労移行支援における示唆

このような視点を踏まえると、就労移行支援のあり方も再考する必要がある。就労移行支援事業所では、「就労スキルの獲得」や「職業適性の評価」に重点が置かれがちである。しかし、発達障害とトラウマの関係性を考慮すると、それだけでは十分とは言えない。

具体的には、以下の点が重要となる。

  • 行動の背景にある体験や感情を理解しようとする姿勢
  • 安全で予測可能な環境づくり
  • 失敗を責めず、再挑戦が可能な支援構造
  • トラウマ反応を「問題行動」として扱わないこと

杉山(2016)が述べるように、「安心感」が確保されて初めて、発達障害のある人は本来の力を発揮することができる。就労支援は単なる訓練ではなく、回復的なプロセスとして捉え直される必要がある。


7.おわりに

発達障害とトラウマは、別々に切り離して理解されるべき概念ではなく、相互に影響し合いながら個人の生活や就労に影響を与えている。杉山登志郎(2016)の論考は、発達障害支援においてトラウマの視点を持つことの重要性を明確に示している。

就労移行支援の現場においても、「できる・できない」という評価軸ではなく、「何が起きてきたのか」「どのような体験を積み重ねてきたのか」という視点を持つことが不可欠である。それこそが、本人の尊厳を守り、持続可能な就労につながる支援の基盤となるだろう。

参考文献
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jscap/58/4/58_544/_article/-char/ja?utm_source=chatgpt.com

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