発達障害と「 脳疲労 」──身体だけでなく、脳を休めるという視点
はじめに
「発達障害のある人は疲れやすい」と耳にしたことがある人も多いのではないでしょうか。実際、ASD(自閉スペクトラム症)やADHD(注意欠如・多動症)などの診断を受けている方から「人と会った後はぐったりしてしまう」「集中して作業したあと、頭が真っ白になる」といった声はよく聞かれます。この「疲れやすさ」は、単純に身体的な疲労だけでなく 脳の疲れ( 脳疲労 ) が大きく関係していることがあります。
本記事では、発達障害と脳疲労の関係、具体的にどういった場面で脳が疲れやすいのか、そして脳を休めるための方法について整理していきます。
脳疲労 とは?
脳疲労とは、脳が長時間にわたって情報処理を続けた結果、オーバーワーク状態になることを指します。パソコンで大量のアプリを開きっぱなしにすると動作が重くなるように、脳も情報処理を続けると効率が落ち、休んでも疲れが取れない・集中できないといった状態に陥ります。
発達障害のある方は、日常の中でこの「情報処理の負荷」が高まりやすく、脳疲労につながることが多いのです。

脳疲労 を引き起こす「過剰適応」
発達障害の方が疲れやすい背景のひとつに 過剰適応 があります。過剰適応とは、自分の特性に逆らって周囲に合わせようとしすぎること。無理に「普通」に見せようと頑張ることで、知らず知らずのうちに脳に大きな負担をかけてしまいます。
具体例1:ASDで空気を読もうとする
ASDの方は、相手の表情や言葉のニュアンスを読み取ることが難しい場合があります。本来は「わからない」とそのままにしてもよいのですが、場の空気に合わせようと「表情を細かく観察する」「相手の声色や言葉の裏を必死に推測する」といった努力を重ねることがあります。
このような「常に脳をフル稼働させる状態」は、大きな脳疲労につながります。
具体例2:ADHDで衝動を抑え続ける
ADHDの方は「すぐに話したい」「体を動かしたい」といった衝動性が特徴です。学校や職場で「静かにしなければ」と我慢し続けると、エネルギーを大量に消費し、帰宅後にどっと疲れが出るケースも少なくありません。
具体例3:感覚過敏を抱えながら環境に合わせる
音や光に敏感な方が、にぎやかなオフィスで長時間過ごすとき、「平気なふり」をして無理を重ねることがあります。実際にはその間ずっと脳が刺激を処理し続けているため、気づかぬうちに強い脳疲労がたまります。
脳疲労 を招く「過集中」
もうひとつの特徴が 過集中 です。ASDやADHDの方にしばしば見られる現象で、興味のあることに没頭しすぎて時間を忘れてしまうことがあります。
ポジティブな側面
過集中は、特定の分野で高い成果を上げる力につながることもあります。例えばプログラミングやデザインの分野で、長時間一気に作品を仕上げるなど、強みとして活かされるケースがあります。
ネガティブな側面
一方で「食事や休憩を忘れて作業を続ける」「終わった後に頭が動かなくなる」といった形で脳疲労を引き起こします。過集中の後に「寝ても疲れが取れない」「次の日まったく集中できない」となるのは典型的な脳疲労のサインです。
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脳疲労 のサイン
以下のような状態が続く場合、脳疲労を疑ってもよいかもしれません。
- しっかり寝ても疲れが取れない
- 仕事や勉強に集中できない
- ミスが増える
- 人と話すのがしんどい
- 頭が重い・考えがまとまらない
身体的な疲れよりも「頭が疲れている感じ」が強いのが特徴です。
脳を休める方法
では、どうすれば脳疲労を軽減できるのでしょうか。大切なのは 「脳を休める」ことを意識する ことです。
1. 情報入力を減らす
スマホやPCを見続けると、脳は常に情報を処理し続けています。意識的に画面を閉じ、静かな環境に身を置く時間をつくることで脳をクールダウンさせることができます。
2. 環境を調整する
感覚過敏がある場合は、ノイズキャンセリングイヤホンや遮光カーテンを活用し、余計な刺激を減らすことが有効です。
3. 適度に体を動かす
軽いストレッチや散歩は、脳の血流を改善しリフレッシュにつながります。特に「考えがまとまらない」と感じたときは一度体を動かすことが効果的です。
4. マインドフルネス・呼吸法
深呼吸や短時間の瞑想も、脳の過剰な働きをリセットするのに役立ちます。
5. 過集中を区切る仕組みを作る
タイマーを設定し、一定時間ごとに休憩をとる。周囲に「声かけ」をお願いする。こうした工夫で過集中による脳疲労を防ぐことができます。
まとめ
発達障害のある方が「疲れやすい」と感じる背景には、身体的な疲れだけでなく 脳疲労 が隠れていることがあります。
- 周囲に合わせすぎる「過剰適応」
- 物事に没頭しすぎる「過集中」
これらは一見すると努力や強みにも見えますが、実は脳を酷使する行動です。寝ても疲れが取れない・集中力が続かないといった状態が続くときは「脳を休める」意識が必要です。
情報入力を減らす、環境を整える、休憩を意識するなどの工夫で脳疲労は軽減できます。
「疲れやすいのは自分の努力不足ではなく、脳の使いすぎかもしれない」──そう気づくことが、まずは大切な第一歩です。
参考
Semeijn EJ, Kooij JJS, Michielsen M, Oosterlaan J, Bijlenga D.
Fatigue in an adult attention deficit hyperactivity disorder population: A trans-diagnostic approach.
Journal of Psychosomatic Research. 2016


