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発達性トラウマとは?ー基礎知識から支援・研究の最前線までー
発達性トラウマの定義
発達性トラウマ(Developmental Trauma)とは、幼少期に繰り返し体験する心理的・身体的なストレスが心身の発達に影響を与える状態を指します。
これは単発的な強い出来事で生じるPTSDとは異なり、「慢性的・累積的」な心的外傷が特徴です。
- 虐待(身体的・心理的・性的)
- ネグレクト(養育放棄)
- 過度な叱責や期待
- 不安定な家庭環境
これらが脳や神経系の発達に影響を与え、感情や行動の調整に困難をもたらします。

発達性トラウマの症状と特徴
心理面
- 自尊感情の低下
- 感情の起伏が激しい
- 過剰な不安や緊張

行動面
- 衝動性・不注意(ADHDに似た症状)
- 対人関係の回避または過剰依存
- 自傷行為や依存行動

身体面
- 睡眠障害
- 慢性的な頭痛・胃腸症状
- 自律神経の乱れ

👉 DSM-5では「発達性トラウマ障害」という独立診断名はまだなく、複雑性PTSD(C-PTSD)や愛着障害と重なる部分が多いとされています。
研究知見(専門性の補足)
- van der Kolk (2015) は、発達性トラウマが脳の扁桃体・前頭前野・海馬の発達に影響し、感情制御に困難を生じることを報告。
- Felitti et al. (1998) の「ACE研究」では、幼少期の逆境体験(Adverse Childhood Experiences)が心身の健康・社会的適応に長期的影響を与えることが示されています。
- 日本トラウマティック・ストレス学会も、C-PTSDや発達性トラウマに関する臨床的研究を継続しています。
支援と治療のアプローチ
医療・心理的介入
- トラウマ焦点化認知行動療法(TF-CBT)
- EMDR(眼球運動による脱感作と再処理)
- ソマティック・エクスペリエンシング(身体感覚に焦点をあてる療法)
就労・生活支援
- 安心できる環境の提供(予測可能なスケジュール)
- 小さな成功体験の積み重ね
- 支援者が「感情の揺れを病気や怠けと見なさない」姿勢
よくある質問(FAQ)
Q1. 発達性トラウマとADHD・ASDはどう違う?
A. 症状が似ている部分がありますが、発達性トラウマは環境要因が大きく、ASDやADHDは神経発達症としての生物学的基盤が強いとされています。ただし併存も少なくありません。
Q2. 大人になってからも治療できますか?
A. 可能です。心理療法や適切な環境調整により、回復や適応力の向上が報告されています。
Q3. どうやって周囲が理解を深められますか?
A. 書籍や信頼できる情報源を通じて学ぶことが第一歩です。本人への「共感」と「安心感の提供」が大切です。
簡単セルフワーク(自己理解の一歩)
- 安心できる体験リスト
- 「落ち着く音楽」「支えてくれる人」「安全な場所」などを書き出す
- トリガー(不安を呼ぶ刺激)の整理
- どんな場面で緊張するかを振り返り、支援者と共有
- 1日5分の身体スキャン
- 目を閉じて、体の感覚を順に確認し、緊張している部分を意識的に緩める
参考文献・リンク
- van der Kolk, B. A. (2015). The Body Keeps the Score.
- Felitti, V. J., et al. (1998). Relationship of childhood abuse and household dysfunction to many of the leading causes of death in adults. American Journal of Preventive Medicine, 14(4), 245–258.
- 厚生労働省「こころの健康」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/mental/ - 日本トラウマティック・ストレス学会
https://www.jstss.org/


