「発達障害 ビジネススキル」の観点で考えると、企業が求める働き方の土台を押さえつつ、発達障害の特性を活かしたアプローチが重要です。多くの企業人事担当者から「元気な挨拶」「安定した勤怠」「勝手な行動をしない」という三つのポイントが挙がります。しかし、発達障害のある方にとって、これらが必ずしも“得意なこと”ではなく、むしろ環境や支援が少ないと障壁になりがちです。ここでは、これら三つのポイントを「ビジネススキルのエンジン」と捉え、論文データを交えて解説します。

研究から見える「働ける力」の鍵

まず、発達障害のある成人が職場で機能するために必要なスキルについてみてみましょう。例えば、自閉スペクトラム症（ASD）を対象としたレビュー研究では、「雇用や職業能力に関する研究では、構造化された指導・明確な環境・仕事への適合」が雇用成功に強く関連していることが示されています。 また、注意欠如・多動症（ADHD）を対象とした最近の研究では、「時間管理」「組織力」「衝動的行動」が職業機能において一貫してリスク要因であることが報告されています。
これらを総合すると、働く場面ではまず高度な専門技能よりも、「日々決まった行動を継続できること」「指示・ルールを守ること」「周囲と信頼関係を築けること」が鍵になると考えられます。

「挨拶」「勤怠」「指示を守る」：3つのエンジン

企業現場でよく挙がる三つの行動――「元気な挨拶」「安定した勤怠」「勝手な行動をしない（指示を守る・報連相をする）」――を、ビジネススキルとして整理します。発達障害のある方がこれらにどう取り組めるか、研究知見も交えてお伝えします。

① 元気な挨拶

挨拶は、職場での第一印象を左右します。発達障害のある方は、挨拶や雑談などの非構造的なコミュニケーションに苦手がある場合もありますが、逆に「決まったパターンで挨拶をする」「毎朝同じ言葉で声をかける」という習慣化を取り入れることで安定して行えるという報告もあります。 このように、習慣化できれば、職場での信頼感を高める“見える成果”になります。

② 安定した勤怠

通勤・出勤・遅刻・欠勤の少なさは、企業にとって非常に安心材料です。ASD対象の研究では、雇用成功において「環境適合」「予測可能な仕事」が鍵であるとされており、勤怠の安定もこの構造化された環境の中で向上する可能性があります。
具体的には、通勤ルートを定める・前夜に翌日の準備をする・アラームを複数設定するなど“物理的／行動的な仕組み”を作ることで、勤怠のエンジンを整備できます。

③ 指示を守る・勝手な行動をしない

「自分で判断して動きすぎず、指示を確認してから動く」「報連相（報告・連絡・相談）をちゃんとする」という姿勢は、職場での誤解やトラブルを減らします。ADHDの研究では、「衝動性」「時間管理の乱れ」が職業機能に悪影響を及ぼす要因であると報告されています。
そのため、チェックリスト・タスク管理アプリといった“見える化”が効果的で、指示を守りながら動くというスキルを育てることが実践的です。

環境と支援もスキルと同じくらい重要

ただし、これらのスキルは“本人だけの努力”で実現するものではありません。ASD対象のレビューでは、「お膳立てされた支援環境」「職場上司・同僚の理解」「仕事の適合性」が雇用維持に深く関わると報告されています。
また、ADHDを対象とした研究でも、環境要因と介入モデル（構造化・明確化・支援）が職業成功に関連していることが示されています。
つまり、発達障害 ビジネススキルを磨くためには、自分自身の取組みに加えて、職場が“働きやすい環境”を整えることが大きな鍵です。例えば、働く前に「挨拶・勤怠・指示を守る」をルーチン化するワークショップを行ったり、タスクごとに明確な手順書を用意したりすることが有効です。

実践ステップ：自分の“働くエンジン”を磨くために

では、具体的にどんなステップを踏めばよいのでしょうか。以下は、発達障害のある方または支援員・人事担当者がビジネススキルを育てるための実践ステップです。

1. 行動を可視化・仕組み化する
   　挨拶・出勤・タスク確認などを定型のチェックリストやスケジュールに落とし込む。
2. 支援環境を活用／調整する
   　上司や支援員に、予め“挨拶・勤怠・指示を守る”といった習慣化したい行動を伝え、職場でのサポート体制を確認する。
3. 振り返りと改善を繰り返す
   　日々「今日挨拶できたか」「定時に来られたか」「指示を確認してから動けたか」を振り返り、翌日改善する。
4. 強みに変えていく
   　この三つのスキルが安定してきたら、そこをベースとして「集中力の高さ」「ルーチン作業の正確さ」「細部へのこだわり」といった特性を活かし、「品質管理」「データ入力」「同じ作業を継続できる仕事」などへ展開する。実際に、発達障害のある人材が特定分野で強みを発揮できると捉える企業もあります。

まとめ：磨けば光る“働くエンジン”

発達障害 ビジネススキルとして、「挨拶」「勤怠」「指示を守る」という三つの軸は、決して“才能”ではなく“習慣”であり、誰でも磨くことができます。そして、その習慣を支えるのが、構造化された仕組みと理解ある環境です。研究でも、支援や環境が整ったとき、発達障害のある方の雇用・職業能力が改善されたという報告があります。
最後に一つだけ。社会では「挨拶・勤怠・報連相」が安定稼働の三種のエンジンとして重宝されます。才能ではなく、磨けば誰でもパワーアップ。毎日少しずつ整備して、自分だけの“働くエンジン”をフル稼働させていきましょう。

参考文献

1. Lauder, K., McDowall, A., & Tenenbaum, H. R. (2022).
   職場での成人ADHD支援の介入に関する体系的レビュー―理論と実践のための文脈特化型研究の不足からの示唆. Frontiers in Psychology, 13, 893469. Frontiers
2. Weld‑Blundell, I., Shields, M., Devine, A., Dickinson, H., Kavanagh, A., & Marck, C. (2021).
   心理社会的障害、自閉症および/または知的障害のある人々の雇用参加を向上させる職業介入：体系的レビュー. International Journal of Environmental Research and Public Health, 18(22), 12083. MDPI
3. Barkley, R. A. et al. (2024).
   ADHDを持つ個人の職業的成果を予測する. Springer. SpringerLink
4. その他関連研究:
   ADHDにおける作業記憶および組織化スキルの問題. PMC (PubMed Central). PMC